人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
「ありがとね。中身は結構大人だから流石に恥ずかしいけど。スッキリしたよ」
あの後、少しさとりの胸の中で泣き、今は河童のもとへと向かっていた。
「人間の大人なんてたかが20歳程度でしょう?私はもっと長い時間を生きてますから。まだまだ赤ちゃんですよ、貴方なんて」
ふふん、と自慢げに笑うさとりを見て苦笑する。こうしていると見た目相応の子供のようだが、その精神は年相応に育っているのだろう。
「そうですよ。私は立派な大人の女性ですからね」
「いや....うん。そうだね」
精神性は大人だろう。たまにこうしてふざけるのも場をなごますためであると言われればそうかとしか思わない。だが、身体付きは中学生のそれだ。着痩せという可能性もなくは無かったが、風呂場で色々と見たためそれはない。
「ぶっ飛ばしますか?」
「勘弁してよ」
時折本当に見た目相応の反応をするがそれを含めて古明地さとりという妖怪なのだろう。なんとも可愛らしい姉だ。兄や姉が従兄弟を含めて居なかった俺からすればその存在はとても新鮮だった。だが、それと同じように兄や姉の苦しみも理解できる。頼る当てがないというのはとてもつらい。
「もしさとりが辛いときは俺に何でも言ってね」
「そうですね。そんな時が来たらきっと頼らせてくださいね」
永遠などない。だからこそ、あらゆるものは素晴らしく生きようとする。故に、すべての物は美しいのだ。
風が吹く、空を回る太陽は少しずつ傾き去り際を探している。鳥が鳴く、虫が鳴く、そんな空を二人で談笑しながら飛び続ける。こんな時間がずっと続けばどれだけ幸せか。そんな、ありもしない幻想を願う。
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「で、彼女はどうだったかしら。洩矢諏訪子?」
「そこそこ危ないね。能力は使いこなせていない感じしたけど。あの同調だっけ?あれが一番危ないね。彼女、壊れたら幻想郷も危ないよ」
守屋神社の境内、その中に立つ巨大な社の中で八雲紫と洩矢諏訪子と呼ばれた金髪に奇妙な眼球が二つ付いた帽子をかぶった少女が会談を行っていた。よくある和室のような場所に一つのちゃぶ台、そこにはお茶とお茶菓子が出されてはいるが二人とも手を付けていない。
「それを未然に防ぐためのさとり妖怪よ。異常があれば伝えるように言ってあるわ」
「そんなことは見ればわかるよ。私が聞きたいのはそこじゃない。なんで彼女を幻想郷に連れてきた?」
怒気をはらんだ声、それと同時にその部屋の気温が下がったかと錯覚するほどの威圧感を諏訪子が発する。あの風貌からは到底想像できないほどの圧だが、八雲紫は全く動じることもなく扇子で口元を隠す。
「あら、怖いわね。当然意味はあるわ。彼女は言わば保険よ。ただそれだけ」
「それ以上は言う気もないみたいだね。まぁいいよ。ただ、もしも私たちに危害が及んだらわかってるね?」
「その時は彼女を好きに殺しなさい。止めないわ」
扇子をパタリと閉じ、八雲紫は自分の後ろに裂け目を生み出す。そこから覗くいくつもの黒い瞳はまるで警告するかのように周囲を見渡していた。
「また何かあったら来るわ。さようなら」
それだけ言い残し、裂け目に姿を消す。彼女の体が消えた後、裂け目はゆっくりと閉じ、部屋にはまるで何もなかったかのように静寂が訪れる。
「まぁ。私が理解できてあいつが理解できてないはずもない...か。ただ」
苦虫をかみつぶしたかのような表情で虚空を睨む諏訪子。その頭ではどのような想像がなされているかは彼女自身しか知り得ない。
「諏訪子さま。終わりましたか?」
戸襖の向こう側から東風谷早苗、この神社の風祝の声がした。彼女もまた先の彼女と同じ外来人、何か通ずるものはあるかもしれない。
「うん。終わったよ早苗。ところで、早苗は彼女の事どうおもった?」
戸襖を開き、早苗が部屋へと入り、諏訪子の前に座る。
「どう思ったかですか......一言で言えば、掴みどころが無いと。そう思いました。そこに彼女は居たんですが実はいないような。存在そのものがとても不明瞭で、陽炎みたいだなと」
「大方同じだね。ここからが大事な質問なんだ。彼女、妖怪だと思った?人間だと思った?それとも私みたいな神?」
「それは.....それも含めて不明瞭でした。ただ、最初は何となく妖怪かなと、でも去るときには神に近いと」
彼女は不明瞭だった。これは真実だ。だがその不明瞭の理由は存在が途中で別種になったから?だが、そんなことが有り得るだろうか。もし可能だとしたら、彼女という存在は一体何なのか。
「彼女、本当にただの外来人だったのかな」
「......。ええ、きっと彼女はただの外来人です」
何か思うところがあるようだが、それを口にしない早苗を片目で見る。私は神、隠し事は基本的に通用しない。だが、それは早苗も分かっているはず、それでも言わないのには何かしらの理由があるのだろう。
ただ、彼女から危害を加えるという意思は感じられなかった。それにもし、危害を加えようとすればその時に殺してしまえばいい。それだけだ。
「考えてもよくわかんないなぁ。なんか紫全然お茶請け食べなかったからみんなで食べよっか」
笑って早苗に笑いかけると早苗も立ち上がり、神奈子様を呼んできますね。とだけ言って戸襖を開けて部屋を後にした。
その頃神奈子と呼ばれた神は境内で空を見上げていた。考えているのはあの少女のこと。
異常だった。雰囲気が変わったというレベルではない。彼女自体がまるで別物になったかのような瞬間が二度ほどあった。一体何が引き金で発生したのかは分からないが、その変化した事実は変わらない。危険ではある。だが会話をした感じはごくごく普通の人間だった。特に変わった事もなく、特別な訳でもない。若干神への信仰が少ないような気もしたが問題のない範囲だった。だが、それが尚不気味だった。
「神奈子様。一緒にお茶をしましょうと諏訪子様がお呼びですよ」
「早苗か。今行くよ」
呼びに来た早苗の背を追って社へと戻る。軽やかな足取りで前を歩く少女、その緑髪が陽光を反射し、宝石のように輝いている。そしてその様は神たる神奈子に覚悟を再確認させる。
もし何かがあったとしても早苗だけは守り抜く。もし早苗に何かをすれば彼女を殺せばいい。ただ、それだけだ。造作もないことだ。
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あの後少し飛び、山の中にある滝壺のような場所に到着した。吹き上がる水飛沫が自然のシャワーのように池に降り注いでいる。周囲には特に何もない。そんな場所で止まったので観光スポットなのかと滝壺を見に行こうとすると何かに体がぶつかった。
「え?」
周囲の背景と同化しているようで全く見えないがそこには何かがある。手でそこ一体を触ってみると確かに何かに手が触れた。壁というにはそれは柔らかすぎる。大きさはそれほどないようで腕で長さを測ろうとすると抱き抱えるような形で手が後ろで届いた。そして後ろに回したはずの手は目の前の景色の裏に隠れるように消えていた。
「河城さん。居ますか?」
「いるよ。今はセクハラされてるけどね」
突然話した景色にギョッとして慌てて一歩下がるとその景色に少しのノイズが走りひとりの少女が現れた。
ウェーブのかかった外ハネが特徴的な青髪を数珠のような赤いアクセサリーでツーサイドアップにまとめている。白いブラウスに肩にポケットのついた水色の上着、同じ色をしたスカートにも幾つかのポケットがつけられている。
「ごめん。まさか消えたりできるとは思ってなくて」
俺の想像以上にこの世界はなんでもありなようだ。
にしても少年心をあまりにくすぐる機能だ。年齢的にはもう少年ではなかったが心はいつでも少年でいたい。
「君が最近聞く外来人かな。私は河城にとり。技師をやってる河童だよ。感動してくれたようだからセクハラに関しては不問にしてあげよう。で、何用だい?」
「いや本当に見えなくてさ。ごめんね。用事は、その前に電気ってこの世界は通ってる?」
ゲームの話をすると思っていたのであろうさとりが少し驚いて居たが気にしない。
「電気か。ここには一部通っているよ。もしかして地底で電気を使いたい?」
「そういうことだね。本当はゲームを作ってもらおうかと思って居たんだけど。今思えば八雲紫に盗んできて貰えばいいかと思ってね。だから充電とかに使う電気だけでもと思って」
犯罪行為ではあるがまずまずこっちは誘拐されている。それぐらいの条件は飲んでもらわないと困る。もし、そんな犯罪行為はできないと言うならば俺が外に置いてきたお金を使えば良い。それに俺はすぐにでもゲームをしたい。
「良いよ。ただ、私は地底に入るのに許可が要るから少し時間がかかるかもしれない。それでも良ければ」
「勿論。やってくれるだけでほんと有難いからさ。お代とかはどうすれば良い?」
目の前でにとりが少し考え込むような仕草をする。
「もし、八雲紫からゲームを余分に貰えるならそれが欲しいかな。いったいどういう構造なのか。気になるし」
「そんな事で良いなら喜んで」
意外にも簡単にことが進んだ。それにしてもそろそろこの世界の通貨を手に入れないと生活がし辛い。ふと何かが欲しい時に一文なしでは何も出来ない。
「今更なんだけど、さとりにも確認をとっておきたくて」
言うまでもなく、恐らく心を読んでくれているだろう。さとりとの会話には無駄に言葉を発する必要がなくて楽だ。外にもある程度察してくれる人間はいたが、全く察することのできない人間もいた。今となっては同調が能力であるとわかっているが正直外ではなんでそんなことが分からないのだろうかと思う事が少しあった。ただ、これに関しては俺が口下手だったと言うのもあるだろう。それにあまりにも比べる相手が悪い。同調できる人間と同じ様にしろというのは無理な話だ。
「地熱発電を設置して良いかですよね。私たちも電気を使えるなら良いですよ」
「俺一人じゃどうせ使いきれないから」
想像以上に話が上手くまとまった。何か金銭的なものを要求されるかと思ったがそんな事はなくて安心した。
「ああ、そうだ。あと良ければたまにここに来て外の世界のシステムとかについて教えてくれると有難いな。もしも次来てくれて話をしてくれたらラジオをあげるよ。ついでに配信環境も」
「マジか。それなら是非是非来るよ。ここの土地勘も掴まなきゃだしね」
同調しても善意しか感じない。ただただ良い奴なんだろう。基本的には人間は醜いと思って生きてきた。大体の行動には裏があり、自分に利益がくるように動いている。だが、別にこれを否定することは出来ない。何せ、仕方がない。そうすることでしか生きれないのだから。俺もそうして生きてきた。
「うん、ぜひきてね。それじゃ準備できたらそっち行くから気長に待ってて」
「おっけ。しばらくは地上とかに出て彷徨くと思うから結構くるかも。色々話すね」
「それではまた会いましょう。にとりさん」
「そだね」
さとりが挨拶を終えたのを確認して空へと上がる。やはりこの世界は誰も彼もが美少女だ。元々あまり女性が得意では無かった俺からすれば自分も女性になったというのは今思えば悪くなかったのかもしれない。前の状態だと話すのもままならなかったかもしれない。
「見ている限り女性が苦手とは思え無いですけどね」
「まぁ、今は俺も女だしね。同性と話すほうが気が楽なんだよ。異性ってなんかあんまり何考えてるかわかんなくて苦手なんだよね。不思議と今はそんなことないけど。多分同性は同調しやすいとかあるんだと思う」
「自分と同じものは同調しやすいというのは確かにそうですね。自分との距離が短いでしょうし簡単に同調できるんでしょう」
確かに。言われればそうだ。同調という行為は自分を相手に合わせるという事に他ならない。ならば自分と質が同じものであればあるほど合わせやすいというのは必然。
「まぁ、俺は男だったんだけどね」
ついさっきまで男だった身からすればすでに心も身体も女性になったという事の証明に他ならない。身体はまだしも心はまだ男でいたかったものだが。
「でも貴方、病気患っていたでしょう。ホルモン関係の」
「そうなんだよ。でも心は男だからね。身体はメス堕ちしてたとしても心は男だからね...」
大事なことは2回言おう。言霊という言葉もある、それだけ言葉にして声に出すというのは大事な事なのだ。ただ、今の現状を見るにそこまで意味はないのかもしれない。実際メス堕ちしている。それどころか心まで女、名前も女のようになってしまった。
「メス堕ちって.....まぁ、貴方がどんなに男だと主張してもどこからどう見ても見た目は可愛い少女ですけどね」
意地悪そうに笑うさとりに、違いないねと苦笑する。
ここにきてから、まだ二日だが少し体調が良い。昼夜逆転、1日一食食べてもカップ麺の生活から朝起きて動いているだけでも相当身体にはよかったんだろう。だが、今思えば俺はそれといって物を食べていない。今日も朝から何かを口にしただろうか。健康的とはどう考えても言えないだろう。では何故今少し調子がいいのだろうか。
「私たち妖怪や神は、畏れや信仰が食べ物なので食事しなくても本来問題ないんですよ。おなかがすかないというなら。貴方もかなり人外に寄ってきたという事ですね」
「少年心は結構くすぐられるけど正直不安だな。身体から触手とか生えてこないよね」
なぜかこの問いにさとりが少し考え込み始める、空を飛びながらではあるが。
「え、もしかして生えてくるの?」
唐突にものすごく不安になってきた。少し背中を触ってみたりするが今のところは大丈夫そうだ。さとりと同じ様な物ならまだいいがどこかの邪神のような触手が生えてきたらかなりまずい。でも器用に動かせるなら少し便利か。
「生えないとは思います。確信をもって言うことは出来ませんが」
「確信持って欲しいなそこは...いいの?妹に突然触手とか生えてきても」
さとりにとっては他人事かもしれないが俺にとってはとても重要なことだ。それに今思えばさとりにとっても他人事でもない。俺は今では彼女の妹だ。
「ところで、なんで触手が生えてくるなんて発想が出てくるんですか?」
確かに何故だろうかと考えて思考が止まる。その様を見たさとりが意地悪そうに一瞬笑ったのを俺は見逃さなかった。
「いや、えーっと。地底に触手生えてる妖怪居たからそれが衝撃でね」
思考を読まれないようにさとりを騙すが今更感は否めない。既にあのタイミングで思考は読まれていただろう。あの意地悪そうに笑顔が何よりの証拠だ。
「今更もう無駄ですよ。触手がせーへきの変態さん」
ニンマリと笑ったさとりからの死刑宣告。性癖だったという訳ではないが正直あまり何でとは言わないが見たりはしていた部類の物だった。
「あぁ、もう死のう」
間違い無く夕日の所為だけではなく赤く染まった顔を手で隠しながら地底へと向かう一人の少女と正反対にその様を見てニコニコと満足げに笑う少女は対象的だったが。その様は服装が同じ事もあってか本当に二人の姉妹のように見えている。地底へ降りる二人を見送るように沈んだ日は世界に1日の終わりを告げる。電気の普及していないこの世界では日が沈めば闇が世界を支配する。そんな二人を裂け目から眺めていた一人の妖怪は満足そうに妖しく笑い。それを閉じた。