人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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70話 悪夢

 再度、妖怪の山の上空に出る。視線の先には人里がある。まだ合図は来ていない。少し安心しながら、まだ自分以外の温もりが残っている唇をなぞる。だが、そのあの感覚は消えなかった。

 全く、俺は酷い人間だと思う。あの場では俺も恋しているなどと言ったが、俺にはわかっていない。さとりはいい妖怪だった。俺を住まわせてくれた、俺を家族として迎え入れていくれた。だが、俺がさとりに恋をしているかと問われれば、正直に言うとわからない。だからあの言葉は要は嘘に近い。さとりはもう俺の心が読めないようだったため恐らく気付かれてはいないが、残酷なことをしたなと思う。だが、あそこで彼女の思いを一蹴することが俺には出来なかった。この甘さはおそらくさとりにとってプラスには働かない。彼女の一生を縛る呪いになってしまう。

 自分でもこれが恋だと分かればよかったのだが、喜怒哀楽、その他いくつかの感情を既に感じ取れなくなっていた。正確には感じることはできるが、俺自身が知覚できないと言った状況。

 原因は分かりきっている。同調のやりすぎだ。感情とは負荷だ。他人に同調を繰り返すと対象のこれまでの感情で自分に過剰な負荷がかかる。それを繰り返すと普通に生きるだけで生じるような感情では何も感じなくなる。分かりやすく例えるなら、ダンベルと同じだ、いつも100キロを上げるような人間が5キロを上げたところで鍛えられた筋肉には負荷となりえない。

 別にこの状況に陥るのは初めてではない。故に焦ってもいない。これは言うなれば警告だった。これ以上は持たないので心をリセットして下さい、さもなくばあなたが壊れますという。いつもならこのタイミングでリセットするが今回はできない。と言うのも心をリセットすると、俺は役割を果たせなくなる。故に俺と言う器が破壊される前に、決着をつける必要があった。だから、リリィ達がすぐに動いてくれたのは助かった。

 突然、人里から音楽。これが合図だった。リリィの連れ、奏は音楽で相手の感情を操作できる。それを使って人里で内戦を起こさせる。本来はそれだけで十分だが、人間の技術力は進化している。だから、もし効かない人間がいた場合、俺の強襲に対応させることでリリィ達を動きやすくする。口元に限らず、まだ身体に他の温かさを感じるが、これ以上それに浸るような時間はない。少し周囲を回ったが、開けているような場所は見つけられなかった。始める時は自分で更地を作る必要がある。冷静になれば、元々ある開けた場所など事前に罠が仕掛けられている可能性もあるため使わない方がいい。結局自分で戦場を作る必要があった。やり方なんていくらでもある。ただ、こちらに注意を向ける必要があるので、出来るだけ派手に行きたい。

 

「行こう」

 

 一気に妖力を解放、黒い鎧を纏い、そのまま地面に着地する。そして、半径50メートルに対して火を放つ。火柱が天に昇り、木々が炭になって消えていく。少し里も燃えたが仕方がない。そうでもしなければ俺の方には向かってこないだろう。

 しばらくして人里の方面から人間達が各々武器を手に取って走ってくる。恐らく視認の瞬間に攻撃される。なら先手を打ってしまおう。

 

「もっと少ない想定だったんだけどな」

 

 走ってくる人間の足元の地面を凍結させ、その上を走る人間の足から凍らせる。それに気づけなかった人間とその状態で動こうとした人間の足が砕け、悲鳴と共に倒れ込む、だがその悲鳴も凍りついて消えた。

 人間の動きが止まったのでそちらに歩いていく。俺を視認した1人の人間が徐々に凍っていくことへの恐怖から発砲したが、俺には当たらない。逆にその音に驚いた数人が身体を動かしてしまい砕けた。吹き出す血液すらすぐに凍り付き、物言わぬ彫像になった。

 

「お前...一体何者なんだ」

 

 すでに手まで凍った人間がこちらを見て聞いてきた。ただ、それに答える義理はない。その首元に手を伸ばして力を入れると砕けて壊れた。

 やはり人間は脆い、妖怪のように回復できるわけでもないし、何か特殊な能力を持っているわけでもない。

 

「まぁ、でものうりょくもっているやつもいるよな」

 

 彼に向かって人里から火球が飛来、奥からさらに人間が湧き出てくる。こうなってくれば、奏とやらの能力の効きが怪しい。そして効いていないと言うことはリリィ達も危ない。まだ暴れないといけないらしい。

 そんなことを考えている彼はさておき、彼らは目の前の状況から学習したようで遠距離からの攻撃にシフトしたようだ。だが、その攻撃が彼に命中することはない。

 

「行くな。俺たちじゃ止められない、あいつらを呼べ」

 

 騒いでいる声だけが聞こえてくる。この後控えているであろう手足が機械になっていたあの人間や博麗霊夢、イレギュラーへの対応も考えて出来ればこちらの手札は公開したくない。

 刹那火球が彼の頬を掠める。黒い鎧越しに肌を焼く熱が伝わってきた。

 今度は一体どんな武器を作りやがったのかと火球の発生源に目を凝らす。そこにいたのは、少なくとも俺の想定していたものではなかった。

 

「洗脳できるなら、可能性はあったな」

 

 忌々しげに視線を向けた先には、妹紅。不老不死であり、一度人里でルーミアを止めた時に共に戦った仲だ。正直なところ戦いたくない。だが、やるしかない。

それに、これからすることに比べれば、戦友一人再起不能にすることぐらいなんてことはない。

 

「人里を襲う人間は排除する」

 

 虚な瞳には恐らく俺は映っていない。あまり時間をかけると博麗霊夢が来る可能性があるため、早急に処理したいが同調は出来ず、彼女は不死、どうすれば良いか。一瞬今使っている氷で凍結させることを考えたが、炎を使うやつに氷で拘束なんて、考える必要もなく厳しい。ゲームの属性相性はしっかりと考えられているんだな。そんなことを考えていると目の前に業火が迫る。避けることもなく直撃を選ぶ。どうすれば、無力化できるか。策は浮かぶが、絶対的な自信がない。ではどうするか、頭に浮かぶ方法をすべて試すしかない。

 炎の中を突貫してきた妹紅の拳をつかんでそのまま後方に投げ、足をつかんで地面に叩きつける。鈍い音とともに膝から下が千切れる。手元に残った役割を失ったそれを投げ捨てる。地面から起き上がろうとするその体に作成した鎌を突き刺して距離をとる。刃の根元まで地面に突き刺さった。簡単には抜けない。

 

「排除」

 

 だが、地面に鎌を指したまま、妹紅は強引に立ち上がる。鎌は抜けない。故にそのまま柄が体を裂く、立つこと自体には成功していたが、腹から下が真っ二つになり、艶やかに光る臓器が柄に引っ掛かり、悪趣味な装飾になっていた。妹紅はそれを焼き切ると何事もなかったかのようにこちらにとびこんでくる。

 目の前で行われた凶行に正直驚いたが想定内ではある。洗脳がどの程度の強度なのかわからないが、そもそも不死、痛みを伴う拘束は意味をなさないだろう。となれば、物理的に脱出不可能な拘束かそもそもその洗脳を解除するかになる。

 目の前に繰り出される火球と徒手空拳を避けながら考える。この後来るであろう博麗霊夢の対応のためにも、そもそも洗脳を解除できるかを確認するか。一歩後退、距離を詰めてきた妹紅の腕にスキマから鎖を放ち、四肢をとらえる。瞬間一気に火力を挙げたため、一歩で距離を詰めて頭につけられた機械を外そうと手をかける。

 その瞬間、思考が一瞬飛ぶ、体が動かない。それが電撃によるものだということに気づくのに時間はかからなかった。自分の足元に氷を作成して、体を無理やり離す。

 

「だめか」

 

 であれば、仕方ない。もうこうするしかない。

 

「簒奪せよ」

 

 どこまでいけるか。能力を発動。これはほかでもない、リリィのものだ。一瞬ぐらついたかと思うと妹紅の動きが止まった。リリィの能力で意識を奪った。能力などという形のないものに使えるのであれば問題ないだろうという勘はあったが核心はなかった。それに、できれば使いたくなかった手段だった。恐らくこれは博麗霊夢には通用しない。彼女の能力、その本質は万象からの離脱、上手くすれば概念すら超越できるだろう。そんな彼女には拘束も聞かなければ、こういった能力の類も効果がないはず。だが、あまり考えている暇はないらしい。

 背を向けていた間に人里の人間が俺の周囲を囲んでいる。手には様々な銃器。奥からはまだまだ人間が出てきている。現状最大の懸念点はこれだけの騒ぎを起こして、博麗霊夢も機械で強化された人間も出てこないことだ。奏の能力が効いていないのであれば、その戦力がリリィたちに向かっている可能性がある。あの三名の能力を疑うわけではないが、博麗霊夢は相手としてかなり厳しい。

 それに、何か重要な点を見逃している気がする。人里からまるで湯水のようにあふれ出す人間。この人里にはこんなにも人間がいたのか。そこで気づく。どうも、同じような風貌の奴が多い。最悪の状況が頭に浮かぶ。もし、人間を無限に作れるのであれば、俺は注意を引いているわけではない。俺は、足止めを食らっている。

 

「まさか」

 

 これだけの進化。であれば、こちらの作戦が見えていないはずもないだろう。踵を返して手に、六角形の武器を構える。

 

「どいてくれ」

 

 魔力を込めた武器からな七色の流星が飛び出す。それは夜を明るく染め上げ、人里を守る人間を蒸発させる。だが、それでも無限に人里から人間は流出する。だが突然人間が履ける。そして、そこからこのタイミングで可能な限り会いたくなかった3名が現れる。

 

「最悪だ」

 

 それは、博麗霊夢、そして奏とリリィだった。

 

 

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