人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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71話 古明地こよみとは

 

 村の東側で巨大な火柱が天を裂くように噴き上がる。

 

「うっわ、派手にやるね」

 

リリィから彼に任せれば問題ないと言われたので基本的には信用していたけれど、実際に実力を見ると納得できた。感じる力してみて、恐らくこの幻想郷で今、彼を止められる者はいない。

 

「ヒロ、行きましょう。私たちも役目を果たさないと」

 

 塀の向こうからは祭囃子。これは奏の能力によるもので、聞いた人間同士を強制的に敵対させ、殺し合わせているらしい。実際に、目の前の塀の向こうでは祭囃子に合わせて響く怒声と悲鳴が最悪のシンフォニーを作り上げていた。

 

「うん。いこう」

 

 我々の役割は人里の首謀者を殺害する事。けれど、情報がない。どんな人間で、どんな能力なのか。これは古明地こよみも知らないと言っていた。けれどそこについては問題ない。

 堂々と人里に入場。内部では老若男女問わず殺し合いが行われていた。家を飛び出した少年と老人がお互いに血まみれになりながらも槍を刺しあっている。大人の男が少女の腕を折って物陰に入っていった。10も行かない子供が武器を持って泣いている腹の膨れた女の腹を割き、胎児を串刺しにした。それを見て絶叫した腹の裂かれた女が落ちていた武器で子供の首を貫いて、血みどろになりながら自分の子供だった物を胎に戻そうと掻き集めている。

 地獄の方が幾分かマシかとも思える光景。それを見てリリィが顔を顰める。だが、奏の表情はまるで石のように動かない。私も別に長居したくはない。都合よく、地獄を尻目にこちらに向かってきた少年の武器を足で蹴り上げ、目を合わせる。

 

「申し訳ないが。人里のリーダーの所に案内してくれない?」

 

「わかりました。ついてきてください」

 

 指示を出された人間が、地獄と化した人里をうつろな目で先導していく。至る所で人間がお互いに残虐に、凄惨に、陰惨に、地獄を生産している。

 

「彼、守ってあげてね。途中で死ぬとまた誰か捕まえないといけないから...」

 

 頷いた2人に彼の後ろに着いてもらい。私は最後尾についた。4名は隊列を組みながら地獄を進む。周囲では人間が相変わらず殺し合いをしている。数人こちらを襲おうとしたが、リリィが能力で処理した。だが、リリィの顔色が悪い。目の前を幽鬼のように歩く人間に少し急いでくれと声をかける。少し小走りになった人間を3名で追う。リリィだけではなく、彼のためにも、早めにことを済ませたい。彼は能力からしてタイマンではまず負けることはないだろうが数で押されれば危ない。

 

「ここです」

 

 到着したのは他の家と変わらない藁葺き屋根の民家だった。そしてその扉がゆっくりと開かれる。奏とリリィが同時に警戒を強めるがそこにいたのは麻の服を着た少年だった。まだ年も十四五と言った所だろうか。顔には僅かにあどけなさが残っている。

 

「君が人間のリーダーかな?」

 

「そうだよ。ようこそ人里へ。妖怪のリーダーさん」

 

 警戒は解かない。彼が思った以上に若く、普通に扉を開いたことに驚いた。だが、それ以上に私を警戒させるのは、彼の態度だ。まるで、周囲では何も変わらないいつもの日常があるとでも言いたげだった。

 周囲で発生している惨状が普通なわけがない。

 であれば、彼はこの事態を予測していたことになる。

 

「妖怪のリーダーという言葉は引っかかるけど、大方間違ってない。なら我々がここにきた理由もわかっているのかな」

 

「もちろん。でも、君たち妖怪のためにも、まずは少し話そうよ。入って」

 

 そのまま彼は扉を開けたまま背を向けて家に入っていく。いつでも殺せる。そうリリィがこちらに目配せをするがそれを止める。わかっていたなら何の対策もしていないわけがない。それに、彼の言った妖怪のためにもという話が気になる。

 扉を潜るとそこには机が一つ、彼はすでに座っており、その後ろには手と脚を覆うように何か鎧のようなものを着た人間が立っている。

 我々の入室を確認すると彼は笑って迎え入れた。

 

「背後からいくらでも襲えたのに、聡明だね」

 

「どうやらくることがわかっていたみたいだし、こちらとしても聞きたいことがある」

 

 机を挟んだ彼の正面に置かれた椅子を引き、腰掛ける。奏とリリィは座ることを拒んで私の後ろに立った。

 我々の準備が整ったのを確認して、彼は口を開いた。

 

「単刀直入に言おう。一緒に古明地こよみを殺してほしい」

 

 あまりにも突然の提案だった。背後でリリィが明確に殺意を放っている。私がいなければおそらくこの時点で殺していただろう。

 

「急だね。ただ、その結論はこの話し合いの後に決めよう。私からも一つ質問、何で妖怪をあんなにも殺した?」

 

「私たちの幻想郷のためだよ」

 

 まるで当然だと言いたげに言い放つ。

 

「でも、君が最初に均衡を崩したんだろう。私からすると彼を殺すと言うのは責任転嫁にしか聞こえない」

 

 それを聞いた少年は少し考え込んだ後、何かに気づいたように手を打った。

 

「なるほど。君、役割を知らないのか。ならそこから話さないとだ。まず、君は妖怪の味方、そして私は人間の味方。そこで、彼は誰の味方だと思う?」

 

 役割。少年はそう言った。明確にこれという意識はしていなかった。ただ、私が妖怪の味方と言うのはわかる。私がここにまた来れたのも妖怪に危機が訪れたからと言われれば合点が行く。そして少年が人間の味方と言うのもわかる。だがそんな役割があるなら、古明地こよみは一体誰の味方なのか。種族として残っているのは神。だが、彼が神を守っていると言うような素振りはない。もし、神の味方であるなら、地底にいるとは思えない。

 長考する私を見て、答えに辿り着くことはないと考えたのか。少年はため息を吐く。

 

「わからないか。彼はね、幻想郷の味方なのさ」

 

 

 

 

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