人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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72話 降り積もった怨嗟

 

「古明地こよみは幻想郷の味方だよ」

 

「幻想郷の味方なら何の問題もないだろう?」

 

 古明地こよみは幻想郷の味方。だから今幻想郷を破壊しようとするこの人間を止めたい。そこに何の問題もないように思える。

 だが、目の前の人間は表情一つ変えずにこちらを見ていた。

 

「残念。それが問題だらけなんだ。一つ聞くが、君達は幻想郷の存続には何が必要だと思う?」

 

「畏れと信仰、そして人間かな」

 

「違うね。それは幻想郷ではなくて、妖怪と神の存続に必要なものだ」

 

 確かに間違っていない。畏れは妖怪を、信仰は神の存続に必要だ。では何なのか。一体幻想郷には何が必要なのか。

 

「贄だよ」

 

 贄、放たれたその言葉に妖怪側の空気が凍る。だが、一体何が贄なのか。彼の言葉を信じるわけではない。だが、やはり考えは聞いておくべきだ。

 

「その贄は何だい」

 

「今幻想郷に生きているすべての生物だよ。その犠牲でもって幻想郷を再構築する」

 

 理にはかなっている。そう感じてしまった。古明地こよみがそんなことをするかと言う点はさておき、幻想郷という世界を存続させるためには膨大な力が必要になる。

 だが、それでも納得できないことがある。

 

「そのきっかけを作ったのは君じゃないか。そもそも幻想郷が存亡の危機に立たされなければこんなことをする必要はないはずだ。君が人間を進化させてバランスを崩したからこうなったんだろう」

 

「残念ながら。それは違う。幻想郷は既に壊れかけている。というか、そもそも永遠に存続するものなんてない。幻想郷のいずれ来る崩壊が来たというだけ。その崩壊に備えて、八雲紫がアレを幻想郷に連れ込んだ。そして勘違いしているようだけど、人間の進化は私の力じゃない。この数週間でこの里には多くの外来人が来た。進化は彼らの持っていた能力。彼らは我々こ知って、人間も自分の身を守れるように、外の世界の知識と能力による補助をしてくれた。少しでもいい暮らしを、少しでも安心できるように、と。でも、延々と抑圧されていた幻想郷の人間はその力を守るためには使わなかった」

 

「なぜ止めなかった」

 

 少年はこちらを見つめる。だが、その瞳には私は映っていない。

 

「私は君と同じリーダー。いわば一つの種族の集合意思。人間の大多数が妖怪の殲滅を強く望むなら否定はできない。けど、正直なところ私も大事なものを全て妖怪に奪われた。母も、父も、妻も、生まれたばかりの子供まで。人里の人間はいつも奪われる側だった」

 

 どこか、哀愁を抱えた目。遠い過去を思い出しているのか、その瞳はこちらを見ているようで見ていない。

 無力とは罪だ。無力であることは、奪われる側になることになる。だが、奪われることで全てが消えるわけではない。残されたものは、奪われた分だけ畏れと共に、恨みを抱える。そしていつの日か、復習できる日を待ちわびる。

 

「だから幻想郷を壊すのか」

 

「いいや、これは幻想郷の限界だよ。この世界に永遠に続く物なんてない。いつか、どこかのタイミングで、綻びが生まれ、その綻びから少しずつ壊れていく。幻想郷は人間を蔑ろにしすぎた。人間を畏れや信仰を生み出すエネルギーとしか考えていなかった。故に滅ぶ。だから我々は幻想郷に教えてやるのさ。人間を舐めるなと。もし同じ世界を構築するなら我々は全てを忘れていようとも同じように滅ぼす」

 

 それは覚悟。それは怨嗟。それは怨讐。人間は常に奪われる側。妖怪は常に奪う側。神は搾取を行うだけ。常に畏れ、怯え、信仰している神は気まぐれにしか助けてくれない。

 だが、それでもわからないことがある。

 

「彼を殺さなければ我々は贄にされて螺旋に巻き込まれる。だから手伝えと?だが我々にメリットがない。妖怪としてはいまの環境の方が良い。また同じ世界が構築されるなら何の問題もない」

 

 それを聞いた少年が口角を歪めて笑う。そこにもう少年のあどけなさは無い。あるのはただの悪意だった。

 

「なんで弱者側にそんな選択肢があると思うんだ?我々は妖怪を鏖殺した。これは幻想郷に刻まれた事実だ。そして、アレの役割は裁定。今後の幻想郷をどうするべきか、それを判断し、作り直す。アレがこれをみて同じ幻想郷を作ると思うか。アレが次に作る幻想郷がどんなものになるかはわからない。そこに相談の余地もない。けれど我々と組めば、持続可能な幻想郷を構築できる」

 

 そこまで聞いて、リリィが一歩前に出た。少年の後ろの兵が動くが、それを少年が片手で制す。

 

「待ちなさい。まず、なぜ古明地こよみの目的がそれだと決めつけているのかしら。確かに本当にそうなのであれば、我々は協力して話し合いをした方が良い。けれど、彼が全く異なることを考えていたら」

 

「なら聞きにいくと良い。その答えを聞いてから決めても構わない。私としても、アレが何をする気なのかについてはわかっていない。知っていく必要があると思っていた。けれど、もし私の想定通りであればアレを殺す。それで構わないかな」

 

 一瞬の静寂。ヒロが振り返り、リリィを下がらせる。

 

「わかった。私はここに残ろう。聞き出しは君達に任せる。君は誰を出すんだい」

 

「誰も何も、1人しかいない。博麗の巫女だ」

 

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