人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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73話 魔王

 

 目の前には想像し得る中でも最も最悪の光景。博麗霊夢とリリィ、奏が並んでいる。導き出される結論はただ一つ、洗脳を受けて、敵になった。

 先ほどまで襲ってきていた人間の動きが止まってはいるが、例の銃もある、警戒は解かない。黒い鎧はそのままに、向かい合う。

 

「洗脳されてないですよ。一つ伺いたいことがあります」

 

 一言リリィが告げる。少し安心したがそれならなおのことわからない。なぜ博麗霊夢と並んでこちらを見ているのか。

 

「なんだよ。何を聞きたいんだ?」

 

 同時に同調。聞きたいことも背景も、その全てがわかった。そして、一つの結論を出す。それが最も幻想郷にとって都合が良かった。

 

「あなたの目的はなんですか」

 

「同調ができる俺に、この回答をしないでほしいと思いながら質問をするのはどうかと思うな」

 

「良いから答えてください」

 

 周囲の人間はまるで時が止まった可能ように動かない。俺の回答次第で動き出すのだろう。だが、ここでの回答は決まっている。そして、その回答をした瞬間に俺は。

 

「怖いな。少しくらい話をしよう」

 

「いいえ。求めてないわ。私はこの幻想郷を守る。あなたがそれを害するというなら全力で倒すまでよ」

 

 博麗霊夢が口を開く。正直驚いた。今思えば、彼女の瞳には光が戻っている。

 

「あれ、洗脳かなんかされてるんだと思ってたけど。治ったのか」

 

「博麗の巫女を舐めないことね」

 

「そいつは失礼。で、俺の目的だっけ。俺はね。この幻想郷を破壊して作り直す...なんてことはしない」

 

 明確にリリィは胸を撫で下ろす。博麗の巫女も少し安心したようだ。だが、悲しいな。これでお別れなんだ。一拍のうちに、別れを告げて、言葉を紡ぐ。これがきっと、俺が彼らに対して残せる最後の言葉。

 本当に、この場所にさとりが居なくて良かった。

 

「だって、面倒だろう。弱者はひたすら搾取され、強者だけが潤う。欠陥だらけだ。俺ならもっとまともに世界を作れるって言いたいところだけど」

 

 そこで再度止める。まだ結論までいっていないからか。周囲の人間も、リリィも奏も動かない。

 最後くらい笑っておこう。

 

「どうすれば、人間も妖怪も神もみんな幸せになれるのか。俺にはわからない。だから、そうならないと判断した瞬間に悉くを殺し、壊し、無に返す。そして、この世界は間違えた」

 

 その発言の瞬間、周囲の人間が動き出す。刹那、地面が溶ける。そこに足を踏み入れた人間が燃え上がり、周囲から悲鳴が聞こえ始める。

 博麗の巫女が飛んでくる。

 

「そういう事なら容赦しないわ」

 

 だが、彼に対して一対一で勝てる生物は存在しない。まるで未来を読むかのように攻撃を避けられる。そのまま手首を掴み博麗の巫女を背後に投げ飛ばす。

 目の前で古明地こよみは明確に敵対の宣言を行った。ただ、私は戦いたくない。だって、彼は嘘をついている。だが、それを証明する手立てがない。なら、一度ここで叩くしかない。叩いて嘘でしたと言わせるしかない。

 そんな私を見てか、古明地こよみの手がこちらに向けられる。

 

「俺をお前ら3人だけで止められるわけないだろ」

 

 その手に何かが握られる。それは人間が持っていた武器。

 

「まぁ、俺って元々外の世界の住民だからなぁ。こいつらよりも知ってるよ」

 

 仮面の下、表情は読めない。だが、その手に握られた武器の性能は知っている。慌てて避けようとするが、もう遅い。

 

「さよなら」

 

 その武器が光る。武器を使っていた人間の経験を蓄積した彼の攻撃にハズレはない。だが、いつまで経っても痛みが来ない。だが、それは同時に誰かに当たったことを意味していた。

 奏の叫びも似た声が響く。

 

「ヒロ!」

 

 彼が狙っていたのは私ではなかった。横にいた奏、ヒロが覆い被さるような形で奏を守っていた。ゆっくり立ち上がるが、白い服を致命的な赤が侵食していく。

 

「大丈夫だった?リリィ」

 

 それでも気丈に笑うヒロ。だが、その我慢も対して続かなかったらしい。そのまま膝をつく。

 

「あれ、残念。でも、そいつの方が面倒な能力か」

 

 再度彼の武器が向けられるが、その足元から火柱が上がる。そしてその火柱に向かって大量の弾幕と火焔が放たれる。地形が変わるほどの攻撃、だがその火柱が収まるとそこには何もなかったかのように彼が立っていた。

 

「今更熱いとか寒いとか言ってられないんだ」

 

 静かに向けられる銃口。次それが光れば、私たちのヒロの命は消える。それだけは許せなかった。

 

「簒奪せよ」

 

 彼の手元から銃を奪う。魔法のように私の手元に飛んできたそれを彼に向ける。

 

「ヒロを傷つけるなら貴方を殺すしかない」

 

 ゆっくりと引き金を引く。彼や人間の動きを見ていたので使い方はわかる。雷のような音と共に、古明地こよみだったものに、直撃。

 だが、

 

「それを使うやつを相手にしていた俺に効くわけないだろ」

 

 彼がゆっくりとこちらに歩いてくる。引き金を幾度も引く、耳を劈くような音と共に何かが彼に当たってはいる。だが、怯む様子もなく、止まる様子もない。

 そして、銃が彼の方へと引き寄せられていく。

 

「これは私の...?」

 

「使えないわけないだろ」

 

 またこれが彼の手に渡る。それだけは避けなくてはいけない。私も能力を使って手元に戻そうとする。結果、銃が空中で停止した。

 渾身の力を込めるが、少しずつ彼の方に銃が引き寄せられる。銃が彼の手元に戻る寸前、空から誰か別の声、刹那彼の体が七色の光に焼かれる。

 

「そのまま引いてろ」

 

 地面が赤熱し、溶けていく。それでも七色の光の中で彼はこちらに銃を向けている。

 

「霊夢!」

 

 そのまま、光の柱に閉じ込められた彼の周囲を光る護符が回り、それぞれが七色に光り輝く。

 

「夢想封印!」

 

 しかし、彼の動きは止まらない。彼の指は動いた。半ば聞こえない銃声。しかし、それは確実に飛来した。手を伸ばすがヒロに届かない。だが、1人だけ届く者がいた。

 確実にヒロの命を刈り取りにきた凶弾は間一髪間に入った奏に当たる。少しずつ赤く染まっていく胸。致命的な一撃だった。

 

「なんで...」

 

 それを見たヒロが絶句する。そのまま倒れ込んだ奏の胸を抑えるが彼女の白を染める赤の侵食は止まらない。

 

「私じゃ、彼に勝てない。それに私は貴方に助けてもらったもの。いつかお返しがしたかった」

 

 だんだんと彼女の体から力が抜けていく。このままでは間違いなく死ぬ。あの時救った少女が死ぬ。そんな事は許せない。

 

「頼む。お願いだ、死なないでくれ」

 

 願う、願う、願う。だが、

 

「その願いは叶わない」

 

 何の感情もない一言によってそれは却下される。

 虹色の結界の中。それはこちらを見ていた。黒い鎧の中、その表情は見えない。

 

「そんな顔をするなよ。お前が願ったところで既に俺の銃が彼女を貫いたという事実は変わらず、彼女の傷が塞がる事もない。お前の能力は、まだ未確定な未来にしか効かない」

 

「なんで殺した」

 

 彼からは効いたことのない声。ただ一つわかるのは彼が怒っていることだけ。

 

「なんで?俺としてはお前を殺そうとしたんだが。お前が当たればそんな思いをしないで済んだのにな」

 

 無駄な死だと笑っているわけでも、目的の妨害をされて苛ついているわけでもない。閉じ込められた彼はまるで道端に落ちている石の何となく視線を落としたかのように興味がないと言いたげだ。

 

「でも、一応を閉じ込めたことは賞賛できる。ということで、俺はこの中で待ってやる。それまでに頑張って準備するといい」

 

 そういって、彼は黒い鎧は虹色の結界の中で、座り込む。それを見た白黒の魔法使い。霧雨魔理沙が笑う。

 

「そんな簡単に霊夢の夢想封印が破れるかよ」

 

 その挑発に対して、彼は結界の中で立ち上がろうとする。

 

「やめなさい。こいつの能力は同調。私がこれを解除できるという事はこいつも解除できるわ。それに...何でもない」

 

 苦虫を噛み潰したような表情をしながら閉じ込めたはずのソレを見る博麗の巫女。そこ横に進み、彼に声をかける。

 

「魔王にでもなるつもりですか」

 

 それを聞いた彼が少し笑う。

 

「魔王、響きは良いが。そんな分かりやすい物でもない。ところで、俺の気が変わらないうちにさっさと準備した方がいいんじゃないか」

 

「必ず殺すわ」

 

 博麗霊夢の宣言を聞き届け、ヒロと私以外が散り散りに飛んで行った。

 

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