人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います 作:黒犬51
「奏...」
彼の手には致命的な穴が開いてしまった器が一つ。白かった服はすでに紅く染まり、端から黒くなっていく。
「あっけないな。おとぎ話だともう少し感動的な終わりになるんだが」
うるさい。
「お前も早く準備したほうがいい」
うるさい。
「わかっているとは思うが、初めから勝算なんてかけらもない勝負をするんだから」
目の前の虹色の結界に閉じ込められたソレは悪意も、敵意も、善意も、何もなく、ただ、淡々と言葉を吐いてくる。
「黙れ。お前は、妖怪の敵だ。必ず殺す」
それを聞いたソレは嘲笑するかのように鼻を鳴らす。
「それでいい。ならさっさと行け」
それを聞いて、ヒロが奏を抱えて飛び去っていく。残されたのは、私とこよみだけ。
「私が見ていた限り、貴方がこんなことをする人間だとは思えない」
私は見ていた彼は、少なくとも。ここまで相手を侮辱したり、明確に相手を傷つける人間ではなかった。どちらかといえば、何かを救うために命を賭ける者だった。その点では、ヒロに似ていた。だから、私は彼を見ていた。誰かのために、自分を捨てる。それが彼だった。なのに、今の彼はまさに真逆。一体何があったのか。
そんな私を見て、ソレは笑う。
「さとり妖怪にでもなったつもりか。俺にわかっても、お前に俺はわからない。お前にしかできないことがあるだろ。早くしたほうがいい」
そこまで言って、彼は結界の中で横になる。もう話す気はないらしい。
私は目の前にスキマを作りとある場所に移動する。残されたのは虹色に光る結界とその中の黒いナニカ。
「まだ寝ないでくれるかな」
「次から次へと、一体なんだ。見世物小屋じゃないんだが」
たった一人、麻の服を着た少年がその結界に歩み寄る。周囲の人間は殺された人間の処理すらせずに人里に戻っていった。
「ごめんね。疲れている事はわかっている。ただ、どうしても一つ聞きたくて。君の目にはこの世界はどう映ったのかな」
ソレは答える気が無いようで無視を決め込む。だが、人間も引く気は無いようで座り込んだ。それを感じて、ため息を吐く。
「世界という面では圧倒的にマシだ。だが、人間の立場は外の世界の方がいい。だから、人里に来た外来人はお前らを助けようとしたんだろうな」
「そうだろうね」
その人間に、彼は会話したことはない。だが、どんな人間なのか、何を思っていたのか。それはすべて知っている。
一人目は、外の世界では病弱で車いす生活の少女だった。迷い込んだこの世界で妖怪に襲われていたところ、幸い人里の近くだったため山菜を収穫していた人間に助けてもらった。車いすに生活の中で、色々な仕組みに興味を持っていた彼女は、人間に様々な道具や機械の仕組みや存在を教えた。
二人目は山登りと狩猟が趣味の男だった。山を登っている最中に遭難して、妖怪に襲われている人間の子供を助け、人里に招待された。彼は、妖怪に対抗する手段として、狩猟の技術や銃の仕組みを教えた。
三人目はすべてに裏切られ、山で自殺を図った少年だった。だが、自殺用に用意していたロープが切れてしまう。手段を失った彼は、山をさまよっていたところ幻想郷に迷い込み、人里を見つける。すでにその世界になじんでいた二人の人間と協力し、手に入れた作り出す程度の能力で人間に進化を与えた。
「でもお前らは殺した。自分たちが楽に生きるための歯車として他者を利用して、用済みになれば殺す。お前らが大嫌いな幻想郷と同じだ。だから俺はお前らも老若男女関係なく、子供であっても、生まれたばかりの赤子であっても、平等に誰一人残らず殺す」
「どこまで知っているんだい?」
ソレは淡々と言葉を紡ぎ続ける。それは、人間の犯した罪、利己的で、自分勝手で、悪辣で、醜悪。外の世界の人間と変わらない。
「ここに来た人間は3人。最初に殺したのは2人目、お前らに銃を教えた人間だ。妖怪が出たと嘘の情報を流し人里の外に連れ出して背後から槍で一刺し。銃を使ってやれば彼も楽だったろうに、お前らは残った外来人に知られないように槍で殺した。挙句、急所を外した。結果、彼は自分の子供に謝りながら死んだ。遺体は、俺が焼き払った森で妖怪の仕業に見せかけるため、腸を引きずり出し、顔を石で潰し、手足をもいで木に吊るした。残りの2人の方がよっぽど残酷だが、全部俺の口から聞きたいか?」
「いや...結構」
淡々と告げられる言葉は事実。実際に人間は外来人を襲った。自分たちにもっと都合よく動くように。自分達がこの世界で力を手に入れられるように。これは人間の罪だ。間違いない、そして目の前の裁定者は。
「あぁ、俺は許さない。弱者が淘汰され続けるクソみたいな幻想郷も。力を得るために、同族を殺す人間も。だから全て殺してリセットする」
淡々と告げられる言葉。だが、この裏には明確な憎悪がある。
「なら私達は全力でお前を殺す」
やるしかない。これは生存競争。彼の世界と我々の世界どちらが生き残るか。その競争。だが、
「そうだ。お前らに勝算はない。俺は全てを調べ終えている」
それは絶望の宣告だった。彼の能力は同調。自分に相手の経験、感情、記憶、能力、全てを重ねる。だからこそ彼は他者に会えば会うほど強くなる。もし、幻想郷の全員に会えば、彼は戦闘経験で全てを凌駕し、全ての能力を使いこなす。
「だからこそ今こうして時間をあげてるんだ。わかったらさっさと準備をする事だな」
ソレは、そうとだけ言い残し、何も言わなくなった。もうきっと、何を言っても返答はない、故に人間の長は諦めて歩き去っていった。