人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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76話 廻天

 

 ソレは目を覚ます。依然として周囲には虹色の結界はある。しかし、それ以外の情報が手に入らなかった。周囲は闇に包まれている。だが、闇などでそれの目は閉ざせない。既にある程度の幻想郷の住民が集まっていた。人間と妖怪、神が協力することになり、陣形を整え、ソレの動きを待っていた。まだ、完全ではないが既に準備は万端らしい。

 ソレは結界の破壊前に、幻想郷の全てを対象にあるものを奪う。そして、右手で結界に触れる。すると、結界は粒子となって消えていく。

 

「始めよう。幻想郷」

 

 それがソレの残した最後の人としての言葉だった。目を瞑り、自分に命令を与える。

 瞬間、ソレの黒い鎧から黒い湯気が溢れる。次に肉が裂け、骨が砕ける音が響く。膨張していく肉によって鎧が砕け、変質していく。想像を絶するような苦痛が襲っているはずだ。だが、悲鳴も何もない。ただ、音だけが響く。

 外では結界が破壊されたことを伝える笛が鳴り、闇の帷が上げられる。そこにあったのは、大樹のような大きさの漆黒の卵だった。そして殻を破り、身体中に黒い鎧のような鱗を纏った竜が現れ、2足で立ち上がる。そしてその翼を広げる。だが、その翼には骨格しかなかった。翼がない。

 最初に動いたのは人間だった。進化の過程で手に入れた大量の武器が竜を襲う。着弾するたびに、雷のような音と共に、竜の体が爆発する。数分に及ぶ地形が変わるほどの攻撃の後、煙が晴れるとそこには無傷の竜がいた。

 状況を確認し、人間のリーダーが次の指示を行う。それに合わせて体の一部を武器とした人間が竜に向かっていった。各々が携えた武器が竜を襲う、あるものは弾かれ、あるものは鱗の隙間を狙い、突き刺すことに成功した。だが、どれも致命傷にはなり得ない。

 

「待って、彼らをあいつから離しなさい」

 

 博麗霊夢が人里の長に指示を出す。それに応じて撤退指示を出そうとした瞬間だった。地面から大量の黒い槍が突き出し、竜に肉薄していた全てを貫いた。

 様々な方向から突き刺さった槍によりまるで趣味の悪い芸術作品のようになった人間が悲鳴をあげている。その光景を見て、人里の長が苦虫を潰したような顔をした。

 

「性格の悪いことを...」

 

 人間と妖怪、そのどれもが即死を免れていた。正確には、竜が敢えて殺さなかったというのが正しいかもしれない。全ての槍は致命傷を避けている。だが、様々な角度から突き刺さったそれは対象を苦痛と共に脱出不可にしていた。

 まるで百舌鳥の早贄のような住民たちの真ん中で竜が翼を広げる。といっても、その翼は骨格だけだ。だが、それとは別の理由でその翼で空に飛ぶことは叶わなかった。

 上空から、竜を七色の光線が包み。その光の中で竜の体が溶けていく。数十秒の照射の後、残されたのは熱を持ち、赤くなった竜だった。

 その隙を逃すような人間でもない。人間達が再度竜に攻撃を開始する。再度、爆炎と爆撃が竜を襲う。先ほどは全く効果のなかった攻撃だが、熱を持ち耐久性の下がった鱗には効果があった。竜の鱗が剥がれ、血に塗れている。当然、そんな隙を見逃すことはない。今度こそと、妖怪達が各々の攻撃で竜に攻撃を行う。だが、次の刹那、向かっていった妖怪と人間が全員倒れた。苦しむような素振りも何もなかった。

 その中心で、竜が吠え、再度翼を広げる。とてもその巨体を持ち上げることのできるようなものではない。だが、その体が浮いていく。そのまま上空に飛び、地面を見下ろす。そして、空が煌めいた。まるで星のように何かが光っている。

 

「廻天」

 

 言葉というよりか咆哮と言える宣言と同時に、上空の煌めきが一斉に落下する。それは大量の武器だった。槍、剣、刀、思いつく全ての武器が降り注ぐ、数分の雨の後、竜は地面に降り立つ。地上にに落ちた仕事を終えた武器はまるで溶けたように消えていく。

 周囲には、人間と妖怪だったピンク色の肉塊が転がっている。だが、その中を、1人の少女が駆け抜ける。そのまま竜の懐に飛び込み、刀で一閃。体を捻られ、致命傷は免れたが、竜の翼が地面に落ちる。

 

「ダメね。概念系の能力は通用しないわ。物理や弾幕で攻撃するしかない」

 

 桃色の髪をした少女が八雲紫に告げる。

 

「では、こういうのはどうかしら」

 

 竜の目の前に、スキマが開かれる。人を通すには大きすぎるそれから、聞き覚えのある音が響く。竜が構えた瞬間、同時に展開された上下左右のスキマから電車が飛び出して、竜の体を押しつぶす。肉の潰れる凄惨な音が響く。

 爆炎に包まれる竜の上空に、真紅の槍と剣が現れる。そして、同時に空気を焼きながら、竜の体を貫く。そしてその炎によって電車が発火、爆発。周囲に竜の一部が飛び散る。

 

「細胞の一片も残さない」

 

 だが、その炎の中に未だに竜の影がある。そこに対して、三方向から七色の光が直撃。体を焼いていく。

 しかし、その中で竜が飛び立つ。光から脱出する直前、その前に鬼と修行者が現れる。

 

「上には飛ばせない」

 

 同時に繰り出される踵落としによって竜は轟音と共に再度地面に叩きつけられる。既に腕は千切れ、足は骨が見えている。そんな状況でも竜は立ちあがろうとする。

 その体に、黒い鎖が巻き付く。

 

「闇に喰われた星月夜。光に飲まれた朧月。私はたった一つの願いを告げる」

 

 拘束された竜に鳥を模った炎が直撃、骨をも焦がすような業火の中で、いまだに竜は縛られている。

 

「私たちは願いを告げる。全てを飲み込む夜の闇よ、裁きをッ!」

 

 突然現れた巨大な鎌が、竜を切り裂く、残された腕と足が飛んだ。しかし、竜は諦めた訳では無いらしい。空に、星のように大量に何かが煌めく。

 炎の中で、竜が翼を広げる。その風圧によって炎が消え、傷ひとつない竜が姿を現す。咆哮と共に、空の光が一つに集まり、落下する。巨大な質量となったそれが地面に迫る。

 

「申し訳ないが、辞めてくれないか」

 

 だが、その光は男の宣言によって花びらとなって消えた。男はその言葉の後体勢を崩すが、それを横にいる少女が支える。

 しかし、竜は止まらない。竜の周囲に大量の魔法陣が展開され、その中央部に一斉に光が集まる。

 

「夢想封印」

 

 光が放たれる瞬間、竜の周囲が虹色の結界で包まれ、内部でその力が反射する。自らの力に焼かれて竜の体が崩れていく。

 竜の体が崩れる。だが、その瞬間、空を覆うように魔法陣が作られる。だが、その中央に光が集まる事はない。代わりに何かを刻む針が動いている。結界が壊れた時、そこには黒い煙をあげた灰だけが残されていた。

 

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