人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 何故人間は生きると疲れるのか。簡単だ、本来人間はこの世界を生きれるように作られていない。


8話 ありがとうをただ伝えたい

 河童の河城にとりとの約束を交わした事で地上での目的は達成したため、彼女たちは帰路につき、地底に建つ白い巨大な館。地霊殿へと戻っていた。

 さとりが門を開き、こよみを中へと先に通し、その後を追うように館の庭へ。

 

「さとり、ありがとね。許可くれて」

 

「いえいえ、私も読書灯がランプで少し使いにくいなと思っていたのでありがたく使わせて貰います」

 

 この世界のランプがどの程度のものかは知らないが、確かに読書灯として風で揺れる灯りを使うのはあまり良くないだろう。風情はあるだろうが、読みにくくもありそうだ。

 

「あれ、おかえりおねーちゃんと、こよみちゃん」

 

「こよみちゃんかぁ...」

 

 ちゃん付けされるのは流石に慣れない。俺は男だ。だが、郷に入っては郷に従えという言葉もある。なんとか慣れるしかないだろう。少し、こいしの次の言動や行動を調べてみよう。こいしとはこの2日程度一緒に暮らしたが正直、掴みどころのない少女だ。次に一体何をするか本当に想像できない。

 

「こよみ?」

 

「大丈夫だよ。今日は疲れたし先お風呂入ろうかな」

 

 ふらふらと館の中へと入っていくこよみに少しの違和感を覚えたさとりはその心を読もうとするが、何故か読めなかった。騙す能力を使っているのかと思ったが、使う意味がない。彼女は使う意味がない限りは使わないと言っていた。なら実験的に使っているのかとも考えるが心が読めない以上正解はわからない。一度諦め彼女もまた自室へと戻っていった。

 

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 光の差し込むことない暗闇、息をすることの出来ないほどの静寂。その中で2人が椅子に腰掛けていた、間には長机、本来はもっと人数がいるのが正常であるはずの大きさの場所で二人だけ、最も遠い距離で見つめ合っている。

 

「良いの?」

 

 暗闇、相手の顔は見えない筈だが。その口振りは相手の顔がわかっているようだ。

 

「良いんだよ」

 

 育ちきった男特有の少し低い声。だが、どこか幼なげも残しているそれからは何故か親が子に話しかけるような優しさが感じ取れる。

 その一人はどこからか出したカップで湯気の上がる何かを啜る。

 

「そっか」

 

 暗闇で話すもう一人の声は対照的に幼い。だが、その言葉には子供のような純心さはなかった。短い言葉ではあるが。まるで親友に話しかけるような優しさと、心配だと思いやる心それは感じ取れる。

 

「何でなのかって聞いても良い?」

 

「まだそれはダメだな。いつか教えられる時が来たら」

 

 一人が光に包まれる。その輝きが消えた後残されたのはもう一人。絶望的な暗闇の中、まるで全てが見えているかのように部屋の奥へと入っていく。座るものが居なくなった机もまた暗闇へと沈んでいく。残されたのは静寂と、二人の名残り。

 

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 灯りを灯し、机の上に置いておいた本を手に取る。内容は妖怪と人間が恋をする物語。妖怪は皆から嫌われており、人間は生まれつき殺し屋として育てられた影響で感情を失っていた。今、物語は人間が徐々に感情を取り戻している最中だった。青い薔薇の押し花で作られた栞のページを開き、読書を続ける。物語のフィナーレは大方読めていた。きっと幸せでは終われない。

 

「おねーちゃーん!」

 

 扉を蹴り開けるように乱雑に開きこいしが入ってくる。既に食事は終えており、後は睡魔が来るまで読書をしようとしていたのだが、そうはいかないらしい。

 

「あら、こいし。どうしたの?」

 

 彼女の心は私でも読めない。彼女の能力は無意識を操る。というもの。大方の行動に意識は無い。その為そこに思考が介在する余地はない。その為私の心を読むという能力は彼女の前では全くの無意味。

 

「地上の土産話を持ってきたんだよ」

 

 純粋無垢な笑顔。それとは対照的にわたしと同じ彼女の傍にコードで浮かんでいるサードアイの瞳は痛々しく縫われ、二度と開かないようにされていた。

 

「一体どんな話が聞けるのかしら」

 

 私も笑顔で返す。だが、その心は暗い。彼女が瞳を閉じた原因は私にもある。実の妹であるこいしの変化に気付けず、護ってあげることが出来なかった。

 

「地上にね、こころちゃんって言う面霊気が居てね。とっても面白いんだよ。すっごく無表情なんだけど仮面で感情が分かるんだ」

 

 今はこうして楽しそうに話してはいるがこれもまた無意識かもしれない。そう考えると私は実の妹すら守ることのできなかったひどい姉だったと言うことを再認識してします。

 

「こころさん、確か能楽がとっても上手な人だったかしら」

 

「そうそう。さすがおねーちゃん、物知りだね!で、その子がとっても...可愛いの」

 

 可愛いと言ったこいしの表情に思考が止まった。モジモジと俯いて少し顔を赤らめている。それはまるで恋する乙女のようで。一拍置いたのも少し発言が恥ずかしいと思ったからだろうか。

 

「ちょっと恥ずかしいね」

 

「み、みたいね。でも良いじゃない。好きになるって素敵な事よ」

 

 こいしにも恋人が出来るのだろうか。いや、もしかするとこれは早計かもしれない。こいしは無意識で照れていると言う可能性も。ただ、それなら尚更本当に恋してると言うことになる気もする。

 

「?!好きなんて言ってないよ!私とこころちゃんは友達だもん」

 

 顔を真っ赤にして否定しているがその行為自体が肯定になってしまっていることに彼女は気付いていないのだろう。そして、こいしがここまで感情を出してくれるのは嬉しいことだった。サードアイを閉じた直後、彼女はとても不安定で館に全く帰って来ず、来た時にはボロボロであったり、いつか帰って来なくなるのでは無いかと不安になるようなことがあった。でも今は不安にはなるがそれなりの頻度で帰ってきてくれる。そして、外で好きな人ができたと言う。とても素晴らしい事だ。

 

「ふふ、大丈夫よ。おねーちゃんはいつでもこいしの味方だからね」

 

 優しく頭を撫でるとこいしは少し抵抗しながらも猫のように目を閉じた。愛おしい私の妹、残されたたった一人の家族。もし、この先こいしが、私の家族が傷つけられるようなことが起きるのならば。私は、何をしてでも、今度こそ救ってみせる。

 

「でね、こころちゃんを地底に連れてきて一緒に遊んでもいい?」

 

「もちろん。ただ、誘拐とかはダメよ」

 

「しないよそんな事」

 

 最近誘拐されて幻想郷に連れて来られた彼女の顔を思い浮かべる。彼女、いや彼にも家族がいたはず。今でも彼にとっての本当の家族は私達ではない。そして、彼は恐らくもう会うことが出来ない。ならば、私が貴方は私の家族だと言ったのはとても残酷だったかもしれない。それはもう二度と家族には会えないことへの証明になってしまう。そして呪いだ、家族だと思ってくれる者の前から消えると言う行為がどれほど辛いかを彼は知っている。ならあの時の涙は、他人に頼れたからではなく。心のどこかでまだ会えると思っていた家族への別れだったのかもしれない。ならあのふらふらとした足取りは。

 そこまで思考が回った時、慌てて椅子を立ち彼女の部屋へと向かう。後ろからこいしが追ってきているのも気にせずに。

 もしかすると、私が与えたのは救いではなく。本当に呪いだったのかもしれない。

 

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 その頃こよみは地霊殿から離れ、街の中を流れる川の上にかけられた橋の手すりに腕を乗せ、地底の街の景色を眺めていた。歩く人ではない者と、賑やかな喧騒。それは不思議と彼女を不快にはさせなかった。周囲に同調する彼女にとって本来このような人混みは楽なものではない。空を見ると青いように彼女の視界には他人の心が見えており、その全てに少しずつ同調している。

 

「一体どうしたんだい。こんな橋の上で」

 

「ヤマメだっけ、冒険してたんだよ。土地勘も覚えたいしね」

 

 どこかをみている彼女の横に並んで橋に寄り掛かる。

 

「心なんて読めなくても嘘ついてることくらいわかる。無理に言えとは言わない、みんな隠し事の一つや二つあるもんさ。ただ、なんでも抱え込むのは良くない。心は簡単に壊れる」

 

「はは、もうほんと。ここにいる人達っていい人ばっかだね。困るなぁ」

 

 同調するという力が本物だと分かった以上。彼女には相手が発した言葉が心から思っている本物か偽物かがわかる。

 

「俺の力じゃ解決できない問題があってね。どうしようもないってわかっているんだけど。どうにか出来ないかってずっと考えてるんだ」

 

 一瞬の静寂、ヤマメは空のない天を見上げる。

 

「ならずっと悩むと良い。どうしようもないってのはそうかもしれない。でも、ずっとどうしようもないわけではないだろ。いつ、何処でどうしようもないことからなんとかなることになるか分からない。そんなに大事な物なら諦めないで、ずっと悩むんだ。もしかするといつか解決出来るかもしれない。大事なのはどうしようもないことじゃない。あんたがそれを諦められるか、そこだよ」

 

「確かに......そうだね。ありがとう」

 

 悲しそうに笑うこよみは大きく深呼吸。それはまるでこれまでの悩みを捨てるようで、それを終えた彼女の顔は少し晴れていた。

 

「楽そうになったようでよかったよ。タイミングあったら一緒に飲もう」

 

 楽しそうに笑うヤマメと苦笑するこよみ。側から見れば仲のいい友人か何かに見えているだろうか。橋の下では静かに水が流れている。

 

「飲みかぁ。良いけど俺酒そんな強くないから手加減してね」

 

 そこで突然こよみは身構えて周囲をキョロキョロと見回す。それはナワバリに侵入した外敵に気付いた動物ようで、だが、その外敵に先に気付いたのはこよみではなくヤマメだった。

 蜘蛛の糸でこよみを縛り自分の方へと引き寄せる。直後、落下音と共に彼女のいた位置に鶴瓶が直撃する。橋が揺れるが壊れる事はない。

 

「キスメ、危ないだろ。今の死んでてもおかしく無かった」

 

 少し怒ったようなヤマメの声の後鶴瓶から緑髪の少女が現れる。その緑は地上で見た早苗という少女のものよりもさらに深い。髪は河童のにとりと同じようにツインテールで止めている。印象的なのが服装で、白い死装束だった。

 

「脅かそうと思ったんだよ」

 

 ヤマメの胸の中で蜘蛛の糸に胴体を縛られ、動けなくなっているこよみは動くこともなくじっとその襲撃者を見ていた。

 

「悪意はないっぽいけどやめてね.....俺、人間だからさ。普通に即死だよ」

 

「それで人間なの?」

 

 糸を自分で切ろうとこよみは体を動かすが全く解ける様子はない。少しすると諦めたように動かなくなる。

 

「雰囲気は妖怪かもだけど体が人間だからさ。普通に死んじゃうよ」

 

「そうなんだ。気をつけるよ」

 

 少し反省した様子のキスメを見て、悪意が無かった事を確認する。そして再度糸が解けないかと体を捻る。だが、やはり緩む気配すらない。

 

「ヤマメ、これ外せる?」

 

 自分でなんとか出来る限界は超えているらしい。諦めてヤマメに助けを求める。

 だが、胸の中で動けなくなって助けを求めるこよみを見つめるヤマメの様子が少しおかしい。

 

「ちょっと加虐心そそられるなぁ」

 

「目が怖いよ」

 

 気がつくと猿轡のように蜘蛛の糸を噛ませられていた。

 

「あー、ヤマメって結構sだから。頑張って」

 

 そう言ってキスメと呼ばれた少女は鶴瓶ごと空へと飛んでいく。口に入った糸が若干不快だ。粘度と強固さが共存している。噛み切ることも厳しい。

 

「こう見ると可愛いよね」

 

 糸に縛られ身動きの取れないこよみに恍惚とした顔でそう告げるヤマメ。

 

「そんなこと言われても、あと俺外では男だったから嬉しくない」

 

 喋りにくい。糸のベタつきが口内に広がってきた。

 

「マジで目が怖いんだけど。もしかして変な気起こしてない?」

 

「.........。」

 

 返答がない。少し嫌な予感がする。俺のこういう嫌な予感は大抵当たる。ヤマメの手がボタンの間を抜けて素肌に触れる。

 

「え、ちょ」

 

 能力を発動する。俺ではなく橋を触れていると錯覚させる。正直通じるかはかなり微妙なラインだ。

 

「流石にわかりやすすぎるな」

 

 橋は肌のように柔らかくない。騙すという行為自体このように組みつかれた状態では意味がない。騙すという能力がバレているならまだ最初から騙していた可能性も生まれるが、まだ新聞も出てないだろう。無理がある。触れているのも目の前で話していたのも俺だった。

 

「マジで、洒落になってないよ」

 

 糸のせいで腕が動かないのは勿論、腕を服に入れられているせいで服を破るか脱ぎ捨てるかしない限りは抜けられない。器用にも猿轡を付けられているため、大声も出せない。簡単に言えば、誰かの助けが来ない限りは詰んでいる。

 

「さとりよりも大きいな。さとりに羨ましいがられない?」

 

「ちょっとね。にしても触り方がいやらしいよ」

 

 腰やら胸やらを触っている。蛇がなぞる様に摩られ少しくすぐったい....くすぐったい。そういうことにしておこう。

 手が下へと滑り落ちていく。それを判断して抵抗する。

 

「流石にダメ」

 

「もうちょっと仲良くなってからかぁ」

 

 残念そうにするヤマメを見て苦笑いを浮かべる。良い人....妖怪なのはわかったがそれと同時に少し危ないということもわかった。暴力的というよりかは、俺の貞操的に。

 

「仲良くなってもわかんないよ」

 

「うーん。そりゃ残念」

 

 本当に残念そうにしながら糸を解き始める。手慣れている様でこれまで全く解けなかったのが嘘の様に簡単に外れた。

 

「でもヤマメがめっちゃ良い人ってことはわかったから、友達としては仲良くしたいな」

 

「そりゃもちろん。でもその先も目指したいもんだね」

 

 やっぱりちょっと危ない妖怪だなぁ。そんなことを思いながら自由になった腕を回す。黙って抜け出しているしさとりも心配しているだろう。そろそろ帰った方がいいだろう。橋の上でヤマメに手を振って、別れを告げた後、家家に挟まれた道の少し先に見える白い館を目指して歩く。歩いたり、酒を飲んだり、自由に暮らす妖怪たちの様々な感情が流れ込んでくるが外の世界と比べれば数は多くない。それに自分を偽る物や、怒りや憎しみもほぼない為それほど辛くもなかった。

 これなら俺は、外の世界よりもここの世界の方が暮らしやすかったのかもしれない。ただ、それならもっと早くここの存在を知りたかった。

 少女は一人、頭に浮かぶ家族の記憶を思い起こしながら帰路を辿る。ただ、その足取りは行きと比べれば軽い。

 もし、俺が誰の記憶にもいないとしても家族であったことには、友人であったことには変わりない。なら俺は意味がないとしても、元の生活に戻ることが出来ないとしても、その愛情に、友情にせめて感謝を告げたい。だから俺は諦めない。どうにかなるその日を信じて俺はこの世界を呑気に生きる。

 

 

 

 

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