人助けをしたら幻想郷にさらわれたので呑気に暮らそうと思います   作:黒犬51

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 私は自由だと、そう叫ぶ人程、何かに縛られている。
 何故なら自由とは、何かに縛られていなければわからない感情だから。


9話 どうしようもない

 地霊殿への帰路で偶然さとりと会った。俺としては偶然であったがさとりは俺のことを探していたらしい。さとりからすればかなり心配だったのだろう。やはり、何も言わずに出たのは流石にまずかった。

 

「さとり、ごめん。心配した?」

 

「よかった」

 

 そう言ってさとりが抱きついてくる。香水だろうか、薔薇のような匂いが鼻腔をくすぐる。一瞬驚いたがすぐに抱き返す。それだけ心配してくれていたんだろう。周囲の妖怪は一瞬驚いたようで様子が変わったがすぐに元の喧騒に戻った。

 

「何もありませんでしたか?」

 

「うーん。なにもなかったよ」

 

 ヤマメとの一件を思い浮かべるが俺はギリギリで難を逃れている。それにヤマメはそれ以上にいいアドバイスをくれた。俺としては感謝している。

 

「ヤマメさんですか....でも良いことも言っているようですし許すとしましょう」

 

「心を読むの強いなぁ。でも本当にいい人だったよ。ここはいい人多くて困るね。外だとどうしても疑って掛かってたからさ」

 

 外の世界は弱肉強食だ。いい人間もいる。だが、それと同じように悪い人間もいる。それに比べて今のところ会った妖怪は大方良い人ばかりだ。同調をしても悪意を感じれない。

 

「その考えはやめた方がいいです。その点はここの世界も変わりません」

 

「まぁ...そうだよね」

 

 悲しくはあるが、言われてみれば当然だ。あまりに希望を持ちすぎた、生物は皆平等に醜くもあり美しい。そして全ての行動には理由があり、目的を果たすために動く。言葉はそれを実行するための道具でしかない。

 

「ただ、この地底の人々はその傾向が少なめです。元々同じような境遇の者が集まっていますから、シンパシーを感じるところがあるのかもしれませんね」

 

「なんにせよ、外の人間よりはずっと綺麗だと思うよ」

 

 同調を繰り返し、辿り着いた答えは外の世界ほどここにいる妖怪たちは酷くないと言うことだ。喧騒も、怒声もその全てが純粋な自らの欲からきていた。

 

「帰ろっか、お風呂入りたくなったよ」

 

「一緒に入ります?」

 

「遠慮したいな....」

 

 おそらく拒否権はないが一応拒否しておく、別に俺はもう女性に性的な感情も抱かないし、俺自身ももう女だ。特に問題はない。だが、元男としてそんなに簡単に女性の裸を見ていいのかという点で問題を感じる。

 

「ならまた一緒に入りましょう」

 

 嬉しそうにさとりが笑う。平和だ。そんなさとりの頭を撫でてみる。すると少し恥ずかしそうにし、一瞬受け入れ、何かに気づいたかのように後ろへ下がった。

 

「私はおねーちゃんですよ」

 

「そうだったね」

 

 可愛らしい姉だ。その後ろからこいしが駆けてきた。彼女もまた恐らく姉ではある。ただ、違いを言うのであればさとりよりも懐っこい。言うなれば犬のようだ。ずるいと言いながら俺に撫でることを要求してくる。それに軽く答えて頭を撫でた後、地霊殿への帰路についた。街の喧騒を後にし、門を開き地霊殿の内部へ、さとりは本当に焦っていたようで門をの錠は閉まっていなかった。俺のことを本当に家族だと思っているようだ。疑っていた訳ではないが、正直無償の愛というのは家族にしか与えないものだと思っていた。いや、だからこそか。俺を家族だと認めたからこそ、これだけ愛をくれるのだろう。

 

「それじゃ、10分後くらいにお風呂で集合しよっか。服とかどうすればいい?」

 

 さとりは少し考えるような素振りをする。

 俺の服は未だにさとりの服だ。何処かで買ってくるかしない限りこの問題は解決しない。それなら今日地上に出たタイミングで買いに行けばよかったなどと考える。紫に持ってこさせるのも手ではあるが、俺の服は性別とこの胸の関係でもう着れない。となると盗む事になる。ただ、盗むと言っても俺はファッションに興味がなかった。これが欲しいと言ったような指定も出来ない。

 

「いいことを考えました」

 

 何かを思いついたようなさとりが名探偵がするようにこちらに指を刺し、

 

「一回、着せ替え人形になって下さい」

 

 と、宣言してきた。着せ替え人形というと何処かから服を持ってきて着せて遊ぶと言うことだろうか。俺は妹がファッションに強かった為、服を買うときは大抵妹に一任していた。それと同じようなものだろう。

 

「いいよ」

 

 二つ返事で許可をする。おかしなことは起きないだろう。恐らくは。

 

「ならそういう感じで行きましょうか。取り敢えず今日はまたお燐に持って来てもらいましょう」

 

 さとりはやけに機嫌がいいようだ。横を通ったペットに何かを告げると犬のペットはワンと一声。廊下を走っていった。

 そんなに人を着せ替え人形にするのは楽しいのだろうかと疑問には思うが、きっと楽しいんだろう。過去に疑問に思って妹に聞いたところ自分とは体つきの違う人に服を着せれるのは楽しいと言っていたような気がする。確かに体の大きさ、性別の違いで着れる服、似合う服は異なってくる。

 

「私も参加して良い?」

 

「良いよ」

 

 こいしも参加表明をしたので当然承認した。さとりはまじめではあるが若干抜けているところがある、不思議な服を選んで来る可能性が無いとも言い切れない。選んでもらう側であるが変な服を着る事になるのは遠慮したい。

 

「取り敢えずお風呂で続きを話そうよ」

 

 話を切り上げて自室へ向かう。もう俺に家族は二つ、優先順位などない。どちらも大切にしないといけない。家族であるから。ただ今は外の家族を蔑ろにしている。ここで一つ疑問が生まれた。どちらかしかとれないのなら俺は何方をとれば良いんだろうか。自分の能力を知っている以上、外ではもうこれまでのようには暮らせない。それ以前に家族は俺の事を忘れているらしい。そして、もしそれを解決できたとして、俺が外に戻ることになれば今度はさとりを置き去りにする事になる。

 二つを取ることは今のところ現実的にできない。どちらかを捨てなければいけない。だが、どちらも捨てたくはない。どうしようもない。今はどうしようもない。ただ、これから先もどうしようもないとは限らない。少しでも可能性があるなら俺は諦めない。恩を受けたのだ、返さなくてはいけない。

 

「よし。どうしようもないことで悩んでも仕方ない。今できる事をしよう」

 

 暗示のように呟く。自室の壁に手を当て、目を閉じて頭の中で反復する。大きく息を吸って、吐く。部屋に置かれていたタオルを取って扉を開くとそこにはすでにこいしが待っていた。

 

「どうしたの?」

 

 返答はないが右手にはメジャーのようなものが握られている。少し嫌な予感がする。刹那、こいしの姿が目の前から消える。どこに消えたのかと周囲を見回すが姿が見えない。続いてするりとメジャーを伸ばす音が聞こえたかと思うとそれが腰に巻き付いた。

 

「こよみちゃんは私とかおねーちゃんよりもおっきいから測らないと服のサイズが分からないんだよね。だから少し我慢してね」

 

「あぁ、そういうことね。急に消えたからびっくりした。」

 

 腕を上げて抵抗せずに体のサイズを測られていく。確かスリーサイズというはずだ。胸、腰、腹部の三種のサイズだっただろうか。ファッションにもあまり興味のなかった上に男であった俺は測られる機会もあまりなかった。まずまず男にスリーサイズなどという概念はあるのだろうか。

 

「ご協力ありがとうございました!」

 

 そんなことを考えていると、どうやら測定は終わったようで、また突然目の前に現れたこいしがお辞儀をする。少しふざけたように丁寧な言葉を使うさまは少し子供っぽく、愛おしい。

 

「どういたしまして」

 

 こちらもにこりと笑って返し、自室の扉を閉め、こいしとともに風呂へと向かう。道中で燐とあったので服の件について説明した後に感謝と、手伝えることがあればやるよという意思を伝えた。さとりとこいしの動きを見る限り、この館の家事全般をこなしているのは燐だろう。これだけ大きな屋敷だ、清掃には膨大な時間が掛かるだろう。それに加えて恐らく調理も担当している。相当な苦労人だ、できることなら手伝いたい。ただ、返答はペットたちの一部が清掃を手伝っているからそこまで大変ではないという事と手伝いたいと思うならペットと遊んでほしいという事だけだった。

 燐と別れ、こいしと風呂へ向かう。すれ違うペット達は皆何かしらの掃除器具を持っていた。

 

「ペットが掃除もしちゃうんだね。見たことないよ」

 

 それぞれのペットがすべてを理解しているように行動し、各々の方法でドアを開け、消えていく。まるで統率の取れた軍隊のようなそれは大方動物のできる動きではなかった。

 

「おねーちゃんが心読めるし、お燐は猫だからね。動物の教育って面だと最強の布陣だよ」

 

 動物は人間と会話することが出来ない、そのために意思疎通が取れない。だから指示を出すことが難しい。だがその課題が克服できれば指示を出すという行為が圧倒的に楽になる。そうなれば人間と同じことは出来ずともできることの範囲は圧倒的に広がるだろう。加えて、さとりの能力は言葉の通じない対象と会話ができるという物ではない。それ以上のものだ、心を読めば声に出さずともその対象の本心がわかる。動物からすれば自分を理解してくれる特別な飼い主だろう。そこいらの飼い主とは圧倒的な差がある。

 

「確かに、最強の布陣だね」

 

「おねーちゃんはあんな感じだけどやる事はするし、結構すごいんだよ」

 

 あんな感じ....とはたまに見せる少し抜けているようなアレだろう。だが、さとりがすごいというのはまだ出会って数日だが同意できる。あまり踏み込んではいけないと思っているが、心を読む能力というは俺の能力と同様の苦しみがあるはずだ。それにこれまでの長い長い時間耐え続け、今もああして生きている。それだけでもすごい以外の言葉が見当たらない。

 

「あの能力生きづらいだろうしね」

 

「そこはこよみちゃんも一緒だけどね」

 

 他人の考えている事、他人の想い。それを感じるというのはとんでもない負荷になる。世の中には知らなくても良いことがある。それらは間違いなくその部類だ。友人が目の前で話しているとしてその発言全ての真偽が分かってしまう。誰も嘘をつかない世界なら問題はないがそんな事はまずあり得ない。加えて相手に能力が知られてしまった場合。友人を作るというのは困難を極めるだろう。誰にも知られたくない事はある。

 

「俺は能力なんて信じてなかったからさ。さとりよりも楽してたよ」

 

「信じてなくても、他人の心がわかる能力を持ってる。それだけで生きるのすごく大変なの。だから、こよみちゃんが今こうして生きてるのも凄いんだよ」

 

 何か思い当たる事があるようでこいしは胸元に浮かぶ彼女のサードアイを撫でる。その瞳はさとりと異なり閉じていた。今思えば彼女の開いているところを見た覚えがない。

 

「....うん。ありがとう。ところでなんだけど、なんで俺の呼び方こよみちゃんになったの?一回こよみおねーちゃんだったと思うんだけど」

 

「私の方が歳も上だもん。こよみちゃんも私のことおねーちゃんって呼んで良いんだよ」

 

 その通りだった。年齢で敵うはずもない。妖怪は人間と比べ途方もない時間を生きているとさとりから聞いた。となればこいしの姉が俺という状況はおかしい。

 

「流石におねーちゃん呼びは遠慮したいな」

 

「そっかぁ」

 

 すごく残念そうな顔をするこいしを見て何か悪いことをしたような感覚に陥るが、おねーちゃんと呼ぶのは避けたい。それではまるで幼女のようだ。俺は女になってしまったが幼女にはなっていない。

 

「2人で楽しそうですね」

 

 談笑をしているうちに、気づけば風呂のある部屋の前まで来ていた。そこではさとりが既に風呂道具をもって待機していた。どうやら少し不機嫌なようだが理由はわからない。3人で風呂場に入り服を脱ぐ、女性の服がわからない俺は脱ぎ方が分からずさとりとこいしの手を借りやっとの事で脱ぐ事ができた。構造が男の物と違いすぎてわからない。

 

「なんであんなに服がつっかえるの?」

 

「知らないよ...」

 

 その後は何事もなかったように体を洗い3人で風呂に浸かった。風呂というには少し大きすぎる気もする上、水が温泉だが。今回はこいしがダイブをしなかった為俺の目が被害を受けていない。石畳の風呂の淵に座り、足湯のようにして座っているとさとりが声を掛けてくる。

 

「ここに来て2日目ですが、気分はどうですか?」

 

「うーん。体調は良くなってるね。身体ってこんなに軽いんだなってビックリしてる」

 

 恐らく外での不健康な生活からここでの健康的な生活に変わったからというのが理由だろうが、そんなすぐに変わる物だろうか。一週間程度経っているならまだしも今はまだ2日だ。変化が早すぎる気もする。

 

「普通の範囲だと思いますよ。ある日突然石が砕けるようになった訳では無いんですから」

 

 冗談混じりにさとりが笑う。それもそうだね。と、こちらも笑う。それを見たこいしがさとりに後ろから抱きつく。

 

「2人で楽しそうだね」

 

 少々不満そうだ。だが、同調した感じではちょっとした冗談らしい。絡んで欲しいだけのようだ。

 

「そういえばこいしって結構地上に行ってるんでしょ?色々教えてよ」

 

「うん!いいよ!」

 

 生き生きと嬉しそうに話すこいしと、それを楽しそうに聞くさとりとこよみ。こいしから伝えられる様々な情報はどれも新鮮で外では経験の出来そうにないものが多い。崖から滝壺に飛び降りたであったり、所々危ないものがあり、さとりに厳重注意をされてはいたがそれでも楽しそうに話すこいしは本当に幸せそうだ。そして俺も幸せだと、感じた。

 俺は昔から他人が心から幸せそうに笑うのが好きだった。ただ、歳をとるにつれて人はその笑顔を見せなくなる。だから俺は大人よりも子供の方が好きだった。だから外では子供と絡む仕事を、塾教師やら家庭教師をしていた。今思えば他人が幸せであれば同調する俺も幸せになるからという自分勝手な理由だったのかもしれない。

 

「それでも幸せを願ったのなら貴方は良い人ですよ」

 

 そんな俺に気づいたのかさとりが耳打ちしてきた。

 

「そんな大層なもんじゃないよ」

 

 苦笑いを浮かべて話を逸らし、こいしの話にもう一度耳を傾ける。

 その後、夢中になり過ぎたのか少しのぼせてしまったこいしをさとりと2人で協力し彼女の自室まで運んだ。

 ベッドにこいしを寝かせ、さとりが頭をなでている。部屋にはあまり帰っていないようで物が無い。ただ、愛用しているのであろう黒い帽子だけが机の上に置かれていた。巻かれている黄色いリボンが良く映えている。

 

「たまにしか帰ってこないんですよ。埃が積もったりしない様に掃除はしているんですけどね」

 

「みたいだね。本当にただお散歩気分なんだろうね」

 

 眠るこいしを眺める。恐らく悪意は無かった。まだ会って間もないが、姉をわざわざ心配させるような事をするタイプではないだろう。では、何故外に出ていくのか。

 

「こいしがこうなったのは私の責任なんですけどね」

 

 突然の告白に驚いてさとりをみる。その手はこいしの開かないサードアイを撫でていた。その目は、心は一層の悲しみを抱えている。

 

「もうあなたも家族ですし。お話しましょうか。私たちに何があったのか」

 

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