過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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墓参り

 結果から先に言うとS.O.N.G.は解散する運びになった。

 厳密には弦十郎が説明義務を果たして全責任を負うため四年前の説明を行う際に、組織として枠組みが残っているとそこで働くスタッフに飛び火する可能性があるため、いったん解散する(雲隠れ)という流れになったのだ。

 翼はそれでも残ろうとしたが、弦十郎はそれを断固拒否をした。

 彼が望んでいるのは彼女が世界を舞台に歌っている事だからだ。彼女の夢を守るのが大人の責任と言って説き伏せた。

 まだ先は確定していないが今度は風鳴の独りよがりにならない新たな枠組みを、そして情報や戦力面での独占のない新たな組織を作るために各方面と慎重な話し合いが進められている。

 装者達やスタッフはそれまで少しだけお休みをしている。

 今は大きな争いが終わって静かになってこそいるがまだ世界は一つにはなれず、いまだに人と人との間にある軋轢によって生まれる不和は解消されていないのだから。

 

 ノーブルレッド達は前の世界と違って殆ど死者こそ出さず、また風鳴機関に利用された形ではあるのだが。パヴァリア光明結社に所属していた、風鳴機関の手下という経歴を持ってしまったため、幹部たちと同じく逮捕されることになった。

 抵抗しようと思えばその場から逃げる事も可能だった。

 それでもしなかった。

 連れていかれるその時でも三人に苦しそうな表情は一つもなかった。

 直前にクリスは、

 

『もし出る事が出来てまた会った時はアタシを頼れよ!少しぐれーなら力になれるからよ!』

 

 そう言って背中を押した。

 ノーブルレッド達にとって外の世界はもう拒絶だけを象徴するものではなくなっていた。

 その言葉を聞いてヴァネッサは無言だったが僅かに首を縦に振って応えた。他の二人も同様に笑顔を見せたのだ。

 きっと彼女たちは大丈夫。

 

 一方で逮捕され拘置所に入れられた風鳴訃堂は年齢相応以上に老け込んでしまっていた。

 齢百年を超えてなお己の中に蓄積され続けていた、先祖代々受け継がれてきた常識が自分の代で途切れる事が確定したのだから、一気に老け込んでしまった。

 彼の目指した国難を防ぐために存在する兵器、防人は未来の日本に受け継がれる事はなくなった。

 

 

『このまま定年まで大きな事件とかなく給料もらえたら万々歳なんだけど……』

 

 それはキャロルがS.O.N.G.の前に現れる直前に、本部の深夜番をしていた際にふとつぶやいた言葉。

 

「フラグ回収っと……」

「そうね……」

 

 藤尭はズルズルとうどんの麺をすすりながらぼやいた。

 今度ばかりは友里も咎めたりツッコんだりしない。今の彼女もバッテリーが切れて緊張感が無くなっているのだ。

 そしてそれを見ながらも目の前に出ている麺類の味を楽しんでいるエルフナイン。

 

 とある都内のうどん屋に入り浸っていたのは藤尭、友里そしてエルフナインだった。

 現在S.O.N.G.が解体され機能停止しているため、やることがないためこうやって都内の飲食店を食べ歩いているのだ。

 ちなみに籍そのものはキチンと国連に残っており、後の復帰も内約されているため国連と政府からちゃんと休職手当や補償的なものは出ているため三食外食でも財布は全く痛まないのだ。

 

「夏前には新体制でスタートする方向だそうですが……」

 

 エルフナインは少し重めであるが弛緩し気味な雰囲気に割り込むように持っていた情報を口にする。

 

「まあそれまでこのグダグダ生活を楽しまないとね」

 

 藤尭はその情報を貰っても特段姿勢を変えることなく応える。

 友里もそれを聞いてうんうんと頷く。

 これまで考え付かないほどの激務だったのだ。ここで時間をただ浪費するような生活を送ったところでバチが当たる事はあるまいて。

 

「…ただ……」

 

 そこですこし視線を下にして申し訳なさそうにする友里。

 何か小さな、それでいて無視することが出来ない棘が刺さっているのだ。

 

「ただ、司令をスケープゴートにしてこうしていいのか…私達は一緒に戦って来たのに卑怯じゃないのかと…思うわ……」

 

 風鳴弦十郎は部下たちからの信頼は厚かった。

 それは彼の悔恨や内包している闇を見たからと言って揺らぐことは無かった。いつだって苦しみながらも進んでいった彼を嫌いになれる者はいなかったのだ。

 部下たちの多くは一緒に残りたい、弦十郎とともにどんな逆風や逆光の中でも戦いたいと申し出る者は沢山いた。

 しかし彼はそれを受け入れなかった。

 責任を取るのは自分の仕事だと全てを撥ね退けたのだ。

 

「奴は許されない決断をいくつもした。何の代償もなく全てが丸く収まるわけがないだろう?」

 

 口を開いたのはキャロルだった。

 彼女はいまだにあの時の決断が正しかったとは思っていない。あそこで訃堂だけでなく弦十郎も確実に手折るべきだったと今も考えている。

 藤尭はその意見に一瞬怯んだがそれでもまとまらない思いを漏らした。

 

「それはっ…そうかもしれない…だけれども…!」

 

 友里もまとまった言葉ではなかったが言いたいことに同意するかのように首を縦に振る。

 これまで逃げて来たツヴァイウイングの一件で発生した、多くの人を悲劇に追い込んだいわれのないバッシングが風鳴や弦十郎に集中しようとしている。

 それは個人で受け止められるものではないのかもしれない。

 それでもこれまで隠して、目を覆って、そして逃げてきたことから、彼は真正面から向き合おうとしているのだ。

 彼、彼女たちに出来るのはただ見守る事だけ。それが風鳴弦十郎の望んだ事なのだ。

 

 

 翼とマリアはステージ上でライブのリハーサルを行っていた。

 ステージ袖には緒川もいた。

 響の襲撃によって中止になったが、多くのファンの望む声と後押しがあったためライブ企画が復活、再び立ち上がったのだ。

 

「…………」

 

 翼はどこか練習に身が入ってなかった。

 マリアはそれを見て最初は心配そうな表情をしたが、いつまでも調子が戻らないのを見て呆れたような顔に早変わりした。

 

「翼……」

「マリア…?…なんっ…!?」

 

 声の主であるマリアの方へと顔を向けるとデコピンをされてしまう。

 不意打ちでデコに衝撃を受けたためかいつもであればさしたるダメージなど受けないのだが、想定外の一撃にうっかり衝撃を受けた場所を手で押さえて痛がってしまう。

 

「いっつ~…な、何をする!」

「どうせ私も責任を負うべきとか思っているんでしょ?」

「うっ……」

 

 相手のむかっ腹が立ったという態度に対してマリアは飄々とした感じで返す。

 相手は図星を突かれた事で言葉に詰まってしまう。先ほどまでの食って掛かって行った勢いを見事に殺されてしまう。

 それを見て少しだけマリアはバツが悪くなる。

 

「…………別に責めたいわけじゃないわよ。だけど後悔や心残りばかり考えて今目の前でやらないといけない事をおざなりにしてはいけないでしょう?」

 

 先ほどの一件は流石に言い過ぎたと思ってはいるのだ。

 その一言に翼は反応してしまう。

 

「すべき事…か…ならば、私はここで歌っていいのか…叔父様が厳しい現実に向き合うというのに私はここでこんなことをしていいのか……」

「こんな事…ね……」

 

 相手の一言にマリアは引っかかる。

 それは聞き捨てならない事を聞いたと。

 

「あなたは歌が好きなんでしょう?ならこのステージを『こんなこと』なんてつまらない言葉で括らないで欲しいわね」

 

 そのマリアのセリフに翼はハッとした。

 大事な事を思い出したのだ。弦十郎が盾になってでも守りたかったそれを。

 翼は若干だが俯いてこそいたがそれでも言葉を紡いだ。

 

「そうだな…納得できない事も…許せない事もある…だが今だけは叔父様の覚悟に報いたい……好きだという気持ちだけは決して忘れてはいけないな……」

 

 そして顔を上げて言う。

 翳りはあったがそれでも気丈そうな表情を作る。

 

「やはり私は歌が好きだ。だから今だけは全力で歌う」

 

 それは間違いなく彼女の本心。

 マリアはその言葉を聞いて少しだけ険の取れたような表情を作る。

 翼もそれにつられて微笑んだ。

 

 

 二月末のリディアン。

 そこで未来と切歌は廊下を歩いていた。

 

「あれクリスどうしたの?」

「およよ?」

「はあ…?あたしゃリディアンの生徒だぞ…いちゃ悪いのかよ…」

 

 放課後の校舎の中で未来と切歌は偶然歩いているクリスを見つけて声をかける。

 それを聞いて相手は半眼で呆れた声をかける。

 

「もう卒業生は式の日までは自由登校デスよ?」

 

 切歌のその指摘に未来はある事に気が付いたようで面白いものを見たという感じの表情を作る。

 

「……ははーん…」

「んだよ……」

 

 どうやらいじられるのを察したのかクリスは不機嫌オーラをまとう。

 切歌は兎も角、そんなプレッシャーに未来が怯むはずもなく切り出す。

 

「クリスってば学校好きすぎだよ」

「うっせえ……」

 

 雪音クリスという少女は学校という場所に平和というシンボルを重ねている節がある。

 もちろん学校が好きなのもあるが、彼女が卒業前に校舎をぶらついているのには別の理由も当然ある。

 

「アイツから聞いた話だとアタシは前の世界じゃ卒業する前に殺されたらしいからな…何となくだけど学校ってのを心の奥深くに刻まないと許されない気がしてな……」

『…………』

 

 クリスの言うアイツというは十中八九響の事を指している。

 その言葉に何を言ったらいいのか二人は分からなくなる。それをしたところで何の意味があるのか分からない。

 ただしきっとこうして雪音クリスが無事に卒業出来る事は響の望んだ未来の一つなのだ。

 少しだけ空気が重たくなる。

 クリスは自分のせいで雰囲気を悪くしたと思って慌てて別の話題を提供する。

 

「あ!そうだ相方はどうしたよ?」

 

 相方とは未来には響、切歌には調の事を指している。

 切歌はクリスの質問が予想外だったのか疑問符を浮かべる。

 

「あれ?聞いてなかったデスか?」

「は…?」

「二人はお墓参りだよ。いや四人かも」

「あ、そうか…そうだったな…」

 

 クリスは焦ってど忘れしているのか疑問符で返してしまう。

 そして未来の一言で完全に思い出したようだ。

 

「そうか…そりゃ…いねえよな」

 

 

 この場所はかつてフィーネが破壊したリディアン校舎跡地の近くにある墓地の一角。そこに響と調はいた。

 響の手にはライターや線香、調は仏花とペットボトルに入った水を持っている。それは墓参りに必要なアイテムたちだった。

 目的は最近になって作られたある人物の墓があり、そこへ墓参りに行く事だった。

 調は無言で水鉢に注いで花を挿した。響は線香に火をつけて備える。

 そして二人は両手を添えて目をつぶり合掌をする。

 無言の空間が辺りを支配する。しかし険悪な雰囲気にはなっていない。ただ静かな優しい沈黙があった。

 

「エンキ……」

 

 口を開いたのは響…ではなくシェム・ハだった。

 かつての仇敵の墓標を前にして彼女は偲んでいた。

 二人を分ける今を生き続ける者と、既に朽ち果てた者の差という明確な違いだけを残して。

 

 この場所はかつてエンキと呼ばれた、人を生み出した者達であり、またバラルの呪詛を発生させたアヌンナキの墓だった。

 この場所には彼の遺体は当然だが眠っていない、ただこの場所は彼を祀る場所として定めたに過ぎない。

 ここにこれがあるのは彼の真意や愛が伝わった証であるのだ。喜んでもらえたら嬉しいとそう思っている。

 

「……………………」

 

 フィーネは目を瞑りながらも眉間にしわを寄せて少しだけ痛みに耐えるような表情で黙とうをささげている。

 それはかつての愛しき人が亡くなった事を全面的に認める行為。

 今までバラルの呪詛を解除して、再びアヌンナキの元へと至ろうとした彼女にとって、世界の真実はとても残酷で耐えきれるものではないはずだ。

 自分の欲望そして野望、その過程で多くの命を殺めすぎた。

 それでも逃げてはいけない。

 人が人らしく生きて欲しい、そしてこれから先も生き続けるであろうフィーネが支配されずに自分らしく生きていける世界を作りたいという一心でエンキが残したのがこの星の姿なのだ。

 それなのにやけっぱちになって投げだすだなんてあり得ないだろう?

 

 響、いやシェム・ハはゆっくりと瞼を開くと言った。

 

「安心して眠れエンキ…これからは我が人類史を見守ってやろう……」

 

 かつて彼女はエンキが必死になってフィーネという高々人間の巫女一人に強く執着した理由が理解できなかった。

 あの時戦った彼はシェム・ハを止めたいだけでなく、フィーネを守りたい気持ちも乗っていた。

 自分の溢れ出る野望や力だけを脅威に思ったのであれば理解できるが、人類の為にここまで身を削ってでも彼女を滅ぼそうとしたことは理解できない。

彼女にとっての人間など体のいい己の強化ツールでしかないのだから。

 だが響の体の中に長らく潜伏する中で人が必死に生きる姿を見て、少しだけだが彼の気持ちが理解できるようになったのだ。

 だからこそもう少しだけ世界を見て自分は心変わりをした、そしてさせるに至った人間の美しさをもっと知りたいと思う。

 ふと横眼で隣にいる人間を見るとフィーネが辛そうな顔をしていた。

 何故そのような顔をするのか、それが理解できないほど彼女は無知ではなかった。

 

「安心しろエンキ。人類に未来を生きる価値が無いのであれば我が再びこの星の支配者となろう」

「させないわ」

 

 シェム・ハのそのセリフにすぐさまフィーネは反応した。

 彼女の先ほどまでの気落ちした態度はすぐに消えてなくなった。そこには戦意に満ちた瞳があった。

 

「あの方が残した世界を守る事だけが私に残された…」

 

 彼女にとって人が人らしく生きられる世界だけが愛しき人に残してもらった遺産なのだ。

 今はまだそれを守る事しか頭にない。今はまだだが、それでも生きる希望がないよりはましだった。

 

「そうか、ならばやってみせろ」

 

 一方で言われた相手は元気付ける事に成功したのを確信し、そう言い残して体の中に引っ込んでいった。

 フィーネもまた相手に乗せられてしまったのに気が付いて舌打ちをし、そして引っ込んだ。

 響は気まずい沈黙の中口を開く。

 

「…………帰ろっか調ちゃん」

「……うん」

 

 響と調、二人は先ほどまで体の中にいる同居人がバチバチとやりあっていたので少しだけ肩身が狭い思いをする。

 今すぐに殺し合うわけでは無いものの、二人の間にある溝は一朝一夕に埋められるものではない。体の主同士は仲が悪いわけでは無いのが中々に難儀な問題だった。

 二人はやる事を終えて帰りの途へついて行った。

 

 墓地から出ていくときもう一度響は足を止めて振り返る。

 これが響の望んだすべてが丸く収まる結末ではなかったのかもしれない。

 結果として弦十郎が自分で決めた事とはいえ生贄になってしまったのだ。それは彼女が望んだ罪滅ぼしではなかった。

 しかし一方でフィーネやキャロル、それにパヴァリア光明結社の幹部たちやノーブルレッド達が一人もかけずに生きているという、もうそれは奇跡にも等しい選択肢を結果として選び取った事になる。

 何よりもシェム・ハが味方になっているという前の世界の自分に言っても信じてはもらえないであろうサプライズ付きだった。

 

 決して全ての人達が手を取り合う事の出来る世界ではない。

 世界はいまだにバラルの呪詛による不和が蔓延しており、危険な因子はいまだにこの世のどこかでくすぶっている状態だ。

 そう遠くない未来にまた人と人とが争う事が起きるのだろう。その時シンフォギア装者は再びそれをまとって戦場に出る事になる。

 だけどどんなに絶望にさらされても人はきっと前に進んでいける、分かり合えると信じる。

 人が今日まで理解し合えない呪いの中でも生き残ってきたのは、それでも理解したいという願いを力に変えて今日まで何度膝を付こうとも諦めずに這い上がってきたからなのだ。

 

「へいきへっちゃらだよね」

 

 これまで口にしなかったどんな困難に直面したとしても、父に伝えられた己を勇気づけるその一言を残して、その場から去って行った。

 

 そして立花響はこのリビルドされた世界を歩んでいく。




最終回はエンキの墓参りにするか、それともクリスの卒業式イベントのどちらにするのか長い事悩んだ末の墓参りエンド
そうです今回で最終回です、ありがとうございました
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