過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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引きずったっていいじゃない

『ねぇ、そういえば未来とクリスちゃんって前から知り合いだったんだよね?いつ知り合ったの?私気になるな~』

『あぁそれはね響とギクシャクして顔を会わせるが辛くて、早めに寮を出たあの雨の日にね―』

『うわあああっ!言うなあああっ!』

 

 

 クリスがフィーネに見捨てられて命からがら逃げた具体的な日にちは歴史が変わっている可能性も視野に入れ、着替えを片手に街中を散策する響。陽だまりがいないこの世界では響がやるしかない。

 幸いにも(不幸にも)雨の日、路地裏でずぶ濡れボロ雑巾になっているクリスの姿を発見した。すぐさま彼女に駆け寄り保護する。

 

 

 ぴりりり……。弦十郎から連絡が来る。

 

「おはようございます。前にも伝えた通り最近は用事が立て込んでるので朝のランニングは中止させて欲しいんですが……」

『そうではない。緊急連絡だ』

 

 真面目な口調に響も気が引き締まる。

 

「……もしかしてノイズですか?もしくはテログループですか?」

『ノイズだ。市街地第6区域にノイズのパターンを検知している。未明という事もあり人的被害が無かったことが救いではあるのだが……ノイズの反応と共に聖遺物イチイバルのパターンも検知したんだ』

 

 緊急連絡と聞いて自身の中で想定できるケースを羅列する響。相手から現状報告が返ってくる。ノイズとイチイバルの検知と聞いて響は息を飲む。

 

「ッ…つまりクリスちゃんがノイズと戦った……って事なんですか?でもどうして……」

『それは分からない、この件についてはこちらで引き続き調査を続ける。一応響君の耳に入れておきたくてな。無いとは思いたいが響君には指示が出るまで待機して欲しい』

「はいわかりました」

 

 何が起きたのか分からないといった感じで返す。相手からは今後の行動方針を伝えられる。

 通話が切れる。ふぅ…と溜息とともに緊張の糸が切れる。

 

「タヌキだなお前……」

「結構な名演技だと思うんだけど」

 

 クリスが布団で横になりながらそう言う。

 ここはお好み焼き屋ふらわーの一室。先ほどの会話はクリスにも弦十郎の声が聞こえるように設定していた。

 ちなみにクリスの装いは体操服一丁だ。未来がそうしたと聞いたし、なによりしっかりとした寝巻を用意するとあからさまに不審がられる可能性を考慮したからだ。響がクリスを保護すること自体が不審なのだが。あと胸がパッツンパッツン、これだから胸囲お化けは……

 

「響ちゃん?どう?お友達の具合は?」

「さっき目が覚めたところです。すみません突然押しかけて部屋と布団を貸してもらって……」

「気にしなくていいんだよ。あっあなたのお洋服洗濯しておいたから」

「あ、干すの手伝います」

 

 クリスはこのやり取りに戸惑う。ここには無償の優しさがあふれているからだ。

 

 干し終わるとクリスの体を濡れタオルで拭いて借りた救急セットで治療を始める。体に残るあざが痛々しい。

 

「聞かないんだな……どうしてノイズに追われてたのかとか……フィーネの居場所とか……」

「聞きたいけど、聞いてほしいの?」

「…………」

 

 フィーネの居場所以外響は知ってるのだが。

 クリスは黙り込む。そして再度口を開く。

 

「何でここまでするんだ?あたしはあの時お前を……」

 

 クリスは俯いて尻すぼみになりながらも問いかける。お互いの脳裏に浮かぶのはあの血溜まりのあの日の夜の記憶。

 

「自分がそうしたいからってのもあるけど……私の…私の親友ならこうすると思ったから……」

 

 クリスの問いに響の胸がチクリと痛む。

 

「良い奴なんだなお前のその親友って奴は……」

「……そうだね……ありがとう良い奴って言ってくれて」

 

 クリスの優しそうな声音が嬉しくもある。あんなに酷い事をしたのにまだ親友だと思いたい気持ちもあるからだ。

 しかしもう親友ではない。あの日の未来の顔が今でも脳裏に焼き付いている。

 治療が終わり服も乾く。クリスはここから立ち去ろうとする。

 

「あ、そうだ。良かったら友達にならない?」

「はぁ?」

「友達いないんでしょ?」

「ストレートにえぐってくるな!」

「私が一号になってあげる。クリスちゃんの友達処女はいただきだー」

「し、しょ、しょー!処女なんてッ!乙女がそんな事言うな!」

 

 純情クリスちゃん。普段の言動といい服装といい羞恥ポイントがよく分からん娘だった。

 ふざけていると(一方的)すると―ウウウウゥゥゥゥゥゥッ!

 ノイズ警報が街中に鳴り響く。2課の情報に精通している了子がクリスは死んでないのを確認しているため、再び刺客を放ったのだ。

 直後、複数人で会話できるアプリで連絡が来る。端末も盗聴や逆探知を防げる2課特製の優れものなのだが、了子が真犯人なためあまり効果をなしてないのが残念なポイントだ。

 

『翼です』

「師匠これは……」

『ノイズを検知した。相当な数だ。恐らくは未明に感知されたノイズと関連があるはずだ』

「分かりました今すぐに出ま―」

『だめだ。病み上がりの響君は避難するように。翼頼む』

「-せん。分かりました……」

『了解しました』

 

 ぴしゃりと叱られたのち、響はクリスと共にふらわーを出る。先ほどの会話はクリスに聞こえるように設定していない。クリスは叫びながら逃げ惑う人々を見て困惑している。

 

「おい……いったい何の騒ぎだ?」

「え……?知らないの?」

 

 クリスのこれは何事だという反応これには響も本気でびっくりした。クリスの半生はある程度把握しているが警報と避難の事を知らなかったとは。

 同時になるほど……とも思う。ソロモンの杖関連で強い責任感と自責の念を感じていたのはそういう事かと。彼女は何も知らずに騙されてソロモンの杖を起動させられてしまったのだ。

 

「ノイズの警戒警報だよ」

「ッ……」

 

 響が口にする真実を知って顔をしかめるクリス。

 ここに来てやっと自分が起動させたソロモンの杖が起こす災厄がどれほどの人達を苦しめているのかを。

 

「クリスちゃんもおばちゃんも早く逃げよう」

 

 響は2人を避難所に送ったら命令無視でシンフォギアをまとうつもりでそう提案する。お好み焼き屋の店主は素直にうなずく。しかし、直後避難する人の流れに逆行してクリスが走り出す。

 

「ちょっと!?」

 

 響が驚いた声を出す。

 人の流れに逆らって走りながら彼女の中にはじくじたる思いがあった。

(バカが!私ってば何やらかしてんだ!)

 

 

 人通りのなくなった商店街をひた走るクリス。先ほどまで賑やかだった町。なのに今はまるで自分だけ切り取られ、無人の場所に張り付けられたような圧倒的な孤独感。

 商店街を走り抜けて出ると、彼女は膝を着き涙を流す。

 

「あたしのせいで関係のない奴らまで……私がしたかったのはこんな事じゃない……けどいつだって私のやる事は……いつもいつもいつもおっ!」

 

 自分の行いの罪深さに気が付いて懺悔をする。もう既に行ってしまった罪は取り返しがつかない。ノイズによって亡くなった人は戻らない、生活する場所を奪われたものは戻らない。それが直感として理解が出来るからこそ彼女は苦しんでいる。

彼女がふと周りを見るとノイズたちに取り囲まれる。それを認めると立ち上がる。

 

「あたしはここだ……関係ない奴のとこに行くんじゃねぇ!」

 

 ノイズ達は自分を狙ってくる、せめて自分を狙えと狙うなら自分だろうと叫ぶ。敵は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

 

『Killter Ichai ゲホッ!』

 

 ずぶ濡れになったため体調が万全ではない。聖詠の詠唱中にせき込んでしまう。その隙を敵たちが逃してくれるはずが無く。絶体絶命に陥るクリス。しかし、

 

「ふんっ!」

 

 そんな掛け声とともに地面を蹴りつける弦十郎。するとコンクリートが剥がれて壁が出来る。ノイズたちは即席の防御壁にぶつかっていく。一瞬できたその隙にクリスを抱えて逃げる。

 

「大丈夫か?」

 

 クリスを抱えて建物の屋上に逃げるがすぐさま追手が来る。

時間は出来た。次は間違えない、

 

『Killter Ichaival tron』

 

 ギアをまとうと手にボウガンを生み出して飛行しているノイズ達を撃ち落としていく。

 

「ごらんの通りさ。あたしの事はいいから他の奴らの救助に向かいな」

「だが……」

 

 クリスの提案に苦い顔をする弦十郎。ノイズを相手に出来ないのにそれでも子供に危険なことをさせる事に責任感と自責を感じている。

 

「こいつらはあたしがまとめて相手にしてやるって言ってんだよっ」

 

 そう言い残すとクリスはノイズ達に向かって突貫していく。

 戦場に向かっていく彼女を見て思う。

 

(俺は……またあの子を救えないのか?)

 

 

 前回、未来はふらわーの女店主と廃墟に避難させたが、響はキッチリと安全なシェルターまで連れて行った。

 

 その後、街中にはびこるノイズを殲滅していたらいつの間にか夕方になっていた。

 

―そういえばこの夕日をバックに仲直りしたっけ……

 

 もう戻らない。既に失われてしまった大切なもの。夕日は懐かしさの象徴だ。

 

 その後、響は2課の人が事後処理をしている現場にいた。こってりと弦十郎に叱られましたとさ。

 すると車のけたたましい音が。櫻井了子だ。

 

「主役は遅れて登場よ。さってぇどこから片付けましょうかしらねっ」

 

 周りは了子の性格を知っているので、はぁやれやれだが、しかし響だけは緊張感を残していた。大した胆力だと素直に感心もしている。

 

 

 2課基地内の自動販売機前(無料)でジュースを飲んでいる響。ここなら無料で飲めるため愛用しているのだ。お金は持っているくせに実にケチ臭い。

 彼女も怪我もほぼ完治して最終決戦に向けて準備は万端だ。

 響が座っていると、たまたま2課で検査とギアのメンテナンスに来ていた翼と緒川、了子3名とエンカウントする。ちなみに響は検査もメンテナンスも受けていない、危険なのは承知の上だ。一切メンテナンスをしないスポーツカーが高い確率でクラッシュするように、危険な橋を渡っているのだが致し方ない。

 

「あら響ちゃんじゃない、いいわねぇここには女子が揃ってるし?ガールズトークでもしちゃう?」

「どっから突っ込むべきか迷いますが……取り合えず僕を無視しないでください……」

 

 了子の提案。しかし緒川の突っ込みなど何のその、無視して話し合いは続く。

 

「……了子さんもそういうの興味あるんですね……」

「モチのロン!私のコイバナ百物語を聞いたら夜眠れなくなるわよ?」

(まぁ知ってるけど……)

 

 響の意外そうな口調。了子が自慢げにかつ楽しそうに話す。

 神様に恋をしてフラれた(と思い込んでいる)のち、月を破壊しようとしている大恋愛真っ最中なのだこの年増は。

 

「へぇ……どんな話なんですか?」

「遠い昔の話になるわね……」

 

 了子の問への返しに響はつい「何千年前の話ですか?」と言いそうになる。

 

「こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから……」

 

 うっとりしている了子。

 好きな男の為に天にそびえたつ塔と建てようとして、失敗したら月を破壊しようとするのだから呆れるしかない。むろん響はそれを口にはしない。

 

「おー…………」

「意外でした。櫻井女史は恋というより研究一筋であると」

「命短し恋せよ乙女って言うじゃない?それに女の子の恋するパワーってすんごいんだから!」

 

 響と翼は若干のトリップに入る了子を見て珍しいものを見たという反応をする。

 響は改めて櫻井了子の執念を感じた。彼女を死ぬ間際ではなく生きている間に考えを改めさせるのはほぼ不可能に近いが、それでもやらなくてはいけない。

 

 何故なら彼女はアヌンナキ達と直に接触している可能性が高いからだ。

 彼女が生きていればシェム・ハへの対抗策を授けてくれる可能性もある。もしかしたら未来に起きる事を話せない響の症状、または呪いを解除できる可能性があるのだ。

 勿論響は了子を助けたい善意で動いているが、ほんのちょびっと打算が働いていてもバチは当たるまい。

 

「私が聖遺物の研究を始めたのもそもそも……」

『そもそも?』

「あ、ま、まぁ私も忙しいからここで油を売ってられないわっ」

 

 余計なことを口走ろうとするが、突如早口になって話を切る。好きなことを話してるとつい饒舌になるところは普通の人も先史文明期の巫女も変わらない。

 

 その場からそそくさと逃げる了子。

(らしくない事言っちゃったかもね……変わったのか、それとも変えられたのか……)

 櫻井了子として生きる中で、真っ直ぐで気持ちが良すぎる連中にあてられたに違いない。

 

 

 雨の中傘をさしてレンタルした映画を入れた袋とコンビニ袋を持ってあるく弦十郎。諜報部の調査では目の前にある廃マンションに雪音クリスがいるからだ。

 この辺一帯はノイズの被害で建物や道路が破損しており、水道や電気も通っていない。しかし雨風だけは防げるのだ。

 

 雪音クリスは毛布をかぶり寒さを凌いでいた。常に追っ手を警戒しなくてはいけないため神経をだいぶすり減らしている。すると、

 ガチャ…開錠の音に彼女は飛び起きて警戒を強める。するとクリスのいる部屋につながるドアからぐいっとコンビニの袋を持った手が出てくる。敵対する意思はありませんよと言う行動表示。

 

「ほらよ」

 

 ズカズカと部屋に入り込む弦十郎。部屋に入り振り返ると、

 

「応援は連れてきていない、俺一人だ」

 

 クリスは警戒を解かないが、弦十郎は連れ去る気も何かを強制する気はないとその場に胡坐をかく。

 

「君の保護を命じられたのはもう俺一人になってしまったがな」

「どうしてここが?」

 

 彼の自分の行動の切っ掛けを語るが、それを無視してクリスはこの場所をどうやって知ったと疑問をぶつける。

 

「元公安でね…慣れた仕事さ。ほら、差し入れだ」

 

 答えたのちに食べ物の差し入れを渡す。

 ぐううぅぅ……情けない空腹音がクリスの腹から鳴る。自分の体が素直過ぎて。キッっと睨んで恥ずかしさを誤魔化す。弦十郎は袋からあんパンを取り出し毒味をして差し出す。それを素早くぶんどり食べ始める。人は空腹には勝てない。

 弦十郎は話し始める。調べ上げたクリスの半生を。

 

 バイオリニストの父、雪音雅律と声楽家のソネット・M・ユキネとの間に生まれた音楽界のサラブレッド。

 8年前の幼少期に両親が難民救済のNGO活動中に戦渦に巻き込まれ失う。そして行方不明。

 その6年後に国連軍のバルベルデ介入により現地の組織に囚われていた一人娘は発見され事態は急転する。その後日本に移送されることになった。

 

 話しながらも袋から取り出した牛乳パックに口を付けて毒味をし差し出す。クリスは受け取りながら、

 

「ふん……よく調べているじゃねぇか……そういう詮索反吐が出る」

「当時の俺たちは適合者を探すために音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引受先として手を挙げたのさ」

 

 相手が自分の過去と家族関係をしっかりと調べ上げていた、それに対して苛立って答える。それに対して弦十郎はそれを行った理由を語る。

 クリスはそれを聞いて黙って牛乳を飲んで視線で話を促す。

 

「ところが少女は帰国直後に消息不明……俺達も慌てたよ……2課からも相当数の人員が駆り出されたが、この件に関わった多くの者が死亡、または行方不明という最悪な結末で幕を引くことになった」

「何がしたいおっさん!!」

 

 弦十郎の長々とした説明に自ら説明を求めたのにクリスは苛立つ。何を言いたいのかは薄々分かってはいるのだ。

 

「俺がやりたいのは君を救いだすことだ」

「!?」

 

 あまりにもストレート過ぎる答えに素直に驚くクリス。

 

「引き受けた仕事をやり遂げるのは大人の務めだからな」

「あ、ははっ…大人の務めと来たか…」

 

 クリスの皮肉気な笑いをぶつけられても弦十郎の相貌に揺らぎは生まれない。

 

「余計なこと以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうにぃっ!!」

 

 そう言って紙パックを投げ捨て、ガラスを割って建物の外に飛び出す。

 

『Killter Ichaival tron』

 

 ギアをまとい逃走を図る。

 

 

 了子が立ち去った後、緒川が話し出す。

 

「あ、そういえば翼さん、スケジュールは確保しましたよ」

「すいません無理を言ってしまって……」

「いえ、たまには翼さんも気晴らしに外に出てください」

「ほえ?なんかあるんですか?」

 

 2人の会話についていけなくなり言葉を挟む。

 

「立花!あなた自分で言った事を忘れたの!?」

「ヒィッ!」

 

 翼の剣幕にすくみ上る響。

 甦れ過去の記憶。そうあれは病院屋上でのこと、

 

 

『翼さん最後にちょっとお願いがあるんですけど……良かったらでいいんですが時間が空いてるなら遊びに行きませんか?』

『え……』

『フランクな感じだとデートですね、はい』

『で、デート……か、私と言ってもつまらないぞ』

『つまらないかどうかは翼さんじゃなくて私が決めます』

 

 

「あ、覚えててくれたんですね」

「あなたは忘れていたようね……」

 

 今思い出しましたという態度に呆れられてしまう。

 

 

 待ち合わせ場所に10分前に着くようにスケジュールを立てる響。生活習慣を改善させたニュー響は遅刻などしないのだ!自分でも思ってたよりも楽しみにしていたのか足が速く動いて20分前に着いたのだが既に翼はそこにいた。バッチリ服装を決めていて楽しみにしていたのが丸わかりだ。

 

「おーい!待たせましたかー?自分で言うのもなんですが早いですね」

「立花もじゃないか」

「あははそうですね、じゃあ行きましょうか!」

 

 響の軽口に返答する翼。この場には険悪な雰囲気は無い。

 

 最初は映画館で映画鑑賞なのだが、翼が見たいといった「HAPPY LOVE」という映画は前の世界でも見たため、今日が初めてではない、つまらなくは無いのだが内容を知ってるので先の読めないハラハラする感覚は味わえない。翼は涙を流して感動していたので良いとする。

 

 アイスクリームを片手にウインドウショッピングや洋服をお互いに選んで買ったりする。翼は有名人なため人目を気にしながらなのだが、なんかSPをしてる気分が楽しめて結構楽しかったりする。

 

「む……?」

「どうしましたか?」

 

 するとふと翼がゲーセンコーナーにあるUFOキャッチャーに視線を向けているので、「入りましょう!」と声をかける。女性層を意識しているのか明るい空間になっている。

 

「翼さんご所望のぬいぐるみはこの立花響が必ずや手に入れて見せま……す……」

「立花どうした?」

 

 活きのいい声を出していた響が突如尻すぼみになったのを見て翼が声をかける。分かりやすすぎた。

 

「いやー何でもないですよ」

「そうは見えないが、何かあるなら話してみたらどうだ?」

「……やっぱりわかりますよね」

 

 しかしバレているのに誤魔化そうとするが、翼に突っ込まれてしまう。響は流石に諦める、もう誤魔化せないなと。

 響はクレーンを操作しながら誤魔化そうとした事を話す。

 

「昔……ほんとに遠い昔……一番の親友とこうやってゲーセンで遊んでたんです」

 

 脳裏に浮かぶのは幸せな記憶の1つ。

 

 

『翼さんご所望のぬいぐるみはこの立花響が必ずや手に入れて見せます!』

『期待はしているがたかが遊戯に少しつぎ込みすぎではないか?』

『キエエエエエッ!?』

『変な声出さないで!』

 

 

 そうやってる間にぬいぐるみをキャッチャーが掴む。

 

「本当に酷い別れ方でもう二度と会う事は無いですけど……それでも楽しかった思い出は本物でかけがえのないモノなんです……」

 

 ぬいぐるみは前と違い見事に取れた。

 響はふと気が付いた。自分がこうやって遊びに誘った理由を。ただ前の世界と同じように遊びたい、それだけではなかったのだ。今頃になって気が付くとは。

 すると翼は心配そうな視線を送る。

 

「えっ?どうしました?」

「たとえ星となってもその友は不滅だ」

「ごめんなさい!意味深な文脈で!彼女は存命です!」

 

 響はその視線に驚く、なぜそんな顔をするのかと。すると翼はこれまでの意味深すぎる言い回しに悲痛そうな顔をするがすぐさま誤解を解きに行く。

 その後カラオケで翼の演歌披露などのイベントを消化していく。

 

 

 夕刻、夕焼けが見えるスポットに誘う。最後のイベントだ。

 翼は鍛えているとはいえ慣れない事の連続で精神的に疲れている。

 

「疲れましたか?やっぱり慣れない事をすると緊張しますよね」

「防人であるこの身は常に戦場にあったからな……」

 

 彼女を見て響は声をかける。翼は感慨深そうにそう言ってあたりを見渡す。今日あった事を思い出しているのだろう。

 

「本当に今日は知らない世界ばかりを見てきた気分だ……」

「そんなことはありあません。だって」

 

 響にあっさりと言われ目を丸くする翼。

響は彼女の手を引いて夕焼けと街並みが良く見える場所に連れて行く。

 

「今日回った場所は翼さんがシンフォギアで頑張って守ってきたものなんですから」

 

 街を見せてそう言う。

 今までノイズを倒さなくては、そして風鳴の使命で忘れていた。人々の命と生活を守っていたことを。

 

「それに、それにです。今日分かったんです。なんで私が翼さんと外に出たかったのか、何を伝えたかったのか」

「立花?」

 

 響は今日あった事で新しく得たものを今翼にぶつけようと覚悟を決めた。覚悟を決めた表情に怪訝そうな声を出す。

 正面から向き合い、一呼吸入れて言う。

 

「翼さんは私を受け入れると奏さんとの思い出が上書きされるかもしれないのが怖いんですよね?ガングニールは天羽奏さんの力の象徴だから」

 

 響の物言いに、さっきまでとは違い翼の表情が凍る。

 

「奏さんはもう亡くなっていて新しい思い出は出来ません。だからもう奏さんは人の思い出の中でしか存在しないですから」

「あぁ……」

 

 言われて翼はやっと気が付いた。最初に感じた響への拒否感の正体を。理屈では説明できない、どこまでもわがままで自分勝手な感情を。

 

「そうだったのか……だから私は立花を…………」

 

 翼は俯いてポツリと言う。

 この場には苦しい沈黙がある。しかし、

 

「だから私に奏さんとの思い出を話してくれませんか?」

「…………え?」

 

 彼女からの突然すぎる提案に顔を上げる翼。

 

「私思い出したんです…親友との別れは悲しかったです、でも別れた事ばかり考えてたら辛いです。確かにあったんです楽しかった日々が。翼さんの中にある奏さんは楽しそうな表情を一切してなかったですか?」

 

 響からの問いかけ。

 未来との別れ、それには二つの意味がある。

 翼は気が付いた。響の前でだと戦場の奏か、彼女が死んだことばかり考えていた事に。

 

「私も奏さんの事を覚えています。そうすれば翼さんが忘れそうになっても私が教える事が出来ます」

 

 最後に笑顔で、

 

「これから先、翼さんの傍にはたくさんの支えてくれる人がきっと現れます。その人達を恐れないで……」

「ありがとう……本当にありがとう立花…………」

 

 響の懇願にただ感謝を述べる。

 その後、日が暮れても2人はずっと話し合った。天羽奏との楽しかった日々のことを。

 

 

「これってライブのチケットですか?」

「10日後のアーティストフェスに出る事になったんだ」

 

 響は翼に学校の屋上へと呼ばれていた。

 前の世界では怪我からの復帰ライブだった。

 チケットの裏側を見ると、そこには2年前に起きたあの忌まわしい事件が起きた会場と同じ場所が。翼は響の思考に目ざとく気が付き、

 

「立花にとって辛い思い出の会場だな……」

「確かにあの場所には辛い事が山ほどありました。でも覚えてますツヴァイウィングのお二人のあのライブを。行くまでツヴァイウィングどころか歌手すら大して興味がなかった私でも楽しかったです。辛い事だけを気にしてたらそれこそダメですから」

 

 翼は分かっていたのか申し訳なさそうな声をだすが、相手はそれを辛いだけではなく楽しかったこともあったのだと返す。

 響の主観では6年前の出来事だがそれでもあのライブの熱狂は今でも覚えている。

 

 

「リハーサルいい感じでしたね」

「ありがとうございます」

 

 緒川と翼がそんな何でもない会話をしていると。

 パチパチパチ…どこからか拍手が鳴る。

 

「トニーグレイザー氏!」

 

 緒川は前方から歩いてくる男性の名前を呼ぶ。そして翼に誰なのか説明をする。

 

「メトロミュージックのプロデューサーです。以前翼さんの海外進出展開を持ち掛けてきた」

「なかなか首を縦に振ってくれないので…直接交渉させていただきに来ましたよ」

 

 相手はここに来た目的を話す。海外プロデューサーという事は彼女の歌に注目してスカウトに来たという事だ。

 

「ミスターグレイザーその件については正式に―」

 

 すると翼がスッっと手を上げて緒川を止める。

 

「翼さん!」

 

 止められて驚く緒川。翼は頼りになる後輩の言葉を思い出していた。

 

『これから先、翼さんの傍にはたくさんの支えてくれる人がきっと現れます。その人達を恐れないで……』

 

「もう少し時間をいただけませんか?」

「つまり考えが変わりつつあると?」

「…………」

 

 相手の問答に翼は視線のみで肯定の意を送った。

 

「そうですね……今の君が出す答えであればぜひ聞かせていただきたい。今日のライブ楽しみにしているよ」

 

 

 響は一旦寮に帰ってから着替えて余裕をもってライブ会場に到着していた。無駄になる可能性はあったが万が一にもノイズが出てこない可能性があるからだ。

 すると懐に入れていた携帯電話が鳴る。

 

「はい響です」

『ノイズの出現パターンを検知した。翼にもこれから連絡を』

「いえ現場には私一人でお願いします。今日の翼さんは自分の戦いに臨んで欲しいんです」

 

 響は知っている。あの会場には海外のプロデューサーがいて海外進出の話を持ち掛けられている事を。なので弦十郎の提案を拒否する。

 

「あの会場で最後まで歌い切って欲しいんです」

 

 響のその言葉に弦十郎は安心したような表情と声をする。

 

『やれるのか?』

「はい!」

 

 

 場所は海沿いの倉庫地帯。普段は静観な場所であるはずのそこは不似合いな爆撃音が炸裂していた。

 クリスがありったけの弾薬をノイズ達にぶつけていた。

 雑魚散らしをする一方的な光景だが、一体だけやけに巨大で遠距離攻撃用の砲台を持つ個体が存在した。彼女はそれに苦戦していた。周りのノイズが守るのだから自分一人では手が足りない。すると砲撃が掠めて怯む。倒れていると彼女を狙う砲弾。当たると思い目を閉じるが当たらない。目を開けると響が砲弾を叩き落としていた。

 

「お前どうして……」

「今は敵を倒すことに集中!」

 

 相手の問いにそう言うと雑魚ノイズに突っ込んでいく響。響が変幻自在に動き回り、通った場所はノイズが吹き飛ばされていく。響を遠距離から攻撃しようとする輩はクリスが倒していく。

 

「クリスちゃん!大きい奴を倒すから手伝って!」

 

 響は右手にエネルギーを集中させて突っ込んでいく。守ろうとするノイズはクリスがミサイルと弾丸が吹き飛ばしていく。

 

「あああああッ!!」

 

 その一撃は敵の大将を吹き飛ばした。

 歌姫がステージで舞うなか戦いは終わる。

 

 

「ありがとう皆!今日は思いっきり歌を歌って!気持ちよかった!」

 

 一度お辞儀をして言葉を続ける。

 

「こんな思いは久しぶりっ。忘れていた……でも思い出した!私はっこんなにも歌が好きだったんだ!聞いてくれるみんなの前で歌うのがっ大好きなんだ!」

 

 忘れていた。いつの間にか歌うのはシンフォギアの起動のため、そして同じ装者候補を見つけるためリディアンの広告塔のために歌っていた。それは間違ってない。でも違う、それだけでは決して無い、昔は単純に歌うのが好きで仕方なかったのだ。

 翼の不安を示すかのように、口元近くにあったマイクが少し離れる。己の自身の無さを象徴するかのように。そして言う。

 

「もう知ってるかもしれないけど……海の向こうで歌ってみないかってオファーが来ている。自分が何のために歌ってたのかずっと迷ってたんだけど……今の私はもっとたくさんの人に歌を聞いてもらいたいと思っている。言葉が通じなくても歌で伝えられる事があるならば世界中の人達に私の歌を来てもらいたい!」

 

 彼女の言葉に会場が湧き上がる。

 

「私の歌が誰かの助けになると信じてみんなに向けて歌い続けてきた……だけどこれからはみんなの中に自分も加えて歌っていきたい!」

 

 会場が静まり返る。冷めているのではなく一言一句風鳴翼の言葉を聞き逃さないという意思表示。

 

「だって私はっこんなにも歌が好きなのだから!たった一つの我儘だから聞いてほしい」

 

 そして最後に、

 

「許してほしい」

『許すさ。当たり前だろう?』

 

 親友の声が聞こえた気がした。

 観客席から帰ってくるのはあの日の悲鳴とは違い、力いっぱいの声援の嵐。翼にはその声1つ1つがビリビリと伝わってくる。

 彼女はあの日以来の涙を流した。それは悲しさとは無縁のものだった。

 

 

 ステージが熱狂で埋め尽くされる中、無人となっているロビー。

 そこにグレイザーはいた。緒川は声をかける。

 

「ミスターグレイザー!」

「ん?君か……少し早いが引き揚げさせてもらうよ。これから忙しくなりそうだからね」

 

 緒川は言葉の真意を読み取り頭を下げる。

 

「風鳴翼の夢をお願い致します!」

 

 

 ガシャン!苛立ったクリスは路地裏にあったポリバケツを蹴り飛ばした。

 

「あいつは敵だぞ……なのにどうして助けちまった……?」

 

 そんなの分かりきってる。響はフィーネのように上から目線で命令をするのではなく、同じ場所で同じ景色を見て共に歩こうとする人間だからだ。誰よりも先に身を切るからほっとけないのだ。だから自然と協力をしてしまうのだ。

 

「ちくしょう……フィーネ……ちくしょぉ……」

 

 クリスはその事実にまだ気が付かない。

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