過去に戻った立花響   作:高町廻ル

14 / 106
不公平ではないか?

 リディアン校舎を襲うノイズ達、あらゆる攻撃を防ぐそれはその場にいた軍隊たちを蹂躙する。銃火器では話にならない。

 学校にいる生徒たちは避難の手順こそ手慣れているが、実際にノイズを見たことが無ければ、実際にノイズによって命を散らす人など見たことがないのだ。だからこそパニックになっている。しかし、2課の構成員の必死な誘導で何とか持っている。

 緒川はリディアンに到着したが混乱極まる状況に歯噛みする。彼は1つの真実にたどり着き何が何でも伝えなければいけない使命を掲げていた。

 ノイズ達の群れをかわして2課本部に入るためのエレベーターに乗り込む。そして本部に電話をかける。

 

「はい!リディアンの破壊は依然拡大中です。ですが人的被害は最小限で済んでいます」

『分かった。気を付けろよ』

「それよりも司令!カ・ディンギルの正体が判明しました」

『なんだと⁉』

「物証はありませんがカ・ディンギルとは恐らく―」

 

 バキィ!突如エレベーターが軋む。現れたのはネフシュタンの鎧をまとうフィーネ。カ・ディンギルの正体を喋らせまいと首を絞めて、携帯を破壊する。

 

「こうも早く悟られるとは……何がきっかけだ?」

 

 この場の生殺与奪権は握られている。緒川はフィーネの要求に応える。

 

「……塔なんて目立つ物を…誰にも知られず建造するには、地下に伸ばすしかない…と思った時、ふと思い出したんです。響さんがこのエレベーターに初めて乗った時の事を……」

 

『……しかし凄い贅沢なエレベーターですね!地下なのにこんなに景色が開けてるなんて!まるで人を運ぶ以外に何かしらの機能が隠されていそうで……』

 

「それで、そんな事を行えるとしたらこのエレベーターシャフト以外考えられません」

 

 フィーネは響の名前を聞いた途端に不愉快そうな表情をする。

 

「そしてそれを可能とするのは……」

「……おかしいとは思わないか?立花響のその発言はエレベーターに乗る前から全てを知っていたかのようだ」

「…………」

 

 緒川の目が一瞬揺らぐ、何度も考えた可能性なのだろう。そして考えうる限り最悪な可能性も。

 

「だが安心しろ?立花響は私の仲間でも配下でもない……」

 

 その思考を読み取ったのかすぐさま否定する。

 響の事を語るフィーネは冴えず、そしてどこか不快そうだった。

 

「あの小娘が何を考えているのか私ですら読めない」

 

 ポーンっとエレベーターが既定の階層に着いたのを知らせる音。緒川はすぐさまフィーネの手を振り払い外に出て瞬時に銃を構えて発砲する。全弾左胸に命中する。かつては仲間だろうが今は敵、容赦は無しだ。

 しかし、銃弾はすべてひしゃげている。鎧の無い部分に当てたのに。もはや鎧は見てくれだけで肉体がネフシュタンの鎧になっているのだ。それは深度の融合を意味している。

 

「ネフシュタン……」

 

 緒川の忌々しそうな声。フィーネは薄ら笑いを浮かべながら鞭を操作する。彼の体を一瞬で拘束して釣り上げる。

クリスが殆ど真っ直ぐにしか飛ばせなかったのを考えると桁違いのスピードと精密操作性だ。

 彼女は飽きたのか緒川を開放して、真っ直ぐにデュランダルへと続く道に歩いていく。フィーネが自分のデバイスをかざして防壁を突破しようとするが―

 パァン!と銃声と共にデバイスが破壊される。忌々しそうに発砲者をめつける。

 

「デュランダルの元には行かせません!この命に代えても!」

 

 フィーネはつまらなそうにそれを見る。今更こんな小物に時間を稼がれるのは不快で仕方ないと言ったところか。

 すると、

 

「待ちな?了子」

「ん……?」

 

 ドガアァン!!っとフィーネと緒川の間の天井が砕ける。土煙が辺りに撒き散らされる。それが晴れるとそこには風鳴弦十郎がいた。

 

「私をまだ……その名で呼ぶか……」

「女に手を上げるのは気が引けるが……」

 

 そう言って構えを取ると、

 

「部下に手を出すならお前をぶっ倒す!」

「司令……」

 

 緒川は驚いた声を出す。怪力の事ではなく、彼が了子に対して倒すと言った事をだ。

 

「調査部だって無能じゃあない、米国政府のご丁寧な道案内でお前の行動にはとっくに気づいていた」

 

 彼は少しだけ硬さの含みがある言葉淡々と話す。まるで何かを切り捨てていくようなそんな感じで。

 

「あとはいぶりだすため、あえてお前の策に乗りシンフォギア装者を動かして見せたのさ!」

「陽動に陽動をぶつけたか……食えない男だ…………だがッ!」

 

 そこで表情を了子のそれではなくフィーネにして、

 

「この私を止められるとでも!?」

「おうとも!ひと汗かいた後で話を聞かせてもらおうか!!」

 

 吠えるフィーネに対して強気に返す弦十郎。

 それが開戦の合図。

 素早く鞭を飛ばしてその体を貫かんとする。だが簡単に左に動いてギリギリかわす。動きを見切っている反応だ。

 

「チッ!」

 

 あっさりかわされて苛立つがすぐさま2撃目を飛ばす。

 確かに驚きの反応速度だが、かわすだけならまぁ何とか出来なくはないだろうとすぐさま立て直す。

 しかし、2撃目は飛んでかわすと天井にあるパイプを素手で掴む。そして足を天井に着けて思いっきり踏み込んで拳を放とうとする。

 

「なぁ!?」

「はあああっ!!」

 

 流石にこのアクロバットな動きには驚く。人間技ではない。

 彼女は驚いて咄嗟によけるが拳はわずかにだが掠ってしまう。ネフシュタンの鎧の防御力には自信をもっていたのだが、それでもかわすと判断したのはこれまでの長い年月での戦闘経験や知識がその拳を受けるのは不味いと警鐘を鳴らしたからだ。

 スカッた拳がコンクリートの廊下を砕く。ビキビキ……よく見ると掠った鎧にひびが入る。

 

「なに……!?」

 

 信じられないものを見たという表情をする。慌てて距離を取る。

 ひびはすぐさま直る。しかし傷つけられた自信の源であるネフシュタンの鎧とただの人間を前に引いた事で傷ついたプライドは直らない。

 

「肉を削いでくれる!!」

 

 冷静さを失い苛立ち混じった声で叫び、2つの鞭を同時に放ち弦十郎を殺さんとする。だがこれは彼が戦闘開始から待っていた動きだ。

 前に響は鎧をまとうクリスの2本同時攻撃を手でつかんで引っ張り無防備な状況にしてブローをぶつけていた。弦十郎は映像でそれを見ていた。

 だからこそ自身の攻撃を100パーセントぶつけることが出来るこのシチュエーションを待っていたのだ。それを生身でやろうというのは少々いや多分に現実離れしすぎているのだが。

 

「ふん!」

 

 鞭を素手で掴む。そして引っ張る。

 

「おおっ!」

「あっ!」

 

 小さく吠える弦十郎。引っ張られ小さな悲鳴を上げるフィーネ。鞭の伸ばし切り宙に浮いている彼女は酷く無防備だった。彼は拳を強く握りしめると、

 

「おおおおおおおっ!!!!」

 

 ドゴオッ!!!!っと彼のアッパーが直撃した。彼女の体は吹き飛ばされ地面に自由落下し叩きつけられる。

 

「ぐうっ!」

 

 地面にうつぶせで倒れこんでいたが、激痛から立て直すと弦十郎に顔を向けて、

 

「ううっ…ぐぅ……完全聖遺物を…退ける……どういう事だっ?」

「飯食って映画見て寝る!男の鍛錬はそいつで十分よ!!」

 

 フィーネの疑問に対して意味の分からない理屈で返す弦十郎。

 彼女は立ち上がるソロモンの杖を向ける。

 

「なれど…人の身である限りはっ!」

 

 どんなに強くても人間でしかない彼にはノイズは退けられない。

 それはじゃんけんでグーのみでパーに勝てというようなもの。しかし杖を警戒しない弦十郎ではない。

 

「させるかっ!」

 

 廊下を足踏み砕いて飛んだ瓦礫を蹴り飛ばす。飛んだ破片は彼女の持つ杖に直撃して手から離れて行く。

 

「な、くう…!」

 

 苛立つ。この戦闘で一度も自分が優位に立てないからだ。2つの完全聖遺物を使っているのにだ。飛ばされた杖を見ているとその隙に拳を振りぬかんとする姿が見えた。

 

「ノイズさえ出てこないのならァッ!!」

 

 トドメだと拳を振り下ろそうと―

 

「弦十郎君!!」

 

 その声は長年苦楽を共にしてきた彼だからこそ分かる。フィーネではなく櫻井了子のそれだと。

 

「な……」

「ふ…」

 

 一瞬、弦十郎から戦闘の気配が消える。致命的な隙。その一瞬に鞭で弦十郎の体を貫いた。

 

 

 指令室では装者達の奮闘をモニタリングしていた。

 すると血まみれの弦十郎に肩を貸している緒川が入ってくる。

 

「司令!?」

「応急処置をお願い致します」

 

 友里は慌てて弦十郎の貫かれた腹部に包帯を巻いていく。

 

「本部内に侵入者です。狙いはデュランダル。敵の正体は…櫻井了子」

「なっ」

「そんなっ…」

 

 緒川は苦渋に満ちた声色で事実を話す。了子の名前を聞いた途端部屋の中が動揺に包まれる。弦十郎は極力情報を伏せて自分で処理するつもりだったのだ。

 すると部屋の電子機器が突如ダウンしていく、フィーネが停止させたのだ。2課本部は彼女が設計して精通している。これくらいは楽勝で出来る。もう絶体絶命だった。

 

 

 数時間後。

 

「う…………っ」

 

 真っ暗な指令室で弦十郎が目を覚ます。彼は瞬時に状況を把握したが近くにいた友里に詳しい状況を尋ねる。

 

「…状況は……?」

「本部機能のほとんどが機能を受け付けません……地上及び地下施設内の様子も不明です……」

「そうか…………」

 

 悔しそうな、そして悲しそうな表情と声の弦十郎。了子の裏切りとあの時、容赦できていればと考えているのだ。

 

 

 2課の機能が停止していたためバックアップが受けられず、リディアンに3人が到着したのは夜中になってからだ。

 着いた時には校舎がボロボロにされており、事態の深刻さを実感する。

 壊れた校舎の一角に立っている櫻井了子。クリスがそれを認めると、

 

「フィーネっ!お前の仕業かァ!?」

「うっふふふふっ…………」

 

 クリスの指摘に対して抑えきれないといった様子。そして、

 

「へひゃはははははははははははあっ!!!!」

 

 もう楽しくて仕方ないといった満面の笑みで笑う。翼は怒りの表情で、

 

「そうなのか?その笑いが答えなのか?櫻井女史!!」

「あいつこそ…あたしが決着を着けなきゃいけないクソッタレッ!!フィーネだっ!!」

 

 一通り笑い終わると了子は眼鏡とお団子にしていた髪を解く、すると突如体が発光し始める。装者である彼女たちには分かる、聖遺物の放つ力強い波動。光が収まるとそこには了子ではなく、ネフシュタンの鎧のまとうフィーネがいた。

 

 

 2課も現状に手をこまねいているわけにはいかない。弦十郎と彼に肩を貸す緒川。そして2人の前を先行して廊下を歩く藤尭と友里。

 

「防衛大臣の殺害手引きとデュランダルの強奪未遂……そして本部にカモフラ―ジュして建造されたカ・ディンギル……俺たちはすべて櫻井了子の手のひらの上で踊らされてきた……」

「……イチイバルの紛失を始め、他にも疑わしい暗躍はありそうですね……」

「…………それでも……同じ時間を過ごしてきたんだ……その全てが嘘だったとは俺には…………」

 

 緒川は弦十郎のその言葉に申し訳なさそうに目を逸らす。あなたの言葉には賛同できませんと。

 

「甘いのは分かっている……性分だ……」

 

 弦十郎は気にするなと労わる。

緒川は話題を変える。自分の中にわだかまっているものを。

 

「司令……僕がカ・ディンギルの正体に気が付けたのは響さんがふと漏らした一言なんです……」

「…………響君か、正直彼女は了子君よりも謎が多い……しかしこの絶望的な状況を打開できるとしたら彼女とそしてシンフォギア装者達だけだ…………」

 

 幾度も自分たちを救ってくれた一人の少女に託すしかできない、己の現状に情けなさをつのらせる。

 

 

「フィーネ!なら本物の櫻井女史は何処へやった!?」

「櫻井了子の肉体は……先だって食い尽くされた。いや……意識は12年前に死んだと言っていい」

 

 翼が当然の疑問をぶつける。平然と答えるフィーネ。そして自身の名乗りを上げる。

 

「超先史文明期の巫女、フィーネ」

 

 そして彼女は話す。己とは何なのかを。

 遺伝子に己の意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフヴァッヘン波形に接触をするとその身にフィーネとしての記憶能力が再起動する仕組みを施している。これはシェム・ハの行ったそれの縮小版ともいえる。

 櫻井了子は12年前風鳴翼が起動させたアメノハバキリの発するエネルギーを浴びた際に精神的に死んでフィーネに乗っ取られたのだ。

 

「…………」

「まるで過去から蘇る亡霊!」

 

 響は知っていた事だがシェム・ハを思い出して寒気を覚える。

 一方で翼は図らずとも復活に肩を貸してしまった事を苦々しく思っている。

 皮肉な話だった。彼女は愛するエンキの命を奪ったシェム・ハと同じ事をしているのだから。

 

「ふはははっ……フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人英雄……世界中に散った私たちはパラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた」

 

 響はふと思う、何て皮肉だと。

 パラダイムシフトには錬金術も含まれている。響はキャロルの錬金術のおかげで絶望的な未来から一旦避難した。つまり、間接的には恩人であるとも言える。そんな相手を殴り飛ばさないといけないとは……

 

「…………シンフォギアシステム…?」

 

 翼はまさか……と言った声を出す。

 

「そのような玩具…為政者からコストを捻出するための福需品にすぎぬ」

「お前の戯れに奏は命を散らせたのか!?」

「私を拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのもそいつが理由かよ!?」

 

 翼とクリスの声は怒りで満ち満ちている。当然だ2人の人生は目の前の女に弄ばれたのだから。

 

「そうそれはカ・ディンギルのためッ!!」

 

 両手を広げて吠える。そして、

 

「しかし……私だけが質問に答えるのは不公平ではないか?」

 

 突如フィーネの興奮が冷め。じっと3人を厳密にはずっと黙っている響を見る。

 

「なんだと?この期に及んで何を……ここは戦場!敵であるならば叩き切るのみ!!」

「お前達は気にならないのか?立花響が何者なのか?」

『っ!!』

 

 翼とクリスはハッ!として響を見る。そういえばここに来てから……厳密には街中のノイズを全滅させてから響はずっと黙っている。

 フィーネの正体に呆然としているのではない。まるで全ての真実を知っていたかのような……

 フィーネは口を開く、聞きたくて仕方なかった事を、

 

「立花響……貴様は何者だ?いつそれだけの知識を得た?どうやってそれほどの戦闘の能力を鍛えた?そもそも誰の味方だ?…………貴様の目的は何だ?」

 

 矢継ぎ早な質問の数々、しかしそれはフィーネだけでなく翼とクリスも気になっていた事だ。

 3人の視線が1人に独占される。

 響は言える範囲で淡々と答える。

 

「私は立花響15歳。知識は言えません。戦い方は言えません。私は2課と了子さん両方の味方です。目的は勝ったら言います」

 

 それは誰もが納得できるものではなかった。フィーネは、

 

「答えになっていない、ふざけているのか?」

「ふざけてません」

「私と2課の味方だと?ふざけているのかと聞いている」

「ふざけてません!!」

「ああ!!もう貴様にはもううんざりだ!!!!」

 

 彼女の咆哮と共に地震が起きる。

 

 

 板場弓美、安藤創世、寺島詩織の3人はノイズから逃げる中でパニックになり、シェルターとは違う場所に入り込んでしまった。地震によって部屋の中のガラスが倒れて割れていく。

 

「このままじゃ私たちもう死んじゃうよ!もうやだよぉ!?」

 

 何も知らず力のないモノはただ大きな力を持つ物の下で怯えるしかない。

 その部屋へ、情報を得るための端末を求めて弦十郎たちが現れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。