過去に戻った立花響   作:高町廻ル

16 / 106
櫻井了子が出した応え

 カ・ディンギルのエネルギー、つまりデュランダルの持つフォニックゲインを利用してエクスドライブに至る3人。ギアが神々しく輝き、羽のようなモノが生えている。そして地に足を着けているフィーネを空から見下ろす。

 

「お前達のまとうそれはいったい何だ!?何故お前はっ……私の知らないシンフォギアの機能をこうも複数も使いこなせる!?」

 

 フィーネは自分よりもシンフォギアに精通している響が信じられないのだろう。当たり前だ、シンフォギアシステムは彼女が作り出した奇跡、専売特許なのだから。

 するとカ・ディンギルが再び起動し始める。

 

「…っ!カ・ディンギルが!」

 

 翼は驚く。あれほどのエネルギーを放出したのにまた撃てるのかと……

 フィーネはそれを見ると動揺から回復して、

 

「カ・ディンギルは複数度放てる!一度しか撃てないわけがないだろう。動力源にデュランダルを使っているのだからなぁ」

『ならそれごとぶっ潰すだけだぁ!』

「っ念話までも……」

 

 クリスの勇ましい雄たけびが上がる。厳密には口を開いていないが。

 

「なるほど少しだけカラクリが分かってきたぞ。高レベルのフォニックゲインを体に注入して変換開放、そしてこの空間を一時的に高濃度のエネルギー帯にしてギアを限定解除したか…そういう絶唱特性というわけか…」

 

 いきなり落ち着きをはらいだすフィーネ。この状況でも櫻井了子としての研究者気質が抜けない。響はそれを見て抜け目がないなと感心する。

 フィーネは素早くソロモンの杖を使いノイズを生み出して街中にばら撒く、時間さえ稼げば念願は成就するのだから。

 

『いい加減っ芸がとぼしーんだよ!』

『世界に満ちるノイズの災禍は全てお前の仕業なのか?』

『……ノイズとは、バラルの呪詛にて相互理解を失った人類が、同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自立兵器』

 

 念話に念話で返す。そしてその内容に2人は驚愕する。自然災害だと思っていたノイズが人災であった事に……

 

『バビロニアの宝物庫は扉が開け放たれたままでな……そこから放たれる10年に一度の偶然を私は必然と変え、純粋に力として使役しているだけ』

 

 話を聞きながらも響は考える、そして口を開く。

 

「……翼さんとクリスちゃんは街中のノイズを倒してください。了子さんは私が何とか持ちこたえます。少なくともノイズを生み出すあれを使う隙は与えません」

「……分かったすぐさま鎮圧して戻る」

「無理すんじゃねえぞ」

 

 2人はそう言って街中に向かって飛んでいく。暫くすると遠目に大きな衝撃音と戦闘音がする。

 フィーネは忌々しそうに言う。

 

「ほう……私と一対一でやりあう気か?あの時は手も足も出なかったが?」

「今の私があの時と同じだと思いますか?」

 

 平然と返す響。これが再戦の合図だった。

 

 お互いに素早く距離を縮めて拳と拳が正面からぶつかる。その衝撃波によって校舎の周辺にいたノイズが消滅していく。反動で2人の体は後方に下がる。

 次に鞭を投げつけて攻撃をするが、響はふわりと飛んでそれをかわす。しかし、それは織り込みと先端が空を飛ぶ響を追跡していく。飛び回ってかわしていくがそこで気が付く。自分の周りがいつの間にか鞭で球体状に囲まれている事に、誘導されていた。そしてギュッと響のいるスペースを押しつぶさんとする。響は拳で鞭を殴って吹き飛ばす、エクスドライブでなければ破れず潰されていた。

 

 敵はもう一度鞭を放って攻撃しようとするが、今度は自分の番だと響は瞬時に最大出力で距離を詰める。直線距離のため無駄なくスピードが乗る、もはや高速移動を超えてテレポートに近い。一瞬で鞭を投げつけようとするフィーネの前に現れて勢いのまま彼女の両手を攻撃して腕を跳ね上げさせる。

 

「な……」

 

 流石に初見でこの挙動には反応できないのか驚いた声を出す。怯んだ一瞬を見逃さず右ストレートを顔面に叩きこむ。もはや瓦礫と化した校舎だったものにその体が突き刺さった。

 

「このっ!」

 

 起き上がったフィーネは怒り心頭と響に向かって飛び込んでくる。響はすぐさま体を半回転させる。すると背中にある光る羽がふわっとフィーネの前を横切る。羽そのものに攻撃力は存在しないが相手はそれを知らないのでとっさに腕で顔を覆ってしまう。するとフィーネの視界から響が消えた。

 

(いったいどこにー!)

「こっちだ!」

 

 その声に彼女は慌てて後ろを振り向こうとするが、それよりも背後に回った響の裏拳の方が早かった。再び殴り飛ばされた相手は地面を何度もバウンドしながら吹き飛ばされていった。

 

 響は手ごたえこそあるがまだ立ち上がるフィーネに背筋が凍る思いがする。あそこまでやっても倒せないのかと、前の自分はよくこの相手を前に突破出来たなと。

 

「確かに前よりはやるようだ……だがっ!!もう既にカ・ディンギルの発射準備は整った。今こそ宿願を……」

 

 フィーネは勝どきを上げる。それが再度放出されようかというタイミングでクリスが大型ミサイルを向けており、また翼が大剣を構えて力を溜めているのが見えた。2人はノイズを全滅させたのだ。

 

『これで終わりだ!!』

「ッ!させるかぁっ!!」

「させない!!」

 

 狙いを定めている2人に攻撃しようとするが、響がとっさに体当たりをかましてそれを許さない。

 轟音、カ・ディンギルが爆発に包まれた。砲身が瓦礫となって砕け散っていく。

 

「あぁ…あ……あぁっ…………」

 

 彼女のそれを一言で表すなら絶望だ。長年の野望が崩れ去ったのだから。

 

「…………」

 

 距離を取った響は何とも言えない表情でそれを見る。彼女を傷つけたいわけではないが結果としてそうなってしまう。

 するとソロモンの杖を持っていた右手がピクリと動く。自棄になったような表情で先端を腹に添えて一気に突き刺す。

 

『…………』

 

 突然の行為に驚く2人とついに来たかといった感じの響。

 体から飛び出した体組織が杖を吸収していく。すると街中に残っていたノイズの残骸たちがフィーネのもとに集まっていく。またその場でノイズを生み出す。それらノイズが体にまとわりついていく。

 

「まさかあいつノイズを取り込んでるのか」

 

 クリスの指摘は正解。

 すると巨大なノイズ片となったそれが膨れていきなり響達に向かって飛び出してくる。素早くかわすその程度の攻撃は飛行能力を得ている装者達には通用しない。

 

『来たれ……デュランダァァル……!』

 

 もはやノイズと一体となったフィーネは体をカ・ディンギルの中に伸ばして、地下内に安置されているデュランダルを回収する。するといきなり体が膨張して体が赤い棒状のフォルムに変形する。先端に頭部のようなものがある。

 

『あんだありゃぁ……?』

 

 クリスは怪訝そうに相手を見やる。

 敵の先端部分が光ったかと思うとレーザーが放出されて一直線に吹き飛ばす。

 

「うわっ!」

 

 響は前に見ていたとはいえそのバカげた威力に顔をしかめる。先ほどのレーザーはカ・ディンギルのそれの縮小版だ。

 

『逆さ鱗に触れたのだ…………相応の覚悟は出来ておろうな……?』

『っ!』

 

 黙示録の赤き龍、緋色の女ベイバロン。伝承によるそれは滅びの聖母の力であり姿。

 

 怒りに満ちたその声に寒気がする3人。フィーネは巨体の胴体の中にデュランダルを片手に鎮座しているのが見える。巨体の中が丸見えなのが間抜けに見えるが。

 再度狙いを定めてレーザーを放ってくる。3人はそれをかわすが衝撃波で吹き飛ばされる。クリスはカウンターでフィーネ本体に向かってエネルギーの矢を乱れ撃ちする。しかし当たる寸前に胴中の触れる外気をノイズの肉体でシャットアウトする。隙間をすべて埋めてフィーネ本体に当たるはずの攻撃を防ぎ切ったのだ。

 するとフィーネもクリスと同じ攻撃を放つ。それくらいは私にも出来ると言わんばかりに。ギリギリで同じ技をぶつけて相殺するが、

 

「うわっ!!」

 

 相殺の際の衝撃波を受けてしまう。

 翼が剣に溜めたエネルギーを放つが僅かに体表を傷つけるにしか至らずすぐに直ってしまう。

 響も殴るが、攻撃が通るがフィーネ本体までは届かない。

 いくら攻撃を加えても本体には通らず、逆にフィーネの遠距離攻撃は一方的に通る戦闘にすらならない膠着状態に陥る。

 フィーネを外から視認できないが、内側からは外を視認できるようだ、攻撃が正確だった。

 

『いくら限定解除されたギアであっても…所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具!完全聖遺物に対抗できるなど思うてくれるな』

 

 その言葉を聞いた時、翼とクリスの脳裏に浮かんだのは響がデュランダルを振るってみせたあの一幕。

 

「聞いたか?」

「……チャンネルをオフにしろ」

「もっぺんやるぞ」

「しかし……そのためには…………」

 

 ここで2人はチラリと響を見る。響はその視線が求めているものが何なのか分かっている。だから肯定の意を伝える。

 

「2人の言いたいことは分かってます」

 

 翼はその言葉を聞くと全力で蒼の剣撃波を放つ。相手の強度を考えたら体の一部をえぐるだけで致命傷には程遠い。だが胴内部に繋がる穴は開く。すぐに治癒するのだが直りきる前にそこに向かってクリスは突貫、侵入する。

 

「なっ……」

 

 目の前に現れたクリスに動揺する。クリスは全力で内部全方向に攻撃を放つ。それと同時に外からも翼が攻撃を加えて大爆発が起きる。

 爆風と一緒にデュランダルが飛び出す。響はそれを見るや確保に向かう。

 

 剣を掴んだ瞬間またも起きる世界が反転する感覚。前とは違いエネルギーの一部を取り出すのではなく、デュランダルの力を出し切るのだ。前とはリスクも難易度も違う。

 

「あ…う……ぐううぅっ…!」

 

 苦悶する響。だが終われない。

 

(この破壊衝動に飲み込まれるな……胸のこの思いを……伝えるためにいいいいいい!!)

 

 すると翼とクリスが左右で支えてくれる。大丈夫だ響はまだ戦える。こんな偽りだらけの自分を支えてくれる人たちがいるのだ。立ち上がらなくては嘘だろう。

 剣から巨大な光が伸びる。

 

『その力何を束ねた!?お前は何なのだ!!』

「傲慢でもただ報いたいそれだけです」

 

 フィーネの叫びに対して響はそう漏らし、そしてデュランダルを振り下ろす。赤き龍に直撃してその熱によって体が爆散しようとする。

 

『完全聖遺物どうしの対消滅…………?』

 

 今起きた現象を呆然としながらも解析する。

 

『どうしたネフシュタン!再生だ!この身砕けてっ!?』

 

 その時、彼女の前に信じられない人物が現れた。そして辺りを巻き込む大爆発が。

 

 

 街中では騒乱が終わりシェルターからゾロゾロと住民たちが出てくる。

 

 響は左手でフィーネに肩を貸しながら2課の前まで歩いてくる。右手にはひびが入ったデュランダルが。

 対消滅しきっていなかった、それはフィーネが完全には聖遺物と融合してなかったからだ。彼女は融合症例のデータを取りきれなかった、響は賭けに勝ったのだ。

 爆発する寸前、響は飛び込んでフィーネを無理矢理に脱出させたのだ。

 

「お前……何をバカなことを……」

「良く言われます」

 

 フィーネの悪態もなんのその、響は結局アホなのだ。瓦礫の1つに彼女を座らせる。

 俯いていろいろと考えているフィーネ、そしてその脳裏に浮かぶのは、

 

『私は立花響15歳。知識は言えません。戦い方は言えません。私は2課と了子さん両方の味方です。目的は勝ったら言います』

 

「…そうだ…言っていたな……勝ったら目的を言うと……」

 

 その言葉に2課の面々も響を見つめる。彼女がこの戦いに何を求めたのかと。

 翼なら防人としての務め。クリスなら育ての親と自身の過去の決別。

 

「覚えててくれたんですね」

 

 響は嬉しそうに言う。そして―

 

「了子さん、私の味方になってください」

 

 その発言に時が止まる。響を除く全員が何を言ったのか一瞬理解できなかったのだ。

 

「な、にを言っている…………?」

「了子さん、私の味方になってください」

 

 馬鹿正直に答える響。

 

「そうではない!お前はここまでやった私を何故取り入れようとする!?何を信じようとする!!本当に何なのだお前は!!!!」

 

 フィーネのマシンガン問答、それに対して響は、

 

「まだ私の目的は言えません、ただ了子さんの知識と経験があればもしかしたらどうにかなるかもしれないからです。それに―」

 

 響は息を呑む。口を開く。

 

「了子さんって師匠、いえ弦十郎さんのこと好きですよね?それだけで信じるに足る理由です」

 

 彼女は言い切る。周りの空気が凍り付く。フィーネは顔を真っ赤にして、

 

「な、なな……なぁ……」

 

 動揺を隠しきれない感じだ。この局面でそんな事を言うとは思わなかったからだ。

 

「お前は何を言っている!私にはあの方がっ」

「確かにそうなんだと思います。一番愛している人はその人なんだと思います。でも好きな人が複数人いるなんておかしいですか?私は弦十郎さんも2課の皆さんもみんな大好きですよ!」

「…………」

 

 余りにもずれた相手の主張に、フィーネはもう呆れて何も言い返せなくなる。

 

「弦十郎さんの負傷を見る限り、傷つけたのは了子さんですよね?でも命までは奪わなかった、2課が邪魔をしてくるかもしれないのにあえて見逃した。それも信じる理由です」

「…………」

 

 そう、フィーネは倒せるチャンスをわざわざ捨てたのだ。きっと2課で活動する中で絆されてしまったのだ。どこまでもお人好しで貧乏くじばかり引いてしまう風鳴弦十郎という男に。

 響は手を差し出して、

 

「了子さん、私の味方になってください」

 

 その言葉にフィーネの手がピクリと動く。そして緩慢だが動きその手を取ろうと―

 

「ああーっ!」

 

 突如、藤尭の叫び声が響く。

 

「どうしたこんな時に!」

 

 感動のシーンに水を差す部下をたしなめる弦十郎。

 

「大変です…月の破片の計算をしていたんですが地球の引力に引っ張られ直撃が避けられません……」

「なんだと!?」

 

 全員の視点が上へ向く、そう月へと。

 月の破片といえど、直撃すれば地球の公転や自転へ大きな影響を与えるのは想像に難くない。星の気温や海面や地形の変化。下手をすれば氷河期が発生して恐竜が滅びた理由を証明しかねない。

 

「大丈夫です。私が何とかしますから」

 

 響はそう言う。重苦しい空気は依然消えない、この小さな少女に背負わせていいのかと。

 するとフィーネが口を開く。

 

「ねぇ響ちゃん」

「はい?」

 

 呼ばれて響が何の気なしに振り向くと、ドッっと拳が腹にめり込む。

 

「あ…………?」

 

 何が起こったのか分からなくなる。力が抜けてフィーネの体に倒れこむ。

 周りからも困惑の気配がする。

 

「何を……?」

「胸の歌を信じなさい……」

 

 その言葉は前の世界で別れる前に聞いたそれと一言一句同じだった。

 ここで響の意識は途切れている。

 

 

 響は目覚めるとそこは病院のベッドの上。生きてるという事は今日も世界は無事だという事だ。

 体を起こそうとするが、

 

「こ、こは……いたた……」

「目が覚めたか立花、無理はするな」

「ったく寝すぎだろ」

 

 寝ているベッドの隣には翼とクリスがいた。二人とも包帯やガーゼが貼られていて痛々しいが響よりはマシだ。

 きょろきょろとする響。それを察して翼は、

 

「ここは街中の無事だった病院の一室だ。2課の力でいろいろねじ込んでな」

 

 あっさりと言う。割と危険な内容だが広い1人部屋なので問題はない。

結構大き目な部屋があてがわれてまさに権力バンザイ!な場面なのだが響は何かを忘れているような気がした。

 

『胸の歌を信じなさい……』

 

「そうだっ!了子さん!了子さんはどうなったんですか!?それに月の破片はっ!」

 

 響は慌てて質問をする。あの後何が起きたのかと。

 

「フィーネは……」

「…………」

 

 悲しそうな顔をするクリスと沈黙を貫く翼の反応が全てだった。

 翼が口を開く。

 

「フィーネは立花を気絶させた後、月の破片に突撃した」

 

 響はフィーネを救えなかった。希望は零れ落ちた。

 

「う…ぁ……あぁ…………」

 

 決壊しそうになる。もう堪えることが出来ない。

 

「うああああああああっっっ!!!!」

 

 響はあふれる涙を抑えきれなかった。翼とクリスが手を握り背中をさすったが止まらない。

 

 

 気絶した響を弦十郎に託すフィーネ。弦十郎は何か声をかけなくては…と思うが、

 

「了子くん……俺は……」

「別にいいの答えが欲しいわけじゃないし、それに初めてなのよ…他人の為に命を使う経験は」

 

 彼の戸惑いに対してフィーネの顔は穏やかだった。これから死にに行く人間のそれとはとても思えない。

 

「そうだ…忠告しておくけど………響ちゃんには気を付けなさい」

 

 ポツリと言う。

 

「あの子は何かが普通の人とは違う。絶対に目を離さないであげて……もしかしたら、私すらも超える何か恐ろしい片鱗を秘めているのかもしれないから…………」

 

 そのメッセージにその場にいた全員が黙り込む。

 

「さようなら」

 

 そう言って、ふわりと浮き上がり高速で宙に向かって飛んでいく。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。