過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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アンダーカバー

 2課の仮本部となっている大型潜水艇。そこでテロ組織フィーネの足取りを掴もうと日夜スタッフたちが働いている。

 決してシンフォギアに頼り切るわけではない。彼らの必死の活動があるからこそ装者は立ち回る事が出来るのだ。

 ライブ会場での宣戦布告からもう既に一週間が経過していた。いまだに緊張状態が続いているが大きな出来事は無くおおむね平和なものだった。

 テロ組織フィーネはあれ以降他の国との交渉はしてい無い。むしろあれは何かの夢だったのでは?と思ってしまうほどだった。

 

「連中の狙いがまるで見えてこないな……」

 

 弦十郎がぼやく。ここまで大きなことを起こすのであれば相応の報酬を求めるはずなのに全くそれが見えてこないからだ。

 

「はた目には派手なパフォーマンスで自分たちの存在を知らしめたくらいです」

『風鳴司令』

 

 諜報任務中の緒川から連絡が入る。

 

「緒川か?そっちはどうなっている?」

『ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが―』

 

 通話の背後にドスの効いた声や何やら不穏な金属音がする。しかし、弦十郎はいちいちそれを追求しない。その道のプロである彼を心配するなど相手を侮辱そしてバカにするようなものだ。

 

『たどり着いたとある時計屋さんの出納帳に架空の企業から大型医療機器や薬品、計測機器などが大量発注された痕跡が発見されました。そして―』

 

 喋り声に暴力音や悲鳴がうっすらと聞こえるが誰もそれを指摘はしない。

 弦十郎はある単語が引っかかっていた。

 

「医療機器が?」

『日付はほぼ2か月前ですね。反社会的なこちらの方々は体よく使っていたそうですが、この記録気になりませんか?』

「追いかけてみる価値はありそうだな」

 

 一つの方針が決まった。

 

 

 私立リディアン音楽院、音楽関連の有名人を多数輩出している名門校。

 カ・ディンギルの起動によって破壊されたが廃校になった学校施設を買い取ることによって存続されることになった。響の主観では前の校舎よりもこちらの方が通っている時間が長い。

 移転の際に生徒数が6割程度まで減少したものの、混乱は収まりはじめ活気を取り戻しつつある。

 近くに学際である「秋桜祭」開催を控えている。

 

 立花響は授業中だが黄昏ていた。自身の体、ノイズの絶滅、月落下への対策、F.I.S.との交渉、米国の干渉、どれをとっても高難易度でとてもすべてを解決するのは不可能に思えてきた。今回は未来がいないという事は「神獣鏡」が無いのだ。自分で選んだ事とはいえそれが響を悩ませる。

 

―最悪ここで私は死んじゃうかもしれないな…………

 

 計画の初動だったソロモンの杖奪取に失敗した時点でこけ過ぎた。何故だか分からないがウェル博士は基地に着くまでにノイズを生み出さなかった。どのようにしてあの場にいた軍人を退けてソロモンの杖を盗んだのかその手段が分からない。

 そんな事を考えていると先生に話しかけられる。

 

「立花さん?何か悩み事でもあるのかしら?」

「はい……とっても大事な……」

「秋ですものねぇ……立花さんにだってきっといろいろ思うところがあるんでしょう……」

「分かってくれますかっ!!あ……」

 

 雷が落ちた。

 

 

 ここはテロ組織フィーネのアジトのシャワー室。

 切歌は努めて明るく話題を提供する。

 

「でねっ信じられないのはご飯にざばーっとかけちゃう事なんデスよ!絶対におかしいじゃないデスか!!」

 

 卵かけごはんを熱く語るが、彼女たちの中では卵1つでも高級品なのだ。江戸時代の庶民かな。

 

「-そしたらデスよ」

「…………」

 

 切歌の言葉に心ここにあらずと言った感じの調。

 

「……またあいつの事デスか?」

「何にも背負ってないあいつが人類を救った英雄だなんて私は認めたくないはずなのに……」

 

―あなたに彼女を否定する権利があるの?

 

「ッ!!」

 

 心のどこからか湧き出た声を遮るように、ダン!とシャワー室の壁を殴る。びりびりと拳に微かな痛みが走る。

 

「……うん。本当にやらなきゃならない事があるなら。たとえ悪いと分かっていても背負わなきゃいけないものが……」

 

 切歌は調にというよりも自分に言い聞かせるような口調で話す。自分たちの行っている事に間違いなど無いと。

 2人は拘泥の迷いの中にいる。するとマリアも入ってきてお湯を浴びる。話を聞いていたのか切歌の意見に付け加える様に、

 

「それでも私たちは私たちの正義とよろしくやっていくしかない……迷って振り返る時間は残されてないのだから」

 

 そう言い切ったマリアの目は納得とは程遠いかった。

 すると、ビーッ!ビーッ!ビーッ!突如鳴り響く警報音。

 

 

 先ほどの警報音はネフィリムが活性化したため急遽隔壁を閉めて対応したのだ。

 モニター越しにそれを見ながら、

 

(あれこそが伝承にも描がかれし共食いすらいとわぬ飢餓衝動……やはりネフィリムとは……人の身に過ぎた)

 

「人の身に過ぎた先史文明期の遺産とかなんとか言わないでくださいよ?」

 

 ウェル博士がナスターシャの思考を読んだかのように現れて話し出す。そして話を付け加える。

 

「たとえ人の身に過ぎたものでも英雄の身の丈に合っていればいいじゃないですか?」

 

 マリア達もアラームを聞いてシャワー室から急いでその場に現れる。

 

「マム!さっきの警報は!?」

「次の花はいまだ蕾ゆえ大切に扱いたいものです」

「心配してくれたのね?でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ」

 

ドオンっと何かが叩きつけられる音がする。ネフィリムだ。

 

「マム!?」

「対応措置は済んでいるので大丈夫です」

「ネフィリムはフロンティア攻略に必要な要。そう簡単には失えませんよ……そういえばもう一つの要である彼女は?」

 

 ウェルはきょろきょろと見渡す。ナスターシャは軽くため息を吐きながらやれやれと言った感じで、

 

「あの子は故郷の街を久しぶりに見に行くと言って今日の朝出て行きました。明日の朝には帰るそうですが…………」

『はぁ!?』

 

 ナスターシャの発言に素っ頓狂な声をあげるマリア達。いくらなんでもフリーダム過ぎた。

 

「大丈夫です。いつでも連絡すれば駆け付けるそうですから」

「そ、そういう問題かしら!?」

「あ、そういえばそろそろ視察の時間では?」

 

 ウェルは話を戻した。自分で脱線させたのだが。ナスターシャが答える。

 

「フロンティアは計画遂行のためのもう一つの要。起動に先立ってその視察を怠るわけにはいきません」

「こちらの心配は無用。留守番がてらにネフィリムの食料調達の算段でもしておきますよ」

「では護衛に調と切歌を付けさせます」

「こちらに荒事の予定はないから平気です」

 

 そう言って話し合いは終わった。

 

 

「はぁっ!はぁっ!」

 

 雪音クリスは逃げていた。捕まるわけにはいかぬのだ。捕まったら最後……討られる。

 曲がり角を良く見もせず走ったものだから相手とぶつかってしまう。相手はこの学院一のスーパースター風鳴翼。

 

「うえっ!」

「脇見しつつ廊下を駆け抜けるとはあまり関心できないな……」

 

 そして廊下を走る不届き者を見やる翼。そこには後輩であり同僚でもある小柄な少女が。

 

「雪音…何をそんなに慌てて……」

「奴らが……奴らに追われてるんだ……!もうすぐそこにまで……!」

「なに……?」

 

 深刻そうな表情で言う。

 そこに現れたのは3人の女生徒。

 

「特に不審な輩はいないようだが?」

「そうか……上手く撒けたようだな……」

「奴らとは?いったい……?」

 

 どうやら重い話題そうだと神妙な顔で問いかける翼。クリスは真剣そのものだと返答する。

 

「あたしを学校行事に巻き込もうとするクラスの連中」

「……………………ふ」

 

 何だかんだ学校に馴染みつつあるなと安心する翼。本当に馴染めない奴はいないものとして扱われるからだ。構ってもらえるなら大丈夫だ。

 

 やる事が無いクリスは翼の作業のお手伝いだ。クリスはだるそーな顔で折紙のコサージュを作る。翼は掃除は出来ないくせにこのような複雑な作業は出来るのだから人間と言うのは分からないものだ。

 翼は先ほどのクリスの様子を思い出して質問を投げかける。

 

「まだこの生活に慣れないのか?」

「まるで馴染んでない奴に言われたくないね」

「ふ、確かにそうだ」

 

 クリスの対応など慣れたものだ、いちいち目くじらを立てる事はない。普段は周りの人間にかしこまって話されることが多いから逆に新鮮だった。

 

「あ!翼さんいたいた!」

「材料を取りに行って帰ってこないからみんな探してたんだよ」

「可愛い下級生を連れ込んでるしっ」

 

 翼のクラスメートと思わしき人物が部屋に入ってくる。

 クリスよりは馴染んでいる翼でしたとさ。

 

 

 とある廃病院の一角に集まる響たち装者3名。インカム越しに弦十郎たちの指示が飛ぶ。

 

『いいか?今夜中に終わらせるつもりでいくぞ』

『明日も学校があるのに夜半の出動を強いてしまいすみません』

「気にしないでください、これも私達防人の務めです」

 

 いつの間にか防人の末席に加えられる響とクリス。2人は特にそのことに関して突っ込み入れない。

 響としては防人という単語は吐き気がするほど嫌いだろうが特にそれを表には出さない。

 

「町のすぐはずれのこんな場所にあの子たちが潜んでいたなんて……」

 

 白々しい事を口にする響。

 事前の介入も考えたが自分1人で装者3人とネフィリムを相手にして生き残れる自信がなかったため断念したのだ。説明を口にできない自分が悔しい。

 響が無理矢理2課のメンバーを連れてくることも出来なくはなかったが、何も準備も説明も無い状況での戦闘は未知数で危険すぎるため断念。

 町はずれの廃病院のだが、2課の捜査班は2か月前から物資が搬入された痕跡があったため黒なのではとあたりをつけていた。もし当たりならノイズが飛び出してくるため装者を送らざるを得ないというわけだ。

 

 翼を先頭に廃病院に入っていく。当然すぐにウェルに捕捉されるのだが。

 辺りは薄暗いが埃は思った以上に少ない、それだけで人がいる痕跡になる。廃墟なのに人の通った跡があるこれは結構な不気味さだ。

 ふと響は口を開く。

 

「やっぱり夜の病院って怖いですね……帰りませんか?」

「弱気すぎるだろ……」

 

 クリスに呆れられる響。

 実はふざけているわけではなく本気で病院からの離脱を提案している、何故ならこの先にはアンチリンカーを混ぜたガスが充満してるからだ。

 アンチリンカー、簡単に言うと聖遺物との適合係数を下げる薬品だ。

 暫く散策してると、

 

「ッ!?」

 

 響はここで空気がヌルッとしたような感覚を得た。いつもとは違うなんか肌にべた付く様な感覚、もしかしたらアンチリンカーガスかもしれないと判断。前の世界での経験で警戒していなければ気が付くことはまずなかった。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

「な……」

「どうした!?」

 

 突如聖詠を口にする響に驚く2人。響はそんな2人のリアクションに反応せずに素早く外に繋がる壁を殴り飛ばして換気を行う。

 

「何をしている立花!ここでむやみに力を使うなど」

 

 すると前方からノイズたちが現れる。すぐさま意識が戦闘に切り替わり。他2人もシンフォギアをまとう。

 とはいえノイズはアンチリンカーによって弱らされたわけではない装者にとって敵ではなく、あっさり倒せた。せいぜい建物が壊れて生き埋めになるのを懸念してクリスがセーブ気味に立ち回ったくらいなのだが。

 

 響は戦いながらも気は抜いていない、ここにはネフィリムがいるからだ。かつて響の左腕を食い千切った奴が。すると、

 

「グガアアッ!!」

 

 小型の獣(ネフィリム基準)がクリスに向かって飛び掛かるが響がとっさに殴り飛ばす、しかし空中で体勢を立て直すと天井に張り付いて再度飛び掛からんとする。恐ろしいほどの機動力と軽業だ。

 翼が剣で斬り飛ばそうとするが切れずに鈍器で殴ったかのように吹き飛ばす結果となった。

 

「アームドギアで迎撃したんだぞ!?」

「何故炭素と砕けない!」

「多分あいつはノイズじゃないですね……」

 

 クリスと翼のノイズとは違う手ごたえに疑問の声をあげる。響は答えを知っているが目の前の情報から考察した風に喋る。

 ネフィリムは聖遺物の一種だ。シンフォギアが決定打にはならない。

 するとパチパチと拍手が聞こえる。奥から出てきたのはウェル博士だ。アンチリンカー作戦が失敗したのに出てくるのはネフィリムの強さによほどの自信があるのかバカなのか。

 

「ウェル博士!」

「いやー驚きましたよ。アンチリンカーガスを察知するなんて」

 

 クリスが驚いた声を上げる。行方不明者が目の前にいて、その手にはソロモンの杖があるからだ。

 次に響が疑問をぶつける。

 

「ウェル博士あなたはどうやってあの場でソロモンの杖を盗んだんですか?あの状況で多くの目を盗むなんて考えられません」

「そういえばあなたは私の事を疑ってましたね?何がきっかけなのか知りたいのですが」

 

 響はその疑問に答える気など無いし、そもそも答えられない。

 

「あなたが素直に投降したら話してもいいです」

「そうですかではまたの機会という事で」

 

 やれやれと言った感じで返される。ネフィリムは負傷なのか破壊衝動がとりあえず収まったのかウェルの近くになるケージにおとなしく入る。するとソロモンの杖が光りノイズたちが現れる。囮たちを響にぶつけている間にウェルは逃走していく。

 

 すぐさまノイズを処理して追いかける。するとウェルはいたのだがあのケージが無い。ふと空を見ると飛行できるノイズがそれを運んでいた。

 クリスが素早く銃で撃ち落とさんとする。攻撃は掠ってケージが海に向かって落ちていく。それを翼は素早く確保にかかる。

 翼は走る足に力を入れる。海に向かって向ける足に躊躇いがなくなる。そして足のブースターを使って飛び出しネフィリムの入ったケージに手が届きそうに―

 

「うわあっ!」

 

 突如現れた槍に足を攻撃されてバランスを崩して悲鳴をあげる。そこにいたのはガングニールをまとうマリアだった。すんでのところでネフィリムの入ったケージを確保されてしまう。槍が水面に浮いておりその上に立っている。

 響とクリスに拘束されたウェルは呟く。

 

「時間どおりですよ……フィーネ……」

「えっ…フィーネだと?」

「…………」

 

 ウェルの言葉にクリスが驚いた声を出す。響は黙っている。

 フィーネ終わりの名を持つ者。かつて響達と戦いそして最後には自分の命を散らした愛の為に生きた女性。自分の遺伝子を持つ子孫が聖遺物と接触を果たすと復活する存在。

 ウェルは言い切る。

 

「彼女は新たに目覚めし新生フィーネですよ」

 

 朝日を背中にしているマリアまるで再誕を世界が祝福しているかのようだった。

 

 キメてくるウェルと日の出をバックに荘厳な感じで出てきたマリアに対して、響は何とも言えない気持ちになった。少なくともマリアはフィーネではないし、そもそもどこの誰に転生したのかすら響自身分かってなかったのだから。

 

「マリアさんがフィーネなのはあり得ません」

「ほう…興味深いですね何故です?」

「私と敵対しているそれが答えです。本物なら敵に回るのはあり得ないですから」

 

 響は自信をもって否定する。ウェルはその自信の理由を聞く。

 あの時フィーネは響の手を取ろうとした。あれが嘘だったとは思えなかった。

 響はウェルに動揺や不信といった感情を感じないところから、恐らく薄々マリアが嘘ついてるのは気が付いているんだろうなと予想する。

 

「遺伝子に自分の刻印を刻んでそいつを器とし輪廻転生を繰り返すか……」

 

 マリアについてクリスは半信半疑と言った感じだ。

 一方マリアは、

 

(ネフィリムを確保したのは僥倖だけど次の一手をどうするか)

 

 翼は海から飛び出して脚部のブースターを使い水中を滑るように移動してマリアに向かって飛び出していく。斬りかかるがあっさりマントで防ぐ。カウンターを決めてやろうとするが素早く翼は剣撃波を顔に向かって放つ。とっさにマントを全身に巡らせて防ぐ、しかしそれは視界をゼロにする諸刃の剣。翼のいた方向を向くといなかった。

 

(どこにー!)

 

 すると上空に気配を感じると剣を逆手に持って突き立てようとする。

 

「なに!」

 

 とっさに守るが直撃が防げても衝撃そのものは防げず水面に叩きつけられる。さっきやられたことをやり返した形だ。しかし同時に相手もマントを伸ばして翼にカウンター気味に一撃入れて吹き飛ばす。

 

「ぐうっ!」

 

 唸るが、飛ばされた先に2課の潜水艇が出てきて受け止める。何とか船体にしがみつき立ち上がる。

 マリアはすぐさまアームドギアのエネルギーの放出機能を放ちそれの反作用を利用して海から飛び出して同じ船体に立つ。これからが本当の勝負だった。前とは違いアームドギアを入れた真剣勝負。

 ふとみるといつの間にか左手で持っていたネフィリムの入っていたケージが消滅していた。まさか海の中に捨てたとは考えづらい。

 

「いったいどこに……?」

 

 突如消えたケージ、トリックのタネが分からずに間抜けな質問をしてしまう翼。

 

「答えるとでも?」

「ッ!!」

 

 自分が間の抜けた問いをしたことに気が付いてカッとなるがすぐに気を取り直す。頭に血をのぼらせて勝てる相手ではない。響とやりあった時にそれは痛いほど思い知った。

 

「全力で行く!!」

 

 マリアは叫びと共に突貫してくる。マリアの戦法で気を付けなければいけないのは馬鹿正直に正面に入らない事だ。槍の持つフォニックゲインの放出技を至近距離で受けたらいくらシンフォギアでも持たない。背後に回っても、槍のリーチよりも懐に入ってもマントに防がれ迎撃されてしまう。距離を取るのは論外。

 結果として翼は防戦一方にならざるを得ない。何より2課仮本部の船体の上で激しい戦闘は出来ないため翼は動き制限されてしまう。

 

 とりあえず船からたたき下ろすため両手を起点としてスピンしながら足に刃を装着して突撃する。マントとつばぜりあうがマリアを吹き飛ばすには至らない。マリアは槍で反撃しようとするが、突然小石が飛んできたのだ。響が投げ飛ばした何の変哲もないダメージを与えられない小石。しかし人間の本能で顔に飛んできたものはとっさに防ごうとしてしまうため槍で顔を覆ってしまう。

 

「勝機!!」

「ッ!」

 

 今出せる全力を振り絞って蹴り飛ばす。

 

「ぐうっ!」

「く……」

 

 2人のうめき声。

 マリアは若干防御が遅れてダメージを食らい。翼は蹴った際にマリアに一度食らった足への攻撃のダメージが深刻化した。マリアは腹の切り傷を手で押さえて、翼は激痛にさいなまれる足を手で押さえる。

 それを見ていたウェルは、

 

(ではこちらもそろそろ……)

 

 すると響に向かってノコが投げられる。響からすれば予想出来ていた攻撃。簡単に跳ね返す。そして、

 

「偽善者とか私よく分からないけど……ただ!守りたいものを間違えないで!!そのためにギアを掲げてあなたは歌うんだよね!?」

「っ…………」

 

 響の問いかけに苦しそうな調。

 響は声が届くか分からなかった、でも言わなくてはいけない気がしたのだ。将来的には分かり合えるとか今は関係なかった。相手の息を呑む気配がした。

 

一方でクリスも切歌に即時対応して近づかせない。アンチリンカーを受けてない万全な状態のため不意打ちに何とか対応して見せた。

 クリスは不服ではあるがウェルの頭に小型銃を突き付けて言う。

 

「こいつを撃たれたくなかったら降伏しろ!」

 

 本当は嫌なのだがこの男が人質になるのは分かっていたので行う。しかし切歌は、

 

「こいつって誰のことデスか?」

「お前何を言って…………」

 

 切歌の余裕たっぷりの発言に怪訝そうなクリス。しかし―

 

 いなかった。

 さっきまで間違いなく銃を突き付けていた相手が。

 

「あ…………?」

「いったい何が……」

 

 クリスだけではない、響も見失った。切歌と調は何もしていない響は2人から目を離していない。すると上空に突然ヘリが現れてロープを垂らす。彼女たちはそれに捕まる。そしてそのまま飛行する中でマリアの方にヘリが移動し、切歌が手を伸ばしてマリアを回収する。そして逃走を図る。

 クリスは慌ててライフル銃を精製。撃ち落とそうとする。

 

「いや逃がすか!ソロモンの杖を返せっ!」

 

 するとヘリの色が抜けていき。消えた。

 

「なんだと……」

 

 2課はまんまと逃走を許してしまう。

 

 

 2課の装者達は船の甲板の上でぐったりとしていた。いつの間にか徹夜で登校する事が確定してしまった。

 

「無事か!3人とも!」

「…………」

「叔父様」

「オッサン」

 

 弦十郎の心配する声に翼とクリスは何とか反応した。

 しかし響は反応できなかった。

最初のウェルとソロモンの杖の強奪の件、そして今回のアジト強襲といい2つの作戦がすべて失敗したことにショックを受けていた。自身の力に自惚れていたわけでは当然無い。だがここまで空振るのはさすがに精神的な疲労が大きい。

 今回はアンチリンカーの魔の手から仲間を回避させて、翼の援護をして、切歌と調2人の不意打ちを防いでやれることは全てやった。そのうえで逃げられた。

 

「師匠…私はマリアさんがとても了子さんだとは思えません。あの時見せた了子さんの顔は…………」

 

 響は思ったことを話す。

 

「ああ、俺も同感だ。了子君が何も話さず武器を構えるとは思えん。ならっ!何度もぶつかって確かめてそして理解するだけだ!」

 

 弦十郎は豪快に笑って返した。響はそうですねとハニカミながら返した。翼もクリスも同意の気配を返す。

 

 

 まんまと逃走してみせたナスターシャとF.I.S.の面々。彼女は今回の戦果を考える。

 

(神獣鏡…機能解析の過程で手に入れたステルス効果……幸いだったのはほぼ完全な形で残っている事、複数ギア作れた事……そうでなければこうも上手く逃げ切る事は出来なかった)

 

「けほっ……」

 

 ふと手を見るとそこには血がべっとりと。

(もう時間がない……)

 

 

 パァン!切歌はウェルを怒りのままに殴った。

 

「ぐうっ」

「下手うちやがって!アジト抑えられたらこれからどこに身を潜めるデスか!」

「おやめなさい切歌、こんな事をしたって何も変わらないのだから」

 

 マリアは努めて冷静にふるまう。すると、

 

「喧嘩は終わった?マリア?」

 

 すると神獣鏡のシンフォギア装者がふらりと現れて言う。

 

「ええ…ありがとうね。あなたがいなかったら全員無事で逃げられなかったし、アジトのデータや足跡の処理。それに施設の貴重品やネフィリムの餌の聖遺物を運び出してくれて」

 

マリアは相手にお礼を言う。自分勝手に行動するしフリーダムで秘密主義者なのだが、与えられた仕事はキッチリこなすのでその点は信頼している。出来れば普段の生活態度で信じさせて欲しい所だが。

彼女は儚げに微笑みながら、

 

「ううん。お礼なんて要らない。それに顔が見れて良かった」

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