過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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とても残酷な答え合わせ

 弦十郎は斯波田事務次官に現状報告をしていた。

 

「フィーネと名乗るテロ組織は米国政府に所属していた科学者の一部が離反して構成されていると」

『厳密にはF.I.S.の一部職員が離れて暴走したしたって事らしい』

「ソロモンの杖と共にいなくなり、そして再び現れたウェル博士もF.I.S.所属の研究者の一人」

『こいつぁあくまでも噂だが』

 

 確信がないのか念を入れて話を進める。

 

『F.I.S.ってのは日本政府の情報開示以前より存在しているとのことだ』

 

 十中八九、櫻井了子が過去に三味線を弾いていたのは間違いない。

 そこで斯波田は気になっていた報告を改めて聞き返す。

 

『ところでだがそいつらのアジトから殆ど手がかりがなかったってーのは本当か?』

「えぇ……実はデータや痕跡などが殆ど消去されておりまして……」

『なるほど向こうにも優秀な工作員がいるのかもしれねぇな……』

 

 

 待ちに待った秋桜祭だ!

 というわけで学祭が始まる。一度は校舎が破壊されて終わりかと思われたリディアンだがこれを切っ掛けに活力を取り戻さんとしている。今日はその象徴となる日だ。

 響は高い所から観察していた。もしかしたら切歌と調が見つかるかもしれないから。もしかしたらこの衆人環境なら話せるのではと期待してしまうのだ。

 

「あ、もう板場さんのステージ始まっちゃう」

 

 やる内容は知っているのだが響は何だかんだで楽しみなのだ。特に曲の途中で強制終了させられるオチが。

 実は2人は近くにいたのだがそれに気が付かないのが残念なポイントだ。

 

 

 マイクを持った司会者の生徒がノリノリで喋る。

 

『さぁて!次なるは一年生トリオの挑戦者たち!』

 

 ちなみにステージ優勝すると生徒会の権限内ならお願いを聞いてもらえるため、板場弓美はアニソン同好会を設立したいのだ。そのため出ている。

 ちなみに知識の通り途中失格オチで終わった。

 

 

 ネフィリムに食わせる聖遺物調達のお手伝いをしてマリアを喜ばせたい切歌と調はリディアンに潜入していた。

 前回神獣鏡の装者が大活躍してマリアが褒めていたのをみて発奮したのだ。しかも活躍を褒められても大したことはしてないよと言わんばかりのあの態度は自分達もやってみたいと思っても仕方ないのだ。

 

『マリア~!2課の装者全員ぶっ倒してペンダント奪ってきたデース!』

『マリア…私達ついにやったんだ』

『まあっ!!あなたたちは最高の家族よ!!!!』

『いや~自慢するほどの事でもないデス』

『そうだよ、あんな連中楽勝だよ褒めるまでもない』

 

 …どこかずれているが二人はマリアの為に頑張りたいのだ。

 切歌と調はたこ焼きや焼きそばを奮発して買っていた。これはお金があるからではなく、計画と秋桜祭に行くのを神獣鏡の装者にたまたま聞かれて、彼女が秘密裏に調達したお小遣いを貰ったからだ。

 

「たのしーデスな~、何を食べてもおいしいデスよ!」

「……………………」

「う、何デスか調」

 

 切歌は満喫しすぎて何か大切な事を忘れそうになってるんじゃ?と思う調。それを相手に沈黙と視線でアピールする。

 これでは学園祭の雰囲気をみて受験をするか決める中学3年生ではないか。

 

「私たちの任務は学際を全力で満喫する事じゃないよ切ちゃん」

「わ、分かってるデス!」

 

 調の追及に若干、目が泳ぐ。どうやら忘れていたらしかった。

 

「これもまた捜査の一環なのデス!」

「捜査?」

 

 切歌の良い訳に対して真面目に聞く調。無いだろうとは思っているが決めつけは良くない、それ故に耳を傾ける。

 

「人間だれしもおいしいものに引き寄せられるものデス!学院内のうまいもんマップを完成させることが―」

「………………………………」

 

 満喫してるじゃん。分かってないじゃん。熱く話していると切歌はじっとりとした調の視線に気が付いた。慌てて話を中断して真面目な顔になっる。

 

「この身に課せられた使命は忘れていないデス」

 

 世界が月落下の中で一部の層のみが逃げようとする。なら力のない人は死ぬしかないのか?そうじゃないだろう。誰かが立ち上がらないといけないだろう?

 ふと話していると風鳴翼その人が歩いてくる。

 

「切ちゃんカモネギ!」

 

 嬉しそうに突撃しようとする調。慌てて止める切歌。作戦も周りの状況も考えずに突撃はさすがに無謀すぎた。とりあえず距離を取って観察する事に。

 するとそこに雪音クリスが加わり2人の計画はご破綻する。

 

「またしても雪音か、何をそんなに慌てて」

「追われてるんだっ!」

「雪音も気づいていたか…先刻から監視するような視線に……」

 

 翼とクリスの会話にぎくっとする2人。ここは敵地で多くの人間がいる。ここでギアをまとえば大混乱になることは間違いなかった。

 

「見つけた雪音さん!」

 

 クリスの名前を呼ぶリディアンの生徒。

 どうやら翼とクリスは違うものから追われていたらしい。

 

 

 響がステージを鑑賞しているとクリスが飛び込んできた。

 

「おお……」

 

 昔、彼女の歌を聞いたときは本当に楽しそうにそして嬉しそうに歌っていたのを覚えている。また聞けるのは嬉しいのだ。

 

「立花、隣座るぞ」

「あ、翼さんあれってそっくりさんですか?」

「いや正真正銘の本物だ」

 

 2人がそんな軽口を叩いているとクリスが歌い始める。

 誰もがステージに釘付けになる。このステージだけは見逃すまいと。

 クリスはここで初めて自分にも居場所ともいえる場所がいつの間にか出来ていたことに気が付くことが出来た。

 

『勝ち抜きステージ新チャンピオンは雪音クリスさんだーっ!さあ次の挑戦者は!?』

 

 誰もがあのステージを見たら名乗りを上げづらいだろうと思っていた。

 翼はふと隣の響を見ると緊張が顔に出ているのが見えた。何故?と思う。立花お前は何を警戒してるんだと。

 すると、2人の少女が立ち上がった。

 

「やるデース!!」

 

 

 マリアは俯いていた。今朝、神獣鏡の装者に切歌と調が敵のシンフォギアを狙って敵地に向かったことを教えられた。

 2人が善意でやってくれている事は理解できているが、戦って欲しいわけではないのだ。2人は家族なのだ危険なことなど本当はして欲しくない。

 そもそも止めなかった彼女にも腹は立つ。

 いや自分に力があったらスマートに解決していたはずだと考える。

 頭の中がぐちゃぐちゃで何をしたらいいのか分からない。

 すると突然サイレンが鳴る。ナスターシャが監視カメラを見て呟く。

 

「これは本国の追っ手……」

「もうここが嗅ぎつけられたの!?」

 

 ナスターシャの発言に驚くマリア。

 所詮は少数組織、本国の包囲網からは逃れられない。プロにはかなわない。

 

「どうするの?」

 

 マリアの手が震える。何を要求されるのか薄々勘づいている。ナスターシャはあっさりと言った。

 

「攻めの枕を抑えに行きましょう。マリア排撃をお願い致します」

「排撃って相手はただの人間……」

 

 要求に対してマリアが動揺を見せる。

 シンフォギアはノイズに限らず素の状態でも人を撲殺するなどたやすい。

 

「そうしなさいと言っているのです」

「ぁ……」

 

 ナスターシャはその優柔不断さを切り捨てるように言う。その物言いにマリアはひるむ。

 ライブ会場占拠といいマリアには手を血に染める覚悟が無い。

 

「マム、私は」

「覚悟を決めなさいマリア」

 

 マリアは迷う。彼女は優しい、武器を持って覚悟を決めたはずなのにそれでもなお傷つける事を躊躇ってしまうくらいには。

 迷っていると刺客たちが炭となってボロボロの死の灰に。

 

「これは炭素分解…………?」

 

 戦場にはソロモンの杖を携えたウェル博士がいた。戦場の支配者が変わってしまう。一方的な蹂躙が始まる。

 マリアは死んでいく人を呆然と見ている事しか出来なかった。青ざめるマリアをナスターシャは黙ってみている事しか出来なかった。

 

 

 リディアンの勝ち抜きステージは一部の人間のみ緊迫感に包まれる。観客席から降りてくる切歌と調。降りきると。

 

「べぇーっ」

「っあ!ぐぐぐ……」

「切ちゃん……」

 

 余計な挑発をする切歌を咎める調。受けたクリスのボルテージは上がっている。

 切歌はここに上がってきた理由を述べていく。

 

「…このステージで勝てば願いを1つかなえてくれるとか、このチャンス逃すわけにはいかないデス!」

「おもしれぇっ!やりあおうってんならこっちとら準備は出来てる!」

 

 頭に血が上りやすい雪音クリス。

 

『それでは歌っていただきましょう!』

 

『月読調と』

『暁切歌デース!』

『オッケーイ!2人が歌うのはオービタルビート!』

 

 オービタルビートはツヴァイウィングのナンバーの1つ。それを翼の前で歌うとはかなりの胆力だ。

 響は改めて気が付く。彼女たちはシンフォギアを動かすためいやいや歌っているのではなく、歌が好きだという事に。

 だからこそ悲しい。

 

 

 ノイズの蹂躙劇があった場所の近くに興味本位できた少年たちがいた。マリアはそれを映像越しで見た。

 

『すごい音がしてたのここじゃない?』

『どうせ何かの工事だろ?』

『早く練習に行かないと』

 

「やめろ」

 

 すると彼らの目の前にはノイズによって殺さる人が、呆然と何が起こったのか分からない顔をしている。

 

「その子たちは関係ない……!」

 

 ウェルは彼らを見るとソロモンの杖を向ける。

 

「やめろおおおおっ!!」

 

 関係のない一般人である彼らは殺された。

 

 

 切歌と調が歌い終わってあとは得点発表を残すだけになった。

 

「くっ……2人がかりでとはやってくれるっ!」

 

 クリスが右手をぎゅっと握って、熱いバトル漫画のようなノリで話し出す。

 すると2人はいきなり耳に手を当てて何かを聞いている。響達には分かるインカムだ。

 するといきなりステージを降りて出口の方に向かう。

 

「立花追いかけるぞ」

「はい」

 

 クリスにも視線で意図を伝える。それを彼女も当然受け取る。

 

 

 外に出る切歌と調。校門方面に向かうと前方に翼、後方に響とクリス。

 最初から出口に向かっているなら自ずとルートは特定できる。地の利に長けた3人が追いつくのは当然のこと。

 

「3対2数ではそっちが有利だけど、ここで戦う事であなた達が失うものの事を考えて」

「それ本気で言ってる?」

「……………………」

 

 調は脅しにかかったが響がピシャリと黙らせた。

 彼女は自分の言っていることが最低であることは嫌という程理解出来ている。だから言い返せない。

 

「言ったよね……守りたいものを間違えないでって……ここで楽しんでるお客さんを危険な目に遭わせるのは調ちゃんの守りたいものに繋がるの?それでいいの?」

「……………………」

 

 響の追及に黙らされる調。

 切歌は居たたまれなくなったのか助け舟をだす。

 

「……いまここで戦いたくないだけデス。決闘デス!しかるべき決闘を申し込むのデース!」

「…………決闘の時はこちらが告げる」

 

 そう言って切歌と調は出口に向かって行く。

 響は俯きながら呟く。

 

「私なに偉そうに言ってるんだろ……そんな偉い人間でもないのに……何も守れなかったのに…………」

 

 響はただ鬱々としていた。それは誰にも正確には理解出来ない内容。

 ただ翼とクリスはフィーネの事だろうかと勘違いしていた。もちろんそれも含まれてはいるが。

 残された3人の間に何とも言えない空気が流れる。すると3人がつけるインカムから弦十郎の声が流れる。

 

『3人ともそろっているか?ノイズの反応を検知した』

 

 

 装者一同は2課本部に集結していた。

 遺棄された工場にノイズ被害者の痕跡が残されており活発な議論が交わされている。

 永田町から調査結果で響のガングニールとマリアのガングニールのアウフヴァッヘン波形が一致したことが明らかになる。

 

「…………」

 

 響に驚きはなかった。知ってるから。

 

「アメリカ政府と通じていた了子さんによってガングニールの一部が持ち出され作られたものではないでしょうか?」

「櫻井理論によって作られたもう一つのガングニールのシンフォギア……」

 

 恐らくそれは真実だろうとその場で反対意見や別意見は出なかった。

 クリスが口を開く。

 

「米国政府はフィーネの研究を狙っていた。でもF.I.S.なんて機関を作って、シンフォギアまで作ってたのに何で狙ってたんだ?」

「恐らく今の暴走した状態からして情報を独占していたのだろう」

 

 翼はクリスの疑問に断片的な事実を繋ぎ合わせて答える。フィーネがいない現状何が事実だったのかを知る人間はここにはいない。それは悲しい事。

 

 

 それは実験ミスでネフィリムが暴走したあの日、マリア・カデンツァヴナ・イヴは妹のセレナ・カデンツァヴナ・イヴと一緒に実験施設にいた。

 その日は歌を介さない起動と制御を行う実験なのだが、完全聖遺物という奇跡の力を歌という奇跡によって制御しないツケがきていた。このままではネフィリムが暴走を悪化させて自分たちまで危険な目に遭いかねない。

 すると周りの研究者たちはチラリとセレナを見る。シンフォギアという奇跡を扱うお前なら何とか出来るだろう?と。

 幼いながらも過酷な現実に直面して年齢不相応に聡かった彼女は言った。

 

「私歌うよ」

 

 妹セレナの覚悟を決めた声が姉マリアの耳に届く。

 

「でも……あの歌はっ……」

 

 絶唱それを唱える事がどれほどの負担と命を削るのか想像が出来ないわけではない。分かっているからこそ不安そうな声が出てしまう。

 

「私の絶唱でネフィリムを起動する前の状態にリセット出来るかもしれないの」

 

 確かにセレナの絶唱特性は他者のエネルギーを受け入れて操作する。これならばネフィリムを止められる可能性はあった。しかし、妹を心配するマリアははいそうですかとは言えない。

 

「もしそれでもネフィリムを抑えられなかったら……」

 

 姉の心配しかない意見にセレナは寂しそうに笑む。しかしそんな事は分かっている、分かっているからこそそれが嬉しくもあるのだ。

 

「その時はマリア姉さんが何とかしてくれる。F.I.S.の人達がいる私だけじゃないだから何とかなる」

 

 彼女は手を胸に添える。厳密にはギアペンダントに、そして心に浮かぶその歌を。

 

「ギアをまとう力は私が望んだものじゃないけど……この力で皆を守りたいと望んだのは私なんだから……」

 

 そう言って暴走するネフィリムの元へと向かう。

 

 アガートラームをまとうセレナがネフィリムの前に立つと、

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl』

 

 マリアはセレナの絶唱を聞いてる間、まるで世界がスローモーションになったような気がした。そして光の奔流が溢れて爆発が起きた。

 

 研究者たちは実験サンプルが自滅したとか実験はただじゃないとか言っている。マリアは本当に赤い血が通う人間なのかと疑ってしまう。

 セレナの覚悟を見て何も思わないのか。幼い子が命を賭して戦う姿を見てそれなのかと。

 

 マリアはセレナの救出を図るが瓦礫に潰されそうになったところをナスターシャに助けられるが代わりに彼女の腰から下が瓦礫に埋もれてしまう。

 

 

 セレナの死因は絶唱の負荷によって体が動かず逃げ遅れて瓦礫の下敷きになった事による圧死だった。

 

 最後の言葉は「良かった」だ。

 

 

 F.I.S.は元リディアン跡地に集まっていた。

 

「……マリア良かったっ……!」

「マリア!無事でよかったデス!」

「フィーネの器となっても私は私よ……」

 

 2人はマリアに抱き着く。胸が苦しい、抱き着かれているからではなく嘘をついて2人を不安がらせているからだ。

 

「さあ追いつかれる前に出発しましょう」

 

 ナスターシャがこの場で出せる一番建設的な意見を出す。意見と言うよりは命令に近いものだが。

 すると潜入任務に失敗した、厳密には勝手にやった事だが、2人は慌てて反対意見と新たな意見の提示をする。

 

「待ってマム!まだペンダントを奪えてないデス!」

「決闘すると約束したから…!」

 

 2人が告げると、バシッっと切歌と調はマムに叩かかれた。当然だ、独断専行でリディアンに行くなどやってはいけないのだから。

 もし仮に2人が返り討ちになったとしたら、組織の戦力はガタ落ちして作戦中断もやむを得ない状況になってしまうのだから。

 

「いい加減にしなさい!あなた達はこの戦いは遊びではないのですよ!」

 

 説教をするナスターシャ。

 するとウェルが茶々を入れる。

 

「まあまだ取り返しのつかない状況ではないでしょう?それにその子たちのかわしてきた約束、決闘に乗ってみたいんです」

 

 彼は何かを企んでいるようで。

 

「…………」

 

 神獣鏡の少女は遠くからウェルを黙って見ていた。拳が強く握られている、それは怒りに震えているようで。

 

 

 響達はノイズ反応があったリディアン跡地に来ていた。それが決闘の合図だろうと予想できたからだ。

 歩みを進めるとソロモンの杖を見せびらかすウェルが。

 

「野郎…っ!」

 

 クリスがこの状態で耐えられるわけがない。

 すぐさまノイズが召喚される。3人とも素早くシンフォギアをまとう。開戦だ。

 

 響は腕の装甲を巨大にして一気に突貫、パーツの一部から撃鉄が鳴らされて一気に殲滅していく。

 翼も一体一体確実に剣の錆にしていく。

 そしてクリスは頭に血が上っているのか召喚されたノイズたちへ忌々しそうに乱射をする。

 ノーマルなノイズでは彼女たちの相手にはならない。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんは?」

「あの子たちは謹慎中です」

 

 響は一応この場で問うべき疑問をぶつける。

 2人が戦いたいがためにノイズを召喚して呼び出したと2課は思っている。しかし、響は違う。目の前にいる男が2課の聖遺物を狙っている事を知っている。

 翼はここで敵対組織の理念や行動指針を問いかける。今までかく乱ばかりで結局何がしたいのか分かっていなかったからだ。

 

「何を企てるF.I.S.!」

「企てる?人聞きの悪い……我々が望むのは人類の救済!月の落下にて損なわれる命を可能な限り救い出す事だっ!」

 

 翼の疑問に答えたウェルの発言に装者3人に動揺が走る。信じられないいや信じたくない方が正しい。響だって知ってはいたが信じたくない気持ちの方が正直強い。

 

「月の公転軌道は各国機関が―」

「都合の悪い結果は黙ってるに決まってるじゃぁないか」

 

 それでも翼が一般人におろされている情報を口にしようとするが、そんな事は知っているとウェルに発言をキャンセルされる。

 実際黙るという判断は間違っているとは言い難い。明確な解決方法がないままいたずらに一般市民に情報を与えれば大きな混乱を招くのは必須。

 そこでクリスは気が付いた。何故彼女たちがこんな行動をしているのかその予想が出来たのだ。

 

「……まさかこの事実を知る連中ってのは自分たちが助かる算段を始めているじゃ」

「だとしたらどうします?対する私たちの答えはネフィリム!」

「危ない!!」

 

 響は地面の揺れを素早く察知してクリスを抱きしめてかわした。ネフィリムは地下に潜んでいて機をうかがっていたのだ。

 もしあのまま立ちすくんでいたらクリスはネフィリムの攻撃を食らって気絶していた。

 

「わ、わりぃ助かった……」

「いえいえ」

 

 感謝の言葉になんてことはないよと返しながらも、記憶にあるネフィリムよりでかいなと響は思う。

 前と違って聖遺物を押収できなかった分、餌はそれなりに与えていたと考えられる。

 

「ほう今の不意打ちをかわしますか……」

 

 それなりに自信のある作戦だったのか驚くウェル。自身の派手なアクションで気を引いてからの不意打ちの不発に不審そうな声を漏らす。

 

 ネフィリムは響を食らわんと飛び出してくる。体全体が聖遺物そのものの響はさぞご馳走に見えるのだろう。

 響は正直に言うとネフィリムが怖い。あの時の腕を食いちぎられた時の絶望は筆舌しがたいものがある。とにかく口で食らおうとしてくるのに気を付ければ最悪な展開にはならない。

 相手は右前足で殴り飛ばそうとしてくるがあえて懐に入って腹を殴り飛ばす。前に翼の剣が入らないから硬いのかと思えば意外と柔らかい手ごたえ。衝撃を吸収しやすい肉体の作りなのかもしれない。

 

「グウウゥッ!!」

 

 苦悶の声を上げる。響は追撃と左拳を突き出そうとするが、ネフィリムが腕を食い尽くさんと口を開けてくるが素早く腕を引いてかわす。すると捕食行為が空ぶって巨体が前につんのめる。そこに巨大化させた右手の装甲で殴り飛ばす。飛ばされた先に追撃の遠距離技を加える翼とクリス。

 しかしというかさすがの耐久力だった。全員かなり力を入れているが全然怯む様子がない。彼が自信をもって出てくるのも分かるという話だ。

 ノイズも同時召喚されているため長期戦よりは短期決戦がいいと思った響は疑似イグナイトで対抗する事にした。戦いを長引かせればそれだけ怪我を貰う可能性が上がるし、仲間が喰われでもしたら耐えられない。

 

 装甲がグレーのまだら模様になっていく、意識も他者を傷つける破壊衝動に塗りつぶされていく。ギリギリ理性を保つがそう長くは保たないだろう。

 

『ルあああツ!!』

「立花まさか」

「やる気かよ!」

 

 一応二人には事前にこれを使う事はあり得る事を言っていた。エクスドライブを除けば響の最終兵器だ。敵味方区別がつかなくなる可能性があるため手を出さないように言っていた。

 素早く距離を詰めてネフィリムの右腕を千切り飛ばす。相手はその動きを視認できていなかった。

 

「グギャアアァッ!」

「なっ、何だとっ!?」

 

 ネフィリムの絶叫、そして響の急速なパワーアップに驚くウェル。

彼のシンフォギアや聖遺物の研究ではこの暴走状態にはまだたどり着いてはいないのだろう。フィーネもそうだった。

 巨体の下に潜り込むと蹴り上げる。あの巨体が竹トンボみたいにあっさり吹き飛ばされたかと思ったら最高到達点に達する前に響が待ち伏せして殴って地面に叩きつける。

 本来なら原型も残らずぐちゃぐちゃになってるはずだが起き上がろうとする。それでも破壊衝動と飢餓衝動が消えないのだから大したタフさだった。

 

「うわああっっっ!やめろーっ!」

 

 半狂乱のウェル。想定以上の戦闘力に驚いているようだ。

もしネフィリムを失えば彼の勝手な英雄譚は終了だろう。響はネフィリムを半殺しにして一応心臓だけは回収しようと考える。

 しかし、

 

「うぐっ!!」

 

 響の変化が解けて倒れこんでしまう。

 いよいよ融合状態が最悪なレベル手前になっているのだ、戦闘続きでいよいよ危ない。シンフォギアが解けるには至らないがネフィリムはすぐに立ち上がりその隙を逃さんと響を狙う。

 

「っ立花!」

「おいバカ!」

 

 巻き込まれないように距離を取っていたため間に合わない。響はそれでも諦めず逃げようとするがうまく体が動かせない。

 

 

すると突然、紫の閃光が一帯に溢れた。ネフィリムの体を穿ち戦闘不能に追い込む。

 

「………………………………」

 

 響にとって見覚えのある一撃だった。

 ありえないだってそれは―

 

「久しぶりだね響、それ大丈夫なの?」

 

―そんなはずはあり得ない、だってあなたにそれをまとわせない為に私はあんな事を

 

「……な、んで……未来が……いるの……?」




な…なんだってー!!
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