右手に巨大な鉄扇、体の周りには7枚の円形の小型両面鏡、足には分厚い装甲。
それは響の記憶とは少しフォルムが違うが間違いなく神獣鏡をまとう小日向未来だ。
「誰だ貴様は」
翼とクリスは突如現れた援軍に驚いていた。
代表して翼が訪ねる。ライブ会場のジャック事件で敵装者の総人数は勝手に3人と決めつけていたのだから。
何より響と関りを匂わせる上に恐らくはF.I.S.のシンフォギア装者であろう相手が響を助けた事も不審だった。
相手は律儀にもその質問に答える。
「私は一応F.I.S.のシンフォギア装者です。どうしても私について知りたいなら響に聞いてください」
敵のシンフォギア装者、その回答は予想の範疇だった。
後半の彼女の口から名前を呼ばれて、倒れていた響はビクリと肩を震わせて俯く。この反応に不審そうな顔をする2人。
未来はそう言うと、ふわりと浮き上がってネフィリムの上に立つ。すると忌々しそうにガッと踏みつける。ウェルはそれを見て当然平静ではいられない。
「ひぎゃあああっ!!!!」
「落ち着いてくださいまだ死んでません、そもそも私が回収した聖遺物を食べさせて、もう既に十分成長の目途が立ったのに懲りずに響を狙うなんて…あなたを許す気は無い……」
ギロリと睨みつける未来。
しかしすぐさま気を取り直す。彼女の組織の方針では目の前の気に入らない男も守らなくてはいけないのだ。
「……ここは私で持ちこたえるので、このデカブツを連れて撤退してください。それくらいの時間は稼ぎます」
気に入らないけどと言った感じで怒気の入った声を出す。それを聞くとウェルは、ぼろぼろのネフィリムを連れて慌てて逃げていく。
「ってさせるかよ!ソロモンの杖は置いてけよ!」
そんな相手の事情など関係のないクリスは、割と容赦なくミサイルを放つ。
「うひ、ひぎゃあああっ!!」
ウェルはそれを見てみっともなく叫ぶ。
しかし紫の閃光が一瞬でミサイル群を蹂躙していく。爆風が辺りに発生する。
ウェルたちはその爆風と砂ぼこりに紛れてその場から逃げた。
「させない。一応あれでも守る事になってるから」
不満そうな声でそう話す敵。
クリスは彼女を見てとっさにある事実にたどり着いた。それを質問として相手にぶつける。
「……まさかお前なのか?あの時基地でソロモンの杖を盗んだのは?」
「そうだよ」
彼女はクリスの予想と質問を簡明に肯定する。
それを聞いたクリスの視界が真っ赤に染まる。怒りに肩が震える。
「てめぇッ…!あっさり言いやがったな!」
クリスにとってソロモンの杖を盗まれる事とそして悪用されるのは到底許せる事ではない。それを行った相手を前にして冷静にはいられない。
「ま、まってっ……」
響は弱々しい声で懇願をするのだがクリスの耳には届かない。
彼女は激昂してガトリングガンを放つが相手は左に飛んで簡単にかわす。よく見ると地面を踏みしめて走っているわけではなく、微妙に宙に浮いておりホバリングしている。
「落ち着け雪音!相手は頭に血が上って勝てる相手ではない!」
「ッ!分かってるさ!」
クリスに声をかける翼、その強い声に何とかギリギリ冷静さを取り戻す。
翼はそれを確認して改めて真正面から相手を見つめる。
相手もまたじっと翼を見つめ返しているが隙なく響やクリスも見ている。
翼は質問を投げかける、何となくだが目の前の少女は素直に答える気がしたのだ。
「F.I.S.のアジトがもぬけの殻だったのも貴様のやったことか?」
「はい」
「雪音が人質に取っていたドクターウェルを救出したのも貴様か?」
「そうです」
翼の質問に淡々と答える。
ここに来た未来の表向きの目的はウェル博士の逃亡時間を稼ぐことなので戦わないで済むならまあいいかくらいの感覚なのだ。この窮地は未来のせいでもあるが。
そして彼女は切歌や調と違って可能なら戦闘は避けたい性分なのだ。
それを聞いた翼は剣を構えると、
「そうか、ならば投降してもらおうか!」
もう聞くことは無いとダッシュで斬りかかる。剣と鉄扇がぶつかり合うが翼の剣撃が全て受け流される。上段中段下段全ての攻撃が鉄扇で受けた瞬間ベクトルを曲げられていなされてしまう。
(なんだこの感覚は…ッ!)
武器に攻撃を当てている手ごたえが全くなかった。
翼が斬りこんでいるとクリスのいる位置がちょうど未来の死角になる場所になった。
するとライフル銃を形成して狙いを定める、翼を巻き込まないための配慮だ。翼は視界の端でそれを視認したが、表情には出さなかった。クリスはヘッドギアに当てて頭を揺らして戦闘不能にするのを狙って引き金を引いた。
しかし、未来はわずかに首を振る最小限の動きだけでかわして見せたのだ。完全に死角からのライフル銃の弾丸を。
「な……」
クリスの喉から声が漏れる。
あり得ないと思う。仮に対面状態で見えてたならば、引き金にかけた指と銃口を見ているならかわせるかもしれない。しかし今回は死角からの一撃だ。第六感的なものでよけたのではない、僅かな挙動でギリギリ躱したのだから。それこそ背中に目があるのか、未来視でも持ってないと説明できない現象だ。
しかし、首を振って回避した瞬間に翼は上段切りを加えようとする、鉄扇は間に合わないタイミングだった。
ここでそれまで沈黙を保っていた小型の両面鏡が動いて翼の剣に噛む。攻撃を受け止めてみせた。
「これはっ!」
力を入れようとも剣がピクリとも動かなくなる。
すると持っていた鉄扇が開いて円形になり紫のエネルギーが集まっていく。紫色の閃光が溢れ出す直前、それは直感で受けてはいけないと感じた翼は持っていた剣を捨てて慌てて右に向かって体を投げだす。
紫の巨大な閃光が翼のいた空間を穿っていった。
「初見で武器を捨ててまでしてかわすなんて良い判断をしますね」
「ッアームドギアが……」
光線が通過した後、避ける際に捨てた剣がきれいさっぱり消滅したのだ。ここまで綺麗に消し飛ばされたのは初めてだった。
「まさかそれがシンフォギアの特性か……?」
「うん、そうだよ」
翼の質問。これもまた未来はあっさりと肯定する。
そう言うと新しく両面鏡を生み出してその1つが彼女の背後にいるクリスに向かって小型の光線を発射。それはクリスのライフル銃の銃口に入り込んでいって破壊した。
「くっそぉ…!」
その攻撃はやろうと思えば先んじてお前の攻撃は潰せるぞと言われているかのようでクリスに苛立ちが募る。
クリスはミサイルとガトリングガンをフルオートで撃ちまくる。未来のいた場所は大爆発が起こり土煙包まれる。
しかし煙が晴れるとそこには何もなかった。
「どういう事だ……?」
怪訝そうなクリス。
辺りを見回すと響が上を向いているのが見える。
まさかと思い彼女も上を見ると未来が浮いていたのだ。一時的な飛行つまり跳躍ではなくその場でホバリングをしている。飛んで攻撃を躱して見せたのだ。
そして攻撃の終わりを察してゆるりと着地をする。
翼とクリスの2人がかりでも歯が立たない。仮に響が復帰して3人でも勝てるビジョンが浮かばない。
戦場が硬直する。するとそこで未来のインカムにナスターシャから連絡が入る。
『ウェル博士とネフィリムを回収しました。あなたも離脱を』
「分かりました」
それを聞いたのち2課の装者達を見ると、
「じゃあこれで私は帰るから」
「いや逃がすかよっ!」
クリスはそう言うが、未来の体が透けていって消えた。
「消えた……」
神獣鏡の力の1つステルスだ。
◎
「おい……顔色悪いぞ…?取りあえず見てもらえよ…?」
「大丈夫だよ…クリスちゃん…ちょっとダルいだけ」
クリスは顔色の悪い響を心配していたが響は大丈夫だと返す。
2課の仮本部では重苦しい雰囲気が満ちていた。突如現れた新たなシンフォギア装者に混乱しているのだ、なにより響と関りがあると匂わせるだけに当人の口を開くのを待っている。
響はそれを察して口を開く、これまで誰にも言ってこなかったそれを。
「彼女は小日向未来……昔わたしが酷い事言って関りを切った相手です……」
そう言うと響はツヴァイウイングの事件の後、病院で目覚めた以降に行ったことを話した。話すたびに響は小さくなっていくように見えた。
全員黙って聞いていた。ここにいる全員は響が未来にただ本気で憎しみをぶつけたわけではないんだろうなと思ってはいた。らしくなかったのだ、少ない時間であっても立花響がそんな恨み滴るような行動を取る事が。
「立花が前に言っていた親友とは彼女か?」
「……はい」
翼の親友と言う言葉に響は苦しくなる。何故ならもう親友ではないからだ。それどころか完全に敵になってしまっている。
外から帰って来た緒川がそこで調べた情報を共有するため会話に口をはさむ。
「司令…小日向未来さんを調べた結果1年半ほど前に失踪届が出されています」
「っ!」
その言葉に響は俯き考える、自分があの街を去った後何がったのか。自分の知らないうちに何かがあって未来はF.I.S.に関わってしまったのだと。
弦十郎は口を開く。
「ともかくだこれまでF.I.S.をあと一歩で取り逃がしてきたのは彼女の力が大きいという事だ」
ステルス能力はありとあらゆる反応を隠蔽して来たであろうことが予想できる。さぞ便利に上手い事立ち回ったはずだ。もしかしたら透明人間が周りをうろついていたかもと考えると2課のメンバーは寒気がしていた。ソロモンの杖を盗んだのもそれの力だろうと予想された。
翼は相手のシンフォギアを考察する。
「小日向のあのシンフォギアは確認しただけでも光線を使った攻撃、完全飛行能力、それにステルスか…どれもが強力すぎる」
「翼さんそれですが、調べた結果あの光線は貫通能力や熱が特別高いのではなくて聖遺物をピンポイントで分解しているようです」
「つまりシンフォギア殺しというわけですか……」
解析の結果もたらされた情報により更に一層雰囲気が暗くなる。もしギアペンダントに食らったらそれだけで終わりかもしれないからだ。
何より光線抜きでも翼を圧倒したあの近接格闘スキルは並大抵のものではない。それに加えて聖遺物殺しの遠距離光線だ。鬼に金棒である。
しかも飛行することが出来るのだから2課にとって目下最大の強敵であるのは間違いなかった。実際に翼とクリスの2人を相手にしても終始涼しい顔で相手をしていた。
「ともかくだ、もっと詳しく小日向未来くんについて調べてみる必要があるな」
弦十郎はそう締めくくった。
◎
F.I.S.は辺りを神獣鏡のペンダントの力でカモフラージュして湖の近くの森の中に身を潜めていた。ネフィリムの回復までまだ時間がかかるため一時的にな隠れ家を見つけていた。
ウェルとマリア、そして未来は用があって出ていたため、今はベッドの上で休養中のナスターシャと切歌と調の3人しかいなかった。
2人は少しでも力になれたらと思い。積極的にヘリ内の掃除や洗濯に勤しんでいた。未来も少しは手伝えよと思わなくはないのだが。何となくだが戦闘力だけを提供する用心棒ポジションに収まってしまっているのだ。実際に強いので。
「いやー調!今日は晴れてて服や布団からふかふかの良い匂いをするがデスよ!」
「切ちゃんそのいい匂いってダニの死骸の匂いらしいよ」
「え…」
洗濯ものを取り込みながらそんな呑気な会話を行っていた。
「それにしても敵と未来さんに関りがあったなんて意外デス」
「うん……」
2人は先日の会話を思い出していた。
『ネフィリムがっ!どーしてくれるんだい!?』
『ちょっと静かにしてください、一応殺してはいないでしょう?それに響に手を出すのは誰であっても許さない…!』
怒りに震えるウェルに抑えてはいるのだが僅かに溢れ出てくる怒りで対応する未来。彼女の目は若干だが血走り隠しきれない狂気があった。
基本的に生々しい感情を表に出さない彼女が出す怒りに他の面子は流石に驚いている。
『もしこれから先響を事故ではなく意図して害する計画を立てたのなら私はこの計画から抜けるから。仮に響と戦闘になったら私が受け持ちます』
未来はこの場で堂々と宣言する。響は敵でありどうしても戦闘になるのなら自分が撃退すると。そしてそれが許される実力を彼女は有している。
『……あの融合症例の彼女とはどのような関係なのかしら?』
マリアは響を守った未来に対して恐る恐るではあるが質問をぶつける。
もし仮にスパイだと、もしくは裏切ったと言われたらここにいる人間では圧倒的な実力を持つ彼女に対応できないからだ。
『親友…だった相手…かな……』
未来は悲しそうに答えた。
「グウウゥ……」
するとネフィリムの唸り声がする。響と未来にやられた傷がまだ治りきっておらず苦痛にさいなまれているのだろう。
2人もその声に反応してしまう。当たり前だが心臓に悪い。ライオンの檻の傍で快眠できる人などいない。
しばらくするとダアン!と何かが破れる音がしたのだ。2人は恐る恐る振り返ると喚起のため後方ハッチを開けていた大型ヘリから飛び出す血に濡れているネフィリムが見えたのだ。
『…………』
呆然とする2人。映像を見たから分かるのだ、実力で格上である響でも倒しきれず、聖遺物キラーの未来でなければ戦闘面で御する事が叶わない相手がいま首輪の外れた状況で目の前にいるのだ。
普通なら逃げるのが最上の選択なのだが、仮に2人が逃げた場合狙われるのはナスターシャだ。彼女が襲われたらひとたまりもないだろう。後退の選択ははなから用意されていなかった。
「調……やるしかないデスよ………」
「うん分かってる」
2人は勇気を出して首にリンカーの入った注射を刺して聖詠を唱える。
『Zeios igalima raizen tron』
『Various shul shagana tron』
素早くギアをまとって切りかかる。まだ手負いのため動きが鈍い。攻撃を当てるが殆ど効果が出ない。
「硬いデスよ!」
「あの人どうやってこんなのにダメージを…」
2人が踏み込んで攻撃を加えようとするが、その思考がバレたのかネフィリムに右腕で薙ぎ払われてしまう。何とか受け止めるが軽くはないダメージを受ける。
「つ、つよいデス……」
「…………切ちゃんやるしかないよ」
調はそう言ってリンカーを取り出す。
「重ね掛けは危険デスよ……」
「分かってるでもやらなきゃ」
2人は覚悟を決めた。2本目のリンカーを刺して唱える。
『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl』
無限機動から生み出される果てしなき斬撃と刃の一閃で対象の魂を両断する一撃。2人の絶唱の一撃がネフィリムに直撃した。
辺り一面に爆発が起こる。2人ともギアを維持することが出来ずに解けてしまう。土煙が晴れるとそこには血まみれだが、ネフィリムが立っていた。そして切歌を喰わんと近づいていく。
「切ちゃん逃げて!」
その時無力な自分が思い浮かべていたのは
『偽善者とか私よく分からないけど……ただ!守りたいものを間違えないで!!そのためにギアを掲げてあなたは歌うんだよね!?』
守りたいものがあるのに何で自分は地面を這いつくばっているのか。
しかしぼろぼろの切歌は動けない。命の風前の灯火かと思われたが、そこで紫色の閃光がネフィリムの首を落とした。
「な、にが……デス……」
「…大丈夫?」
驚く切歌に声をかけるのは動かなくなったネフィリムの背の上に立つ未来だった。異変に気が付いて急いでくれたのか息が若干だが上がっている。圧倒的強者が場を鎮圧した。
その後、帰ってきたマリアに抱きしめられる切歌と調。
そして、ウェルは、
「どーしてくれるんだっ!ネフィリムが!」
「落ち着いてあの後心臓を取り出したけどまだ動いてる、心臓さえあれば十分作戦の実行は可能だと前に言ってたでしょう?」
そう言って未来はネフィリムの心臓をぐいっと渡す。
するとそれに頬ずりをするウェルの気持ち悪い姿が拝めた。
◎
F.I.S.の足であるヘリの一室。ベッドの上でウェルの治療を受けながらナスターシャは自分やっている事に限界と疑問を覚え始めていた。自分は間違っているのではないだろうか?優しいあの子たちに重い十字架を背負わせているのではないだろうか?と。
傍にはマリアがいる。優しい子だ。
調と切歌は危険な目に遭った。
未来は黙って自室で本を読んでいる。
考える自分は何をすればいいのか、こんなテロリストの真似事をしていて本当にいいのかと。
ナスターシャの体調が良くなったためミーティングが始まる。
未来にネフィリムの首を落とされた狂乱から覚めたウェルが当面の行動方針について話し始める。
最初にネフィリムの心臓の画像を見せる。
「それはネフィリムのよね…?」
「覚醒心臓です。必要量の聖遺物を与える事でようやく本来の出力を発揮できるようになりました」
マリアの質問に答えるウェル。その言い草にピクリと肩を震わせる未来。しかし、表情には出さない。
「この心臓とあなたが5年前に入手したそれを使えば―」
「ッ…」
ウェルの言葉にここでマリアが動揺する。5年前と言われて何のことなのか分からなかったからだ。
「お忘れなのですか?未来さんの胸にある神獣鏡ですよ。発掘チームから強奪したね!」
「え、えぇ……そうだったわね…………」
やれやれと言った感じで声を荒げられる。当然だがマリアはそれを知らない。
その時の発掘チームの1人が天羽奏の親なのだ。そして彼女の人体実験から採取したリンカーのデータがマリア達の扱うものに流用されているのだからやるせない。
ウェルの態度は明らかにマリアをフィーネと思って扱っていなかった。薄々偽物だと気が付いているのだろう。
「マリアはまだ記憶の再生が完了していないのです」
すぐさまナスターシャが擁護に入る。人格は復活したのに記憶は都合よく戻っていないなどどうみても苦しい。
「聖遺物の扱いは当面私が……話はこちらにお願いします」
「これは失礼。話を戻すと、フロンティアの封印を解く神獣鏡と起動させるためのネフィリムの心臓がようやくそろったわけです」
「フロンティアの封印された場所も先だって確認済」
パチパチ…手を叩きながらウェルは言う。
「すでにでたらめなパーティ開催準備は整っているのですよっ。あとは私たちの奏でる狂騒曲にて全人類が踊り狂うだけぇ!」
明らかに人を救いたいという善意で動いているとは思えない顔で楽しそうに言う。
その場にいた全員が胡散臭そうな顔をする。
「ですが今は少し休ませていただきますよ……それに考えたいこともありますから」
フロンティア攻略前なのに装者たちはボロボロでとても行動できる状態ではなかった。実際の遺跡にはどのような障害があるのか分からないため不十分な面子で行くわけにはいかない。
ウェルもそれは分かっているのか首を縦に振る。
◎
ナスターシャはマリアと静かな湖畔で話し合っていた。
「これまでの事でよく分かった…私の覚悟の甘さ…決意の軽さ…」
「…………」
穏やかな景色とは裏腹に2人の間に重い雰囲気が漂う。いよいよマリアも現状に限界を感じているのだと。
「その結末がもたらすものが何なのかも……」
そう言って正面に回ったマリアは、
「だからねマム私は―」
「その必要はありません。あなたにこれ以上新生フィーネを演じてもらう必要はありません」
「マム何を言うの!?」
「あなたはマリア・カデンツァヴナ・イヴ。フィーネの魂など宿していない、ただの優しいマリアなのですから……」
優し気にナスターシャは言った。
その会話が第三者に聞かれるとも知らず。
◎
リンカーの重ね掛けで治療中の切歌と調は業務用のスーパーで買い出しに来ていた。少しでも安上がりでたくさんの量を!という涙ぐましい努力が見えた。
「楽しい楽しい買い出しもこうも荷物が多いと労働デス!」
「リンカーが抜けきるまでは我慢だよ……」
切歌は調がいつもよりもボーっとしているように見えた。いつも一緒にいるからこそ気が付けた事だ。すぐさまどこかで休憩を取ろうという話になる。
ノイズ被害で破損して改築中の廃ビルの1つに腰掛ける2人。周りには工事で使うのか大量の鉄パイプがおかれている。最近起きた事を考えると2人の中には明るい話題が出てこず、自然と不安や暗さの混じった話題になる。
「フィーネの魂が宿る器として施設に閉じ込められていた私達……」
「…………」
「私たちの代わりにフィーネの魂を宿すことになったマリア……」
「…………」
「自分が自分で無くなるなんて怖い事押し付けてしまったデス……」
「…………」
「調?」
先ほどから反応が無い事に違和感がそして振り向くと、汗を流して苦しそうに息が浅くなっている事に気が付いた。
「調ずっとそんな調子だったデスか!?」
「大丈夫、ここで休んだからもう……」
自分は大丈夫だとアピールしようと立ち上がろうとするが、立ちくらんでしまい横にあった鉄パイプもたれかかってしまう。それに連動して2人の上にある鉄パイプも下に落ちてくる。
死を覚悟した切歌は無駄だと分かっていても反射的に手をかざしてしまう。すると手先からバリアのようなものが現れて2人を守っていた。
「あれ…………?」