過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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それはそう遠くない未来

 切歌のメディカルチェックが行われている。先日リンカーを重ねがけしたことによるオーバードーズによって体が蝕まれていたのだ。

 

「リンカーの過剰摂取による不正数値もだいぶ安定してきましたね……」

「よかった切ちゃん、これで足を引っ張らずに済むね」

「リンカーの管理と維持はあなたの務めです。よろしくお願いしますよ」

「分かってますって……もちろんあなたの体の事もね……」

 

 そんな会話の中、切歌は先日自分の手の先にバリアが発生して自分と調を守った事を思い出していた。間違いなくギアを使ったわけでも自分自身の力でもない。

 

(あれは……私のした事デスか……?)

 

 ふと脳裏に浮かぶのは自分が自分で無くなる姿、自分知らない誰かが自分の中にいる恐怖、そして調との乖離。

 

「ッ!?」

 

 寒気と吐き気がする。頭も痛い。

 

 

 響は朝早く目が覚めたが気分はすぐれなかった。理由はたくさんあるが大部分を占めるのは未来だ。

 彼女に対する後ろめたさは酷い事を言ったからだけではない、神獣鏡のシンフォギアをまとっているという事はいまだにシェム・ハの脅威は終わっていないという事だ。

 どうすればいいんだと考える。神獣鏡は危険だから絶対に受けないようにと言うだけなら簡単だ。しかし響の危険と他の2課メンバーではその危険の認識があまりにも違いすぎるのだ。

 バラルの呪詛が解除されてしまうためシェム・ハ復活の器となってしまう事が危険なのだが、他の人達はシンフォギアがやられたら戦力ダウンとしか思わないだろう、聖遺物は消滅したら取り返しがつかないのだから。そして響はそれを説明する術が存在しない。

 

 そしてもう一つはガングニールの侵食が酷くなっている事だ。自分の体だから分かるのだ、もうほとんど時間が残されていない事に。

 

 響は恒例になっている朝のランニングに行こうとしていた。最近の弦十郎は忙しいため一人で出ているのだ。今日も頑張るぞと寮の玄関から出るとそこにはジャージ姿の翼とクリスがいた。

 

「どうしたんですか?」

「いやなに立花に付き合おうと思ってな」

「あたしゃこいつに無理矢理」

 

 恐らく走る事が目的ではなく何か話したいことがあるんだろうなと響は予想した。2人と走るなんて前の世界で未来が行方不明になったのちF.I.S.にさらわれて、そして生きている事に希望を持って、元気づけるために師匠が無理矢理に装者を連れ出して走らされた時以来だなと思い出す。

 この事を覚えているのは世界で響だけなのだが。

 

「ふふっ…とりあえず出ましょうか?」

 

 懐かしい思い出に少しだけ浸かって響は言った。

 

 

「はぁー……ぜぇ……ゲホゴホッツ……!」

「お茶どうぞ」

 

 案の定というかすぐにばてたのはクリスだった。わがままボディだけでなく体力もわがままだった。既に死にかけだ。

 響は近くにあった自動販売機に飲み物を買いに行っていた。

 走り出してわずか5分、内心体力無いなーと思いながら体力バカである響と翼はクリスに合わせて減速する事に。そして公園のベンチにクリスを座らせているというわけだ。

 

「それで」

 

 響は先に切り出した方が良いだろうなと思い口を開く。

 

「2人が話したいことって何ですか?」

 

 翼とクリスは驚いた顔をする。響はバレてないと思っていたのか…と秘かに驚く。もっとも響も未来関連で不安であるのは隠せてはいないが。

 爽やかな朝の雰囲気とは違いここにいる面子の空気は暗いし緊張感がある。

 

「えっとだな……その大丈夫か……」

 

 クリスはもごもごしながら問う。

 不器用で上手く人に接する事が出来ない、クリスらしいグダグダしてて何を心配しているのか分かりづらい問いかけだった。

 響はそれなりの付き合いなので何を心配しているのか分かった。

 顔を陰らせながらも言う。

 

「未来の事だよね?正直大丈夫ではない…です、けど敵対した以上は覚悟を決めないと……」

 

 翼はそんな悲痛そうな響をみて言葉をかける。

 

「立花は昔私に奏の事を忘れずにそれでも前に進むように語った」

 

 翼はあの日遊びに行った日の事を口にする。

 それは2人しか共有していない思い出。夕焼けそして落ちた後もずっと話したあの想い出。そして、

 

「立花もあの言葉を証明してくれないか?」

「あ……」

「確かに別れの言葉は辛い、傷つけてしまったのは事実だ、でも小日向との思い出はそれだけでは無いのだろう?」

 

 真っ直ぐ視線を向けて響に言う。昔意固地になっていた自分に響がそうしたように。

 

「小日向との楽しかった思い出を話してくれないか?」

「あぁ……そうだった……私も向き合わなくちゃ……」

 

 そう言って響は思い出を話し始める。前に2課のメンバーの前で語った時よりも長い時間話続けた。結果としてランニングの時間はなくなってしまったのだがまったく気にならなかった。

 

「あのさ……お前はあいつとどうなりたいんだ?」

 

 クリスは核心に迫る質問をする。

 響はその問いに対する明確な答えが無かった。仲直りしたい?未来に裁いて欲しい?何を望んでいるのか色々ありすぎて分からなかったが1つだけ確信している答えがあった。

 

「私は……未来にシンフォギアをまとって欲しくないです……」

 

 これだけは本心だ。シェム・ハの事もある。それにあの時シンフォギアをまとって戦っていた未来が満たされているとは到底思えなかったのだ。

 

「そうかそれならまずは小日向と話し合って考えを知らないとな、お前のその手は繋ぐためにあるのだろう?」

 

 翼の言葉に響は天啓を得たかのような気持ちになった。

 

「それにだ立花。奏と違って小日向は死んでいない。まだ思い出を作り直せるチャンスはあるんだ」

 

 翼はそう言い切る。

 死んでいる人間は人の思い出の中でしか生きる事が出来ないが、生きている人とはいくらでも向き合いようがあるのだ。それなのに向き合おうとしないなんて勿体ないではないか。

 

「そうですよね。私未来に許されないって事ばかり考えてました。もう駄目なんだって、許す許さないは私が決める事じゃなくて相手が決めることですよね。たとえ結果が拒絶だとしても向き合います」

 

 クリスはじっと響を見ていた。翼はうむといった感じで嬉しそうだ。

 

「ところでそろそろ準備しないと遅刻だぞ」

 

 クリスの一言で慌てて帰宅した。

 

 

「デタラメ……だと?」

 

 部下の報告に、弦十郎は怪訝そうな声で言う。

 

「はい…NASAが発表している月の公転軌道にはわずかながら差異がある事が確認」

「誤差は非常に小さなものですが間違いありません。そして……この数値のズレがもたらすものは」

「ルナアタックによる月の公転軌道のズレ今後数百年の間は問題ないとされてきたが」

 

 全ての情報が欺瞞だった。もう与えられる情報は鵜呑みには出来ない。

 

『企てる?人聞きの悪い……我々が望むのは人類の救済!月の落下にて損なわれる命を可能な限り救い出す事だっ!』

 

 弦十郎は前にウェル博士が言っていた事を思い出す。

 

「F.I.S.は遠くない未来に月が落ちてくるからこそ動いていたわけだな……」

 

 米国の組織でありながらも離脱して独自に行動をしている理由は今まで不明だったが今回の調査でやっとわかった。それなら刺客に狙われる理由も分かるというもの。

 もちろんソロモンの杖を使い多くの人間を恐怖に陥れる事や命を実際に奪うやり方を肯定するわけでは無いのだが、彼女らにも同情するべき事情を抱えているのも事実だった。

 

 

 未来へ向き合う事を決めた響はスカイタワーに向かっていた。この日はナスターシャとマリアがここにいるからだ。

 この日はF.I.S.と米国政府が密談を行う、そして決裂するのだ。

 響の目的はF.I.S.と米国政府エージェントとの直接交渉、つまり勝手に2課の代表ヅラをしてここに来た。

 それにノイズが溢れて少なくない人たちがここで亡くなるのだ。それだけは避けたいと思っている。

 

(頑張らなくちゃ……)

 

 響は少しだけ元気になっていた。2人に胸の中に蟠っていたものを少しだけ取り払ってもらったからだ。

 もちろん簡単な問題では無いし、全てを話せない以上やはり不誠実ではあるのだが。本気だという姿勢を見せずして何が立花響だと。

 すぐさま未来に会えるわけではないけど会えたらちゃんと謝らなくては。

 

 響はスカイタワーの正面玄関の自動ドアをくぐると、

 

「え?響……?」

「未来……な、んでここに……?」

 

 そこには未来がいた。

 

 

 スカイタワー58階にナスターシャとその車いすを運ぶマリアの2人はいた。

 まだまだ不調な切歌と調はお留守番。未来にはいざという時に援軍に来るように言いつけてある。ウェル博士に関してはマリアもどこにいるのか分からない。

 マリアは先日のナスターシャの言った事を思いだしていた。

 

『あなたにこれ以上新生フィーネを演じてもらう必要はありません』

 

 意を決して問う。

 

「先日のあれは…マムあれはどういう……」

「言葉通りです」

 

 マリアの疑問に関してストレートに答えているのに伝わりにくい回答をする。当然だ、この時点ではそれが何を意味するのマリアには分かろうはずがないのだから。

 

「私たちがしてきたのはテロリストの真似事に過ぎません……真になすべきことは月の落下によってもたらされる最悪をいかに回避するか……違いますか?」

「つまり……今の私達では世界を救えないと…………」

 

 ナスターシャの言い分にマリアは苦しそうな口調で話す。自分が使えない奴だと責められているように感じたのだ。

 ナスターシャの指示のもとある会議室に入る2人。そこには、

 

「なっ!?マムこれは……っ」

 

 驚きを隠せないマリア。その部屋には黒服の米国人5人がいたからだ。そう米国のエージェントだ。

 それに対してナスターシャは答える。

 

「講和を持ち掛けるため私が招集しました」

「!」

 

 ここに来てマリアはナスターシャが言っていた事の真意が分かった。

 フィーネの振りをしなくていいというのはマリアを見限るという意味ではなく、大きな組織と協力して月対処に乗り出そうという事だったのだ。

 

「講和を結ぶつもりなの……?」

「ドクターウェルにも通達済です。さあこれからの大切な話をしましょう」

 

 マリアは状況が目まぐるしく動きすぎて呆然とするしか出来なかった。

 

 

「…………」

「…………」

 

 響と未来は10階のレストランで一緒にランチを取っていた。この上なく気まずい。いや世界一気まずい。

 未来は先ほどから皿に乗っている食事を口に運びながらもチラチラと響を見て、目が合うと気まずそうに逸らすを繰り返している。

 こうなった切っ掛けは先ほど未来が響に、

 

『えっと……もしよかったら一緒に食事でもどうかな……?』

 

 と言ってきたからだ。当然未来と話したい響は乗った。自分から切り出せなかったのは情けない話ではあるのだが。

 未来がこの話を切り出したのは響と話したいからというのと、極力響を暴力で黙らせる真似をしたくないと言う二つがある。

 ある程度お皿の料理を口に運び終えると今度は勇気を出して響が切り出す。

 

「えっと…未来は何でここにいるのかな?」

「それを聞きたいのは私の方だよ、何で響はここに来たの?ここでの会談の情報は2課に漏れてないはず……あれ、いやそもそも響って何でここに……ってあれ?」

 

 未来はここに響が来た事が予想外過ぎてどうやら混乱を極めている様子だ。漏れてなくて当然だ、響の情報源は実際の体験なのだから。

 

「色々あってマリアさんがここにいるって聞いて直接話がしたいって思ったんだ、もちろん他に仲間はいないよ。本当に私だけ」

「無謀すぎるよ……それも響らしいけどね」

 

 響の無鉄砲さにくすくすと口に手を添えて笑う未来。前にあんなひどい別れがあったとは思えない。

 

 本来ならこれから起こる事件の事を考えたらここでのんびりと昼食はあり得ないのだが、響はこの再会を逃したくなかった。恐らく会談を邪魔させないためにいるであろう未来を突破出来ないのもあるが。

 そしてもしここで機会を逃したらもう二度と何の邪魔も無く未来と話せる場面は回ってこないと修羅場を幾度も潜り抜けてきた響の勘が告げていた。

 

 響は意を決して謝る。

 

「未来…………ごめんなさい!私未来に許されない事言っちゃった……許して欲しいなんて思わない……でもこの気持ちだけは受け取って欲しい!」

 

 そう言って深く頭を下げる。

 未来はそれを見ると最初はポカンとしていたが謝罪を受けていると気が付くと慌てて、

 

「い、いや謝らないで!私の方こそライブに誘ったのに行かなくて、それにいじめられてたのに平気そうな顔をしてたから大丈夫だって思ってた……そんなはずないのにね……いわれるまで気が付けなかった私の方こそごめんなさい!」

 

 未来のそれは本心からくるものなのが分かる。そして彼女は付け加える。

 

「それにそもそも許す以前に怒ってないよ。響の恨みは当然だと思うから。最初はふさぎ込んじゃったけど……」

「未来……」

 

 決して元通りとは行かないがとりあえず会ってすぐ戦う展開にはならなくてホッとする響。未来に手など上げたくない。

 そしてずっと気になっていたことを聞く、

 

「未来……なんでF.I.S.に……どうしてシンフォギアをまとったの……?」

 

 現状一番知りたい事をストレートに尋ねる。

 未来はダイレクトフィードバックシステムで強制的に操られているとは思えなかったのだ。恐らく自分の意志でシンフォギアを手にして戦っている。しかもあの実力は並大抵の特訓を重ねたわけでは無いはずだ。

 知りたかった、自分がこぼれ落としてしまった何かを。

 未来は悲しそうな顔をして俯いた。そして意を決したように響の目を見る。

 

「そうだね…まずは私からだね……どこから話そうか…………」

 

 未来は自身が体験した過去を話し始めた。




「LUCK SONG」という曲に元気づけられる毎日
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