過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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気が付いた時には既に終わっていただけの話

 未来は親友である響に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 何故なら。

 

「ごめんちょっといけなくなっちゃった」

『えぇ~っ!どうして!今日のライブ未来が誘ったんだよ!?』

「盛岡のおばさんが怪我をして……お父さんが今から車を出すって…………」

『私よく知らないのにぃ…………』

「ほんとにごめんね……」

 

 そう言って後ろ髪を引かれる気持ちで通話を切った。

 未来はツヴァイウィングのライブに行こうと親友の響を誘ったのだが。

 

「はぁ……」

 

 溜息が漏れてしまう、事情が事情なので不貞腐れる形になる。まだ彼女は中学2年生、大人の事情と理解できてもすんなりと落とし込んで己を納得させられるほど大人ではない。

 仕方ない事とはいえ、誘っておいてドタキャンと言うのはいい気分ではなかった。

 響に自分が好きなものを知って欲しかったし、もし好きなものを共有出来たらそれは素敵な話だと思っていたのだ。

 

「未来もう出るぞ」

 

 小日向父がそう言って出て娘に外に出て車に乗るように促す。特段悪意がある言い方はしていないが小日向未来フィルターを通すと意地悪な奴に思えてしまう。

 

「はぁ…………」

 

 仕方のないとはいえ溜息が止まらない。

 そんなに彼女は大人ではないのだ。

 家の外に出ると憎たらしいほどいい天気だった。こんな日にライブに行けたらさぞ楽しいに決まっていた。

 

 

「未来着いたわよ」

「うぅん……?」

 

 母親に肩をゆすられて目が覚める。未来はいつの間にか車の中で眠っていた。

 ふと確かめると時刻は午後6時をちょっと過ぎたくらいだ。もう日が傾きかけている。

 響はライブ楽しんでくれてるかなと携帯の連絡用のアプリを開くと「ペンライト買ったよ!」と言う自撮り付きのメールが来ていた。未来は自分の分まで楽しんでくれたらいいなと思う。そして私の分まで楽しんできやがって~!とか言うのだ。

 

 この手の親族が集まるイベントと言うのは内容などは正直なところ関係なくて大人が酒の席の出汁にするパターンが多い。子どもはまぁつまらないものなのだ。彼女の両親はお酒を口にして楽しんでいる。

 とりあえず邪魔にならないよう未来は端っこでテレビを見ていた。

 見ていたのは特に面白いと思えないクイズ番組だ。

 近年教育に悪い云々と視聴者からケチをつけられた結果、テレビだからこそできる非現実を追い求めたギリギリの笑いを狙う番組がめっきり消えた。

 確かにクイズや知識を披露する番組は面白いが毎日のように見ていては流石に飽きる。

 未来がダラダラとテレビを見ていると突如番組が止まる。

 どうやら緊急速報のようだった。

 

『番組を中断して臨時ニュースです』

「ん…?」

 

 番組がツヴァイウィングのライブを行っている会場を映す。しかしそれは未来が知っているそれではなく、火の手が上がっていた。

 

『現在ツヴァイウィングがライブを行っている会場でノイズが大量発生いたしました』

「………………………………」

『現場と中継がつながっております』

 

 彼女の時が止まった。

 まず確認したのは画面の左上の「LIVE」という文字だ。未来の知識が間違っていないならそれは生中継という事だ。

 続いて響に電話をかけるが『おかけになった電話番号は現在使われておりません』という無情な返事。

 そして最後に響がアプリに残したペンライト付きの自撮り、それは今現在進行形で炎上している会場にいるという決定的な証拠。

 

「………………………………」

 

 みるみる青ざめていく未来。

 いよいよ脳が現実を認識し始めていた。父親が未来に話しかける。

 

「未来?これはもしかして……」

「今、響が行ってるライブ……」

 

 

 未来が家まで帰れたのは次の日の昼過ぎだった。両親はお酒が入っていたためその日は泊まるしかなかった。未来は無論一睡もできなかったが。

 

 響の両親曰く今響は病院での手術が終わり絶対安静の状態らしい。

 彼女は教えてもらった病院に行くとロビーは多くの見舞客でごった返していた。普段ならば概ね静かなロビーが喧騒に包まれている。

 実際にニュースで見た情報ではなく視覚で生に感じるノイズの大災害が起きたという証拠。響が巻き込まれたのはガセで実はみんなグルで自分をからかっているんじゃないのかという可能性は否定された。

 そう、これは現実なのだ。

 とりあえずホテルの受付の最後尾に並ぶ未来。

 順番が回ると、

 

「すみません。立花響さんの見舞いの者ですが……」

「立花響さんですね。少し待ってください」

 

 未来は受付の女性に要件を言う。

 リアルだった。この数の見舞客を捌くのに疲れ切った女性の顔が、もううんざりだという表情が。

 

「立花響さんは503号室です」

「ありがとうございます」

 

 答えてもらい未来は素早くエレベーターに向かったが、人が多かったため階段で向かう事にした。

 お目当ての部屋に着く。目の前には四人部屋、表札には「立花響」の文字が。

 未来はここに来てこの名前をこの場で見る事を望んでいたのだろうか?というシンプルな疑問にぶち当たった。これを望むという事は響が無事でない事を望んでいるという事なのか。

 そんな詮無い思考をしながらも扉を軽くノックして部屋に入る。

 響のベッドは入り口から見て右奥だった。点滴が繋がれた腕、電極が貼られた体、包帯に包まれた肌そして呼吸器をつけている顔。まるで非現実的だった、ドラマの中の世界のような。

 

「あ、うぅあああっ…………」

 

 未来の涙は生きていた事への安堵か、彼女が重症である事への自責か、もしくは両方か。とにかく涙が溢れた。

 

 

 通常はこのレベルの重体であれば集中治療室に運ばれていてもおかしくないのだが、ノイズ被害者が多すぎるため一般病室に敷き詰められているのだ。そんな説明を見回りに来た女性看護師の方から聞く未来。

 すると部屋に響の母親が入ってくる。

 

「ぁ……未来ちゃん……」

 

 彼女にはクマが出来ている、恐らくまともに眠れていないのだ。

 未来は何を言ったらいいのか分からなくなった。とりあえずは、

 

「ごめんなさい……私のせいで響が……私が誘わなかったら……ごめんなさいぃ…………」

 

 彼女の涙が止まらない。

 響の母親は大丈夫よと未来の背中をさすり続けた。

 

 

 ツヴァイウィングのあの事件がいまだに世間を騒がせていても学校は続いていく。

 未来が校門をくぐり教室に入ると案の定その話題で持ち切りになっていた。

 ざわついている教室内、

 

「ねぇ未来さん!ライブ大丈夫だったの!?」

 

 知り合いが声をかけてくる。

 未来はあった事をそのまま話す。

 

「ううん、私は用事が入って行けなかったの」

「あ、そうなんだラッキーだね」

 

 ラッキー…未来は相手にそんな意図が無い事は分かっているのだが響が意識不明の重体になっている事を考えると手放しには喜べなかった。

 

「……うんでも一緒に行くはずだった響が大けがで入院しちゃって……」

「ええっ!そうなの?」

 

 未来の言葉に素直に驚いた反応をされる。身近に事件の被害者がいるとは普通は思わないだろう。

 

「おい聞いたかよ!サッカー部の田中先輩がライブでノイズにやられたって!」

 

 突如響き渡る声。

 未来もその名前には聞き覚えがあった。サッカー部の主将であり、実力ルックス面で抜群の人気を誇るこの学校屈指の有名人だ。

 今まで災害と言うのは未来の中ではテレビの向こう側の出来事だった。それがこんな周りに起こるなんて非現実的だった。

 

 その日は全く授業に身が入らなかった。

 

 

 ぴりりり…未来の携帯に着信が来る。画面を見ると響の母親だった。

 

「はい、どうしました?」

「未来ちゃん!響が目を覚ましたの!!早く来て!」

 

 電話越しに朗報が来た。

 

 

 すぐさま未来は病院に向かって走った。到着してそのままの勢いで響のいる病室へ。扉を乱暴に開けると、

 

「響っ!目を覚ましたって!!」

 

 そう言って右奥のベッドに向かう。そこには目を開けている響が。そして、

 

「え……な、何で…」

 

 と信じられないものを見るような目で響は未来を見つめる。未来は響が目を覚ました嬉しさでその反応を見逃してしまったが。

 

「未来…どうして…シェ、ぐ、くぁ…ひ、ひゅー……」

「え!響大丈夫っ!?」

 

 いきなりえずき始める響。未来はもちろんその両親も慌てて体をさする事に。

 

 

「じゃ私達は先生から説明を受けるから未来ちゃんは響をお願いね」

「はい」

 

 響の家族はこれからの治療についての説明を受けるため一時退席する事に。

 気まずい沈黙があった。未来は何から切り出していいのか分からなかった。言いたいことが多すぎる。

 

「…響ごめんね…わ、私がライブに誘ったばっかりに……ごめんなさい、本当にごめんなさいぃ……」

「………………………………」

 

 黙り込む響。しかし意を決したように声を出す。

 

「未来……今日は…何年の…何月何日……?」

(え?何で日付?そういえばこの部屋にはカレンダーの類は無いからどれくらい寝てたのか知りたいのかな?何年って年単位で寝てたと思ってるかな?)

 

 未来は疑問点はあったもののとりあえず響の要求に応える。

 

「え……あ…そ、そうだよね気になるよね。ごめんね自分の事ばっかりで…えっと今日はね―」

 

 

「また来るからね響」

 

 面会時間が終わり、未来は帰宅の途につく。

 色々あったが響は生きてるし、リハビリ次第で元の生活に戻れる。それだけでよかったと思えるのだ。何があっても自分が味方であり続ければいいのだ。

 

 色々考えている内に自宅に着く。玄関を開けて、

 

「ただいまーっ」

「おかえりなさい」

 

 未来は思った以上にテンションが上がっていた。

 

「未来どうしたの?」

「えっとね!響が目を覚ましたの!」

「それは良かったわね!」

 

 今日は何だかんだいい事があった、これからもそれが継続出来たらなと考えるのだ。

 

 

 響が目覚めて一週間が経った。前よりも元気になっていて安心する。未来は今日も病室にお見舞いへ行く。

 

(何かお土産とか用意しようかな、あまりご飯は食べれないらしいけどコッソリお菓子とか?)

 

 重症の響に固形物系は危ないのだが浮かれているのかそれに気が付かない未来。入院している病院にはコンビニが内部にあるのでそこで物色して買う算段を立てる。

 

 

 病院に着くとすぐさまコンビニエリアに突入する未来。

 

「響ってあんまりチョコレート系好きじゃないよね…?」

 

 未来の視界に妙なものが映った。ツヴァイウィングの表紙に「ツヴァイウィング事件の裏に隠された人間たちの蛮行」と書かれたゴシップ誌だ。

 

「え?なにこれ?」

 

 

その後、響の見舞いを終えた未来はあの場で買った雑誌に目を通した。特に気になったのは「被害者12874人の内3分の2は避難時の2次災害によるもの」いう内容だ。

 

(まさか響は他の人を突き飛ばしてとかしてないよね…?)

 

 すぐさまその思考を止める。響はそんな人間ではない。自分が信じなければ誰が信じるというのだと気を取り直す。

 

 

 響が入院してから3週間が経つ。松葉杖ありだが歩けるようになっている。

 

「響って意外と頑丈……一杯ご飯食べると回復が早いのかな……」

「あ、はははそうかも……」

 

 未来は響の驚異的な回復具合に呆れたように言う。響は参ったなと言った感じで返す。

 未来は今マスコミがツヴァイウィング事件の被害者叩きを加速させている現状を知っている。響は不安なはずだと考えている。最近は努めて明るく振舞っている。

 

 

 今日は響退院の日だ。最低4ヶ月と言われていたのに1ヶ月弱で退院までこぎつけるとは信じられない生命力だった。

 すると見覚えのある車が響の家に着いている。

 

「響ーっ!」

「あ、未来」

「あって何よもう!せっかく人が駆け付けたのに!」

 

 何気ない会話普段通りの響だと安心する未来。

 

 

 今日は響が学校に復帰する日だ。タイミングが悪く会える機会が無くて4限目になっていしまった。未来は響の教室に行くのだがいなかったので校舎内を探し回る事になったのだが骨折り損のくたびれ儲けだった。

 

 放課後に響の教室に行くと彼女はいた。なので声をかける。

 

「響ー!」

「…未来」

 

 呼ばれた響は驚いた表情をした。何かがおかしかったがいきなり声をかけたのでそれでビクついただけだろうと結論付ける。

 

「響どうしたの?」

「っあ、いやぁいろいろと考え事だよ~」

「え、意外」

「いや私が悩みを抱えてたらおかしいのっ!?」

 

 未来は響の反応に違和感が、響が明らかに空元気だったからだ。どうしてだろう?と疑問を感じるがとりあえず一緒に帰ろうという話になる。

 すると目の前の廊下を占拠する二ヤついたグループが、

 

「おいおい人殺し、何堂々と学校に通っているんだ」

 

 その言葉に未来の頭の中は真っ白になる。なぜ響がそんな事を言われなければいけないのか……

 

「何が言いたいの?」

「いやさ~殺人犯と同じ空気とかアタシって吸いたくないんだよねぇ…ホントにさぁこんなに煙たがれてんのによく学校通えるよねぇ?ほんと勇気あるわ~」

「確かに勇気はあるよ、少なくとも複数人で取り囲まないと何も言えないあなた達よりは」

 

 響はそう言って生徒たちのいた場所をすり抜けていく。未来はそれを追いかける事しか出来なかった。

 

 学校から離れてからも2人は無言だった。先ほどの光景を見て明るいテンションになれるなら病院に行くべきだ。

 

「ね、ねぇ響…あれってやっぱり…」

「あー…まぁそうだね、あれだね…」

 

 気まずそうな雰囲気を出す響。誰のせいでそんな表情を、いや分かっているのだ。

 未来が自責の念に駆られていると、

 

「ま、まぁ!未来が気にする必要は無し!私やる事思い出したから帰るね!」

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

 未来を振り切るかのように響は走り去っていく。その場に取り残される。

 

 その後も響の迫害行為はエスカレートしていった。未来は直接的ないじめこそなかったが響に与するものとして無視されるようになった。それでもよかったのだ、響だけは離れないでいてくれるから。

 

 

「未来……響君と付き合うのはやめなさい」

「え……」

 

 父親から告げられたのはそんな言葉だった。

 

「な、んでお父さんまでそんな事を言うの…………?」

「心配なんだお前が学校でイジメられないか……」

「お父さんのバカぁっ!!」

 

 未来は親すらも信じる事が出来なくなってしまった。

 

 

 いつまでも一緒にいられると思った親友との別れは突然だった。

 

「私、今日引っ越す事になったんだ」

「……ぇ…………?」

 

 公園に呼び出された未来に告げられたのはその一言だった。

 

「ぁ、ぇ…ひ、引っ越し……?そ、れって…こ、この町からいなくなっちゃう……?」

「そうだよ、その引っ越し」

 

 意味が分からなかったあまりにも突然すぎて。

 

「そ、れって…イジメが酷いから出ていくって……?」

「それもあるね、あとお父さんが職場で不当な扱いを受けてるんだ。だから私たちの事を誰も知らない土地で再スタートを切ろうって事になったんだ。もう住む場所もお父さんの再就職先も決まってる」

 

 住む場所に就職という事はある程度前から計画されていたという事だ。それを匂わせない響の胆力に感心するともに、何故自分には言ってくれないのかと怒りと悲しさの混じった言葉を吐いてしまう。

 

「な…んで、何でっ相談してくれなかったの!?辛いって苦しいって!私も苦しかったんだよ!私のせいで響はライブに巻き込まれてっ!でも私は安全な場所にいて!何一つとして償う事が出来なくてっ!私はぁっ…私達はっ…親友じゃないっ!何でぇ……」

 

 未来はただただ悲しかった、あの時にライブに誘わなければこんな事にはならなかったのに……と考えてしまう。

 

「そうだよ、未来のせいだよ。未来がライブに誘いさえしなければ私はこんな目に遭わなかったのに。未来なんか大嫌いだよ」

「ぅ…ぁ……」

「まぁ、もう顔を合わせる事は無いよ。さよなら、もう会いたくないな……」

 

 それは心のどこかで欲していた言葉、なのにこんなにも心をえぐる。

 響がすれ違っていく。引き止めないといけないのに彼女の体が動かない。

 

「うぁ……ぁっ……」

 

 悲しさを通り越して絶望しかない未来はもう涙すらこぼれなかった。

 

 

 次の日の朝、響の家に行く。悪質な貼り紙や切り傷が入っている家は未来の心すらも傷つけていく。その家には人が1人もいなかった。彼女のたった1人の親友はこの町からいなくなった。もう会う事は無いのだ。

 

「うわあああっっっ……」

 

 彼女はむせび泣いた。

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