過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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何でこんなことになるの?

 様々な乗り物を使って未来が連れてこられたのはF.I.S.と呼ばれるフィーネの器の管理と聖遺物研究を行う施設だった。

 この施設に着くまでは可能な限り目隠しやヘッドフォンをつけられていたため未来はビルのような建物なのか、洞窟を掘って施設を埋め込んだのか厳密な判断は出来ない。

 

「ドクターウェル……その子は……」

 

 施設に入ってきた未来を車いすの女性が出迎える。

 問いかけに対してウェルは何でもないと言った感じで返す。

 

「ああ…ナスターシャ教授ですか、この子は私が異国で見つけた新たなシンフォギア装者ですよ」

「風鳴翼の観察をしたいと言っていたのに何故こんな事に……」

 

 あっけからんとしたウェルの態度に呆れたようなナスターシャ。

 未来は黙ってその会話を聞いている。

 ふと気が付くとその女性はじっと未来を見ている。何かを読み取ろうとしているように見える。

 

 

 その日はあてがわれた部屋に連れていかれた。そこは6畳ほどのスペースに机とベッド一式があるだけの簡素な部屋だった。

 未来はそれを見て、昔テレビ特集で見た殺人犯の独房を思い出していた。

 未来は自分の立場を再認識した。自分はここの研究者たちにとっては実験の為に一時的に育てているモルモットみたいなものなのだと。

 それから脱却して特別な、それこそ替えの効かない何かにならないと結局は前と変わらないと。

 

 

「こっちだ」

「はい」

 

 この施設の職員であろう男性に連れられて一室に連れられる。

 未来はすぐさま聖遺物の適正とリンカーと呼ばれる薬品を投与するための人体改造が施されることになった。

 

 正直に言ってその施設にいた人たちの目が未来は気に入らなかった。響を迫害した人たちと同じ目をしていた。自分たちの有意性を自覚して一方的に人権を踏みにじる嫌な目を、未来の嫌いな目を。

 でも我慢した、力を手に入れたらどうせ踏み倒せばいいと考えた。

 

 実験用の薄着に着替えさせられ台の上に体を固定させられる。宇宙人のアブダクションか悪い組織の実験風景か。

 腕に注射があてがわれてリンカーが体内に注入されると、

 

「あ、があぁ!ぐ、くあぁぁぁ!?」

 

 ただ叫ぶ。それは痛みだけではなく。

 理不尽への反逆の一歩を踏み出すための咆哮にも聞こえた。

 

(痛い痛い痛いいいっ!?こんなの聞いてない!!こんなの知らない!?)

 

 信じられないほどの激痛と感じた事の無い人体の異物感。

 しかし未来は必死に耐えた、すると部屋の隅にあった赤いペンダントが光り輝いたのだ。

 そして頭の中に1つのフレーズが思い浮かぶ。

 

『Rei shen shou jing rei zizzl』

 

「これは……」「素晴らしい!」「ウェル博士の連れてきた子は……」

 

 未来は言葉の大半を理解できなかったが歓喜しているのは伝わった。

 そう未来は賭けに勝ったのだ。その日、長らく欠番だった神獣鏡の適合者が現れた。

 

 

 表面上ではあるが未来の待遇は劇的に改善した。当たり前だ、もう彼女はシンフォギアをまとえる主力なのだから。

 ただし未来はそれを嬉しいとはひとかけらも感じないが。

 

「お願いします。聖遺物について教えてください」

 

 未来は研究者たちを捕まえて教授してもらえないか直談判していた。

 このままギアの使い方を覚えるだけでは、まだ自分は他者に使われる側に甘んじるしかないと感じて行動を起こしたのだ。

 

「ダメに決まっているだろう、こっちは機密を扱っているんだ。この手に持っているファイルがいったい幾らの研究費を投入して制作をしていると思っている。おいそれと教えられるか」

「何があったのですか?」

 

 未来の懇願に対して即座に否定の言葉を告げる男性研究者。するとそこにナスターシャ教授が現れる。

 すると相手は慌てて答える。

 

「あ、いやちょっと我儘を言われているだけですよ。お耳に挟むほどでは」

「いいから教えてください」

 

 ナスターシャの迫力に先ほどまで未来が聖遺物の勉強をしたいと言っていることを教える。

 

「なるほど……分かりました、彼女は私が責任を持って面倒を見ます。あなたは確かドクターウェルに気に入られていたはず……ならそちらの方も掛け合っておきましょう」

 

 それから毎日一秒たりとも無駄にしなかった。

 日に日にシンフォギアを操る力を伸ばす一方で施設の人間に頼んで、聖遺物の資料やオペレーティングにプログラミングの本を借りて勉強も並行して行う。

 特にウェルは未来をいたく気に入っており自分の研究結果の一部を教授してくれた。そこで分かったのはウェルは人格や思想は兎も角として研究者としては頭に十個は超が付くほどの研究者だという事だ。

 聖遺物と言う無機物と人体と言う有機物、全く違う哲学を備えた二つの摩擦を減らすというのは困難。それを限りなくリスクを軽減して摩擦を減らせる薬品を作れる彼は偉大だ。

 実際に未来はウェルの教える事の三割も理解できなかった。

 

 未来はレセプターチルドレンたちとは違い、自分の意志でここにいるのだ、遊んでる暇はない。

 

 

 ある日、自分と同じ境遇つまりギアをまとえる子供にあわされる事になった。

 

「初めまして」

「どうもデース!」

「…………」

 

 マリアと呼ばれる女性と切歌と呼ばれる元気な子はそれなりに友好的、恐らく未来に同じ境遇でも重ねているのだろう。

 調と呼ばれるツインテールの子は自分を警戒しているのは感じたが敵対の意志は感じなかった。友好の意志も感じなかったわけだが。

 

「よろしくお願いします」

 

 未来は取りあえず角の立たない挨拶でその場を凌ぐことにした。

 

 

「じゅりえっとぉ!!」

「うわあっ!?」

 

 未来は切歌の鎌の刃を飛ばす一撃で墜落してしまう。

 

 3人と訓練をして気が付いたのは未来が一番弱いという現実だ。ギアをまとって日が浅いのだから仕方のない事だが、仕方のないで済ませていたらいつまでも変わる事が出来ない。

 訓練で打ちのめされるたびに未来は自分のまとう神獣鏡の特性を研究して理解をしていく。

 

 神獣鏡の特性は聖遺物を分解するレーザーだ。

 これは言うまでもなく当てれば倒せるメインアームだ。

 しかし、手がバレれば相手が一番警戒する一撃になってしまう。当てるには別の方法で相手の足を止める必要性がある。

 

 次に飛行能力だ。

 足にある大き目の脚装は反重力を発生させる事が出来て飛び回る事が出来るのだ。当初は高所を取って一方的にレーザーを撃てば勝てると思っていたが現実はそんなに甘くはなかった。三人と訓練して飛んだはいいものの遠距離攻撃に墜落させられてしまうのだ。

 空を飛ぶという事は前後左右上下360°全てを晒してしまう自殺行為だったのだ。何かしらの方法で死角を埋めなければ戦闘においては役に立たなかった。

 

 最後にステルスだ。

 これはアウフヴァッヘン波形を含めて情報を完全に隠蔽できる性能があった。しかし致命的な欠陥が存在した。

 透明化している間はアームドギアの類が使えなくなるのだ。となると徒手空拳でやるしかないのだが、神獣鏡は基礎的な攻撃力と防御力がシンフォギアの中で最低値だった。

 とはいえ使い道はあるはずなので未来は気が付いたその日から体術や体裁きも訓練内容に盛り込むことに。しかし対聖遺物戦闘では活用が難しい。

 

 打ちのめされては訓練と研究を重ねていくうちに、半年で未来の強さは装者と3対1でも圧倒できるレベルにまで到達した。

 これには3人も施設の研究者たちも驚きを隠せなかった。

 

 

 未来がこの施設に来てから既に1年が過ぎていた。この場所も未来の当たり前の日常になるには十分な時間が過ぎている。

 

「おーい未来さんここデスよ!」

「ん……?」

 

 食堂で食事をとろうとしていた未来に声をかけたのは切歌だった。

 長テーブルを装者3人で占拠している。そもそもお昼も過ぎておりそこまで盛況というわけでは無いため咎められることは無い。

 過去に親友の事や自分の事で人と関わる事自体積極的な感情を持っているわけではないのだが、悪意のない相手に名指しで呼ばれてシカトするほど腐ったり人見知りというわけではないのでおぼんに置かれた定食セットを持ってその机に向かう。

 

 レセプターチルドレンはこの研究所ではまともな人権など保障されていないが、装者となればある程度の自由や権利も保証されている。

 食事に関しては特段嗜好品の塊というわけではないが成長に必要な量と栄養素はキッチリとしたものが出される。

 女性は特に生殖的要因から月単位での体調のリズムを整えなくてはいけない、もし仮に体調を崩しでもすればシンフォギアや聖遺物の正確なデータが取れないのだ。そのため食事や睡眠に休息はしっかりと確保されている。

 

 机に料理を置いたのだがすぐさま未来は資料をおぼんの傍に置いて、ながら見をしながら食事をとり始める。

 相手の前ではかなり失礼な行為だが、別段切歌たちと話したいわけでも仲良くなりたいわけでも無いため気にしない。

 それを見たマリアがオカンの様に咎める。

 

「ちょっと?相手を前にながら見は失礼よ。それに食事をとりながら文字を読まない」

「ん~…」

 

 フォークで野菜をついばみながら答える。口に物を入れているため口を開けられないため唸るように返事をする。ちなみに言いたかったのは「そうだね」だ。

 

「もうっ!!」

「そう言えば未来さん何読んでるの?」

「ん…リンカーの技術論」

 

 マリアの怒りは無視して口に入れていたものを飲み込んで調の質問に答える未来。調は出会った頃よりは話せるようになっている。

 マリアはリンカーと聞いて未来が装者としての訓練だけでなく、聖遺物学者として勉強と研究にも足を踏み込んでいる事を思い出す。

 

「リンカーって確かウェル博士から教わっているのよね?」

「うん、そうだよ。もしかしてリンカーに興味を持った?リンカーはねただ適合係数を上げてるわけじゃなくてね。聖遺物と人体という二つの全く異なる哲学を持つ存在を繋ぐ薬品なんだ。人体には人体の聖遺物には聖遺物の法則や多くのイメージを内包しているんだ。哲学って言われてもよく分からないよね?例えば半世紀前の映画では限りなく人と同じに見えるサイボーグを題材にした映画があったんだけれど、その中で人の皮を剥ぐとそこから鉄の指が出てきたんだ。それを多くの人は見て異物感に嫌悪を抱いたんだけど、それだけ人はイメージとして人体以外の物質を受け入れる事を拒否するんだよ、それが哲学なんだ。哲学は多くの人がそのイメージを持っているそれだけで成立するんだよ、極端な話多くの人が翼が無くても気合で飛べると思い込めば人は飛べると思う、まぁ翼がイコールで飛行のイメージだから難しいだろうけど。自然界にはハチドリっていう持っている翼の機動力では理論上は自分の体重を支えられない鳥がいるんだよ、それでも飛べるんだよ何でだと思う?その理由はハチドリ自身が自分は飛べない事に気が付いていないからって言われている、飛べて当たり前と思い込んでいる…だから飛べるんだよ。話が逸れちゃったね、あと説明してなかったけど適合係数はその拒否反応の大小を示しているんだよ。低ければ人体とギアの摩擦とも言えるバックファイアを受けるね。あとは―」

 

 未来の意地の悪い講義ラッシュにマリア達三人はその場から逃げた。

 

 

 施設の研究者たちが言うにはフィーネが暴走して2課に戦いを挑んだそうだ。そして敗北した。

 未来はフィーネに対して好感は持っていなかったが死んだからといって喜ぶような人間性は持ち合わせていない。問題は彼女が行った月破壊によってこれから公転軌道の変化がどのような影響を与えるのかだ。

 未来は何故フィーネが月破壊を狙ったのか理由が分からなかった。

 月を破壊しようとするなんてかぐや姫を取られたくない竹取の翁ぐらいだろう。

 

 

 通称ルナアタックと呼ばれる事件が起きた1週間後、未来はナスターシャに呼ばれる。

 

「失礼します」

「どうぞ」

 

 一言言って返事が返ってきたため部屋に入る。

 そこには未来と同じ装者のマリアがいた。何故呼び出したのか分からなかったが大事な話があるのだろうと予想づける。

 早速未来は切り出す。

 

「ナスターシャさん、ここに呼んだのは何か大切な話があるんですよね?」

 

 未来にとってナスターシャは数少ない尊敬のできる女性研究者だ。

 彼女の言動は苛烈でスパルタな側面が多分にあるが、同時に装者たちやレセプターチルドレンの将来を憂いているからこその厳しさなのは子供の未来でも理解できたからだ。

 

「ええそうです。まずはこの資料を見てください」

 

 取り出された資料、そこには月の公転軌道の予測が出ていた。そして地球へ近い将来衝突が予想されていた。

 NASAや米国政府の公式発表では今後百年以上は問題ないとの見識が出たのにだ。二人もこれには動揺が隠せなかった。

 

「これは本来の月の公転軌道の予測です。ですが一部の層が混乱を避けるためと、自分たちだけが助かるためにこの事実を隠蔽しているのです」

 

 未来もさすがに怒りを感じた。

 混乱を避けるのは分かるが、自分たちが助かるためと言うのはさすがに許せない。

 ナスターシャが頭を下げて言う。

 

「だからこそ力を貸して欲しいのです。力のない多くの人を助けるために」

 

 未来は考える。大量虐殺を別に望んではいないのだが、進んで他者を助ける気など無いのだ。

 彼女がこれまで己を鍛えてきたのは基本的に自分のためだ、他人ためだったことなど決してない。未来はお人よしだった親友とは違う。

 彼女はとりあえずごく普通の質問を投げかける。

 

「仮にここにいない切歌と調も含めて全員が力を合わせたとして、月落下を防ぐ何かしらの算段があるんですか?人員もいない、予算も無い、リンカーのストックも無限じゃありません。仮に落下阻止の作戦を行うとしても短時間で行わないといけません。……しかも米国政府を敵に回した状況で……正直無理だと思います」

「ええ、その通りです」

 

 ナスターシャは未来の考察を素直に肯定する。

 これは本人もとっくに分かっていた事なのだろう。そして問いかける。

 

「フロンティアと言うのを知っていますか?」

「フロンティア?」

 

 マリアは口を挟む。

 未来は自分の知識の範囲内で答える。

 

「資料で見た事はあります。先史文明期時代以前から存在する遺産だとは」

「そうです。フロンティアを起動して希望を見出したいのです。資料の通りなら星間航行が可能であり、解析が可能なら量産をして助けられる命の母数を増やしたいのです。情報を秘匿する権力者たちは自分たちだけがこれに乗るつもりなのです」

 

 ナスターシャの高潔な思いに2人は黙り込む。未来は別にしてもマリアは覚悟を決めたらしい。

 

「分かったわマム」

 

 正義の心なのか協力を呑むマリア。

 未来は考える。ここで不確定なナスターシャの作戦に乗るのは得策ではない。

 己が生き残る事を最優先とするなら権力者に媚びてフロンティアに乗せてもらうのが一番だ。それを行える交渉のカードも持っている。

 しかしそれをしようとは思えなかった。どうやら未来は思ったよりも正義の心みたいなものが残っているらしい。

 

「ナスターシャさんには色々と良くしてもらった恩があります。分かりました協力します。ですが先に言っておきます、私には人類を救いたいみたいな高潔な感情はありませんので。あくまでナスターシャさんの力になりたいという個人の感情で動きますから」

 

 余計な事を言っている自覚は未来自身ある、しかし偽りたくはなかった。

 実際にナスターシャの協力がなければ聖遺物の資料を手にする事も学ぶ事も未来は出来なかった。

 

「分かりました。感謝します」

 

 その回答にナスターシャは軽く頭を下げた。

 彼女からすれば最大戦力の彼女が首を縦に振ってくれるだけでありがたい事だからだ。

 

「マリアあなたにはフィーネを演じて欲しいのです」

「わ、私が?」

 

 こんなことを望まれると思っていなかったのかマリアに動揺が走る。

 レセプターチルドレンである彼女はフィーネの魂を宿す可能性を内包している。

 

「この計画を遂行するためにはドクターウェルの助力が不可欠」

 

 ドクターウェル、彼は未来をこの世界の門の前に連れてきた恩人ともいえる人物だ。

 だが未来は彼が嫌いだった。色々と世話になっているとはいえだ。

 とにかく醜悪な欲望を紳士的な顔をして誤魔化そうとしているが滲み出るそれは消せてはいない。

 彼は聖遺物の知識だけでなくリンカーを作る事の第一人者だ。今の限られたリンカーでは作戦遂行は不可能。

 ナスターシャはマリアに言う。

 

「彼をこちらに引き入れるにはあなたの体にそれが再誕したと思わせて異端技術の先端を所有していると思わせる必要があります」

「…………」

 

 作戦は理解できたしかしだ、マリアは葛藤していた。

 フィーネの器で無かった彼女は自分に自信など無いのに、他人になってみせるなど出来ようはずがない。自分すら満足に演じる事も出来ないのにだ。

 そんな葛藤に気が付いたのか、

 

「一晩待ちます」

 

 ナスターシャはそう言って話を切った。

 

 

 未来はマリアに呼ばれる。そして指定された場所に向かう、どうやら未来にも意見を聞きたいらしい。

 

「率直に聞くわ、あなたは私がどうするべきだと思う?」

「分かったといった手前引っ込みがつかないんだね?」

 

 未来の返しにマリアはうぐ…と言う。図星らしい。

 

「そ、そうよ!悪い!?」

「何に悩んでいるの?人類を救うのが重い?他者をだます事?ナスターシャさんの期待に応えられない事?フィーネがそもそも怖い?」

 

 考えられるマリアの不安を手当たり次第に列挙する未来。

 マリアは俯いて悩む。これからの選択次第で世界や自分の運命が変わってしまうのだから。

 

「全部よ……でもこのままただ見ているわけには……」

「答え出てると思うよ」

 

 マリアは後ろめたさや煮え切らなさはあるがとりあえず覚悟を決めたらしい。

 一晩と言わずにすぐさま返事をするマリア。

 

 

次の日、ウェル博士を含めて再び集まる。

 

「まさか再誕せしめしフィーネが目の前に!それに未来くんも立派になったもので僕も鼻が高いといった感じだよ!」

「…………」

「…………」

 

 ウェルの白々しい口上に閉口してしまう未来とマリア。

 ナスターシャは空気を換えるため声を発する。

 

「昨日ドクターウェルと相談して決めた、差しあたっての作戦を伝えます」

 

 そう言うと資料をテーブルに広げる。それは2課に関する情報だ、情報源には櫻井了子と書かれている。

 

「二課装者の一人がアーティスト活動を行っているためまずはコンタクトを取ります。そこで大量のフォニックゲインを獲得してネフィリムを起動させます―」

 

 未来は他にも色々と説明を受けていたが全く頭には入っていなかった。何故なら『融合症例第1号・立花響』の資料から目が離せなかったからだ。

 

(は…は……何で……こんなことに…なるの…?)

 

 

 その後、切歌と調にも応援を要請して反乱を起こすことになる。

 

 

 マリアはデビューからすぐさまチャート入りをして風鳴翼とのライブが実現する事になった。

 当然他の装者も日本入りする事になる。未来にとっては一年半ぶりの故郷だ、戻りたいとは思っていないが。

 

 

 最初に未来に課せられた任務はウェルの回収とソロモンの杖を神獣鏡のステルス能力を使って強奪してくることだ。

 ウェルは日本の装者の力を確認するためにソロモンの杖を使っての威力偵察を立案した。しかし未来はそれを行って警戒を高めると自分が杖を盗む際に護衛人数が増えて計画が失敗しやすいと断固反対をした。

 実際は響を可能な限り危険な目にあわせたくないだけだが、一応理屈にはあっているのでその意見は通った。

 相手は軍人だが所詮は少人数、アームドギアは使えないがただの人間相手ならギアの腕力だけで十分だ。基地で潜んでいると、

 

「…………実際、響さんはノイズやルナアタックの主犯を打ち取った英雄ですよね?」

「英雄かどうかはともかくそうですね。でもノイズと戦いたいならシンフォギアがなくても―」

 

(響っ…………)

 

 それは約2年ぶりの再会。未来は今すぐにでも声をかけて抱きしめたかったがグッと我慢する。

 そもそも自分はかつて拒絶された身であり、またここで飛び出したらナスターシャに迷惑がかかる。

 何よりももう自分はかつての親友の目の前に現れない方が良いのだ。

 そして響達は基地から出ていく。

 

「ではドクターこちらへ」

「いやいやそれには及びませんよぉ……」

 

 醜悪な顔で言う。自分でやるわけではないのに。

 相手は不審そうな表情を作る。

 

「なにを……うぐっ」

 

 制圧は十秒で終わった。未来からしたらなんてことはない仕事だった。

 

「んん~さすが未来君だ!!」

「……気が付かれる前にさっさと行きますよ」

 

 楽しそうな反応をするウェルに対して未来はあくまでドライに接する。

 

 

 未来はナスターシャの許可を得て生まれ育った町にいた。響と一緒に育った町だ。今回の任務が無ければまず帰ってくることは無かった。

 

「帰ってきた……」

 

 淡々とした口調で言う。

 今の未来は日本では失踪扱いなので帽子を被って調の持ち物の伊達メガネ、そしてぶかぶかで体のラインが出にくい装いをしている。

 未来がこの町に帰ってきた理由は何となくだ。

 敢えて理由をつけるならけじめをつけたかったのかもしれない。弱くて何も知らずまた出来なかった自分との決別を。

 

 最初に自分の実家を観察する。

 家の中はうっすらとしか見えなかったが、母親がテレビを見ているのが分かった。主婦が昼間の空いた時間にテレビ、まさに一般的な様相だった。

 特にこれと言って感慨も無くその場を立ち去った。

 

 あの日誰もいなくなった響の家に着く。

 張り紙の類は無かったが落書きはわずかに残っていた。それは彼女の心を締め付ける、これは何度見てもなれる事は無いだろうと思う。

 

 未来は故郷に帰っても懐かしいとは思わなかった。もうここは過去の場所でしかないと思っているのだ。

 

 

 端末から通信が入る。ナスターシャからだ。

 

「どうしましたか?」

『今アジトに二課のシンフォギア装者が侵入しました。すぐさま現地に集合してください。可能な限り基地内の後処理をお願いします』

「分かりました」

 

 ナスターシャからの指示に素直に従う。

 未来はステルスを展開してアジトに入り、隠していた小型コンテナに聖遺物や貴重品を入れて外に置いておく。またデータの類をPC端末にコピーして機械類を軒並み破壊しておく、データを消すのでは復旧される恐れがあるからだ。透明化したヘリに貴重品の類を積み込んだら、すぐさまマリア達の援護に向かう。

 マリアの持っていたネフィリムの檻を受け取ってから、響の方へ向くとウェル博士が雪音クリスという装者に銃を突きつけられていたため、彼女が気を抜いた一瞬をついて引きはがす。

 

「こいつって誰のことデスか?」

「お前何を言って…………あ…………?」

「いったい何が……」

 

(ごめん…………)

 

 わずかに走る胸の痛みに耐えながら未来は任務をこなす。

 

 

「だから私達だけで聖遺物を奪ってみせるデス、そうすればみんな褒めてくれるデス」

「なるほど、それでクールビューティーに決めるんだね切ちゃん」

「危ないよ?」

『うわああああああああ!?』

 

 どうやら褒められたくてリディアンに潜入する計画を立てている場面に出くわす未来。

 彼女はふと考える、

 

(二課のペンダントはともかく、二人が学園祭の雰囲気は楽しめるかな?一応マリアには言っておくか)

 

 そこまで考えて提案をする。どうせ盗めるわけがないと思っているし、ギアペンダント狙いなら響は対象外だろうとそこまで考える。

持っていた財布を取り出すと、

 

「リディアンに行くなら軍資金あげる」

 

 そう言って一万円を渡す未来。そのお金はステルスを使ってコッソリ盗んだものだ。

 二人には未来が神様に見えたに違いない。

 

 

「うぐっ!!」

「っ立花!」

「おいバカ!」

 

 ネフィリムが響を喰い殺そうとする。だから未来は守るのだ大切な存在を。

 

「久しぶりだね響、それ大丈夫なの?」

「……な、んで……未来が……いるの……?」

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