過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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もう消えてしまいたい

 月読調はアジトでカップ麺に自前の調味料を加える事で味のクオリティアップを図るという涙ぐましい努力に精進している間、外では切歌が考え事をしていた。

 

(リインカーネーション……もしも私にフィーネの魂が宿っているなら……)

 

 怖い。

 自分が自分で無くなるそれが何を意味するのかイメージをする事すら困難だ。

 人は死ぬことを一つの恐怖のシンボルとしているが、実際に死んでみないとその怖さは理解できないし、死んだらその経験は誰にも伝えられない。

 

(あれ?私がフィーネの器ならマリアは……?)

 

 ここでちょうど調が切歌を呼びに来る。

 

「切ちゃん、ご飯のしたく出来たよ」

「何を作ったデス?」

「298円」

「ご馳走デス!!」

 

 

 マリアは米国のエージェントに異端技術の入ったチップを手渡す。

 

「異端技術に関する情報、確かに頂きました」

「取扱いに関しては別途私が教授します」

 

 ナスターシャはそう返す。

 しかし相手はそれを聞いて口元にニヤニヤ笑いが浮かぶ。

 マリアはそこで相手の意図に気が付いた。

 

「その必要はありません」

 

 すると拳銃が向けられる。最初から交渉などする気は無い。

 マリアは自分か今のままで楽観的な思考していてことに苛立ちを感じてしまう。

 そもそも最初から対等な話し合いが出来る相手ならばそもそもこんな隠れながら暗躍などしなかったというのにだ。

 

「マム!!」

「初めから取引に応じる気は……」

 

 ここでナスターシャは車いすの手すりを指先で叩いて未来に救援信号を発信する。

 しかしまさか思うまい現在進行形で響と話すことに夢中で信号を聞いてないなんて。

 あいては拳銃の引き金に指をかける。

 

「必要なものは手に入った、あとは不必要なものの排除を―」

 

 そこで言葉が止まる。

 そこでガラス張りの外に浮遊物が、ここは58階で飛行物が接近しているとは考えづらいのだが。

 そこで彼らは気が付いたのだ空に漂う飛行物は人類の天敵ノイズである事。そしてその人類の天敵を相手は召喚と操作が可能であることを。

 銃なんて高々人類の生み出せるもので先史文明期の殺戮兵器を持つ者たちに優位を取ろうだなんて甘すぎたのだ。

 つまり、もう彼らの命は風前の灯火なのだ。

 

「な……」

「ノイズッ!」

 

 動揺と悲鳴をあげる。

 彼らの強み拳銃はここでは意味をなさない。

 突如ノイズたちが部屋に侵入してエージェントたちを皆殺しにした。触れた瞬間に炭素変換されて物言わぬ存在にと。

 マリア達は何処にいるのか具体的な事は聞いていないが恐らくウェルがどこかで操って助けに来ている。

 マリアはその隙を突いて聖詠を唱える。

 

『Granzizel bilfen gungnir zizzl』

 

 部屋にいたノイズたちを蹂躙した直後、炭にならなかったデータの入ったチップを忌々しそうにふんづけて破壊する。

 少しでも手を取ろうと動いてしまった甘すぎる自分を踏み倒すかのように入念にすりつぶす。

 

 マリアはシンフォギアをまとってナスターシャを抱えスカイタワーからの脱出を図る。

 通路の途中で隠れていた米国兵士が出てくるがガングニールのマントの強度を突破できる銃火器を持っていないためあっさり突破を許してしまう。そしてそのまま殴り飛ばしながら廊下を突っ走る。

 

「マリア!上の階からの脱出を図りましょう」

 

 ナスターシャの指示に従うマリア。

 そのまま階段を使って上階からの脱出を図る。エレベーターを使わなかったのは仮に相手が電源室を占拠していた場合、閉じ込められるリスクがあるからだ。マリアは良くてもナスターシャの身体には密閉空間は辛い。

 

 そのまま別階に移動するがそこにも兵士が潜んでおり戦闘になる。

 あの場にいたエージェントの反乱ではなくはなから交渉などする気は無かったのだ。

 改めてマリアは自分が少しでもあの場でいい結果になるかもしれないと考えた自分自身の甘さを許せなくなる。

 

「あぐっ!」

「ぐあ!?」

「ぁ……」

 

 そうやって脱出を図るために銃弾を防ぎながら進行していると、目の前で関係のない一般人が流れ弾の餌食になった。マリアたちの交渉の影響で関係ない人の命が散らされた。

 マリアにとって覚えのある光景だった。それは関係のない学生がウェルの生み出したノイズによって。

 

「うぁ……ッ……!」

「マリア…………」

 

 息が荒くなるマリアと心配そうに見つめるナスターシャ。そうしている間にも敵の兵士たちは雪崩れ込んでくる。

 

「全ては……フィーネを背負いきれなかった……私のせいだああああああっ!!」

 

 叫ぶ。そして苦しむ。

 米国の兵士たちの進行も怒りに身を任せた彼女の相手にはならなかった。気が付くと血で手を汚すことを躊躇っていた彼女の槍は返り血が付いていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 マリアは自然と息が上がっていた。疲労ではなく興奮で。

 この血祭り状態で周りにいた客や利用者は悲鳴を上げる。この日本では基本的に銃や大型の槍を目撃する事は殆どない。あまりにも非現実的な光景だが、流血したという現実だけは理解できていた。

 そして考える、それが自分たちに向くかもしれないと。

 

「いやああああっ!!助けて、助けてええええっっ!!」

 

 目の前の血祭りに錯乱状態になる女性。マリアは彼女に向かって、

 

「狼狽えるな!!」

 

 それはかつてステージで言った言葉。それを今は苛立ちをぶつけるように怒鳴りつける形で言う。

 今までは周りへの配慮で一段ずつ上っていたが、今のマリアはもうそんな余裕はなく槍を上に向けて天井をぶち破りながら上に向かった。

 

 

 響と未来はレストランでの食事を終えて展望台エリアに場所を移して話をしていた。

 響は未来の過去を知って何を言ったらいいのか分からなくなった。どう償えばいいのか。

 

「謝ろうとか、償おうとか思わなくていいよ」

 

 響のそんな思考を察したのか口を開く未来。

 その顔は自分に悲観していたり絶望が刻まれているわけではない。

 

「私が自分で選んだ事なんだよ。選ばずに一般人として生活も出来たのにそれでも私はこの業界に踏み込んだんだよ。自分のせいで他人の人生の全てをめちゃくちゃにしたなんて思うのは傲慢だと思うよ響」

 

 未来は響が過去に戻ってきたことを知らないはずだが、響に刺さる言葉だった。

 確かにその通りだ、響は本来なら手にする事が出来ない知識を持っているだから、前よりも良くしてやろうと、逆に悪くなれば全責任を負わないといけないと考えるのは確かに持ってる人間の傲慢でしかないだろう。

 

 2人は話ながらも外の景色を景色を見る。なんの憂いもなく見れたら最高の景色だったに違いなかった。

 そして響は意を決して切り出す。

 

「未来…F.I.S.が月の落下に対処するために活動している事は聞いてる、なら二課も協力するって出来ないかな」

「無理だね」

 

 響の提案を特段悩むことなく一瞬で却下する未来。

 恐らくは未来は響がそれを提案するのをある程度は予想していたのだ。

 ここまであっさりと切り返されるとは思っておらず動揺してしまう響。

 

「ど、どうして?」

「私個人としては勿論響を信じたいよ」

 

 未来は本音を言う。

 響の力になりたいという言葉。それには嘘はない、そんな事は彼女も分かっている。

 そして、否定した意味を加える。

 

「でもね、二課が過去にリディアンを創設して秘密裏にデータを取っていた事。ライブの一件で観客を利用してネフシュタンの鎧の起動実験をした結果、ノイズ襲来に対応が遅れて多くの死者を出した事。そしてそれを話さずに黙って説明義務から逃げた事。それを知ったうえでナスターシャさんや装者のみんなに信じて欲しいとは言えない」

 

 二課のやっている事は必要悪ともいえるのかもしれないがそれでも正しさではない。

 最後に未来は説明付け加える。

 

「勿論それはF.I.S.にも言えるけどね。こっちも後ろめたい事はしているわけだから。使ったのはウェルだけど多くの人の命をソロモンの杖で奪ってるし、私はそれを止めなかったわけだから」

 

 重い現実を突きつける。

 未来個人としては響の味方であるいやありたいが、組織の一員の小日向未来としては簡単に二課に力を貸すのも響や二課を受け入れる事は出来ないという事だ。

 

「でも私は……」

「響……」

 

 響のそれでも捨てられきれないといった感じに未来は複雑そうな顔をする。

 お互いに信念と立場、そして積み重ねてきたものがある。二人のそれに対して現状は交差点や折衷案が見いだせていなかった。

 すると突然下層から爆発が起こり、自分たちの居る階が揺れる。

 

「うわっ!」

「きゃ!」

 

 二人とも驚くが、響はここで思い出した。現在このスカイタワーではF.I.S.と米国政府が交渉をしており結果として決裂する事を。

 外を見ると飛行型のノイズたちが飛び回っている。展望台にいた観光客たちは、

 

「お、おいっ!」「なにあれ?」「ノイズじゃないのか?」など現実を直視で来ていない感じだが、下層の火災で発生した黒煙が視界に映ると慌てて避難し始める。

 

「未来これは……」

「米国政府との交渉は決裂したみたい、響も避難した方がいいよ。この騒ぎならすぐに二課の装者達も来るはず」

 

 未来は響がシンフォギアをまとえることを知ったうえで避難するように言う。

 喧騒は遠くで聞こえるが、既に二人の周りには観光客はいなくなっていた。

 

「そういうわけにはいかないよ!私がノイズを倒す!」

 

 そう言っている間にもノイズたちがスカイタワーに攻撃を加えており、いつ建物が崩壊してもおかしくない状況だった。

 

『Balwisyall nescell gung-』

 

 聖詠を唱えようとするがそこで展望台を大きな爆発が覆い響と未来のいる場所が破壊される。

 

「うわっ!」

「響ィ!」

 

 爆発の影響で壁と床が破壊されて響の体が宙に舞う。

 しかし、未来はそれを認めるや咄嗟に手を掴んで何とか彼女の体を釣り下げて落下を防ぐ。

 

「…………」

 

 響は既視感を感じた。あの時も同じ状況だったなと。

 あの時は未来の力では引き上げられず二人とも落下するのは目に見えてたため手を放すようにいったのだ。

 しかし今は、

 

「響、今から引き上げるから暴れないで」

「うん…………」

 

 未来は踏ん張って響の体を引っ張り上げて危険な状態から脱する。

 前の世界と違いかなり鍛えているのが分かった。普通10代後半の女の子は大体四十キロ台とそれなりの重さがある。

 未来はそれでも引っ張り上げて見せる。

 

「大丈夫?怪我とかしてない?」

「あ、ありがとう……」

 

 お礼を言う響。未来からは心配以外は感じ取れない。響は改めて聖詠を唱える。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 響はガングニールを再びまとう、そして―

 

「うぐっ!?」

「え……?」

 

 まとった途端に倒れた。

 未来は一瞬呆然とするがすぐさま駆け寄ろうとするが、

 

「あつっ!?なにこれっ……!」

 

 近づこうと手を向けると指先が火傷する。響の体が強い熱を発しているのだ。心なしか薄く発光している。

 未来は素早くリンカーの入った注射を首筋に当てて、

 

『Rei shen shou jing rei zizzl』

 

 神獣鏡のシンフォギアをまとう。ギアをまとえば何とか耐えられない事はない。

 火傷をしながらも激痛に耐えて響の体を抱き寄せるとその胸元を見て驚く。

 

「な、にこれ……かさぶたじゃないよね……」

 

 胸元には透き通った橙色の結晶のようなモノがこびり付いていた。未来はそれを一部剥がして見やる。自分の蓄えてきた知識から響の体の状況を推測する。

 

「こ、れは…でも……融合症例って…まさかっ……!」

 

 未来は慌てて響を抱きかかえスカイタワーから降りる。どんな高所でも飛行能力を持っている神獣鏡ではないも同然だ。着地寸前にふわりと反重力を発生させて振動を起こさない。

 そこに武器を構えた翼とクリスが現れる。

 翼は未来が蒸気を発している響を抱きかかえているのを見て問いかける。

 

「小日向未来だな?いったい何が……」

「今は時間がないんです!」

 

 翼の質問に答えずに川の方向に向かって飛んでいく。

 

「おいっ!」

 

 クリスは静止を促すがすぐにノイズたちが現れて二人は殲滅を余儀なくされる。

 

 未来は川を見つけると躊躇なく飛び込んだ。すると川が蒸発して白い湯気が発生する。響のギアは解けていた。

(とりあえずはこれで…………)

 びしょ濡れになった未来は岸に上がると黒服の男たちに拳銃を向けられて取り囲まれる。

 そんな事は知った事かと未来は言う。

 

「早く響に治療をっ!このままじゃ手遅れになる!!」

 

 

 クリスはノイズ達を蹴散らしながら考える。脳裏にはあの日ステージで歌った事、2課の皆の顔、そして先ほどぐったりしていた響だ。

 

(少しずつ何かがくるって壊れていきやがる……私の居場所を蝕んでいきやがる……やってくれるのは何処のどいつだ!?)

 

 脳裏に浮かぶのはソロモンの杖、そうだ彼女が起動させた最悪を振りまくそれが。

 

 

「米国政府が……?」

 

 緒川からの報告に怪訝そうな顔をする弦十郎。

 彼は得た情報をさらに伝える。

 

「はい。F.I.S.と交渉を試みたようです」

 

 ノイズが暴れまわり、多くの死者と建物に対しての損害状況が交渉は決裂に終わった事を如実に示していた。

 また、双方の組織ともこのような大事にするとは考えにくいため、つながる事を良しとしない第三勢力の介入も考えられる。

 

「それも大事だが問題は響君だな。彼女の体の状態も気になるが…何故一人でスカイタワーにいたのかだ」

「そうですね…」

 

 友人と遊びに来たのなら分かるのだが、高校生が1人でスカイタワーに用事があったとは考えにくい。何かしらの方法で今回の交渉を察知して向かった可能性が高かった。

 翼の話では小日向未来が響を連れて脱出した事から、彼女にスカイタワーへ来るように言われたのが有力とされている。

 何故相手がそんな事をしたのか不明であるが。

 

 

 ドン!ヘリ内の強化ガラスに拳を叩きこむマリア。彼女は人をシンフォギアで傷つけた事に錯乱していた。

 

「セレナ……私は……」

 

 未来は部屋の端で壁を背にして黙り込む。

 調と切歌は不安そうにマリアを見ながらナスターシャに何があったのか尋ねる。するとそこにウェル博士が現れる。

 

「それは僕からお話ししましょう」

 

 彼の口から出てくるのは、自分たちの計画を話して米国政府との講和と協力を求めた事、つまり作戦とその情報を売った事。そして、マリアはウェルの協力を取り付けるために、フィーネの器であると一芝居打った事を話す。

 全てをバラされたマリアは、

 

「……ごめん…………2人とも本当にごめんっ…!」

 

 とポツリと漏らす。

 二人が気になったのはだました事だけではなく。

 

「まって……2人ともって事は未来さんは教えられてたって事?」

「そうだよ」

 

 未来は自分に問いかけられたわけではないが即答した。同時にマリアは詰めが甘いなと思う。

 未来よりも付き合いの長い二人に対して秘密にしてて、浅い自分に話していたと知ったらショックを受けるだろうにと。

 調はそうなのだが切歌はそこには食いつかなかった。

 

「マリアがフィーネでないとしたらじゃあ……」

「あなたたちまで巻き込んでテロ行為を行いながら結局は後悔して裏切りってあんまりだとは思いませんかァ?我々の人々を救いたいという崇高な願いを……米国政府に売ろうとしたんですからねぇ……」

 

 ウェルは芝居がかったわざとらしい口調で話す。

 

「せっかく手に入れたネフィリムの心臓も…英雄への道も……無駄になるところでしたよぉ……」

 

 この組織を支配する人間が変わった事を皆は感じた。

 切歌は一縷の望みをかけて質問する。

 

「……ドクターの言ってることは嘘デスよね?」

「本当よ、米国政府に協力を仰ごうとしたのもね」

 

 調も切歌も信じたくないといった表情だ。

 

「米国の政府とその一部の人達は……」

「たくさんの切り捨てられる命を守るため戦っているんデスよね」

 

 ナスターシャはあの日の状況の説明をする。

 

「あの会談で講和が結ばれたら優位性は失われてしまう……だからあなたははノイズを使って会談を踏みにじってみせた」

「いやだなぁ……悪辣な米国政府からあなた達を守ったんですよぉ……この…ソロモンの杖でっ」

 

 ウェルはそう言うと挑発するように杖を向ける。それに反応するように調と切歌は構えるが、突如マリアがウェルを庇う。

 

『!?』

「偽りの気持ちでは世界は救えない、セレナの気持ちは継げない。力を持って貫かなければ正義など成す事など出来やしない!世界を変えられるのはドクターのやり方だけ!」

 

 ドクターウェルのそうでなくちゃという楽しそうな笑い声が響いた。

 調が口を開く。

 

「そんなの嫌だよ……そんなの力で弱い人を抑え込むって事だよ……」

 

 彼女は何を信じていいのか分からなくなった。

 

 

 翼とクリスは二課仮本部内部にソファーに座って、施術が終わった響の目が覚めるのを待っている。

 外傷は殆どないのだが突然の発熱と胸元を中心に謎の鉱物が飛び出していたのだ。誰だって心配になる。

 二人の傍に弦十郎が現れる。

 

「二人とも、響君の手術が終わって目を覚ました。色々と説明をする」

 

 三人は響のいるメディカルルームに入る。

 それを認める響は、

 

「倒れちゃって心配かけてごめんなさい!いや~過労かな?面目ない」

 

 まいったな!みたいなノリで話す。響は今から何が起こるか分かっているので敢えておちゃらけて場を持たそうとしている。その姿はもの凄く痛々しい。

 部屋にあるモニターの1つに響の体のスキャン画像が映される。そこには心臓を中心にびっしりと赤い部分で上半身が埋め尽くされている。

 弦十郎は重い口調で言う。

 

「これは響君の体のスキャン画像だ。ガングニールを何度も構成した結果新たな臓器を形成している。これこそが響君のあの爆発力の源であり、命を蝕む原因だ。これ以上のシンフォギアの装着は命に関わる」

「…………」

「くっ…………」

 

 翼とクリスは絶句している。

 当然だ、まさかこんな爆弾が近くにあるとは思っていなかったのだから。

 そんな様子を見て響は、

 

「あ…はは…まいったねこりゃ……」

 

 苦笑いしか出来ない。辛そうな顔をさせるのは何度やってもなれる事はない。

 クリスはそんな響を見て胸倉をつかむ。

 

「お前っ…!驚いてないだろ!おかしいと思ってたんだ、メディカルチェックを拒否してたのはこれをバラさないためだな!?秘密主義もいい加減にしろよ!!」

「…………」

 

 クリスの追及に黙る響。

 しかしここで退くわけにもいかないのだ。

 未来の事を考えたらここで離脱するというわけにはどうしてもいかない。

 

「で、でもこれからは気を付けてまとえば……」

「立花!何を言っている!!これ以上は本当に死ぬんだぞ!?」

 

 悪あがきをする響に雷を落とす翼、当たり前だ。

 

「死ぬ……か……傲慢で嘘つきな私には……これがお似合いかもしれないですね…………」

 

 普段は極力隠してきた部分をつい出してしまう。響の悲痛な表情に全員が黙り込む。

 

 

 未来はヘリ内にある機材で響から採取した鉱石を分析する。

 

「…………」

 

 苦しい顔になる、聖遺物の反応と人間の肉体の反応2つが計測されたからだ。

 ここにあるのは万全の施設ではない、まだ確定したわけではないが融合しているガングニールが肉体を蝕んでいる可能性が高いと判断する。

 

 外付けで力を得るギアペンダントと違い、響は内側である体組織に直接作用する事で力を得ている。まとうたびに組織に異物が食い込んでいる。

 その分だけ通常よりも高いエネルギー値を叩きだせるし、聖遺物と肉体との摩擦を減らし負荷を少なく出来る。

 リンカーを必要とするギア装者からしたら羨ましい話だ。

 

 普通であれば響はもう戦えないし、周りも戦わさせないだろう。

 しかし、未来は響が引かない事も何となく予想出来てしまう。

 

「私の神獣鏡ならもしかしたら……」

 

 響を救う事が出来るのは小日向未来だ。

 

「組織やみんなの考えなんて関係ない。私は私のやりたいようにやるだけ…」

 

 その言葉を口にした瞬間少しだけ痛みに耐えるような表情になる。

 例えそれでみんなに嫌われる事になっても。そして相手がそれを望んでいなかろうとも。

 

「響は死なせない」

 

 瞳に確固たる意志を宿して。

 

 

 洗濯物を取り込む切歌と調。

 淡々と作業をしながらも切歌の脳裏に浮かぶのは工事現場で調をかばったあの一件。マリアがフィーネ出ないのなら自分が…そんな事を考える。

 

「私はマリアだからお手伝いしたいだけでフィーネだからじゃないよ……」

「う、うん。そうデスとも!」

 

 身寄りが無くて泣いていた自分たちに優しくしてくれた人、弱い人の味方だった人。

 しかし彼女は暴虐をなそうとするウェルをかばう様に、

 

『力を持って貫かなければ正義など成す事など出来やしない!』

 

 あのシーンを思い出して調は悲しくなる。

 正直、未来には計画や本当の事を伝えていた事は現状ショックではなくなった。

 一方で切歌は胸の中にこびり付く恐怖をそれとなく調にぶつけてみる。

 

「……調は…怖くないデスか…?」

「?」

「…マリアがフィーネじゃないなら…私たちがフィーネになるかもしれないデスよ……?怖くないデスか……?」

「よく分からない……」

「それだけ!?」

 

 あまりにも他人事過ぎる回答に多少の怒りを覚える切歌。当然だ、まさか切歌がフィーネの事で悩んでるとは思わないからだ。それにフィーネになるというのを想像する事が困難なことも大きい。

 あまりにも感情的になる切歌を不審に思った調は問いかける。

 

「どうしたの?」

「ッ!」

 

 切歌は慌ててそこから不安を振り切るように逃げた。

 

 

 翼とクリスはファミレスで食事をしていた。

 厳密にはクリスのみが食べ物にがっついている。

 とにかく彼女の食べ方は汚い。口周りは汚れて、テーブルは食べかすだらけ、原始人でももう少し恥じらいがあるはずだ。

 相手が飲食店に入りながらも何も注文しないのをクリスは不審に思う。

 

「おごるぞ?」

「夜の9時以降は食事を控えている」

「……そんなだから……そんなんだよ……」

 

 翼の首の下の一部分を見てそう漏らすクリス。彼女の胸部装甲は決して貧弱ではなく、取っ掛かりが存在しないわけではないが、クリスのそれには敵わない。

 

「何が言いたい!?用がないなら帰るぞ!」

 

 翼は相手をキッっと睨む。

 本題を中々切り出さない事かもしくは胸がコンプレックスなのか苛立つ翼。

 

「怒っているのか?」

「愉快でいられる道理が無い!」

 

 現状の2課が抱える問題は到底すべてを解決してハッピーエンドに持っていくには困難な状況だ。

 F.I.S.との戦闘、月の落下、米国政府の横やり、そして響の状態。これをして明るい元気でいられるならそれは頭が麻痺しているだけだ。

 

「仲間を守れない私のふがいなさを思えばっ…………!」

 

 激情を抑え俯きながらそう言う。

 前と違い、もう失う事を恐れて他者との繋がりを拒絶する事は止めた。しかしその選択を取るならば戦場に立つ以上は常にその繋がりを失う恐怖と対峙しなければいけない。

 

「呼び出したのは一度腹を割って話し合うのも悪くないってな。あたしらいつからこんなんだ?目的は同じはずなのにてんでバラバラ……」

「雪音」

 

 クリスの話を遮る翼。

 このバラバラというのは二課だけを指しているとは思えなかった。F.I.S.もまた多くの人の命を救いたいと思っているのだから。やり方は違えどこの一点は共通項だ。

 

「腹を割って話すならいい加減名前くらい呼んで欲しいものだ」

「んな!そ、それはだな……」

 

 顔を真っ赤にするクリス。照れ屋さんだ。

 翼はそんなクリスを見てふと思ったことを話す。

 

「…………そうだな。腹を割るといったら。雪音は立花の事をどう思う?」

「どうって……もうあのバカは戦えないだろ」

「それもあるが……立花が本来なら知りえない情報を持っている事だ」

「…………」

 

 それは二課の全員が気が付いていながらも切り出せない問題だ。フィーネの一件は特に顕著だった。それに敵アジトへの潜入時もアンチリンカーガスを先んじて潰して見せた。挙げたらキリがない。

 響が間違いなく二課の味方であるのは分かっているし、その高い戦闘力も分かっている。

 人には他人に明かしたくない秘密くらいはあって然るべきなのだが、それでも限度がある。

 もしそれに突っ込んでしまったら何が出てくるのか分からないのだ。

 自分たちが何をするべきなのか、どこに向かうべきなのか分からない。

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