過去に戻った立花響   作:高町廻ル

27 / 106
ゲームオーバー

 目的地フロンティアへと向かうF.I.S.

 切歌はヘリを操縦しているマリアに質問をする。彼女は答える。

 

「マムの容態はどうなのデスか?」

「疲労と病状が悪化している……」

 

 それを聞いた調はまさかといった感じで口を開く。

 

「……それってつまり……」

「のんびり構えていられないという事ですよ!その前に人類は新天地にて結集する必要がある!その旗振り事我々がなす事!」

 

 3人の会話に突如割り込むウェル。全員が怪訝そうな顔をする。

 すると突然警報が鳴る。何事だとモニターを見ると。

 

「米国の艦艇デスか!?」

 

 映っていたのは米国の空母や戦艦たちだった。

 ついに隠す気も無く妨害に打って出てきた。ここで自分たちの汚点を消し去ろうというわけだ。

 

「今の警報は?」

 

 未来もアラームに反応してコクピットに現れる。すぐさまモニターを見て「なるほど…」と頷く。

 

「こうなるのも予想の範疇、派手に葬ってこちらに世間の目を注目させますか!」

 

 ウェルは狂気の混じった瞳で言い放つ。

 そんなものを認めるわけにはいかないのですぐさま遮ろうとする調。

 

「…………そんなのは弱者を生み出す強者のやり方-」

「世界に私たちの主張を伝えるには格好のデモンストレーションかもしれない」

「っマリア……」

 

 調の主張を遮って強硬な姿勢に出るマリア。ウェルはそれを聞いて楽しそうだ。

 調は何を信じて進めばいいのか分からない、ただこのままではいけない事それだけは分かる。

 

『守りたいものを間違えないで!!そのためにギアを掲げてあなたは歌うんだよね!?』

 

 ここに来て偽善者と切って捨てた相手の主張が再び脳裏に浮かぶ。

 

 そして未来は、

 

(恐らく響も来る、何となくだけど分かる、響は絶対に死なせない)

 

 

―貴様はまた戦場に出る、相互の不理解そして相手を傷つけるそして改悟せずにな

 

(だとしても私は傷つけあっても最後には)

 

―人と人は理解しあえぬ、そして疵付けあう事でまたそれを輪廻する定めである。

 

(たとえ傷だらけでも損な役割を背負っても受け止める、そして歩く…いやみせる)

 

 

 2課の仮本拠地になっている潜水艇ではけたたましいアラームと米国戦艦からの応援要請が鳴り響いていた。

 

「この海域から遠くない!急行するぞっ!」

 

 弦十郎の掛け声とともに翼とクリスは司令室から飛び出していく。

 その後、

 

「あのー…何かありました?」

 

 胸を抑えて青ざめた顔の響が入れ替わる形で入ってきた。

 

 

 戦況は最悪の一言だった。

 召喚されたノイズの前では兵士や現代兵器など全く相手にはならない。一瞬で炭にされて死の灰に早変わりする一方的な虐殺劇。

 強く唇をかむマリア。それを見て調は、

 

「こんなことがマリアの望んでいた事なの?」

「…………くっ」

 

 無言と唸りが答えだった。

 調は素早くその場から出て、出口を開く。

 

「調!どこに行くデスか!?」

「戦場に行く。こんなのは私が戦う理由じゃないから…………間違えたくないから」

 

 そう言ってヘリから飛び降りる。空中に身を躍らせながら胸の歌を口に。

 

『Various shul shagana tron』

 

 それを見て切歌も慌てて降下しようとするが。

 

「待ってください、そんなあなたに良いものを……」

 

 切歌の肩に手を置いてウェルが悪魔の甘言を。

 

 

 一方でシュルシャガナをまとった調は落下しながらも小型ノコを飛ばして落下地点にいたノイズを蹂躙して足場と着地地点を確保する。

 ヘッドギアを変形させて先端にノコを生み出し、その場でスピンをする事で、自身を中心にノイズ達を円状に切り裂いていく。

 しかし一瞬の隙を突かれて背後をノイズに取られる。攻撃を受ける―事は無く突如ノイズが両断される。それは切歌のアームドギアである鎌が切り裂いたのだ。

 

「切ちゃん!ありが―」

 

 切歌が助けてくれたことに嬉しそうな調、自分の思いが伝わったと。しかし最後までその言葉はつながらなかった。

 ぷしゅっと首筋に何かが打ち込まれる。切歌が何かを首筋に注射をしたのだ。

 

「-とぅ?……何を……?」

 

 

『これはアンチリンカーです。効果は折り紙付きですよぉ』

 

 

 足がふらつく、足の装甲についているローラーが強制解除される。その現象に驚いた声を出す。

 

「ギアがっ……?」

 

 そう呟くとギアが完全解除される。

 切歌は苦しそうな顔をしながら語る。それは調に対してだけではなく自分自身にも言い聞かせるように。

 

「私じゃなくなる前に何かを残さなきゃ調に忘れられるデス。世界と調が残れば思い出は残るデス。ドクターのやり方で世界を守るデス!そうするしか…………」

 

 最後まで語る事は叶わない。突如海からミサイルが飛び出してきた。

 

「へっ?」

 

 同然だが間抜けな顔をする切歌。

 するとそれがパージして飛び出してきたのは翼とクリスだ。素早く甲板に着地してクリスは無防備になっている調を確保。

 

「おい!ウェルの野郎は何処だ!ソロモンの杖を返しやがれ!」

「くぅっ……!」

 

 クリスが尋問しながらも窒息しない程度に首をきつく締める。かなり苛立っているのと焦っているのが伝わる。

 

 ギアをまとう切歌は翼が斬りかかる。剣と鎌がぶつかり合い火花が散る。

 

「邪魔するな…デスっ!」

 

 大振りの一撃。だが翼は素早く剣を斜めに構えて同時に重心を傾けて衝撃を逃がす。動きがバレバレで洗礼されていないため簡単にいなされる。

 今度は力任せに横薙ぎをしようとするがそれを翼は下段切りで鎌を跳ね上げる。

 

「んな!」

 

 翼は剣を振れるレベルの大剣を作り、それで上段切りを行う。

 相手は視界に入った振り下ろされた剣と先ほど跳ね上げられた鎌を見て、咄嗟に取って部分つまり柄で受け止めようとするが甘かった。力任せの一撃は相当な衝撃があり、柄を伝わり片手がしびれて一時的に機能しなくなる。

 近接武器を使う戦いの中では致命的な負傷。

 切歌はこれに焦るが、

 

「うわっ…………」

 

 気が付いたら剣の先端が喉元に着きつけられて詰みだった。二課の完全制圧に見える。

 

 しかし、脅威は去っていない。

 

『Rei shen shou jing rei zizzl』

 

 本命がやってきた。F.I.S.の最大戦力の少女。

 未来は二課が圧倒して見せた戦場に降り立つ、衝撃は無かった。脚装の半重力発生器が衝撃を殺していた。

 彼女が戦場に立つ、それだけで空気が一変する。

 この場にいる全員が知っているのだ、彼女の隔絶した実力を。

 強者が口を開く。

 

「……出来れば二人を開放して、二課の皆さんには引いてもらうのが一番だけど……そうはいかないですよね。私もそれで終わらせる気も無いですし……」

「当たり前だ」

 

 未来の勝手な言い草に一刀両断する翼。

 クリスは調を放して未来に飛び掛かる。

 

「好機ッ!」

 

 切歌はそれを好機と感じたのか脱出を試みるがあっさり翼に再捕捉されて詰んでしまう。

 

「好機じゃないデスね……」

 

 クリスは両手にボウガンを生み出して射貫かんとする。しかし、すべて見切られる。

 ガトリングガンで辺り一帯の掃討を狙うが、それを察した未来は素早く海に飛び出す。ホバリング機能で海の上を走行してみせる。攻撃から逃げるスペースを確保する。

 諦めずクリスはミサイルを撃ちっぱなすが素早く空に逃げられる。ある程度対象を追撃する性能を乗せた弾を混ぜているが、死角に入ったはずの弾もかわすか両面鏡の光線を使って撃ち落とされる。

 ここで翼が無駄とはわかっていても一振りの剣を作り投げる。しかしそれを未来は簡単にかわす。

 不意打ちが一度も通用しない。

 

 隙は出来たとライフル銃を作成して狙いをつけようとする。しかし、両面鏡の一枚が紫色に輝き光線を放ちピンポイントで銃を潰される。

 飛行と射撃では遮蔽物が無く視界が開けているためいくら高速機動とはいえ射撃の方が有利なのだが、そうとは感じさせない実力差がある。

 未来はゆったりとした所作で最初の戦艦に降りる。

 

「くそっ……何なんだよこいつは……」

 

 クリスに焦燥が出てくる。強い事は分かっていたが、これほどの実力差は予想以上なのだ。

 フィーネのように完全聖遺物を複数使っているわけではない。あくまで近いスペックの武装で戦っているのだ。なのにここまで手も足も出ないとは……

 さっきから未来が攻撃を仕掛けないのは切歌と調に流れ弾が行かないようにするため、そして響に対する感情があるからだ。

 

 

「んっん~やはり素晴らしいですねぇ未来君は」

「えぇ……そうですね」

 

 一人で戦場を圧倒してみせる未来をみて嬉しそうなウェル。

 ナスターシャも改めて彼女の持つその他の装者達と一線をはくす実力に淡々と頷く事しか出来ない。

 あの日、風鳴翼を見に行った彼がたまたま見出した少女は、シンフォギア殺しの神獣鏡という相性こそあれど正規の適合者を歯牙にもかけない。

 彼女の強さは神獣鏡のシンフォギアをまとったが故に、搭載されたダイレクトフィードバックシステムの副作用による改造された脳構造にも問題があるのだが。

 

「何故…彼女は…あんなにも強いの…?…正規適合者じゃないリンカー頼りなのに……何故あそこまで強くなれるの……?」

「シンフォギアとの適合には奇跡というものは介在しない…その力、自分のものとしたいなら手を伸ばし続ければいい」

 

 ヘリを操縦するマリアは呆然と疑問を口にする。ウェルは一転して真面目な口調でそれに答える。そして最後に、

 

「愛ッ!!ですよ?」

「何故そこで愛!」

 

 ウェルの意図が不明なその言葉にナスターシャはオウム返ししか出来ない。

 

 

 誰も未来の前には手も足も出ずに戦場が硬直する。

 すると突如緑色の光が辺り一帯に降り注ぐ。ソロモンの杖を使ったノイズ召喚だ。アメリカ軍の戦艦にノイズたちが降り立つ。

 戦場が更に血みどろ化する。

 

「ノイズを放ったか!」

「クソッタレがっ!」

 

(あたしのせいだ……ソロモンの杖がある限りっ……)

 

 内心で苦しみながらもクリスは素早くノイズ殲滅に走る。

 翼の動揺した一瞬の隙に片手が回復した切歌が再び斬りかかり鍔ぜりあう。

 

「くっ…!」

 

 自身の油断に歯噛みする。傍にいる敵から意識を外すなど剣にはあってはならない事だ。

 調がそれを見て声をかける。

 

「切ちゃん私は……私はっ…!ドクターのやり方じゃ誰も救えない!」

 

 すると水中から緒川が現れて調を確保する。

 

「人命救助は僕達2課が!翼さんは戦闘に集中を」

「ありがとうございます緒川さん」

 

 翼から感謝の言葉を受け取る、そして調をお姫様抱っこした緒川はそのまま海の上を走り出す。

 その一部始終を見ていた未来は、

 

「男性がまとえるスーツ型のシンフォギアを発明したの……?」

 

 という見当違いなことを言っていた。

すると呑気なことをいう未来を切歌が咎める。

 

「未来さんさっさとこいつを撃って援護して欲しいデス!それに調をッ!」

「…………」

 

 未来は黙り込むそして、どこかへと飛んでいく。何かを探すように。

 

「デスっ!?」

「なんだと…?」

 

 予想外過ぎる行動にあっけにとられる2人。

 しかし、斬りあいである事に気が付いて戦いを再開する。

 翼は力を入れて切歌を振り払い、未来を追いかけようと別の戦艦に飛び移る。

 調を連れ去られた以上は翼を倒すしかやる事の無い切歌はすぐさま肩のアーマーからエネルギーを放出して追いかける。高さを稼ぐ。

 

(私が消えてなくなる前に……)

 

 上空から肩口のアーマー部分からアンカーが飛び出す。

 

「なんだと!」

 

 初めて見せた鎌以外の攻撃に驚く翼。

 すぐさまアンカーと自分の間に巨大な剣を生み出して盾にする共に視界を塞ぐ。

 アンカーすべてが剣に刺さり、全ての攻撃を防ぎきる。

 

「何デスと!?」

 

 甲板に降り立つと剣の前で呆然とする。

 すると、後ろから斬りかかる翼がいる。よく見ると下を突き破っている。防ぐだけでなく体を隠す意図もあったアクションだったのだ。

 頭に直撃コースだが咄嗟に肩のアーマーで受ける、左肩の装甲が破壊されるが戦闘不能にはなってない。

 翼は戦いに集中しきれていない相手に声をかける。

 

「貴様は何を望むっ!」

「私がいなくなっても調には忘れて欲しくないんデス!!」

 

 悲しい叫びがそこにはあった。

 

 

 映像にはふらふらと飛び回る未来が映っている。

 

「師匠!私を未来のところまで連れて行ってください!」

「ダメだ!響君を戦わせることは出来ない」

「戦いません!ただ説得したいんです。拳じゃなくて言葉で!」

 

 弦十郎は苦しそうな表情だ。生身で外に出すなどありえない。しかし、

 

「いいか!ギアをまとうのは許さん!いいな!」

 

 

(響っ!どこなの?早くしないと……)

 

 悠然とした態度とは裏腹に未来は焦っていた。

 早くしないとフロンティアの封印を解く作戦が始まり響とコンタクトを取れなくなるからだ。

 すると未来に向かって進んでくる船が見える。その上には親友の姿。

 

 未来の立っている戦艦に並ぶ形で静止する2課の潜水艇。2人は甲板の上で対峙する。

 未来は響の立っている姿を見て分かりやすくホッとした表情を作る。心の底から響の無事を喜んでいる。

 

「無事でよかった…スカイタワーで倒れた時は本当に心配したんだよ……」

「もし未来がギアをまとって川に連れて行ってくれなかったら危なかった。本当にありがとう」

 

 戦場のど真ん中とは思えない穏やかな会話。

 響は言葉を重ねる。

 

「ねぇ未来…お互いこの2年間色々あったね」

「そうだね、辛い事悲しい事がたくさんあった」

「それだけなの?」

「楽しかった日なんて無いよ、響が傷ついたあの日から一度だって」

 

 瞬時にそう切り返される。

 響にはそれが全てだとは思えなかった。

 

「マリアさんたちといた生活は辛いだけだったの?」

「……………………」

 

 思うところがあるのか黙る。

 響は知らないが、施設で一緒に食事をとったり、切磋琢磨する日々は決して悪いだけではなかった。

 

「今こうしている間にもたくさんの人たちの思い出が途切れてる……」

 

 沈痛そうな顔持ちでそう言う。今現在も他の場所ではノイズが暴れており死者が出ている。

 そして響は付け加える。

 

「未来もうやめてよ!これ以上戦ったらたくさんの人たちが亡くなる!私たちが手を取り合うのは本当に出来ないの!?」

「そうだね…だから響……一騎打ちをしようか……」

「え……?」

 

 問いかけへの解に全くなってない、それどころか突然の提案に硬直してしまう。

 

「何を……」

「スカイタワーでF.I.S.の力になりたいって言ったよね?響が勝てたなら私が2課につくよ。説得でも戦力提供でも何でもするよ。ただし負けたらこっちに来てもらうよ。私は響に負けるつもりは全くないけど」

『ダメだ響君!乗るな!』

 

 未来の言葉には全くと言って淀みがない。事前に響に会ったらこの提案をする気だったのだ。

 インカムから弦十郎の声が聞こえるが響は無視をする。

 響はここで未来の意図に気が付いた。神獣鏡の力で響の体内にあるガングニールを光線で祓うつもりなのだ。響の命を助けるため、あんなに酷い事を言われた相手なのにだ。

 もし仮に祓われたらシェム・ハの因子を生み出してしまい人類の終わりに近づいてしまう。

 

 未来が都合のいい嘘をついているとは響には思えなかった。彼女の表情は今この一瞬に対して全力で真剣に向き合うそれ。

 響が勝ったら本当に投降するつもりなのだ。もし仮に勝って拘束出来たとしたらF.I.S.は切り札の1枚を失い手詰まりになり交渉の場に引っ張り出す事が出来る。

 しかしこの世界の未来は前の世界とは違い桁違いの強さを得ている。生半可な実力では触れる事すら出来ないだろう。

 響は僅かにだが思考してそして顔を上げて言う。

 

「分かった」

 

 響はそう言って耳に付けていたインカムを外して捨てる。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 響の体を光がまとう。輝きが止むとそこにはガングニールのシンフォギアをまとう響の姿がある。

 

「いくよっ!」

 

 潜水艇を蹴って未来のところへと飛び込んでいく。一瞬で未来と拳を接触できる間合いにまで詰め寄るが、未来は拳をギリギリのところで回避していく。当たりそうな一撃は鉄扇で受ける。

 ひらひらと落ちる枯れ葉を無理矢理殴りつけようとしているような滑稽な感覚を響は感じていた。

 

(私の中のリンカーの制限時間以前に響の体はそう長くは持たないはず……あまり時間をかけている余裕はない……)

 

 相手の動きを見切りながらも思考を重ねる未来。

 彼女は今度は自分の番だと鉄扇を横に大振りする。響はかわすため後ろに下がるが、未来は距離が出来るや両面鏡に力を充填させて放出する。響は地面を力強く蹴って横に飛ぶことで何とかかわす。

 しかし逃げた先に鉄扇を開いて円状にして開放し攻撃を当てるため照準を合わせている。

 響は咄嗟に右手にフォニックゲインを集中させて装甲を分厚くする。それと同時に光線が射出される。右手で受けるが当然分解されるが通常形態よりも厚い分だけ数秒は耐える、受けながらも体を光線の直撃から90°の位置になるように自分の体を動かしてずらしていなす。

 未来はこれには驚いていた。

 

「びっくりしてる、ここまでいなされるのは久しぶりだよ」

「私だって2年間ただご飯食べて寝てたわけじゃない」

 

 響が再び殴りかかりに行く。

 前とは違い距離を詰められる前に牽制として光線を放つがかわしながらも突撃する。響は右ストレートを放つが未来は右に動いて軽やかにかわす。

 しかし、ここで響の腕の装甲が僅かに輝くとエネルギーの肘部分に放出口が形成される。右腕を曲げて未来を方へ向ける、そして口からエネルギーを噴射する。完全に腕が伸び切ったタイミングだったがそこから追加で推進力を得た拳が未来に直撃する。

 ガン!鈍い音が発生する。

 

「あぐっ!」

 

 未来はわずかに悲鳴を上げる。

 しかし、すぐに硬直から抜けて距離を取る。

 

「殴られるのは本当に久しぶり、舐めていたわけじゃないけど響は強い……」

 

 上から目線ではなく本当に強いと敬意を示している。自惚れではなく本気で強者である自分を殴った事を賞賛している。

 お互いに再び距離を詰める。響は蹴りを入れようとしてそれを鉄扇で受けるのだがそれは悪手だった。足の装甲についている衝撃の吸収と強烈な加速に使う杭、パワージャッキーを射出して未来を戦艦の上から吹き飛ばす。

 

「このっ」

 

 さすがに上手く戦いを運べない事に苛立つ声を出す未来。

 受けた一撃を利用して戦艦の甲板外に飛び出す。そして上に飛び上がって光線の乱れ打ちを行う。近接しか出来ない響には一番の有効打だろう。

 戦艦を撃ち落として沈没させるが、先ほど使ったパワージャッキーで空気を蹴って飛び上がる。

 

「そんな使い方が……」

 

 宙に飛べば簡単に勝てると思っていたのか当てが外れて多少は驚く未来。

 宙に浮いた状態で殴りかかる響。両面鏡で迎撃しようとするが発射される前に距離を詰めてそのアームドギアを破壊する。

 

「りゃあああっ!」

「無茶苦茶だよ響!」

 

 やや、やけくそ気味に叫ぶ未来。

 再度響の拳が入るが未来も避けれないと悟り左腕で受ける。同時にカウンター気味に右足で蹴り飛ばす。神獣鏡は基礎的な身体能力は高くないためダメージはさほど入らないが軽く吹き飛ばして距離を作る。

 飛ばされた響はすぐさま降りれる戦艦を見つけて着地する。

 

「はぁ……ぜぇ……ゲホッ!?」

 

 しかし痛みを感じて呻きながら膝を着く。

 よく見ると響の体から結晶が一部飛び出している。

 杭で飛び回る機動はギアの侵食が深化しているからこそできる技。多用すれば侵食が悪化してしまう。

 響の力が一時的に未来を上回ってもそれを継続する事が出来ない。

 そもそもスペック上は上回っているはずなのに未来はさほどダメージも疲労も見られ無い。

 響は立ち上がろうとするのだが膝が地面から離れるのを拒むのだ。既に限界に近い。

 未来は響の目の前に着地すると本気で心配しているといった色の濃い声色で話しかける。

 

「響っ……まだやるの…?私は響を傷つけたいわけじゃ……」

「私は……負けられない!」

 

 響は唸りながらも激痛に耐えて立ち上がる。

 このまま負けてしまったら何のためにこれまで戦ってきたのかまるで分らない。

 そして彼女はそのまま殴りかかるが既に激痛と疲労でキレが落ちている。未来は相手の拳のタイミングに合わせて鉄扇でカウンター気味に殴り飛ばす。

 

「ぁ…ぐっ…がぁ…!」

 

 勢いよく戦艦の砲台に叩きつけられる。

 響は弱々しく唸る事しか出来ない。

 飛んで行った相手を見て未来は悲しそうに言った。

 

「そっか……でももう終わらせるよ……」

 

 そう言ってトドメを刺そうと近づこうとするのだが。

 そこで砲台が浮いていた。

 よく見ると響が無理矢理持ち上げている。白いはずの装甲がグレーのまだらになっている。

 それはかつてネフィリムを倒すために至った姿。

 

「どこにそんな力が……これが融合の力なの……?そんな無茶なんかしたら融合が……」

 

 未来もこのバカ力には絶句している。

 響のあのダメージと激痛ではもうまともに戦えないはずなのにだ。

 

「ああああああっ!!」

 

 持ち上げた砲台を思いっきり投げ飛ばす。自分の背丈の何倍もある物体を。

 

「うそっ」

 

 それを見て未来は咄嗟にかわそうとする。

 上には砲台があるから飛んで逃げられない。それならと横に慌てて移動する。

 しかし、それこそが響の狙っていた事だ。一気に距離を縮める。そして響は踏み込んで拳を放つ。

 しかしそこで、未来の体が背中が甲板に接触しそうな形で沈んだ。響の拳がスカりつんのめってその沈んだ体の真上に来てしまう。

 

(マズイッ!!)

 

 未来は蹴りを入れようと足を曲げてその裏を響に向け、そして全力で膝を伸ばして蹴りを入れようとする。

 響も装甲で受けてダメージを凌ごうとするのだが、

 

「ぐっぶっ!?」

 

 装甲をあっけなく破壊して蹴りが腹に食い込む。

 神獣鏡は基礎的な攻撃力は高くないのにこのダメージ。

 神獣鏡の脚装は反重力を生み出せる。普段は浮くことしか出来ないが、応用で足の裏を対象に向ければ浮くためのエネルギーを蹴り飛ばす威力に乗せる事が出来る。

 基本的にそんなヤンキー蹴り当たらないので使える盤面が限られている。

 響は空高く蹴り飛ばされる。一瞬で意識が飛んでしまう。

 そして未来は7枚の両面鏡に力を充填して響に向かって解き放つ。

 その時の未来は安心したような表情だった。

 

 響の体は紫の輝きに飲み込まれた。

 

 

 ガングニールが剥がされて地面に落下しようとする響を受け止める未来。

 響は力を使い果たしているのか気絶している、体から結晶は飛び出していない。未来はガングニールの呪縛から親友を解き放ったのだ。

 

「よかった……」

 

 小さく呟く。すると、ウェルから通信が入る。

 

『ではあらかた敵艦隊を削りましたので所定の位置まで移動してくださいね』

「はい」

 

 響を抱き寄せたまま飛ぶ未来。

 あらかじめ指定されたポイントまで飛ぶと、両面鏡から光線を生み出して反射させて円状にループさせてエネルギーを溜め込んでいく。

 そして未来がスッっと手を下へ向けると溜め込まれた巨大な光線が海へと投下される。

 すると辺りが光り輝いていく。

 海が突然波打っていく、地震の類ではなく海の底にあったものが海面から顔を出そうとしているのだ。

 

 フロンティアが出現した。

 

 

 斬りあっていた翼と切歌は現出するフロンティアを呆然と見ていた。

 

「いったい何が……」

 

 だからこそ反応が遅れた。自分に向ける銃口を。

 銃声とともに翼の体に激痛が走り倒れこむ。切歌はそれを呆然と見ていた。

 

「なっ……」

「ゆ、きね……」

 

 最初は困惑、次に驚き、そして最後に怒り。

 

「…………さようなら」

 

 翼は意識を刈り取られた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。