過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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譲ってやる気は毛ほどもない

 フロンティアが海面に浮上してから時間が経っていた。

 気絶した翼を回収する事はできたが、響は敗北し未来に拉致され、クリスは敵に寝返る。

 結果として戦況は最悪な状況に陥ってしまった。

 

『まさかあちらはフロンティアに移住する腹じゃあるめえな?』

「我々も急行します!」

 

 弦十郎は上の人間への報告を終える。

 

「司令、これを」

「これは彼女のギアペンダントか?」

 

 緒川は捕虜と化した調から押収したシュルシャガナのギアペンダントを弦十郎に渡す。

 するとそこで翼が司令室に入ってくる。一時的な治療を終えてここに来たのだ。

 彼女はぐるりと辺りを見回してある程度状況を把握したが一応弦十郎に問いかける。

 

「叔父様現在の状況は?」

「最悪だな、翼以外の装者がいない訳だからな……」

 

 すると突然強く揺れる。

 海底なのに地震が起きるこれは地震では無く下から突き上げられる際に発する衝撃。

 

「広範囲にわたって海底が隆起!我々の下から迫ってきます!」

 

 フロンティアが宙に浮いていた。

 気が付くと船は陸地に座礁していた。そこはフロンティアだった。

 

「下からいいもん貰ったようだ!」

「月にアンカーを打ち込んでフロンティアを引き上げた?」

「それだけだけではありません!月を引き寄せています!」

 

 月落下が早まる、現状は最悪の一途だ。

 それを見て翼が切り出す。

 

「ここで手をこまねいている場合ではありません。出ます」

 

 そう言って外に出るハッチに向かって走り出す翼。心配そうに見送る二課のメンバー。

 

「し、司令…」

「どうした?」

「保護した方が……」

 

 調のいる部屋の監視カメラが映される。

 じーっと監視カメラを見ている、まるで視線で話があると呼びかけているように弦十郎は感じた。

 

「緒川頼めるか?」

「分かりました、司令」

 

 程なくして調を連れてくる緒川。

 彼女の腕には無骨な電子ロック付きの手錠がかけられている。

 

「それで?何の話かな?」

「外に出して欲しい。仲間を……家族を止めに行きたい……」

 

『守りたいものを間違えないで!!そのためにギアを掲げてあなたは歌うんだよね!?』

 

 今更ながらまた彼女の言葉が脳裏に浮かぶ。

 調はいまギアをまとって止めに行かなければ自分を偽ってしまう気がしていた。

 その言葉に司令室内は騒然とする。普通に考えて捕虜がする要求ではない。

 しかし弦十郎は、

 

「……まあいいか許可しよう」

「…………自分から言っといてなんだけど信じるの?ギアを渡した途端ここで暴れまわるかもしれないんだよ?敵だったんだよ?」

 

 手錠を外された調は意外そうな顔をする。

 調の物言いに弦十郎は頭を掻きながら困ったように言う。

 

「まあなんだ……子供の望むことを叶えてやれないなんて大人カッコ悪くてかなわないんだよっ!」

 

 そう言ってギアペンダントを手渡す。

 

「……あの人の仲間らしいね……」

「あの人……響君の事か、まあ俺だって甘いのは分かってる…性分だ……情けない事だが……しかし今の君の持つ可能性に懸けてみようか……」

 

 弦十郎は少しだけ嬉しかった。

 響が必死に伝えようとした気持ちが今目の前の少女を動かす何かになったのだと。

 

 

 F.I.S.はフロンティアに上陸していた。

 

「こんなのが海中に眠ってたとはな……」

「あなたが望んだ新天地ですよ?」

 

 クリスの発言に望んでも無いのに回答するウェル。

 

 

『仲間を裏切って私たちに着くと言うのデスか?』

『こいつが証明書代わりだ』

『しかしデスね……』

『力を叩き潰せるのはさらに大きな力だけだ。私の願いはこれ以上戦火の拡大を広げない事』

 

 

 そう言って敵側に着いたのだ。

 未来は響に新しく服を着せて背負っている。そしてクリスを見て、

 

「まさかあなたとこの景色を見る事になるなんて……何を考えてるの……?」

「そのバカは負けたんだな…………」

「安心して?もうガングニールは祓ったから大丈夫」

 

 クリスは複雑だった。

 ガングニールが無いのならもう死ぬことは無いのだが、同時に2課は最大戦力を失ったことになる。

 

 

 そのままフロンティア本体の散策を行う。

 マリアはクリスに問う。

 

「……本当に私たちと一緒に戦う事が戦火の拡大を防げると信じているの?」

「信用されてねーんだな?」

 

 その問いは自分への自信の無さから来る無意識的なものだった。

 そうして軽口を叩いていると、目的地のジェネレータールームに着く。

 ウェルはネフィリムの心臓を取り出すとそれを、部屋の真ん中にある円形の機材に取り付ける。すると心臓に蓄えられているエネルギーがフロンティア内に充填される。

 フロンティアが本格的に起動する。

 

「ではナスターシャ先生も制御室にてフロンティアの面倒をお願いしますよ?」

 

 切歌はそんな光景を見ながら、

 

『切ちゃん私は……私はっ…!ドクターのやり方じゃ誰も救えない!』

 

「ッ!そうじゃないデス!ドクターのやり方じゃないと調を助けられないんデス!」

 

 迷いを振り切りたくて彼女は叫ぶ。

 

 

 フロンティアのブリッジに当たる場所にはウェル、マリア、未来と彼女に背負われる響の四人がいた。

 するとウェルの手にはリンカーがあった。それを見て不審そうなマリア。

 

「それは?」

「リンカーですよ?聖遺物を取り込むネフィリムの細胞を取り込んだ」

 

 ウェルはそう言って腕にリンカー注入する。

 腕が変色をし明らかに太くなる、もはや人ならざる存在に変質している。

 聖遺物を喰らう性質を利用、腕をブリッジのコントロールパネルにかざして制御を試みる。

 

「動かしたいですねー?ちょっとくらい良いですよね?」

『早すぎますドクター!』

 

 ナスターシャの制止する声を無視して、月にアンカーをひっかける。するとフロンティアが浮上する。

 

 

(加速するドクターの野望!カストディアンの遺産ならなにか月落下を防ぐ方法があるはず)

 

 ナスターシャもまた戦っている。

 

 

 アメリカ軍の第2波がやってくるがフロンティアの持つ重力制御を応用して戦艦が潰され爆散してしまう。

 それは圧倒的な戦力差だった。

 

「これは月を……そうかそう言う事……」

「何があったの?」

 

 未来は何となくでウェルの行為と目的に気が付いた。

 マリアは質問するがそれにウェルが答える。

 

「行きがけの駄賃に月を引き寄せちゃいましたよぉ……」

「まだ救済の準備は済んでいない!何で操作を受け入れないのっ!?」

 

 マリアは慌ててパネルを操作するが制御を受け付けない。

 未来は観察した結果を口にする。

 

「多分…制御権をネフィリムの細胞に乗っ取られてる。聖遺物を喰らう特性を利用してね。多分だけどウェル博士は人類をごく少数に選別して一部だけを生き残らせるつもりなんだと思う。これはまるでノアの箱舟……」

「なんですって!?それでは多くの人の命を救えない!」

「いやーっ!やはり未来君は素晴らしい!そこにいるダメな女とは大違いだぁ!!」

 

 マリア怒り狂ってウェルに突っかかるが軽く殴られてしまい倒れこむ。

 

「ここで僕に手をかけても地球の余命が後僅かなのは変わらない!」

 

 マリアは自分の無力さに打ちひしがれて泣いていた。

 未来はその様子を黙って見ていた。

 

 

「あの装者がですか……?了解です」

 

 調を外に出したことに驚いていた。

 それと同時にもしかしたら立花の気持ちが通じたのかもしれないと少しだけほおが緩む。

 

「しかし、深追いしすぎたか……?」

 

 何となくだが翼はノイズの動きに撃退ではなく、誘導するような違和感を感じていた。

 

「ッ!?」

 

 すると翼の乗っていたバイクに攻撃が加えられる。

 慌ててバイクから降りてそれをかわす。態勢を立て直し襲撃者を見やるや。

 

「待っていたぞ雪音」

 

 そこには雪音クリスが待ち構えていた。

 相手は問答無用で生み出した二丁拳銃で攻撃を行う。

 翼は銃弾を剣で跳ね返すがクリスの行動を見て驚く。距離を取って一方的に銃撃を行うのではなく敢えて接近してきたからだ。

 

「なんだと……?」

 

 怪訝そうな顔を作るがすぐさまその意図を知る。

 クリスは拳銃を発砲としてだけでなく、剣を防ぐための盾と、鈍器としての2つの用途で使っている。

 言ってしまえば銃拳もしくはアルカタだ。

 殴ると引き金を引くのは全く違う動作なのだが、近距離なら殴る、中距離なら発砲の組み合わせで間合いによって変幻自在の攻撃パターンを生み出していく。

 翼の体感では射撃はリーチの長い突き技に感じる。

 

「くっ!」

 

 殆ど防戦一方になる。

 好機を見つけると斬りかかるのだが、それを拳銃で受け止めて威力を利用して後方に下がり組み付かれるのだけは防いでくる。

 かと言って大きく間合いを取ればそれこそ相手の独壇場だ。

 翼とそれなりに一緒に戦ってきたからこその戦略に苦い表情をする。

 

 

 調は縦回転の大型ノコアームドギアを作り出しその円盤中央に組み込まれる形で高速移動を行う。例えるなら巨大なタイヤ真ん中に入り込むような。

 暴走した仲間を止めるために疾走する。みんなはおそらく大きな建物にいるだろうと当たりをつけている。

 遺跡を目の前にして突如調はアームドギアを解除して止まる。上を見やると切歌がいたからだ。

 

「切ちゃん……」

 

 切歌は調を認めるや、

 

『Zeios igalima raizen tron』

 

 いつでも攻撃が出来るよう臨戦態勢を取り降りてくる。

 そして問いかける。

 

「一応聞いておくデスけど、逃げてきたとかじゃないデスよね?」

「うん、切ちゃんを、マリアを、そしてマムを助けに来た。あっ…あと未来さんも」

 

 切歌は迷いない相手の表情と口調に苦々しい表情をして要求をする、

 

「私達を助けたいならさっさとギアを解除するデス!」

「…………羨ましかった」

 

 叫ぶ切歌に対して調は心の中にあったものを吐露していく。

 

「誰からも必要とされていて、それでいて羨むほどに真っ直ぐに輝いているあの人が眩しすぎて……」

 

 脳裏に響の姿が浮かぶ。

 ポツリと、

 

「自分に無いからそれが妬ましかった…………誰かを守りたい、必要とされたいから私はギアをまとったんだ、でもその気持ちをいつの間にか忘れてた。だからもう自分を偽らないよ」

 

 そして切歌にここで初めて目を合わせてゆっくりと問いかける。もう逃がさないとこぼれ落とさせやしないと。

 

「切ちゃんはどうなの?これでいいと思ってる?今の自分を過去の自分に胸を張って見せられる?未来の自分に自信をもってバトンを渡せる?」

「ッ!?」

 

 切歌は苦しそうな表情をする。このままでいいとは彼女自身決して思っていないのだ。

 調は苦しそうにしている相手に安堵をする。

 平気で他者を傷つける事を良しとしているウェルのような人物なら言葉による説得はまず通じないからだ。

 このまま勢いで押し切ろうと言葉を重ねようとする。

 

「ねぇ切ちゃん私は」

「…………それじゃダメなんデス」

「え……?」

 

 切歌は調の言葉を切り裂くように重ねて言葉を繋ぐ。

 

「引き下がれない……私が私でいられるうちに……」

「……切ちゃんでいられる……?」

「…私の証を残したいんデス!」

「それが理由?」

「そうデス!」

 

 それ以上言葉はつながらなかった。

 お互いに言葉で譲る気が無いなら戦うしかない。古今東西の戦争はそうやって起こってきた。

 調はヘッドギアから2本のアームとその先にノコを、切歌は一本の鎌から3枚の刃を生み出す。そしてお互いに構える。

 

 イガリマとシュルシャガナ同じ神の力を使っており、お互い同じ近中距離の切断武器メインで同系統なので自ずと牽制しあって隙を探して攻撃を叩きこむしかない。

 しかしイガリマの方が近接に寄っている性能を有しているため、調は懐に入らせない立ち回りを求められる。

 

 最初に牽制と切歌は鎌を全力で振って刃を射出する。それに対応するためノコを射出して対処。

 調は素早くアームを四つに増やして手数を増やしより近づかせまいとする。

 切歌は懐に飛び込まんとするが、相手はすぐさま迎撃。諦めずに肩のアーマーからエネルギー噴射で体勢を立て直して追撃を図るがうまくいないして踏み込ませない。

 埒が明かないと切歌も鎌を2つに増やす。手数には手数で対応する構えだ。

 2人とも引かない。お互いの胸にあるぶつかる理由があるのだから。

 

 

 戦場は混沌としていた。

 翼とクリスの2課装者同士が戦い。

 切歌と調のF.I.S.の奏者同士が戦う。戦場としてはあまりに歪だった。

 マリアはその戦場を見て膝を着く。

 

「どうして仲の良かった調と切歌までもが……私の選択はこんなものを…………」

『……マリア、今そこにドクターウェルはいませんね?』

 

 ナスターシャから通信が入る。

 

『フロンティアの情報を解析した結果、月の落下を阻止する手立てを見つけました』

「そんなものが……」

『それにはあなたの歌が必要です』

 

(月落下を…………?)

 

 彼女は話を聞いていた。

 そんな都合の良いものがあるのかと未来は半信半疑だった。

 そんな神のようなことが出来るのならこの計画は進まなかったはずだからだ。

 未来は響を部屋の壁際に眠らせる。まだ目覚めそうにはないし、そもそも覚めた時にはすべてが終わっている可能性が高かった。

 

(もしかしたら……)

 

 未来は考えてしまう。

 いつも笑顔で貧乏くじを引く、そしてどんな困難にも耐える彼女ならこの絶望を何とか出来るのではと期待してしまう。

 彼女にはそれが出来なかったのだから。

 

 

 2課もただ手をこまねいているわけにはいかない。

 緒川と弦十郎はトラックを用意してフロンティアへの突入を計画していた。ウェルの拿捕と響の救出だ。

 準備をしているとオペレーターから通信が入る。

 

『司令!出撃の前にこれをご覧ください!』

 

 緒川がタブレット端末を開いて見せる。

 

『私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限におさえるためにフィーネの名を騙ったものだ』

「F.I.S.は何を狙って……」

 

 怪訝そうな緒川。

 弦十郎はかつての仲間が、そして最後には真の仲間となってくれた女性が裏切ったわけではなかったことに安堵と今更何を語るのか見逃すまいとしていた。

 

 

 マリアの口から語られるのは、月落下の真実と一部の特権階級たちが生き残るために隠蔽している事を述べる。

 これらは嘘偽りのない事実だが画面越しの当事者でありながらも部外者でもあるオブザーバーはみな怪訝そうだ。

 

 

『月を私の歌で……?』

『月は…人類から相互理解を剝奪するためカストディアンが設置した監視装置……フロンティアならルナアタックで一部機能不全となった月機能を再起動し……公転軌道上に修正可能です……』

 

(昔から月が不和を象徴するのはそういうこと……)

 

 未来は新たに得た情報を整理する。

 長い説明をするナスターシャしかし、

 

『ぐっ…!えふぉっ!』

 

 何かを吐き出すようなくぐもった声がする。

 

『マム!?』

『あなたの歌で世界を救いなさい……!』

 

 命をかけたメッセージが伝わった、それだけでマリアが動くには十分だった。

 

 

 そんなやり取りを脳裏に浮かべながらマリアは、

 

「全てを偽ってきた私の言葉がどれほど伝わるか自信はない、でも歌が力になる事!それだけは信じて欲しい!」

 

 すると、

 

『Granzizel bilfen gungnir zizzl』

 

 黒いガングニールをまとい歌い出す。この歌で人の心が動いてくれと。

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