過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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予期せぬ決着がそこにはあった

 翼とクリスの戦いは苛烈を極める。

 クリスの銃弾に対して剣を縦に添えて銃弾切りを行う。

 そして問いかける。

 

「何故弓を引く……雪音ッ!」

「…………」

「その沈黙を答えと受け取らねばならないのか!?」

 

 戦う理由を問うが沈黙で返される。

 悲しみと焦りが翼の中に生まれる。

 剣にエネルギーを充填し剣撃波を飛ばす、しかし相手はそれをあっさり躱すが、それも織り込み済みと直接斬りかかりに行く。

 それをクリスは刃を拳銃の銃身で受け止める。

 つばぜり合いが起こり、そして沈黙になる。

 それを先に切り裂いたのは翼だった。

 

「何を求めている!?」

「っ……くっ!」

 

 問いかけにクリスは無表情を装っているが僅かに見える苦悩。

 突如間合いやコンビネーションを無視して突っ込んでくる。

 翼はそれを捌きながらも言葉を聞く。

 

「私の十字架を他の誰かに背負わせるわけにはいかねーだろ!!」

「!」

 

 クリスの答えは叫び。

 わざとらしく首を振って叫ぶクリスを見て翼も気が付いた。彼女の首に妙なものが取り付けられているのだ。

 それに一瞬気を取られると、蹴り飛ばされてしまう。

 

「ぐうっ!」

 

 蹴られてた痛みに呻いていしまう。

 クリーンヒット、受け身を取るが苦しい。追撃と、拳銃二丁を乱射するが剣の腹を使って急所を防ぐ、装甲の無い柔肌の部分を守る。

 痛みや衝撃波あるが何とか防ぎきる。

 

「何をなそうとする?」

「汚れ仕事は居場所のない奴がこなすのが相場だ…」

 

 問いかけに対して相変わらずスレた事を口にするクリスにふと表情を和らげる翼。

 

「首根っこ引きずってでも連れて帰ってやる、お前の居場所に」

「……!く…」

 

 真っ直ぐな言葉に対して、気まずそうに顔を逸らす。

 しかし声をかけるのを止めない。

 

「お前がどんなに拒絶しようとな、片翼では飛べぬことを知る……私の先輩の風を吹かせるものの使命だっ!」

 

 その言葉は決して一人では出なかった答え。

 翼の脳裏にはかつて自分を導いてくれた人が浮かんでいた。

 

「…………風鳴先輩……次で決める!昨日まで組み立ててきた私のコンビネーションだ!」

「ならばこちらも真打をくれてやる!」

 

 クリスは武器を両手をボウガンに変更するがそうはさせまいと剣を投げつけて片方を破壊する。

 爆発の衝撃で片手を負傷。しかし片手だが無事な方で無理矢理弓を射出する、剣でいなそうとするが全ては防ぎきれずに横っ腹を浅く傷つけてしまう。

 

「くぅっ…」

「いっつ……!」

 

 これで終わりだとクリスはミサイルの乱射を狙い、それを迎撃するために短剣を大量に生み出して投げつける。

 二つの攻撃がぶつかり合い爆発が起こる。

 そしてアメノハバキリとイチイバルの反応が消えた。

 

 

「私が私でいられるうちに?ってどういう事?」

「私の中のフィーネの魂が覚醒しそうなんデス」

 

 脳裏に浮かぶのは工事現場での一件。あの時指先から発生した防御壁は忘れようにも忘れられない。

 

「レセプターチルドレンだもの…こうなる可能性はあったデス」

「だとしても止めるよ」

「え…?」

 

 調の迷いない一言にたじろぐ切歌。

 フィーネの一件を言えば嫌でも相手は引き下がるだろうと思っていたからだ。

 しかし結果は。

 

「レセプターチルドレンとかフィーネとかそんなごちゃごちゃした事は今は関係ないよ。今、私の目の前にいるのは大切な家族の暁切歌だけだよ」

 

 調は一切目を逸らさずに言う。

 その揺らぎなき視線を受けて相手は尻込んでしまう。

 

「だからそんな悲しそうに刃を振るう切ちゃんを私は止める。大好きだから止める。その後でフィーネについて一緒に考えよう?」

 

 そう言って武器を構える。

 

「ッ!大好きとか言うなぁっ!!私の方がっ!!だから大好きな人達がいるこの世界を守るんデスっ!」

「切ちゃん……」

 

 切歌は肩のアーマーから左右4つの刃を生み出す。手数で圧倒するつもりかそのまま芸も無く突貫する。4本の刃で調の大ノコを防ぎながら距離を詰めようとする。

 

「しっ!」

 

 ノコを全力で振って切歌を飛ばして距離を取り素早く武装を変更。

 最初に移動するのに使った縦ノコに入り込んで移動する技だ、これで真っ直ぐ突貫する。

 切歌も見慣れた技なのかすぐさま対応を始める。2つの鎌を繋げて1つのハサミにする、これで受けようとする。

 受け止めるが調それも想定内と武装を解除して、素早く小型ノコを射出して攻撃。

 しかしすぐさまハサミを解除して2つの鎌に戻して叩き落とす事で迎撃。体に直撃するものだけを破壊するが、しきれない当たりは柔肌を掠めてしまう。

 距離を詰めるため調が脚装に内蔵されているローラーで迫るが、それに対処するため肩からアンカー4本を飛ばして迎撃を図る。全てをかわしてツインテールノコで斬りかかるがそれは切歌の鎌が受け切る。

 つばぜり合いから一転して再び一定の距離を作る。

 

 実力は拮抗。

 フェイントを織り交ぜたりするのだがお互いに長い時間を過ごして苦楽を共にしたからこそ、攻撃パターンとその対処法を知っているがゆえに通常の戦闘ではキリがない。

 調は再度相手に引くように言い放つ。

 

「切ちゃん引けない?」

「……引かせたいなら……力ずくでやるデスよ……」

 

 しかし覚悟を決めてここに来ている切歌が引くはずもない。

 懐から取り出したものを調に向かって投げつける。足元に転がるのはリンカーだ。

 それを認めて呟く。

 

「……リンカー」

「聞いてくれないなら力ずくで押し通すしかないじゃないデスか……」

 

 千日手、厳密にはどちらかはリンカーが先に切れるので永遠ではないのだが。とにかくこのままではラチが明かないと考えたのか。切歌はリンカーと絶唱で一気にケリをつける気だ。

 調にもリンカーを渡したのは言い訳を許さずに真っ向から調の信念をへし折るためだろう。

 自身の首筋にリンカーを注射して唱える。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl』

 

 調もまたそれに乗った。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl』

 

 2人の絶唱が唱え終わる。

 切歌の鎌が突然巨大化し、刃の部分に関しては自身の身長の倍は超えている。それを持つのではなく乗る事でコントロールしている。刃が当たれば相手の魂を刈り取る一撃。

 調の手足に巨大で長細い装甲が実装される、全長が倍以上になる。手には自身の全長ほどの巨大なノコが実装される。

 先制攻撃と巨大鎌からブースターを発してブーメランのように回転する。

 鎌とノコが衝突するが勢いと回転を加えた鎌の方が威力では上だ。接触すると負けて調の左ノコが破壊される。

 

「あのドクターのやり方で助かった世界では私みたいに大切な人を失ってしまうんだよ!?」

「それしかないんデス!!」

 

 そう叫ぶと切歌は相手の右手のノコも破壊する。

 

「うわっ!」

「たとえそれで調に嫌われてもーっ!!」

 

 両手の武装を破壊してもう終わりだと、鎌を彼女に当てて倒れさせると。

 止めを刺そうと鎌を力いっぱい回転させて叩きつけようとする。

 避けるのは不可能な間合いと速度、神獣鏡のように飛んで逃げるような便利能力はシュルシャガナに備わっていない。横にも縦にもローラーで移動できるがそれは想定している。

 勝てると切歌は何の油断も慢心も無く思っていた。

 

 しかしだ。

 消えたのだ、切歌の視界から調が。

 

「な、にがー?ガアッ!?」

 

 呆然としたのがまずかった。

 思考が停止した瞬間、思いっきり地面にぶつかってそのダメージでギアが解除されてしまう。

 痛みとショックで体が動かず、呆然と倒れていると誰かが歩いてくる音がする。

 調だ、すでにシンフォギアは解除されている。疲労と負傷なのか体の重心は真っ直ぐではなく斜めになっている。

 

「ど、うやって……?」

 

 調はその質問の意味を素早く理解した。

 あの回避は彼女の行動パターンには無かった。

 

「……ギアを解除して、それで足の装甲を消して自由落下で避けた」

 

 ギアを解除したことで足の装甲が消えた。それによって絶唱状態での調の全長を想定した一撃が空ぶったのだ。

 切歌の想定していなかった下方向への回避。

 

「ま、けたデスか……」

 

 呆然としていた。

 覚悟の全てをかけた戦いだったのに負けた。さっきまで見せた強気で強情さは嘘のように折れて消えた。

 

「フィーネに…乗っ取られる前に世界を……調のいる世界を…作らないといけないのにデス……」

 

 涙ぐみながらもそう独白する。

 

「切ちゃんがもし乗っ取られるのが怖いなら……そうなる瞬間に私がその体、切り刻んであげる」

「え……?」

「そして最後に私もいっしょに死んで上げる」

「ちょちょちょっ!?待つデスよ!!」

 

 いきなりヤンデレの重い愛の告白のようなものを受けて慌てる切歌。

 相手はそんな態度に何を驚いているか分からないといった感じで返す。

 

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたも無いデスよっ!調が死んだら、じゃあ何のために戦ったのか分かんないデスよ!?」

 

 調はぼんやりとした顔で言う。そしてあっけからんと、

 

「じゃあ乗っ取られないように頑張らないとね」

「それは……」

「一緒に諦めずに探そう?出来ないなんて決めつけちゃダメだよ」

 

 切歌は今まで悲観していたが世界は広いのだ。もしかしたら対処する方法はあるのかもしれない。1人ではなく背負ってくれる調がいるのだから。

 

「し、らべ…調-っ!!」

 

 切歌は泣きながら調に抱き着いた。

 そして調はそれを笑顔で受け止めていた。

 

 

 ウェルはフロンティア内の洞窟の1つにいた。

 

「シンフォギア装者はこれから僕の統治する世界には不必要……まぁ護衛に未来君は残しておくか…………」

 

 ウェルは今回のクリスと翼の一件を仕込んだ張本人だ。

 クリスがソロモンの杖で苦しんでいるのを知って爆発する首輪をつけさせる。そして、翼を倒すように命令すれば悲劇の衝突の出来上がりというわけだ。

 倒せばソロモンの杖を渡すなんて言う約束を取り付ければより高いレベルでの悲劇が出来上がりというわけだ。

 

「…そのためにぶつけさせたのですが……こうも上手くいくとはっ……」

 

 ニヤニヤと自分の計画が上手くいった事に満悦していると、

 

「ちょろすぎるぅ~っ……んあ?」

 

 余裕をぶっこいていると、目の前に2人の影が存在する。

 1人は倒れているがもう1人は立っている。それは明るい銀髪と赤い装いだった。

 

「はあっ!?いっ……」

 

 もう1人は青いロングヘアーと認めるといよいよ目の前に誰がいるのか認めざるを得ない。

 同士討ちさせて始末した2人が目の前にいるのだ。ウェルは青ざめる。

 すると立っている方が口を開く。

 

「約束通り…二課所属の装者は…片づけた……だからソロモンの杖を私に……」

 

 クリスは右手を差し出してよこせと態度で要求する。

 動揺こそあったがなんとかウェルは立ち直る。

 

「ッこんな取引が成立すると思っているんですかねぇっ…」

「…………」

 

 ウェルは懐に忍ばせているスイッチに指をかけて押す。この状況で推察できるのはクリスの首輪の起爆スイッチだ。

 醜悪なニヤケが顔があった。しかし、押しても世界は何も変わらなかった。

 

「んあっ!?何で爆発しないっ!?」

 

 慌てたようにスイッチを何度も押す。しかし何も反応はしない。

 

「壊れてんだよ!!それに同じ手を何度も使ってんじゃねーよっ!!」

 

 翼との戦いの中、爆発で視界が悪くなっている間に解除していたのだ。見られていないうちに。

 そう言うとミサイルを展開して辺り一面を破壊する。壁が破壊されて穴が開き随分と風通りが良くなる。

 

「どうせあの怪しいガスを仕込んでんだろ?病院の時みてーにな。しかし約束の反故とは安い三流悪党がやりそうな……」

 

 響が以前廃病院で壁に穴をあけてとっさに換気をしなければ気が付かなかった事だ。

 2課の捜査班があの場にはガスが仕込まれていると報告をしたため一応警戒はしていたのだ。

 そしてそれは響が何故事前にそれを察知出来たのか、そして何故言わなかったのかと言う謎を残すことになったのだが。

 

「うっうわあっ!来るなあっ!」

 

 ウェルは策が全て潰されて慌ててノイズを召喚する。

 しかし、クリスは素早く銃で相手が持っていた杖を弾き飛ばすが数体の召喚を許す。

 

「ちっ」

「うひゃああああっ!」

 

 ウェルはノイズを盾にしてその間を縫い叫びながら逃げていく。

 クリスはそれを無視してノイズ達を蹂躙していく、アンチリンカーで弱らせられなければ大した脅威ではない。

 強めの巨体なノイズはウェル自身が巻き込まれるのを警戒したのか召喚されていないのだ。

 そこでクリスは背後に1体のノイズに周りこまれるが振る向かなかった、すると真っ二つに切り裂かれる。翼が立ち上がり援護したのだ。

 短い間でも抜群のコンビネーションを見せる。ノイズの蹂躙劇は終わりを告げる。

 

「任務完了……これを」

 

 そう言って拾った杖をクリスに手渡す翼。

 クリスはそれを受け取ると重みを実感する。

 昔は暴れて何も考えずに振り回していたが、今はずっしり手に残る人を殺せる兵器の重さとその感触を。

 そして翼に、

 

「1人で飛び出してごめんなさい……」

 

 素直に謝った。それはきっと翼に心を開けた証拠だ。

 微笑みながら翼は、

 

「気に病むな、こんな殊勝な雪音を見られて僥倖だ」

「…………そ、それにしたってよ……何で私の言葉を信じたんだ…?」

 

 相手はなんてことはないと答える。

 

「雪音が先輩と呼んでくれたからな、続く言葉を斜めに受け取るわけにはいかないだろう?」

「そ、れだけか?」

「それだけだ!そろそろ立花を助けに行くぞ」

 

 響と言い、翼と言い、そして2課の連中といい。こんなにめんどくさい雪音クリスという少女を見捨てないのだから変人の集まりだ。

 

 

「くそっ!!ソロモンの杖を手放すとはっ!!」

 

 ウェルは自分の油断に歯嚙みしていた。

 死体を確認していればこうはならなかった。

 万が一を考えて爆弾を起爆していればまだどうにかなったのかもしれない。

 とにかく奸計の成功を確信して生まれた慢心に苛立っていた。

 彼には手札が無くなりつつあった。

 

「こうなったら未来君かマリアをぶつけてやるっ!」

 

 往生際の悪い男だった。

 

 

 マリアは全力で歌う、そして歌い切る。

 

「はあっ!ぜえっ……!」

 

 息が上がっている。

 プロ歌手であるマリアがそこまでなるほどに全力だったのだ。

 

『月の遺跡依然沈黙……』

 

 ナスターシャの無情な言葉。

 その言葉に膝を着く、マリアの心が折れかけていた。

 

「私の歌は誰の命も救えないの……セレナっ……!」

 

 今まで強くあろう、高潔で気高い自分であろうとして心を補強してきたがこれで心がぽっきりと折れてしまった。

 

「う、ああっ…うっ…………」

『マリアっ、月遺跡の再起動を……』

「無理よ……私の歌で世界を救うなんて……」

 

 心が折れて弱音しか吐けなくなる。

 

『マリアっ!月の落下を防ぐ最後のチャンスなんですよ!』

 

 その言葉に少しだけ力を貰ったのか立ち上がるがそれだけだ、目に力が籠っておらず呆然とした感じだ。

 

「マリアっ!」

 

 未来が叫ぶ。

 するとウェルがブリッジに入ってきてマリアを殴り飛ばす。

 

「きゃあっ!」

「月が落ちなきゃ好き勝手出来ないだろうがっ!」

 

 マリアが殴れて倒れこむ。

 ナスターシャは驚いた声を。

 

『マリアっ!』

「あぁ?やっぱりおばはんか……」

 

 もう既に紳士ぜんとした面構えなど消えて醜悪さだけが残る顔になっているウェル。

 ブリッジのパネルに手をかざしてフロンティアを操作していく。

 

『聞きなさいドクターウェル!』

 

 ナスターシャはフロンティアの力を使いにフォニックゲインを照射して月遺跡を起動して公転軌道を修正するように要求する。

 しかし、今の彼には言葉は通じない。いや元々他者の言葉など通じていない。

 

「そんなに月を動かしたいのならあんたが行けばいいだろ!!」

「まさかっ!ナスターシャさん早く逃げてっ!!」

 

 未来は素早くウェルのやろうとしている事を察して注意を促すが遅すぎる。

 コンソールを操作し終わるとナスターシャのいる制御室が空に向かって発射される。

 あの場に残っている空気で多少は生きられるかもしれないが、地球へ生きている状態での生還はもう絶望的だ。

 

「マム!」

「なんてことを……」

 

 マリアの悲痛な叫びと未来の呆然とした声。

 

「有史以来!数多の人間が人類支配を成し遂げられなかったのは数が多すぎるからだっ!ならっ!可能な数まで減らせばいい!!」

 

 興奮冷めやらないといった感じのウェル。

 マリアは先ほどまでの腑抜けた態度とは一変して憤怒に彩られた顔をしている。

 その手には目の前の男を殺さんとアームドギアが握られている。

 

「手にかけるのか?この僕を殺す事は全人類を殺す事だぞ!?」

「殺すッ!!」

「ええええっっ!!」

 

 自分の命が人質にでもなると思っていたのか驚くウェル。

 そんな甘い算段が今のマリアに通用するわけがないのにだ。

 しかし、

 

『Rei shen shou jing rei zizzl』

 

 紫の閃光がガングニールの撃槍を穿つ。

 破壊の権化とも言えるその槍を紙を切り裂くかのように砕いてしまう。

 

「あなた何をっ!」

 

 得物を破壊されて、それを行った未来を憎々し気に睨みつけるマリア。

 

「落ち着いてくださいと言っても無理ですよね……今この男を殺すとフロンティアが制御を離れてネフィリムの心臓が暴走する可能性があります……今だけは我慢してください」

 

 余りにも淡々というものだからそれがマリアの神経を逆なでる。

 頭に血が上る相手に冷静沈着さは鼻について仕方ないはずだ。

 

「あなたっ!正気で言ってるの!?」

「いつだって私は正気」

 

 このやり取りにウェルは楽しくてしょうがないといった笑いを漏らす。

 

「いやーっ!すんばらしいっ!さすが未来君だ!そこの女とは知性が違うよっ」

「ふざけるな、あとで落とし前はちゃんとつけます」

「ヒイッ!」

 

 未来は決してウェルの味方ではない。

 世話になったナスターシャを手にかけられて怒りも当然ある。しかし今は手にかけるリスクが大きいから我慢しているだけだ。

 それに彼の提唱する人類を選定するのに多少の興味があるのも事実なのだ。

 

「ダメですよ……マリアさん」

 

 部屋の隅から声が聞こえる。

 未来はその声に慌ててそちらを向く。

 

「そんな事をしても誰も、マリアさんの大切な人はそんな姿を見ても喜ばない!」

 

 響だ。

 起き上がった響が声をかけている。

 マリアはこれまで眼中になかった相手に口を挟まれて苛立ちを口にする。

 

「融合症例第1号!余計な口を開くな!お前に興味はないっ!」

「私の名前は立花響、16歳!名前は融合症例じゃない、ただの立花響!あなたはフィーネじゃなくて歌うのが好きで家族思いなマリア・カデンツァヴナ・イヴ!」

 

 突然の自己紹介。

 そして、

 

「忘れないで!今大切な人を失って悲しくてもそれだけじゃない!必ず心に残ってるんだっ!楽しい思い出を憎しみで埋め尽くさないで!」

 

 マリアの脳裏に浮かぶのは決して厳しいだけのナスターシャではない。泣いてる時に優しく撫でてくれた思い出もある。笑顔も何度も見た。

 そしてその優しい思い出と比較したら今の自分がどれほど醜い事か。

 

「わ、わたしはっ…………」

 

 響はそれを見て唱える。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 するとマリアのまとうガングニールが光り輝いたかと思うと解除される。

 ガングニールの力の粒子が響の方へ向かって行く。

 

「これは……こんな事ってありえないっ!……融合症例は適合者では無いはず……あなたの歌って何!?何なのっ!?」

 

 響はガングニールを再びまとった。

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