過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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意趣返し

 ネフィリムが討たれる。

 目の前の結果にウェルは膝を着いていた。

 

「なんだと……」

 

 まさかフロンティアと同化したネフィリムがこうもあっけなく倒されるとは思っていなかったからだ。

 理論上欠片でしかないシンフォギアに完全聖遺物の組み合わせが勝てる道理が無かった。

 しかし、多くの人の力と願いが打倒と言う無理筋を許したのだ。

 

「ウェル博士!」

「あっ!」

「お前の手に世界は多すぎたみたいだな?」

 

 ウェルは弦十郎に驚いたのかコンソールを操作して悪あがきしようとする。

 

「奇跡が一生懸命の報酬なら…………」

 

 コンソールを操作し終わって言う。

 

「僕にこそおおおおおっ!!」

「何をした!?」

「ただ一言ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけ……」

 

 フロンティアの心臓部が怪しく輝く。

 

「ネフィリムの心臓を切り離せと言っただけ……コントロールを離れた心臓はこちらを離れて船体を喰らいつくして……その熱は一兆度だあっ!」

 

 某ウルトラ戦士も真っ青な熱エネルギーだ。

 恍惚そうな顔でウェルは語りだす。

 

「僕が英雄になれない世界なんて蒸発してしまえば……」

「ふんっ!!」

「うわあっ!」

 

 相手の言葉を遮って弦十郎はコンソールを素手で破壊するが一向に暴走は止まらない。

 

「壊してどうにかなる問題じゃないですね……」

「うーむ…とりあえず現状を装者に連絡だ」

 

 

「さてと……どうしよっか……」

 

 啖呵を響に切ったは良いもののフロンティアは広いし足が無いので未来はここで手詰まりなのだ。

 するとそこでウェル博士を担いだ弦十郎が地面をぶち破って飛び出してきた。

 

「わぁ!?」

 

 未来もさすがに驚く。

 地面から飛び出す無理をしながらも相手はなんてことはなさそうに会話をする。

 

「緒川、流石に勢いが付きすぎた」

「……そうですね」

「何なのこの人たちは…………」

「おや?未来君じゃないか!」

 

 弦十郎の発言に苦笑いの緒川。

 どうやら未来の移動手段問題は解決したようだ。

 

 

「僕を殺せばいい……」

「なんでこの男と相席なの……?」

 

 ウェルの隣に座り不快そうな未来。

 ウェルは手錠がかけられているが未来は響への配慮なのか、抵抗の意思なしという判断なのかつけられていない。

 

「殺しはしない…世界を滅ぼそうとした悪魔にも…理想に殉じた英雄にも…どこにでもいる人間として裁いてやる!」

「ちくしょーっ!僕を殺せーっ!英雄にしてくれーっ!」

 

 弦十郎のドスを聞かせた声に暴れ出す。

 

 

 潜水艇の司令室に未来を連れて帰ってきた弦十郎は現状報告を求める。

 

「藤尭なんだ何があった!?」

「忙しすぎですよ!」

「ぼやかないで!」

 

 現状を聞いてフロンティアからの脱出を指示する。

 周りの岩を爆破して海面への脱出を図る。

 

 

「分かりました。臨界に達する前に対処します」

 

 翼が応答すると、突如フロンティア遺跡が眩い光を放つ。

 そして大爆発が起こる。エクスドライブ状態の装者ですら吹き飛ばされそうになるほどの規模。

 慌てて六人はフロンティアから離れる。

 するとフロンティアを喰らったネフィリムが巨大化する。心臓一つからでも再生して見せた、しぶといというレベルを超えてしまっている。

 装者達は気が付かなかったが既に大気圏ギリギリまで高度を上げていた。

 そしてその巨体を見てみな慌てる。

 まだ宙だからどうにかなっているが、あんな高熱体が地表に到達したら、海面の強制的な海面温度と大気温度上昇や蒸発によって世界中に雲が強制的にさし続けて日の届かない暗黒世界になってしまう。

 

 響は知っている、この状況になった際の対処法を、それを出来るソロモンの杖を持っているクリスに声をかける。

 

「クリスちゃん!私に―」

『聞こえる!?雪音クリスさん!!』

「んな……お前は……」

 

 インカムから未来の声が聞こえる。

 響は安堵した、未来は何だかんだ二課と共にいて脱出に成功したのだと。

 

『ソロモンの杖を使ってネフィリムをバビロニアの宝物庫に叩きこんでください!』

「そんなこと出来るのかよ!?」

『出来る!杖は内にあるノイズを外に取り出せます、なら逆に外にあるネフィリムを内に入れる事も出来ます!そもそもそこで倒したら溜め込んだ一兆度のエネルギーが解放されて地球滅亡です!!』

 

 クリスはエクスドライブ時のまとうエネルギーをソロモンの杖に流してネフィリムを入れる事の出来る穴を生成する。

 その先はバビロニアの宝物庫だ。

 

「やった!」

「エクスドライブの力でソロモンの杖を機能拡張したか!」

 

 響と翼が感想と現象への解析を行う。

 

「人を殺すだけじゃないってことを証明して見せろよ!!ソロモぉぉぉン!!」

 

 それは血を吐くような叫びだった。

 一度は犯してしまったソロモンの杖起動という罪、だけど今だけは起動させて良かったと思いたいのだ。

 ネフィリムも自身を異空間に祓おうしているのを察したのかクリスに殴りかかる。

 

「雪音避けろ!!」

 

 殴り飛ばされたクリスが手放した杖をマリアが素早く確保。杖を再起動させて穴を維持する。

 

「明日をーッ!」

 

 ナスターシャが救おうとする世界はもう既にマリアが救おうとする世界になっている。

 たとえこの場に彼女がいなくてもその受け継がれている高潔な意思はまだ死んでいない。

 敵ももう逃げられないと悟ったのかマリアに触手を伸ばして捕まえる。

 1人でも道連れにする覚悟だ。

 

「格納後私が内部よりゲートを閉じる!」

 

 マリアの発言に慌てる切歌と調。

 

「自分を犠牲にする気デスか!?」

「マリアーッ!!」

 

 マリアはネフィリムに連れ去られようとしながらも満足感に浸っていた。

 自身が今日までに重ねた罪はせめて世界の人達の救う事で償って見せると。

 しかしだ、装者達は誰一人としてマリア一人で皆が助かるような考えなど持っていない。

 

「マリアさんも含めてみんなを救って見せます」

「あなた……」

「そうじゃないと私が……ううん……私たちがここにいる意味がありませんから!」

 

 どうやらこの考えに装者たちは万票一致みたいだ。

 そういって全員がバビロニアの宝物庫に突入する。

 

 

 ナスターシャはフロンティアから送られたフォニックゲインを月遺跡に送っている。

 

「…月遺跡…バラルの呪詛…起動確認…………」

 

 全てをやりきったのだ命をとしてマリア、いや娘たちのいる世界を守ってみせた。

 ふとモニターに映っている輝いている地球を見て満足そうに笑む。

 

「星が……音楽となった…………」

 

 この満足そうな笑みが世界を救った英雄の最後だった。

 

 

 調が大型のノコを使ってマリアを拘束する触手を切断、解放するまで他の装者は露払いをしなければならない。

 

「うおおおっ!」

 

 響は右腕を槍を内蔵した大型籠手に変換して飛び回りノイズ達を蹂躙。

 翼は両手に剣をそして両足にも大剣を取り付けて敵を切り刻む。全方位死角なく倒していく。

 クリスは巨大装甲を全身にまとった全身武器庫状態。ミサイルをバラ打ちしてとにかく撃退数を稼いでいく。

 切歌はこれ以上新たにマリアがネフィリムに捕まらないように触手を弾いていく。

 

「調!まだデスか!?」

「も、もう少し……!」

 

 そう言って拘束を切断する。

 響はそれを見てマリアに声をかける。

 

「マリアさんはもう一度扉を開けてください!」

「なに……」

 

 敵を倒しながらも翼とクリスも言う。

 

「小日向が言っていた!内から外へ、外から内へ。外側から宝物庫を開ける事が出来るのなら内側から開けられるのも道理!」

「鍵なんだよそれは!」

 

 マリアはその力強い言葉にうなずいて、

 

「セレナーッ!!」

 

 いつも自分に勇気を分けてくれる存在を口にしながら、外への脱出口を開く。

 

「脱出デス!」

「ネフィリムが飛び出す前に」

 

 そう言ってF.I.S.三人娘は急いで脱出口に向かう。

 翼は足の巨大剣を外して体を軽くしてクリスに言う。

 

「行くぞ雪音!!」

「おうよ!」

 

 クリスもそれに返事をすると全身武器庫装備をパージして周りに撒き散らしてノイズ達を蹂躙してから脱出口へと向かう。

 しかし装者と出口への一本道をネフィリムが防ごうとする。

 最後まで巻き込むことは諦めない姿勢だ。

 

「退路はなさそうだ」

「なら行く道は1つ」

「手を繋いで力を束ねましょう!」

 

 現状を確認するクリスと翼。

 突破のための方法を提案する響の言葉に皆がうなずく。マリアと響が繋ぐと巨大な2つの拳が現れる。

 それが繋ぎ合わさって回転をする。それを装者たちの前に出して一直線に突破を図る。

 アガートラームは刃を主武装としているが、今この時は剣ではなく拳を出して見せた。切り離すのではなく手を繋ぐために。

 そしてネフィリムを貫いてバビロニアの宝物庫からの脱出に成功する。

 

 真下の海岸に勢い余って突撃してしまう。

 

「杖が!?早くしないと…………」

 

 落下の衝撃で杖を手放してしまう。

 早く杖でゲートを閉じなければネフィリムの爆発の余波がこの場一帯を巻き込んでしまう。

 しかし装者は誰一人限界で動けない。

 

「私またすっかり響に絆されちゃった……」

「あなた……」

 

 その場にいた相手に驚くマリア。

 この危険な賭けに乗る人物とは到底思えなかったからだ。

 そうそこには杖を握る未来の姿が。あらかじめ来るとしたらここだと読んでいたのだ。

 

「これで終わりっ!」

 

 そして力いっぱい杖を空の穴に向かって投げつける。

 みんなの思いを乗せた杖は正確に吸い込まれるように飛んで行って、穴を消滅させた。

 

 

 ウェルが輸送されるのを尻目に弦十郎と緒川は話し合う。

 

「月の軌道は正常値に近づきつつあります」

「ああ」

「…………ですがナスターシャ教授との連絡が……」

「…………」

 

 世界を救った英雄に黙祷を捧げる。

 あの時ナスターシャ博士は誰にもたどり着けない思いと場所にいた。

 力では決して成し遂げる事の出来ない事をした。

 そして彼らは装者たちを見やる。

 

 

 彼女たちは月を見上げながら。マリアはボソリと言う。

 

「マムは未来をつなげてくれた……ありがとう……お母さん…………」

 

 それは悲しそうで寂しそうでもだったが、同時にナスターシャからの愛も感じていた。彼女たちはそれを忘れる事は決してない。

 

「マリアさん…………」

 

 響のためらいがちな声。

 振り返ると右手にギアペンダントを持った響が。マリアは渡すか取り返すかの二択を迫られる。

 

「…………ガングニールは君にこそふさわしい」

 

 それは寂しさもあったが吹っ切れている。

 ギアにはない強さの一端を手に入れたマリアにはきっと必要のないものだ。きっとそれを胸に抱き続ければ望む道はきっと開ける。

 

 世界が救われたという事は月遺跡が再起動をして、バラルの呪詛が発動したことを意味している。つまりまた人類の相互理解は遠のいたのだ。そんな会話を装者たちはする。

 響は知っているこれが正しい人間が生きるための世界だと。

 そしてそれは呪詛ではない祝福なのだと。

 

「…………大丈夫ですよ!この世界には歌があります!バラルの呪詛くらい跳ね返せますよ!!」

 

 

 後処理ももう僅かになりF.I.S.組も連れていかれてしまう。

 

「未来」

「なに?」

 

 これまで沈黙を保ち一歩引いた場所で会話を聞いていた未来に話しかける響。

 あの時ネフィリムを退ける知識は響も持っていた。しかしそんな事は関係ないと思っている。

 この世界にも他者に対しても悲観と諦念ばかりを口にする未来が、響達や世界の皆をすべて救うための考えをあの場で授けてくれたことが嬉しかったのだ。

 そして最後に神獣鏡の力を失ってもソロモンの杖の為に飛び出してくれた。

 

「ありがとう」

「…………約束を守っただけ」

 

『響が勝てたなら私が二課につくよ。説得でも戦力提供でも何でもするよ。ただし負けたらこっちに来てもらうよ』

 

 確かにあの時そう言った。

 けどそれが照れ隠しであるのは響でも分かる。

 

「でもありがとう!未来はやっぱり私の親友だよ!!」

 

 その言葉に未来はぽかんとした顔をする。響からまた聞けるなんてといった感じで。

 

「し、んゆう…?」

「親友だよ!!だからっ…さ……」

 

 呆然とした未来の言葉。

 言葉を重ねながらも徐々に響は涙を溜めて未来を抱きしめて言う。

 

「ずっと……こうしたかった……ごめんなさい……ごめんなさいぃ……だからもう一度……友達になってください……」

「…………うぁ」

 

 こみ上げるものを堪えながら未来はその温かさを抱きしめ返して、

 

「うわあああああぁん!!!!」

 

 あの日、立花家がもぬけの殻になった日以来の涙を流した。

 

 

 あの日から半年が経った。

 桜の咲く新しい季節だ。

 ノイズは出てきていない。バビロニアの宝物庫は消滅している。

 しかし響は自分が正しかったのか自信が持てない。

 結局多くの人が亡くなり、そしてナスターシャ博士は帰らぬ人になった。

 

 響とクリスは問題なく進級。

 翼はノイズの全滅に伴って卒業後気兼ねなく世界進出を果たした。

 マリアは米国政府の面子維持のいけにえになった、彼女自身にも罪科があるため仕方のない部分があるとはいえ腹の立つ話だ。

 切歌と調は保護観察ではあるが可能な限り一般人としての生活を送らせる事が決定。それは弦十郎を中心に動いた結果だ。

 

 そして未来はこれからどうするのか決まってない。ただ聖遺物の知識を使った道に進むかもと拘置所内で響に言った。

 聖遺物とシンフォギア、そして聖遺物生物学の権威だったナスターシャ教授とウェル博士の傍にいたのだから引く手あまただ。

 F.I.S.で戦闘訓練だけでなく研究にも足を突っ込んでいたのだから、海外の聖遺物の研究施設あたりが濃厚かとマリアは前に言っていた。

 

 ノイズを全滅できたのは大金星だがそれでよかったのかと。

 自分がしっかりしていればと響は考える。

 

「新学期ですが最初に転入生を紹介します。では入ってきてください」

 

 響が黄昏るのを止めて、前を見るとそこには見覚えのある白いリボンが。

 

「では自己紹介を」

「はい、私の名前は小日向未来です。そこでぽかんとしている立花響の親友です」

 

 小日向未来は花咲く季節にピッタリな笑顔でそう言った。

 どこまでも遠回りで呆れちゃうほど面倒くさい2人の道はこの日、再び繋がった。

 




学校であれ仕事であれ、休日そのものが楽しみというよりも明日が休日だと分かっていてそれで寝坊しようが大丈夫だと思いながら寝るのが嬉しかったり
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