過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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当然のように甘すぎる希望などなかった

 現在は夜中、ここは雪音クリス宅。

 テレビ前のテーブルには大量のお菓子がスタンバイしておりいつでも臨戦態勢は出来ているぞと言った感じだ。

 

「……で?どうしてあたしん家なんだ?」

 

 片眉をぴくぴくしながら人数分のグラスを持ってそういうクリス。

 集まる事は既に了承したはずなのだが、なにかが腑に落ちないのだろう。

 現在クリスの家のリビングには家主のクリスと二年生五人に一年生二人の計八人がたむろしていた。彼女は広い部屋を借りているので狭くは無い。

 

「すみませんこんな時間に大人数で押しかけてしまいました」

「ロンドンとの時差は約八時間!」

「チャリティロックフェスの中継をみんなで楽しむにはこうするしかないわけで……」

 

 アニソン同好会(仮)三人娘にそう言われると何も返せなくなる。

 基本的に寮では大人数で夜中集まるのはマナー違反と言わざるを得ない。外で部屋を借りているクリスは都合がいいのだ。

 

「まっ!頼れる先輩って事でここは一つ穏便に」

 

 コップを運ぶ手伝いをしながら突然祝勝なことを言いだす響。

 その一言にクリスの眉が少し上がる。

 そして言葉を繋げる。

 

「それに……やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ」

「…………みんなで応援……しないわけにはいかないよなっ!!」

 

 クリスも尊敬する翼が頑張っているのをみんなで目に焼き付けたいのだ。

 バビロニアの宝物庫が消滅してから世界にはノイズが発生しなくなった。ノイズがいないのであれば翼を抑えるものなど存在しない。

 彼女は気兼ねなく世界に飛び出していった。

 今回のライブはフロンティア事件で傷ついた人たちに捧げるチャリティライブと位置付けられている。

 

 実はライブが決まった事を電話で聞かされた時に、

 

『ライブですか……色々と物騒ですしライブ外でも気を付けてくださいね……』

『あ、ああそうだな……しかしどうした立花いきなり……』

『え、いや海外って銃が禁止されてなくて危ないって言うじゃないですか!それでまあその……』

 

 そんな怪しさしかない会話をしてしまったのだ。

 本当は銃ではなく錬金術に気を付けてくれと言いたいがそれが言えたら苦労はしない。かと言ってキャロルの本拠地であるチフォ―ジュシャトーの位置を知らないので止めようがないのだ。

 ギアを失う辛さをまた味合わせる事になるのに心が苦しくなる。

 

 そんな事を響が考えているとチャリティフェスが始まる。

 当然クリス宅は大盛り上がり。装者として鍛えてきた歌声とパフォーマンスは圧巻の一言だった。

 興奮冷めやらぬまま言う。

 

「うわー!こんな二人と友達が世界を救ったなんてまるでアニメだね!」

「あーうん、本当だよ~」

 

 弓美の発言に一同は苦笑いになる。

 この中には敵対していた人もいるからだ。

 そんな中マリアを見て切歌と調は苦々しい表情を作り俯く。

 

 月の落下とフロンティアの浮上に関連する事件を収束するために生け贄にされている事実を重く感じている。

 文字通りのアイドル(偶像)になることで。

 

「多分マリアはそんな顔を望んでないよ」

 

 未来の一言に切歌と調は顔を上げる。

 それにクリスも響も彼女に顔を向ける。

 

「マリアが守りたいのはみんなが笑って過ごせる世界なんだよ、だからそんな顔をしちゃダメだよ、心苦しいのは分かるけどね」

「未来……」

 

 未来は珍しく励ますような事を口にする。

 分かりにくいが彼女の言動は基本的にネガティブで悲観的な面がある。

 フロンティア事件以降は響と暮らして学校生活を送る中で多少はポジティブな言動を行う様になっている。響もそれに感動している。

 重苦しかった空気が多少は軽くなる。

 

「そうデスね!」

「私たちがちゃんとマリアを応援しないと!」

 

 切歌と調は元気を取り戻した。

 

 

 彼女たちがライブ中継を楽しんでいるのと同時刻。

 ガソリンを運ぶタンクローリーが炎上していて住宅地内で大規模な火災が発生していた。

 これはS.O.N.G.にもすぐさま通達される。

 

 

 響とクリスと未来の端末に連絡が入る。

 

(来た……)

 

 いよいよ始まるこの日。キャロルと初めて邂逅するこの日が。

 弦十郎の声が聞こえる。

 

『第7区域に大規模な火災発生!消防活動が困難なため応援要請だ』

「はいすぐに向かいます」

「ああ!」

 

 響とクリスは素早く指示に従う。

 

「私は?」

『未来君は人的被害を増やさないように避難誘導の補助を頼む、車は出しておく』

「分かりました」

 

 指示を受けて未来も素早く支度をする。

 シンフォギアを失ったとはいえ特殊な訓練と経験を受けた彼女も一応S.O.N.G.のメンバーなのだ。

 

「私達も」

「手伝うデース!」

 

 1年生後輩コンビも勇ましく立ち上がるが、

 

「2人は留守番だ!リンカーもなしに出動なんてさせないからな!」

 

 クリスはそう言って部屋から出ていく。

 

「あ、そうだこの部屋の鍵預けておくね」

 

 切歌に鍵を預けて響と未来もそれに続いていく。しかしだ、

 

『ぶぅ~っ!』

 

 調と切歌の2人はふくれっ面だった、不満だった。

 止められたこともそうだがギアを使えない未来が何故重用されているんだと。

 

 

 炎上する建物たちを背にフードを被った少女は1つのケースを抱えて走り続ける。

 黄色の上着に黒のズボンをはいた女性は、

 

「踊れ…躍らせれるがままに……」

 

 そう呟いて手に持っているコインを投げつける。

 地面にコインがめり込んでいるため普通に投げているわけだけは無いのは分かった。

 そのうちの一枚が車のエンジン部分に直撃してガソリンに引火したのか爆発する。

 

「うきゃあっ!!」

 

 爆風に吹き飛ばされて短い悲鳴をあげて倒れこんでしまう。

 しかしすぐさま立ち上がって逃走を続行する。ある野望を挫くため、そして大切な人の思いを守るため非力な彼女は何度でも立ち上がる。

 

 一方ある場所で炎上する建物を見ているとんがり帽子を被った少女が陸橋の上に立っていた。

 その瞳には今ある炎だけを見ているわけだはなかった。

 

 

 同時刻ロンドン。

 マリアはライブステージから裏に帰ると黒服の男たちに出迎えられる。

 

「ご苦労様です」

 

 そんな事などこれっぽっちも感じない機械的な口調で言われる。

 マリアの心の中に不愉快さだけが広がっていく。

 

「アイドルの監視ほどでは無いわ……」

 

 マリアは分かりやすい皮肉で返すが、あいてはそれに対してなにも感じないのか平然としている。

 お前に付き合っているのは仕事だと、その悪態も含めて己に与えられた仕事だと態度が告げていた。

 

「監視ではなく警護です。世界を守った英雄を狙う輩も少なくないので」

「…………」

 

 あくまで機械的。

 警護には程遠い温度差を感じる態度にステージと言う緊迫した舞台から降りたのに表情が緩むことが無い。いやむしろ硬くなっている。

 マリアは極力護衛を無視して歩き始める。

 すると小物や舞台で使うであろう道具のあるエリアにたどり着く。

 すると周りから風の吹く音がする。ここは密閉された空間であるにもかかわらずだ。

 

「風…?」

 

 マリアはそう呟くとすぐさま構える。本能的に危険だと察知する。黒服たちも遅れて同様に構える。

 

「司法取引と情報操作によって仕立て上げられたフロンティア事変の汚れた英雄」

「何者だっ!!」

 

 マリアは全てを見抜いている不安と怒りを混ぜた叫びを口にする。

 そうしなければこの得体の知れなさは払拭出来なさそうになかったからだ。

 するとマネキン人形の一つが突如動き出し黒服の一人を拘束、呆然としている間に口付けをする。慌てて逃げようとするが万力に固定されているのかビクともしない。すると生気を失ったのかだらりと体から力が抜けて倒れる。

 もう片方が拳銃を発砲するが対象から風が発生して銃弾を防ぐ、それどころかコントロールして跳ね返す。銃弾が脳天に直撃して撃った本人は即死する。

 敵は茶髪のストレートにゆったりとしたスカートをまとっている。

 ステップをしてタン!っとポーズを決める、そこには演技的なものが含まれている。

 そしてマリアに向かって、

 

「まとうべきシンフォギアを持たぬお前に用はない」

「くっ……!」

 

 絶体絶命とはこの事か。

 マリアは肌で感じて分かる。生身の自分が戦略次第でどうにかなるレベルではない事に。

 ステージ裏の薄暗さが自身の不安の象徴かのように感じる。

 

 何処から剣を取り出したのか敵は問答無用でマリアに斬りかかる。遊んでいるのか単調な攻撃を繰り返す。全てを後ろステップでかわす。

 そしてマリアは縦切りをこれまでとは違い前に向かってかわすと空ぶった一撃は地面に接触したそれは大きく地面をえぐる。当たれば生身では一撃死は免れない。

 彼女は斜め後ろに回り、そして左回り蹴りが敵の延髄に直撃する。意識を奪われるに留まらず脳に後遺症を残しかねない一撃なのだがマリアには不快な感覚が足に残る。人体を打ち抜く柔らかい感覚ではなく鉄を蹴るような不快さだ。

 相手は案の定意識を奪われておらず頭を思いっきり振り上げてマリアを宙に飛ばす。

 

「しまったっ!」

 

 マリアがそう叫んだ時には遅い。

 自由落下しか出来ない彼女の落下地点に剣を突き立てる。回避は不可能、防御も右に同じ、空中で体勢を立て直す便利な能力は彼女には備わっていない。

 覚悟を決めたマリアが身体を固くすると、ギアをまとった翼が飛び出して宙でマリアを確保しつつ右手に持った刀で敵の剣を受け止める。

 

「翼っ!」

 

 マリアを連れていったん距離を取る。

 剣を構えて言う。

 

「友の危難を前に鞘走らずにいられようか!」

「待ち焦がれていましたわ……」

 

 敵はシンフォギアが現れたこのタイミングでも余裕は崩さない。

 シンフォギアを知らないのか、知ったうえで余裕を崩さないのか翼は計りかねる。ただ分かるのは敵だという事実だ。

 

「貴様は何者だっ?」

 

 翼の詰問に、敵は素直に答えた。

 

「オートスコアラー」

 

 淡々と答えが返ってくる。

 

「オートスコアラー……?」

 

 翼の中にはそのような単語は存在しない。間違いなく新たに聞く単語だった。

 具体的な単語の説明は語る気が無いのか、

 

「あなたの歌を聞きに来ました」

 

 そう言って翼に斬りかかる。

 殺し合いが始まった。

 相手の剣筋はゆったりとしているが翼の速度に十分ついてきていた。バスケのストリーボーラーがあまりにも上手すぎるあまりに、逆に緩慢に見えるようなそんな感じだ。

 

 翼は最初は可能な限り無傷での拘束制圧を目標にしていたが、既に相手の技量を知り手加減は止めて二刀流に切り替えて斬りかかる。

 手数を増やしたため僅かに相手の服に掠るようになるが直撃は全て剣で受け止め受け流されてしまう。

 相手の剣術はやはり卓越している。手数では勝てないと悟り、この狭いスペースでは直線攻撃はかわせないと、二本の刀を繋ぎ合わせて薙刀に変更。

 足のブースターを噴出して一気に詰め寄る。回転させる薙刀から赤い炎が生まれて回転が苛烈になると青白く鋭いそれに変わる。

 そして剣の上から叩きつけて吹き飛ばした。

 

「ってちょっとやり過ぎよ翼!人を相手にっ!」

 

 マリアからの叱責も翼は表情を緩めなければ、殺めた事に対して苦悩しているわけでもない。

 

「やり過ぎなものか……こいつはどうしようもなくバケモノだっ!」

 

 敵は瓦礫を吹き飛ばし平然と立ち上がる。

 

 

 ヘリで現場へと急行する響とクリス。

 

『付近一帯の避難はほぼ完了。ただ一つのマンションに複数の生体反応を確認している』

「分かりました。指示と誘導をお願いします」

 

 響はすぐさま与えられた情報の意図を察知する。

 

『また被害状況が4時の方向に拡大していることだ』

「赤猫があばれていやがるのか?」

『クリス君は被害状況の確認に向かってもらう』

 

 響はすぐさまヘリの扉を開く。

 

「任せたぞ」

「任されました」

 

クリスに返して空中に身を投げ出す。

そして、

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 ギアをまとい炎上しているマンションに飛び込んでいく。

 オペレーターの指示通りに重要な柱を破壊しないように繊細かつ大胆に壁を破壊して避難経路を作りつつ避難に遅れた人たちのいる区域に向かう。

 逃げ遅れた人は響に最初は驚いていたがすぐさまあけた穴を通って避難を開始する。

 

『響ちゃん!1人だけ避難に遅れた人が階段にいるわ!誘導するのでお願いします』

「了解っ!」

 

 響の救助活動は順調だった。

 彼女はその男の子を救助した後記憶を遡って母親のところへと向かう。するとそこには救急隊員に詰め寄る女性がいた。

 

「うちの子がまだ見つからないんです!」

 

 響はその女性に聞こえる様に大声で言う。

 

「お願いします!煙をたくさん吸い込んでるんで気をつけてください!」

「こうちゃん!」

 

 嬉しそうな安心した声。

 響は安心した表情を見せたがすぐさま気を引き締める。まだやるべきことが終わってないからだ。

 上の陸橋を見あげるとキャロルと思わしき少女がいた。

 響の心に感慨が生まれる。やっと彼女と再会できたと。

 

 

『それが神の奇跡でないのなら。人の身に過ぎた悪魔の知恵だ!』

『裁きよ!浄財の炎でイザークの穢れを清めよ!』

 

 自分勝手な彼らの理屈で人々を救おうとしたイザークは火あぶり処刑をされようとしていた。

 

『パパ!パパ!パパーっ!』

『キャロル……生きてもっと世界を識るんだ……』

 

 今まさに命尽きようとしている彼は穏やかな表情で最愛の娘に言葉を残そうとしていた。

 

『世界を……?』

『それがキャロルの……』

 

 そう言って彼の体は炎に包まれた。

 

 

 炎上する建物たちを見やるキャロルには涙が浮かんでいた。

 

「やっと見つけた」

「な…………」

 

 響の言葉に驚くキャロル。

 彼女は慌てて指先で術式を刻んで響に攻撃を加える。

 

「黙れ」

「ッ!?」

 

 キャロルの無情な攻撃に慌ててかわす。

 響は自身の中にあった希望的観測が外れているのを感じた。相手の攻撃はコンクリートの道路をあっさりと抉った。

 響は顔から汗を流す、火災によって気温が上昇したために暑いのと、攻撃された事への冷汗だ。

 

『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる!?』

 

 インカムからクリスの慌てた声が流れる。

 

「敵…………」

 

 呆然とキャロルを見て呟く響。

 信じたくないでも現実を見なければいけない。彼女は一縷の望みをかけて聞く。

 

「わ、たしの事覚えてない…………?」

 

 期待していたのだ。

 過去にタイムリープさせられるなら、もしかしたら響だけではなくキャロル自身も過去に記憶も持ち込んでいるかもしれないと。

 そんな奇跡にも等しい願いを胸に秘めていたのだ。

 キャロルは一瞬不思議そうな表情をして決定的な一言を口にする。

 

「貴様の事など会った事があるはずがないだろう?」

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