「う、ううん……?」
響は目を覚ました。
「あ…れ……?ここは…?」
薄暗い空間、響はここに見覚えは無い。
とりあえず立ち上がろうとすると手足が椅子に糸で括りつけられている事に気が付いた。拘束されているのだ。
「えっ……な、にこれ……」
「目を覚ましたようだな?」
困惑する響に声がかけられる。
響が声の方を向くと、キャロルは外で会った時のようなローブ姿ではなく赤いワンピースを着ていた。
「き、キャロルちゃん!?何で……」
「お前が言ったんだろう?さぁ話してみせろ…お前の目的をな」
響の疑問にサクッと答える。
確かに響は話したいとは言ったがまさかこんな拘束されて、尋問に近いような形を取られるとは思っていなかったのだ。
しかし、これ以上ないチャンスでもある。もしかしたらここで説得が出来ればこれから流れる血が無くなる可能性があった。
「大変なの私はみ―うぐっ!」
未来に起こる事を話そうとするとやはり突然起こる喉の圧迫感。
その苦しみで何も話せなくなる。
キャロルはそれを見て片眉をピクリと上げて黙って観察を続行している。
「おいおいなんだそいつヘンダゾ!」
既に起動しているオートスコアラー最大戦力のミカが興味深そうに響を見やる。
「違うふざけてるんじゃなくて私は―がっ!」
ミカに変だと言われて慌てて話せない呪いもしくは体質を説明しようとするとまた喉を締め付けられてしまう。
響の瞳にも僅かにだが涙が滲んでしまう。
ミカはそれを見て面白いのかカラカラと笑っている。
「らちが明かないな……なら話さなくていい…こちらから質問をするから首を縦か横に振って答えろ」
キャロルの指示に首を縦に振る響。
「お前はあの火事の日オレのいる場所を知っていたか?」
首を縦に振る。
「オレの目的を把握しているか?」
首を縦に振る。
「では……過去にオレとあった事があるか?」
「そ、それは……ぁッ!!」
響にとって2択では答えるのは難しい質問。
自分は会った事はあるただし相手は会ったことはない。ここでうっかり響はこの世界とは違う場所であった事を話そうとして詰まってしまう。
「どうなっている……?」
キャロルは表面上は冷静な相貌を崩さないように努めていたが、内心では大荒れだ。
相手の反応が真実なら今まで頑なに話さなかった計画が事前に漏れているのだから。
彼女の予定ではエルフナインが話してやっとS.O.N.G.が計画を知り敵対するシナリオなのだから。
キャロルは裏切りを除けば考えられる可能性を口にする。
「情報収集の類の力を持っているのか?」
響はそれに対して迷いなく首を縦に振る。
これにはキャロルも驚いた。
何の躊躇いも無い反応だったからだ。
間違いなく目の前の相手はシンフォギアを除けば特殊な能力は兼ね備えていない。
「しかしお前にますます興味がわいたぞ……あれを試すか……おいガリィ、スペアの躯体の頭部を持ってこい」
「はいはい分かりましたよ~全くマスターは人形使いが悪い……さっきまで想い出を集め頑張ってきたのに~っ」
彼女の命令にぶつくさと文句を言いながらも従うガリィ。実に性格が悪い。
すると彼女が持ってきたのはマネキンのような顔が彫られていない人形の頭部だった。
「それは…いったい何を…」
「今からこの躯体にお前の記憶をインストールする」
響の疑問に答えるキャロル。
響はインストールと言ってふと思った。
「そんなことが出来るなら被害者を減らす事だって……」
「それも知っているのか……記憶を奪わずにコピーするのは、一方的に取る分以上に想い出を消費するからな」
響の発言はもっともだった。
コピーが出来るなら記憶を奪われて廃人になる人を減らせたはずだからだ。キャロルはその響の疑問に律儀に答える。
ガリィは躯体の頭を響のおでこにくっつける。すると躯体は薄く光り出す。
「動かないでくださいね~失敗したら廃人確定ですよ~」
「え……」
ガリィのいたずらにびくっとする響。
相手は成功して楽しそうに笑う。
響は遊ばれた事に気が付いて恥ずかしくなる。
「どれ…俺にお前を暴かせろ……」
キャロルは立ち上がって響の記憶を入れた躯体に自分の頭をくっつける。
「……………………」
目を見開いて驚いていた。
躯体から頭を離した後も黙り込んでいる。
そして、
「ふ、ふは……」
声をあげる。
しかし、何かが不気味だった。
「あははははははっ!!!!そう言う事か!!なるほどな立花響!!!!」
彼女からは驚き以上に抑えきれない歓喜が溢れ出していた。
響は何がそんなにおかしいのかまるで分らなかった。いや厳密には予想はしているがなぜそんなに笑えるのか分からない。
「ど、どうしたの……?」
「お前の記憶見させてもらったぞ……」
響の疑問にそう答えるキャロル。
薄々その可能性を予感していたが実際に口にされて確信する。
彼女は目を見開いてキャロルを見つめる。過去に戻ってから約三年ついに現れたのだ。
悲劇の未来を共有できる相手が。
「じゃ、じゃあ……」
「答えてやろう。お前を過去に戻したあの術式は昔オレがパパの死を回避するために開発したもの、過去に戻れば死ぬ前に対処可能だからな。だが記憶や意識しか過去に送れないため想い出を消費する自分自身には適応出来ない欠点があった」
響の長年の疑問の1つに答えて見せるキャロル。
「だがこの術式には未来の事が話せなくなる事は含まれていない、そちらは理由が分からない」
これも響が疑問に感じていた事の1つだ。
こちらはキャロルにも原因不明だが。
「で、でもキャロルちゃんからそれを話してくれれば問題は一気に解決を」
響が話せなくてもキャロルが話して対処をしてくれれば現状は良くなるはずなのだ。
しかしキャロルは、
「何を言っている?」
「え…………?」
響の提案に否定ともとれるような言い方。
理解できなくなる、何故というそれだけが脳内を埋め尽くす。
「オレはオレの目的の為に力を使う。お前の記憶のおかげで計画の成功に自信と確信が持てたからな」
「なにを言って……」
響はキャロルの言い分に顔を青ざめる。
未来の記憶があるという事は、何をすれば成功で何をすれば失敗するのか全て把握しているという事だ。
敵がただでさえ強いのに未来に起きる事を把握しているなど寒気がする話だ。
キャロルからすれば違う世界線の自分がやった事など知った事かと言うわけだろう。
彼女からすれば響の記憶で見た事など体験ではなく他人から貰った知識でしかないのだから。
「お前のシェム・ハとの戦いで戦姫たちの攻撃が通用したのは神殺しの力だけではない。七つの惑星に対応する7つの音階、世界と調和する音の波動が統一言語であり。七つ揃った歌が踏み込める神の摂理。あの時お前は神と肩を並べていただから攻撃が通った」
キャロルは楽しくてたまらないといった感じで話し始める。
七つという数字は錬金術師にとって常識的な理論であるのだが実際に理論上は可能というだけで共通言語を証明できたものはいない。
「つまりだイグナイトの旋律を複数集めれば神の生み出せるエネルギーに近いものは生まれる。お前のおかげだ立花響、計画において不明瞭な部分が埋まった。お前を拘束している以上はガングニールの歌の入手は難しいな、チフォ―ジュシャトーや計画に修正を入れないとな……」
既にキャロルは自分の世界に入っている。
響は慌てて声をかける。拘束の糸を無理矢理引きちぎろうとするが素の響ではビクともしない。
「ち、ちょっと待ってよ!そんな勝手な事…!」
「お前がそれを言うか?そうやって記憶を頼りに裏で暗躍しただろう?甘い汁を啜っただろう?」
「ッ!」
キャロルが響にとって一番のウィークポイントを攻める。
記憶があるからこそ犠牲者を減らし、また周りを騙した事は事実なのだ。
響自身の学業成績も本来ならそのポジションで褒められる人間はいた。
父親の仕事も本来なら別の人間が就いていたであろう仕事、響の今の家も本来なら他の誰かが住むはずだったものだ。
誰かが享受するはずのそれを自分のものにしている。
自分でも理解はしているが実際に他者に言われる痛みは想像を絶する。
「困ったな……お前がイグナイトの旋律を提供することは無いだろう……ならお前の友人や家族を人質にするか?」
「な、何を言って……」
キャロルの発言に血の気が引く響。
脳裏には家族や未来が浮かぶ。アルカノイズに狙われたらひとたまりもない。
響は致命的な選択ミスを犯してしまったことに気が付いた。
◎
あの後ミーティングはとりあえず一旦終了という事になった。
エルフナインをどこまで信じていいのか分からないためとりあえず各自考えをまとめる事となった。
切歌と調は検査を行うために一旦席を外しているため、翼、クリス、マリア、未来が休憩室のソファーで話し合っている。
「エルフナインをみなはどう思うんだ?」
『すっごく怪しいと思う!』
「そ、そうか……私もだ……」
翼の話題提供に意見が一致する3人、翼もその息のピッタリっぷりに驚いてしまう。
やはり逃げてきたと言ってもそれは本人の自己申告であり、第三者が証明したものではないためどうしても慎重になる。
「何となくなんですけど最終的に協力を求めそう……」
未来はそう言う。
他三人も何となく気が付いている事だ。
このままギアをただ修復しても分解に対応できないうえに、オートスコアラーたちの戦闘力は現状装者を上回っているのだ。
今のままでは到底勝てない。
何というか詰んだと思ったら都合よく心強い仲間が出来たのだ。疑いたくなるのも分かるというものだ。
これからキャロルはそんな疑念を募らせる前に、次から次へと刺客やアルカノイズをけしかけて悩んでいる隙を与えないのだが。
「エルフナインに助けを求めるって事はあれだろ?シンフォギアを預けないといけないんだよな……」
クリスが不安を口にする。
直接戦う戦闘員だからこそ、戦場で身を預ける生命線のそれをおいそれと預けるのが怖いのだろう。
「そうだ雪音、お前の言っていたロンドンでアメノハバキリを壊したアルカノイズだが絵にしたためてきたぞ、これだ」
「ありがとうございます先輩」
翼からの一枚の絵がクリスに手渡される。
「力作だ」
満足そうに答える翼。
しかしクリスは受け取った後肩をわなわなとさせていた。
そこに描かれていたのは子供の落書きの延長だったのだからだ。何となくだが武士を描こうとしているのが分かる。絵心が無いわけではないのだが……
「アバンギャルドが過ぎるだろ!?芸術方面でも世界進出するつもりか!?」
「問題はアルカノイズを使役する錬金術師に対抗できる装者がいないという事よ。現状戦えるギアがイガリマとシュルシャガナだけで2人はリンカー無しでは体に負担が大きすぎる事よ」
翼とクリスの漫才を無視して現状一番の問題を口にするマリア。
もし今アルカノイズの強襲があったらひとたまりもなく全滅だ。
直接言われてその場にいた全員は身を固くする。気が付かなかったのではなく。気にすると気がおかしくなるからだ。
「あ、そのことなんですが……」
未来が手を上げて発言の意志を示す。
当然ギアを修繕できる人間の言葉に三人は耳を傾ける姿勢だ。直せること自体が自己申告だが不思議とその事を疑う気にはならなかった。
未来は首にかけていたそれを取り出す。
「それは……」
「はいガングニールのギアペンダントです」
マリアは一番に目ざとく気が付く。
今でこそ響が所持するものだがもともとはマリア専用のそれだ。
かつてテロ活動をしていた時に使用していたギアで、フロンティア事件の際に響の歌に反応した結果マリアの手から離れて響を選んだのだ。
「響が行方不明になったポイントに落ちていたんですよ。私は使えないので一応マリアが持っておいて」
「ええ、分かったわ」
未来はそう言うとマリアにそれを手渡す。
翼がガングニールを見てふと言う。
「立花か……相手はさらって何をしたいのか……」
『……………………』
翼が響の今の現状について口にすると辺りがだんまりしてしまう。
可能な限り話題に挙げなかったが全員の心に垂れる毒の1つだ。
もしも今響がここにいたらこの現状では最大級の切り札だったはずだ。
頼りになる仲間の不在がどう影響するのか。
この日は明確な答えが出ないままお開きになった。
◎
本日の調理実習はビーフストロガノフ。
未来はまだS.O.N.G.の方針が固まらないため素直に学校に通っている。響がいないため朝上手く起きれずにガッツリ遅刻したのだが。
「ビーフストロガノフとビーフシチューの違いが分からない……」
「似てますよね」
包丁片手に野菜を切っている未来の発言に反応する詩織。
ちなみに未来は全く料理が出来ないわけでは無い。最低限は出来る、そう最低限は。
どちらも肉と野菜を入れて煮込むので親戚のようなものだ(だと思う)。
料理研究家や料理好きが聞いたら激怒間違いなしだが、あいにく彼女たちは食べるものやその過程にそこまでのこだわりは持っていない。
未来はつい寂しくなる、そばに響がいないからだ。
既に響の失踪から一週間が経とうとしていた。その間も捜索員の必死な活動は続いているが正直見つからないだろうなと思っているのだ。
現状響は家の用事で公欠という事になっている。
「そういやヒナ、ビッキーまだ見つからないの?」
「うーん…厳しいかな……」
肉に小麦粉を慎重にまぶしている創世の一言に困ったような反応をする未来。
ここにいる響の友人三人は火災のあった日を知っているし、S.O.N.G.やシンフォギア、異端技術の説明を受けているので多少は不安を解消するために話している。
「まあアニメでは最後に戦線に復帰して大活躍して問題解決するから大丈夫よ!」
「あ、それまで響は行方不明なんだ……」
未来を励まそうとする寸胴の用意と牛乳を確認している弓美。
彼女は少しだけ嬉しくなる。
もう捨てたつもりだった一般人としての生活、そしてそれを未来の事情をある程度だが知っている人が受け入れてくれることに。
あとは響が帰ってくれば完璧だ。
「大丈夫だって!!響はアニメだと最後まで生き残ってラスボスと戦って散りそう」
「響が散るし私も死んじゃうんだけど!」
縁起でもない弓美の一言に突っ込む未来。
響の失踪を重くしないように会話を展開してくれる友人たちに内心感謝している未来。あの響に付き合えるだけはあるのだ。
そんなこんなで食材を入れて煮込む段階に。未来は調味料を振りかけながら寸胴の中身をかき混ぜる。
「まぁ幸いなのはもうすぐ夏休みだから欠席日数がかさばらない事かな……」
「でもそれって響さんの夏休みが無くなりますよね?」
未来のつぶやきに反応する詩織。
全員の脳内に「そんなのってないよ~!」と半泣きになる響が浮かぶ。
未来にとって問題だらけでストレスがたまっていたため、丁度いい気分転換になった学校生活だった。
◎
「久しぶりにふらわーに行かない?」
そんな提案が出て街中を歩く一行。
前と比べて校舎からお店は遠いのだがそれでもあの味は足を運ぶ価値ありだ。
未来も響に誘われて行ったのだがすっかり虜になってしまった。
響が心配なのだがそれで体調を崩したり、生活リズムをダメにしたらそれこそ響も悲しむだろうと未来は考える。もともと崩れているのもあるのだが。
「しっかしさ今日の確率の授業難しかったね」
「まったくどこであんなの使うのよ!ついてるついてないとか」
創世の数学の授業の愚痴に乗っかる弓美。
詩織もあははと返す。未来はそれを聞いて、
「確率か…………そうだね、例えば3つ1、2、3の番号が刻まれている封筒があるとするじゃない?そのうち一つに当たりの紙が入っているとする」
『?』
3人は突如話し始めた未来に黙って耳を傾ける。
「仮に回答者は1を選んだとするよね?その後で残り2つの封筒の内、外れている封筒を開ける。そして言われるんだよ『一回だけ残りの封筒と取り換えていいですよ』って。取り換えるか取り換えないのかどちらが当たる確率が高いと思う?」
『………………………………』
三人は真面目に考える。
二つの封筒なのだから確率は二分の一なのだから。
「取り換える」
「取り換えますね」
「ええっ!何で取り換えんのよ当たるかどうか50パーでしょ?」
三人は意見を出す。取り換えないのは弓美だけだ。
「うん取り換える2人が正解。取り換えた方が当たる確率は高いんだよ」
「ええーっ!納得いかない!」
未来はそう言う。
当然間違えた弓美は反論をする。
「うん確かにこれだと50パーセントなんだけど…感覚的な話になるけど封筒が100枚あるとして1枚選んだあとで、残りの99枚から外れている98枚を開いてから残り1枚と交換可能だと言われるよね?だったら交換する?」
「そりゃあもちろん……あ……」
「交換した方が当たりを当てる確率は高いよね?」
弓美はここで言いたいことが分かったらしい。
「確率は極めるとこんな感覚的なことを証明するための勉強をするんだよ」
「ちょっと確率を勉強したくなったかも……」
未来はちょっと得意げな顔で言う。
どうやら知識自慢をしたいだけだったらしい。
すると、
「ヒャアッ!!」
『!?』
詩織の叫び声に他3人が反応する。
何事かと前を見ると顔色が悪い男性たちが複数人倒れこんでいた。
未来は急いで駆け寄って脈を計る。死んでいないがかなり弱っている。
本来なら早く救急車を呼ぶことと手当てをしないといけないのだが未来は弦十郎から資料を貰っている。
あの火災の日から最近この辺りで起きているこの手の連続衰弱死事件を。
そして高確率で錬金術師が関わっているだろうという事を。
つまりこの場で取るべきは即時避難だ。
「聖杯に想い出は満たされて……生け贄の少女は現れる……」
「ッ!!」
未来はとっさに声のする方向と友人たちの間に入って立ちふさがるように構える。
青いメイド服を着た、エルフナインがガリィと呼ぶ相手に身体的特徴が似ている。
「アンタが噂の装者最強?いや違ったかしらぁ?もう神獣鏡はバラバラに砕けたものねぇ……」
「く……」
ガリィの軽口の間にも未来は必死に考える。
一般人よりは荒事に慣れているとはいえ今の未来は一般人に異端技術の毛が少し生えた程度だ。
間違っても錬金術師やその手下から友人たちを守り切る事など出来ない。アルカノイズ1体でも致命的。
そんな考えを見抜いているのか相手の手から黒い結晶がこぼれる。
するとそこからアルカノイズ達が出現する。
背後から動揺の気配を感じる。
(どうすれば……)
彼女は必死に考える。この場から逃走する術を。