過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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とても安全な戦い

 現在響はキャロルによって拘束監禁されている。

 チフォ―ジュシャトーで響はキャロルにガリィの視点の映像を見せられていた。まさに響の親友たちが殺されそうになっている。

 当然落ち着いていられるはずなどない。

 

「ど、うしてこんなことを……」

「色々と計画に問題が生じたからな、取りあえずこれで様子を見ようと思ってな」

 

 響の狼狽にも平然と答える。

 

「私が計画に協力しないから見せしめに……?」

 

 響はふと思いついたあり得そうな理由を口にする。

 前と同じで響をたきつける気なのかもしれないと。

 しかし、

 

「まぁ……それもあるが、ガングニールの旋律も可能なら入手を試みたいからな」

 

 キャロルはそう言う。

 どうやらガリィにここでガングニールのペンダントを破壊させる気なのだ。

 この後、傍にいるマリアが緒川と一緒に助けに来る可能性があるからだ。

 キャロルはそれを知っている、響の知識とエルフナインの感覚器をジャックして。

 しかも唯一邪魔を出来る響を抑えている。

 彼女はもう誰にも止められない。

 

 

 マリアはS.O.N.G.本部の潜水艇の食堂で食事をとっていた。

 食べ物を乗せたトレーの隣にはガングニールと壊れたアガートラーム。

 片方は失踪した響のものを取りあえず借りている。アガートラームはテロ組織フィーネとして活動する前に、ナスターシャから作戦には壊れたギアは使わないとして形見として受け取っていたものだ。

 マリアは壊れたギアを見て、

 

「私はセレナのように強くなれるかな……強く……」

 

 そう呟く。

 あの暴走するネフィリムを前にしても一歩も引かずに戦ったあの勇姿はマリアの脳裏に強く焼き付いている。

 そして強いと言えば、ギアさえあれば最強の未来がどうしても彼女は浮かんでしまう。

 元F.I.S.の3人が束になっても勝てない超越者ともいえるあの実力。

 自分は弱い、強ければもっとスマートに月落下を阻止できたはずだし、ナスターシャを犠牲にしなかったかもしれないのだ。

 もう終わった事を悔いてもやり直す事など出来ないのだが、人はどうしてもそれを考えてしまうのだ。

 すると―

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 アルカノイズの襲来を告げるアラーム。

 

「アルカノイズッ…!」

 

 マリアは食事を切り上げて急いで指令室に向かう。

 

 

 エルフナインの協力によってアルカノイズの索敵の精度が上がった本部の指令室。

 モニターに表示されたのは未来とその友人たちがアルカノイズに取り囲まれている姿。

 

「くっ……」

 

 苦悶する弦十郎。

 ノイズが相手ならばシンフォギアしか対抗策が無いのだが、今の未来はその力を失っている。

 切歌と調は前に無理してギアをまとって現在のコンディションでは戦うことが出来ない。シンフォギアを失っている翼とクリスは論外。

 

「緒川……!」

「分かっています」

 

 この二人にはわざわざ多くを語らなくてもいい、積み重ねてきた信頼関係がある。

 緒川はすぐに未来のもとに急行しようとする。

 するとそこへ現れたのはマリア。

 

「何があったの!?」

 

 すぐさま彼女は現状報告を求める。入れ違う形で緒川が部屋から出ていく。

 

「今未来君のもとへアルカノイズとオートスコアラーが攻めている!」

「何ですって!」

 

 弦十郎の報告にマリアは慌てて緒川を追いかけた。

 

 

(さてと……どうするか……)

 

 ガリィは考えていた、これからどうしようかと。

 この作戦の主旨はシンフォギア装者の一人であるマリア・カデンツァヴナ・イヴにガングニールをまとわせて分解するのが目的だ。

 キャロルのタレコミから、今素早く動ける装者は彼女一人である事は確認済だ。

 来るまでは自由にしていいという指令を受けているためノイズを使ってどうしようかと考えているのだ。

 一応ガリィはキャロルに技術者の端くれである未来は一応殺すなと命を受けている。

 しかしそれ以外は特に言われていないという事は、一般人は何人殺してもいいという事だ。

 とりあえずアルカノイズをけしかけて怖がらせようか…などと考えていると。

 

「ッー!!!!」

 

 未来は突如ペンダントをポケットから取り出すと高音を発する。

 するとペンダントが光り輝いていく。

 

「なに……?」

 

 ガリィはとっさに目を覆ってしまう。

 機械である体には過剰な光を浴びても網膜が傷つくことは無いし、人間としての反応で覆ったわけでも無い。

 あの光には何かしらの攻撃的成分が含まれていた、だから防御の姿勢を取ったのだ。

 またアルカノイズたちも光に怯んでいるのか動きが緩慢だった。

 彼女が視界を確保した時にはもうすでに遠くに未来たちは逃げていた。

 

「へぇ……なかなかやるじゃない……」

 

 彼女は素直に感心した。

 ギアを失っても常に自分を守る策を用意している事に。そしてそれを効果的な場面で使用したことに。

 

「ねえ!今の何なの?」

「聖遺物の欠片を使ってちょっとねっ!」

 

 弓美の質問に未来は走りながらも大雑把な答えを返した。

 先ほど放った光は、未来が櫻井理論の解析と研究を進める中で粉々のコアを改造して作った即席の浄化光線だ。

 ノイズを倒すには至らないが、一瞬の目くらましだけは出来る。

 不安だったのはノイズではなくアルカノイズにどこまで効くのかだったが、一応異端技術の末席に存在するであろうアルカノイズにも効果は示した。

 とはいえ敵を撃退出来たわけではないため走ることはやめられないが。

 

 未来が後ろを見ると追いかけてくるアルカノイズ、歩道内のコンクリートやベンチに電柱といった置いてあるものを発光している部分の解剖器官で破壊しながら接近してくる。

 追いつかれたらアウト。

 

(一応これだけの騒ぎを起こしたら応援が来るだろうけど……)

 

 考えてみれば来たところでどうするのかという話なのだ。

 現状アルカノイズに明確なダメージを与える方法は確立していない。

 ただし大元のノイズと違って位相差障壁に力を回していない分だけ物理的攻撃を加える事が出来る。

 しかしそれでも攻撃を受けたら容赦なく分解してしまうためやはり人間にとって圧倒的に立つ存在なのだ。

 

 未来はもう一度ペンダントを使って相手の足止めを行おうとするが、アルカノイズの一体の攻撃が靴に掠ってしまいバランスを崩して転倒をしてしまう。

 そのショックで手からペンダントが離れてしまう。

 

「あ、しまったっ!」

 

 未来は悔しさを口にする。

 自分のせいで友人たちが殺されてしまう。何故この瞬間に敵に対抗できる力を持ってないのかと。

 すると、

 

『Granzizel bilfen gungnir zizzl』

 

 懐かしい歌が聞こえる。

 それは未来が一年前に何度も聞いた歌。

 爆音が炸裂する。

 未来立ち居襲い掛かっていたノイズ達が一瞬で蹴散らされる、槍を突き出すその一撃で。

 黒い撃槍が再び現れた。黒いガングニールをまとうマリアが。

 前と決定的に違うのは黒いマントが無くなった事だ。

 適合係数の低下から来るものなのか、彼女の心象の変化からくるものなのかはデータが少ないため特定できない。

 

「大丈夫?」

「マリア……」

 

 マリアの問いかけに呟くように答える。

 未来は事前にこの展開も想定して響のガングニールを預けていたとはいえ、こんなにも都合よく助けてもらえたことに違和感すら感じてしまう。

 

 するとガリィがニヤリと笑う、そして結晶を放って戦場のアルカノイズを補充していく。

 未来はそれに違和感があった。何で援軍が来たのに嬉しそうなんだと、未来の命を狙ったわけではないのかと考える。

 そもそもだ、翼もクリスもギアを破壊しても命までは狙わなかった。

 ここで未来は何が相手の目的なのか、そこを考えるようになった。

 

 未来が思考を深める間にもマリアの大立ち回りは止まらない。

 

(戦える……この力があればっ……!)

『マリア君!発光している部分が解剖器官だ!気を付けて立ち回るんだ!!』

 

 弦十郎の注意を聞いてガングニールをまとって戦える高揚感にカツを入れる。

 一撃でも貰えばギアはお陀仏なのだ、気を抜くことなど出来やしない。

 槍のアームドギアを使った縦斬り、横斬り、そして突き技の全てがアルカノイズを一撃死させていく。

 耐久力と防御力は本家のノイズと大差はない。分解攻撃を受けなければ十分戦う事は可能だ。

 

「ッう……!」

 

 ここで体の節々から痛みが発する。

 リンカーを使わない事によるバックファイアが体をさいなむのだ。

 本来であれば聖遺物の欠片でしかないシンフォギアは扱おうとすると肉体と聖遺物の間に生じる摩擦で人体を痛めつけるのだが、リンカーを使う事で人体との融和性を高めて使用する事が出来る。

 

 しかしマリアは引くわけにはいかない。

 ここで引けば小日向未来が殺されると考えているからだ。

 もし彼女が死ねばシンフォギアが直せるのかその不安が後に残ってしまう。いやそれ以前に苦楽をともにした仲間を見殺しなど考えすらしない。

 それにエルフナインが悪人とは考えたくはないがそれでも専門家が付いていないと不安が残ってしまう。

 

 敵が解剖器官を伸ばそうと構えてくるがとっさに槍を相手に投げて殲滅。

 投げたそれの回収の為に敵たちに特攻。その間にも殴る蹴るで倒していく。やはりアルカノイズの体自体は強固なわけでは無い。

 投げた槍を回収するとそのままガリィに突きつける。しかし、

 パキパキ……槍が触れた先に氷が発生して受け止めていたのだ。

 

「な……」

 

 驚くマリア、リンカー無しで力が落ちているとはいえそれなりに力を入れた一撃だったのだ。

 それでも軽々と受け止められてしまった。

 相手はニヤニヤと涼しい顔をしている、これがマリアを焦らせる。

 

「このっ…!」

 

 槍先にエネルギーを溜めて思いっきり放出する。

 マリアはその衝撃で後方に下がる。しかし相手は爆風が晴れた後に平然と立っていた。

 ならもう一度と槍で突き技を放つため突貫する。

 当たる瞬間にガリィの体に氷がまとわりつく、守るためだけでなくその氷からマリアの体を突き殺さんと氷柱が飛び出す。

 

「マリア!」

「これは…!」

 

 未来がそのカウンターに気が付いて咄嗟にそう叫ぶ。

 とっさに体をひねってかわす。反応が遅れていたら体が通気性抜群になっていた。

 ここまでの戦いで分かるのは現在のマリアでは勝てない、それだけの残酷な事実だった。

 

(どうすれば……)

 

 彼女は考える。

 もう既に悔しいが倒すではなく、いかに被害者を出さずにここを離脱するのかに考えがシフトしている。

 未来たちも逃げたいのだが先ほどからガリィが視線を完全には外さないのだ。いつでもアルカノイズを出せる以上は下手に動くことが出来ない。

 

「マスターの言う通りアンタ気に入ったわ……ガリィの相手はアンタよ」

 

 相手はそう言うと、足元に氷を生み出して滑るように高速移動して懐に飛び込み、手刀に氷をまとってマリアのガングニールを破壊した。

 

「ああっ!」

 

 マリアの短い悲鳴と共にガングニールが体から剥がれていく。

 それを見て楽しそうに笑うガリィ。

 

「超楽しかったわ~まったねぇ~」

「ま、待て!立花響を何処へやった!?何が目的だっ!!」

 

 ガリィに対して激痛と虚無感を感じながらも問いかけるマリア。

 相手は一瞬きょとんとした後、

 

「あっははははははは!!!!その仲間意識!面白過ぎだってのっ!!」

「な、何がおかしい!」

 

 地に伏せながらも笑いだす相手に憤怒の表情で咎める。

 しかし、

 

「そうだ…いーこと教えてやんよ……立花響はお前らの味方なのか?本当に心の底から腹を割って向き合ってくれていると、そう思っているのかなー?」

 

 マリアは黙り込んでしまう、自分が思った以上に彼女の事を知らないからだ。

 相手はそう言って相手は瓶を地面に投げつけその場から離脱した。空間転移だ。

 

 

 本部の指令室。

 マリアの戦闘をオペレーティングしている。

 

「あれもまた……錬金術か……」

 

 オペレーターが呟く。

 するとそこに翼、クリス、切歌、調そしてエルフナインたちも緊急事態にやっとこの場に現れる。

 

「現代に新型ノイズを現れさせるという事は位相空間に干渉する技術を持っているという事です」

 

 エルフナインの冷静な分析が出てくる。

 相変わらず無表情で感情が無いわけではないがどうも機械的な印象を与えてしまう。

 

「んな事よりみんな無事なのか?」

「駆けつけてくれたマリアさんのおかげでどうにかなったけど……ガングニールが破壊されたわ……」

 

 クリスがすぐさま人的被害について問う。

 悔しそうに友里は答える。

 

「マリア……」

「それって……」

 

 切歌と調はそれが何を意味するのか気が付いた。

 ガングニールをまとうという事は彼女の体に強大な負荷、バックファイアがかかっているという事だ。

 とうとう唯一戦えるマリアすら戦闘不能になる。

 

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