ガリィがチフォ―ジュシャトーに帰還する。
響はそれを見て死人が出なかった事に安心する。とりあえずこれで一旦は攻撃を中止するだろうと。
現在も響は相変わらず拘束を余儀なくされている。
「ガリィ……」
「いやー確かに面白い相手だったですよ?でもまだまだ弱いですね~あの歌は」
キャロルは対峙してみたガリィに意見を聞いた。
ガングニールをまとうマリアでは望むほどの旋律の力は得られそうにないという事だ。
ふむ…と考える。
「そうか……まぁ5人分の旋律でも必要十分のエネルギーが得られる計算とはいえ……やはりチフォ―ジュシャトーの増幅機能を調整し直す必要があるか……」
どうやらキャロルはガングニールの力をオートスコアラーに刻む案は難しいと考えているようだ。
本来であれば響に刻ませるのが一番だが問題は相手が計画の全容を知っているため収集は容易ではないという点だ。
キャロルはハッとして片眼を閉じる。
どうやらジャックしているエルフナインの視覚と聴覚から新たな展開を見たようだ。
「これは…前の世界よりも展開が早いな。ガングニールが折られて方針が決まったか?いや前の世界でもそうだったな」
ブツブツと独り言をいうキャロル。
響はそれをじっと見ている。
何となくだが何が起きているのかは分かるのだ。それでも実際に見聞きしないと不安にもなる。
キャロルは自分が見られている事に気が付くと、
「悪かったな、お前も知りたいか」
そう言って魔法陣を展開すると、響はエルフナインの視界と聞こえている声が見聞きできるようになる。
◎
今にも泣きだしそうな曇りの日。
マリア達元F.I.S.の3人と未来はナスターシャの墓参りに来ていた。
つい四ヶ月ほど前に宇宙に放り出されていたのをS.O.N.G.やその協力組織達が力を合わせて亡骸を奪還してここに埋葬されたのだ。
西洋形式の墓地の一角に世界を救った英雄ナスターシャ教授その人は眠っている。
これまでは四人がちょうどそろう事が稀で中々墓参りタイミングが取れなかったのだが、やっとその機会に恵まれたのだ。
「ごめんねマム……遅くなっちゃった……」
マリアは噛みしめるようにそう言う。
四人の内マリアだけは杖を突いて歩いている。
先日の戦いのダメージが思いのほか大きかったのだ。数日すれば治るが念のために杖を持っている。
一研究者でありながらもいつもマリアを厳しく育ててくれたまさに親のような人物だった。
「ナスターシャさん、ありがとうございます」
未来は用意した花束をそっと墓石の前に置いた。
そして膝を折り手を合わせて黙とうする。
西洋式墓標に日本式の墓参りの作法が正しいのかは分からないが、大切なのは何をするのか、その形よりもそこに何を込めるのかが大切なのだ。
マリア達ほど付き合いが長いわけではないが、彼女が手を回してくれなければ未来は聖遺物の情報を入手する事は出来なかった。
シンフォギアの修繕や改修に携わることは出来なかった。
実際、シンフォギアそのものを扱える存在がギアそのものやリンカー製造の知識を得る事を良しとしない研究者は多かった。
仮にギアやリンカーを量産されたら叛逆に走る可能性が高いからだ。
普通なら情報は可能な限り与えないし。立場が逆で未来が研究者側なら情報を秘匿していた。
しかしナスターシャはそんな反対を押し切って彼女に手ほどきと資料提供をした。
理由はシンフォギア装者やレセプターチルドレンの将来を憂いたからだ。
聖遺物の研究組織が今後も永続する可能性は低く。いつかはどこかで見限られ捨てられてしまう可能性が高い子供が、自ら手に職をつける事とその意思を率先して援助した。
そのせいで白い目で見られたこともあったはずだ。
だからこそ未来は彼女に対して尊敬の意と感謝の念を感じているのだ。
「マムの大好きな日本の味デス」
「私は反対したんだけど…常識人の切ちゃんがどうしてもって……」
切歌は醬油のボトル一リットルをどんと墓石の前に置く。
何かのコントにしか見えない。
調もマリアもこのシチュエーションに違和感がないようだ。
未来だけは笑いそうになっているがギリギリ耐える。
切歌とは違い、バリバリの日本生まれの日本育ちかつ模範的常識人の未来は何かがおかしいとは分かっていた。
実際にスーパーでお供え物を買う際に醤油のボトルが違うのは何となく分かっていたが面白いから黙っていたのだ。
それに何を供えるかよりも何を込めるかが重要だからだ。それがいいと思うのなら優先した方が良いだろうと考えたのだ。
「マムと一緒に帰ってきたフロンティアの一部や月遺跡に関するデータをもとに各国の研究機関が調査をしている真っ最中だって……」
マリアは少し悲しそうな顔で今の世界を取り巻く状況を説明する。
それは帰ってきた中に生きた人がいなかったことへの悲しみだ。
「みんなが一緒に研究してみんなの為に役立てようとしてるデス!」
切歌は努めて明るく振舞う。
今の自分に出来るのはこれだけだと。
「ゆっくりだけどちょっとずつ世界は変わろうとしてるみたい……」
調はいつも通りの動かない表情筋で言う。ただいつも通りに。
変わろうとしている、それは世界だけを示している言葉ではない。彼女にも当てはまるそれだ。
「……………………」
未来はただ黙って黙とうをする。
口ではなく心で伝われと。
(切歌も調も変わろうとしている。強くなろうともがいている……そして未来は元々強い……でも私は……)
マリアの脳裏に浮かぶのはガングニールをまとって戦ったにもかかわらず惨敗した自分。
今のガングニールは響の力。アガートラームは反応しない、あの時限りの奇跡。
他者の力を借りるのではきっと限界がある。
だから欲しいのだ自分だけが勝ち取り、そして培った強さが。
それぞれ3人が変わろうともがくなかで、実際はそうではないのかもしれないがフロンティア事変から何も変わらないように表面上は見える未来。
シンフォギア装者でなくなったのにマリア達とは違い、状況に流されるわけではなく自分の意志でS.O.N.G.の門を叩いた。
自分の道は自分で選び切り開いていくその強さそして揺るがない意思をマリアは羨んだ。
「未来……ちょっといいかしら……?」
「はい、なんですかマリア?」
マリアの突然の問いかけにも相手は動じることなく答える。
空気に僅かな圧力と湿り気を感じる、雲の動きは速く雨は近いのかもしれない。
「あなたは…どうしてそんなに強いの?どうすれば……そんな風に強くなれるの…?私は本当の意味で強くなりたい……」
「…………」
マリアが今にも泣きそうな弱々しい目で未来にそう言う。
切歌と調もマリアと同じ気持ちを持っている。だから答えを待っている。
相手はその問いかけに困っているように見えた。
「分かりません……自分を強いと思ったことが無いですから……」
「そんなことは……」
未来が申し訳なさそうに答える。マリアは動揺してしまった。明確にビシッと答えてくれるそう思っていたから。
相手で弱いなら自分は弱い以下の何なのだろうと思ってしまう。
会話を聞いていた切歌と調もオロオロしている。
「……でも強くなりたいなら…自分で考えて掴み取らないときっとそれは満足できないと私は思います。他人の言葉を参考にしても…それを鵜吞みにして方針に据えてはいけない…と思います。自分で納得できるまで悩まなきゃ……」
未来が悩み苦しみながらも今出せる答えを提示する。
三人はその答えとも言えない何かを噛みしめている。
すると雨が降り始める。
それは一度頭を冷やせとナスターシャが叱っているかのようだ。
「昔のように叱ってくれないのね……大丈夫よマム……答えは自分で探す……」
「ここはマムが残してくれた世界デス」
「答えは全部あるはずだもの」
雨の中マリア、切歌、調の3人は別れの言葉を告げる。
未来は無言で少しだけ微笑んでいた。
◎
現在S.O.N.G.は補給のため港に停泊をしている。
本部の潜水艇の指令室に翼とクリスはエルフナインからシンフォギア強化案の説明を受けていた。
「未来さんを強襲してマリアさんと戦ったガリィ、クリスさんと対決したレイア、翼さんと戦ったファラ、そしてまだ姿を見せない戦闘特化のミカの四体がキャロルの率いるオートスコアラーになります」
「お人形遊びに付き合わされてこれかよっ」
エルフナインからの敵戦力の説明に苛立つクリス。
敵は予想を遥かに超える強敵で、仮に分解を防げたとしても今の万全のシンフォギアのスペックでも勝てる見込みが薄いのだ。
何よりも人員が圧倒的に足りない。
リンカーが無いためマリア、切歌、調の3人は万全な状態で戦えない。
響は行方不明でいない。
一番強い装者である未来はギアそのものを喪失している。
「しかし超常脅威への対抗こそ俺たちの使命」
弦十郎は若干だが唇を噛みながらも言う。
一番無力なのは自分なのだから。
「この現状を打開するためエルフナイン君と未来君から計画の立案があった」
その言葉に全員の視線がエルフナインに向く。
エルフナインはその視線を満遍なく受け止めても微動だにしない。
そして計画名を弦十郎は口にする。
「プロジェクトイグナイトだ」
その言葉と共に部屋のモニターに計画の資料が提示される。
全員はモニターに表示された情報を読み取ろうとしている。そして緒川が最初に切り出す。
「イグナイトモジュール……そんな事が可能なのですか…?」
緒川の半信半疑な声。
当然だ、そもそも存在するだけでも奇跡の代物であるシンフォギアに後付けで新たな機能を加えるなど危険すぎると普通は考える。
それにこの作戦は下手をすればしっぺ返しを食らうリスクがあるのだ。
戦いは基本危ない橋は渡るべきではないのだ。
「錬金術を応用する事で理論上は不可能ではありません。リスクを負う事で対価を勝ち取る…………そのための魔剣ダインスレイフです」
これはエルフナインの信念とも言える。
世界を分解解剖させないために危険を承知で、落ちるのが分かりきっている危ない橋と知っていても飛び出したエルフナインだからこそ出てくる言葉。
力なきものが強者を喰らうために持ち込む理念。
「ちなみに聞くが……小日向はこのプロジェクトを何と言ったのだ……?」
翼は作戦立案の片翼を担っており、現在は墓参りで退席している技術者の事について聞いた。
彼女の性格をわずかな間ではあるが把握しているからこその質問。
「最後まで否定していました。どう見ても危ない橋だと、渡るべきではないと」
エルフナインは淡々と答える。
エルフナインの挑戦的な思考とは逆、未来は基本的に保守的でリスクを背負う事を良しとしない。
よほどの勝負の場面でない限りは一定のところで妥協をする。
最近は日常の中で生きているためポジティブな部分が出てきているが、根っこは悲観的で否定的な面が強い。
これは両者の信念の違いが出ている場面だった。
エルフナインは未来がイグナイトを否定した理由を説明するために言葉を発する。
「ご存じの通りシンフォギアシステムにはいくつかの決戦機能が搭載されています」
決戦機能、それは絶唱とエクスドライブモード。
「とはいえ絶唱は相打ち覚悟の肉弾、使用局面は限られます」
「ならエクスドライブでっ!」
エルフナインは即座に絶唱を否定する。
クリスはならばと右手を握って訴える。
「いえそれには相当量のフォニックゲインが必要です。奇跡を作戦に組み込むわけには……」
緒川はそれも即座に否定にかかる。
そもそもエクスドライブにポンポンなれたらオートスコアラーなど脅威にはならない。
クリスは否定された事にぐぬぬといった感じで不貞腐れる。
「もう一つシンフォギアには決戦機能があるのをお忘れですか?響さんだけが使っていたあれですよ…」
エルフナインは少しだけ声を低くして言う。
翼とクリスの脳裏にはある光景たちが浮かぶ。
フィーネと戦った時に装甲にグレーのまだら模様が入ったかと思ったら、突然姿が消えてネフシュタンの鎧ごと腕を引きちぎって見せた事。
ネフィリムと対峙した時にもいきなりパワーとスピードが飛躍的に上がりあのタフさを凌駕する攻撃を加えていた事。
そして使用後にバテて苦しそうにしていた事。
「まさか立花のあの暴走状態か…?」
「あれは融合症例だからこそじゃないのか…?」
2人は困惑した風に話す。
そもそも自分たちも使ってみようなどと考えた事すらないのだから。
「暴走を制御する事で純粋な戦闘力へと変換錬成しキャロルへの対抗手段とする……これがプロジェクトイグナイトの最終地点です」
ここで全員が何故未来がこの計画を否定したのかが分かった。
リスクだけではない。響が使うたびに命を削り、融合が加速したであろうそれを良しとするはずがなかった。
彼女は言葉を繋げる。
「モジュールのコアとなるダインスレイフは伝承にある殺戮の魔剣、その呪いは人の心にある破壊衝動を人為的に引き起こします。これがリスクとリターンです。乗り越えた先にキャロルの錬金術を超えることが出来ます」
エルフナインの言葉に決断を迫られる。
リスクを取ってイグナイトを取るのか、一定の成果を求めて通常の修理か。