過去に戻った立花響   作:高町廻ル

39 / 106
思ったより知らない

 プロジェクトイグナイトが決まってから一週間が経とうとしていた。

 エルフナインと未来はあてがわれた研究室に籠りっぱなしで急ピッチで作業をしていた。

 今現在S.O.N.G.の本部である潜水艇は継続してメンテナンス作業とパワーアップを計っていた。幸いにも大量の電力の供給の当てが出来たのだ。

 手伝う事も出来ず、かといってシンフォギアの訓練も行えない手持ちぶたさになっている装者一同は、何となく自分たちだけが何もしないと悪いと感じるのか空いた時間は本部の指令室で過ごすようになっていた。

 それをしたところで技術者の2人が喜ぶわけでも無いのは分かってはいるのだが。

 

「プロジェクト進捗状況は未来ちゃんからの報告で80パーセント。旧2課のデータと2人の頑張りでだいぶ早い進行です」

 

 友里が受けた報告を発表する。

 その声は明るい、今まで錬金術師に良いようにやられていたため前向きな話題を口に出来るのが嬉しいのだ。

 

「あいつマジでギアの修理してんのか……」

 

 クリスは呆れたような驚いたような声を出す。

 修理が出来ること自体が本人の自己申告だったため、実際に機能するまで半信半疑だったのだ。

 装者としても群を抜いて強いのに頭もいいとか無茶苦茶である。

 

「それにしてもシンフォギアの改修と言えば良く許可が下りましたね……未来さんならともかく……個人的には信じたいですが、敵か味方か未知数な相手にこちらの機密の中枢を晒す事になるのに……」

「ああ……状況が状況だからな……それに八紘兄貴の口利きもあった」

 

 緒川の疑問に答える弦十郎。

 エルフナイン以前に、元テロリストの未来にすら普通は櫻井理論や二課の資料は降りてこないし、ましてはS.O.N.G.の技術者として据えるわけがないのだ。

 その一件も八紘という人物が裏で手を回している。結果として予定よりも早い進捗状況になっている。

 

「やつひろあにき?って誰だ?」

 

 初めて聞く固有名詞に当然の質問をするクリス。

 少しだけその場の空気が冷える。何故そんな事になるのか理解できずにクリスは若干だが困惑してしまう。

 沈黙を切り裂いてそれに答えるのは翼。

 

「限りなく非合法に近い実行力を持って安全保障を陰から支える政府要人の一人。超法規措置による対応のねじ込みなど彼にとっては茶飯事であり……」

「とどのつまりは何なんだ?」

 

 翼のあまりにも回りくどい紹介に軽く苛立つクリス。

 紹介ならもっと短く簡潔に要点をまとめてするべきだ。

 しかし翼はふいっと顔を逸らす。

 

「司令の兄上であり翼さんの御父上です」

 

 緒川が代わりに風鳴八紘という人物の簡潔な紹介を済ませる。

 クリスは勿体ぶった割に大した内容じゃない事に驚く。

 

「だったら最初からそう言えよな。翻訳問答が過ぎるんだよっ」

「私のS.O.N.G.転属を後押ししてくれたのもその人ね、なるほどやはり親族だったのね……どうした?」

 

 クリスは腰に手を当ててやれやれと言ったリアクションを、マリアは翼達が気まずそうな顔して話すので怪訝そうにしている。

 何故か親族と言ったら翼だけでなく弦十郎も気まずそうに頭をかいてその場を乗り切ろうとしたからだ。

 

 

 イザーク・マールス・ディーンハイムは妻に先立たれ娘と慎ましやかに二人暮らしをしていた。

 ある日父親らしいことをしようと苦手な料理に挑戦していた。

 料理は科学だ。レシピ通りに分量と手順を間違えなければ失敗する事などあり得ないのだ。

 しかし、

 

「ぬわああああっ!!!!」

 

 ボオン!と料理風景には似つかわしくない叫び声と爆発音が炸裂する。

 もういっそ下手すぎてコミカルなくらいだ。

 当然その騒ぎは家に住む家族にも伝わる。

 

「パパ!?」

 

 一人娘のキャロルが黒煙に包まれる父親に不安そうな視線を向ける。

 とにかくツッコミどころが多すぎて何を言ったらいいのか分からないのだ。だから結果として手をわなわなと所なさげにするほかない。

 そして爆音の原因が一言。

 

「ばくはつしたぞお……?」

「……あっはははは……」

 

 父親のカッコ悪い姿につい笑ってしまう娘。

 でも二人には幸せな空間が流れていた。

 

 いざ実食タイム。

 キャロルの前に置かれた黒焦げの焼く前は牛肉だった何かがおかれる。黒すぎて実は炭でしたとか言われた方がマシまである。

 

「…………」

「…………」

 

 何とも言えない雰囲気。

 ナイフで切るのだが中までしっかりと火が通っていて黒い。火力は間違えないの錬金術師らしくてタチが悪い。

 キャロルは切ったそれをフォークにさして見る。黒くて食欲が湧かない。減量前のボクサーの前に置いたらありがたがれることは間違いなかった。

 

「…………」

「…………」

 

 食べなきゃダメかといった視線を送るが、期待する父の視線に耐えられなくなる。

 

「う……ぱく……はうっ!?」

 

 口に入れてひと噛みすると娘から変な汗と目の焦点が合わなくなる。

 口の中でもしかしたら何かの間違いで美味しくなるかもという一縷の望みにかけて咀嚼する、しかし何も変わらない。

 しかも一つ一つの動作が明らかに緩慢であり、全身で不味い事を主張している。

 父は娘が自分をいたずらにはめようとしている可能性に懸けて聞く。

 

「美味いか……?」

「苦いし臭いし美味しくないし、零点としか言いようがないし」

 

 バッサリである。

 

「料理も錬金術もレシピ通りにすれば問題無いはずなんだけどな……どうしてママみたいにいかないのか……」

 

 自分の上達する気配のない料理スキルに嫌気がさすイザーク。

 彼はがっくりと肩を落とす。

 

「明日は私が作る!そのほうが絶対に美味しいに決まってるっ!」

 

 フォークを掲げてそう宣言するキャロル。

 もう決定事項のようだ。きっとイザークよりは上手く作れるはずだ。

 

「コツでもあるのか?」

「なーいしょっ!秘密はパパが解き明かして」

 

 父が聞いてもいたずらに笑うだけ、でも二人には不快な雰囲気は流れない。ただの温かい家庭だ。

 

「あはは、この命題は難題だ」

「問題が解けるまでずっとパパのご飯は作ってあげる」

 

 

 エルフナインは寝ぼけていた。

 最近は作業が急ピッチで佳境に入っているためすぐにでも終わらせなければいけないと自分を追い込んでいるのだ。

 しかしださっき見たのは、

 

「ゆ、め……?」

 

 先ほど見たものはエルフナインに複写されたキャロルの記憶それを想起したのだ。

 そして時計をチラリと見る。

 

「十分も寝落ちてましたか…ってあれ?」

 

 彼女の手にはギア修理のためのハンダゴテが握られていないため間抜けな声を出してしまう。

 きょろきょろと周りを探すと机を焼かないようにスタンドに置かれていた。

 

「あ、起きた?危ないからスタンドに置いといたよ」

 

 そんな姿を見て未来が声をかける。

 特にからかうといった感じではなく淡々としている。眠っていた事は特に触れない。

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

 エルフナインは少しだけ恥ずかしくなった。

 故意ではなくとも疲れて心身ともに無防備になるのを見られるのはやはり恥ずかしいのだ。

 恥ずかしさを誤魔化すために話題を少しズラそうと画策するエルフナイン。

 

「そ、そう言えば未来さんは聖遺物に詳しいですね、勉強になります」

「ううん、私もエルフナインちゃんに色々と学ばせてもらってるよ」

 

 照れ隠しのつもりで話題を振るが未来も感謝をしていると返される。

 エルフナインは何か教えたかな?と疑問に思う。

 

「あ、ここなんだけどね。ゴテの入れ方はこっちの方が良いと思うんだけど…どうかな?」

「あ、確かにこっちの方が後々モジュールを入れやすいですね……あ、それならレーザーの出力は下げた方が良いです」

「あー確かに確かに、言われなきゃ気がつかなかったよ」

 

 トークをしながらも急ピッチで作業を進めていく二人。

 

 ふと作業をしながらもエルフナインの脳裏に浮かぶのは磔にされて火炙りにされるイザーク。

 

『もっと世界を知るんだ……それがキャロルの……』

 

(パパはあの時何を言おうとしたのかな……その答えを知りたくてキャロルから世界を守ると決めて……でもどうしてキャロルは記憶まで複写したんだろう?)

 

 

「…………未来?」

 

 響はエルフナインの視覚を見る事でギア修繕の現場を見ていたのだが、未来がバリバリ専門用語を使って作業を進めているの見て正直ドン引きしていた。

 ああ……もうあの未来はいないんだな、と……

 

「なるほどあの小日向未来はお前の歴史改変の影響を一番受けたようだな」

 

 キャロルは分析をしつつも思いがけず作戦実行までの期間が短縮された事を喜んでいた。

 

「頃合いだな」

「キャロルちゃんはこれでいいと思ってるの?私の記憶を見たなら―」

「うるさい!」

 

 響の説得も聞く耳を持ってくれない。

 しかし、大声で遮断したという事は何か後ろめたい事があるのかもしれない。

 

 

 マリアは指令室で悩んでいた。

 

『立花響はお前らの味方なのか?本当に心の底から腹を割って向き合ってくれていると、そう思っているのかなー?』

 

 この言葉がどうにも耳から離れないのだ。

 彼女は響と一緒にいた期間は殆どない。

 知っているのは融合症例から適合者に変貌した事や正義感が強い事くらいだ。

 この場には切歌、調、未来がいないため丁度いいと話を切り出す事にした。

 

「ねぇ立花響って何者なの?」

 

 マリアが話題を振ると途端に指令室にいた全員が黙り込む。

 まるで彼女が空気を読めないかのような雰囲気になる。それに触れないでくれという風な。

 

「そうだな正義感は強いだろう、間違いなく立花は善と言える人物だが……」

 

 翼は響を信じたいと思いつつも同時に何かを懸念しているように見えた。

 

「その…何かと大事なことを黙っているような気が……」

「あいつは秘密主義過ぎるんだよ!」

 

 翼の煮え切らない反応に、噛みつくクリス。

どうやら響に対して何かしらの確執があるようだ。

 

「秘密主義?」

「そうだ!あのバカはフィーネの事も黙ってたし、ギアの侵食が悪化して死にかけてたのも隠していたんだ!」

 

 クリスの中では響は相当に印象が悪い、しかしここまで熱くなるのはそれだけ相手に向き合おうとしているとも言える。

 本気で嫌いなら学校の登校時間中に話などせずに無視をしている。

 

「彼女はフィーネの正体が櫻井了子だと知っていて黙っていたと…そんな事が許されるの……?」

 

 マリアからすれば信じられない話だ。

 フィーネの事を黙っていながらも二課やS.O.N.G.に問題として取り上げられずに現在進行形で所属しているのは異常に思えた。

 マリアも過去に似たようなことをしていたのだが。

 

「ああ…響君は了子君がフィーネと知ったうえで自分の仲間になるように要求をしたんだ」

 

 弦十郎はルナアタックがあった日のあの悲しい別れの日を思い出していた。

 あの別れは彼に一定数の痛みをもたらす。

 何かをこらえる様に強く拳を握る。

 

「俺が甘いんだ、だから了子君の暗躍を許した、響君の事も黙認してしまっている……信じたいと思ってしまっている……」

 

 沈黙が辺りを埋め尽くす。

 味方だと信じたい。

 利子利欲で動く悪党ではない。

 誰もが今の現状を良しとはしていないが、かといってつついて何が出るのか分からないから怖いのだ。

 

 翼の中にある、奏の思い出を引きずってもいいんだと言ってくれる響。

 クリスの中にある、敵対者だった自分を笑顔で受け入れてくれる響。

 弦十郎の中にある、己の信念に同調信じてくれる響。

 それぞれが信じたい響がいる。

 だから全てを話してくれるのを待っているのだ。それがはたから見て間違った選択肢だとしても。

 人は正しいだけを選べないのだ。

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 すると突如として発生するアルカノイズの発生を示すアラーム。

 瞬時に全員がスイッチを切り替える。一週間の沈黙を破って錬金術師たちが攻めてきたのだ。

 

「アルカノイズの反応検知!」

「座標を絞り込みます!」

 

 オペレーター2人がそう言った瞬間に潜水艇が揺れた。

 瞬時にモニターに外の風景が映し出される。敵の狙いはこの補給ドッグの発電施設や機材たち。

 ノイズ達が建物や運搬に必要なクレーンを破壊していく。

 従来のノイズよりも厄介なのは触れた先から分解するその機能だ。まさに破壊活動にはこれ以上ない能力だった。

 

「何があったデスか!」

「敵襲…」

 

 切歌と調も警報を聞いて集まる。

 そしてただならぬ雰囲気に驚いている。

 

「このドッグの発電所が襲われているの!」

「このドッグだけではありません!都内の発電所でも同様の被害が!」

 

 絶望的な状況。本部への電源が断たれるとギアの改修へ悪影響が出る可能性が高い。

 それは何としても阻止をしなくてはいけないが、現状二課には防衛や時間稼ぎの手段が存在しない。内臓電力にも限りがある。

 

「…………」

 

 ここで調はスカートから「潜入美人捜査官眼鏡(ただの伊達眼鏡)」を取り出し、すちゃっと装着する。

 彼女は形から入るタイプなのかもしれない。

 

「ど、どうしたデスか調……」

「しーっ…」

 

 2人は全員がモニターに釘付けになっている間に素早く部屋から退出。

 そしてある場所に向かって疾走している。ちなみに切歌も眼鏡をかけている。

 

「調っ…何するつもりデスかっ?」

「時間稼ぎ」

「なんデスとっ!」

 

 調の発言に驚く切歌。

 現在の二人はそれに対してしくじたる思いを感じていた。ギアが無事なのになぜ何も出来ないのかと。

 

「今必要なのは強化型シンフォギアの完成までの時間を稼ぐこと」

「そうデスけど……それが出来たら苦労は無いデス」

 

 切歌は自分たちがやらなくてはいけない事は理解しているが、それを実行に移すための武器も作戦も無いのだ。意味なく突っ走っても犬死するだけだと分かっている。

 

「思い出して切ちゃん、未来さんが言ってたこと」

「…………あ」

 

『現状私がリンカーを作っても天羽奏さんが投与していたプロトタイプ以下の性能しか出せないと思う……』

 

 あの時未来は天羽奏のリンカーの存在を示唆した。という事はこの潜水艇の中に保管されている可能性があるのだ。そしてそれがあるとしたらメディカルルーム。

 二人はメディカルルームに侵入する。

 

「つまりそのリンカーを使って時間稼ぎデスか?」

「そうだよ切ちゃん」

 

 切歌の考察に肯定の意を述べる。

 今2人が出来る最大限の事。調が辺りを物色しているとリンカーを発見する。

 

 

 現場は絶望的だった。

 アルカノイズは位相差障壁の性能がさほど高くないが代わりに分解する攻撃力にリソースが割かれている。

 辺りを守る軍人たちの武器がある程度は通用はするのだが如何せん数が多い。一体倒しても他の個体が背後に回ってくるのだ。とにかく物量で圧倒されて食い止められない。

 

「うわあっ!!」

 

 また一人敵に分解されて断末魔をあげる。

 このまま進行を許せばS.O.N.G.の壊滅すらあり得る。

 とここで、

 

『Various shul shagana tron』

『Zeios igalima raizen tron』

 

 2人の戦姫が戦場に舞い降りる。

 挨拶代わりに調の小型ノコ投擲で小型アルカノイズを手当たり次第に排除していく。そして打ち漏らした個体は切歌が鎌の刃を投擲して蹂躙。分解を除いて単純な強さだけならノイズとアルカノイズには大差がない。

 遠距離攻撃で敵の陣形を崩してスペースを作ったところで、敵のど真ん中に降り立って直接攻撃にかかる。

 すると弦十郎から叱責が飛んでくる。

 

『お前達!何をやっているのか分かっているのか!』

「勿論デスとも!」

 

 切歌は鎌でノイズを切り刻みながら答える。

 その声にはどこか嬉しそうなハツラツとした感じを伺わせる。

 

「今のうちに強化型シンフォギアの完成をお願いします!」

 

 調も答えながらも新しく追加された武装のヨーヨーでノイズ達を切り刻む。

 とはいえ戦況は決して優勢とは言い難い。二人はほぼ一撃で敵を倒せているが相手の攻撃を食らったら一撃でギアを壊されてしまうため、ひやひやモノの戦いが続いている。

 調は敵が密集している場所に飛び込むとアイススケートのように回転しながらスカートを大型ノコに変形させて突撃して一気に数を減らしていく。

 

 

「二人のバイタル安定、バックファイアが抑えられています」

「いったいどういう事なんだ?」

 

 友里の報告に怪訝そうなクリス。

 彼女たちはリンカーを使ってやっと並みにシンフォギアを扱えるのだ。何の仕掛けも無く戦えるはずがないのだ。

 

「先ほどの警報……そう言う事ですか……」

「ああ……メディカルルームからリンカーを持ち出しやがった!」

 

 緒川と弦十郎は得心がいったようだ。

 天羽奏の使っていたリンカーを持ち出して使用したのだ。だから今戦えている。

 

「まさかモデルKをっ……」

 

 翼も得心がいたようだ。

 かつて奏が過剰摂取で無理矢理ガングニールに適合したのを思い出す。あの必死に力を求める姿にあこがれたのだ。

 

 

 響はキャロルによって他のオートスコアラーが発電所を破壊するのを見せられている。各発電所でコイン、水、風が猛威を振るっている。

 椅子に拘束された体を精一杯バタつかせて訴える。

 

「キャロルちゃんもうやめてよ!こんなことしたってっ……!」

「…………」

 

 響の叫びは無視される。

 しかしキャロルの顔が少し強張っているように見える。

 キャロルはオートスコアラーのファラから報告を受けていた。

 

「該当エリアのエネルギー総量が低下中、間もなく目標数値に達します」

「レイラインの開放は任せた…俺は最後の仕上げに取り掛かる」

 

 最後の仕上げつまりキャロルはわざと攻撃を食らって体にイグナイトの旋律を刻んで「世界を壊す歌」の譜面を作る気なのだ。攻撃を食らい一度わざと死ぬ、そしてスペアの体に乗り換えるのだ。それでも死ぬことに変わりはない。

 

「だ、だめ……やめて……」

「安心しろ当面は残ったオートスコアラーにお前の世話はさせるつもりだ」

 

 響の動揺に特にこれと言って反応を示さない。

 目を合わせずに事務的な会話を繰り返すだけ。キャロルからすれば四百年間繰り返してきた動作に過ぎないのだから。

 

『いよいよ始まるのですね?』

「いよいよ終わるんだ。そして万象は黙示録に記される」

 

 キャロルはその場から立ち上がる。

 響はふと気になった事を聞く。

 

「何でキャロルちゃんはこんなことをするの……?お父さんに何を言われたの……?」

「しつこいな…いや…お前は詳しくは知らないのか……」

 

 響の問いかけに、何故かキャロルは自分が世界解剖を目指すのかそのきっかけの一つを話していた。

 

 

『パパ?どこまで行くの?』

『この先にあるアルニムという薬草には高い薬効があるらしいんだ。その成分を調べてはやり病の薬にするんだよ』

 

 娘の質問に答えるイザーク。

彼は自身の目的に対して誇らしげだ。

 

『見てごらん?』

『うわあっ……』

 

 父が勧めるとキャロルは奇麗な湖の風景に目を奪われる。

 

『パパはね……世界の全てを知りたいんだ……人と人が分かりあうためにはとても大切な事なんだよ……さあもう少しだ行こう』

 

 

「パパの求めた命題は世界を知る事……だから俺は世界を解剖し万象黙示録を作る……」

「……………………」

 

 キャロルの話した昔話に響は何かを考えているようだが、考えがまとまらないのか黙っている。

 キャロルはそれを自分の高潔な目標に対して否定を重ねられないんだと勘違いした。

 

(そうか……そうだったんだ……だからエルフナインちゃんは…………)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。