過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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問題だらけの新入生

 立花響のほのぼのハイスクールライフ―

 

「立花さん!?」

「ヒィッ!い、いやこの子が木に登ってて降りられなくなってそれでですね…」

「それで?」

「きっとお腹を空かせてるんじゃ…」

「立花さん!!全くあなたは学業成績は悪くないのに…なんで短期間でこんなにも問題行動を起こすのですか!?」

 

 ―なんてものはあるわけもなく。入学式が終わり通常授業が始まってから教師に雷を落とされる響。罪状は授業への遅刻と猫を学校の敷地内に連れ込んだ事だ。

 教室内はクスクス笑いで溢れている。また名物生徒立花響がやったかと。

 

「立花さん…もういいです。これ以上説教していても他の生徒の授業進行の迷惑になるだけですから」

「ほっ」

「ただし反省文はキッチリと提出してもらいます、それに説教の続きは放課後にするので教員室来てください。あと猫は学校外に出してきなさい」

「ぐえっ」

 

 響はとぼとぼしながら猫を連れて教室を出る。

 

 

「はぁ~……」

 

 響は放課後もこってりと絞られた。疲れた体を引きずって寮の自室に戻る。二人用の部屋なのだが響の一人部屋になっている。未来の代わりに繰り上がった生徒は自宅通いなのか町に下宿先が別にあるのか、寮希望の新入生の数が奇数になったのだ。

 テレビを付けながら、素早く反省文作成に取り掛かる。精練された無駄のない行動に怒られなれているのが透けて見える。教員が目にしたら頭を痛める事は間違いなかった。

 そう言えばと、響はふと独り言を口にする。

 

「そういえば翼さんの新作CD発売日明日だね…」

 

 初めてシンフォギアを纏った日。そして2課と初めて遭遇した日。

 

 

「響あんたまた何やってんのよ……」

「いやぁービッキーは相変わらずだなぁ」

「響さん人助けはいいですけど遅刻しちゃだめですよ……」

「いやぁ…あはは……」

 

 教員室に呼ばれ説教後の昼休みの食堂。響は反省文用の用紙を片手に板場弓美、安藤創世、寺島詩織の三人と一緒に昼食を取っていた。右手に箸、左手にシャーペン、彼女は右利きなので文字が歪になっている、ただしギリギリ読めるレベルであるところにこの方法を何度か行っている事が分かる。

 今回は道端で重い荷物を運んでいたおばあさんを手伝っていたら、お礼にと家に招かれお菓子をいただいていたら3限目になっていたというものだ。ちなみに助けたおばあさんが悪いからと電話を入れてくれたのだが、お菓子を食べてまったりしていた時点で情状酌量の余地は無かった。

 この中にかつて自らが陽だまりと定め大切にしてきた親友がいないことに心がチクッとするが気が付かないふりをする。

 

「いやほんとにねぇ…受験の日のあの気さくで穏やかで大人な感じは何だったの?あの人はお姉さん?替え玉受験なの?」

「そ、そこまで言うかっ!?」

 

 弓美の言い草に叫ぶ響。ここまでバッサリ言えるのは仲の良い証だ。

 大人な感じ。というか響は精神年齢だけなら19歳でこの学校の生徒の中では最年長なのだが。

 響たちがワイワイ騒いでいると、

 

「ねえ風鳴翼よ」

「芸能人オーラ出まくりで近寄りがたいね」

「孤高の歌姫といったところねぇ…」

 

 食堂の一角が騒がしくなる。

風鳴翼だ。まるでモーセの海割りのように彼女の進む道はサーッと人がどいていく。私立リディアン音楽院高等科3年に所属するこの学院一の有名人だ。

誰もが圧倒される美声と歌唱力。可愛らしさと抜き身の刀のような鋭さの両方を感じさせる相貌。かつての人気ユニット「ツヴァイウィング」の片割れで、亡くなった相棒の天羽奏の死後も健気に活動を続けるそのドラマ性。その全てが相まって絶対的人気を獲得している。

(芸能人オーラ…孤高の歌姫…あの汚部屋を見たらどう思うんだろう…)

 響だけは別の事を考えていたが…

 

「響?風鳴翼さんよ?憧れてんじゃないの?」

「あ、うん。やっぱりカッコいいよねぇ……」

 

 弓美がどうしたと質問を投げかける。響はそういう設定だったと思い出して返答する。

 すると翼が響の横を通ろうとする。3人はテレビ越しのスターにキャー!状態。

しかし響は罪悪感と感慨深さを感じていた。あの日、物言わぬ存在となった彼女が生きている。胸を締め付ける名状しがたい感傷を感じている。

翼は周りに無関心だったが響が無意識に出す強い視線に対し、一瞬気になったようだがすぐに視線から外す。

 

 

「はい、今日の授業はここで終わりです」

 

 教壇に立つ教師の一言で生徒たちが牢獄から解放されたかのような表情になる。入りたくて試験を受けて入学したはずなのにいい身分だ。

 

「そういやさ、ビッキーさ今日空いてる?せっかくだから響が教えてくれたフラワーまた行こうよ」

 

 創世達が響を誘おうとするが気が付くと響は姿を消していた。厳密には教室のドアが開いていて、まるで誰かが授業が終わった瞬間にダッシュで外に出たかのようだった。

 

 

 今日、響は過去に戻って始めてガングニールを纏うことになる。あの時はシンフォギアなど知らずにその場にいた女の子を連れて逃げ回っていたが、今はあの時とは違い胸の中に聖詠がある。灰になった遺体に怯えたあの時とは違う。

今なら素早く学校を出て市街地に向かえば救える命がある。

 学院に通ってから一度だけ場所を確かめておいた、あの日の灰になった死体があったコンビニに着く。するとまだ店員も客も日常を享受している。響のダッシュは間に合った、心の中に安堵が広がる。とはいえ、

 

「はぁー…ぜぇー……」

 

 いくら鍛えたとはいえペース配分を無視した走りでは、スタミナが尽きたわけではないがさすがに息も荒れる。ノイズに備えて息を整える。

 響が店内を見ていると、

 

「キャアアアアアアッ!」

 

 いきなり町の喧騒を切り裂く悲鳴が聞こえた。響が振り返るとそこにいるのはノイズ達。無条件に人を襲う、それ以外の欲求を持たない人類の天敵。

 響はギリッっと歯を食いしばり、そしてノイズに対抗する鎧を纏わんとする。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 ハッキリとしかし確かに唱える。

すると響の装いが制服から、ノイズの力を跳ね返す無敵の鎧に変わる。

(よ、よかった…)

 響は場違いにもホッとする。

 他者に対して異能力関連の単語を口にすることが出来ない呪いに気が付いて以降、ずっと不安に思っていたのが聖詠や絶唱を口に出来ない可能性だった。

今回は周りが騒がしく自分が注目されてなかったのでノーカウントだった可能性が高い。杞憂で終わったとはいえ、もし仮に失敗していたら死にに行くところだった。

 響は構えを取り吠える。

 

「もう誰も死なせない!」

 

 

「反応絞り込みました!位置特定!」

「ノイズとは違う高質量エネルギーを検知」

「は、波形を照合急いで!」

 

 リディアン地下の二課の本拠地では慌ただしくなっていた。それも当然、ノイズが市街地に現れたかと思ったらそれに習うようにノイズ以外の別の高エネルギー反応も現れたのだから。

 

「まさかこれって…アウフヴァッヘン波形…?」

 

 櫻井了子の口からまさか…といった声が漏れる。

 照合の結果、モニターに2課が蓄えたデータの中から検索された合致する聖遺物を表示される。それは「GUNGNIR」。

 

「ガングニールだとお!?」

 

 モニターに浮かぶその固有名詞を見て、風鳴弦十郎からそんな事は絶対にあり得ないといった焦りと混乱を滲ませた叫びが出る。

 それもそのはず、ガングニールは2年前に天羽奏と共に天命を全うした、もう失われたはずのギアだからだ。

 

「…………ッ!」

 

 この中で誰よりもショックを受けていたのが風鳴翼だ。彼女にとってガングニールと言えば天羽奏、天羽奏と言えばガングニール。

天羽奏は凡百の身でありながらもその運命に抗いノイズを打ち取る力を手にした偉大な人。そして翼の憧れであり、仕事でもプライベートでも背中を預ける事が出来る最高のパートナー。

そして何より奏の最後を看取ったのは他ならぬ彼女だ。

 

 

「みんな死にたくないなら全力で逃げろーーーッ!」

 

 拳をノイズたちに叩きつけながら市民に避難するよう促す。そんな事は言われなくてもみな蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。

 ビルや地面に張り付いていた橙色のオタマジャクシのようなノイズ達がその体を棒状にして響を全方位から囲い特攻する、上下左右死角を潰して響を確実に仕留めんと特攻する。回避は不可能、仮にジャンプで逃げても宙に浮けば姿勢制御は出来ず、一度浮いてしまえば360°障害物がなくなるためそこを狙われる。

 だが響はその状況をすぐさま理解する。彼女はビルの1つに向かって全力でダッシュする。当然、響に突撃を現在進行形で仕掛けている棒状ノイズと、壁に張り付き待機するノイズは彼女に向かって躊躇なく攻撃をする。そこで響はガングニールを纏う自分の右腕にフォニックゲインを集中させ、自分に当たるノイズに向かって力いっぱい殴りつける。倒したノイズの灰の塊が一帯に降り注ぎ、他のノイズたちにぶつかる。倒すには至らなくてもぶつけて攻撃の矛先を狂わせることに成功。狂った攻撃がビリヤードのようにぶつかり誤爆誘発させる。統制の取れていたノイズの包囲網に1人分の僅かな生存エリアを作る。そこに強引に体をねじ込み他の攻撃を躱す。

 

(やっぱり…こいつらには統一された意思がある!)

 響はこの連携攻撃に原始的な動きしかしない通常ノイズではなく、ソロモンの杖によって召喚、操作されているものだと断定する。

 攻撃をいなし2課の応援が来るまでの時間を稼ぐ中で、逃げ遅れた市民はいたのに響ばかりを集中的に攻撃したのだ。自然に現れたノイズならまずありえないアルゴリズムだった。

(了子さんか、クリスちゃんのどちらかが何かしらの方法で今私を観察しているはず)

 敵の数を減らしつつも考える事は止めない。走っていると、青い二足歩行型ノイズが手を変形させて攻撃を仕掛けて来るが、響は体を沈めスライディングの感覚で相手の股を潜り抜けそれを回避する。

(監視カメラのハッキング?望遠鏡を使って直接?小型の盗撮カメラを使って?ダメだ…目を潰せばって思ったけど候補が多すぎる…)

 そもそも全てのカメラの位置を掴んでいないので視界を潰す作戦は成功しようがないのだが。

 

 響は現在思考を攻め2割、守り8割に割きながら戦っている。響が全力を出せばノイズたちを単独で殲滅できる可能性は限りなく高い。ただ敵が響一人に狙いを定めているため、ここでは無理して無駄に傷を貰うリスクを選択するよりも翼の増援を待って、二人で始末した方がトータルでは正しいと判断する。

 

 すると響の鼓膜を揺さぶる重低音の駆動音、翼の乗る大型二輪だ。

(来た!)

 響はついに来た応援に歓喜するが、まだ敵を全滅させてないので浮ついていた心を引き締めなおす。それに完全にやつ当たりなのだが、翼からの好感度は前の世界と同じなら最低値のはずだからだ。

 バイクの爆発音がする、乗り捨てた音だ。相も変わらずダイナミックだな…と響は思う。すると―

 

『Imyuteus amenohabakiri tron』

 

 ノイズを打ち倒す戦姫を戦場に降ろす奇跡の呪文。アメノハバキリの聖詠。

 響は翼と前方のノイズを交互に視線を移した後、ノイズ群を指さしながら、

 

「そいつらは頼みます!」

「ッ!」

 

 そう言って響は後方のノイズたちに向かって突貫をする。翼は気に入らない相手に指示をされたことに一瞬苛立つが、今はノイズ殲滅が優先と敵を蹴散らし始める。

 

 二人の戦姫の前ではノイズたちも形無し。10分も経たずして全滅する。

 

 

「これで…おしまいっ!」

 

 響は最後のノイズにトドメを刺す。周りを見回して安全を確保した後、響はガングニールを解除する。長時間シンフォギアを纏うと体の侵食が早回るため可能な限り節約しているのだ。

(そういえば…あの子は無事かな?)

 そんな呑気な思考をする。

あの子とは昔響が手を引いて一緒に逃げた女の子だ。逃げ回るうちにノイズに囲まれて絶体絶命だったあの時、突如として聖詠が浮かびそれを唱えてシンフォギアの力を手にしたのだった。

 翼と目が合う。瞳から読み取れるのは苛立ちと警戒。この状態の翼に何を言っても無駄なのだが、沈黙が苦手な響は何か声をかけなきゃと言葉をひねり出そうとする。

 

「えっと、そのぉ…ないすふぁいと……です?」

「………………………………」

 

 翼は一瞬何言ってんだこいつ?といった表情をしたのち、響から視線を外しシカトを決め込む。知ってる通りのギザギザハートだ。響のハートがハートするが表情には出さないよう何とか踏ん張る。

 

 戦いの終わりを察知したのか、事後処理を行う特殊部隊の人達がゾロゾロと現れる。

 その人たちの邪魔にならないよう響は路肩にあった瓦礫の1つに腰を掛けじっとする。

 

「あの、あったかいものどうぞ」

 

 突然声がかけられる。友里あおいだ、その手にはコーヒーが入った紙コップ。2課の頼りになるお姉さんオペレーターだが、現時点の響はそれを知らない設定なのだ。

 

「あっ、えっとあったかいものどうも…その…お姉さんはえっと…」

「あ、私の名前は友里あおいです、よろしくね?」

「あっ、私の名前は立花響です」

 

 翼の時といいこの友里あおいとのやり取りといい。田舎から出てきた芋臭い娘が、都会で垢ぬけてきたベッピンさんに緊張をし、へこへこしているような間抜けさがあるやり取りだ。初対面では無いが初対面という特殊すぎる身の上であるため発言には細心の注意を払わなければいけないためどうしてもこうなる。

 

 事後処理はまだまだ終わる気配が無かった。前と違い太陽がまだのぼっている内にギアをまといノイズ狩りを行ったので、事後処理はもっと早い時間に終わるはずなのだ。どうも響が市街地で大々的にシンフォギアをまといノイズとの戦闘をおっぱじめたため、建物の損壊状況が酷く、また多くの目撃者と監視カメラに写ってしまったため事後処理が難航しているようだった。内心で申し訳ないとは思っていたがそうしなければ多くの死者が出ていたので後悔はしていない。

 ふと周りを見ると響を取り囲むように立つ、黒服にグラサンの男性たち数人とそれを引き連れる風鳴翼の姿が。

 

「あなたをこのまま返すわけにはいきません。」

「えっと…………」

「特異災害対策機動部二課まで同行していただきます」

(既視感があるなぁ!?)

 

 翼は目を逸らしながら言う。響はさっきから頑なに自分と目を合わせようとしない翼の態度に寂しさを感じる。

そしてこの状況から想定される響への処遇とは…

 ピーッ!ガシャン!と両手に電子ロック付きの無骨な手錠が嵌められる。

 

「……………………………………………………あぅ」

「すみません、あなたの身柄を拘束させていただきます」

 

 緒川慎次の申し訳なさそうな一言。響は連行されてしまう。

 

 

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