過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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新たなギアを引っ提げて

 切歌と調の奮闘で何とか発電所の防衛は成立していた。

 ギアの改修までここを守り抜く構えだ。しかしそれは薄氷の上に成り立つ危ういものだった。

 

「そぉーりゃぁーっ!」

「ッ!?」

 

 そんな間抜けな掛け声と共に切歌に誰かが殴りかかる。

 全体的に赤の基調の装いで二つの縦ロールツインテールのオートスコアラーのミカが、赤い澄んだ長細い結晶を持って殴りかかりに来ている。

 その一撃を切歌は鎌を両手で持って受け止めるが、明らかにパワー不足で叩きつけられた一撃に膝を着いてしまう。

 

「うっ……くう……!」

 

 明らかに苦しそうなうめき声。

 これまでのアルカノイズとは明らかに一線を画す実力。

 戦場の均衡がここで崩れてしまう。

 

「切ちゃん!」

 

 調も当然援護に向かおうとするが、その前にミカが開いていたもう片方の手に結晶を生み出して切歌を殴り飛ばす。

 すると飛んだ先にいた調に直撃して二人は一緒に吹き飛ばされて既に廃墟化した建物に叩きつけられる。

 建物の中の土煙から二人は立ち上がる。

 

「あたた……」

「簡単には行かせてもらえない……」

 

 2人は何とか立ち直るが、既に戦況が最悪なのは分かっている。雑兵のアルカノイズではなく敵主戦力のオートスコアラーが来たことでひっくり返ってしまっていた。

 

「じゃりんこども~ぉ、あたしは強いゾ?」

 

 ミカは結晶を地面にはやしてその上に立ちながらふらふらとバランスを取ってそう言う。

 性格的なものもあるが明らかに余裕をぶっこいていた。その態度はいつでも相手を分かりやすくバカにしており、またいつでもやろうと思えばお前たちに勝てるという意思表示だ。

 

「子供だとバカにして……!」

「目にもの見せてやるデスよ!」

 

 相手の態度にムッとした2人はリンカーを取り出してお互いの首筋に突きつける。

 

「二人でなら…」

「怖くないデス!」

 

 そう言って二人は、注射の中身を注入。

 ぷしゅっと言う音と共に禁断のリンカー二本目の注入を行った。

 

 

「調!切歌!」

 

 ミカに2人が殴り飛ばされた瞬間マリアは反射的に叫んでしまう。

 今の一撃で理解したのだ。明らかな力の差を。

 

「このまま見ていられるか!」

 

 クリスは喚くと指令室から出ようとする。

 入口に出た瞬間翼に手を掴まれて制止させられる。

 

「まて!今の私たちに何が出来る!」

「黙って指をくわえてろってのか!?」

 

 翼の言葉に反射的に言い返してしまう。

 しかしそこでクリスは気が付いた、相手の自分の手を握る手は震えており顔も強張っている。

 無力さに打ちひしがれているのは決して自分だけではないのだ。自分だけがこの状況に怒りを感じているわけではないのだと。

 翼が必死に抑えている無力感と怒りを感じたクリスはおかげで冷静になった。

 恥ずかしかったのだ。自分だけが一人熱くなっていたことが。

 

「っ…………」

 

 クリスは顔を俯かせる。

 何を言ったらいいのかが分からない。だたぶつけるときの為にこの怒りをため込む事しか出来ない。

 

「翼さん、クリスさん。お二人にお願いがあります」

 

 突如かけられる声、エルフナインだ。

 

 

 一方でモニターにはリンカーの重ね掛けをしようとする切歌と調の姿が。

 

「2人を連れ戻せ!これ以上は」

「やらせてあげてください」

 

 弦十郎が指示を出そうとするがマリアの冷静な声に止められる。

 辺りはその意外な人物からの制止に驚いている。このような無茶は真っ先に止めようとするのが彼女なのだから。

 

「これはあの日道に迷った臆病者たちの償いでもあるんです」

「臆病者たちの償い…」

 

 弦十郎のオウム返しにうなずくマリア。

 

「誰かを信じる勇気がなかったばかりに迷ったまま独走した私達、だから二人がシンフォギアをよみがえらせてくれるまで持ちこたえるのが償いなんです」

 

 マリアは必死に唇を噛みしめながらそう言う。

 その態度に誰も何も言えなくなる。

 そこには自分の無力さやこの現状を静観するしか出来な自分自身への怒りがあった。

 これは今戦場にいる2人も感じているし、未来も似た思いを抱えてギアを向き合っている。

 

 

 調が真っ先に感じたのは鼻の奥が熱くなる感覚だった。

 ふと手を鼻の近くに添えると血がべっとりと付いていた、それに手が僅かにだが震えている。

 リンカー重ね掛けによるオーバードーズだ。

 切歌も同じく鼻をすすって苦しそうにしている。

 

「オーバードーズ……」

「鼻血がなんぼものもんデス…」

 

 すでに二人は今体にあふれてくるこの力が体を蝕んでいる事に気が付いている。

 旧二課が保有している物は、ウェルがここに調整したリンカーよりも何世代もスペックが落ちる安全性の保証もない薬品なのだ。

 重ね掛けをしてやっとまともに力が振るえるのだから、それでも副作用で命を削りかねない。

 二人は目の前の敵に向かって覚悟を決める。

 切歌は二つの鎌を合体させて一つの二叉の矛にする。

 調はヘッドギアから大型ノコを精製。臨戦態勢を整える。

 

「おっ!面白くしてくれるのカ?」

 

 楽しそうに言う。

 そして両手に精製した結晶を作り出し投げつける。

 事前にキャロルから二人の歌の重ね技を十全に引き出すようにミカは指示を受けている。

 ユニゾンつまりデュエットは一人で歌うよりも大きなフォニックゲインを生み出せるのは知っている。

 これも響の知識から得た情報だ。

 

 投擲をあっさり躱しながら二人は直線距離でミカへと距離を詰める。

 切歌に向かってミカは手のひらを向けて小型結晶を飛ばす。よく見ると手のひらの穴から射出しておりそこには炎が見える、高温で瞬時に作っていると考えられる。

 結晶を鎌で弾き飛ばす、現在適合係数を引き上げた状態なら相手の一撃をいなす事は可能だ。

 思いっきり鎌をぶつけるがあっさりと受け止められる、しかし防御に使った結晶にはひびが入る。

 

「おおっ」

 

 想定していた以上のパワーに歓喜の表情の相手。

 それは切歌を苛立たせる、相手の態度で分かる。攻撃を脅威には感じていないのだ。

 もう一度攻撃を当てようとするがこれはフェイント、本命は調が隙を突いて大型ノコを投擲。しかし相手は殴り飛ばして跳ね返してしまう。

 とにかく攻撃が悉く防がれてしまう。

 それが二人を焦らせる。こちらは無理筋の時限式だというのに。

 

 二人は息を合わせて同時に斬撃をぶつけるがそれも受け止められる。

 しかし棒状結晶は破壊するに至る。力を合わせても何度も精製できる武器を砕く事しか出来ない。

 

「子供でも下駄を履けばそれなりのフォニックゲイン…出力が高い方で十分だけど…マスターの命令だしナ……」

 

 ミカは事前にキャロルから旋律を集めるなら二人の息を合わせたユニゾンとの命を受けているので渋々調も観察している。

 調もヨーヨーを投擲して牽制を加える。それはあっさりと躱されるのだが、素早く避けた先に切歌がアンカーを飛ばして拘束をする。

 

「おおっ!何なんだゾ!」

 

 ミカが驚く間にも2人はありったけの近接攻撃を加えようとする。

 しかし、手のひらから巨大な結晶を生み出して無理矢理アンカーを引きちぎり破壊してしまう。

 

「なんデスとっ!」

 

 強引に抑えていたものを強引に突破されてさすがに焦る切歌。

 単純なパワーでは相手にならない。薄々分かっていたのだが己と相手との地力の差を痛感してしまう。

 

「ならっ!」

 

 調は両手のヨーヨーを合体させて巨大な一つのそれに変える。

 ミカは余裕からなのか手に巨大な球体結晶を生み出して受ける。それは薄っすらと内側に炎が揺らめいているように見える。

 ガキィ!とあっさりと受け止められてしまうが本命はそれではない。

 2人の脚装から刃を生み出して力を合わせ球体を正面から押し切らんとする。

 

「どっかーん」

「あ」

 

 無情な敵の宣告。

 爆発と共に辺り一帯が爆発する。

 爆発跡地から2人が何とか立ち上がるが既にリンカーの効果時間も切れかけてギアもボロボロになっている。

 元々時間稼ぎをするという考えで戦場に乗り込んだとはいえ、この実力差には己への無力感を認識させられるには十分だった。

 結局のところ最初から最後まで遊ばれているのだ。

 

「このままじゃ……」

「こんなに頑張っているのに……どうしてデスか……」

 

 この結果にさすがに折れかける2人。

 

「まあまあだったゾでも遊びは終わり」

 

 そう言うとミカは一瞬で切歌の懐に飛び込んで、胸元のギアペンダントに結晶で突いて破壊する。

 すると切歌の体は竹トンボのように吹き飛ばされて倒れる。みるみるギアが剥がれていく。

 

「切ちゃん!」

「に、逃げるデス……調……」

「ダメ!私はあの時約束した!切ちゃんより長生きするって!!」

 

 血を吐くような叫びがある。

 調は慌てて救出に向かうが周りのアルカノイズ達が取り囲んでいる。ここでギアを破壊するつもりなのだ。

 攻め立ててくるアルカノイズをいくら倒しても数に圧倒されてしまう。

 一瞬の隙を突かれて解剖器官がギアペンダントに当たってシュルシャガナも分解されてしまう。

 

「調っ!!……だれか……誰かーッ!!」

 

 切歌の叫びがあった。

 まるで身に余る行いをしたイカロスが太陽によって焼かれ墜落をするようなそんな報いなのだろうか?所詮はリンカー頼りの半端ものには何も出来ないのだろうか?

 まさに絶体絶命のその時、ノイズ達の動きが止まった。すると爆散していく。

 

「誰かだなんてつれねーこと言ってくれるなよ」

「剣……」

「ああ…振りぬけば風が鳴る剣だ」

 

 クリスと翼が到着した。

 新たなギアを引っ提げて。

 

 

『さてどうしてくれる?先輩』

『反撃程度では生ぬるいな』

 

 モニター越しに心強い言葉を発するクリスと翼。

 相手のミカもそれを見て嬉しそうだ。戦闘意識が刺激されるのかもしれない。

 しかし、モニターに先ほどからギアを剥かれてすっぽんぽんの調と切歌が映っているのはスイッチャーが見たいからだろうか?

 

「男どもは見るなっ!!!!」

 

 マリア怒りの一喝で視線を逸らす男性陣。

 一人としてモニターに視線を向けない紳士の集まりだった。

 

「目をつむったままでは戦闘管制が出来ません!」

「何その必死過ぎるボヤキは!」

 

 藤尭の言葉にツッコム友里。

 

「2人が撤退するまでの間よ、それまでなら今の翼とクリスは問題無いわ」

 

 マリアがそう言う間にもミカは小型のアルカノイズ召喚の結晶を地面にばら撒く。まずはアルカノイズで2人の様子見という事だろう。

 召喚された敵を見て2人は、

 

『行くぞ雪音流し運転がてらに片づけるぞ』

『全部平らげてやる!』

 

 二人も戦闘を開始する気だ。

 自室の片づけは出来ないが敵を片づけるのは得意なのだ。

 翼の剣はただ斬るに留まらず振った風圧だけで地面が抉れていく。

 クリスの銃弾はあまりにも貫通力が高まっているためノイズの体は衝撃すら感じず穴だけが開いている状態になる。

 今までの二人のシンフォギアには無かった攻撃力。

 またあっさりと攻撃を躱せるスピードも獲得している、アルカノイズ達はそれについてこられていない。

 

「アメノハバキリ、イチイバルともに各コンディションフリー!」

「これが強化型シンフォギア…?」

 

 この場にいた全員が強化されたシンフォギアの見違えた力に驚いていた。

 するとここにエルフナインと未来が現れる。

 

「プロジェクトイグナイトは破損したシンフォギアの修復のみにとどまらず、分解効果を防ぐようにバリアフィールドの調整を施しています」

 

 エルフナインの言葉に呼応するように、モニターに解剖器官の攻撃を剣で受け止める翼の姿が、しかしアームドギアは耐えきっている。

 すると未来が言葉を発する。

 

「もともとシンフォギアは使い手の成長と特徴に合わせて各種機能の開放と拡張をする学習機能、正式名称だとリビルド機能が兼ね備えられているんです」

「学習機能?」

 

 未来の言葉に疑問符を感じたのか問い返す弦十郎。

 話を止められても気を悪くするわけでも無く質問に答える。

 

「ええ、例えばガングニール一つとっても響みたいにゴリゴリのインファイターに、奏さんのように破壊力特化の攻撃重視型に、マリアのようにマントを使った攻防一体のバランス型になりますよね?その人のバトルスタイルや成長に合わせてギアが変化するんです」

「確かに……」

 

 未来の説明に実際に響を見て、そして実際にギアもまとったマリアがなるほどと納得する。

 同じギアでも全く違う武装と戦闘スタイルに装甲の色合いをしていた。

 

「ですがフィーネ……いえ櫻井了子さんが亡くなってからギアのメンテナンスをしなかったためギアの各種機能が若干ですが不全を起こしていたんです」

 

 車と同じで一切メンテナンスを行わなければ、バッテリーが上がり、ブレーキオイルが切れて扱いづらくなってしまう。

未来はこれを調整しなおしたのだ。

 

「今の二人のギアに調整と身体能力のデータを入力して今まで以上に聖遺物のエネルギーをフォニックゲインから引き出せるようにしておきました」

 

 その結果、今までとは一線を画す力と速度を得ている。

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