手を下に回して脚装にブレードを装着して駒のように回転をし、敵たちを懐に潜らせることなく蹂躙しながら翼は考える。
(前よりも早く、しかも負担なく技が出せる!)
両手に2丁の片手弓を装備してノイズ達を貫いていく。反撃の隙すらも与えない一方的な蹂躙劇。
(すっげぇ!前より威力も連射速度も上がっていやがる!)
2人とも予想以上の性能の上昇に驚きながらも戦っていた。
普通なら突然性能が桁違いに上がれば力に翻弄されて立ち回れない。
しかしそうならないのは本来それが二人が出せるはずだった性能であり、また改修と制御した2人の腕が良かったのだ。
一通り蹴散らすと視界に映るのは建物の上からこちらを遠目に観察をしているミカ。
翼は素早く飛び上がると剣を両手に生成して両手でバツ字になる剣撃波を放つ。
当然相手は観察していた結果、直撃したら不味いと判断をして飛んで建物から飛び降りる。
しかしクリスはそれを待っていた。巨大ミサイル二丁をミカが着地する地点めがけて撃ち込んだ。
大爆発が起きて直撃を確信。
「ふんっちょっせぇ…!」
クリスの勝利を確信した笑み。
確実に当てた上性能が格段に上がったギアの一撃。勝利を確信してこれまでの鬱憤が発散されて高揚している。
「気を抜くな雪音」
「なに…?」
二人が土煙が晴れて出てきたのはミカを守ったキャロルだった。
力を入れた一撃を防ぎきって見せた。
「面目ないゾ」
「いや……」
ミカの謝罪についキャロルはおざなりな反応をしてしまう。
手のひらを見ると少しだけ焼けていた。
想定以上の一撃に驚いているのだ。
響の記憶の通りならもっと少ない負担と衝撃で受け止められるはずだったのだ。やはり響が世界を改変している影響が僅かに出ているのだ。
「ラスボスのお出ましとはな……」
「ああ…だが決着は望むところだ」
2人は不敵に言うが内心は驚いている。
今まで部下であるオートスコアラーを手足のように操っていただけに目の前に堂々と現れた事に。
しかしここで大将を討ち取れればすべては終わるのだ。
「全てにおいて優先するべきは計画の遂行…ここは俺に任せてお前は戻れ」
「分かったゾ」
キャロルの一言でミカは転移してこの場から離脱する。
異様な光景だった、機械仕掛けの駒の為に王が自ら最前線に出るのは。
「トンズラする気かよ!」
「案ずるなお前たちを相手にするなどこの身一つで十分」
クリスの悪態に超然と答えるキャロル。
実力的に余裕なのもあるが彼女の目的は戦闘への勝利ではなく、イグナイトの攻撃を受けて世界を壊す歌の楽譜を作成する事にあるのだから。
「その風体でぬけぬけと吠える」
「…………」
実力は容姿と関係ないのだがそれでも翼は挑発するためにあえて言葉を発する。
実はシンフォギアの性能が上がってテンションが上がっているのかもしれない。
「形を理由に本気が出せなかったなどと言われたら困る……」
そう呟くと左手を横にかざすとそこからハープが出てくる。
それを鳴らすと本部のモニターにアウフヴァッヘン波形に近いエネルギー波が観測される。
しかしそれはシンフォギアの輝きではない。
『まさかあれは聖遺物…?』
『あれは…ダウルダブラのファウストローブ…!』
マリアのまさかといった疑問にエルフナインが若干だが震える声で答える。
その様子は声越しに通信で戦場に立つ2人にも聞こえる。
ハープの糸がキャロルを包んだかと思うと二十代くらいの姿に早変わりしていた。
私はキャロルの姉ですと言われた方が納得できる状況だ。
「これくらいあれば不足はないだろう?」
どや顔で先ほどの翼の指摘に反論するキャロル。背なのか胸なのか。
「ハアッ!」
するとキャロルが手を薙ぐ。
最初、翼とクリスは何がしたいのか分からなかったが、地面が切れながら何かが迫ってくるのを見て本能で横に逃げる。
「これは……糸か?」
翼は疑問符を発したがほぼそれで間違いないだろうと考えている。
先ほどのダウルダブラはハープであり弦に振動を与える。その糸を操っているのだ。
よく目を凝らすと僅かに細い光が見える、糸が反射しているのだ。
翼に向かって縦薙ぎの糸が迫るが咄嗟に伏せて避ける。
もし直撃したらキレイに裂けていた。
このまま一方的にやられるわけにはいかないため翼は刀を構えて、クリスはガトリングガンを構える。
迎撃の構えを取るのだが、そうする前にキャロルの背中の機構が飛び出しハープの弦が現れる。それをかき鳴らすと彼女の左右に二つの魔法陣が現れる。そこから火と水が発生して2人を迎撃しようとする。
直撃したらミンチにされかねないので2人は素早くかわすがかわした後に後ろを見ると火と水が接触して水蒸気爆発を起こす。
背後の施設がその爆発に巻き込まれ瓦礫を超えてチリになる。
「おいおいなんて威力なんだよ!」
クリスは桁の違う相手の実力に驚嘆していた。
「雪音合わせろ!」
翼はそう言った後でエネルギー型の短刀を大量に、クリスもミサイルをありったけ目の前の敵に向かって放つ。
避けるスペースは与えない面で圧倒する攻撃。
それに対してキャロルは手をすっと下にかざす。地面を切り裂いて地下の鉱物を切り出してそれを錬金術で強化して即席の盾にした。
全ての攻撃が盾によって防がれる。
そして盾に使った鉱物たちを投げつけてくる。それらは攻撃を防ぐほど硬質なので間違っても受けるなどは出来ない。回避以外は出来ない。
『歌うわけも無くこんなにも膨大なエネルギー……いったいどこから……』
『想い出の焼却です』
皆の疑問にエルフナインは答える。
その横顔は険しい、知っていた事だがやはりキャロルは強い。
『キャロルやオートスコアラーの力は想い出という脳内の電気信号を変換錬成してエネルギーに変えています。体を替えて四百年も生き永らえたキャロルは…』
『それだけ膨大な力を扱えると……』
エルフナインの残酷な情報に補足を入れるマリア。当然顔は僅かに強張っている。
全員の顔も当然強張っている、思い出をエネルギーに変換するそのリスクを朧気ながらも想像できるからだ。
『力に替えた想い出はどうなる?』
『燃え尽きて消えます』
『それって今まさに記憶喪失になってるってこと……?』
弦十郎の単純な疑問にエルフナインは平然と答える。
記憶喪失、未来からすればイグナイトもそうだが身を削って戦闘をするなど考えられない話だ。
『キャロルはこの戦いで結果を出すつもりです…………』
エルフナインの残酷な宣告。敵は命がけで牙をむくのだ。
そんな会話をインカム越しに翼とクリスは聞いていた。
事情を知ってやりづらい相手ではあるのだが手加減できるはずもない。
キャロルはまるでそんな心配など不要だとばかりに弦を使った切断攻撃を仕掛けてくる。
クリスは躱したが、翼は躱した後ろの建物にガスの類が安置されていたのか爆発に巻き込まれてしまう。
「うわあっ!!」
爆発に巻き込まれて短い悲鳴をあげるがその隙を相手は逃さず、右手で弦を鳴らして魔法陣を生み出し光線を放つ。
翼の周りが爆発で埋め尽くされる。
「先輩!」
クリスは追撃を食らった味方に声をかけるがそんな余裕はない。
立っている場所に弦の切断が迫ってくるため、とっさに飛んでかわしてカウンターとばかりに結晶の矢を放つ。放たれた矢は分裂して百以上もの小型攻撃に変貌する。
しかし相手は糸を回転させてラウンドシールドを作って防ぐ。
攻撃を放って地面に自由落下するクリスが着地する瞬間を狙って、キャロルは魔法陣で風を生み出して吹き飛ばす。
「うぐわああああっ!!」
クリスは天高く吹き飛ばされて地面に倒れ伏す。
圧倒的な実力差、新型シンフォギアによって強くなったと多少は浮かれていた部分もあった二人にとって冷や水を浴びせられる事実だ。相手にそもそも触れることすら出来ないのだから。
だがまだ二人に絶望が胸中にあふれる事はない、まだ不確かではあるが奥の手とも呼べる手札を残しているからだ。
「大丈夫か……雪音……?」
「あれを試す程度には大丈夫ってとこだ…」
翼の問いかけに強気に返す。
実際にまだ戦える程度には動けるし、強敵を前に強気でいようとしている面もある。
キャロルは二人の態度を見て挑発をする。
「弾を隠しているのなら見せてみろ」
(来たな……しかし立花響抜きでイグナイトモジュールを起動できるかどうか……)
キャロルの計画の不安材料がこの場でイグナイトを出来るかどうかだ。
響からコピーした記憶であればここで問題なくイグナイト出来る。
しかし、二人を鼓舞した立花響は今キャロルが監禁拘束をしているのだ。
前の世界では一度は失敗したものの、二度目の挑戦では彼女の一括で乗り越えたため不安な一面がある。
出来なければ何度も目の前に現れる…とはいかない。
そうすれば相手に何度も攻撃するチャンスをわざわざ与える事になり、少なからず違和感を与えるからだ。
この計画は気取られたら失敗が確定するからだ。
だからこそ響を抑え込んでいるのだから。
よって可能であればここで自分の身にイグナイトの一撃を受けて世界を壊す歌の譜面を完成させなくてはいけないのだ。
「付き合ってくれるよな…先輩」
「当然だ」
2人は口で意思疎通を図る。
そして、
『イグナイトモジュール、抜剣!!』
2人は胸のギアペンダントを外して宙に投げると、それが変形してエネルギーの刃を形成して胸に突き刺さる。
それは物理的攻撃力を持っているわけではない。
しかし、
「ぁうぐっ…!…う…ぐあああっ……!」
「ぐくあ…あぁっ……!」
刃が差し込まれた瞬間2人が苦悶の声をあげる。
胸を突かれて痛みを感じているわけではない、胸から血を流してはいない。
「はらわたをかき回すような……これが…この力がっ…!」
頭を抑えながら翼は苦悶の声をあげる。
彼女は事前にイグナイトとは何かや、そのリスクについての説明は十分に受けていた。
それでも想像を絶する苦痛と恐怖なのだ。百聞は一見にしかずというやつだった。
イグナイトは呼吸や鼓動と同じレベルに心の闇や破壊衝動を引き上げてしまう、人間は必要なそれを我慢することが出来ない。
ましてや自分の意識のもとにそれを制御するなど想像も出来ない。
「うがあああっ!!」
(あのバカは…こんな衝動をコントロールして…あんなっ……!)
響が装甲を変色させてパワーとスピード上げていたテクニックは知っていた。
それに使うと味方も巻き込みかねない時も、旧リディアン公舎跡地で切歌と調にノイズ発生を利用して呼び出された時に説明は受けた。
しかし、このレベルで自我を奪われそうになる事は想定外だった。
二人のまとうシンフォギアから黒く激しいオーラが放出される。
すでに二人は暗い闇の中に沈みそうで。
◎
ふと気が付くと翼はステージの上で倒れていた。
何か前後の記憶が抜けているがそれには気が付かない。
それよりも今は観衆が見ているステージなのだ。
「ステージ…?…そうだもう一度私は大好きな歌を歌うんだ……!」
自分を鼓舞して立ち上がる。
ふと観客席を見てみると観客は全てノイズ。四方八方が敵しかいない。憎むべき、剣を向けるべきそれしか。
「私の歌を聞いてくれるのは敵しかいないのか……?」
自分で言っていて顔が引きつる。
冷汗がダラダラと流れる。先ほどまでは歌うために立ち上がろうとしていたのに足腰に力が入らなくなる。
フィーネ、F.I.S.そして今回は錬金術師と翼は歌うたびに人ではなく剣として求められる。他者を切り裂くそれを。
ふと周りを見渡すと、
「お父様っ!」
父を呼ぶ昔の自分がいた。
だが呼ばれても父は悪い意味で目に入れたくないのか視線を逸らしていう。
「お前が娘であるものか……どこまでも穢れた風鳴の道具にすぎん」
「あ、あぅ……」
父に明確な拒絶の言葉を告げられて幼い翼は涙を流す。
翼はそんな父に認められたくて自分の身を剣として鍛えたのだ。
そう剣、夢を見る事など許されない道具だと。
そんな風景を見ているとふと目の前に天羽奏が現れる。
この時、翼は奏は既に死んでいるとか、何故生き返っているのかなどは何故か考えなかった。
「な…」
ただ翼は現れた事には驚いたが。
「奏っ!!」
相手が自分に微笑んだと思ったらもう既に立ち上がって向かっていた。
そして抱きしめようとするとバラバラになった、翼の触れた先から奏の体が。
自分で言ったではなかったのか?この身は剣だと、他者を傷つける道具が誰かを抱きしめるなど出来やしないのだ。
翼がそう自覚すると全身に虚脱感が、胸に黒い靄が広がっていく。
「うぐぁ……あああぁっ……!」
ただすすり泣き倒れ伏す。
もう体を上げる力が入らない。
『親友との別れは悲しかったです、でも別れた事ばかり考えてたら辛いです。確かにあったんです楽しかった日々が。翼さんの中にある奏さんは楽しそうな表情を一切してなかったですか?』
ふとそんな言葉が脳裏に浮かぶ。
ここではない沈みゆく太陽、夕焼けが良く見える場所で言われた言葉を。
そうだ悲しい事ばかり考えてしまったらそれこそ本当に終わってしまうではないかと。
そうだ奏を悲しさの象徴になどしてやるものか、あんなにも笑顔が眩しい親友をそんなつまらないものになど。
奏との死別は今でも翼の心を引き裂くし、父からの拒絶と取れる言葉は蓋をして二度と開けたくはない。
でも翼の持ってる思い出はそれだけだろうかと考える。
小さい時に「歌が上手だね」と言われて嬉しかった。
聖遺物を歌で初めて動かせた時に周りの人達の嬉しそうな表情につられて笑った。
シンフォギアが上手く使えれば弦十郎に褒められてうれしかった。
翼を構成するものには嫌な事だけではなく、嬉しかった思い出もあった。
『これから先、翼さんの傍にはたくさんの支えてくれる人がきっと現れます。その人達を恐れないで……』
旧二課のメンバーだけではない。
あの日から続く未来にはたくさんの出会いがあった。
死んだ人を引きずってもいいと言ってくれた響。
素直じゃないけど自分を先輩と慕ってくれるクリス。
一緒に歌うのが楽しいマリア。
いつも無表情で無口でも熱い思いを誰よりも持っている調。
いつもみんなの前で明るく振舞うのが素敵な切歌。
掴みどころがない感じなのにどこか頼りになる未来。
イグナイトモジュール、ダインスレイフ、そんなものが生み出す闇に負けていい道理など風鳴翼にはない!
◎
クリスが目を覚ますと自分が通う教室の自席で授業を受けていた。
右前の席に座っている同級生が自分に微笑みかけてくる。
―授業中だから黒板を見ろっ!
他者に向けられる優しさに対して素直に向き合えないのは雪音クリスの悪い癖だ。視線を向けられてつい教科書で顔を隠してしまう。
もう一年も経つのに違和感を覚えるのだ。
学校に朝通って、昼まで授業を受けて、昼食を食べて、夕方家に帰宅する日常が。
でも今年の春からはそんな自分も先輩なのだ。
脳裏には切歌と調の姿が浮かぶ。
しかしそれは学校の制服姿ではなく、ギアをまとってボロボロの姿なのだ。
自分は独りぼっちがあっているのだ。
仲間とか友達とか先輩後輩とか求めちゃいけないんだ。
でないと残酷な世界が周りを殺すのだ。雪音クリスは本当に独りぼっちになってしまうのだ。
そう考えて全ての人から目を背けて走って逃げようとすると突如腕を掴まれた。
◎
クリスがハッっとすると腕を握っていたのは自分のとは違い、シンフォギアが青色を残しながらも大部分が黒色に染まっている翼だった。
翼はイグナイトに成功してみせた。
「雪音」
「あ……」
翼はクリスの名前を呼ぶ。
クリスは情けなくて何も言い返せなかった。
イグナイトモジュールに侵食されているために余裕がないだけではない。自身のギアから黒いエネルギーが漏れ出ているのが、力を外に漏らすことなくコントロールする翼と比べて情けなく思えたからだ。
だから焦るのだ、一刻も早く心の闇と破壊衝動を支配下に置いて自分もイグナイトをコントロールしなくてはいけない。
「勿体ないぞ」
「な……にがっ……!」
クリスは歯を食いしばりながらもなんとか答える。
早くしなければこの状況をモニターから見ている人たちに呆れられてしまう。
「別ればかりを気にして新しい出会いから目を背けるのは」
クリスは翼の言葉に辛い事も忘れて呆然としてしまう。
まるで先ほどまでのクリスが見ていた悪夢を知っているかのようだからだ。
「私も最初は新しい友人や仲間を得る事はまるで奏の事を軽んじてしまっているかのように思ってな、全てを拒否していた」
翼が奏の名前を口にした時、死別したあの時の悲しさと、からかわれたりした楽しい記憶の二つを思い出していた。
こんな時でも奏は翼をおちょくるのだ。それがとてもおかしい。
「でもそうではないんだ。いいんだ忘れなくても、引きずっても、それをひっくるめて受け入れてくれる人を見つければ」
「…………」
翼のその言葉にクリスは黙り込む。
彼女の言葉はクリスのトラウマの全てをカバーする内容では決してない。
そもそもクリスと彼女の事情を知っている風鳴弦十郎は勝手に過去の事を他人には口外しない。
だからクリスを的確に癒す言葉を翼は持たない。
それでも何故か傷口に染みるのだ。
「雪音、お前の周りにいるのは雪音クリス一人すら受け止められないような小さい器の持ち主ばかりか?」
「そ、れは……」
指摘にクリスは詰まってしまう。
そんなものの答えは出ている。
そんな事は絶対にない。むしろその程度の事で悩んでいたのかと笑われるだろう。
相手のそんな思考を呼んだのか翼は言う。
「なら早くイグナイトモジュールを成功させ奴を畳まないとな」
翼は不器用ながらも言葉を紡ぎきった。
その顔は伝えたいことはもう伝えきったという達成感がある。
するとクリスの体から漏れ出ていた黒いエネルギーが止まり体に固着していく。
彼女も乗り越えたのだ。
装者2名がともにイグナイトモジュール起動に成功。
◎
「モジュール稼働!セーフティカウント開始します!」
イグナイトは使える時間が限られている。
何もしなければ千秒は持つが、セーフティロックを解除したり力を使えば制限時間が消費されていく。
マリアはじっとモニターに映る二人を見て憧憬を感じていた。
彼女たちは自身の心の闇に向き合って乗り越えたのだ。それは強さの在り方の1つなのだから。
◎
キャロルはイグナイトモジュールの起動に成功してついほおを緩めてしまう。
はたから見れば強敵が現れても自信がある不敵な奴に見えるだろうが、本当にうれしいのだ。
あとは適当に戦ってイグナイトによる一撃を受けるだけでよいのだから。
キャロルはアルカノイズ用の召喚結晶を使って生み出す。その数は総勢二千体。
しかし今の翼とクリスは相手に怯むはずもない。
すぐさま二人が出せる遠距離殲滅技である、翼の大量の複数の短剣を生み出して投擲、一瞬で敵たちの首を落とす。切れ味と、威力そしてスピードが従来のそれとは桁違いなため投擲した剣たちは地面に刺さるを超えて一瞬で地面に潜り込んでしまう。
クリスのミサイルは当たって爆発するどころか、当たってノイズを吹き飛ばしてても起爆せず進軍し続ける。そして巨大なノイズに当たって爆破、塵すら残さずに消し飛ばす。
キャロルはイグナイトの正確な起動を確認して、糸や魔法陣を使って中近距離攻撃を仕掛ける。
しかし二人はそれを軽やかにかわしてみせる。先ほどまでなら命からがら逃げるのが精一杯だが今の二人のスピードと反応速度は桁違いに上昇している。
キャロルの強大な錬金術に対して対応することが出来ている。
翼は足のブースターを噴出して、剣から赤い炎生み出しそれを真正面からぶつけて斬り倒そうとする。
キャロルは緩慢な動きで防御壁を生み出して受け止める構えだが、その瞬間にクリスがガトリングガンの弾をぶつけて防御壁を破壊してしまう。
「なに…」
キャロルは短くそう言うと、回避に移ろうとするが足が動かない。
何故と足元を見ると寄り添うように剣が生み出されて拘束されていた。その一瞬の硬直を逃さずに翼は炎剣を目の前の敵に叩きつける。
「ごっ!?」
「はああああぁっ!!」
翼の咆哮と共に振り抜かれ残っていた瓦礫に向かって吹き飛ばされて叩きつけられキャロルは沈黙する。
攻撃が当たる瞬間にキャロルがニヤリと笑ったのを翼は不気味に感じた。
この場での戦いは終わった。
翼は瓦礫の中に倒れこむキャロルの傍まで歩いて、意識は失っていないのを見て問う。
「立花を何処へやった?」
今まで口にしなかった質問をぶつける。
恐らくS.O.N.G.の全員が気になって仕方のない疑問だった。それを翼は代表して口にした。
「……ぁははっ……立花響か……安心しろ死んではいない…あいつのおかげで俺の計画は…成功に導かれる……」
「何を言っている……ここで貴様は敗北したのだ、何を強がっている……それに立花がお前の味方なはずがないだろう?」
瀕死に追い込まれたキャロルのいっけんすれば強がりに見える発言、翼は切って捨てたが何か違和感がある言い回しだった。
まるで本気で響がキャロルの味方かのような。
「立花が世界の分解を目論む貴様の肩など持とうはずがない!」
翼は響を信じて言い切る。
確かに響には不審な点があるのは間違いないが世界に害を及ぼす人間では間違いなく無い。
それだけは皆が確信している。
それを聞いて相手はぽかんとしていたがすぐさまその相貌には苛立ちが含まれ始める。
「…………その旋律で……他者や世界を救えるなどど……思いあがるなっ…!」
キャロルの怨念ともとれる呟き。
そう言い切った後でガリッと口の中に仕込んでいた何かをかみ砕く。
するとキャロルの体から力が完全に抜けて意識を失う。その体に舐め回すように炎が生まれて体が脆くも崩れ去っていった。