過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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改めてアニメを見直すとエルフナインってこの辺りから感情を表に出すようになるなと、ダインスレイフの起動成功によって安心したんだなって


心に巣食うもの

 指令室には技術者二人と装者五名が揃っていた。

 

「壊れたイガリマと」

「シュルシャガナも改修完了デス!」

 

 二人の息ピッタリの掛け合いに笑顔を向けるエルフナイン。

 最近の彼女は前よりも表情が柔らかくなったように感じる。やはりイグナイトモジュールの成功で結果を出せて肩の荷が下りたと考えられる。

 

「機能向上に加えてイグナイトモジュールも搭載しています」

 

 エルフナインは二つのギアに施した内容を簡潔に答える。アメノハバキリとイチイバルの二つと同じ内容。

 

「はい、預かっていたアガートラーム」

「復活のアガートラーム…!」

 

 未来はマリアに妹の形見であるそれを手渡す。

 彼女はそれに高揚感を抑えきれないようだ。もう一度戦える、それも妹の心と共にだ。

 

「コンバーター部分を新装したからマリアの体躯にもぴったり合うよ」

 

 未来の補足説明が加えられる。

 今すぐにでもまとってアルカノイズでもオートスコアラーであろうとも戦えるというわけだ。

 

「セレナのギアをもう一度……この輝きで私は強くなりたい……」

 

 マリアは言葉にする事で改めて決意を固めているようだ。

 強くなりたい、誰もが抱える本能とも言える思想だ。

 弱ければ死ぬしかない、強いものしか生き残れない、森から出て機械を発達させても人の中に脈々と根付いている生物の根源的思考。

 

「あ、そうだ。マリアにガングニールのギアも……」

 

 未来はポケットに入れていたそれをマリアに渡そうとする。

 当然ガングニールも改修自体は完了している。

 ガングニールは本来であれば響が使うものだが、現状不在ならこの中で唯一使えるマリアが保持しておくのが賢明だろうと考える。

 

「いえ…それはあなたが持っていて」

「へ?…いや私は使えませんよ?」

 

 マリアはガングニールを未来に持っておいて欲しいと言った。

 当然、彼女は何故使えない自分に預けるのか理解が及ばない。

 

「何となくだけど立花響を最初に見つけるのはあなたな気がするの……勘だけど……」

「…………」

 

 マリアは論理的ではなく直感的な理屈で話す。

 未来からすれば納得のできる意見ではないのだが黙って聞いている。伝えたい気持ちを汲み取ろうとしている。

 

「それにガングニールもあなたの傍にいたいと言っている気がする……」

「…………分かった。でもアガートラームに何かあったら受け取ってね」

 

 マリアは自分の考えに自信が持てないのか尻すぼみになるが、未来は注意だけは一応入れて意見を素直に受け入れる事にした。

 未来はその意見に折れてガングニールのギアペンダントを首にかける。

 彼女の胸には当然聖詠がうかぶわけでも、その身に特殊な力が宿るわけでもないのだが響が応援してくれているように感じる。

 

 この指令室に明るい雰囲気が漂っていた。

 これまでは錬金術師にやりたい放題にされてきたが、ギアが全て改修強化された事でここから逆襲だという良いムードが満たす。

 すると弦十郎が口を開く。

 

「よし!新たな力の投入に伴ってここらで一つ特訓だっ!」

『特訓?』

 

 周りの皆は口をそろえて疑問符を浮かべる。

 

 

 今いる全員で海だ!という事で特訓という名目で海に集まる七という断りにくい理由をでっち上げて弦十郎は海送りにしていた。

 未来とエルフナインは研究所行きを願ったがギアの改修三昧で明らかに不健康状態なので太陽の下を歩け、体を動かせとエルフナイン共々弦十郎に言われて水着を装着している。

 

「フォトスフィア……ナスターシャさんが残したもの……ですか」

『はいそうです』

 

 未来は緒川から調査データの受領が終わった事を電話で知らされていた。

 

『話は変わりますが翼さんたちはどうですか?』

「ビーチバレーにのめり込んでいますね、本気であれを特訓だと思っているみたいで……」

『あはは……でもよかったです。翼さんは肩肘を張りすぎですから』

 

 未来の報告に安堵の言葉を出す緒川。

 常に張り詰めがちな翼の付き人もまた心労は絶えないのだ。

 

「あとでフォトスフィアのデータは見ますね」

『分かりました、では』

 

 そう言って通話を切る。

 そしてふと周りを見渡すと、

 

「なんてタフなメニューだっ!」

「かかってきなさい翼!」

 

 皆がビーチバレーにハマっていた。

 本気でビーチバレーを特訓の一つだと思っているようだ。実際バレーは反応を含めて全身を使うので間違いではないのかもしれないが。

 

「おらおら~っ!バッチコーイ!」

「い、いきますっ」

 

 エルフナインのサーブのターン、クリスは受ける準備は万端と合図を送る。

 一応球技なので、審判がいないためちゃんと合図をしないと予期せぬ怪我になりかねないため当然のことだ。

 

「それっ…!」

 

 その掛け声と共に上にトスを上げてジャンプ!そして腕を振りかぶって―スカる。それはもう見事なまでに。

 

「あれっ…?」

 

 自分の想定していた風に動けなくて砂浜に倒れてしまう。

 砂浜は柔らかいため怪我になる事は考えにくい、そのため特に誰もそれの心配はしない。

 

「何でだろう…?強いサーブを打つ知識はあるのですが…実際やってみると全然……」

 

 彼女は不思議に思う。

 海に行くと聞いてから彼女は動画やウェブサイトを見て事前の勉強をしたのだ。正確にトスを上げるコツ、ボールの芯を叩くタイミング、腕の正しい動かし方を。

しかし実際にやると全然思う通りにならない。

 いわゆるプロの人が勧めるやり方だというのに。

 スカって転がってきたボールをマリアが掴む。

 

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう……こんな感じで」

 

 マリアはそう言いながら、頑張って初心者には難しいやり方をしようとするエルフナインに一番簡単なアンダーハンドのサーブを見せる。

 

「はうぅ~っ…ずびばぜん……」

 

 エルフナインはゲームのパートナーであるマリアの足を引っ張ったと思い申し訳なさそうに謝罪をする。

 しかしマリアはそんな小さい事で怒りはしない。

 

「弱く打っても大丈夫、大事なのは自分らしく打つことだから」

「はい!頑張ります!」

 

 マリアはエルフナインに目線を合わせて諭す。

 ほんわかする一幕だ。二人は親子みたいだった、マリアはまだ二十一歳だというのに。

 翼はそんな一幕を見ると、

 

「しかし楽しいがこれは特訓なのか?考えてみれば遊んでいるようにしか……」

「いえこれは特訓ですよ」

 

 翼の疑念に答える未来。

 リラックスさせるのが目的とはいえ一応特訓という事になっている、誤魔化さなくてはいけなかった。

 

「そうなのか?」

「ええそうです。ほらよく足さばきの時に足の裏の付け根に力を入れますよね?この不安定で柔らかい足場はまさに力の入れ方を鍛えるのにぴったりだとは思いませんか?」

「む、むうなるほどな」

 

 咄嗟の出まかせで誤魔化して見せた。

 目の前の出来事と戦闘と技術を組み合わせたらどうも弱いのだ。

 

 流石に日が南中し始めたころにはメンバー皆が疲れて倒れ伏していた。即席で用意されたビーチチェアで寝る。

 予想以上に熱中してしまいバテている。

 

「気が付いたら特訓に…」

「誰だよもう1ゲームとか言ったやつ……」

 

 調とクリスがばてながら言う。この二人は本当に体力がない。

 

「晴れて良かったですね」

「昨日台風が通り過ぎたからね」

 

 エルフナインが嬉しそうに空を見上げる。

 未来はその理由の考察を述べる。

 最近までの錬金術師との激闘を忘れそうになる穏やかな時間だった。体を動かすとエネルギーを消費する、消費すれば補給しなければいけない。

 

「そう言えばお腹が減りませんか?」

 

 未来はその口火を切る。

 

「…ここは政府所有のビーチ」

「一般の海水浴客がいないと出店は無い…」

 

 翼とマリアが今自分たちの置かれている現状を口頭で説明をする。

 ピシッと七人の間に緊迫した雰囲気が流れる。

 買い出しそれは誰が買うのか?自分が行くのは面倒くさい。誰かに面倒を肩代わりさせたい。

 

「じゃんけんね…」

 

 マリアが口を開く。

 指の動きを変幻自在に動かして3つの手の形で勝敗を決める、誰でもできる日本人で一番知名度のあるゲーム。それで勝敗を決めて買い出しの生贄にするメンバーを選ぼうというわけだ。

 

「じゃあ私グーを出しますね」

 

 未来の宣言に他六人が驚く。

 シンプルにグーで一点突破する気か?それとも相手のパーをつり出してチョキで切り裂こうというのか?突然の心理戦が始まる。

 

『じゃーんけーん、ポン!』

 

 翼、調、切歌の3人がチョキを出して負ける。

 斬撃武器を扱う三人が負けた。翼は銃の形の変なチョキを出す、本人曰くカッコいいチョキらしい。

 

「好きなものだけでなく塩分やミネラルを補給できるものもね」

 

 買い出しに選ばれた切歌と調の二人にマリアが注意を促す。

 一方いまだに負けた事に不満なのか翼は自分の手をじっと見つめている。そこにマリアが翼にサングラスをかけさせる。

 

「人気者なんだからこれをかけて行きなさい」

 

 名前負けをしていない微笑みでマリアは翼に言う。

 

「母親のような顔になってるぞマリア…」

 

 翼はぼやく。

 

 

 買い出しじゃんけん敗北者はおとなしく近場のコンビニに買い出しへ行く。

 アスファルトが吸収した太陽の熱が体に悪い、そこに元気なセミたちが大合唱するのだから夏の苛立ちを加速させてくる。

 一方でコンビニ内部は天国そのものだった。

 

「おっかし、おっかしっデス!」

「切ちゃん好きなものだけじゃなくて栄養も考えようよ…」

 

 浮かれる切歌に注意する調。

 翼は素直に被りが生じないように弁当を買っている。

 最近は命がけの戦いが多かったこともあってかのんびりと風景を見たり、人達が歩いて日常の中を生きているのを感じる機会が少なかった。

 たまにはのんびり歩くのも悪くないなと考える。

 

「そう言えばさっきは何となく出スルーしてたデスけど、どうしてそんなにたくさんお弁当を買ったデスか?その量は食べきれないデスよ」

「何故とは…それはたくさん食べるのが……」

 

 切歌に指摘されたここで、翼は自分が響の食べる量も購買の勘定に入れていた事に気が付いた。

 それに二人も目ざとく気が付いて黙り込む。

 居心地の悪い沈黙が流れる。敵に拉致監禁されているのだから当然だが、いなくても自然と彼女たちの中心にいた。

 気まずいまま歩いていると中学生ほどの野球少年たちとみられる人混みが見える。

 

「うわーこれ台風のせい?」

「だとしたらやべーな」

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 三人も気になって野次馬今生が生まれて見に行くと、そこには神社に氷が突き刺さっていた。

 どう見ても自然現象ではなく、人為的それも異端技術によるものだと理解できていた。

 今すぐにでも合流して本部に連絡すべき案件だ。

 

「これは……」

 

 翼が自身の考察を切歌と調に話そうとする。

 しかし、その瞬間に爆発音が発生する。音の発信源はそれは自分たちが先ほどまでいたビーチだった。

 

「あれはっ!」

 

 翼が現状を確認するためにサングラスを外して視界をクリアにする。

 爆発は一度にとどまらず複数度発生している。どう見ても異常な音だった、そもそも遠目に火花が見えている。

 

「もしかして……もしかするデスか!?」

「…行かなきゃ!」

 

 切歌と調はマリア達に襲撃があった事を察した。

 翼は辺りを見回して近くにいた呆然としている作業着を着ている大人に声をかける。

 

「ここは危険です!子供たちを安全な場所にまで誘導を!」

「あ、おっ、おう!そうだな分かった!」

 

 気弱そうだが大声でピシッとした翼の声から出た指示に対して納得して従ってくれる男性。

 年下に命令されても落ち着いて対応するあたりそれなりに良い人なんだろう。

 

「おいみんな!海とは反対側に指定避難所になっている学校があるから逃げよう!」

 

 男性はそう言って中学生たちを引き連れて逃げて行った。

 

 

「悩みの種が尽きたわけじゃないけど…またこうやって…のんびり海を見る日が来るなんてね……」

 

 じゃんけん敗北者たちが返ってくるまでやる事が無いので、未来はぼんやりと海を見ていた。

 響がノイズに巻き込まれて街からいなくなり、未来もウェル博士のスカウトでF.I.S.に入り、恩人のナスターシャの為にテロに与して、仮釈放後にS.O.N.G.の一員として異端技術の最前線にいる。二年前までは考えられない激動の人生だ。

 

「未来さん」

 

 エルフナインが未来に話しかける。

 一報で声をかけられた方である彼女はぼーっとしていたのか、声をかけられて驚きその方向へと視線を向ける。

 その表情には焦りが見える。どうも落ち着かないのだろう。

 

「……っ…あ…どうしたの?」

「装者の皆さんの特訓は大丈夫なのでしょうか?」

 

 エルフナインのそれは当然の不安だった。

 キャロルは一度退けても新しい個体に意識を入れて復活してくるのだ。

 相手陣営が親玉の喪失で機能停止している内にパワーアップを図って欲しいと考えるのは当然の事だった。

 

「まぁ今日は根を詰め過ぎてもよくないからレクリエーションの面もあるから」

「暴走の原理を応用したイグナイトモジュールは危険だから3段階のセーフティがあります。だから少しでも力を使いこなして欲しいんです!」

 

 呑気な未来と回答に更に焦った様子のエルフナイン。

 するとマリアがそれに乗っかってくる。

 

「私は早く強くなりたいわ、今すぐにでもイグナイトを使いこなして今度こそは揺るがない強さを……」

 

 マリアの言葉はやや焦りを感じているように聞こえる。

 楽しかったのは事実だが、特訓という名目で来ていまだにレクリエーションだけなら焦りたくもなる。

 

 彼女は力が欲しいのだ。

 ただ相手を打ち倒すだけでなく、誰に見られても恥ずかしくないセレナやナスターシャのような誇らしくて高潔な自分に打ち勝てる強さを。

 そしてなによりもこの一年近くで守りたい人と場所があまりにも増えた。だからもう失いたくないのだ、それはあの日ナスターシャを失った痛みでもう十分だった、もうあんな痛みは懲り懲りだった最後にしたいのだ。

 そして何よりアガートラームを受け取った事で、妹に見られても恥じない強い人間になりたい。

 

「そうだ未来、あなたに戦い方を教えて欲しい。シンフォギアは使えなくても戦闘に使えるテクニックや心構えはあるでしょう?よく相手の思考や癖を読むのとか上手いでしょう?ああいうのを教えて欲しい」

「おっそれならあたしにも教えてくれよ。同じ遠距離型なら参考になりそうだ」

 

 マリアの懇願にクリスも乗っかる。

 未来は前にギアペンダントを響にボロボロに砕かれてしまったためもう戦闘員ではないが、それまでに一年半以上もかけて培った実力は本物だった。

 それを近くで見てきたからこそ教示して欲しいと考えた。

 クリスも二度戦ったが未来には全く歯が立たなかった。

 

 未来がそれに対して答えようとした瞬間に突如海から水柱が発生する。

 

「ガリィっ!?」

 

 エルフナインは信じられないものを見たような声をあげる。

 キャロルが現状行動不能ならオートスコアラーたちも行動不能だと考えていたからだ。

 

「夏の思い出作りは十分かしらぁ?」

 

 水柱の上でポーズを決めて間延びした喋り方をするガリィ。

 

「そんなわけねーだろっ!」

 

 文字通りの上から目線と、ふざけた口上に怒りそしてクリスは唱える。

 

『Killter Ichaival tron』

 

 ギアをまとうと水柱の上に立つ敵に対して矢型のエネルギーを速射する。ところが攻撃に対して避けるのではなく一直線に突っ込んできたのだ。

 

「なん…?」

 

 避けられる事前提の牽制がてらの攻撃だったため当たりに来たのが信じられなかったのだ。

 当たったと思った瞬間、ガリィの体が貫通したわけではなくバシャ!と体が崩れて水になったのだ。

 

「っ…はっ!?」

 

 クリスが驚いた時にはすでに背後を取られて水塊を使って殴り飛ばされた。

 

「があっ!」

 

 クリスは殴り飛ばされてうめく。

 しかしすぐさま大勢を立て直して敵に対して正対する。水と氷の二つを扱うトリッキーな相手だ。

 

「私も助太刀するわ!」

「いやまずは二人を安全な場所に頼む!」

 

 マリアはクリスの言葉に最初は迷ったが頷く。

 今回、錬金術師に対抗できたのもエルフナインの貢献が大きい。

 それを危険視して装者とエルフナインを引きはがして狙う事が相手の目的の可能性があったのだ。

 

「分かったわ!2人を安全な場所に連れて行ったら直ぐに戻るわ!」

 

 マリアはそう言って未来とエルフナインの2人を連れて砂浜から避難をする。その時ガリィは一瞬だけ苛立った顔をした。

 

「てめぇ…頭がいなくなったってのにどうして襲撃してきやがる」

「さぁ~ね~ぇ…」

 

 クリスの詰問に対してけむに巻くように答えるガリィ。

 すると手からアルカノイズ召喚用の結晶をばら撒く。

 

「こいつらっ…!」

 

 今更こんな雑魚に構っていられるかとガトリングガンで一掃し始める。

 しかし、気少し経ってが付いたガリィがいなくなっている事に。

 

「そうかこいつら囮か!」

 

 予想していたとはいえクリスはうかつ過ぎた。

 

 

 マリア、未来、エルフナインの三人は砂浜を離れて避難の為に森の中を走っていた。

 すると進行方向の先に待ち構えているガリィ。

 ギアをまとえるマリアは非戦闘員の二人の前にかばうように立つ。

 

「見つけたよ?外れ装者」

「く……」

 

 ガリィの挑発に若干ではあるのだが顔をしかめるマリア。

 

「さあ!いつまでも逃げてないで歌って見せなっ!」

 

 ガリィはそう言うと、ダッシュで距離を詰めて手に刃の氷を形成して斬りかかる。

 それに対してマリアは臆さず前に出る。

 

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 

 ガリィはキャロルから事前にエルフナインの感覚器ジャックと響の記憶通りならアガートラームが改修されているため、唱えるのは違う聖詠である事を聞いていたためそこには驚かない。

 

 マリアは聖詠を唱えながら、顔に向かって突き出される相手の氷の刃の手刀をギリギリのタイミングでかわす。

 これに相手も目を見開いて驚く、前に相対した時はここまで冷静に立ち回っていなかったからだ。

 ガン!と輝く左手が敵の頬に炸裂した。すると突き出した先からシンフォギアがまとわれていく。

 かつてセレナがまとったものと同じ白い鎧だ。

 

(情報通りにアガートラームをまとったな……)

 

 ダメージを受けたがガリィは冷静さを失わない。

 そもそも最高の歌を操る相手に負けることこそが目的なのだから。

 

「上手くいってよかった」

「ええ…新生アガートラームです…!」

 

 修繕した二人も一安心だ。

 もし整備不良なら目も当てられない。

 

「期待を裏切らないでよぉ?」

 

 そう言うとガリィの手から召喚結晶が放たれて瞬時にアルカノイズが現れる。

 しかしマリアは素早く左の装甲から剣を取り出すと二十本の短剣を生み出して飛ばす。それらは一撃で薙ぎ倒していく。

 距離のある敵に短剣を振ったら、剣が蛇のようにうねうねと伸びて敵を突き刺し切り刻む、実践から離れていたが十分にアルカノイズに対応できていた。

 雑兵をあらかた一掃すると最後はお前だと短剣片手にガリィへと突っ込んでいく。

 

「うわあーわたしまけちゃうかもー……なんてね」

 

 相手はふざけた態度をとると、突如水の球体を複数個無造作に作り出す。

 するとそれらが発光していく。

 

(光を反射してる?目くらましのつもりっ?)

 

 目の前の現象を観察しながらもそのまま一直線に突進していく。

すると、

 

「全力で横に飛んで!!!!」

 

 未来が大声で叫ぶ。

 その必死な声に何故だとかは考えず反射的に横に飛ぶ。未来もまたエルフナインを抱えて抱きしめて伏せる。

 太陽光たちが収束され一直線に光線として放出される。音すらもぶっちぎる速度の一撃がマリアのいた場所を貫く。

 

「な……」

 

 避けたマリアが後ろを振り向くと抉れた地面と貫かれた森と光の熱で生まれた火の海。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。今更ながら寒気のする光景。

 未来の注意喚起が無ければ今頃はマリアの体は風通しが抜群になっていた。

 とはいえビビってはいられない、もう既に初見ではないため水の球体には最大級の警戒をして立ち回る。

 

 もう一度距離を詰めるためダッシュをする、今度は相手は水の球体を発生させない。

 逆手に持った剣で相手に向かって斬りかかる。踏み込んで剣が当たると思った瞬間マリアの視界から突如ガリィが消えて一面の青空になる。

 

「なん…?」

 

 呆然とした間抜けな声を出してしまう。

 

「あははははっ!ひーっかかったーっ!」

 

 ガリィの笑い声。

 マリアは声のする方向を見ようとするがそこで気が付いた。自分が倒れている事に。

 何故と思い体を起こして周りを見やると地面が凍らされており、それに足を滑らせたのだ。

 先ほどの太陽光線を警戒するあまりに、足元に対しての注意がおざなりになってしまったのだ。

 だから相手は笑ってバカにしているというわけか。

 

「ッ!!」

 

 マリアはあまりにも間抜けな状況に怒り心頭だ。

 同時に頭の中にある冷静な部分で相手の方が現状は強いと認めている。最新のギアをまとってもオートスコアラーはやはり簡単に勝てる相手ではない。

 

「強い…だけどっ……!この力で決めて見せる!!」

 

 マリアは胸のギアペンダントに手をかける。

 イグナイトモジュールを起動する構えだ。

 

「へえぇっ……聞かせてもらうわぁ……」

 

 ガリィは楽しそうに笑う。

 この瞬間にも自分が作られた意味を成就できるのだから、それは楽しくてたまらないだろう。

 

「イグナイトモジュール抜剣!!」

 

 ペンダントを外して空に投げる。

 一瞬だけ顔が強張るがすぐに覚悟を決める。ギアペンダントから赤い刃が形成されて胸を突き刺す。

 

「うがあああっ!!?」

 

 マリアの叫び声、ギアの各所から黒いオーラが滲み出る。

 今彼女を襲っているのは人間の原始的欲求レベルにまで引き上げられた破壊衝動と心の闇だ。

 

「弱い自分を…殺すっ……!」

 

 悶えながらも自分に言い聞かせるように呻く。

 あまりの苦しみに両ひざと両の手をついてしまう。

 しかし、胸に刺さったペンダントがまがまがしい光を放ったかと思うとマリアの体が黒く染まる。それは完全な暴走状態。

 

『うぎゃあああっ!!』

「あーれれ……」

 

 獣がうめいているのと大差のない状態になる。

 それを見て間延びした反応を示すガリィ。

 マリアだった獣は一直線に目の前の敵を討ち取ろうとする。しかし、力任せの直線的すぎる一撃はいくら強力だとしても当たらない、すべて見切られてしまう。

 

「獣と落ちやがったっ」

 

 失望したような声。

 すると装者達が騒ぎのする方へとかけてくる。

 

「あれはマリアか!?」

「まさか暴走してるデース!」

 

 翼たち買い出し組とアルカノイズを倒し切ったクリスも現場にやってくる。

 そしてマリアの惨状に驚いている。

 

「いやいやこんな無理くりなんかじゃあなくっ」

 

 そう言って顔を掴んで、

 

「歌って見せなよアイドル大統領っ!!!!」

 

 全力で地面に叩きつける。

 するとマリアのギアが解除される。

 あのまま暴走していたら命を削っていた可能性があった。相手からすれば装者に死なれたら困るので当然の行動だった。

 

「やけっぱちで強くなれるなどのぼせ上がるな!」

 

 ガリィは白々しく手をハンカチで拭きながら言う。

 クリスはマリアの援護の為に牽制に攻撃を加えたが簡単に弾いてしまう。

 

「外れ装者にはがっかりだっ」

 

 そう言って転移結晶で離脱する。

 

「マリア!」

「マリアさん!」

 

 未来とエルフナインは慌てて倒れているマリアのもとに向かう。

 すぐさま脈拍等を見るが異常はない。致命傷ではないが頭を打ち付けて出血をしている、若干だが意識が混濁しているように見える。

 

「とりあえず止血しなきゃ……それに日の下で寝かせるのは不味い……切歌そのパーカーを貸して、それでマリアの頭を抑えるから。あとミネラルウォーターとか無い?マリアに頼まれたはず、それで傷口を洗わないと細菌が入る……」

「わ、分かったデス!」

「調はS.O.N.G.のスタッフを呼んで車を手配をしてもらって」

「は、はいっ!」

「翼さんはマリアを木陰に移動させるから手伝ってください、頭の負傷なので慎重に」

「分かった」

 

 未来は指示を出し体を移動させて、借りたものでとりあえず出来る範囲で頭の手当てを行う。

 するとマリアが呟く。

 

「勝てなかった……私は何に負けたんだ……?」

『……………………』

 

 その答えに誰も答える事は出来なかった。

ただ通常運転のセミの鳴き声しか問いには答えない。

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