チフォ―ジュシャトー内部、響は先ほどの戦闘を見ていた。
前の世界では自分自身はほとんど聞いただけの話で実際に観戦したのはこれが初めて。
ガリィがシャトー内部に帰投してくる。
「派手に立ち回ったな…」
「目的ついでにちょっとね……」
レイアの咎めるような言葉に知った事かといった感じで答えるガリィ。
その注意に対して相手は少しだけ機嫌が悪そうだ。
「自分だけペンダントを破壊できないのを気にしてるんだゾ」
「うっさい!だからあの外れ装者からむしり取ると決めたのよ!!」
ミカの図星を突いてくることに強めに反応してしまう。
オートスコアラーたちに刻まれた使命、それは装者にイグナイトモジュールを入れた攻撃を受けて破壊される事で世界を壊す歌の楽譜に旋律を刻む事だ。
だからキャロルがいなくても問題なく稼働している。
「私もそろそろ動かないとね…」
ファラのつぶやき。
「一番乗りは譲れない……」
ガリィの意志の籠った一言。
椅子に縛られて響は何も出来ない現状に歯噛みしている。
今がチャンスなのだがオートスコアラーたちを説得するなど困難だ。実際今も自分の事をいないものとして会話を展開しているのだから。
◎
夕刻、そんなやり取りが展開されているなど思いもしないS.O.N.G.の面々たち。
装者と緒川、藤尭が部屋に集まる。
関連施設の一室を借りて昼間に起こった、今回のオートスコアラーガリィの襲撃について話し合っていた。
ただしマリアは敗北と力の制御が出来ないショックがあるだろうと考えて話し合いの場からは外させている。
「主を失ってなお襲い掛かる人形……」
翼が今現在語るべき議題について切り出す。
問題はこれに限った、何故現状主人不在で襲ってくるのかと。何がしたいのか、その行動目的が分からない。
「……どうして優位に事を進めていたのに、撤退を繰り返すんだろう……」
調はふと思った事を口にする。
敵は倒す寸前まで追い詰めて逃す事を繰り返している。一体何を求めているのか謎が深まる。
「言われてみれば……とんだアハ体験デス!」
「いちいち盆が暗すぎるんだよ」
切歌がトンチンカンなことを口走る。
クリスも既存の言い回しを改造して分かりづらい表現で現状を説明する。
「うーん…例えば私達を鍛えて…何かと戦わせたいとか……?」
未来の一言に全員が注目する。
もしそうならオートスコアラーやキャロルよりも強大な敵がいるという事だからだ。
彼女はいたずらに不安をあおってしまった事に気が付いて慌てて言葉の内容に補足を入れる。
「あ、いや…前に友達に勧められてそう言う感じの…弟の前で親を殺して自分を復讐の相手にする事で弟を鍛えようとしたって言う感じのアニメを見たのでその……」
未来はアニメの知識で語ってしまった…と軽くショックを受けていた。
「まぁ……それも可能性の1つとして一考しよう……」
一応あり得なくはないので否定だけはしない翼。
しかしまぁそれは無いだろうなと内心は思っているがどうやら未来を気遣っているらしい。それにショックを重ねる未来。
「あ!それよりもマリアの方が心配です。力の暴走に飲み込まれた……きっと今頃無駄に悩んでいるかと……」
未来は気まずいため少し話し合いの主旨から少しだけズレた話題を提示する。
全員もそれに対してどうしたものかと頭を悩ませる。この問題はいくら助言をしても支えても結局のところは自分の心持次第なのだ。
「アルカノイズの反応を検知!」
部屋にいた藤尭が報告する。
装者たちは慌ててマリアの元へ急行する。
部屋を飛び出していく装者達、すると緒川が何かが目の前の廊下を通るような気配を感じる。
「!?今のは…風…?」
「何か…?」
緒川の訝しむ感じに不安になる未来。
◎
頭に包帯を巻いて応急処置を受けたマリア。
夕陽を見ながらマリアは思いにふけっていた。
自分は弱いとあの時イグナイトを全くコントロール出来なかった。それを弱いとしなくて何だと言うのか。
(人形に救われるとは情けない……)
もし仮に暴走して未来やエルフナインに牙をむいていたらと考えると恐ろしくなる。これは自分が弱いばかりに起こしてしまった失態。
すると足元にバレーボールが転がってくる。エルフナインがどうやらサーブの練習を秘密裏に行っていたようだ。
マリアはそれに気が付かないほどに自分の事で精一杯だった。
「…?」
「ごめんなさい、邪魔をするつもりは……」
どうやら考えの邪魔をしたと思ったのか申し訳なさそうに言う。
「邪魔だなんて……練習私も付き合うわ」
「はいっ!」
ここで突発的なサーブ練習会が始まる事になった。
「それっ!」
もうすぐ夕日も水平線に隠れそうになる。
エルフナインのアンダーハンドサーブは思った以上に距離が出なかったり弾道が低かったりであまり褒められた精度と上達速度ではないが、本人の健気な努力姿を見ると応援したくなるものがある。
「おかしいな……上手くいかないな……」
思った以上の難題に苦慮しているエルフナイン。
もしかしたらコピー元のキャロルも素ではこのレベルの運動神経なのかもしれない。
「色々な知識に通じているエルフナインなら……分かるのかな……?」
「?」
マリアは特訓とは関係ない、そもそも手伝うと言っても身が入っていなかったのだが。
自分の悩みをぶつけてみる事にした。
一方でエルフナインはそんな態度に怪訝そうだ。
『……でも強くなりたいなら…自分で考えて勝ち取らないときっとそれは満足できないと私は思います。他人の言葉を参考にしても…それを鵜吞みにして方針に据えてはいけない…と思います。自分で納得できるまで悩まなきゃ……』
もちろんあの日、未来がナスターシャの墓の前で言った言葉を忘れたわけでは当然無い。
それでも聞かずにはいられなかった。
いまだに自分は強くなるために何をしたらいいのか、そのとっかかりすら見つけられていないのだから。
「強いってどういう事かしら…?」
「…………」
マリアは言った。
恐らくそれは誰もが答えを欲するもので、恐らくだがその解は生きる人の分だけ千差万別にある。
問いかけた張本人であるマリアはじっと相手の目を見て答えを待つ。
「それは……マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか……」
「え……」
予想外の答えが相手から帰ってきてとまどう。
それはいったいと聞き返そうとすると、背後から水柱が再び現れる。
「おっまたせ…外れ装者ぁ?」
ガリィの挑発の入った間延びした言葉。
マリアはとっさにエルフナインの盾になるように立ちふさがる。そして包帯を取り払って相手に向かって構える。
相手も戦意、それを感じて好戦的な表情をする。
「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」
ガリィはニヤリと言う。
「大丈夫です…マリアさんなら出来ますっ!」
エルフナインは手をグッと握って言う。
少しだけマリアはその健気な姿に勇気を貰う。
『Seilien coffin airget-lamh tron』
マリアは再びアガートラームをまとう。
「外れでないのなら戦いで示してよっ!」
ガリィはそう言いながらアルカノイズ達を召喚する。
当然今のマリアはアルカノイズ達など大した脅威にはならない。一刀のもとに両断する。しかし問題はそれではない。
ガリィは大き目な球体を出す。マリアの脳内には昼間の攻撃が想像されるが短剣を生み出して直接球体を破壊する。
すると相手は手から水を噴射して攻撃を加える。避けられる間合いではなかったため剣を生み出して盾を作る、それは三本の剣を支点にして三角形の結界の形をとる。
攻撃を正面から防ぐが、
「つ、ぐうっ……!」
想像以上の威力に踏ん張るのが精一杯。
すると水に冷気をぶつけて凍らせていく。するとマリアの体を氷が覆ってしまう。
「マリアさん!?」
氷漬けにされたマリアに心配そうに叫ぶエルフナイン。
シンフォギアのもつバリアフィールドのおかげか芯まで完全には凍っていない。すぐに内側から氷を壊して立ち直るが膝を突く。
「てんで弱すぎるっ!!」
苛立つガリィ。
マリアの手はその言葉に連動するかのようにギアペンダントに伸びる。彼女はもう一度イグナイトに挑戦をする気だ。
それを見て相手は声をかける。
「その力…弱いあんたに使えるの……?」
「ッ!?私はまだ弱いまま……」
言われてそして自分で言って考える。
前に失敗した時と今の自分は何も変わってなどいない、いやむしろ拘泥の中にいてむしろ弱くすらなっている。今挑戦したところで成功など到底不可能だ。
「どうしたら私は強く……」
『それは……マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか……』
ふと先ほど言われた事を思い出す。
「私が……?」
「マリアさん!大事なのは自分らしくある事です!」
『弱く打っても大丈夫、大事なのは自分らしく打つことだから』
「弱い……そうだ……」
「あん?」
マリアの宣言に怪訝そうなガリィ。
先ほどまでは弱いなどの単語に露骨に反応していたのに。
「強くなれない私にエルフナインが気づかせてくれた……弱くても自分らしくある事……それが強さ」
マリアはそう宣言する。
エルフナインには戦う力は無い、それでもキャロルの世界解剖の阻止の為に危ない橋を渡ってでも勇気を出して飛び出した。
そしてその行動が装者たちに希望を運ぶ結果になった。
「エルフナインそこで聞いておいて欲しい!君の勇気に応える歌だっ!」
マリアは宣言した。
今度は成功させてみせると、彼女の勇気が運んだそれを花咲かせてみせると。
「イグナイトモジュール、抜剣!」
ペンダントを掲げて生み出された刃を胸に刺す。
彼女は胸にあふれる苦痛に呻きながらも、これまでの事を思い出していた。
困難な場面に遭うたびに強がって本性を隠して心を武装で固めた自分。強がった言葉ばかりを口にしていた自分。
あの日、フロンティアの中で世界を救いたいと思った時は強気な自分でも弱気な自分でも無かった、ただ自分に素直に向き合っていたはずだ。
きっとあのありのままの姿こそがマリアなりの強さの形なのだ。
「私は弱いままこの呪いに叛逆してみせるっ!!」
マリアのその叫びと共にイグナイトに成功する。
鎧が黒く染まるが禍々しいエネルギーは放出されずに綺麗に固着している。
「弱さが強さだなんてトンチを効かせ過ぎだって!」
そう言ってガリィは手から氷の矢を複数本飛ばしてくる。
イグナイト化して速度が急上昇したマリアにはその牽制気味な攻撃は当たらずに、右手に逆手に持った剣で上半身と下半身をサヨナラさせる。
しかし、分断した体が水球の形を取りそれらが上に浮いている。ボケッとしているとまたあの時のような光線が放たれてしまう。
それをとっさに判断して左手の籠手から刃を射出してそれらを破壊して攻撃されるのをあらかじめ防ぐ。
この時マリアは昼間の事を思い出していた。上に視線を向けさせて自分の死角を広く作る。だからすぐさま自分が注意をおざなりにしがちな足元と背後に注意を払う。
「私が一番の」
「シッ!」
ガリィが言い切る前に一直線に接近して左アッパーで上空に殴り上げる。
空へ飛びあがり相手が最高到達点に上がる前にそれよりも高く飛ぶ。剣を左手の肘に付けて、背中のブースターを吹かせて飛び込んでいく。今度は分身体を作る隙すら作らせず一刀両断する。
「一番乗りなんだからあああぁぁっ!!」
上下がお別れしたガリィは叫びと共に爆散した。
その瞬間チフォ―ジュシャトーにガリィが受けたイグナイトの旋律が刻まれた。
◎
「マリア~っ!」
アルカノイズ達の反応を見て急いできた仲間たちの声がマリアの耳に届く。
応えようとするのだが疲労と安心から足腰に力が入らずに間抜けな姿を晒してしまう。
でももう気にならなかった。こういう一面もきっとマリアなのだから。
「オートスコアラーを倒したのか」
「どうにかこうにかね……」
翼が驚いた風に言う。
オートスコアラーは通常の形態のギアでは勝つのが困難な相手だ。
つまりイグナイトモジュールを正しく発動させたという事だ。つまりあの苦しさを支配下に置いた。
「これがマリアさんの強さ」
「弱さかもしれない」
エルフナインの言葉に間髪を容れず否定する。
しかしマリアの表情に苦悶は無く晴れ晴れとしたものだった。これまで弱さと口にするときは常に苦しそうだった。
「でも私らしさでもある。教えてくれてありがとう」
マリアは何の気負いのない顔でそう言った。
「はい!」
エルフナインも笑顔で応えるのだ。
「あ、折角ですからマリアのイグナイト記念に花火でもします?もうすぐ日が落ちますし。今の季節ならスーパーに売ってるかもしれませんし、ちょっと行ってきます!」
未来はそう言って砂浜から走り出す。
◎
「えっと七人分だから三セット買えばいいかな……あ、打ち上げ花火もあるんだ……そう言えば夕食がまだだから何かつまめる物も買っておくかな」
既にセールの類が終わり閑散としつつあるスーパーの一角で花火セットを物色する未来。
するとそこに、
「あれ……?…もしかして君は…」
「え?あなたは響の……」
未来は響の父の立花洸と再会した。
◎
「いやーこんなにたくさんのお客さんが来るとはなぁ…ま、誘ったの俺だけど」
上機嫌の洸。
装者たちは響の今の実家に招かれていた。
あの後、家で食事でもどうかと誘われたので知り合いが複数人いる事を告げたがみんなで食べようという流れになったのだ。
ちなみに大人数なので焼肉パーティーに決まった。食材はその場のスーパーで買う事になった。
「すみません突然お邪魔をして」
「気にしないでください!それよりもあの英雄で歌姫のマリアが知り合いだなんてすごいですね」
未来が友人と言って世界的有名人を連れてきたときは立花家全員が驚いたものだ。
「昼の一件はありがとうございました」
「いえいえあれくらい当然ですよ」
翼が昼間に避難誘導をお願いしたのが洸だったのだ。
彼は常に避難場所や経路は常に確認をしている。過去に娘がノイズ被害に遭っていたからだ。
「肉デース!」
「切ちゃん野菜も食べないとダメだよ、はい」
「デエエエエエス!!!!」
切歌の取り皿にキャベツを入れる調。
入れられた彼女は絶叫。
「ほらピーマンもおいしいぞ、ほれ」
「デエエエエエス!!!!」
クリスのお節介。
入れられた切歌は絶叫。
取り皿の占める面積が肉よりも野菜の方が広くなる。
「ボクの知識ではこのお肉は焼け頃です」
「お肉を育ててばかりじゃなくてエルフナインちゃんも食べなよ」
肉を焼くことに必死なエルフナインに注意をする未来。相変わらず真面目過ぎるのだ。
「そう言えば未来ちゃんは今はどこに住んでいるんだい?」
その言葉にこの場は凍り付く。
未来が過去に行った事など言えるはずがない。
「え…えっと…今はアメリカに留学に行ってて…夏休みはアメリカの方が早くてこの機会を生かして友達と日本旅行へ…」
余りにも苦しすぎる言い訳を行う。
相手も不審に思ったが藪は無暗に突っつかない。
「突然の引っ越しだったからちゃんとお別れを言えなくてごめんね」
「いえ……あれは私にも非がありますから……」
洸の言葉に未来は苦しくなる。
響から昔聞いた事だが父親が職場で立場が悪くなったのはツヴァイウィングの一件が原因だからだ。
立花家が極力引っ越しを黙っていたのは下手に口外すると引っ越し先まで嫌がらせが来る可能性があったからだ。
翼も何となく事情を察したのか俯いて黙り込んでいる。
「もうほとぼりも冷めたころだろうし、未来ちゃんの親御さんにも連絡を取ろうかな」
「あ!いや大丈夫ですよ!本当に!」
洸の何気ない一言、おかしい事は言っていないのだが未来からすれば恐ろしい話だ。
今の小日向未来は失踪扱いなのだ。連絡なんぞされたら大騒ぎだ。
「そう言えば響はどうですか?引っ越ししてから楽しく過ごしていますか?」
未来は既に響と同じ部屋で過ごしているので分かっているが、自分と別れた後で親友がちゃんと明るく過ごせていたのかを知りたかった。
洸はふと考え込んでから答える。
「ああ、今は寮生活をしてるし元気だと思う…………昔はね、おじさんが家族を捨てて逃げようとしたときに必死で止めてくれたんだ。それが無かったら今楽しく過ごせてないな。あの時とことん話し合って良かったよ」
「………………………………」
彼の言葉に未来は黙り込んでしまう。
今幸せである事に引け目などを感じたわけではない。
最後の「あの時とことん話し合って良かったよ」という一言だ。これが今の未来には鋭く刺さる。未だに家族と向き合う事から逃げている自分にだ。
ふと見ると追加の食事の用意をしてくれる、響の母と祖母の2人が楽しそうに談笑しながら作業をしているのを見て羨ましいと少しだけ思ってしまう。
昔は自分も母親と一緒に夕食の用意をして、父親に褒められたことがあったなと思い出していた。