過去に戻った立花響   作:高町廻ル

46 / 106
大切な思いはその口で伝えよう

「ううぅっ……」

 

 翼は畳に敷かれた布団の上で目を覚ました。

 気が付けば部屋に夕日の赤が入り込んでいる。

 ファラにて酷くやられた後、風鳴の屋敷に運ばれその一室で寝かされていた。

 あれほどの戦いがあったのに外はセミの鳴き声以外は静かで、実は先ほどの戦いは夢でしたと言われた方が納得してしまいそうだった。

 

「そうか……私はファラと戦って……」

 

 現状を見て自分か考察できる一番高い可能性を口にする翼。

 届かなかった。

 世界を相手に歌うという夢を一時中断して、可能な限り鍛えて、シンフォギアを新装してそれでもなおファラには勝てなかった。

 彼女がそんな思考をしていると。

 

「大丈夫翼?」

 

 マリアの声が襖越しに聞こえてくる。起きてすぐに声がかけれた事を考えると、ずっと外で待っていてくれたのだろうと考える。

 

「すまない……不覚を取った……」

 

 誰が悪いわけではなく事前の準備と情報の不足が招いた敗北と任務失敗なのだが翼は謝った。

 それには今回の件の謝罪以外に何かを含んでいるように思えた。

 

「動けるなら来て欲しい、翼のパパさんが呼んでいるわ」

 

 マリアは極力平坦な声で翼にそう言う。

 

「…………分かった」

 

 静かに応答する以外なかった。

 

 

 風鳴八紘の執務室もしくは仕事部屋とも呼べる場所に通されたマリアと翼。

 彼の机には大量のファイリングされた資料が置かれていた。

 

「これは?」

「アルカノイズの攻撃をアーネンエルベに解析依頼を行いその結果をまとめたものです」

 

 マリアの問いに答える緒川。

 

「アーネンエルベ……シンフォギアの開発にかかわりの深い研究機関……」

 

 資料を手に取りながらも緒川の情報に補足を付け足す翼。

 

「報告によると分解時に起きる赤い物質はプリママテリア。万能の溶媒アルカへストによって分解還元された物質の根源要素らしい」

 

 八紘はアルカノイズの攻撃が何なのかを説明する。

 

「物質の根源?」

「錬金術は分解と解析そこからの構築によって成り立つ異端技術の理論体系とありますが…」

 

 マリアの疑問に錬金術とは何なのかという話から解説をする緒川。

 そこで生まれるのは分解した後でキャロルが何を構築するのかという問いだ。

 いまだに相手の親玉が最後に何を求めているのかそれが掴めない。

 

「翼、傷の具合はどうだ?」

 

 突如話をかける八紘。

 これには翼も一瞬だけぽかんと間抜けな顔をしてしまう。そんな気遣いらしい事などされた経験が無いのだ。

 

「はい……痛みは殺せます」

「…………そうか、ならばここを立ち。然るべき施設にてこれらの情報の解析を進めるといい。お前の守るべき要石はもう無いのだ」

 

 翼は強気に答えたが、八紘は一瞬だけ悲しそうな表情をしたのだがすぐに鉄仮面に戻ってそう答える。

 

「分かりました」

 

 静かに答える。

 しかしマリアは。

 

「それを合理的と言うのかもしれないけど傷ついた自分の娘にかける言葉にしては冷たすぎるんじゃないかしらっ!」

「いいんだマリア」

「翼っ!」

 

 マリアはもう勘弁ならんとばかりに言葉を繋ぐが翼が止める。

 当然ながら止められても、大丈夫だと言われても、彼女は納得など出来ようはずがない。

 

「いいんだ……」

 

 翼は何かを諦めている顔をしていた。

 マリアはそれを見て何も言えなくなってしまう。

 

 

 八紘の部屋を出てすぐの廊下。

 

「あれは何だっ!!!!」

 

 あの場ではあれ以上の追及こそやめたが部屋を出るとマリア火山が大噴火する。

 

「国家安全のスペシャリストかもしれないが家族とのつながりを蔑ろにしてっ!!」

「すまない……だがあれが私たちの在り方なのだ……」

 

 マリアを沈めるべく声を重ねるが。

 

「そんなの良い訳ないじゃない!あなたも未来もそればっかり!何で家族を軽んじるの!?」

「小日向がか?」

 

 マリアは怒りからつい口走る。

 翼も未来が二年前から失踪扱いでいまだに親もとに帰らない事は知っている。

 しかしマリアの怒りはそれだけではないようだ。

 

「そうよ!!あの子が拘置所でなんて言ったと思う!?」

 

 

「え……?親がいるの?」

「うん、2課の人に聞いたら今も元気で暮らしてるって」

 

 マリアは未来の親が健在である事に驚いた。

 彼女がレセプターチルドレンでない事は知っていたが、親が健在でF.I.S.に来たのは知らなかったのだ。

 あの施設に来る子供は碌な人生を歩んでおらず親の顔を知らない事すら珍しくはなかった。

 だから勝手に同じ身の上だと思っていたのだ。

 

「……でも良かったわね。このままいけば家に帰れるじゃない」

「うん?帰らないよ?」

 

 マリアが少しの嫉妬を含みながらも未来に祝福の言葉を送る。

 自分の感情に流されずに先に相手を一番に考えられる他人思いの女性なのだ。それにマリアは勘違いをしていた、シンフォギアの適性が認められたから拉致されてここに来たのだと。

 しかし、未来はそんな言葉を即座に否定する。これには黙って遠目から話を聞いていた切歌と調も目を見開く。

 少しだけマリアの周りの気温が下がる。

 

「どうしてよ?」

「家出をした理由の1つが家族と一緒に暮らすのが嫌になった事だから」

 

 マリアの圧にも何のその未来はあっさりと言った。

 未来の両親は気を遣った結果とはいえ響と付き合わないように言ったのだ。それからというもの親への拒否感が強くなってしまった。

 それこそ日本から出てF.I.S.に身を寄せるほどにだ。

 

「何でよ!?親がいるなら一緒に暮らせばいいじゃない!!それが幸せじゃないの!?」

 

 マリアは大声で怒鳴ってしまう。

 ここに来て相手ではなく自分の個人的な嫉妬を優先して喋ってしまったのだ。

 

「あのね?」

 

 未来はもう感情が存在しないのではと勘違いしそうな声色で諭すように話し始める。

 前にもフロンティアで響に対してそのような態度を取っていた。

 

「マリア自身が親をよく知らないとか、実際に会った事は無いけど妹のセレナさんと死別した事とかいろんな事情や身の上があるからこそ、家族のつながりの大切さを考えて私を気遣ってそういう事を言ってくれてるのは分かるよ」

 

 未来の言葉はどんどん教師じみてくる。

 暴れる生徒を諭すかのような口調。

 

「だけど世の中には親と暮らす事がイコールで幸せにはならない人や親が嫌い、で仕方ない人もいるんだよ?」

「それは…」

 

 未来は嫌いと言った時、少しだけ声が詰まったがこの場にいた人は誰もそれには気が付かなかった。

 

「ありがとう、私なんかの為にこんなに真剣に向き合ってくれて」

 

 未来は悲し気な笑顔でそう言った。

 

 

「未来は偉そうに説教したのよ!思い出すだけでもぅっ!!」

 

 先ほどの翼の一件に思い出し着火剤が加えられ怒りが再燃したらしい。

 

「…………」

 

 翼は何も言えなくなる。

 未来の今の思想と行動を作るきっかけは。元をたどれば旧二課が起こしたネフシュタンの鎧の起動実験や桜井了子の暗躍を許したことが遠因だからだ。

 彼女の考えと行動を正したい気持ちは当然ある、だって悲しすぎる生き方だと思うから。

 しかし自分の親とすらまともに向き合えない翼が、親とのありかたに対して屈折してしまっている未来を説得できるとは思えなかった。

 そもそも親が健在かつ恵まれた環境下の中、両親から十分な愛で育てられた響ですら説得出来ていないのだから。

 

「あ、ここは子供時分の私の部屋だ」

 

 翼は話題を変えるために偶々目に入った自身がここに住んでいた頃の部屋に招待する事にした。

 もう住んでいたいのは10年前なので八紘の態度を見ると家具の類は引き払われている可能性が高い。

 

「取りあえずここで落ち着こう」

 

 そう言って部屋の襖を開けると。

 

「敵襲!?また人形か!!」

 

 マリアは構えを取って最大級の警戒態勢を取る。

 

 彼女の視界に飛び込んできた部屋は荒れ果てていた。足の踏み場が無いほどに荒れている。

 服はその場に脱ぎっぱなしは当たり前、部屋にハンガーが置いてあるのにだ。日本で育っていたとは思えない。

 それに服が1つとして畳まれていない、サルの知能テスト以下の衣服保存方法だった。

 音楽が好きなくせにCDが裸で置かれている。音楽家の風上にもおけない。

 当然布団は置きっぱなし。湿っていて臭そうだ。

 先程まで強盗が入っていたと言われた方が納得できる部屋の具合。

 

 これにはマリアはこれには怒りを忘れてしまった。

 翼は奇しくも話題を変える事に成功してしまったのだ。

 

「あ、その私の不徳だ…」

 

 翼は恥ずかしそうに頬を赤らめながら言う。

 この汚い部屋を見て昔父に流行歌を聞かせた思い出などを想起していた。

 

「…………それにしてもこの部屋は……」

 

 マリアは汚い部屋だと思っているが何か違和感があった。

 汚いのに汚くない。汚いのだがそれだけではない。

 

「昔からなの?」

「私が片付けられない女って事!?」

 

 マリアの質問に恥ずかしそうに返す翼。

 一応この状況に対して最低限の羞恥は持っているらしい。

 

「そうじゃないパパさんの事」

 

 マリアは相手の勘違いを正してキチンと目的語を補足する。

 翼は悲しそうに自分を取り巻く環境を語り始める。

 

 

 風鳴家現当主の風鳴訃堂は老齢の域に差し掛かると自身の跡継ぎを考えるようになる。

 跡継ぎの候補は二人、嫡男である長男の八紘とその弟の弦十郎の二人。

 しかし彼が最有力候補として指名したのはその二人ではなく生まれたばかりの翼だった。

 選ばれたその理由は最初翼にも不明だった。

 しかし、それなりに生きると分かる事や察してくる事が増えてくる。

 翼には父、風鳴八紘の血が流れていない事。そう濃い風鳴の血を残すために、八紘の妻に訃堂が孕ませたのが翼なのだ。

 翼はそれでも精神的に父として慕っている風鳴八紘の気を少しでも引くために、自分を剣として鍛え上げて研鑽して来たのだ。

 それが今日まで続く風鳴翼の一部だ。

 

「…………風鳴訃堂は人の道を外れたか…!」

 

 マリアは絶句の後、怒りをにじませた。

 そんな事を語っていると突如外から爆発音がする。

 

『!!』

 

 二人は素早く外に出ると、家の屋根上にファラがいたのだ。それを認めると、

 

「要石を破壊した今貴様に何の目的がある!!」

 

 翼は真っ先に感じた疑問を問うた。

 要石を破壊してレイラインを開放、何かしらの方法でチフォ―ジュシャトーを使い世界解剖に利用するのは何となくだが分かっている。

 しかし、再度この場所を襲撃する理由が分からない。

 翼やマリアをただ倒したい訳でない、それは間違いない。倒そうと思えば昼間に倒せたのに見逃したのだから。

 

「私は歌を聞きたいだけ」

 

 敵は淡々と答える。

 二人は不信感や何か言い知れない不安を感じながらも胸の歌を唱える。

 

『Imyuteus amenohabakiri tron』

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 

 素早くギアをまとい臨戦態勢を取る。

 二人は同時屋根上にいる敵に攻撃を仕掛ける。マリアは短剣を投げ飛ばして、翼は上段斬りで直接攻撃。

 それらをファラはソードブレイカーがあるのにわざわざジャンプして避けた。恐らく持っている剣かそれにまとわせた風にのみ哲学は適応されると考えられる。

 だから手数の多い攻撃は避けたのだ。だからと言ってファラが弱くなったわけではないが。

 

 相手も回避専念ではなくこっちの番だと剣に風をまとわせて風攻撃を飛ばしてくる。二人はそれを瞬時に避ける。

 マリアは地面に着地していまだに自由落下中の相手に短剣を蛇のように伸ばして突き立てようとするが、ソードブレイカーをまとわせた風で迎撃、剣は破壊されてそれどころかマリアを吹き飛ばしてしまう。

 

「うわああっ!」

 

 マリアは攻撃をもろに食らってしまい悲鳴を上げて吹き飛ばされてしまう。

 

「マリア!」

 

 翼はやられた仲間を気遣うがすぐさま思考を切り替える。敵は戦意満々でまだ倒せていないのだから。

 翼は前と同じく刀に大き目の刃を被せて直撃を狙う。

 

「また芸の無い……」

「この身は剣!切り開くまで!」

 

 ファラの指摘にも翼は奮い立たせるために強気に返す。

 そのままダッシュで切り伏せられる距離まで縮めようとする。

 

「その身が剣なら哲学が凌辱しましょう」

 

 そう言ってマリアを吹き飛ばした時のように剣にまとわせた風を放つ。

 翼はそれに直撃してしまう。哲学は物質的な枠組みに留まらない。自分自身の信念や思い込みにも適応してしまう。

 自分自身を剣だと定めている翼にはソードブレイカーを体に受けることはあってはいけない。

 分かっている事だがしかし、先ほどまでマリアに自分が戦う理由の一つを語ったためにそれを真正面から受けてしまう。

 

「砕かれてしまう……剣と鍛えたこの身も……」

 

 呻きながら翼は膝を着く。

 シンフォギアや生身などの物理的なダメージに留まらず、心の中にある信念とも言うべき部分まで弱ってしまう。

 

「夢に破れ……それでもすがった誇りで戦ってはみたものの……」

 

 まだ足りないのか?届かないのか?どこまで人の心を捨てればいいのか?この十年以上の歳月は無駄なのか?それは翼には分からなかった、ただ足りない、まだ全然足りないのだ。

 

「どこまで私は無力…」

「翼!!」

 

 翼の心が虚脱感という泥沼にハマろうとするその瞬間、父の声が意識を引っ張り上げる。

 

「…………お父様……?」

 

 彼女は困惑した。

 初めてだったのだ、ここまで強く喝を入れるような言葉は。

 

「歌え翼!」

「でも私では風鳴の道具にも剣にも……」

 

 翼は最初にシンフォギアを使うために歌って戦えと言われたと思ったのだ。

 しかしだ、

 

「ならなくていい!夢を見続ける事を恐れるなっ」

「わ、たしのゆめ……?」

 

 違ったのだ。

 風鳴の道具や剣ではないそんなものに囚われず、己の信じ求める夢を追い求めて真っ直ぐ飛び立てと、そう言ったのだ。

 彼女は訳が分からなかった。そんな事を言われた事など無かったのだから。

記憶の中にある父は常に、自分を風鳴の穢れた道具や鬼子としてしか接しなかったのだから。

 

「そうだ!翼の部屋は十年間そのまんまなんかじゃない、散らかっていても塵一つなかった!」

 

 マリアが部屋に入った時に感じた違和感はそれだ。

 散らかっているが置いてあるものは経年劣化していなかった、埃は被っていなかった。あの部屋はちゃんと定期的な手入れがなされていた。

 

「お前との思い出を無くさないよう、そのままに保たれていたのがあの部屋だ!娘を思わない父がする事ではない!いい加減に気づけバカ娘!!」

 

 余りにも不器用な愛情表現。

 父と娘としての直接的な血のつながりが無くても不器用な所はそっくりだ。きっと二人は精神的に親子なのだ。

 

「まさかお父様は…………」

 

 翼から涙がこぼれる。

 今分かったのだ、長年の父の態度の正体が。

 翼が夢を叶えるには風鳴からでて世界に飛び出さなくてはいけない。だから冷たく接して風鳴から遠ざけようとしてきた。

 彼はとことん不器用な男。

 

「それがお父様望みなら……私はもう一度っ!…夢を見てもいいのですか…!?」

 

 泣きながらの言葉に父は静かにうなずいた。

 それだけでソードブレイカーで折れかけた心が直っていく。まだ翼は戦える。

 

「イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

 剣にフォニックゲイン由来のエネルギーをまとわせながら斬りかかりに行く。

 しかし、剣に由来する攻撃が全てかわすか防がれてしまう。近づけば直接受け止められ、面を覆った範囲攻撃は風で吹き飛ばされる。

 

「く……」

「いくら威力が増そうともそれが剣であれば」

 

 イグナイト形態で威力を上げてもその本質が剣である限りソードブレイカーの効果範囲内になってしまう。

 その時ふと脳裏に浮かぶのは、

 

『夢を見続ける事を恐れるなっ』

 

 父の言葉だ。翼は改めて覚悟を決める。自分が何を目指すのか何になるのか。

 ファラもその覚悟を決めた目を見て、これが最後と察し剣の二振り目を生み出す。そして真正面から討ち取ろうとする。

 

「剣にあらず!」

 

 翼はそう宣言して、脚装に刃を生み出し手を地面についてコマのように回転しながら受ける。

 二人の剣が接触して、ファラの剣が逆に砕けた。

 

「なっ……」

 

 相手が驚いて距離を取る。

 哲学兵装が真正面から何の工夫も無く砕かれた。

 

「あり得ない……哲学の牙が何故っ……」

 

 相手には狼狽しかない。

 哲学が負けるなど常識が砕け散るようなもの。リンゴが上に飛んでいく。炎が凍る。

 

「貴様はこれを剣と呼ぶのか?」

 

 翼の両足と両手の四本の剣は炎をまとっていた。

 不死鳥のように何度折られようとも再生するように燃え盛る翼だった。

 

「これは夢に向かって羽ばたく翼!」

 

 そう言って炎をまとったままファラに突っ込んでいく。

 相手も剣を盾にして受けようとするが、そのまま剣ごと胴体を一刀両断される。

 

「…………」

 

 ただ切られた直後、相手は笑っていたのだ。

 

 

 戦いは終わった。

 翼は新たに夢に向かう術を手に入れた。

 

「な……」

「これは先ほどの」

 

 翼とマリアは緒川が持ってきたファラの上半身を見て驚いていた。

 

「ええ……翼さんが退けたオートスコアラーの残骸です」

 

 緒川は簡潔に答える。

 

「この状態で稼働するの?」

 

 マリアは引いていた。

 すると、ファラの目が動いて装者を見据える。

 

「いつか…しょぼいだなんて…言って…ごめんなさい…剣ちゃんの歌……ほんっとうに素晴らしかった……」

「私の歌……?」

 

 いきなり殊勝な態度を取り始めた事に全員が困惑する。

 いまだにわからないのだ、要石を破壊したのに戦いを挑んだ理由が、ただ不気味だったもしかしたらとんでもない間違いを犯してしまったのではないのかと。

 

「あっはははっはははっ!!!!」

 

 突如狂ったように笑いだす。

 そこにいた皆が何が面白いのかが分かりかねた。

 

「まるで体がバッサリ真っ二つになるような呪いの旋律だったわ!!!!」

 

 この状況でジョークを言っても誰も笑いはしない。

 ただひたすら不快で不気味だった。一体何をしようとしているのかがやはり測りかねる。

 

「呪われた旋律……以前にもキャロルが言っていたな……いやそれも気になるが立花を返してもらおうか…どこにいる?」

 

 色々聞きたいことがあった、だから翼は質問をした。

 普通相手が何でもかんでも真実を優しく答えてくれるなどあり得ないのだ。

 しかし何故だろうか、翼は今質問すれば目の前にいる敵は答えてくれるような気がしていた。

 翼がこの感覚を受けるのは初めてリディアン跡地で小日向未来を対峙した時のようだった。

 

「立花響……?彼女ならチフォ―ジュシャトー内部に監禁拘束されてるわぁ……」

 

 ファラはあっさりとゲロる。

 嘘はついてないとこの場にいる全員が察した。

 

「私からも聞かせてもらうわ、なぜあなた達は私達を殺さずに何度も見逃すの?何が目的なの?その呪いの旋律で何をさせたかったの?」

 

 マリアの質問は恐らくオートスコアラーを知る人物全員が持つ疑問だ。

 

「知らず毒は仕込まれて知る頃には手の施しようのない確実な死をもたらしますわ…………」

 

 ファラが意味深なことを口走りだす。

 緒川を含めた三人はマリアの質問とファラの答えをどう結びつけたらいいのか分からなかった。

 そんな考えを察したのか敵はさらに言葉を重ねる。

 

「マスターが世界を分解するためにどうしても必要なものがいくつかありましたの…その一つが呪われた魔剣が奏でる旋律。それを装者に歌わせ体に刻んで収集する事がオートスコアラーの製造目的」

 

 すべての点がつながり線になった。

 

「ではイグナイトモジュールは!」

「バカな!エルフナインを疑えるものか!」

 

 短い期間でもエルフナインと接して理解している。

 彼女はだまして自分の利益を得ようとする人間ではないと。

 だとすると考えられるのはキャロルにダインスレイフを使う様に誘導されていた可能性だ。

 

 ファラは自身の役割は終わりだと自爆した。

 二人は間一髪で緒川が爆風を防いだことで負傷せずに済んだ。

 

「そうか呪われた旋律を手に入れれば装者を生かす道理が無いというわけね!だからこちらの気を引くため色々と話したわけね!」

 

 マリアは見事に引っかかってしまい苛立ちを隠せない。

 

「あ、緒川さん!イグナイトモジュールを使わないように連絡を!」

「ダメですこの粉塵が!」

 

 翼はすぐさまお願いをするがそれも出来ない。

 爆発時に撒き散らされた銀の粉じんは恐らくチャフのような役割を持っている。

 

 最初から最後まで用意周到な計画を前に手も足も出なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。