過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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出来てないじゃない

「そうか分かった、翼を頼む」

 

 弦十郎は要石守護に失敗して意気消沈するが、いつまでも気落ちしていられない。

 今現在モニターにはセキュリティと隔壁を突破して移動するキャロルとレイアが映っているのだから。

 

「閻魔様に土下座して甦ったのかよっ!」

 

 クリスは苦々しい表情で言う。

 一応エルフナインに復活の可能性は示唆されていたがあの時物言わぬ存在になった相手が生きていると気味が悪い。

 

「奴らの策に乗るのは小癪だが…見過ごすわけにもいくまい、クリス君は調君と切歌君を連れて行ってくれ」

「おうよっ!」

 

 弦十郎の指示に待ってましたと答えるクリス。

 

「すみません、私も行きたいんですけど……」

 

 未来がおずおずと挙手をする。

 

「いや、ダメに決まってんだろ!」

 

 弦十郎に対しての問いかけだが、答えたのはクリスだった。

 

「ダメだ」

 

 勿論弦十郎も同じ答えを発する。

 組織の長として明らかに敵がいると分かっている場所に戦闘能力のほとんどを削がれている未来を送るわけにはいかない。

 

「そこを何とかお願いします。勿論戦闘になったら逃げます。それに一人くらいは聖遺物に精通している人がいた方が良いと思いますし。実際にキャロルと会って話してみたいんです」

 

 未来は真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「…………本当は認められないんだが……どうしたものか……」

 

 弦十郎は唸る。

 未来が興味本位で行きたいと思っているわけではない、何か考えがあっての提案だと真剣な表情と眼差しで察したのだ。

 ある程度荒事に慣れているとはいえアルカノイズに囲まれたら彼女はひとたまりもない。

 

「私たちが守るデス!」

「危なくなったら抱えて逃げる…」

 

 切歌と調がそれを察して援護するように言う。

 

「…………よしただし敵前に出ようとか考えないように!いいな!」

 

 弦十郎も折れた。

 もしかしたら何かを変えてくれるかもしれないと考えたのかもしれない。

 

 

 四人は小型潜水艦に乗って深淵の竜宮に到着していた。

 

『ここが深淵の竜宮?』

『だだっ広いデス!』

『かくれんぼ出来そう』

『いや遠足に来たんじゃねえよ!?早くいくぞ!!』

 

 調、切歌、未来の率直な感想に突っ込むクリス。

 気持ち最終決戦で乗り込んだのに初っ端からこけ過ぎた。

 そんな会話を聞きながら本部では

 

「施設構造データ取得しました」

「侵入者の捜索急げ!」

 

 オペレーターの報告に指示を出す弦十郎。

 

「キャロルの目的は世界の破壊、ここに収められた聖遺物に何か目的に使えるものがあるはずです」

 

 エルフナインの言葉に反応してモニターに竜宮内に収められた聖遺物の一覧表が提示される。

 するとエルフナインの目に気になるものが飛び込む。

 

「止めてください!これはヤントラ・サルヴァスパ!」

 

 彼女は何かとっかかりを見つけたようだ。

 

「何だそれは?」

『あらゆる機械の起動と制御を可能にする情報集積体の聖遺物です』

 

 弦十郎の疑問に答えたのはインカム越しで話を聞いていた未来だった。

 

「キャロルがこのトリガーパーツを手に入れたらチフォ―ジュシャトーが完成してしまいます!」

「ヤントラ・サルヴァスパの管理区域特定しました!」

 

 エルフナインの言葉に反応して友里がヤントラ・サルヴァスパの保管場所をマップに表示する。

 

「クリス君たちを急行させるんだ!」

 

 

 本部の監視カメラ映像にキャロルとレイアが発見され、その手にはヤントラ・サルヴァスパが。

 オペレーター陣の誘導によって装者三名はギアをまとった状態で現場に到着し対面する。

 

『既にヤントラ・サルヴァスパは取られてる!最悪破壊してもいいから躊躇わないで!どうせ怒られるのは弦十郎さんだから!!』

 

 未来は通路の曲がり角で隠れておりそこからインカム越しに話していた。

 最初はキャロルと会って話したかったのだが流石に弦十郎に止められてしまった。最後の一言は仕返しだ。

 

 初手から手加減などする気は無くガトリングガンとミサイルを容赦なくぶちかますクリス。

 一度戦っているから分かる、キャロルはこの程度では死なない事を。

 相手は案の定金色の自信を中心に円形の防御壁を作って的確に攻撃を逸らして防いで見せた。

 

「せいっ!」

 

 切歌の気合と共に鎌をレイアに向かって振り回す。

 倒さなくてもいいのだ。相手の足だけ止めてキャロルを倒すか、取られている聖遺物を破壊さえできれば目的は完了する。

 調は足止め用に召喚されたアルカノイズを鎌で蹴散らしていく。

 クリスの攻撃が防御壁で防がれて形勢が悪いと見るや小型ノコでキャロルに攻撃を加える。想像以上に鉄壁でダメージが入らないと思われたが、

 

「うぐっ!?」

 

 と突然相手が苦しみだして集中力を乱した、記憶の高速インストールによる拒絶反応。

 防御壁に綻びが発生し、僅かに崩れて手に持っていた聖遺物がノコによって切断されて使用不能になる。

 

「ッ…そう言う事か……」

 

 小さく納得した風に呟く。

 キャロルは響から記憶をコピーしたとはいえ、前の世界で響は深淵の竜宮で起きた事を直接目で見たのではない。

 事件後に周りの人からおおよその事しか聞いてなかったので、何故自分がヤントラ・サルヴァスパの確保に失敗したのか、そしてウェル博士に頼ったのか分からなかったのだ。

 そんな思考を廻らせている間にも調の攻撃は止まないので急遽防御壁を張りなおすが、前と比べて正面しか防げない。

 

「その隙は見逃さねぇっ!!」

 

 クリスはここしかないと大型のミサイルと小型のミサイルで一気に畳みかけにかかる。

 

「地味に窮地っ!」

 

 切歌の迎撃に当たっていたレイアもさすがに焦る。

 計画通りに動けばここでキャロルが死ぬことは無いと説明されても確信など持てようはずがない。

 すぐさまコインを飛ばしてミサイルを破壊するが、本命の大型ミサイルを守るように小型のそれらを配置するので本命を破壊できない。

 それが敵に直撃しようとするが突如として停止したのだ。

 

「何が……」

 

 クリスは訝しげにつぶやく。

 推進力の塊であるミサイルがその場に停止している。

 

「うひあはははっ……久方ぶりの聖遺物…」

 

 とある声が響く。

 聞き覚えのある不快感のある声。相手は左手一本でミサイルを受け止める、片腕以外は普通の人間である彼がミサイルの推進力に勝てるはずがないのだ。

 なのに楽々受け止めている。

 

「この味は甘く蕩けてて癖になるうぅっ」

 

 その人物はドクターウェル。

 装者3人は呆然と相手を見やる。

 

(ああ…なるほど…やつのミサイルでこいつのいる牢獄が空いたのか……)

 

 キャロルは起きた出来事に対して冷静に観察する。

 改めて響の記憶は本物だと末恐ろしく感じる。

 もし仮に響がこの場にいれば、ヤントラ・サルヴァスパを破壊されるに留まらずウェルを脱獄させはしなかっただろう。

 そうすれば計画は完全に破綻とは行かなくても、再度練り直しを要求され数十年単位でズレ込んだのは間違いなかった。

 

「ウェル博士……」

「おやおやぁ?未来君ではありませんかァ?なるほど調君と切歌君がだましだましの前時代のリンカー運用……まだ僕が教えた事をマスター出来てないようですねぇ……」

「…………」

 

 戦いがいったん中断したのを感じて姿を現す。

 そして未来はウェルの言い草に歯噛みする。

 確かにウェルには生物学や聖遺物について教授、そして最低限のリンカーの手ほどきを受けたのだが、余りにも難しすぎて実践で使えるレベルには全く達していないのだ。

 それを一瞬で見抜かれた、見ただけでリンカーの具合を測るのだからやはり超が付く天才だ。

 ちなみにクリスは不快そうに睨んでおり、切歌と調はうへぇ…気持ち悪いよぉ……と言った感じだ。

 

「優しさで出来たリンカーは僕の作ったものだけぇ、そんなので戦わされてるなんて不憫すぎて笑いが止まらん!!」

「って不憫の一等賞が何を言ってるデスかっ」

 

 ウェルの言い分に反射的に言い返す切歌。

 イラついても反射的に斬りかからないのは落ちついている証拠だ。

 

「私の一撃を止めてくれたな……」

 

 一人だけ冷静でない人物がいたクリスだ。

 どうやら止められて恥をかかされたと思っている。誰もそんな事など微塵も思っていないが。

 

「クリス落ち着いてっ!」

「ちょっと待つデスよ!」

「ドクターを傷つけるのは……」

 

 未来たち三人はクリスをなだめようとする。

 彼女はまたミサイルをばら撒いたらイレギュラーが発生する可能性を危惧して止めたのだが。

 

「何言ってやがる!」

「だって……ドクターを傷つけたら……リンカーを作れるのは……」

 

 クリスの怒りにしり込みながらも答える切歌。

 フィーネがいない今リンカーにこの世で一番精通しているのは彼しかいない。仮に死んだらもうその技術力は永遠に失われてしまうのだ。

 

「そうとも!僕を傷つけたらリンカーは永遠に失われてしまうぞぉ!」

 

 優位に立って偉そうにするウェル。

 挑発して相手が逆上したらと考えないあたりが彼らしかった。

 

「…………ちっ」

 

 キャロルは不愉快だが、ヤントラ・サルヴァスパが失われた以上はこの男を利用しなければ計画が遂行できないためアルカノイズを召喚する。

 

「二人が戦えなくともあたしはぁ!!」

「落ち着てって!!」

 

 クリスは激昂してガトリングガンをばら撃ちして目の前の敵たちを一掃し始める。

未来は静止を促すが聞く耳は無い。

 

「ひいいいいいっ!!」

「うわああっ!」

 

 ウェルはキャロルの背後に、未来は調の背後に逃げる。

 

「マスター…その男どうされますか……」

 

 ある程度事情は説明されているレイアでもウェルには困惑していた。

 聖遺物を操れる男としか事前情報を得ていないのだから。

 

「こうなったらデカいのまとめてぇっ!!」

 

 クリスは攻撃が防御壁で防がれるのに苛立ったのか大型ミサイルで倒そうとするが、それにこの場の全員が息を呑む。

 

「このおちょこちょぉい!!何のつもりか知らないが撃ったら施設も僕も海の藻屑だぞぉっ!」

 

 クリスに撃たれたのにいまだに自分が人質になりえると考えているウェル。厚かましいを超えている。

 クリスもその一言に流石に少しだけ冷静さを取り戻して怯む。

 

「レイア…この埒を開けて見せろ」

「即時遂行を」

 

 キャロルの指示に従うレイア。

 素早くクリスに向かって飛び出す。

 クリスは周りへの被害の少ないガトリングガンで迎撃に当たるが、レイアのアクロバットな動きにまだ頭に血が上っているのかついていけない。

 相手の動きは全身を使って変幻自在に飛び回っている、初めて会ったあの火災の日のように人間には不可能な関節の動きをしている。それはクリスにはわざとパフォーマンスをしているようで彼女は苛立たせられる。

 実際には卓越した技術はまるで余裕そうに振舞っているように見えるのだ、例えばストリートボーラーのように一見すれば遊んでいるように見えるだけで、実際はふざけてはいないのだが。

 更にアルカノイズを盾にしながら視覚も翻弄してかわしてくる。

 ノイズに銃を向けたら背後を取る、しかし反撃は敢えて行わない事に舐められているのかと頭に来ているクリス。

 

(後輩なんかに任せてられるか!ここは先輩の私があっ!)

 

 クリスは無様を晒している事に焦燥と煩わしさが募る。

 視野が狭窄した結果味方の位置が確認できずに。

 ガキィ!っとクリスの銃を切歌の鎌が上に弾く。もし止めなければ調に流れ弾が当たっていた。

 

「もろともに巻き込むつもりデスか?」

「あ…………」

 

 切歌のややドスの入った声。

 クリスは硬直してしまう、何かを言わなくてはいけないのだが口が動かない。いや言うべきことは分かっているのだが素直に喉から出てこない。

 

「あ、アイツらはどこに消えたっ!?」

「もうとっくに下に逃げた」

 

 未来はクリスの問いに穴の開けられた床を指さして答える。

 それには咎めるような響がある。

 

「…………ごめんなさい……もしドクターに何かあったらリンカーが作れなくなると思って……」

「でももう惑わされないデス!あたしたち三人が力を合わせれば今度こそ」

 

 調と切歌は本来なら謝って然るべきクリスの代わりに、この空気を何とかするため先んじて声をかける。

 しかし、とんと切歌を軽く突き飛ばす。

 

「後輩の力なんて当てにしない!おてて繋いで仲良しごっこじゃねぇんだ…あたし一人でやってみせる」

 

 クリスの突っぱねた態度に悲しそうな顔の2人。

 そこに、

 

「出来てないじゃない」

 

 未来の静かな声。

 

「何だと?」

「出来てないって言ったの」

 

 クリスの咎める声に平然とリピートする未来。

 切歌と調もあわあわとしている。

 

「何だと!?」

 

 彼女は痛い所を突かれて反射的に胸倉をつかんでしまう。

 お前は何も出来ないくせにと反射的に言わなかったのは不幸中の幸いだった。それを口にしたら本当に終わっていた。

 一方相手はシンフォギアをまとってかつ、頭に血が上っている相手に掴まれていたがそんな事など知った事かと一切瞳に動揺は無い。

 

「先輩は後輩がいなければ成立しない関係性。一人なんてことは絶対にありえないんだよ。前から思ってたけど先輩である事と先輩ぶるのは意味が違うよクリス」

 

 静かな声、そして空間。

 すると全員のインカムに連絡が入る。

 

『四人とも取りあえず潜水艦に戻ってくれ、そこで一時待機だ』

「ちょっと待てよオッサン!奴らを追わないと逃げられちまう!」

 

 弦十郎の指示に不満を爆発させる。

 その際に未来の服を手放す。

 

『そこにいても、穴の中へ追いかけても待ち伏せか不意打ちを食らう。ここは一時撤退して態勢を立て直す。それに錬金術を使った反応が今は出ていない。理由は分からないがまだ深淵の竜宮内部にとどまっている』

「クッソぉっ!!」

 

 相手の指示の的確さを理解したが感情が無理解を示してしまい、クリスは唸るしか出来なかった。

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