過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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骨の髄まで

『説明してください!ボクが建造に携わったチフォ―ジュシャトーはボクたちのパパの遺志を継ぐためだったはず!世界をバラバラにするだなんて聞いてません!』

 

 巨大な椅子に足を組んで頬を突いて悠然とする上位個体のキャロルはそれに答える。

 

『いかにも。チフォ―ジュシャトーは錬金術の粋を集めたワールドデストラクターにして巨大なフラスコだ』

『ボクを騙すつもりで……』

 

 肯定に対して呆然とするエルフナイン。悲し気な表情をしている。本気で裏切られたと思っているのだ。

 

『そうと知ってどうする?力のないお前がオレを止めて見せるのか?』

 

 露骨に挑発するキャロル。

 この場ではすべてが計画通りに行っていた。

 

『それでも想い出の向こうのパパが大好きなように、あなたもパパが大好きなはずです』

『お前何を…………』

 

 この回答に動揺してしまう。

 相手に記憶を複写したのはほかならぬ自分なのに。望んだはずの話の流れのはずなのに。

 

『パパはこんなこと望んでなかった!望んでない事をあなたにさせたくない!!』

 

 エルフナインの心からの叫び。

 それにキャロルは苛立ちダン!と手すりに手をかけて強引に立ち上がる。

 

『思い出を複写された廃棄躯体風情がっ…!…出来損ないの娘が語る事ではないと覚えよ……!』

 

 エルフナインの言葉に明確に苛立った。

 もしかしたら言われたくない事だったのかもしれない。

 

『…………お前をシャトー建造の任から解く……あとは好きにしろ……』

 

 

 キャロルはあの日の事を思い出しながら目を覚ました。

 起きたその場所はシャトー内部でも父と過ごした暖かい家でもなく、深淵の竜宮の内部の廊下。

 彼女はレイアに抱きかかえられていた。

 

「落ちていたのか?」

「拒絶反応です」

 

 主の問いにすぐさま答える従者。

 焦っていて自分が無茶をしている自覚がなかった。高レベルフォニックゲインとイグナイトモジュールを複数前にして興奮してしまった。

 意識がはっきりして来たのでレイアがキャロルを地面に立たせる。

キャロルは後ろにいるウェルを見やる。

 

「知っているぞドクターウェル…フロンティア事変関係者の一人…そんなお前が何故ここに?」

 

 知っているにはふたつの意味があった。

 一つは額面通りの意味。

 二つ目は響の記憶からチフォ―ジュシャトーを自動制御可能前まで動かすが最後に邪魔をして失敗に導くという事。

 何故ここにと言ったが、正確な場所は兎も角、いること自体は知っていた。

 

「我が身可愛さの連中がフロンティア事変も僕の活躍も寄ってたかって無かったことにしてくれたっ!人権も存在も失った僕は人ではなくモノ」

 

 そう言うとウェルの右腕が肥大した。

 分かりやすくモノの部分を強調するためのパフォーマンスだ。

 

「回収されたネフィリムの一部としてここに放り込まれていたのさ!」

「その左腕が……なるほどこれを…そうか…」

 

 ウェルの言葉に、これをヤントラ・サルヴァスパの代わりにしないといけないのか…と憂鬱な気持ちになる。

 イチイバルの砲撃も腕力や惰力ではなくミサイルに触れた瞬間に操作して推進力をかからないようにしたのだ。その操作精度は目を見張るものがやはりある。

 

「…………仕方ない……付いてこい」

 

 可能な限り平坦な口調で命令する。

 

「僕を外に連れ出すつもりか~い?なら騒乱の只中に案内してくれぇ」

「騒乱の只中?」

 

 意図が不明なウェルの言葉に怪訝そうに返す。

 ネフィリムの腕があるとはいえとても目の前の男が戦場において有益な活躍が出来るとは思えなかったのだ。

 

「英雄の立つところだぁ……」

 

 両手を広げてそう宣言する。

 誰にも望まれていない英雄がここにはいた。

 

「そうか、まあいい。ネフィリムの左腕、その力の詳細は追っ手をまきながら聞こう」

「脱出を急がなくてもいいのかい?」

 

 ウェルのごく当然の疑問。

 そのうちこの場所は把握されて追い詰められてしまう。ここで話を聞いている余裕など無いはずだ。しかし、

 

「奴らの動きは把握済み。それに今はここで時間稼ぎに徹しなければいけならぬ理由がある」

 

 キャロルは深淵の竜宮での任務と並行してファラの様子も確認している。

 レイアとファラがほぼ同時に破壊されなければ任務の完全成功ではないのだ。

 

 

 深淵の竜宮に侵入した際に使った潜水艦内部に帰還していた。

 

『力を使うなと言っていない!その使い方を間違えるなと言っている!』

「新しいシンフォギアは錬金術に対抗する力だ!使い時は今を置いて他にねぇっ!眠てえぞオッサン!」

 

 弦十郎とクリスの口論がヒートアップしていた。

 お互いに主張がかみ合わない。厳密にはいう事聞かないクリスに弦十郎のテンションが乗せられている。

 

『そこが深海の施設だと忘れるなと言っている!』

「クソっ!」

 

 彼の主張に悔しそうにわなわなとした後モニターの下をガンと蹴りつける。

 

「正論で超常と渡り合えるかぁっ!!」

 

 クリスは失敗を取り戻したいと躍起になって周りが見えなくなっていた。

 彼女がフィーネの傍にいたころからの悪い癖。

 切歌と調は不安そうに口論を見つめている。一方で未来は先ほどの戦闘データを部屋の端でタブレット端末にまとめている。

 

『…………念のため各ブロックの隔壁やパージスイッチの確認をお願い』

 

 友里が居心地の悪そうに言う。

 それはこちらのアドバンデージになり得る情報だ。

 するとパッと見ただけでも千個は印があった。

 実際はある程度アルゴリズムがあるので十パターンも無いのだが、そんな事は一瞬で判断は出来ない。

 

「こ、こんないっぺんに覚えられないデスよぅ…」

「じゃあ切ちゃん覚えるのは半分個にしよう」

 

 切歌の泣き言に提案をする調。

 言われたらパァっと明るくなる。

 

『セキュリティシステムに侵入者の痕跡を発見!』

「それを待っていた!!」

 

 クリスの顔に改めて気合が入る。

 

 

 三人は本部からのオペレートのもとキャロルの先回りをするため走っていた。

 これから戦闘はほぼ確実なため、本人も了承して未来は置いて行った。

 しかしだ、

 

『どこまで行けばいいんデスか!?』

『もういい加減追いついてもいいはず……』

 

 二人が泣き言を口にする。

 かなりの距離を走ったためいくら日常的に鍛えているとはいえ体も心もバテてくる。

 

『本当にこの道で間違いないんだろうな!?』

「ああ!だが向こうも巧みに追跡をかわしている」

 

 クリスの追及にそう答えるしかない弦十郎。

 実際に相手はこちらの行動を読み切っているとしか思えない動きだった。

 

「まるでこちらの位置や選択ルートを知ってるみたいに……」

「まさかこちらのハッキングを…?」

 

 友里と藤尭が呟く。

 それは疑問として発したが途中から確信に変わっている。

 

「知らず毒が仕込まれていた……?」

 

 弦十郎は信じられないと言った感じで言う。

 

 これまでの追跡をかわす現状と聖遺物の管理区域を特定するその手口。

 そしてブリッジ内部で一番怪しいのは。

 

「ち、違います!ボクじゃありません!」

 

 それを察したのかエルフナインの必死な主張、とてもじゃないがこれは演技には見えない。

 

『いいやお前だよエルフナイン』

 

 無情な通告。

 その声が聞こえると、彼女の傍にキャロルの投影が現れる。

 エルフナインの感覚器官を一方的にジャックされていた。それに気が付いてエルフナインは両手で目をふさいだ、もうそれをしても手遅れだが。

 今彼女の心の内は絶望しかないだろう。

 自分の正しいと思った心の道に沿って行動した結果、すべてをキャロルに余すことなく骨の髄までしゃぶられた。

 こうしてネタバラシされたという事はもう用済みという事。

 

「お願いです!ボクを拘束してください!誰も接触できないよう独房にでも閉じ込めてっ!」

 

 体を抱えて縮こまる。

 もう消えてしまいたいと体全体を使って表現している。

 

「……いえ、キャロルの企みを知らしめるというボクの目的は既に果たされています」

 

 俯いて淡々と話す。

 その姿は痛々しすぎた。そして顔を上げて、

 

「だからいっそっ!」

 

 致命的な一言いう前にそんな事は言わせないと弦十郎が彼女の頭に手を置く。

 

「ならよかったエルフナインちゃんが悪い子じゃなくて」

「敵に利用されただけだもんな」

 

 友里と藤尭があっけからんと言う。

 

「君の目的はキャロルのたくらみを止める事。そいつを最後まで見届ける事。だからここにいろ」

 

 弦十郎が決定的な一言を言う。エルフナインを咎めるなどあり得ない。

 黙ってキャロルは聞いていた。

 

『やはりお前たちは……記憶の通りの阿呆どもだ……』

 

 そう言い残してキャロルの幻影は消えた。

 

 

「使われるだけの分際で…………」

 

 キャロルの相貌には苛立ち。

 すると複数人の足音が聞こえる。装者三名に追いつかれた、厳密には敢えて姿を晒している。

 

「ここまでよ…キャロル、ドクター!」

「さっきみたいには行くもんかデス!」

 

 調と切歌も覚悟を決めてここに来ている。

 

「…………だがシャトー完成のための最後のパーツは揃っている」

 

 キャロルはそう言うと、アルカノイズを召喚する。

 

「子供に好かれる英雄も悪くないけど、あいにく僕はけつかっティンなんでねっ!」

「誰がお前なんかデス!」

 

 ウェルの挑発に苛立ったように返す。

 三人がギアをまとう。そしてノイズ達に向かって突貫をしていく。クリスはノイズよりもレイアに意識を割いている。

 レイアはこれまで投擲武器として使っていたコインを寄せて集めてトンファーにした。クリスが遠距離大火力を使えないのを察して近接で攻める算段だ。

 クリスもアルカタを使えなくは無いがそれは相手との間合いをコントロールして懐に飛び込ませない事が前提だ。

 拳銃を発砲しようとするとトンファーで銃口を逸らされる。

 相手の方が技術でも長い手足という体格的要素でも近接格闘では格上。

 そう考えて後ろに下がったのが仇になった、それを相手は待っていた。地面から結晶を生み出して突き上げ攻撃をもろに受けてしまう。

 

「うぐはあっ!?」

 

 クリスは痛みに怯んでしまう。

 

「あとは私と間もなく到着する妹で対処します」

 

 敵を怯ませたその隙にレイアが主にそう報告する。

 

「オートスコアラーの務め……」

「派手に果たして見せましょう」

 

 これがこの主従の最後の言葉になった。

 永遠の別れなのに悲し気な感じはしなかった。翼にレイアは笑みすら浮かべていた。もう既にファラがやられた事には気が付いている。

 キャロルは地面に転移結晶を投げつけて離脱を図る。

 

「ばっはは~い!」

 

 ウェルの勝ち誇った態度がクリスを苛立たせる。

 

「待ちやがれ!」

 

 そう言って周りも見ずに一直線に突貫してしまう。

 大火力が使えないため足で追いつこうとするほかない。しかし、クリスの視界に黄色が見えたと思ったらレイアに殴り飛ばされてしまう。

 

「あ、がっ!」

 

 痛みに低く唸る。

 キャロルとクリスまでの一直線上は警戒して当たり前。

 

「不味いデス!大火力が使えないからって飛び出すのは!」

「ダメ…流れがよどむ……」

 

 先ほどからクリスは周りを考えずに一人で突っ走っている。

 そのせいで他の二人もうまく立ち回れていない。下手に動くとフレンドリイファイアになってしまう。

 相手がクリスを気遣うそんな隙を見逃すレイアではない。すぐさま二人に向かってコインを大量にばらまき。地面に倒れさせる。

 

「うっ…」

 

 クリスが殴られて怯んだ状態から立ち上がるとそこには地面に倒れ伏した二人が。

この光景は間違いなく彼女の至らなさが起こした結果だ。

 

「あ…………」

 

 その光景を見て彼女は思い出した。

 世界は残酷でクリスの周りにいる人達はみな傷つき死んでいった。

 

「独りぼっちが…仲間とか…友達とか…先輩とか後輩とか求めちゃいけないんだ…出ないと残酷な世界がみんなを殺しちまってっ!本当の一人ぼっちになってしまう!」

 

 一人が嫌なのに人が離れて行くのが嫌だから一人になる。

 全てがおかしくて全てが矛盾している。

 もう既にそこには強気な先輩風を吹かせようとする雪音クリスはいない。

 

「世界はこんなに残酷なのにパパとママは歌で救おうとしたんだ……」

 

 そしてシンプルな疑問に到達する。

 

「いいから歌え!」

 

 レイアが痺れを切らして攻撃にかかる。

 力の抜けているクリスはそれに反応するのが遅れる。すると調と切歌のアームドギアがトンファーを辛うじて止める。

 

「一人じゃないデスっ」

「未熟者だけど一人ぼっちにしない事くらいはっ」

 

 二人がギリギリ持ちこたえながらそう言う。

 レイアも黙っているわけも無く、再度力を入れると二人が吹き飛ばされ、クリスの前に倒れる。

 

「二人とも……」

「後輩を求めちゃいけないとか言われたらちょっとショックデスよ……」

「私たちは先輩が先輩でいてくれることで頼りにしてるのにっ…!」

 

 二人が心を伝えようとしている。

 

 

『先輩は後輩がいなければ成立しない関係性。一人なんてことは絶対にありえないんだよ。前から思ってたけど先輩である事と先輩ぶるのは意味が違うよクリス』

 

 

「あ……そうか……」

 

 そこでクリスは気が付いた。

 今まで二人の意見や存在など蔑ろにして、自分の力で物事を解決して上なんだと誇示する事が先輩だと思っていた。

 しかし、憧れの一人である翼はクリスに対してそんな行動は取らなかった。あくまで対等でそれでいて優しく同じ目線で諭してくれたはずだ。

 ソロモンの杖を奪還する時も自分を信じて一芝居打ってくれた。

 イグナイトモジュールを起動する際も自分の心の内や考えを真っ直ぐ伝えてくれた。

 

『勿体ないぞ別ればかりを気にして新しい出会いから目を背けるのは』

 

「あたしみたいなのが先輩やれるとするならば……お前たちみたいな後輩がいてくれるからなんだな!」

 

 ここにいるのは自分一人ではないのだ、クリスはやっとそれに気が付けた。

 それは気が付くのには遅いのかもしれない、でもやり直すのに遅いという事は無い、今からでも改めればいい。

 

「もう怖くない…」

 

 ギアペンダントに手をかける。

 

「イグナイトモジュール、抜剣!」

 

 もしクリスをギリギリ先輩にしてくれるのならそれに応えなければ嘘だった。

 クリスはイグナイトを発動させると片手弓を両手に装備して攻撃を加える、相手は簡単にかわしてくれるが焦らない。

 トンファーが当たる距離まで詰められると素早く武器を拳銃に変更。今度は懐に入られないように牽制しながらいなしていく。

 

(失う事の怖さから…せっかく手に入れた強さも暖かさも全部…手放そうとした私を止めてくれたのは……)

 

 一瞬だけクリスは視線を切歌と調に向ける。

 この一瞬のコンタクトで何を伝えたいかが通った。

 相手が思いっきり武器を振り下ろそうとするが、そこでライフルを生み出す。それの銃身を相手に直接叩き込む。

 

「ガッ!」

 

 一瞬のうめき声とともにレイアが後方に吹き飛ばされる。

 

(先輩と後輩…それは世界がくれたもの世界は大切なものを奪うけど大切なものをくれたりもする。そうか…パパとママは少しでももらえるものを多くするため…歌で平和を……)

 

 イグナイト状態での大型ミサイル二丁をクリスは精製。

 それはこの施設で使えば密閉されているため撃てば外壁を壊して、さらに自分たちももろに爆風を食らってしまう。しかしクリスは躊躇なく発射した。

 レイアは一発目のミサイルはトンファーで破壊したが爆風に巻き込まれて身動きが取れなくなる。

 

「まさかもろとも巻き込むつもりで!」

 

 レイアの叫びと共にクリスがミサイルに乗って飛び込んでくる。

 それは予想外の挙動、オートスコアラーは自らを破壊させるために行動を取っていたが人であるクリス達は死ぬために動くはずがないのだ。だからこそ思考に空白が出来てしまった。

 自分で直接操作して確実に当てるつもりだ。しかし、当たるギリギリのタイミングで切歌のアンカーがクリスに巻き付いて咄嗟に元の場所まで引き戻す。

 レイアに直撃したミサイルが起爆して大爆発、だがその衝撃波はこの逃げ場の無いこの一本道では致命的。

 

「スイッチの位置は覚えてる!」

 

 だが調は小型ノコであらかじめ友里に教えてもらった隔壁のロックを行えるスイッチを押す、するとサイレンと共に隔壁が上がってくる。ギリギリで道を閉じて爆風を防いだ。

 最初からクリスは視野を広げてレイアに隔壁を跨がせるように誘導していた。頭に血が上っていたら、自分一人でと突っ走っていたら出来なかった。

 

「やったデス!」

「即興のコンビネーションで……全くもって無茶苦茶……」

「そも無茶は…頼もしい後輩がいてくれてこそだ」

 

 クリスはそう言って2人の手を取る。

 

「ありがとな」

 

 そこには何一つとして気を張っていないただの雪音クリスがいた。

 しかしそこでいきなり地面が揺れた。先ほどの攻撃で海面を阻む壁に亀裂が入ったのだ。このままとどまっていれば空気が無くなって海水に押しつぶされる。

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