クリスは圧壊する建物と浸水する海水から調と切歌の二人を抱えながら潜水艦のある場所に向かって走っていた。
「ダメ……間に合わない……」
「さっきの連携は無駄だったデスか…?」
「まだだっ!諦めるな!」
必死の走りで何とか潜水艦までたどり着く。
「はやくーっ!!」
潜水艦の出入り口で未来が必死に手を振っている。
◎
「深淵の竜宮の被害拡大!クリスちゃんの位置付近より圧壊しつつあります!」
友里の現状報告。
先ほどクリスのイグナイト発動でのミサイル攻撃はやはり深淵の竜宮の外壁には堪えたようだ。
「この海域に急速接近する巨大な物体を確認!……これはっ…」
藤尭の切羽詰まった声。
すぐにその物体の映像がモニターに流れる。
「いつかの人型兵器か!」
それはかつてミカが現れた時に邪魔をしてきたあの大型の人型兵器だ。
ここでS.O.N.G.を壊滅させようというはらだろう。
「装者達の脱出状況は!?」
弦十郎はすぐさま避難のために確認をする。
もし人型兵器に海中で襲われたらひとたまりもない。
「潜水艦着艦しました!」
「緊急浮上!振り切るんだ!ブリッジに全員を集めて衝撃に備えろ!!」
そうして海面に浮上したが、その時には大型のオートスコアラーは手を振り下ろして潜水艇を破壊する。
しかし直撃の寸前にブリッジの部分だけを切り離して緊急離脱を行い、死者は出さずには済んだ。
全員が衝撃に備えて伏せるか物に捕まっていたが、友里の下に壊れた天井の一部が落ちてきた。
それを見たエルフナインは誰に言われるでもなく飛び込んでいた。
「危ない!!」
そして彼女は。
◎
破壊された潜水艇のミサイル発射装置からクリスを内蔵したミサイルが飛び出した。
それがパージするとクリスが飛び出して大型弓を構える。敵はのろまで巨体、外す道理が無かった。
「うりゃあああっ!」
咆哮と共に矢が回転しながらその貫通力を増して風穴を開けて爆散した。
すると辺り一帯に銀色のチャフが撒き散らされていた。
彼女は緊急離脱したブリッジの上に立って呟く。
「本部が……連中は何もかもぶっ飛ばすつもりで」
◎
エルフナインは友里の上に倒れ掛かっていた。
友里は違和感を覚える。
「エルフナインちゃん!」
「ボクは誰に操られたんじゃなく……」
友里の呼ぶ声に掠れるような声を出したのち、ぐったりと倒れこむ。
そこに駆け付けたのは切歌、調、未来の帰還してきた三名。
「大丈夫デスか!?」
「早く治療しないと…!」
切歌と調は血でべったりとしている相手の腹部を見て小さな悲鳴とも取れる声を出す。
「とにかく布で押さえないと!」
未来は慌ててポケットに入れていたハンカチで強く傷口に押し付ける。
「聞いてください、次にキャロルが現れる可能性が高い場所は東京都庁付近の可能性が高いです」
「それは本当か未来君!」
「フォトスフィアを見たら一番世界と繋がっている場所がその地点です。それに壊された祠や神社も全部レイラインの上にありますから、力が流れて溢れやすい土地なんだと思います」
未来が応急処置をしながらも答える。
それに当然反応する弦十郎。
「レイラインが力の流れやすい道なら分解の力も流しやすいはずです、とにかく行くところがないなら東京湾が良いと思います」
「よし翼達をすぐさま向かわせよう」
弦十郎は指示を出すが。
「現在通信機が機能しません!」
藤尭が悲痛そうな声で言う。
この可能性も入れて手を打っていた。
◎
東京都庁付近は騒然としてた。
突然巨大な建造物が空間にひびを入れて出てきたのだから。
響は椅子に拘束されており、ウェルがそれを面白そうにジロジロと見ていても何も反撃が出来ない。
「おやおやぁ…?これはルナアタックの英雄響君じゃありませんかァ?」
「…………ウェル博士」
ウェルのふざけた呼びかけに苦々しく答える響。
拘束されていなければ殴りかかりかねなかった。
「君も僕がこれから英雄になる瞬間の目撃者って事かいぃ?」
「逃げた方がいいですよ、じゃないとあなたはこ、うぐっ!?」
ウェルがこれから死ぬことを知っている事、そしてチフォ―ジュシャトー起動を阻止するために声を出そうとするが口にすることが出来ない。
彼はそんな響を不審そうに見ている。
「こんなことをしても…英雄にはなれない。誰にも望まれていない、求められないあなたには」
「うっせぇこのアマぁ!」
ウェルは響の物言いに苛立ったのか頬を叩いてくる。
響は痛かったが耐えた、今多くの人が受けている痛みや恐怖に比べたらなんてことはない。
「そいつは放っておいてさっさと作業を進めるぞ」
キャロルはウェルを憐れんだ口で負けたから手を出したその姿に、そしてさっさと進めたいのか相手に促す。
ウェルもその言葉を聞いて響に興味を失ったのか、キャロルの傍にあるコントロールパネルにネフィリムの左手をかける。
「ワールドデストラクターシステムをセットアップ。シャトーの全機能をオートドライブモードに固定」
ウェルは一つ一つの作業を進めて行く。
「うひひひひっ!」
突如笑い始める。
キャロルはそれを不審そうに見ている。
「どうだ僕の左腕は!?トリガーパーツなど必要としない!僕と繋がった聖遺物は全て意のままに動くのだっ!!」
笑った理由は自分への自画自賛だった。
表には出さないが、内心響もキャロルも呆れている。
「オートスコアラーによって呪われた旋律は全てそろった、これで世界はバラバラにかみ砕かれる」
「あぁん?」
キャロルが堪えきれないと言った感じでほくそ笑む。
それに対してウェルは怪訝そうな声。
事前に伝えられていたのは大きな装置を動かすだけで、具体的な用途や目的は聞いていないのだろう。
「世界をかみ砕く…?」
「父親に託された命題だ」
ウェルの問いに答えるキャロル。
彼女の脳裏には火あぶりにされる父の姿が。
「分かってるってっ!だから世界をバラバラにするのっ!解剖して分析すれば万象の全てを理解できるわっ!!」
「分かってない間違ってるよキャロルちゃん、本当は一番それを知ってるのはあなたでしょう?」
キャロルが昔のような天真爛漫な声色で話す、しかし顔は不気味なほどの笑顔で固まり、目は正気を失っているように見えた。
それに対して響は間髪入れずに否定を上から重ねる。
「何だと…?今なんて言ったのか?」
すぐさまいつものキャロルに戻る。
顔は憤怒だ。しかしそれを見ても響は一切ビビらない。
「間違ってるって言った」
「黙れ!お前に何が!!」
「自分の顔を鏡で見てみなよ、お父さんの遺言を果たして今まさに満たされようとしてる人はそんな顔はしないよ」
響の言葉にキャロルは固まった。
「どんなに他人から間違ってるって言われても、信じたものなら胸張って心の底からの満面の笑みで向き合いなよ。それが今から自分の身勝手な願いの為に多くの人を手にかける人の責務だよ…」
響は悲しそうな声で言った。
それは自分自身にも刺さる言葉だからだ。
自分の経験と知識から、自分勝手な自己満足しかない行動で小日向未来の人生をめちゃくちゃにしてしまった己への。
例え未来が自分で選んだと言ったとしても響は納得できるはずがなかった。
キャロルは歯噛みし、腕を震わせてじっと耐えている。
もしここで実力行使によって響を黙らせたらそれは相手が正しいと認める事になるからだ。
「ちょいちょいっ!勝手に2人の世界に入らないでくださいよ!僕も聞きたいことがあるんですから」
ウェルは自分がハブられた事が気に入らないのか割り込んできた。
「何だ?」
「レディは世界を、万象の全てを理解すると言った。その英知によって何を求めるぅ?」
キャロルの不機嫌そうな反応にも気にすることなくウェルは問いかける。
「何もしない」
簡潔に答えた。
「あぁん?」
ウェルはその答えに何を言ってんだとかがんで同じ目線でもう一度話すように促す。
キャロルにはやはり笑顔は無い。
「父親に託された命題とは世界を解き明かす事……それ以上も以下も無い……」
キャロルに高揚など一切なく静かに言った。
「おぉう……レディに夢は無いのかぁ?」
キャロルの返答に呆れたと言った感じで左手をおでこに当てて分かりやすくアピールをする。
本当に呆れているのだろう、ウェルは自分の欲望に忠実でそのためなら悪い意味ではあるが真っ直ぐだからだ。
力を手にしながら何もしないなどあり得ない選択肢だろう。
すると両手をバッと上げて宣言する。
「英雄とは飽くなき夢を見、誰かに夢を見せるもの!託されたものなんかで満足したらそこのてっぺんもたかが知れるぅっ!」
それはキャロルの逆鱗に触れる一言だった。
「『なんか』と言ったか?」
(あぁ……そう言う事か……)
◎
本部は何度目かの翼へのコールをしていた。
『はい』
「翼さん聞こえますか!司令通信回復を確認」
チャフの影響下を出てやっと通信端末との連絡が可能になった。
「翼聞こえるな」
『叔父様!キャロルの目的は世界解剖のための旋律をオートスコアラーに刻ませて入手することです!それを手にしてチフォ―ジュシャトーによって奏でてエネルギーとして世界解剖を行うはずです!』
翼はファラから聞き出した情報を可能な限り手短に話す。
「ッ!そうかなるほどな……だから殺さずに何度も試すような真似を…深淵の竜宮で時間を稼ぐ真似をしたのも…」
『まさかそちらでもイグナイトモジュールを……』
弦十郎は悔しそうな声を出す。
翼もそれを察して意気消沈する。
「おい……嘘だろ……じゃああたしたちは……」
翼の端末越しに聞こえるのはクリスの声だ。
機械越しでも苦しそうな声を出している。
これまでオートスコアラーとの命がけの戦いは全て仕組まれていた、自分は利用されていただけ。それは周りの人にも伝わるほどの虚無感だろう。
「クリス先輩、じゃあリベンジデスね」
「うん、このままやられっぱなしじゃしまらない」
切歌と調が声をかける。
そうだ、やられっぱなしでは終われない、終わるわけにはいかない。
「ああそうだな…情けない姿を見せた悔しさは…十倍にして返してやる!」
とりあえずクリスは何とか持ち直す。
今はその単純で直情さが助けになっている。
『そちらの現状は?』
「全員無事だがエルフナイン君が敵の攻撃を受けて重症だ」
「…ボクは…平気です…だからここにいさせてください…」
翼は今の本部の状態の確認を取る、弦十郎は手短に答える。
エルフナインは強気な言葉のチョイスだが声が震えている、どう見ても大丈夫ではなかった。
「翼、可能なら今すぐに東京都庁に向かってくれ」
『どうされましたか?』
「未来君の予想では次にキャロルが現れるのがそこの可能性が高い」
あくまで予想であり確定事項ではないが、この手の悪い予感と言うのは当たるものだ。
『翼大変よ!』
『ど、どうしたマリア?』
マリアが携帯をいじりながらそう言う。
翼はその焦った表情に動揺を示す。
「司令!東京都庁上空に巨大な建造物!」
『SNSに変な建物の画像がアップされてるわ!』
マリアと友里の両方から報告がされる。
「まさかこれがチフォ―ジュシャトーなのか……」
弦十郎だけでなく他の全員もモニターに表示されたものがそれだと確信している。
『叔父様もしあれがチフォ―ジュシャトーならあの内部に立花は監禁されています!しないとは思いますが無暗に攻撃をしないようにお願いします!』
「ッ!?そうか……なるほどな……」
翼の得た情報が本部に共有される。
S.O.N.G.の中にこれまでのキャロルを打倒するだけでなく、響の救出も改めて追加される。
「おいオッサン!あたしの生み出したミサイルに乗って三人だけでも先行する!もう場所は分かってるんだっ!もうここでアイツを畳んでやる!!」
クリスは勇ましい宣言をする。
このまま潜水艇で移動するよりもクリスの方が早く現場に着ける。当然切歌と調も同意を雰囲気で示す。
「お願いクリス、私もあそこへ連れて行って」
未来はモニターに表示されている東京都庁上空を指さして静かに言う。
「やるわけねえだろ!?仮に行ってどうすんだっ!」
クリスはごく当然の正論を述べる。
確実に戦闘になると分かっていて、戦闘力皆無の彼女を連れていけるはずもなかった。
「錬金術師と初めて会ってから今日まで……この瞬間を待ってたの……チフォ―ジュシャトーが無造作に現れるこの瞬間を……錬金術が想い出という電気信号を使うのを知ってからね」
彼女は静かに語るそして、続きの言葉を紡ぐ。
「この為にエルフナインちゃんを観察した、アルカノイズの分解のメカニズムとアルゴリズムを研究した、オートスコアラーの癖と性格を分析した、危険で足手まといって分かってても直接キャロルに会った」
彼女は目を伏せて何かをじっくりと考え込む。
そして目を開きクリスに頭を下げる。
「だからお願いします、連れて行ってください。それにキャロルを止めたいのも、響を助けたいのも私だって同じ」
その態度に誰もが黙り込んでしまう。
そんな中、口を開いたのは、
「お願いします……未来さん……キャロルを……止めて…ください…」
エルフナインだった。
その声にクリスは一言。
「分かった、ただしアルカノイズやキャロルの前に出て戦おうとか考えんなよ」
そう渋々認めた。ほんっとうに渋々だ。
「ありがとうございます。あと弦十郎さんにもお願いしたい事があるんです」
「何だ?もうこれ以上は驚かないぞ」
未来がここまでお願い事を畳みかけるのかと若干呆れた雰囲気で返す。
「もし響がキャロルも助けたいならきっとそれは必要になりますから」
◎
「父親に託された物をっ…何かと切って捨てたか!」
キャロルは激怒とこの男に前の世界で計画が阻止された理由を察した。
二人では余りにも主義主張が違いすぎる。ただしお互いに持つその信条が薄っぺらい事は棚に上げて。
「そうともさ!」
目の前の猛獣を起こしたことに気が付かず肯定の意を述べるウェル。
そしてズカズカとキャロルの不可侵領域に踏み込んでいく。
「ハッ!レディがそんなこんなではその命題とやらも解き明かせるのか疑わしいものだ!」
「なに……?」
ウェルのセリフに必死に怒りを堪えて意見を聞くキャロル。
怒りを向ける相手が普通の人間であれば、その隠しても漏れ出す怒気で震え上がらせているだろう。
「至高の英知を手にするなどっ天荒を破れるのは英雄だけ!英雄の器が小学生サイズのレディには荷が勝ちすぎる!!」
ウェルの独白に顔のしわを刻んでいくキャロル。
もう既に彼女は爆発寸前なのだ。
「やはり世界に英雄は僕独りぼっちぃ…2人と並ぶものはなあぃ!!」
もはや自分に酔ってふらついている。彼は自分で自分を酔わす。
もうお前に興味は無いとキャロルから歩いてそして背を向ける。向けて以降も語りだす。
「やはり僕だ……僕が英雄となって……」
「どうするつもりだ?」
静かに言い返すキャロル。
ウェルは背を向けて死角になっているが、そこから彼女は何かを取り出そうとしている。
「むろん人類のため善悪を超越した僕がチフォ―ジュシャトーを制御してぇ……」
「逃げて!!」
ウェルは響のその必死な言葉に一瞬だけ足が動いたが、ダウルダブラの尖っている部分が腹部に突き刺さった。
「ぇ…ぁ…いやぁ……」
「なるほどなこれは計画の邪魔になるな……先に駆除しておかなければ」
呆然と呻くウェルにキャロルの冷徹な言葉。
そしてダウルダブラを引き抜く。
ウェルの足がガクついている。そしてコントロールパネルにもたれ掛かる。
この段階でもウェルは自分の身に何が起こったのか分からなかったようだが、胸に手を当てて出血を確認すると察したようだ。
「ダメじゃないかァ楽器をそんな事につかっちゃ…………」
「もともとシャトーが起動し、世界分解のプログラムが自立制御されたら貴様は始末するつもりだった」
「なぁ……?」
ウェルのうめき声など相手にせずに淡々と語る。
ここに来て相手が可愛いうさぎではない事に気が付いて目を見開いている。
「感謝するぞ立花響、前のオレは恐らくここでこいつを始末し損ねて転落した。だが今回は間違えない」
「ッ!?」
キャロルの嬉しそうな言葉に、響は泣きそうな顔で視線を逸らす。
そして糸を伸ばしてウェルの心臓を貫いた。
相手の体から力が抜けて倒れ込む。それは確実な絶命。
「終わったな……廃棄完了だ……」
ウェルの死体を見て無表情にそう言う。そこで、
「うぐっ!?」
胸を押さえて苦しみだす。
拒絶反応。廃棄という言葉に自殺したことが想起されて想い出がキャロルを拒否しているのだ。
「立ち止まれるものかっ……あと計画の障害は……」