過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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白々しい

 ところ変わってリディアンの校舎。響はここに連行された。響の通う学び舎なのだが唯一の違いは昼間ではなく夜中である事だ。夜中の学校は結構不気味なのだ。リディアンは鉄筋コンクリートの校舎なので夜中の冷たさがより暗闇の不気味さを助長している。

 昔はここにある中央棟のエレベーター前に来るまでに車内や廊下で質問を何度してもことごとく無視をされた。今思えば2課の本拠地の場所は極秘事項なのでおいそれと外で口にするわけにはいかなかったんだろうなと思う。

 

「ここって…先生たちがいる中央棟ですよね?」

 

 2課の本拠地の場所は知っているがすっとぼける。緒川はエレベーターを開けて先に入り、携帯端末をタッチパネルにかざす。すると壁から手すりが出てくる。

 

「…………」

 

 翼は響に目もくれず、手すりに手をかける。そろそろ泣きたくなる響。

 

「さあ危ないから捕まってください」

 

 手すりに手をかけながらも緒川は親切に教えてくれる。響もそれにならう。

 すると1階にあるはずのエレベーターが超高速で下降した。

 

「うおっ!」

 

 知ってはいたが久しぶりに味わう強力なGについ声が出てしまう。高速で下降しているのにスカートがめくれないの不思議だなみたいな現実逃避的思考をする響。

 最初は真っ暗だったが突如明るくなる。見渡すとそこには意味深な壁画や文字がビッシリ、そしてまるで大きな砲台の中にいるような丸い空洞。その中にポツンとあるエレベーター。

 

(いやほんとに堂々としてるな……)

 

 このエレベーターのある空間そのものがフィーネ、いや櫻井了子が作った。月面に存在する遺跡、バラルの呪詛を破壊するために作った荷電粒子砲カ・ディンギルの砲身部分だなんてまさか思いもしない。

 かつてフィーネはアヌンナキの一柱エンキを愛した巫女で、敬愛を込めてそして御身に近づくために大きな塔を作成するが、それが神の怒りを買い破壊され言語を切り裂くバラルの呪詛が発動してしまう。罪の意識やもう一度愛を伝える言葉を取り戻すため、そして世界の不和を解消するために彼女は何度も人間の体を輪廻転生しているのだ。

 

 しかし櫻井了子は神の怒りを買ったと思っているが実際は違い、フィーネの塔が破壊されたのはエンキとシェム・ハの戦いの余波に巻き込まれて壊れただけ。バラルの呪詛はシェム・ハを復活させないために発動させただけ。なので彼女の努力は無駄どころかエンキの思いに叛逆しているのだ。そもそもエンキはフィーネを愛しており、亡くなるその時まで心配していたのだから…

 

「……………………」

 

 響は顔を若干ではあるがしかめた。これから櫻井了子と顔をあわせるだろう。真実を自分の口で説明できないもどかしさと罪悪感。そもそも出来たとしても何百、下手したら何千年という途方もない時間の中、野望のために成功と失敗の一進一退を繰り返してきた彼女が長きにわたる時間の中で培ってきた愛と執念と常識。それを高々15歳の小娘が説得して180°変えるなど不可能に近い。簡単に揺らぐ思いならとっくにどこかの地点で折れている。

前に説得出来たのもカ・ディンギルの砲撃を二度防いだ後にネフシュタンの鎧とソロモンの杖すべての力を出させ、それも打ち倒したうえでさらに櫻井了子の命が尽きるその寸前でやっと響の言葉が届いたのだ。最初から言葉のみの説得は蜘蛛の糸を手繰り寄せるよりも困難だ。

 

「……しかし凄い贅沢なエレベーターですね!地下なのにこんなに景色が開けてるなんて!まるで人を運ぶ以外に何かしらの機能が隠されていそうで……」

「………」

「………」

 

 愛想笑いをしながら喋る響に緒川と翼はピクリと反応した。緒川は無視をしていたわけではなかったが。翼も響のその指摘には思うところがあったのかもしれない。このエレベーターはあまりにも不審な点が多すぎる。

 

「無駄話も愛想も不要よ。これから向かうところに微笑みなど必要ないから」

(クールに決めてますけど翼さん。これから向かうところには満面の笑みしかありませんよ)

 

 ツッコミは脳内に留めた。

 

 

「ようこそ人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」

 

 ぱん!ぱん!ぱふぱふ~、両手を広げてウェルカムな構えの赤シャツの男性を筆頭にクラッカーとトランペット、そして拍手が鳴り響く。誕生日かなにか?といった感じだ。

 赤シャツにワイルドさを感じる風貌を持つ男性、風鳴弦十郎の背後には「ようこそ2課へ」「熱烈歓迎!立花響さま☆」と書かれた巨大プレートが掲げられている。

ちなみに部屋の隅には友里が使い終わったクラッカーを持ちながらニコニコしている。

 

「えっと…………」

「ハァ…………」

「あ、はは…………」

 

 何とも言えない表情をする響。頭痛をこらえる仕草をする翼。苦笑いの緒川。呆れるリアクションが3パターンもあるのだ、実にバリエーション豊かだった。

 

「さぁさぁっ!笑って笑って!お近づきのしるしにツーショット写真~」

「…写真より先に手錠を外してもらえませんか?あとあなたは…?」

 

 ぐいぐいと迫ってくるグラマラスで髪をお団子にしている、眼鏡女性の櫻井了子を認め一瞬硬直しかけたが響は何とかリアクションを返す。下手に硬直したら疑われて危なかったかもしれない。

 

「あ、いやそれ以前に何で私の名前をって……友里さんから聞いたんですね」

「おうそうとも。友里くん彼女も特異災害対策機動部二課メンバーなのさ」

 

 友里の姿を見つけた響の疑問に対して律儀に答える弦十郎。

 

 喧騒も一段落すると、緒川は響の手錠を外す。

 

「ありがとうございます。いやぁ外れて良かった~変な跡とか残らないといいんだけど……」

「いえこちらこそ失礼しました」

 

 手錠が外れたのを確認すると自己紹介タイムに入る。

 

「では改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎ここの責任者をしている」

「そして私は~出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね」

「えっとでは改めまして私は立花響です。どうもです」

 

 響は腰を深く折りながら二度目の自己紹介をする。

 

「君をここに呼んだのは他でもない、協力を要請したいことがあるんだ」

「協力ってあれですよね?あのへんなやつですよね……?」

 

 響はシンフォギアという単語をわざと避けながら会話を繋ぐ。

 

「もし知ってるならあれについて教えてください!」

「あなたの質問に答えるためにも2つばかりお願いがあるの」

 

 了子は右手でピースサインを作る。

 

「最初の1つは今日の事は誰にもナイショ。そしてもう1つは―」

 

了子は響の腰に手を添えてグッと引き寄せると、

 

「とりあえず脱いで貰いましょうか?」

「え、普通に嫌ですけど……」

 

 了子はからかったつもりだったが想定以上にドライな反応を返されて固まる。だがすぐに気を取り直して、

 

「えっとね…細かい説明今は省いちゃうけど、響ちゃんが今日まとったあれはねシンフォギアっていうノイズに触れるための武装みたいなものなのよ」

「シンフォギア…………っ!」

 

 響はシンフォギアという単語が喉からつるりと出たことに酷く驚いた。これまで人前で「シンフォギア」と発しようとするといつも喉が絞めつけられていたからだ。一方で、了子と弦十郎は何を驚いているのか想像できるはずもなく不審そうに見つめていた。

 

「そのシンフォギアってやつと私が脱ぐことに何の関係があるんですか?」

「もしかしたらだけどあなたはシンフォギアをまとう才能や、体内に何かしらの力を抱えているかもしれないのよ、だから身体検査で調べたいってわけ」

「そうですか言いたいことは分かりました……」

 

 響は俯き何かを考え込んでいた。そして意を決して言う。

 

「でもごめんなさい。2つ目のお願いは聞けません」

 

 

「ただいま。誰もいないけど……」

 

 夜遅く帰宅する響。真っ暗で冷たくて誰の痕跡も無い部屋。

 取り合えず1人である事を紛らわすためテレビを付けると風鳴翼海外展開の打診があった事についてのニュースが目に飛び込んでくる。

 

「翼さんかぁ……」

 

 今日の邂逅で翼の中にはいまだに天羽奏という女性の影が残り続けている事が分かる。心の中にいる事が悪いわけでは勿論無い。だがそれにこだわるあまり新しい出会いや可能性を無下にしてしまっている。

 

「昔は何となくで仲直りした風になったけど…」

 

 どうするのが正しいのか分からない。いや違う、記憶に沿って接していけばある程度は解決可能なのだ。だが未来の知識があるからこそもっと良くできるのかもしれないと考えてしまうのだ。これは持っている者の傲慢だろう。

 響が未来の知識をフル活用して偉そうにご高説を垂れ流すことは出来る。でもそれはカンニングをして高得点を確保するような卑怯なやり方だ。そもそも過去に戻ってやり直すこと自体卑怯を超えてる話なのだが。

 それにシェム・ハに葬られかけた時、月から脱出するまで響から翼に向き合う事はあったがその逆は無かったのだ。彼女は本能的に響に向き合うのを恐れていた。

 響は悩む、自分には何が出来るのかを。

 

 

 風鳴翼は苦悩の中にいた。突如現れたシンフォギア装者、立花響。天羽奏がまとっていたガングニールを扱いノイズを殲滅してみせた少女。相当な手練れなのは戦いを見て分かった。

 

―嫌だ嫌だ認めたくない。あれは奏のギアなんだ。

 

 しかしあの場に立花響がいなければ多くの死傷者が出ていた事もまた事実なのだ。防人にとって重要なのは強さのみ。私情などという余計な要素は排斥しなければいけない。大切なのは使えるか使えないか。

 

『二人一緒なら何も怖くないな』昔ノイズを倒した後、奏が言った言葉が翼の脳裏によみがえる。そう必殺の槍を携えた彼女が。

 

 

「緒川どうだ?」

「はい立花響さんの調査結果ですが―」

 

 弦十郎は響が退室した後、緒川を含めた複数人のエージェントに立花響の身辺調査を頼んでいた。さすがの腕前、半日も経たないうちに調べ上げてきた。

 

「-中学まではごく普通の家庭で過ごしています。会社員の父親にたまにパートに出る母親、そしておばあさんの4人暮らし」

「ご家族の方に聖遺物や軍に関わった方はいないという事か」

「はい、そういう事になります。ですが響さんが中学2年生の時にツヴァイウィングのあの事件に関わります…」

「ッ!そうか…………」

「その際に瓦礫か何かの破片が胸に刺さり大けがしたそうです」

 

 あの事件で大きく人生を狂わされた人間は多い。亡くなったもの、その家族、そしてマスコミの扇動によって謂れのない攻撃を受けたものは多い。数字の上では被害者は1万2千強にのぼるが実際の被害者は間接的なものを含めればその10倍以上にのぼるだろう。

響も例に漏れずそうだという事だ。

弦十郎は響のあの素人離れした戦闘スキルと高いレベルでギアを使いこなした事から、凡百の人生を歩んでいるわけでは無い事はそれとなく察していた。

 

「それでイジメや村八分を受けて引っ越し、そしてリディアンの門を叩いたという事です」

「彼女が過去にギアや特殊な訓練を積んでいたとかはないのか?」

「すみません。響さんが格闘技を習ったり、ギアをまとった痕跡は存在しませんでした。強いて言うなら毎日走り込みをしているのが近所の方に目撃されているだけで……」

「…………」

 

 そんなバカな…と思う。血統的に戦いの才能のある翼でも日々の絶え間ない訓練と実戦でやっと命がけの戦いが出来るのだ。走り込みだけなど絶対にありえないし、1回目のギア装着であそこまで使いこなせるわけがない。

 するとふと響の2課本部でのやり取りが思い出される。

 

 

『ごめんなさい。2つ目のお願いは聞けません』

『えっと…それはどういう事かしら?』

 

 了子が僅かに苛立った声で問い返す。

 

『まだ信頼できないのにホイホイと体を調べさせるとか出来ません』

 

 響は強張った顔でそう言う。するとその言葉に周りの空気がしん…となる。響は冷めた空気に気が付いて言葉を重ねる。

 

『あ!ここにいる皆さんが悪い人だとか思ってるわけじゃありません!ノイズに苦しむ人たちを救おうとするのは素敵だと思ってます。私もそのシンフォギアってやつを使ってノイズに苦しむ人達を助けられたらいいなと思います』

 

 響の表情からは嘘をついている感じは見受けられなかった。

 一方で翼の表情に険が刻まれる。

 

『それに…誰かのために行ったことが必ずしも相手にとって正しい結果になるわけじゃないですから…私はもう失敗したくないんです……簡単に首に縦を振れなくてごめんなさい……』

 

申し訳なさそうに言う響。弦十郎と翼は響の発言その意味をはかりかねた。逆に了子はその言葉の意味に気が付きハッとした表情をした。

 

『つまりこれからの我々の行動で信頼を得られればいいという事だな』

『はい!それに2課に協力してノイズと戦うこと自体は嫌じゃないですから!それに2課の調べられる範囲でなら別に私の周りの事は調べても大丈夫ですから』

 

 

 弦十郎はふむ……と考えをまとめようとする。明るくておちゃらけた所があるのかと思ったら突如理知的な一面を見せる少女。そして何よりシンフォギアをまとえば10年単位でも研鑽を続けた翼に匹敵する戦闘能力を見せる。いやまだ響は底を見せていないかもしれない、なんせまだアームドギアを出していないのだから。

 

「彼女に不審な点は多い。組織の長として簡単に信じるのはいけないのかもしれない。だが彼女は身を挺してたくさんの命を救った!だから俺は信じるぞ!甘いと言われてもな!」

「はい、僕もそれが司令らしいと思います」

 

 ニカッと笑う弦十郎の言葉に緒川も笑顔で答える。

 

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