過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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私に策がある

「まずは一発だぁああっ!!!!」

 

 クリスの叫びと共に4人、厳密には未来は調に抱えてもらってミサイルから飛び降りて地面に降りる。

 ミサイルはチフォ―ジュシャトーに吸い込まれる事は無く障壁によって食い止められてしまう。

 宙に浮いているのはキャロル、先ほどの一撃を受け止めて見せたのだ。

 

「へん!親玉の登場ってか!」

「ここが年貢の納め時デース!」

「もう逃がさない…!」

 

 ここまで散々振り回してくれた元凶に漏れ出る装者3名の声。

 

「そうはやるな……これから始まるのだ……世界の」

 

 分解が。キャロルがそれを言い終わる前に上空から飛んできた弩級サイズの大剣、それが彼女を押しつぶしてセリフをキャンセルする。

 ドオォン!と巨大な質量を持つ大剣が地面に接触した事で地割れが起こる。

 

「すまない遅れた」

 

 翼はサラリとそう言う。

 キャロルはこの程度で倒せるとは思っていないため、攻撃を直撃させたことには別段何も思っていない。

 

「マリア!」

「全員集合……あとは……」

 

 マリアとの再会に喜ぶ切歌と改めて響のいるチフォ―ジュシャトーを見やる調。

 すると剣の先から爆発が起きてキャロルが飛び出して宙に留まる。多少は土汚れが付いているが致命傷らしきダメージは見られない。

 

「やってくれたな」

 

 キャロルは淡々と言う。

 その声色には歓喜や憤怒は存在しない。想定以上の立ち回りとその攻撃力を真正面から認めているというだけだ。

 左手を亜空間にツッコムとダウルダブラを取り出す。初っ端から力を出してくる。

 

「成し遂げる……思い出を…何もかも焼却してでも…!」

 

 彼女の覚悟の咆哮、ダウルダブラの弦に手をかけ奏る。

 するとその弦たちが伸びてキャロルを包んでいく。そこには十歳ほどの少女ではなく、二十歳以上の大人の女性が立っていた。

 その身にはダウルダブラのファウストローブをまとっている。

 

「ファウストローブ……まるでその輝きはシンフォギア…………」

 

 マリアは生で見た事で改めてその感想を述べる。

 

「フン……輝きだけではないと覚えてもらおうかッ!!」

 

 キャロルはそう言うと歌い始めた。そう歌い始めたのだ、彼女はシンフォギアシステムを身にまとわないはずなのに。

 するとキャロルの体が輝き始めた。

 

「これは……フォニックゲイン……」

 

 未来が呆然と呟く。

 キャロルは手のひらに溜めたそのエネルギーを肩についている2つの堅琴に流すと弦の一本一本が震えて衝撃波を装者たちに放つ。

 全員とっさに飛んでその場から回避する。大地がその威力でたやすくえぐれる。

 

「この威力……まるで……」

「これは絶唱だ!」

 

 翼とクリスはキャロルの放つ攻撃の本質を見抜いた。

 相手は通常攻撃で絶唱クラスの攻撃を放っている。

 

「絶唱を負荷も無く口にする……」

「錬金術ってのは何でもありデスか!?」

 

 調と切歌は絶唱が使い手をどれだけ痛めつけるのか知っているからこそ、その摂理を覆す相手にただひたすら恐れを感じる。

 キャロルは一層力強く歌を歌ると全身から濃密なフォニックゲインを放つ。するとチフォ―ジュシャトーが共鳴するように輝き始める。

 

「あれは…共鳴…?城塞全体が音叉のように共鳴してエネルギーを増幅してる……」

 

 調に抱きつく未来が目の前で起きている事を口にする。

 シャトーから溜められたエネルギーが地面へと撃ち込まれて世界中に網羅されていく。

 装者のインカムに本部内で取得された情報が流れる。

 

『放射線状に拡散されたエネルギー波は地表に沿って収れんしつつあります!』

『この軌道は……まさか……』

『フォトスフィア……』

 

 フォトスフィアに沿って分解のエネルギーを流す事こそキャロルの描いた風景。

 

 その時世界中の地表に存在する建物と人達がそのエネルギーラインに触れた途端に分解されて消滅していった。

 ある人は船の上からそれを見た。

 これが世界を覆えば文字通りの全滅だ。

 

「調!チフォ―ジュシャトーまで連れて行って!あれは私が何とかする!!」

『ッ!』

 

 未来の宣言に驚く。

 事前に聞いてはいたが本当にあの巨大建造物を止める気なのだ。

 

「分かった!」

 

 そう言うと縦回転大型ノコを出して都庁に向かって走り出す。

 

「あたしも行くデス!」

「恐らく内部にも罠が張り巡らされているはずよ!」

 

 元F.I.S.はチフォ―ジュシャトーを阻止するために走り出す。

 

「無駄だ!もう自動制御は始まっている……再演算もコントロールも不可能だ。今更あのエネルギー量を御せるはずがない」

 

 キャロルはこの状況を覆しえるウェルを始末した事で余裕が生まれていた。それでも一応の不安要素なため攻撃を加えようとする。

 その隙を突いて翼は相手へと飛び込み突き技を食らわせる。

 

「ッ!?」

「くっ…!」

 

 刀は頬を掠めるにとどまった。隙を突いても薄皮一枚それが相手に与えられるダメージの限界。掠めた動揺を感じている間にクリスはガトリングガンで攻撃を加えるが歌うフォニックゲインだけで辺り一帯を吹き飛ばし翼とクリスを巻き込んでいった。

 吹き飛ばされて倒れ込んだが、何とか立ち上がりクリスは誰もが思った疑問を口にする。

 

「何で錬金術師が歌ってやがる……?」

「七つの惑星と七つの音階…錬金術の深奥たる宇宙の調和は…音楽の調和…ハーモニーによる絶対真理…」

「どういう事だ!」

 

 クリスの問いに丁寧に答えるキャロルだが、前提とする知識をすっ飛ばしているため翼には伝わらない。

 キャロルは覚えの悪い生徒に優しく丁寧に教授し始める。

 

「その成り立ちが同じである以上おかしなことではないと言っている」

 

 歌と錬金術について歴史に沿ってキャロルは話し始めた。

 

「先史文明期…バラルの呪詛が引き起こした相互理解の不全を克服するため人類は新たな手段を探し求めたという……」

 

 昔話を語りだす。

 

「万象を探し求める事で通じ世界と調和するのが錬金術なら、言葉を超えて世界と繋がろうと試みたのが歌だ」

「歌……」

「そう言う事か……」

 

 キャロルの説明に二人もおおよその言いたいことが分かってきたようだ。

 

「錬金術も歌も失われた統一言語を取り戻すために創造されたのだ」

 

 キャロルはここまで話して妙な感慨を感じていた。

 響から得た記憶のせいでこれを初めて相手に話すはずなのにそうとは感じない妙な感覚。

 違うアプローチとはいえどちらも目的は同じだった。元が同じならその根本とも言えるフォニックゲインを錬金術師も無理筋でも生み出せるという理屈。

 

「その起源は明らかにされていないがお前たちなら推察できるだろう?」

 

 二人のいやこの会話を聞いている本部の全員が思い浮かべたのは櫻井了子、あの日月に向かって飛んで行って消滅したその人だ。

 

 

 チフォ―ジュシャトー上部に到達した四人は待ち構えるアルカノイズを蹴散らしながら内部に潜入していた。

 

「そこを右に進んで、マリアその廊下を破壊して降りよう」

 

 未来が的確に防衛が手薄になっているポイントに誘導していた。

 実際そこまで強くない敵や仮に接敵しても挟み撃ちにならない場所に誘導している。

 

「あなたチフォ―ジュシャトー内部に来るのは初めてよね…?」

「うん」

 

 敵のアルカノイズを生み出した短剣を投げつけ撃退しながらも質問をするマリア。

相手はそれに対してあっさりと答える。

 

「だったら何で……いいえすべてが終わったら聞くわ……」

「安心してスパイじゃないから」

「それは疑ってないわ」

 

 相変わらずの無軌道ぶりに頭を抱えるマリア。

 可能な限り敵とのエンカウントを避けて現れても一刀のもとに両断して、みんなの感覚では順調なシャトー攻略を行っていた。

 

「マリア」

 

 そこで全員の思考が止まった。

 じっと前方の暗がりを見ると車いすに乗った見覚えのある女性が。

 

「あなたたちはまだ己を偽り他者を偽り世界を救おうとしているのですか?」

 

 全員がその場に足を縫い留められてしまう。

 すると、車椅子が変形してナスターシャの体にパワードスーツとしてまとわりつく。そして、一番近くにしたマリアを殴り飛ばす。

 

「きゃあっ!!」

『マリアっ!!』

 

 マリアが吹き飛ばされると残りの二人もアームドギアを構えて攻撃を加えようとするが、問題の相手の顔を見て分かっていても硬直する。

 

『げうっ!』

 

 スーツの手が飛び出してロケットパンチの要領で切歌と調の腹に直撃して後方へと吹き飛ばす。調にしがみついていた未来も同様に。

 低いうめき声と共に倒れこむ。ギリギリ意識は失わなかった。

 

「マムっ……」

 

 改めて目の前に現れた敵を認識する。

 マリアが見間違えるはずがない。彼女はナスターシャ教授、みながマムと慕ってやまない女性。

 

「思い出しなさい……血に穢れたあなたの手を……」

 

 ナスターシャの言葉にびくりと震え固まるマリア。

 それは他者に言われたくない言葉であり、常に自分で生み出し自分の脳裏に毒を垂らす思想。

 結果論だけでならマリア達旧F.I.S.は正しい結果を出し、誰からも褒められるべき英雄的行為を行った。

 だがその過程でどれだけ多くの人を恐怖に震え上がらせ、そして手に掛けただろうかと。もっと力と知識を兼ね備えていれば誰もが笑顔で明日を迎えられたはずだと。

 

「どうしてその手で世界を救えるなどと夢想出来ますか?」

「それでも私は……」

 

 昔のマリアならナスターシャの姿をする相手に毒を再認識されたら心が折れて何も出来なかったはずだ。

 しかし今は自分の弱さや過ちも受け入れる覚悟を決めた今ならばなんとか心が折られずに向き合える。

 

「そうあなたが世界を救いたいと願うのは、自分が救いたいがため」

「!?」

 

 相手の言葉に大きく揺らいでしまう。

 

「マリア!あれはマムじゃないデス!」

「私たちは今どこでマムが眠っているのか知っている!きっとこの城塞の……」

 

 切歌と調は必死に引き留めようとする。

 余りにも悪質な罠だった。

 

「そんなの分かってる!あれは偽りのマム!でも語った言葉は真実だわ…」

 

 叫ぶマリア。

 恐らくはこの城塞の防衛システムの一つで、相手の心にある闇や毒を抽出して知り合いに話させることで心折ろうというものだ。

 だが相手の口から出る言葉は全てマリアにとっては身に覚えのある言葉ばかりだ。

 敵は畳みかける様に言葉を繋いでくる。

 

「救われたいのですね?眩しすぎる銀の輝きからも」

「あ」

 

 その言葉に彼女の脳裏に浮かぶのはセレナ。

 あの日、絶唱を使い力尽きて時が止まった彼女。今でも心に突き刺さる小さな刃。

 先ほどまでの戦闘の余波なのか城塞の一部が崩れて瓦礫が落ちてくる。

 

「取りあえず今は退こう!」

 

 未来の言葉に切歌はマリアの手を取って逃げる。

 とにかく精神的にやりにくい相手なので誰も反論は出ない。

 

「マリア」

 

 未来は調に抱き着いて抱えられたままマリアの名前を呼んでそして問いかける。

 相手は顔だけを向ける。

 

「あれを本気でナスターシャさんだって思ってないよね?」

「そ、それは……」

 

 その言葉に詰まってしまう。

 それはマリアだけでなく切歌と調も同様だった。

 

「死んだ人間は誰も弄んじゃダメなんだよ。きっとそれは誰も踏み込んじゃいけない不可侵なんだと思う」

 

 死んだ人間は生き返らない。この世の絶対不変の法則。

 

「それが大切な人なら尚更、皆の心の中にいる大切な人を守ってあげて。それだけが生きてる人が亡くなった人に出来る責務だと思うから」

 

 未来はただ伝えた。

 

 

「世界の分解元素いまだ拡大中!」

「間もなく都市部へと進行します!」

 

 藤尭と友里の現状報告。

 チフォ―ジュシャトーから発される分解のエネルギーは広がっていき、このままでは人口の集中する都市部に広がり大災害に見舞われる。

 

「これが……計画の最終段階……」

「っ!大丈夫ですか!」

 

 ふらつくエルフナイン。帰還した緒川がその体を支える。

 

「キャロルを止めないと……見届けないと……」

 

 

「多分ここだ…………」

 

 未来たち四人はチフォ―ジュシャトーの制御パネルのある部屋に着いた。

 薄暗く正面には大きなパイプオルガンの意匠を感じる建造物。

 

「あれが恐らくチフォ―ジュシャトーの制御装置……あれを破壊すれば……」

「ううんダメ。キャロルが内部に入られたら止められる計画を立てていたならそもそも侵入すら容易にさせないはず。壊したら制御不能になってエネルギーが暴発すると思う」

 

 キャロルはもうマリア達では止める事は不可能だとして捨て置いている。

 内部からの破壊では停止させるのは不可能だろう。

 

「あれってドクター?」

 

 パネルの傍に倒れこむ白衣の男性がいた。

 未来はそれの傍に立つと脈を計るが。

 

「ダメ……亡くなってる……」

 

 事実をそのまま伝える。既に物言わぬ存在になっている。

 未来はウェルの上の服を引き上げて体を見る。よく見るとネフィリムの細胞を胸の傷まで伸ばしているようだが、特別な肉体を持たない彼ではその負荷に耐えられるわけも無い。

 すると白衣からぽろっと小さなチップが出てくる。

 それを拾うと、

 

「なにこれ」

 

 訝し気にチップを見る。

 それは何か罠とか特別なものではなく単に情報が入っている記録媒体だった。

 

「未来」

「あ……」

 

 声が聞こえる。

 その言葉は久しぶりでも聞き間違えなかった、未来の記憶中にあるそれと違いは無い。正面の台座の上へと視線を向けるとそこには笑顔で未来を見つめる響がいた。

 

「響っ!!」

 

 未来は堪えられずに響の元へと飛び出していく。

 響も手を広げて迎えようとしている。

 

「逃げて!!」

「え」

 

 響の声が聞こえた。

 未来はとっさに右を向くと椅子に縛り付けられている響がいる。2人の響がいるその異様な光景にとっさに足を止めると目の前の地面が分解される。足を止めなければ粉々の赤い粉にされていた。

 

「うわっ!」

 

 未来はとっさの出来事に悲鳴を上げてしまう。

 ふと周りを見渡すとアルカノイズに囲まれていた。

 

「あの響はもしかして……」

 

 彼女はここで気が付いた。彼女は響を見つけて心に油断を生み出してしまった。

 先ほどまで散々苦しめたナスターシャの偽物の事を、未来の中にいる響像そっくりを作る事が出来るのを。

 すると偽物の姿がぐにゃりと歪んでアルカノイズに変貌した。

 この場にいるシンフォギア装者三人は敵に対して構えて迎撃に当たる。

 未来はガングニールのペンダントを握って素早く拘束されている響に向かって走り出す。これは賭けだった、偽物の可能性も考えたが勘で本物だと当たりをつける。

 

「邪魔はさせない!」

 

 二人の間にいるアルカノイズ達は調の小型ノコが殲滅して邪魔をさせない。

 しかし全部の敵を殲滅できたわけでは無く、生き残りたちが解剖器官を伸ばして未来を殺そうとしてくる。

 それに彼女は気が付いて、

 

「響受け取ってーっ!!!!」

「未来!?」

 

 直接の手渡しでは間に合わないと悟ってペンダントを響に向かって投げつける。しかし無情にも敵の攻撃は未来に。

 

「未来―ッ!!!!」

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 血を吐くような叫びと歌。

 響を押さえつけていたものが全て取り払われ、未来の姿がその場から掻き消えた。分解されたのではない。響がダッシュで彼女を確保してコントロールパネルまで飛んで移動したのだ。

 

「よかった……」

「ありがとう未来……助けてくれて……」

 

 撃槍は復活した。

 

「でももうキャロルちゃんは止められない、ウェル博士がいないと……」

 

 響は亡くなっている彼を見て、すぐさま悲痛な表情をする。

 彼女は知っている。前の世界ではネフィリムの腕の力でシャトーをハッキングして世界解剖を止めた事を、そのキーパーソンが、希望がキャロルによって先んじて摘み取られてしまった事を。

 もう既に計画を阻止するためのカギは存在しないのだ。

 

「大丈夫響!シャトーを止めるために私はここに来たんだから!!」

 

 未来はカラ元気ではなく本気で止めると宣言した。

 

 

 シンフォギア装者たちが奮闘する間も世界に分解の力が張り巡らされていき、計画は刻々と進行している。

 散っていく、消えていく、人がモノが、そしてそれをひっくるめた今日まで積み重ねてきた歴史が。

 翼もクリスも限界が近い。相手は一撃一撃が絶唱クラス、聖遺物の欠片であるシンフォギアでは掠っただけで大ダメージだ。

 

『東京都中心とは張り巡らされたレイラインの終着点、逆に言えばここを起点に歌を伝播させるという道理だ。お前たちの呪いの旋律が世界を滅ぼすぞ?』

 

 ここまで喋るという事はもう止められないという確固たる自信がある証左。

 

『そのために要石を破壊したという事か!』

『もうどうしようもないのかっ!』

 

 2人もそしてS.O.N.G.本部もあきらめムードが漂う。誰もが俯いてしまう。

 

『無い事など無い!!』

 

 シャトー内に侵入したマリアの声がみんなに届く。

 

『私達には小日向未来という切り札がいる!!たとえ万策尽きても一万と一つ目の手立ては存在する!!!!』

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