『りゃああああっ!』
切歌が鎌で敵たちを真っ二つに蹂躙していく。
調がツインテールの先にノコを生み出してバラバラに解体していく。
「せいやっ!!」
「ハッ!」
響の拳がいとも容易くアルカノイズに風穴を開ける。
マリアが伸ばした短剣が蛇のように伸びて切り裂いていく。
「私たちが食い止める…だから!」
「シャトーを食い止めてくれデス!」
戦いながらも調と切歌が未来に声をかける。
「言われなくてもっ!」
未来はコントロールパネルに手をかけて世界解剖のデータのハッキングとプログラム改変を行っている。
一度もミスは許されない、そんな遠回りをしては時間制限が来てしまう。
「錬金術は分解、解析そして再構築……なら……」
『無駄だ。お前がいくら優秀だろうとこの短時間では初見であるシャトーの構図を暴くなど不可能。だから捨て置いているのだと分からぬか!!』
キャロルは未来の狙いに気が付いたらしく、わざわざ自分のホログラムを生み出して勝どきを上げに来ていた。
「初見じゃないとしたらどう?仮に千ピースのパズルでも一から全容を知らずに始めるのと、手元に完成形の絵を提示された状況なら、もしくは枠の外側のピースだけ最初に埋められてておおよその絵の全容が見えているなら、短時間でそれを完成させることは出来るって思わない?」
『あり得ない。お前は今日シャトーを目撃して、今初めて内部に潜入している。そんな仮定など……世迷い事も大概にしろっ!』
キャロルは未来の言葉を切って捨ててみせた。
確かに未来は今初めてシャトーに触れている、ウェル博士のように特殊な力を持っているならいざ知らず。普通の人間でしかない未来には構造を調べ上げて分解、解析、そして世界の再構築に持っていくなど圧倒的に時間が足りない。
「初見じゃない……あなたが道しるべを残してくれた」
『なんだと?』
未来の確信を持った一言に訝し気なキャロル。
本当に何を言っているのか分からないのだ。
「分からない?万象を知ろうとしてるくせに」
『何が言いたい!』
未来は強気にキャロルへと言い返す。
ここで彼女は相手が強気である事に不信感と不愉快さが頂点になる。
「あなたが今日まで行った行動。あなたの肉体的特徴と記憶をコピーしたエルフナイン。アルカノイズによる分解の法則そしてそれらのアルゴリズム。オートスコアラーの攻撃とその癖に性格。あなた自身が見せた口ぶり身振り手振り、そして戦い方の特徴。あなたの生み出した癖は痕跡としてそこら中にばら撒かれていた。どんなに覆い隠そうとしても人として英知を持つ者はそこに偏りや傾向を生じさせてしまう」
彼女は淡々と暴いていく、錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムを。
「それらすべてはあなたの錬金術で…それはチフォ―ジュシャトーも例外じゃない。なによりあなたは錬金術を想い出という電気信号で使ってる…ならそれらデータをプログラム、つまり0か1で分けてあなたという器を解析、そして全貌を測る事が出来る…実際にこの場所にたどり着くまでにあなたの配置の癖を思い出してシャトー内を駆けずり回ったんだから」
『………………………………』
未来の言い分にキャロルは絶句していた。
これが彼女の戦い方。敵を計り計算をし、癖を見抜いてこれから起こる未来を予測する事で的確に対処する。
これまでにキャロルから採取したデータを流用してチフォ―ジュシャトーのプログラムをハッキングと改変を行っていく。
無理筋ではあるが無理ではない。チフォ―ジュシャトーも所詮はエルフナインやアルカノイズ、そしてオートスコアラーと同じキャロルがデザイン、そして創造したものだからだ。
必ずどこかに作り手の匂いが残ってしまう、未来はそれを見逃さない。
『あり得ない……だとしても腕の立つハッカーが現れたとして、妨害プログラムが起動し時間を稼ぐはず……何故だ…………』
キャロルは呆然と呟く。
響の記憶から念には念を入れて、それこそウェルが生存していても問題なく計画が遂行できるように何重にも策は練ったはずなのに、未来は構うことなくハッキングを続ける。
そこで彼女は何かに気が付いた。
『まさかっ!』
「神獣鏡だよ、これを使ってその妨害プログラムを押さえつけてる。一応その妨害プログラムも異端技術の末席として認識されててよかった」
相手の疑問に答える。
未来の胸元のペンダントが光っていた。ガリィに襲撃された際に一度だけ使ったそれを。
『そんな無理筋を行えばシャトー構造が耐えられるものか!お前たち丸ごと飲み込んで爆散するぞ!!』
「だから何?」
キャロルの脅しを何てことはないと切り捨てた。
相手もマリア達もそれに絶句していた。
「あなたの身勝手はまかり通させない。あなたの薄っぺらい妄執に世界を破壊させはしない。ただの個人が勝手に世界なんて掌握なんてしていいはずがないんだよ」
彼女は思い出していた。
過去にフロンティアに気に入った人だけを乗せて脱出しようとしたことを、そして本心ではそんな事など許されないと分かっていた事を。
「うっ…!」
「未来!?」
未来は突如として鼻血を出していた。
響はそれを認めると慌てて声をかける。
「大丈夫……響は戦闘に集中して……」
腕で鼻血をぬぐって作業を続行する。
しかしそこで、
「うぐっ!?」
「きゃあっ!」
切歌と調が吹き飛ばされる。
マリアが慌てて振り向くとそこにはナスターシャがいた、厳密にはマリア達の脳内にいるナスターシャ像を模倣した撃退プログラムが。
「マム……」
静かに呟くマリア。
「お前がマムであるものかっ!!」
マリアは迷いを断ち切るように言い張る。
するとそれは黒いマントに覆われるとガングニールをまとっていたころのマリアの姿を取った。
「な……」
呆然と呟くがその隙を見逃さず敵の槍にフォニックゲインが溜められていく。
そして一気に放出される。受けるしかないそうしないと未来に当たるかもしれないからだ。
「くうっ!!」
短剣で受け止めるが勢いを殺せずに後ろに飛ばされる。
「マリアさん!」
響も慌てて援護に行こうとするが、
「あなたは未来の護衛を!ここは私で受ける!」
マリアの猛々しい宣言に響はすぐさま周りのアルカノイズの撃退に戻る。
だがすぐにマリアは立ち上がる。もう彼女は過去を悔いても膝を着くのは止めたのだ。
「お前はフィーネだと周りも自分も偽り続けた己のなれの果て……」
「だけど黒歴史は塗り替えてなんぼデス!」
「シャトーを止めて脱出する…!」
三人は己の過去と向き合う覚悟を決めた。
『未来さん!通信端末をシャトーに接続してください!サポートします!』
「エルフナインちゃん……無茶は……」
『分かってます!でもボクも戦いたいんです!』
エルフナインの提案に一瞬尻込みをするが、相手の覚悟を知り言われたとおりに端末をコントロールパネルに接続する。
『再構成の起動データはこちらにあるフォトスフィアのレイラインマップを使いこちらで処理します!』
エルフナインの命をかけた宣言。
『藤尭!』
『分かってます!ナスターシャ博士の忘れ形見…使われるばかりじゃ癪ですからね…!やり返して見せますよっ!!』
弦十郎の言葉に呼応して作業に移る藤尭。
未来が繋いだ希望を絶やすまいと。
『演算はこちらで肩代わりします。未来さんは余った機能を再構築に当ててください!』
そうしている間にも世界に分解の力が流れていきタイムリミットが近づいていく。
するとそこで、
「未来何をしている?」
「未来やめなさい」
未来に二年ぶりに両親の声が届いた。横を見ると記憶の中にある両親が。
「あ…………?」
一瞬思考が停止してしまう。
「未来お前は自分の身勝手でどれだけの人を傷つけたんだ?」
「あなたのせいで親友は修羅になったのよ?」
分かっている偽物だと、しかしそれの発言は未来の心にある事を口にしているだけ、そう彼女の奥底にある懺悔を。
今日にいたるまでに未来は何人の人間を傷つけただろうか?
親友である響とその家族の生活をダメにしてしまった。
勝手に暴れて両親との関係性を冷やしてしまい、一緒に住みたくないと駄々をこねて家を出て失踪し、多くの人を悲しみのどん底に突き落とした。
表に出せない非合法な組織やテロ組織に身を置いてどれだけ多くの人を自分の利益の為に食らってきただろうか?ソロモンの杖を盗んで多くの人を炭素変換して殺めた。
それを行ったのはウェルだが、未来は自分の方が多分に非があると考えている。
「未来!耳を傾けちゃっ!」
響もとっさにその偽両親を叩こうとするがアルカノイズ達が邪魔をする。
「……………………ごめんなさい…ごめんなさいぃ……私が意地っ張りで突っぱねて傷つけてしまってごめんなさい…………」
未来は泣きながら呟く。
そして、
「だからここから生き延びたらちゃんと謝ります…今度はちゃんと向き合うから…もう逃げたりしない…だから……」
未来はギアペンダントを両親に向けると光線を当てて偽両親を貫き消滅させる。
「少しだけ……待っててください…………」
その間もマリアは偽物と戦う。
槍を使った放出技を短剣で結界を作り防いでいく。
(私が重ねた罪は私が1人で!)
「調、切歌ここは私に任せて」
気を抜いた瞬間に槍を直接投げつけてくる。
「ッ!」
直撃すると思ったが切歌と調が防ぐ。
「この罪を乗り越えるのは」
「みんな一緒でないとダメなんデス!」
二人は宣言する、マリアだけに背負わせないと。
そしてもう逃げる事も見ないふりもしないと。
マリアと偽マリアは幾度かの斬撃の応酬を行い鍔ぜりあう。そして、
「これが最後になる可能性があるから言うわ。翼と立つステージは楽しかった……次があるのならあなたと朝まで歌い明かしてみたいわね……」
『マリア何を……』
マリアのまるで遺言のような言葉に動揺する翼。
「命がけで戦った相手とも仲良く出来るクリス先輩は凄いなって…憧れてたデスよっ!」
『お前にだって出来る……出来てる!』
この場で縁起でもない事を言い出す切歌を引き留めようと声をかけるが相手は聞く耳を持たない。
「ごめんなさい……あの日何も知らずに偽善と言った事……」
「……そんな事気にしてないよ」
調の謝罪にも響は言葉短く返す。
決して怒っているわけではない。
チフォ―ジュシャトーが起動限界を迎えてエネルギーが外部に漏れだしていた。
本来は分解と解析だけしか行わないように想定して組まれたものだ。それに再構築の工程まで加えれば施設はキャパシティオーバーに陥るのは必然。
偽マリアの槍を切歌と調の斬撃攻撃がぶつかり跳ね上げる。マリアはその隙を見逃さず左手の籠手の肘部分に短剣を取り付けてフックの要領で切り裂こうとする。
その瞬間相手はセレナの姿に変貌するが、
『死んだ人間は誰も弄んじゃダメなんだよ。きっとそれは誰も踏み込んじゃいけない不可侵なんだと思う』
『それが大切な人なら尚更、皆の心の中にいる大切な人を守ってあげて。それだけが生きてる人が亡くなった人に出来る責務だと思うから』
もうマリアは迷わない、大切な人をもて遊ばせなどしない。
「セレナーッ!!!!」
剣がその体を迷いなく切り裂いた。
◎
「やめろ……」
キャロルが呟く間も分解ではなく再構築の力が流れていく。
「やめろ…………!」
そう言っている間もチフォ―ジュシャトーが想定外の作業を行い受け止められない負荷がかかり崩壊しようとする。
「やめろおおおおおおおっ!!!!」
キャロルは響の記憶を持っているはずなのに、やってはいけないと分かっているのに前の世界と同じ行動を取ってしまった。
そう複数の魔法陣で錬成したエネルギーで光線を放ちシャトーを貫いたのだ。
「あ…………」
ただ呆然と爆発し火の手が上がるそれを見て。
キャロルは内心響をバカにしていた。
前の世界の記憶を持っていながらも大きく歴史を変えられなかったからだ。
しかし、ふたを開ければ自分も同じ末路を辿っている。
世界は分解されると思われたが、された傍から時間が巻き戻されたように元通りに再構成されていく。
ただし人間だけは元には戻らない。まるで死だけは絶対に覆せない不変の摂理だと教えるかのように。
『分解領域の修復を観測』
藤尭の現状報告。誰もこの結果に高揚感は覚えない。何故なら、
『ですがマリアさんたちは……』
『俺たちは対価なしには明日を繋ぎ留められないのかっ……!』
緒川の呆然とした声と、弦十郎の悔しそうな声。