過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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最後の切り札

 無理な負荷とキャロルの後先考えない一撃を食らってシャトーは炎上している。

 半壊したシャトーがその浮遊能力を失って墜落していく。都庁に突き刺さって完全に沈黙する。

 

「シャトーが……託された命題が……」

 

 ただ失敗した無力感、それだけがキャロルの脳内を埋め尽くす。

 作戦は完ぺきだった。

 響の記憶をもとにエルフナインの感覚器をジャックして、その都度不具合を修正して、起きる可能性のあるイレギュラーを潰していったはずだった。

 ただこの世界で最大の変化を遂げた小日向未来一人に計画を喰われた。

 侮っていたのだ。所詮は非戦闘員、チェスで言うところの兵士、いやそれ以下でしかないと。

 侮ってはいけなかったのだ、戦場に立つ以上は誰であっても警戒を解いてはいけなかった。

 

『キャロル…もうやめよう…ボクたちのパパはこんな事望んでない……火あぶりにされながら…世界を知れと言ったのは…ボクたちにこんなことを……』

「そんな事分かっている!何なんだ!?許しか!?世界の人々と繋がるためにあの仕打ちと無理解を許せと言うのか!?ふざけるな!!この思いはっ!無念はっ!どう落とし込めばいいんだっ!あの時のオレはどうやって己を納得させたんだ!?」

 

 キャロルの独白はもはやだれにも理解できない状態だった。

 

『キャロル…あなたも本当は…分かってて……そうか…ボクのやった事は…間違ってなかったんだ…止められてよかった…』

 

 ただ悲しそうにかすれた声でエルフナインは言った。

 

「何なんだっ!!本当に何故なんだ!!パパは教えてくれなかった!誰も諭してくれなかった!!」

 

 キャロルは理解できない、記憶の中にある響達と共闘した自分はどうやって自分を納得させて前に進んだのか。何故世界をそこに住む人々を救う戦いに身を投じたのか、それは何度考えても分からなかった。

 客観的な視点で見せられた記憶、つまり知識では前の自分が実際に行った体験と身を切ってでも勝ち取った答えを得られるはずがないのだから。

 

「チフォ―ジュシャトーは破壊された…万象黙示録の完成の未来も潰えた……」

 

 先ほどまでの激昂とは打って変わって、呆然と都庁に突き刺さるシャトーを見やるキャロル。

 そしてクルリと翼とクリスへと振り返り言う。

 

「ならば!前と変わらない、過去を破壊していまそして未来を蹂躙して」

 

 そのセリフは最後までは言えなかった。何故なら、

 

「りゃあああああっ!!!!」

「なっ…」

 

 キャロルの元へと飛び込んできた響が思いっきり殴り飛ばしたからだ。

瓦礫の藻屑となったはずの響が。

 殴られたキャロルは勢いと自由落下によって地面に叩きつけられた。

 

 

「な、なんとか…………」

 

 未来のホッとしたような呟き。

 彼女たちの周りには防御壁があり衝撃、瓦礫そしてキャロルの一撃から守っていた。

 本部のコンピューター演算の一部を代替わりした際に生まれた余力でフォニックゲインを防御壁の形で作ったのだ。

 キャロルが何度も見せた防御壁、それを見よう見真似だがそれでも即興でやってみせた。

 

「まだ戦いは終わっていないわ」

 

 マリアは緊張を崩さずに言う。

 下を見下ろすとキャロルが力を溜め込んでおり暴れまわる構えだ。

 

「させない!」

 

 響はそう言ってシャトーの残骸から飛び出していく。

 

「ちょっと!」

「一人で飛び出してどうするつもりデスか!」

「……ほっとくわけには……」

 

 そう言って三人もその場から飛び出して響に続いていく。

 未来は端末を使い本部と連絡を取る。

 

「もしもし!」

『未来君!?無事だったのか!』

 

 未来の生存に驚きと喜びを見せる弦十郎。

 今頃本部のモニターには装者全員が集結したのが確認されている。

 

「はい、何とか無事です。でもこのままキャロルと戦っても間違いなく響達は勝てません。イグナイトモジュールを三段階全開放しても」

『そうだな、だが指示通りにあれの用意は出来ている』

 

 未来の言葉に否定はせずに、弦十郎はあらかじめ頼まれた作戦の用意が出来た事を伝える。

 未来が本部を離れる前に伝えたキャロルを止めるための秘策、それを使う時が来たのだ。一発勝負で勝てる保証など何もない作戦が。

 

 

「マリア!それに立花たちも無事だったか!」

「ええ彼女のおかげでね」

 

 装者六人全員が生き残って集結した事で全員に安堵の空気が流れる。

 しかし、響が殴り飛ばしたキャロルが地面に叩きつけられた地点から爆発が起きる。そして人影が上空に飛び出していく。

 

「生きていたか……やはり前と同じ……」

「止めるよキャロルちゃん、あなたのお父さんの為に」

 

 呟くキャロルに対して、ここに立つ理由を語る響。

 相手はその物言いに顔を憤怒に染めた。

 

「お前がっ!お前なんかが!パパを語るなあああああっ!!!!」

 

 両手に弦を巻き付けると一気にそれらを装者達に叩きつけていく。

 とっさに全員が左右に飛び出して躱していく、その背後の建物やアスファルト舗装された道路が滑らかに切り刻まれていく。避けなければ道路のシミになっていた。

 

「くそ……どうすりゃ……」

 

 クリスは苦悶の表情だ。持っているフォニックゲインの総量が違いすぎるのだ。

 

「イグナイトで戦えば」

 

 響はそう言う。

 全員がイグナイトモジュールについて知っている事とまたその使い方を知っているであろうことに驚いたが今は知っている、そういうものだとして扱う。

 

「ダメだ立花!イグナイトモジュールは相手の計画の内だ!」

 

 翼はすぐさま否定的な意見を述べる。

 

「そいつの言う通り無駄だ。イグナイトモジュールの手合いやその限界エネルギー量は把握している」

 

 キャロルはイグナイトモジュールの手合いを計算して使えると判断したからこそ作戦を敢行しているし、同時に自分の本気には力を合わせても勝てないと考えたからこそ、いま目の前で悠然としている。

 

「それに挑発して俺に大量のフォニックゲインを放たせてそれをガングニールで束ねて、アガートラームのエネルギーのベクトル操作を使い六人全員に均等に再配置してエクスドライブに至る気だろう?お前の策など知っている」

「ッ!」

 

 キャロルは前の世界で自身の力を利用されて逆に窮地に陥っている。

 そしてそれを知っているためこの場でエネルギーをむやみに放たない。先ほどのようにシャトーに攻撃を放つようなヘマはもうしないだろう。既に頭は冷えたようだ。

 彼女は手にまとう弦を地面に向けるとそれを切り裂き始める。地面や岩盤を弦で釣り上げていく。

 

「単純なエネルギーなら利用されるが…物質に力をまとわせるのならどうだ?」

 

 彼女が生み出した岩のブロックが光り輝いていく。

 前に翼とクリスの前で使った防御技だが新型シンフォギアの攻撃を防げるため相当に硬い。何より単純なエネルギーではないため力を束ねにくく、そもそも一つのエネルギーの流れではなく個々が分離しているため1つ1つはエクスドライブに至るほどの力は溜め込んでいないのだ。

 

「みんな早く抜剣を!」

 

 あの攻撃は通常形態では耐えられないと響は瞬時に判断した。それは全員同じで素早くギアペンダントに手を伸ばす。

 

『イグナイトモジュール、抜剣!!』

 

 全員がイグナイトモジュールを開放する、しかも2段階目の状態で。静かに放出される黒いエネルギーではなく、白いオーラが薄っすらとまとわれている。

 面で圧倒されて逃げるスペースを失ってしまう。そのため迎撃を図るが一つ一つの硬度が高く全てを食い止める事が出来ない。

 

『うわあああっ!』

 

 皆がブロック達に叩きつけられる。

 イグナイトで防御力と身体能力を強化しても耐え切れない攻撃。

 しかし攻撃を受けても諦めない。響はキャロルに向かって飛び出して殴りかかるが簡単に防御壁で受け止めて見せる。出遅れたメンバーも出せる最大の技ですり潰そうと図るがそれも防がれる。

 キャロルは涼しい顔をしている、この猛攻にも彼女は焦りを感じていない。

 

「無駄だ、今のお前達の力の限界は分かっている」

 

 彼女はそう言うと、歌を歌いフォニックゲインを大量放出する。その衝撃波だけで装者全員が吹き飛ばされてしまう。

 もしこれを束ねればエクスドライブに至れる可能性もあったが六人がバラバラに行動した瞬間を狙ってわざと行動を起こしたのだ。

 敢えて逆転の一手をチラつかせて自分の有意を見せつける行為だ。

 響の拳も、翼の剣も、クリスの弾丸も、マリアの短剣も、切歌の鎌も、調のノコもすべてが通じない。

 

 全員が周りの建物に叩きつけられる。

 

「諦めないデス!」

「私たちは負けられない!」

 

 切歌と調は飛び出していく。

 調の大型のヨーヨーがキャロルに向かって飛んで行く。相手はそれを防御壁で防ごうとするが真正面から受け止めるに至らずに斜め後ろに飛んで行く。

 キャロルはそれ不審に思い何処へ飛ぶのか視認しようとするが、そんな隙は与えないと切歌が鎌を叩きつけようとする。

 

「力技……悪くはない……」

「ぐっ……」

 

 手元に生み出した弦を使い鎌を絡み取ってしまい運動エネルギーを消し去る。

切歌は苦しそうな声を出すしかない。

しかしそこで後方に飛んでいたヨーヨーが戻ってきてキャロルを切り裂こうとする。

だがー

 

「そんな子供騙しに引っかかると思うか?」

 

 切歌の持っている弦に包まれた鎌をグイッと引っ張ると攻撃の軌道上に切歌の体を持っていく。

 

「切ちゃん!」

「あっ!」

 

 キャロルへと放った攻撃が切歌に当たる。そう認識して2人は声を上げてしまう。

 咄嗟に切歌は脚装に刃を生み出して受け止めるが勢いに負けて地面に叩きつけられる。

 

「これでもダメデスか……」

 

 ただ悔しそうに歯噛みするしかない。

 

「食らいやがれっ!!」

 

 クリスがミサイルを乱発して着弾、爆風で視界を奪う。

 

「こざかしい……」

 

 忌々しそうに呟くキャロル。

 そこへ、

 

『うおおおおっ!!』

 

 響、翼、マリアの一撃が相手に向かって突き出していく。

 ガキィと人体を貫く感覚ではなく硬い何かに弾かれる嫌な感覚。

 

「これは…………」

 

 響が呆然と言う。

 そこには弦をグルグル巻きにしてミノムシのように全身を覆ったキャロルがいたからだ。その気になればこうして全方位攻撃は防ぐことが出来る。

 

「無駄だと…分からないのか!!」

 

 方向と共に巻き付かれた弦が解けて拡散していき三人を吹き飛ばす。

 叩きつけられて誰もが膝を突いてしまう。

 

 現在、全員の心が折れかけていた。

 勝てない。それだけが装者全員が考えている事だ。

 

「イグナイト形態の制限時間とオレに残された想い出の総量……どちらが先に尽きるか想像できないわけではあるまい?お前達に勝ち目など無い」

 

 キャロルの勝利宣言。それに対して誰も反論することが出来なかった。

 

 しかし、轟音が炸裂してこの場にいる全員が空を見上げる。すると上空にはミサイルが飛んでいた。

 

「何だ…?」

 

 キャロルの一言が全員の考えを代弁していた。

 この状況でミサイルを放てるのはS.O.N.G.だけだろう、しかしここでそんな焼け石に水な行為をする理由が分からなかったのだ。そもそも狙いが甘くキャロルに直撃はしない。

 ミサイルが爆発したと思ったら何かがそこから飛び出してきた。

それが響の前に突き刺さった。

 

「これは…………」

 

 響はそれを見て呆然と呟いた。

 目の前にあるのはデュランダルだ、ルナアタック後もS.O.N.G.が保管をしておいたそれ。この世界ではネフシュタンの鎧と対消滅をしていないそれだ。

 現状本来の性能など出せない、所々にひびが入っている万全とは程遠い状態。

 

「みんなっ!!これを!!!!」

 

 響がデュランダルを握りそれを掲げて、あげた大声に全員がとっさにその意図を察知して反応する。

 

「行くぞ皆!!」

 

 そして翼が音頭を取る。

 

『抜剣!オールセーフティ…リリースッ!!!!』

 

 装者全員がイグナイトモジュールの全機能を開放する。そして、

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl』

 

 六人の絶唱とそれに反応するデュランダル。響達の周りに大量のフォニックゲインが溢れ出していく。

 デュランダルの性能は大量のエネルギーを放出するそれだけのシンプルなものだ。

 かつてのフィーネはそれを利用して月を破壊する計画を立てた。刀身にはひびが入り万全ではないがこの場でエクスドライブに至るだけのエネルギーを放出するだけなら何とか可能だ。

 

「S2CA ヘキサゴンバージョン!!デュランダルを起動して!それをガングニールの力で束ねて!」

「アガートラームで制御!再配置するっ!!」

 

 響とマリアの言葉に呼応するようにただ全方向に溢れ出していただけだったフォニックゲインの奔流は彼女たちを中心にまとまっていく。そして、

 

『ジェネレイト…エクスドライブ!!』

 

 フォニックゲインが上空に向かって吹き荒れていき、これまでの絶望を象徴してた厚い雲を噴き荒らして天から日がさしていく。

 そして奇跡をまとう6人の戦姫が下りてくる。

 

「バカな…………」

 

 キャロルは目の前で起こる、前の世界と全く同じ奇跡を見て呆然としている。

 フィーネの時と同じくデュランダルの放つフォニックゲインを利用して再びエクスドライブモードへと至った六人が、またあの時と同じように上空高く降臨しキャロルを見下ろしていた。

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