過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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再生を目指す

「そうか……いまだにキャロルの行方は知れないままか……」

『すでに決着から七十二時間が経過しています。これ以上の捜索は……』

 

 緒川は戦いの爆心地である都庁前で捜索と事後報告を行っていた。

 結果として今回の一件の主犯であるキャロルの行方はまだつかめていない。

 

「……分かった。捜索を打ち切り帰頭してくれ」

『了解しました』

 

 上司からの指示に素直に肯定の意を示して通話を打ち切る緒川。

 本部は静まり返る。

 

「保護された響ちゃんが無事だったことから、生存していると考えられますが……」

 

 友里が暗い本部内の空気を換えるために、あえて生存へのプラス要素の情報をかき集めて無事である事をアピールする。

 しかし、もう一つの件が空気を明るくすることを許してはくれない。

 

「気がかりなのはキャロルの行方ばかりではありません……」

 

 藤尭が心を痛めながらも言う。

 そうこのままではキャロルだけでなくエルフナインとも別れなければいけなくなるかもしれないのだ。

 

 

 響は車いすに乗っていた。

 理由は単純で一ヶ月近く拘束されておりまともに筋肉を動かさなかったため体中がバキバキでリハビリが必要になったのだ。

 一応キャロルが錬金術などで筋肉や栄養面で色々とカバーしていたが体への負担が消える事は流石に無い。

 あの時戦えたのはギアをまとっていたのとアドレナリンがバンバン流れていたからだ。

 そのドーピングが切れてただの人間になれば、体が思い出したと言わんばかりに全身が激痛でうごかせなくなった。

 幸いだったのは筋肉の疲労は手術が要らずにじっくりとリハビリをすれば問題なく治せるという事だ。

 ただもう融合症例ではないため人並レベルの回復速度でしかない。

 

「車椅子軽いね、響かなり痩せてるよ。ごはんあんどごはんだね」

「いや~早くモリモリ食べたいよ」

『……………………』

 

 未来の軽口に合わせる響。

 しかしそのやり取りに誰も笑わない。

 

 ここには装者六人と未来が病院の廊下に集まっている。

 この場所は病院なのだが全員の目的は響の見舞いだけではない。エルフナインの見舞いの方が全員の主目的だった。

 そのため敢えて明るくしようと軽口を叩く、二人につられて朗らかになる人はいない。全員が俯くか、不安そうにするか、顔をしかめている。

 まるでこれからはいる入院室を前に辛気臭いものはここで出し切っておくと言わんばかりに。

 

 キャロルを止めた後、エルフナインはそのまま手術の受け入れが可能な病院に緊急搬送された。

 あの日友里を庇い屋根の破片が腹に突き刺さり、その出血により瀕死の重傷を負ったエルフナインが彼女たちが待機している病室にいる。

 診察を終えた医師が病室から出てくる。もう見舞いに入っても良いよと言う合図。

 

 マリアが最初に病室のドアをノックする。

 

『……どうぞ』

 

 ノックに対してかすれた声が返ってくる。

 元々そこまでハキハキと話すわけではないが明らかに元気が無いのが伝わってくる。

 返事を聞いて、そして少しだけ息を吸って開ける。

 

「邪魔をする」

「はいこんにちは」

 

 翼の固い挨拶に朗らかに返すエルフナイン。

 

「来てくれて嬉しいです。毎日すみません……」

「夏休みに入ったから大丈夫だよ」

 

 エルフナインの申し訳なさそうな言葉に気にするなと返す響。

 

「夏休み…?」

 

 どうやら彼女にはその知識は無いらしい。疑問符付きで回答を求めてくる。

 あれだけ豊富な知識と、聖遺物を扱う腕前を持ちながらなかなかピーキーな子だなと全員の意見が一致する。

 

「楽しいんだって夏休み」

「あたしたちも初めてデース!」

 

 まともに学校自体通うのが初めてな調と切歌もわくわくが止まらんと言った感じだ。

 

「早起きしなくていいし、夜更かしもし放題なんだよ?」

「未来の日常じゃん」

「あんまし変な事吹き込むなよ…」

 

 未来がエルフナインの目線まで腰を折って誤解を招きそうな知識のインストールを図りに行く。

 それに冷徹にツッコミを入れる響とクリス。

 この世界では未来はまともな生活リズムなどゴミ箱にダンクシュートだ。

 

「あ、そう言えば夏祭りが近所の商店街であるよね」

「夏祭りですか…?どういうことを…?」

 

 響が話題の提供を図る。

 エルフナインはどんな話題でも食いついてくる。コピー元であるキャロルも案外好奇心旺盛な性格なのかもしれないなと響は予想する。

 

「お祭りには出店が沢山あってねー、焼きそば、綿あめ、たこ焼き、りんご飴、フランクフルト、お好み焼き、たい焼き、焼き鳥、焼肉、チョコバナナ、アメリカンドッグ、イカ焼き、いちご大福、おやき、トウモロコシ焼き……」

「食べる事ばっかりじゃない!?」

 

 食い意地しかない話題のつなげ方についツッコんでしまう未来。

 皆は体がボロボロなのによく食べる事ばかり考えられるなと言った感じだ。

 

「ここだけの話盛り上がってくるとマリアさんのギアから盆踊りが流れてくるんだよ?」

「…………」

 

 響のジョークにエルフナインはえ?本当に?といった感じでポカンとする。

 そして、反対側にいるマリアの方を向いて、

 

「本当ですか?」

「本当なわけないでしょうっ!」

 

 エルフナインの疑問を含む視線にすぐさまマリアは否定を込める。

 そんな誤解などごめんだと言わんばかりに。

 

「大体そう言うのは私のギアより翼のギアの方がお似合いよっ」

 

 マリアの一言に全員の脳内に両手に剣ではなくバチをもって「セイヤッ!」と掛け声を口にする翼の姿が。

 病室が笑いにあふれるが、翼はいじられて面白かろうはずがなかった。

 

「なるほどなるほど……皆がアメノハバキリについてどう認識しているかがよーく分かった……」

 

 肩眉をぴくぴくさせているがエルフナインの手前爆発はしない。

 

「ボクにもまだ知らない事が沢山あるんですね……」

 

 表面上は朗らかな空気が流れる病室で突如としてエルフナインは言う。

 

「世界や皆さんについてもっと知ることが出来たら……今よりずっと仲良くなれますでしょうか……?」

 

 その一言はまるで遺言のように感じられた。

 少しでも誰かの心に残るように爪痕を残そうと彼女なりに考えているのだ。

 誰もがその意図に気が付いて息を吞んでしまう。

 

「大丈夫だよ」

「え……?」

 

 響はそんな彼女の手を取って確信に満ちた声で言う。

 エルフナインもその声に驚いている、何が彼女にそこまでの自信を持たせるのだろうかと。

 

「それにはやく元気にならなくちゃね?」

 

 

 長時間いると体に障るので全員が退室をすることに。

 

「じゃあまた明日ね」

「ごきげんようデース!」

 

 調と切歌が別れの挨拶をしてドアを閉める。

 その場で解散という流れになった。

 

「響も自分の部屋に帰らないとね?」

「そうだねまだ座りっぱなしはキツイや」

 

 未来が車椅子を押して響の入院している部屋まで連れていく事になる。

 

「…………」

「…………」

 

 しばしの間無言だったが未来が話を切り出す。

 

「響…エルフナインちゃんはさ……」

 

 心苦しそうだ。

 助かるのなら医者ももっとはっきりと説明をしているはずで、どちらかと言えばはぐらかすような現状説明は状態が芳しくない事を物語っていた。

 そしてそれはあの場にいた全員が共有している事実で、その中心にいるエルフナインも気が付いているはずだ。

 しかし響は、

 

「大丈夫…って自信を持って言いたいけど…エルフナインちゃんはすぐに元気になるよ…きっとね……」

 

 響は悲しそうな声色で言う。

 未来は車いすを押しているためどのような表情をしているのか分からなかったが、自分には到底理解できない部分で何かを考え込んで、押しつぶされようとしているんだなと察する。

 

「響、手遅れになる前に周りにちゃんと相談しなよ?」

「…………」

 

 あの日とは違い返答は帰ってこなかった。

 もう既に手遅れなのだから、もうすべてが終わってしまった後なのだから。

 

 

 夜の病院の裏口そこに人影があった。

 

「…………」

 

 彼女は薄っすらと何かに引っ張られるようにこの施設に足を運んでいた。

 何かは分からない、だた心がこの場所へ行けと告げていた。何となくだが引っ張られるように足を進めていく。

 初めてくる場所なのに迷うことなく目的のある部屋の前に着く。

 

 

 電子モニターのピッ…ピッ…と言う心拍音を示す音が定期的に流れている病室。

 

「…………ッ」

 

 そこでエルフナインは眠っていたがその寝息は若干だが苦しそうだ。

 今の彼女はいつ容体が悪化して死んでもおかしくないのだ。それに昼間は装者達の前で気丈にふるまってしまった分の疲労が夜になって襲ってきている。

 すると部屋のドアが開けられて誰かが入ってくる。

 若干だがドアを開く音と足音がしたため、エルフナインは目を覚まして音の発生源に視線を向ける。

 

「……キャロル……?」

「……キャロル?それがオレの名前…?」

 

 エルフナインの確認にキャロルは疑問符で答える。

 彼女はとっさに今キャロルに起きている症状に察しがついた。

 

「記憶障害……」

 

 呆然と呟く。

 世界をそして装者達を相手取った結果残ったのがコレだ。

 余りにも残酷な罰であり、また彼女にとっては一種の救済でもあるのかもしれない。

 そしてその結果は響にとっての至らなさだ。

 

「想い出のほとんどを焼却したばっかりに……」

 

 エルフナインはキャロルから視線を外して目を閉じてそう言った。

 この場合に相手に対して何を言ったらいいのか、彼女が培ってきた知識の中には回答が存在しなかったのだ。

 キャロルは静かにベッドの横に歩いていく。

 

「全てが断片的で……霞がかったように輪郭が定まらない……」

 

 まるで寝ぼけているようにぼんやりとした感じで話す。

 

「オレはいったい何者なのだ…?」

 

 もはやキャロル・マールス・ディーンハイムではない真っ白な誰かはそう言った。

 視線で自分と瓜二つの容姿を持つ相手に問いかける。

 

「目を閉じると瞼に浮かぶお前なら……オレの事を知っていると思いここに来た……」

 

 淡々と話す。

 エルフナインは目を開けて話す。

 

「君はもう一人のボク…」

「オレは……もう一人のお前……?」

 

 二人は要領の得ない会話を繰り返す。

 キャロルは相手が何を言っているのか理解できなかったはずだ。

 

「ええ…二人でパパの残した言葉を…追いかけてきたんです……」

「ッ…!…パパの言葉……?」

 

 エルフナインの言葉に相手に明らかな動揺が見られた。

 やはり記憶が消えたとしても魂には大切なものの因子が根付いているのだ。

 

「そ、んな大切なことも…オレは忘れてっ…!」

 

 キャロルは瞳を閉じて必死に脳内の想い出をかき集めようとする。

 しかし、瞼の裏には何も浮かばない。

 自分がパパと呼ぶ存在が浮かばない。

 

「教えてくれ…!」

 

 ベットの傍に膝を折り両手を組んで懇願する。

 

「こうしている間にも…オレはっ……どんどんっ……!」

 

 そう言って目をつむり組んだ手を眉間に添える。

 彼女のその体は若干だが震えている。

 現在進行形で残っている断片的な映像すら消えているのだろう、感じる恐怖は想像を絶する。それにキャロルは必死に耐えている。

 

「…………けほっ…うっ……!」

「お前っ…!」

 

 そんな相手を黙ってみていたエルフナインだが突如せき込み始める。

 キャロルもこれには慌てて声をかける。

 やがてせき込むのは止まったが彼女の手と口元にはべったりと血が付いていた。

 

「順を追うとね…一言では伝えらえないです…ボクの体もこんなだから……」

「オレだけじゃなく、お前も消えかけてるんだな……」

 

 エルフナインの言葉にキャロルも自分たち二人が置かれている状況を正しく理解できた。

 もうお互いに忘れてはいけない、絶やしてはいけない大切なものを共有する時間が足りない。

 エルフナインはそんなキャロルを見て視線を外して上を病室の天井をぼんやりとみる。

 それは天井を見ているのではなく、自分には手の届かない何かを仰ぎ見ているかのようで。

 

「うん…………」

 

 一言相手の確認に肯定する返事があった。

 

「世界を守れるなら……消えてもいいと持ってた……」

 

 そう言ったエルフナインの瞳から一筋の涙が流れる。

 

「でも……」

 

 付け加える。

 どこまでも自分勝手で、それでいて誰もが心に据えている願いを。

 

「今はここから消えたくありませんっ……!」

 

 思いを口にした。

 キャロルの瞳に何かの揺らぎ。そしてふと目の前にいる少女の願いを叶える方法が頭に浮かんだ。

 誰に言われるわけでも無く、自分の中にある何かにそうしろと言われている気がした。

 

「ならば…!もう一度二人でっ……!」

 

 キャロルはこれを行えば自分がどうなってしまうのか何となくだが想像できた、一瞬だけ顔を歪めてその恐怖を感じた。

 そして意を決してエルフナインにキスをした。力強く手を握りお互いに恐怖から耐えていた。

 その瞬間二人の中にある何かが交換されてエルフナインの体から青白い炎が生まれて体を包んでいく。

 

―ピッ…ピッ…ピッ…ピー…………

 

 

 現在入院している響を除いた装者五人と未来はエルフナインの心拍が途絶した事を聞いて慌てて深夜の病室内を走っていく。

 全員がエルフナインの病室に着くと、ドアの横で二本の松葉杖を傍に置き体育座りのまま膝で顔を隠して俯いている響がいた。

 よく見ると肩が震えている、どうやら泣いているようだ。

 響のその態度と知らされたエルフナインの容態を知って、一番あって欲しくない可能性や予感が嫌な確信へと変わろうとしていく。

 泣いている響を置いてすぐさまエルフナインの病室へと入る。

 

「…………」

 

 静かに先ほどまで誰かが寝ていた体温という痕跡が残るベッドを見やるキャロル。

彼女たちからはその表情が見えない。

 

「キャロル…………?」

 

 その光景を見て皆は黙り込む、そして代表して未来が問いかける。

 相手はふるふると首を横に振って答える。

 振り返るとその顔はキャロルその人なのだが目元が少しだけ柔らかいように見えた。

 

「ボクは……」

 

 

「うおおおっ……」

 

 響はリハビリルームで痛みをこらえながらも必死に汗を流していた。

 あの日、魂いや想い出をキャロルの体に移し替えたエルフナインは一瞬で元気になりあっさりと退院したのだ。

 それを聞いたときは知っていた事とはいえ納得できねーっと思ったものだ。

 

「ガングニールさえあればこんな怪我っ…!」

 

 ないものねだりをしながら響はコツコツ頑張る。

 

 

「楽しいはずの夏休みは何処へ……?」

「だけどどうしてクリス先輩は余裕なんデスか?」

 

 調と切歌はクリスに見張られながらも課題と悪戦苦闘していた。

 通常の授業を受けるよりも基本的に復習がメインの夏休みの宿題は、内容的にも量的にも通常の通りに学校へ通うよりも余裕のスケジュールのはずなのだが、何故か損した気分になるのだ。

 何で家で勉強しなくちゃならないのかと……

 

「いい機会だから教えてやるっ!」

 

 よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりにいつでも見せられるように懐に忍ばせていた成績表を取り出す。

 

「こう見えて学校の成績は悪くないあたしだ!」

 

 これが目に入らぬか!といった感じで成績表を見せびらかすクリス。

 こう見えて、つまり彼女はちょっと背伸びして悪ぶったマイルドヤンキーの自覚ありだった。

 

「うそっ!?」

「うんっ!?」

『うおっ!』

 

 最初に自分でこう見えてと言ったくせに調にそれを指摘されたらガンを後輩に飛ばす先輩、悪質にもほどがあった。

 

「いい、今言ったのは調デス!」

 

 そう言って切歌は犯人を指さして親友を売る。

 

「私を守ってくれる切ちゃんは何処に行っちゃったの……!」

 

 そんなやり取りをしている間にもクリスの不機嫌メーターはどんどん溜まっていく。

 

「ちゃっちゃと宿題片づけろおっ!!!!」

 

 

 翼と緒川はもう一度夢に向かって進むために空港内を歩いていた。

 

「翼さん」

「はい?」

 

 緒川が前を見てと促す。

 そこにはマリアがいた。既に彼女はS.O.N.G.の正式なメンバーなので海外に行く必要はなく切歌や調の二人と暮らしても問題無いのだ。

 

「たまさか私もイギリス行なのよね?」

「たまさかね」

 

 マリアの妙な言い回しを笑ってリピートする翼。

 彼女からすればお前には言われたくない案件だが。

 

「うっ…この剣可愛くない!!」

 

 

 翼とマリアを乗せた飛行機が日本を離れて行くのを弦十郎と八紘は空港の外から見守っていた。

 

「見送りもまともに出来ないなんて父親失格だな?」

「私たちはこれで十分だ」

 

 弦十郎のさりげないいじりにも笑顔で返す八紘。

 血の繋がった兄弟ならではの気心の許せる距離感があった。

 

「それよりも弦」

 

 笑顔を止めて真剣みの増した顔で切り出す。

 

「今回の魔法少女事変どう考える?」

 

 今回のキャロルが起こした一件は魔法少女事変という名前で呼ばれることになった。

 弦十郎は顔を険しくして言う。

 

「……米国の失墜に乗じて…欧州の胎動…」

「あるいは…………」

 

 何か大きなことが始まろうとしている、その事だけは分かる。

 

 

「おそくなりました!」

 

 すっかり回復したエルフナインがブリッジに飛び込んでくる。

 

「遅刻だぞー」

 

 藤尭の気軽な感じの声。

 もうエルフナインはその場限りの協力者ではなく正式なメンバーだ。

 

「はううぅっ~ずびばぜん……」

 

 謝罪と共に照れくさそうに下を出す。

 

「さて早速解析の続きを始めましょうか」

 

 友里は仕事だと話始める。

 未来がウェル博士の懐から出てきて確保していたチップだ。それには大きな秘密や情報が入っているはずだ。

 

 

「ううぅ~っ!」

 

 今未来が手にかけているのは小日向家のインターホンだ。

 フロンティア事件の際にちろっとだけ外から中を見たが今回は違う。

 S.O.N.G.に両親がいるタイミングを調べてもらい、直接再会して失踪した二年間で何があったのか全て話すのだ。そして自分のしてきた事への謝罪をするのだ。

 ちなみに職員の人に機密の説明の為に帯同してもらっている。

 

「平気へっちゃらだよね」

 

 昔親友が頻繁に使っていた口癖をつい使ってしまう。

 そんな自分がおかしくつい笑ってしまう。

 

「……そう言えばいつの間にか響ってこれを言わなくなったよね?いつからだっけ?」

 

 ふとそんな思考を巡らせるがまずは両親の方が大事だと切り替えて勇気を出してインターホンを押す。

 

『はい……どなたでしょうか?』

「…………」

 

 母親の声が機械越しとはいえ分かる。

 未来はつい固まってしまう。

 今なら逃げる事だって出来る、正直会いたくない、今更会ってどうするんだと言った気持ちが強い。

 

「……未来です…お母さん……」

『えっとその手のいたずらは……』

 

 未来の言葉に訝しげに返される。

 恐らく娘が失踪してからいたずらで嫌がらせのインターホンや電話を受けたのだろう。

 

「本物です、家のリビングから見てみてよ」

『…………』

 

 間抜けな文言だが相手は黙り込む。

 音が遠かったが父に外を見てもらう様に頼んでいるのが何となくだが聞こえる。すると父とバッチリと目が合う。

 慌てて内に戻ると両親が正面玄関から飛び出してくる。

 

『未来っ!!』

 

 そう言うと未来の両親は泣きながら娘に抱き着いた。




響の影うっす
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