翼とクリスは未来の紹介した病院に向かって翼が運転する荷台付きトラックにステファンを乗せて連れて行っていた。
荷台にはステファンを挟んでソーニャとクリスが体育座りで座っていた。狭いのもあるがそれよりもお互いに縮こまってしまっているのだ。
ソーニャはじっと弟に視線を固定しているが、クリスはステファンとソーニャに視線が行ったり来たりしている。
「っ…」
何か声を出そうとしても掠れた空気の音しか出ずに、トラックの駆動音にかき消されてしまう。
ソーニャ・ヴィレーナ、かつて雪音夫妻が掲げた世界を歌で平和にしたいという思想の賛同者の一人。クリスからすればいつも優しくて自分に構ってくれた姉のような人物だった。
ある日キャンプに持ち込まれた爆弾でクリスの両親は亡くなった。その爆弾はソーニャの不注意で持ち込まれた物だった。
「ッ!」
そこでソーニャと先ほどまで行ったやり取りを思い出す。
『あなたが私を許せないように私もあなたが許せない!』
『さっきはああするしかっ……アルカノイズの分解から救うには…足を吹っ飛ばすしかなかった!…仕方なかったんだ……』
ソーニャは立ち上がってクリスに正対し、理屈ではなく感情でクリスにやるせない怒りをぶつけてしまう。勿論そこには正当性など存在し無い、あるのは剥き出しのエゴだ。
ステファンの足の件とクリスの両親の命を己の不注意でキャンプ内に入れてしまった爆弾が奪った事に何一つとして因果関係など無いのだから。
クリスは己の不注意が招いた一面があったとはいえ、相手に正論をぶつけて黙らせようとする。ただし己の不注意からの後ろめたさからか俯き尻すぼみになってしまったが。
『あなたの選択は正しいのかもしれない……!……だけどっ……!』
ソーニャは涙を浮かべてクリスに何かを言おうとする。しかしクリスの顔を真正面から見る事だけは出来ずに視線が斜め下を向いてしまう。
『じゃあステファンが分解されて死ねばよかったのかよ!?』とクリスが感情任せに言わなかったことだけは数少ないこの場での救いだった。
(何でこんなにもやるんだっ……!あたしの選択ってのはいつもいつもっ……!)
クリスは右手を握りしめて苦悶の表情で歯を食いしばる。堪えていた、ただ叫びたいのだ、あたしが何を悪い事をしたんだ!と。
「……………………」
翼はトラックで運転する傍ら荷台の様子をバックミラーで見ていた。
そしてふと思い出されるのは、まだS.O.N.G.が2課と呼ばれていたころの時代に響が了子のメディカルチェックを拒否した時に言った言葉。
『それに…誰かのために行ったことが必ずしも相手にとって正しい結果になるわけじゃないですから…』
それは人と人との間に生まれる不和の一面を象徴する言葉だ。まさに今目の前にあるそれはピッタリと当てはまった。
「あなたとはあの混乱に話も出来ずにはぐれてしまった……だからこんな形で再会したくなかった……」
「ぁっ……」
ソーニャがふと切り出した言葉にクリスは何も言い返せなかった。鋭く切り込まれ傷ついたのではない、何を返せばいいのか脳裏に浮かばなかったのだ。
だから一瞬反応して顔を上げたがすぐに俯くしか出来ない、するとステファンの左手がクリスの靴に触れている事に気が付いた。
彼は痛みと出血多量で意識が朦朧としながらも何かを求め、そして伝えるために手を伸ばしている。
「…………」
彼女は恐る恐るその手を取ろうとする。一瞬だけビクリと躊躇うが勇気を出してその手を取った。
ピリリ…と翼のインカムに本部からのコールが鳴る。
「はい翼です」
彼女は左手を耳に当ててインカムの音がトラックの駆動音で掻き消えないようにする。
『エスカロン空港にてアルカノイズが発生』
『現場にはマリア君たちを向かわせている』
未来の報告と弦十郎がその対処に向かわせた人物を告げる。
「しかしマリア達は……」
『マリアさんたちはリンカーの効果時間内で決着させるつもりです』
翼の懸念に答えるエルフナイン。
「了解です。都市部の病院に負傷者を搬送後、私達も救援に向かいます」
◎
空港には火の手が上がり人に叫び声と断末魔が溢れていた。
突如としてアルカノイズが現れて手当たり次第に建物や人々を襲い始めたのだ。
「こいつら味方じゃないのかよ!?」
「そんな見た目じゃないだろ!」
アルカノイズを殲滅の為にマシンガンを乱射しながら叫ぶバルベルデの兵士たち。
しかしあっさりと解剖器官に接触して赤い霧と変貌する。位相差障壁の力が弱いため実弾が全く効果を成さないわけではないが如何せん数が多いため対処しきれない。
建物屋上でその光景を見ているカリオストロ。
「派手に暴れて装者たちを引きずり出すワケだ……」
そこへ背後からプレラーティが現れて声をかける。
「あら……手伝ってくれるの?」
「ワタシは楽しい事優先……ティキの回収はサンジェルマンに押し付けたワケだ……」
そんな会話をしているとヘリコプターの駆動音が響く。彼女たちが上を向くと装者たちが飛び出そうと構えていた。
「待ち人来たりっ」
カリオストロがウインクをしながら言う。
敵の位置を認めたマリアがヘリから降下しながら唱える。
『Seilien coffin airget-lamh tron』
三人はギアをまといながら空中で敵を見定める。
調は滑走路内で暴れまわるアルカノイズ達をツインテール型のヘッドギアから小型ノコを大量に射出して倒し、これ以上の人的被害を防いでいく。
マリアは錬金術師二人に向かって直接蹴りを入れに行くが簡単にかわされる。
「のっけからおっぴろげなワケで……ならばさっそくっ…!」
避けたプレラーティは顔を歓喜と狂気に染めて、手にヨナルデパズトーリの召喚術式を発動させようとする。しかし、背後から切歌のアンカーが飛んできて体を縛られて拘束されてしまう。
「早速捕まえたデス!」
切歌がしてやったりといった感じで言う。
「もうっ!何やってるのよ!」
カリオストロは怒りよりも遊ぶなと言った感じで声をかける。マリアはそんな隙を見逃さずに右手に逆手に持った短剣で斬りかかりに行く。
「おっと!」
相手は剣先を簡単にかわしてくる。マリアはそのまま追撃を図るが、今度はカリオストロは牽制に蒼いエネルギー弾を飛ばしてくる。それをギリギリの間合いでかわして詰めに行く。
「今度はこっちで無敵のヨナルデパズトーリよ!」
そして後ろに下がって距離を取って切り札の召喚術式を右手で発動しようとするが、
「ハアアアッ!」
そんな事はさせないとダッシュで詰めて装甲の厚い左手で顔面を思いっきり殴り飛ばす。
「攻撃の無効化!鉄壁の防御!だけどあなたは無敵じゃない!」
そう言って殴り飛ばす。
吹き飛ばした後も容赦なく手数を増やして追い詰めていく、ヨナルデパズトーリを召喚されたら勝機は無くなってしまうからだ。怪物の召喚を抑えるのは勝利への必須条件だった。
カリオストロは殴り飛ばされたがすぐさま立て直し、手に生み出した光の防御壁で捌いてくる。
マリアは可能な限り隙の無い上段中段下段のコンボを使っているのに余裕そうで焦り一つない。
プレラーティはそんな戦況を見て目をつむって魔法陣を展開させると彼女の体が薄く輝き、拘束していたアンカーを破壊する。
切歌と調は拘束を脱出されると見るや鎌とツインテールノコで同時に斬りかかりに行く。両手に光の防御壁を生み出してその攻撃をこれも捌ききってみせる。出力以前に二人の隙を極力埋めた拘束連携を軽々と防いで見せている。
マリアはラッシュの中で力を入れた一撃を放ちカリオストロの防御壁を破壊して生身に強力な一打を叩きこめると思った瞬間、
「ッ!」
ギアからスパークが発生した。マリアだけでなく全員のリンカーの効果が切れかけてバックファイアにさいなまれてしまう。
『適合係数急激に低下、間もなくリンカーの有効時間を超過します!』
『司令!シュルシャガナとイガリマの交戦地点に……』
『航空機だとぉ!!』
そこで本部の正面モニターに航空機が割り込んでくる。
滑走路で戦っている彼女たちを見てパイロットは、
「人が、割と可愛い子たちがっ!」
「構うな!止まったらこっちが死ぬんだぞ!」
航空機はアルカノイズ達に追いかけられていた。背後には滑走路を分解しながら追いかけてくる地獄絵図が。そう彼らは止まれないのだ。
装者たち三人は本部からの通信と目で見た情報から自分たちと周りにある窮地を素早く把握した。
「調っ!」
「切ちゃんの思うところはお見通しっ!」
「行きなさい!あとは私に任せて!」
一瞬のコンタクトですぐさま三人の意志は統一された。
切歌は強めに鎌を振り回してプレラーティを弾き飛ばしてすぐさま航空機への支援に向かう。
「あの二人でどうにか出来ると思っているワケだ」
「でもこの二人をどうにかできるかしら?」
プレラーティとカリオストロがマリアに向かって言う。それを合図にマリアは再び斬りかかる。ヨナルデパズトーリだけは召喚させないように。
一方で調と切歌の攻撃をアルカノイズ達に加えたがかいくぐった個体が航空機のタイヤを破壊する。すぐさま二人はタイヤの代わりに機体の下に潜り込み手で支える。このまま進んでいては管制塔に激突してしまう。
そんな光景を見たエルフナインは、
(諦めない…心……)
その諦めない心とそれを証明する行動へ感銘を受けており、そしてモニターに映るマリアを見て驚愕する。
(あ、あれはっ!)
マリアの体が薄っすらと青色に輝いてバックファイアのスパークが一瞬だけ和らいだのだ。
やっと見つけた最後のリンカー開発のためのピースを彼女は。
『皆さん!もう一瞬だけ踏みとどまってください!その一瞬はボクがきっと永遠にしてます!ボクもまだレシピ解析に諦めていません!だから…諦めないで!!』
彼女のインカム越しでの強い思いに共鳴したのか、調は後方を支えるのを切歌に任せて自身は前方に移動して脚装のローラーを巨大化させてタイヤのように変形させる。
切歌はアーマーのブースターを全力で噴かせ、足のブレードを巨大化かつ刃の部分をより鋭くして摩擦を限界まで減らしていく。
そしてアンカーを全方に飛ばしてそれを調は素手でキャッチする。そして調のタイヤから極太のスパイクが生まれてブレーキをかける、そしてそれを起点に巴投げの要領で地面から持ち上げて飛び上がらせて管制塔への接触を防ぐ。
マリアは右手に持っていた短剣を籠手に差し込んでかつてのガングニールの時のように槍に近い形状を作り出し、その先からエネルギー波を放つ。放出された白い一撃は錬金術師たちを巻き込んでいく。
『流石です……皆さん……』
人命と錬金術師を同時に相手取ってみせた三人を見て感動といった表情をするエルフナイン。
これまでの無茶とリンカーの効果時間が切れたことで三人のギアは強制解除されてしまう。息が上がっており整えていると煙が晴れた先に無傷の錬金術師二
プレラーティは相変わらずの無表情だが、カリオストロはちっちっちと指を振ってまだまだよと言う余裕のジェスチャー。
「くっ!」
「まだ戦えるのデスか!?」
「だけどこっちはもう……」
既に装者三人はガス欠だ。そしてヨナルデパズトーリの召喚を止める手立てが存在しない。
「おいでませぇ……無敵のヨナルデパズトーリっ」
右手に術式を展開して光り輝いていく。
一番恐れていたあの無敵の蛇型モンスターの召喚を許してしまう。
以前戦った時よりも若干半透明だが、確かに強者の存在感を発するバケモノがそこにはいた。彼女たちの命を刈り取るには十分なその存在を。
「時限式ではここまでなの……?」
マリアも打つ手なしのこの状況では呟くしか出来ない。
そう思った瞬間空から腰のブースターを吹かせた響が飛び込んできた。
『響君!?』
弦十郎もこれには予想外のようだ。
いつの間にやらメディカルルームを飛び出していたからだ。
「うおおおおっ!」
響の勇ましい掛け声と共に蛇に拳が直撃する。
「ふん……効かないワケだ……」
ヨナルデパズトーリ、それの持つ特性を知っているからこそ余裕の笑みでプレラーティは見つめている。
しかし、一向にダメージを跳ね返す事もなく無効化もしない。体が拳の衝撃に耐えきれずに崩れようとしていく。
「なっ……」
「うっ……」
自分たちの予想通りの結果が現れない事に、この戦場で初めて表情に余裕から一変して焦りと驚愕の文字が浮かぶ錬金術師の二人。
「それでも無理を貫けば!」
「道理だってぶち抜けるデス!!」
調と切歌の声と共に蛇の体をぶち抜いて光の粒子に変えて消滅させた。
「どういう事ワケだっ…?」
「も~うっ!無敵のヨナルデパズトーリはどこ行ったのよっ!!」
相変わらず驚愕を張り付けるプレラーティと体をくねらせて苛立つカリオストロ。
「…………」
着地した響だが今の結果に驚きや歓喜と言った感情を一切出さない。
これは先ほどまでマリア達がその無敵性に苦戦していたのをモニター越しに見ていたのなら、あまりにも浮いた反応だった。
響は黙って拳をじっと見ていた。そう神殺し哲学が付与されたその拳を。
あの時親友を討てなかったその手を。
「ここまでだ!パヴァリア光明結社っ!!」
「こっちとら虫の居所が悪くてねぇっ……抵抗するなら容赦は出来ないからな」
響に続いて翼とクリスも空港に到着した。
するとそこに突如魔法陣が発生して、光が弾けるとサンジェルマンが現れた。
「フィーネの残滓シンフォギアよ、だけどその力では人類を解き放つことは出来ないっ」
「…………」
サンジェルマンは自信満々に言い放つ。
響からしたらズレているにもほどがある意見だが何も言い返さない。知らないだけな彼女には何の非も無いのだから。
「フィーネを知っている…?それに人類を解き放つって……」
「…………バラルの呪詛ですね」
マリアは目の前にいる人間がいったい何者なのかを図ろうとした。響はボソリと相手の目的を口にする。
どうやら呪いの単語を口にするだけなら問題なかった、恐らくだが具体的な計画内容を口にする事は出来ないはずだ。
「まさかバラルの呪詛の解除が目的なのかっ!?」
翼は敵の目的を察した。
響達の発言に何も言い返さないサンジェルマン。
「……カリオストロ、プレラーティ、ここは退くわよ……」
「ヨナルデパズトーリがやられたものねぇ…」
「体勢を立て直すワケだ」
サンジェルマンの一言に素直に従う二人。
「未来を人の手に取り戻すために私たちは時間も命も費やしてきた。この歩みは誰にも止めさせやしない」
錬金術師たちは転移用のジェムを使って離脱する。