過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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小さな違和感

「先輩!」

「マリアっ!」

「デス、デス、デースっ!」

 

 本部ブリッジの自動ドアが開くと、クリス、調、切歌の三人か飛び込んでくる。切歌は実際にマリアに飛びついた。

 

「大騒ぎしなくても大丈夫。バルベルデ政府が保有していた資料はこの通りピンシャンしているわよ」

 

 マリアは右手に持っていたケースを掲げてそう言う。

 

「二人ともお疲れ様です、あとみんな響に触れてあげて…」

 

 そして最後に入ってきた未来が二人へのねぎらいと部屋の隅にいる片手で杖を突いてしょんぼりしている親友に視線を向ける。

 実は負傷なり後遺症はほぼほぼ完治している響、念には念を入れて杖を持っているだけなのだ。

 

「それで」

 

 弦十郎はギロリと響を睨んで声を出す。

 

「響君は学校を休んで何故空港に?」

「そ、それはぁ……」

 

 当然の問いかけに響はどもってしまう。

 彼女は体質の問題で答える事が出来ないのでどう誤魔化すか苦慮する。実はあそこに錬金術師が来るって知ってましたなど言えるわけがない。

 全員の視線が一人に注がれる。

 

「つ、翼さんやマリアさんと…早く再会したかったんですよぅ……」

 

 思いっきり目を逸らしながら響は答える。

 

『……………………』

 

 静まり返るブリッジ。誰も響が言ったそれが本当だと思っていない。

 その視線に気がついて汗がダラダラと流れる響。

 

「…………今は響君の事よりも共有しなくてはいけない情報があるから後回しだ。これを見て欲しい」

 

 弦十郎がそう言うと前にあるモニターに結晶の中に埋め込まれた人形の映像が出される。

 

「私たちがバルベルデ政府の秘密施設に侵入した際に撮影した人形よ」

「これってオートスコアラーですよね」

 

 友里の報告に話題を画像のオートスコアラー一色にしようと切り出す響。

 オートスコアラー、その単語が出てきた途端に全員の空気が剣吞なものになる。

 二ヶ月ほど前に現れたキャロルの手足として動いた、他者の想い出という電気信号をエネルギーとして動き回り数々の被害者を生み出し、そして高い戦闘力でシンフォギアを圧倒して見せた相手。

 なによりイグナイトモジュールの旋律を手にするために、わざとやられる事で装者たちを利用してみせたその狡猾さを皆が思い出していた。

 

「前大戦時、ドイツは化石燃料に代替するエネルギーとして多くの聖遺物を収集したという。そのいくつかは研究目的で当時の同盟国だった日本にも持ち込まれたのだが」

「ガングニール、ネフシュタンの鎧、イチイバルもそうだったと聞いています」

 

 弦十郎が日本の聖遺物研究の始まりについての説明、そしてそれに翼が持っている知識を使って補足を入れる。

 

「戦後に亡命したドイツ高官が南米にも多くの聖遺物が渡ったとされています」

「恐らくこのオートスコアラーもそうした経緯で渡ったものだと推察されます」

 

 緒川とエルフナインが人形がバルベルデにあった経緯を過去の出来事から一番あり得そうな推察をあげる。

 話題がバルベルデになった事でクリスが髪をいじりだして所なさげにしている。

 マリアは手に持っていたケースを緒川に渡す。

 

「全てを明らかにするにはこのバルベルデ政府が保有していた機密資料を解析するしかありません」

 

 受け取った緒川はこれから行うべきことを簡潔にまとめる。

 

「空港に錬金術師がいた事からパヴァリア光明結社は日本に潜入している事は明らかだ、くれぐれも注意を怠らないで欲しい」

「…………」

 

 弦十郎が注意喚起をするなかで響は軽く俯くクリスを心配そうに見ていた。

 

 

 先ほどまで緊急ミーティングありそれが終わってから響は夕日がかった中にぽつんと立っていた。

 

『次のニュースです。先日、アメリカ合衆国の領海内で救出された遭難者がバルベルデ共和国からの亡命を希望している事が明らかになりました』

「…………」

 

 杖を突いて立っている響は街中のパブリックビューイング前で未来に呼び出されて待っていた。

 すると遠くから声がかけられる。

 

「おーい響ーっ!ごめんねエルフナインちゃんとの話し合いが長くなっちゃった」

「ううん、リンカーだよね?おつかれさま」

 

 二人は待ち合わせ場所で集合した。

 

 

「未来?どうしたの、ファミレスなんて」

「うん、響何か悩んでそうだったし。無理のない範囲で話してみなよ」

 

 響と未来は現在ファミレスにいた。未来が軽く軽食でもしようと誘ったのだ。当然響は誘いは断らない。

 響は未来の言葉にふと少し前の事を思い出した。

 

『そっか、でも手遅れになる前に周りにちゃんと相談しなよ』

 

「…………悩みか…そうだね色々あるけど……うんクリスちゃんがやっぱり心配だよ…」

「…………何のこと?」

「詳しく何があったのかは教えてもらえなかったけど、不注意で民間人に負傷者を出した事を自分の事のように悩んで背負っていると思うんだ」

「…そっか…噂になっちゃったんだ…」

 

 響は悩みの一つをとりあえず口にする。

 

「もし私が怪我してなくてさ……その現場にいたらって考えちゃんうんだ」

「それは……難しい問題だね……」

 

 響がいればプラントの工場長のいる場所に素早く先回ることも、そもそもその場から逃がさずに拘束できた可能性は高かった。自分勝手だが責任を考えてしまう。

 一方で未来は現場にいたらという単語に反応してしまう。彼女は怪我では無いが、別の理由で力を失って戦場においては戦力外だからだ。

 

「大きなお世話だっ!」

「おお……」

 

 突如後ろのボックス席からひょこっと出てきたクリスが響に声をかける。一応出てくるかもしれないと心構えをしていたので大きくは驚かない。

 

「誰だよ勝手に話した奴は!」

「その言い草は無いだろう雪音。二人はお前を案じているんだ」

「あ、翼さんさっきぶりです」

 

 翼がクリスの突き放しっぷりを咎める。未来は最低限の形だけの挨拶を行う。

 

「私達だけでなく皆が雪音の事を心配している」

「分かってるっ!けどほっといてくれ、あたしなら大丈夫だ」

 

 クリスは強張った怖い顔で言い張る。

 翼とクリスが話す間に響と未来は店員に頼んで翼とクリスが使うボックス席に移動する。結果として四人で机を使用する事になる。

 

「あれはああするしかなかったし……同じ状況になればあたしは何度でも同じ選択をする!」

「……それが雪音にとっての正義の選択というわけか……」

 

 最後の選択については揺るぎのない瞳で言い切った。静かに翼はクリスの覚悟を受け止めた。

 

「同じ状況になれば……何度でも……」

 

 響はポツリと言った。

 もしクリスも自分と同じように過去の世界に戻ったとしたら、再びイチイバルを握りしめて抗いようのない残酷な世界に牙を突き立てようとするのだろうか?両親の死そのものを無かったことにする?フィーネを必死に説得する?そんな事を考える。

 クリスはここで響に何故か噛みついた。

 

「そーいやお前。色々と悩みがあるって言ってたな!ほら暴露しろ!!」

「え……ええっ…!」

 

 クリスは自分ばかり抉られたのが気に入らないのか響を突っ込んでやろうと思ったようだ。

 翼も未来も興味深そうに響をじっと見つめている。

 

「う……」

 

 三方向からの視線に呻いてしまう。

 悩みなら腐るほどあるが目下最大の悩みは錬金術師、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ三名の命を救う算段と、アダムの神の力の降臨を防ぐ算段が全く立ってない事だ。

 

 響がどれだけ頑張ろうと巧妙に隠れ回っているパヴァリア光明結社のアダムの位置を特定して先んじてボスの撃破もしくはティキの破壊など夢物語なのだ。それ以前に幹部一人すらイグナイトモジュールを使ってもタイマンでは勝てない。

 このままいけばティキの放棄した神の力を響が受け入れてしまい、力の器であることがバレて風鳴訃堂がその力を手にしようと躍起になるはずだ。神獣鏡の光をその身に浴びていない未来が狙われる事は無いが、それなら次に狙われるのは響だ。

 もしシェム・ハが復活したら前の世界と同じ結果を辿ってしまう。

 

 そもそもこれまでに櫻井了子の死、未来をテロリストにしてしまった件、キャロルが想い出を燃やし尽くした件、響は何も覆せなかったむしろ悪化させたくらいなのだ。

 今回もまた自分は無力のまま終わるのではと考えてしまうのだ。

 

 そしてその悩みを口にする事は出来ない。

 

「…ぁ…っ…………」

 

 響は微かに呻いたのちに黙り込んでしまう。

 本当に不味いのだ黙るのだけは。何か言わないといけない、でもいつものように誤魔化そうとしたり煙に巻こうとする言葉が出てこない。全身の筋肉が硬直してしまう。

 

『……………………』

 

 三者から不安そうな視線が向けられてしまう。

 気まずい沈黙が支配する中、プルル…と端末が鳴る。

 

「はい響ですっ!」

 

 このチャンスを逃すまいと素早く端末を取って本部からの通信に答える。

 

『アルカノイズが現れた。位置は第十九区域北西Aポイント!そこから近いはずだ!急行してくれ!』

 

 

 アルカノイズが発生した地域は資材置き場の一角だった。

 響ははや走りでその場に急行した。響の思った通りに通常のノーマルタイプのノイズしかいなかった。

 

『Balwisyall nescell gungnir tron』

 

 響達は素早くギアをまとってアルカノイズの群れに突貫していく。

 響が突貫して拳を突き出せば当たった相手と風圧だけで粉々に砕いていく。

 翼の剣は触れるだけで豆腐のように軽く切断されていく。

 クリスのボウガンから放たれる矢型エネルギーは敵を穴ぼこだらけにしていく。

 今更アルカノイズが出てきても幾度となく修羅場をくぐり抜けて来た戦姫たちの相手にはならない。

 

 そんな風景をプレラーティとカリオストロは近くのビルの上から高みの見物としゃれ込んでいた。

 二人の背後に転移魔法陣が光り輝く、誰かがこの場所に移動してきているのだ。

 

「ようやく到着というワケだ」

 

 プレラーティは背後に顔を向けながら飛んできた人物に声をかける。

 その姿に前と違い緊張は無い。何故なら現れたのは味方のサンジェルマンだからだ。

 

「首尾は?」

「まだ誘い出したところよ?」

 

 サンジェルマンの要求にカリオストロは簡潔に答える。

 それを聞いて彼女は手に持っていたダイヤル錠に魔法陣を発生させてカシャッと中身を開いて取り出す。中にあったそれはアルカノイズの召喚結晶だった。

 

「試作に終わった機能特化型の使い時…」

 

 その一つをつまむ。

 

「その力見せてもらいましょう」

 

 下で奮闘するシンフォギア装者達を見ながらつまんだそれを投げる。

 地面に触れたそれが赤く輝く。

 

「あれはアルカノイズか?」

「新手のお出ましみたいだなっ!」

 

 見慣れた赤い光に警戒を高める二人。何度も見てきたアルカノイズの召喚光。それが強く華夏がいたかと思ったら次の瞬間には、辺り一帯が星たちで埋め尽くされたプラネタリウムのような空間になっていた。

 

「何かの結界…多分さっきのアルカノイズの仕業」

 

 響は取りあえず誰もが思いつきそうな答えを口にする。

 今の装者たちは本部のカメラからロストしており、ギアの集音機でしか向こうの様子を見れない状態になっている。彼女たちは空間を閉じることに特化したアルカノイズに閉じ込められていた。

 ふと翼が遠くを見るとアルカノイズ達が装者を討ち取らんと走って向かってくる。

 翼は両手に刀を持って斬りかかる。先ほどと同じあっさり切り裂くことが出来たのだが、切り口がすぐさま癒着して元通りになって復活してしまう。

 

「バカな!」

 

 今まで簡単に倒せた相手が明らかに耐久力を増している事に翼は驚愕を口にするしかない。

 響の拳も殴ってサンドバックを殴るような手ごたえはあるのだが粉々にするには至らないし、クリスの弾丸も当たって穴ぼこになるがその先から傷が埋められて元通り。

 

(前と同じ……)

「全部通らねえのか!?」

 

 予想通りの結果に冷静な響と、予想外な現状にクリスの驚愕の叫び。

 本部も音声でおおよその装者が置かれた状況を理解した。

 

『まさか適合係数が下がっている…?…でもいったいどうやってアンチリンカーか……?』

『いえ各装者の適合係数に低減は見られません』

『装者が閉じ込められている空間は何かしらの方法で攻撃力を下げるのではなく、アルカノイズ達の防御力を上げているんだな』

 

 藤尭の予想に友里がデータをもとに否定する。弦十郎は現状の情報からまとめた情報をくちにする。

 

『皆さんの閉じ込められている半球状に展開されている亜空間ではアルカノイズの位相差障壁がフラクタルに変化してインパクトによる調律を阻害しています』

『ギアの出力が下がったように感じるのはそのためです』

 

 エルフナインと緒川がシンフォギアの攻撃が通じなくなった理由を装者に向けて説明する。

 

「じゃあイグナイトで攻撃力を底上げすればいいんですね」

「呪いの剣…抜きどころだっ!」

 

 響はその報告を聞いてすぐさま抜剣を提案する。2人もそれに反論はない。

 

『イグナイトモジュール、抜剣!』

 

 三人はギアペンダントを宙に飛ばして刃を胸に突き刺す。イグナイトモジュール正常の起動を確認する。

 さっきまでは有効打を与えられない相手もイグナイトモジュールの前では簡単に打ち倒せる、赤い霧へと変貌させることが出来る。

 

(イグナイトの力でなら相手の守りは突き崩せるが……)

「こいつらに限りはあんのか!?」

 

 翼とクリスは質量で押してくる相手に焦りを感じている。

 三人がいくら倒しても次から次へと無限に湧いてくるアルカノイズ達。本当の意味で無限の敵は存在しないが。

 

『イグナイト……カウントオーバーはギアの機能停止っ!立ち止まるなっ!!』

 

 マリアが力強く鼓舞をする。その後ろには切歌と調の二人がいる。

 イグナイトモジュールには使える時間に限りがある。その制限時間内に解除しなければシンフォギアそのものが機能停止してしまう諸刃の剣。

 

『何も出来ないもどかしさ……』

『黙ってみるだけなんていやデスよっ……』

 

 調と切歌は苦しそうな表情で呟く。もし自分たちの適合係数が高ければと考えてしまう。

 

『ボクがリンカーの製造に手間取ってるから……でも何かあるはず策が……』

 

 本部ブリッジ全体に焦燥が溢れてくる。このままではアルカノイズ達によって正規適合者が全滅してしまう。

 

「…………」

 

 響はここで自ら策を出そうか戸惑った。エルフナインが出してくれると知っているが自ら言うべきかと。するとそこで、

 

『リンカーが遅れてるのは私にも責任があるから自分だけを責めないで』

 

 未来の声が聞こえる。ブリッジにいるのではなく端末を使って声を飛ばしているのだ。

 

『未来さん……』

 

 エルフナインが驚いた声を出す。

 

『それにその結界は壊すのはそんなに難しくないですから』

『本当か未来君!』

 

 彼女あっけからんとした一言に弦十郎は驚く。

 音声でしか伝わらないが装者が手こずる状況を知って出る言葉ではないからだ。

 

『はい、その結界の形状は半球状なんですよね?なら話は簡単で足だけは常に結界と接しています。全力で地面を攻撃すれば結界に直接ダメージを加えることが出来るはずです』

『あ、そうか!』

 

 未来の指摘にはっとした様子の藤尭。

 

「分かったよ未来!」

 

 響はそう言って右手の装甲を巨大なものに変えて思いっきり地面を殴りつける。すると地面に亀裂が入っていき、遠くの景色にもひびが入り結界が崩れていく。外は既に日が落ちていた。

 装者達の前に現れたのはこの結界を生み出したと思われる、上半身が存在せずに長い手足だけの不格好な形状のノイズが。先ほど強制的に結界を破壊されたダメージが逆流したのか可視化して痙攣している。

 

「立花っ乗れ!」

「はい!」

 

 翼の刀の上に両足をかけて乗っかる響。すると翼は刀から超巨大なロングソードへと形を変える。クリスが2人の背後に立って剣にカタパルトと左右にミサイルをドッキングさせる。

 響は剣の腹に当たる部分に搭載されたカタパルトに足をつけて飛び出す準備をする。

 

「勝機一瞬!この一撃に全てをかけろッ!」

 

 翼の掛け声と共に剣に搭載されたミサイルが噴いて結界を発生させたアルカノイズに向かって飛び出していく。

 響はカタパルトが射出されるスピードと腰に着いたブースターを吹かせて飛び蹴りで貫く。そして遅れて巨大なロングソードが突き刺さり敵は爆散した。

 残ったアルカノイズはクリスが片付けて敵を全滅させた。

 

 

「どうやら上手くいったみたいですね…」

「ふぅっ…」

 

 緒川の言葉に安堵の息を吐く弦十郎。これが作戦成功の合図になった。

 切歌と調も手を繋いでぴょんぴょんと跳ねて喜びを表現する。

 マリアがエルフナインの肩に手をかける。相手は驚きとそしてこわばりが消えていく。

 

「マリアさん」

 

 肩の置かれた方を見てその相手の名前を呼ぶ。視線だけで意思を共有する。

 エルフナインはその相手の名前を呼んだ後、この戦いでも諦めなかった響達、そしてマリア達が諦めなかったからこそあの時の空港での危機を乗り越えられたのだと改めて思い出した。

 

「皆さんから貰った諦めない心はきっとあります。だからリンカーは完成させてみせます」

「ううん違うよ。貰っただけじゃない、エルフナインちゃんの中にも諦めない心は最初からちゃんとあるよ」

 

 突如誰かに呼ばれる。皆がその方へ顔を向ける。

 

「終わったみたいですね」

「おお、作戦完了だ」

 

 未来が端末片手にブリッジに入ってくる。弦十郎もその人物を認めて声をかける。

 

「ボクの中にも…?」

 

 エルフナインはよく分からないと言った感じだ。

 いつだって自分は役に立たなくてべそをかいていると思っているのに、装者や本部のスタッフと同じ諦めない心を持っていると言われてもすぐにピンとは来ない。

 

「うん。だってキャロルの企てを知って止めるために危険も覚悟でチフォ―ジュシャトーから飛び出してここに来たじゃない。きっとそれも諦めない心だよ」

 

 未来は簡潔に相手へと伝えた。

エルフナインはそう言われて最初は呆然としたが、少しだけ笑顔を見せてそれに応えた。

 

「私、今日は泊まりでリンカーの開発がんばろっかな」

 

 未来はそう言って締めくくった。

 

 

 そこは日が落ちてネオンやビルの光しか存在しない屋上の一角。

 

「あ~あ…あわよくば…と思ったけど仕方ないわね……」

「試作段階とはいえあんな弱点を内包していたとは……改良しないといけないワケだ」

 

 装者に倒されたアルカノイズたちを見ていた錬金術師たちは目の前に起きた結果を冷静に分析していた。

 地面を殴っただけで破壊できる結界など実践では使い物にならない。その対策が急務のようだった。

 

「でも……目的は果たせたわ……」

 

 カリオストロは敗北に落胆してはいなかった。第一目的は達成したからだ。

 かつ…かつ…かつ…と背後から鉄がコンクリートを叩く様な音が等間隔にする。

 

「ふぅ~ん?そんなにのんきでいいの?」

「ティキ…アジトに残るように言ったはずよ」

 

 その足音の主はオートスコアラーのティキだった。サンジェルマンはその名前を呼ぶ。

 

「だってぇアダムにあえるかとおもってぇ」

 

 ティキの言い草に若干だが錬金術師たちに剣呑さが表情に出る。

計画の要が討ち取られたらそれこそ終わりなのに敵に見つかるリスクのあるここに来るなと。

 

「でもおこらないでっ!いいことがわかっちゃったの!」

「なに…?」

 

 ティキはくるくるとその場でループしながら朗報だと口を開く。それにサンジェルマンは怪訝そうな反応をする。

 

「なんとっ!ここはあたしたちがかみさまにけんかをうるのにーぐあいがよさそうなところよーっ?」

 

 瞳を実際に輝かして空に術式を投影させる。

 

「これいじょうないってくらいにね?」

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