これは遥か昔の誰かの記憶。
この場所は現代日本ではない、路肩には馬車があり、多くの人が古代ギリシアの服飾のような装いをを身にまとっている。
「お母さんを助けてください!」
二人の屈強な男に取り押さえられている少女の血を吐くような叫びがそこにはあった。
「ずっと熱があって苦しそうで……お願いです助けて……」
声をかけられている男性は一切振り向こうともせずにその場から去ろうとする。
しかし、続いてかけられた言葉に足を止める。
「お父さん!!」
そして振り返り言い放つ。
「奴隷が私にすり寄るなぁっ!!」
「あ……」
その決定的な一言に少女は啞然としてしまう。
微かに期待していたのだ、強い思いが相手の胸に掠るだけでも相手の心をぽーんと揺らすのではないのかと。
しかし現実は。
「粉吹く虫の……」
そう言いながらズカズカと少女に歩み寄るお父さんと呼ばれた男性。
「分際でぇっ!!」
「ぁうっ……」
頬をはたかれて地面に倒れ込む。
しかし痛みに耐えて呻きながらも両手に力を入れて立ち上がろうとするが、上から決定的な一言が振り下ろされる。
「慰みを与えて女の落とし子だ。つけあがらせるな」
相手の言葉に立ち上がらんとして入れた両手の力は失われ肘が地面についてしまう。
希望などどこにも落ちていなかった。
「ごめんお母さん」
少女は自身の母親と家とも言えないボロボロの小屋に身を寄せていた。
ドアもない窓もない、人が生きる住と呼べる機能が屋根と壁がある事以外を排斥された空間だった。
「今日も食べ物を手にいれられなくて……」
そう言いながら布で体の汚れを拭いていく。
少女が声をかけているのは自身の母親。やせこけた体に、もう人が着るには相応しくない汚れた衣服、女の命は手入れされておらずボロボロで死んでいる。
「でも一昨日のパンがまだ残ってるから……」
ふと母親の方を見ると家を出る前と同じ眠っているのが見えたのだが何かが違うのだ。
そう苦しそうに呻いたり汗をかいたりをしていない状態、死について知識のない子供でも分かる緊急事態。
「お母さん……」
返事はない。
「お母さんっ!」
返事はない。
「お、かあ……さん……?」
返事がない事が返事だった。
「…………」
サンジェルマンは遠い過去の記憶に眉をひそめながら回帰する。
そしてすっと目を開ける。目の前には三つの結晶が置かれていた。
「ラピス…」
ボソリという。
「錬金の技術は支配の世に満ちた理を正すために」
◎
「はあ~っ……」
「?」
ティキの溜息に窓際で外の景色を見ていたカリオストロが反響する。
彼女に大した思想や言動など無いのだがいちいち反応する当たり結構面倒見がいいのかもしれない。
今現在パヴァリア光明結社の錬金術師たちは高級ホテルの一室を借りて、そこに欺瞞用の結界を張って潜んでいる。
「たいくつったらたいくつぅっ!」
ティキはベッドに寝そべりながら足をぱたぱたさせて漫画を読んでいた。
「いいかげんアダムがきてくれないとぉっ……あたし……たいくつにくびりころされちゃうかもぉっ!」
枕に顔をうずめて呻きだす。
「フン…」
プレラーティは一瞬だけティキを見たがすぐに興味が失せたようで持っていたティーカップに口をつける。
「ねぇ…サンジェルマンは?」
「ワタシたちのファウストローブの最終調整中なワケだ。踊るキャロルのおかげで随分と捗らせてもらったワケだ。あとは…」
カリオストロは尋ねその報告を聞いたらすぐにプレラーティの座っている椅子の傍を通り抜けて室外に出ようと歩き出す。
「どこに行こうとしているワケだ?」
「もしかしてもしかしたらまさかのぬけがけっ?」
「ファウストローブの完成まで待機出来ないワケだ……」
プレラーティの呆れたような言葉。
足を止めてカリオストロは答える。
「道具越しってのがもどかしいのよねぇ…あの子たちは直接触れて組み敷きたーいのっ」
両手で自分の体を抱いて捩りながら言う。
そして最後に、
「…それにあの子にお礼もしたいしねぇ」
そう言って出て行った。
「ちょくせつふれたいって……まるでこいのようなしゅうしんじゃなーい!あーん!わたしもアダムにふれてみたい!むしろさんざんぱらふれたおされてみたいーっ!」
ベッドでばったんばったんするティキ。そんな相手をプレラーティは無視している。
◎
武装車両たちが公道を我が物顔で走っている。響達はその一つに乗って移動している。
「……………………」
あの時と同じように響が窓から外を見る。そこには多くの人達が荷物を抱えて軍属の人間の指示に従っている。
「先の大戦末期……」
弦十郎は口を開く。
翼を除けばここにいる装者にはこの先に何があるのか分からないからだ。
「旧陸軍は大本営移設の為に選んだここ松代には……」
ここで弦十郎は若干だが声に詰まるがすぐさま話を繋げる。
「特異災害対策機動部の前身となる非公開組織…風鳴機関の本部が置かれていたのだ」
『…………』
響を除く全装者は一斉に俯いている翼の方を向く。
そして、
(風鳴機関ッ!!!!)
響は拳を握りしめて唇を嚙みしめる。
望まぬ結果は己の至らなさ、自業自得だと響自身も分かっている。それでも胸にあふれるものが抑えられなかった。
今感じる怒りを表に出すまいと堪えようとするが、コップに張った水が僅かに表面張力を超えて容器を伝って流れ落ちる様に激情が出てしまう。
不条理な無理解やいわれのない攻撃を受けても耐え忍ぶ響をしても許すことが出来ない、いや許したくない相手なのだ。
風鳴訃堂の自分勝手な理屈で親友だった未来は欲望を満たすための食い物にされた。響はあの日親友を永遠に失った。
何で自分ばかり苦しまなければいけないのか、何故自分だけがこんなにも傷だらけなのか。
本当に納得がいかない、納得出来ない。
『未来ーッ!!!!』
『遺憾である。我が名はシェム・ハ…人が仰ぎ見るこの星の神が我と覚えよ』
「………響君?」
「ッ!?あ、いやごめんなさいぼーっとしてしまって」
響が突如として怖い表情になった事で弦十郎は不安そうに尋ねる。
ここにいる全員が響の異常に気が付いたがどう声をかけていいのか分からなかった。ただ分かるのは、響は風鳴機関に対して良い心証を持っていないというそれだけだ。
「そうか…………なら話を続けるぞ。風鳴機関では資源や物資の乏しい日本の戦局を覆すべく…早くから聖遺物の研究が行われて来たと聞いている……」
「……それが天羽々斬と同盟国ドイツよりもたらされたネフシュタンの鎧やイチイバル、そして…ガングニール……」
弦十郎は響の返しに不安ながらも説明を続ける。そして翼も重い口を開く。
話しながらも二人は先ほど出てきた響の滲み出る怒りが気になって仕方なさそうだった。
「バルベルデで入手した資料はかつてドイツ軍が採用した方式で暗号化されていました。そのためここに備わっている解読器にかける必要が出てきたんです」
緒川がこの場所に来た理由を話す。
それと同時に装甲車両が基地の中に入る。
「暗号解読器の使用にあたり最高レベルの警備体制を敷くのは分かります……」
そこで翼は俯き気味だった顔を上げて立ち上がり弦十郎に物申す。
「ですが退去命令でこの地に住む人々に無理を強いると言うのは……」
「守るべきなのは人ではなく国……少なくとも鎌倉の意思はそう言う事らしい」
翼の言葉に応じたのは弦十郎。その返答に皆が顔を険しくする。
「許せませんよね……」
その言葉に皆が視線を向ける。声の主は響。
「本当に許せない」
ポツリと言う。
◎
暗号解析機を見ることが出来る部屋でS.O.N.G.の面々はバルベルデドキュメントを解析している風景を見学していた。
素人には理解の及ばないスーパーコンピューターがフル稼働している。未来だけは興味深そうに解析機の動きを観察していた。
「難度の高い複雑な暗号だ、解析にはそれなりの時間がかかる……翼」
「ブリーフィングで雪音そして……立花を伴って周辺地区へ待機、警戒任務に当たります」
弦十郎と翼は事務的な会話をするがそこには不安が僅かながらにあった。
先ほどの響の風鳴機関への怒りをわずかながらに垣間見た手前、もしかしたら響は任務を拒否するのではと感じたからだ。
「…………」
響は先ほどからずっと俯いている。任務を拒否はしていない。
「弦十郎さん……」
「何だ響君?」
これまで基地に入ってから無言を貫いていた響が口を開く。
「ここって安全なんでしょうか?」
「それはどういう意味だ?」
響の質問にその意図を図りかねてしまう。
「いつ敵が来るか分からない以上はあまり多くの人が一か所に集まるのは危険だと思うんです……」
「確かにそうだがいつ敵が来てもいいようにこの地一帯に避難勧告を行ったんだ。むしろ来るのであれば一番立ち向かいやすい。当然戦わないのが一番だがな」
響の不安に対して弦十郎はその対策を既にしていると言った。
彼女はアルカノイズや錬金術師たちと戦った時の余波で関係のない一般人が巻き込まれる事を気にしているのだと考えたのだ。
「そ、それはっ……」
響は声に詰まってしまう。握った杖がぷるぷると震えている。
これからアルカノイズ、パヴァリア光明結社の幹部三人、そしてアダムがこの地を襲撃して決して小さくない被害に見舞われる。響は具体的な人数は把握していないのだが決して少なくない人的被害が出る。
この場でするべきなのは即時撤退そして避難なのだがそれを周りに納得させる形で説明する事が響には出来ない。
響は風鳴機関を快くは思っていないが、そこで働く人は何かを守るためそして自身のプライドを持って任務に当たっている。その人達までむやみやたらには憎む気は無いのだ。
「…………」
「今すぐにこの場から離れる事はこちらの一存では出来ん……が避難経路の確保や逃走時のマニュアルの確認は徹底するように上に掛け合おう」
弦十郎は響のお願いに添えないが可能な限りの妥協案を出す。響は何も言い返さなかった。ただ分かっていたのはそれではダメだという事。
◎
解析機前でのこれからの確認作業後それぞれが予定通りの動きをする中、たまたま響と未来は同じ方向だったので一緒に廊下を歩いている。未来は杖を突いている響に歩幅をしっかりと合わせている。
未来は監視や護衛ではなく、エルフナインと共にリンカー制作の打ち合わせ作業の予定だ。
「未来……」
「どうしたの響?」
気まずそうに話しかける響、相手の深刻そうな雰囲気にいったいどうしたんだと対応する。
「未来のハッキングならこの研究所のデータとか盗めないかな?」
その一言に未来は足を止める。響からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったのだ。
響はバルベルデドキュメントの確保を願っている。だが当然それを直接言う事や何故風鳴機関に安置されているのにデータの確保を望むのかの理由は言えない。
足を止めた未来は不安そうな顔で問う。
「響…やっぱり変だよ…ここに来る時の装甲車両のあたりからずっとおかしい……」
「そ、それはだね…………」
未来のストレートな問いかけに響は声がつっかえてしまう。
「…………何でデータを盗むべきなのか相談は出来ないの?」
「…………」
未来の質疑に応答が出来ない響。気まずい沈黙が2人の間に流れる。
「分かった。でもここのコンピューターはセキュリティレベルが当然高いし、バレずにハッキングするには相当時間がかかると思う。それに…響の望んでいる結果を十全には出せないと思うけどやれるだけやってみるよ。あとこの事は当然弦十郎さんには黙ってるんだよね?」
「ありがとう未来……」
響の望みに対して不信感は拭えなくとも肯定の意を示す未来。
◎
「なぁ……先輩……」
「何だ雪音?」
この二人もまた向かう方向が一緒なため廊下で話し込む。
「……やっぱおかしいよな?」
「…………そうだな」
何が目的語なのか不明瞭だが二人は誰を話題の中心に据えているのか分かっている。
「またあの秘密主義者……大事なことを黙ってやがる……」
クリスは黙っている事への怒りも当然あるが、それと同時に想起されるのはあの日のファミレスでの一件。
クリスに何か悩み事を話せと詰め寄られた時の響はあからさまな動揺が見られたのだ。
あの場ではアルカノイズ反応があったためなあなあになったが、彼女にはあの光景が今日にいたるまでに妙に脳裏にチラついて仕方なかった。
「……………………」
翼も同じ事を思い出してただ視線を下に向けるしか出来ない。
◎
「緒川…今すぐに避難経路の確認対応を頼めるか?」
「はい分かりました司令」
緒川に先ほどの約束通りに指示を出す弦十郎。
響が意味深なことを言うとたいていは碌な目に会わないのだ。それを分かっているからこその対応だ。
◎
この日はお日様の下で寝たら気持ちが良さそうな僅かに薄い雲がありながらも比較的快晴と呼べる日だった。
辺りにはまばらな民家と作物たち。
「九時方向異常なし」
マリア、調、切歌の三人は警戒の任務についていた。リンカーは使えずギアはまとえないが今できる事をしようということだ。
「十二時方向も異常…………ああーっ!!」
切歌の大声に残り二人は何だ?と振り向いて反応する。
マリアと調に緊張感は無い、もう既に避難勧告は出されており切歌がまたしょーもない事で騒いでるんだろうなと言った感じだ。
遠くにある何かを指さす切歌。
「あそこにいるデス!252っ!れっつらごーデスッ!!」
「真似してみたいのは分かるけど切ちゃん……」
切歌は小走りで人影に向かって行く。バルベルデでの敬礼といい何かと軍属のアピールがお好みのようだ。
調は気が付いている。切歌が向かっているのは人ではなくカカシだという事に。
「調はどう思う?」
「どうしたのマリア?」
突然の問いかけ。相手は何を不安に思っているのかつい図りかねてしまう。
「立花響の事よ。風鳴機関の事を聞いた途端に雰囲気が変わったわ」
「うん…基地に入ってから明らかにおかしかった…ううん向かう途中からも…」
当然の感想だった。しかしその会話は長くは続かなかった。
「ってこわっつ!人じゃないデスよっ!!」
マネキンに無理矢理お面を取り付けたような不気味なカカシだった。切歌はつい騒いでしまう。
そんな切歌が騒ぐので会話を切り上げて素早く二人は駆け寄る。
「最近のカカシはよく出来てるから……」
「…………」
調が最近のカカシ業界について語り始める。マリアはそんなやり取りを見て何かを考えてこんでいる。
「リンカーを持たない私たちに出来る事はこれくらい……」
『…………』
マリアの言葉につい二人も静まり返ってしまう。
切歌もここまで明るく張り切るのは、何かをしていなければ己に力が無い事に焦って焦燥に駆られてしまうのだ。
「肩ひじを張り過ぎよ」
「何かしてないとわちゃわちゃするデスよ……」
「うん……」
マリアの忠告に切歌と調はそれぞれ反応を示すが泥沼にはまりそうな思考は留まるところを知らない。
このままではダメなのだが何をすればこの手詰まり感のある状況に光明がさすのか見当もつかない。
切歌はぱんぱんと顔を叩いて気合を入れなおす。重い思考よ出て行けと。
「よしっ!任務再開するデース!!」
おっしゃーっと張り切って小走りで当たりの警戒任務に戻ろうとするのだが、後ろの警戒を怠ってしまう。まだまだ平常通りとはいかない。
「あっ」
「切ちゃん後ろっ」
マリアと調の警告は遅く背後の畑から出て生きた年配の女性とぶつかってしまう。
「ぎゃいん!」
「おっと…」
ぶつかって衝撃で相手の持っていたトマトが地面に散乱していまう。よく見ると畑にはトマトが栽培されておりぶつかった相手はトマト農家だった。
「あっ大丈夫ですか!」
マリアと調は慌ててぶつかった現場まで小走りで近づく。
「ごめんなさいデース!」
切歌は慌ててかがんで倒れた相手に目線を合わせて謝罪する。調も切歌に合わせて膝を折って目線を合わせる。
「いやいやこっちこそすまないねぇ…」
相手とぶつかったおばあさんは笑顔で右手を振って大丈夫だとジェスチャーを送る。
「政府からの退去指示が出ています。急いでここを離れてください」
「はいはいそうじゃねぇ……けど…トマトが最後の収穫の時期を迎えていてねぇ…」
マリアが相手の傍によって目線を合わせて進言する。しかしそれでも相手のペースが乱れることは無くマイペースに語り始める。
「うわぁっ…!」
「美味しそうデス!」
相手が手に取ったみずみずしいそれを2人はロックオンした。
「美味しいよ?食べてごらん?」
物欲しそうにする二人に快くトマトを分けるおばあちゃん。
遠慮なく受け取りそれを思いっきりパクつく切歌。
「あーむっ!うんっ…う~ん…ううぅ~っ…美味しいデス!」
口に広がるこれまで口にしたことの無い野菜の甘さに満面の笑みで応える。
「調も食べるデスよっ!」
「……いただきますっ」
切歌の催促にやや遠慮しながらも、控えめである小さな口を開く。
「ほんとだ!近所のスーパーとは違う!」
「そうじゃろう?丹精込めて育てたトマトじゃからなぁ」
目の前に力込めて作った力作が評価されて嬉しそうに答えるおばあちゃん。
「あっ…あのねお母さん……」
目の前に広がるほのぼのムードにマリアは流されかけるが慌てて避難誘導を始める。
「きゃっは~ん……みぃ~つけたっ……」
この場には不釣り合いな声が響く。
装者三人はとっさにおばあちゃんを庇うように前に出る。
「あれま…じゃない方…色々残念な三色団子の方…」
カリオストロに残念と称されてピリつく雰囲気。
リンカーがなくまともにギアをまとえない現状に強く無力感を感じている三人にとってはこの上なくコンプレックスを刺激される言葉のチョイスだった。
「団子とはどういう事デスか!」
「見た感じよぉ…怒った?…でも三色団子三姉妹を相手にしてもねぇ…それとも…」
切歌の怒りに相手はなんてことはないと視線を向けずに額に手を当てて挑発を続ける。そして、
「ギアをまとえるのかしら?」
ここに来て初めて視線をハッキリと向けてのあからさまな挑発。まるでギアを取り出すのを待っているかのような。
「そんなに言うのなら……!」
「目にもの見せてやるデスよ!」
簡単に挑発に乗る調と切歌。リンカーが無い事も忘れて首にかけているギアペンダントを取り出して聖詠を口にしようとするが。
そこでカリオストロは笑ったのだ。まるでこの状況を待ってましたと言わんばかりに。
「挑発に乗らない!」
『っ!』
マリアの一喝に二人は聖詠を停止して後ろでおばあちゃんの盾になっているマリアを見やる。
「今日は私たちの出来る事を全力でやるのよ!!」
その言葉にマリアが庇っている相手が視界に入る。相手の挑発を受けて頭に血が上ってしまい、安いプライドで守らなければいけない人命の事を忘れてしまうところだった。
「やっぱりお薬が切れて戦えないのね……なら信号機が点滅する前に……」
「うりゃあああっ!!」
アルカノイズを召喚しようとしたカリオストロに響は不意打ち気味に殴りかかる。
この拳に対して左腕に防御壁を張って攻撃を受ける。受けた衝撃を利用して大きく距離を取る。
(やっぱりあーしらの動き読まれてる?)
カリオストロは距離を取って隙なく構えて響を見やる。
事前の戦力とそれぞれの配置距離を考えても、最初からここに来ると思っていなければ対処できないタイミングだった。
響はアルカノイズを召喚しようとする隙すらも与えない動きをしてくる。
前の空港でも奇襲も早い時間から待ち伏せていなければ出来ないタイミングだった。
『私の指示を無視して遊ぶのはここまでだ。そばに他の装者も間もなく集結する、早く離脱しろ』
「ちっ…分かったわよサンジェルマン…」
突如サンジェルマンからの通信が入る。すぐさま帰還しろというサインだ。
テレポートジェムを地面に叩きつけて、
「次の舞踏会には新調したおべべで参加するわぁ」
そんな捨て台詞を吐いて消えていく。