過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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私は弱かった

 マリアは背中に背負っていた農家のおばあちゃんを軍が指定した避難場所の1つに降ろす。

 既に時間は夕方、目に優しい夕日がさしていた。

 

「ありがとねぇ……」

「いえ」

 

 相手のお礼にマリアは笑顔で返す。

 響が不意を打ってからカリオストロの意識が自分たちから外れた瞬間を狙ってマリア達は即座にその場から撤退してここに来た。

 

「お水貰ってくるデスよ」

「まって切ちゃん私も」

 

 疲れたマリアにと切歌が水を貰いにその場からたとうとする、一人で行かせるのが不安な調はそれについていく。

 

「ふふっ……元気じゃのう……」

 

 おばあちゃんは二人を見てまるで溺愛する孫娘を見るかのような穏やかで和らげな視線を向ける。

 

「お母さん、お怪我はありませんか?」

「大丈夫じゃよ。むしろアンタらの方が疲れたじゃろうに…わしがぐずぐずしていたせいで迷惑をかけてしまったねぇ…」

 

 マリアは優し気な声色で相手を気遣った発言をする。それを受けた相手はほんの少しだけ申し訳なさそうに口角を下げて素直に謝罪をする。

 実際に農家のおばあちゃんの行動は褒められたものではない。避難しろと指示を受けたのなら野菜よりも命を優先すべきで、自分勝手な行動で他者におんぶしてもらうなど普通は許されない。

 しかしマリアはそれを咎めない。

 

「いえ…私たちに守る力があれば…お母さんをこんな目には……」

 

 マリアは少しだけ声が低く、そして視線を下げて表情を陰らせながら言った。

 あの場で装者が来なければアルカノイズを召喚されて命の危機に瀕していたのは間違いなかった。致し方の無い事だろ頭で冷静に判断出来ているとしても、もっと心の中にある魂の根源とも言える部分が痛みを発するのだ。

 お前はアルカノイズや錬金術師に対抗出来る力、シンフォギアを持っていながらも何をしているのだと。

 

「…………そうじゃ!」

 

 何かを思いついたと声を上げる。そう言って背負っていたトマトを入れるかごを降ろす。そしてその中に手を突っ込む。

 

「せっかくだからこのトマト!あんたも食べておくれ」

 

 そう言っておばあちゃんはトマトを一つ持ってずいっと差し出す。

 

「わ、わたしトマトはあんまり……」

 

 マリアは顔を一瞬うっと若干だがしかめて、すぐに強張りこそあるが笑顔を作ってやんわりと拒否をする。

 

「…………」

「…………」

 

 どうやら彼女に拒否権は無いらしい。

 相手のおばあちゃんはどうやらこういった反応には野菜を育てる農家として慣れっこのようだった。

 

「…………」

「…………ではちょっとだけ頂きます……」

 

 そう言って相手の手にあるトマトを受け取る。

 

「……………………」

 

 いざ相手の厚意を受け取ったとはいえ、マリアのトマト嫌いがその優しさでいきなり克服できるはずもなく、じっと赤い物体を見つめてしまう。

 このままトマトをじっと見つめるわけにもいかず、ここでやっと意を決して頬張る事にする。

 はぐっと一口中に入れると。何度か劇物を処理するように慎重に歯で噛み砕いていく。

 

「はっ……あ、甘い……フルーツみたい!」

 

 マリアにとって野菜とは栄養こそあるが基本的に苦いものという固定観念で食してきたため、甘みのある野菜と言うのは革新的なものだった。

 差し出してくれた農家のおばあちゃんにどうして?と顔を上げて目を合わせてこの甘い野菜のカラクリを聞こうとする。

 相手はピンと人差し指を上げてこう答える。

 

「トマトを美味しくするコツは厳しい環境に置いてあげる事。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくるもんじゃよ」

「厳しさに…枯れたりしないのですか?」

 

 相手の答えに改めてトマトに視線をやって問うマリア。

 目の前にあるそれが生物であれば誰もが苦境になるであろう、水の限られた環境で生き残ったそれなのかと視線で問いかける様に。

 

「むしろ甘やかしすぎるとダメになってしまう。大いなる実りは厳しさを耐えた先にこそじゃよ」

 

 おばあちゃんは疑問に丁寧に答える。

 それは野菜とかトマトではなく、手塩をかけて育ててきた息子娘を見て言っているように感じる穏やかない声だった。

 

「厳しさを絶えた先にこそ…………」

 

 マリアは自分の齧った部分のじっと見ながらポツリと言った。相手はそれに返す。

 

「人間もきっと同じじゃ」

 

 

『私は一旦撤退するべきだと思います!』

 

 響はS.O.N.G.用の武装車両でそう主張する。

 周りには装者全員に技術者やオペレーター陣も揃っている。

 

『もう既に近くまで錬金術師たちは来ています。今すぐにでもここを狙ってきてもおかしくないんです!!』

『確かにそうかもしれない、だが前にも言ったがここは撤退命令や強制疎開をさせたばかりだ、簡単に撤退など選べない。何よりも今この場所だからこそ全力で対処可能なんだ』

 

 錬金術師たちが付近に潜伏しているのが分かっている以上は響の意見通りすぐさま移動するのが最上の選択だろう。

 しかし、移動してもまた発見されたら同じリスクを背負う事になる。もしかしたら次にエンカウントするのは一般人が数多くいる街中かもしれない。なら異端技術を扱う関係者を多く募ったこの場所でと考えるのはおかしくない。

 

『そ、それはそうなんですけど…それに相手は何度かこちらの出方を見ています…戦いを観察しているはずです……何もシンフォギア対策を練っていないとは思えないんです……』

 

 

 響の撤退案が棄却されてから数時間が経っていた。

 車内には弦十郎、緒川、友里、エルフナインが作業をするか、それを見守っている。

 何となくS.O.N.G.用の武装車は居心地の悪い雰囲気に包まれる。ただ響の懸念が毒を垂らしているだけではない。

 

「解析は難航してますね…」

 

 エルフナインがバルベルデドキュメントの途中経過資料を見て簡潔に答える。

 ただ重苦しい空気が残る。

 

「ぬぅ…………」

 

 弦十郎は顔をしかめるしか出来ない。

 可能なら今すぐにでもこの場を離れた方が良いのは彼にも分かっている。もう既に錬金術師たちに捕捉され、どこから牙を突き立ててくるのか分からないのだ。

 しかし、バルベルデドキュメントの解析が出来ない限りは動きようがない。

 

「司令」

 

 友里が強張った顔で呼ぶ。

 

「鎌倉からの入電です……」

『……!』

 

 弦十郎と緒川ははっとした感じで反応する。そして一瞬表情が硬くする。それほどの相手なのだ、連絡をよこしている相手は。

 

「直接来たか…………繋いでくれ」

「……はい」

「…………?」

 

 弦十郎と友里の固いやり取りに、新参者のエルフナインはきょとんとしてしまう。

 

「出します」

 

 前方のスクリーンに出てきたのは恒例の老人だった。

 

『無様な…閉鎖区域への侵入を許すばかりか…仕留め損なうとは……』

「…いずれもこちらの詰めの甘さ…申し訳が出来ません」

『機関本部の使用は国連へ貸しを作るための特措だ……だがそのために国土安全保障の要を危険に晒すなど…まかりならん…!』

「無論です」

 

 スクリーン越しにいた男性はただただ弦十郎を攻め立てる。

 施設を危険に晒したのは確かなのだが人的被害を出さなかったことには一茶触れず。そして相手をねぎらう事も一切せず一方的な持論と主張ばかりの連続。

 

『これ以上異敵に八島を踏み荒らさせるな…!』

 

 そう言って相手は一方的に連絡を切った。

 

「ふうっ…………流石にお冠だったな……」

 

 そこでやっと全員の肩肘から力が抜ける。

 高齢の老人とは思えない威圧感を出す男性だった。

 

「それにしても司令……ここ松代まで追ってきた敵の狙いは……」

 

 緒川は疑問を提示した。この場所まで何を求めて錬金術師たちは追いかけてきたのか。ただ苦しむのが見たいだけの異常性癖道楽家でないなら、コストに見合った報酬を求めるはずなのだ。

 

「狙いはバルベルデドキュメントか装者との決着……あるいは」

 

 明確な答えなど今現在の時点では誰にもわからなかった。

 

 

 時間は真夜中、既に人の営みではなくセミたちが鳴り響く声が目立つ時間になっている。九月なのに元気だった。

 深夜になっても技術者とオペレーター陣二人、友里とエルフナインに休みは無かった、大絶賛残業中だった。

 どういうわけか未来はどこかにトンズラしてサボっているようで。完全に給料泥棒だった。

 

「あったかいものどうぞ」

「デース」

 

 調と切歌がカップに入ったホット飲料を友里へと差し出す。

 

「あぁ……あったかいものどうも…なんだかいつもとあべこべね」

 

 そう言ってカップを両手で大事そうに受け取る友里。

 少しだけ疲れが出てるためか顔の笑顔に張りがなかった。

 

「あなたにも」

「ありがとうございます」

 

 マリアも飲料をエルフナインに渡す。

 エルフナインも疲労のためか声に若干の張りが失われていた。

 全員疲れているのだ。ただ作業に忙殺されているわけではない。いつどこで命の狙われるかもわからないプレッシャーが精神的な体力を少しずつ削ってくるのだ。

 

「調べもの順調かしら?」

「…………」

 

 マリアからの問いかけにエルフナイン無言で手元のモニターに視線を向ける。

 マリアもそれに視線を向けると、

 

「あっ……」

 

 そこにはかつてF.I.S.が集めていた、フィーネの次の依り代になり得る子供たちを集めたレセプターチルドレンの資料だった。

 

『…………ッ』

 

 切歌と調はそれに気が付いて顔を強張らせる。

 

「それってもしかして……」

「はい……早くリンカーの完成が求められている今…必要だと思って…」

 

 エルフナインは元レセプターチルドレンであるマリア達はあまり見られたくないだろうと思ったのか申し訳なさそうに目じりを下げて弱々しそうに言う。

 

「私たちの忌まわしい思い出ね……」

 

 フィーネの器に認定されなかった子供はシンフォギアの適合係数を上げる実験に駆り出された。

 マリアの脳裏には自分がシンフォギアを無理に扱って苦しんでいるのにそれを冷淡に見るナスターシャが浮かんだ。お前は悪を背負うとお前は苦しくても耐えろと。

 

「マム…………」

 

 マリア達の心の中にはいつだってナスターシャがいた。厳しさを着込んだようなあの女性が。

 

「多数のアルカノイズ反応!場所は松代第三小学校から風鳴機関本部に進行中!」

 

 突如鳴りだしたアラームに何事かと思ったら友里がその音に報告を出す。

 

「トマトばあちゃんを連れて行ったところデス!」

「マリア!」

「ええっ!!」

 

 三人はすぐに自分たちがするべき事を見つけた。すぐさま外に飛び出そうとする。

 しかし出口にはアラーム音を聞いた弦十郎が入ってこようとしていた。

 

「どこへ行く?」

「敵は翼達に任せるわ、私たちは民間人の避難誘導を」

「そうか……無茶はするなよ……」

 

 

 翼達装者三名は多数のアルカノイズを前にしていた。

 この多勢無勢、しかもすぐそばには民間人の避難者がいる状況では長期戦に持ち込むのはよろしくなかった。

 

「猶予はない……刹那に薙ぎ払うぞ!」

「了解!」

「…了解」

 

 翼の鳴り響く指示に、クリスは力強く同意を示したが響は乗り気ではないような弱い反応をした。

 

『イグナイトモジュール、抜剣!!』

 

 三人は掛け声ともにシンフォギアを黒色に染めて強化する。

 響の格闘技、翼の刀、クリスのボウガンはどんなに位相差障壁を強化しようともその上か力尽くで叩き潰していく。並大抵のパワーではイグナイトには勝てない。

 

 錬金術師たちはそれを建物の屋上から観察していた。

 

「抜剣……まってましたっ……」

「さすがにイグナイト……凄いワケだ……」

「そう、だからこそこの手には赤く輝く勝機がある」

 

 三者は赤い宝石の入った指輪、けん玉、拳銃を手にして構える。

 翼はそこで見下ろす錬金術師に気が付いたようだ。すぐさま飛び出して剣に炎をまとわせて飛び込んでいく。

 

「翼さん!何か変です!下手に特攻しないでっ!」

 

 響は慌てて静止を促す。

 知っている、相手の持っている赤い宝石はラピスフィロソフィカスという不浄なものに働く作用を持っている事を。ダインスレイフにとっては現状弱点であり下手に浄化を食らうとイグナイトモジュールが機能不全になるだけでなく、その強制解除の負荷を負わせる事も出来る。

 響はその名称を認めていないが「愚者の石(仮)」で相殺しないと切り札は使用してはいけないのだ。

 

「ッ!?」

 

 その忠告は翼に聞こえていた。しかし踏み込んだ手前もう止まらない勢いで剣を振り下ろしていた。

 炎が敵の赤い防御壁にぶつかり鍔ぜりあったかと思ったら、相手から甲高いノイズ音が流れる。

 

「ギアがっ!?うわああッ!!!!」

 

 そう驚愕すると、イグナイトモジュールで攻防ともに底上げしているはずなのに簡単に吹き飛ばされる。

 地面に倒れ込む翼はシンフォギアはまとっていたがイグナイトモジュールは強制的に解除されていた。

 

「ぐ……くぅっ……!」

 

 翼は気絶こそしていないが呻いて立ち上がる事は出来ないようだった。

 

「翼さん!くっ!やっぱりファウストローブ……」

 

 錬金術師たちを響は憎々し気に睨む。想定していたとはいえ切り札を封じられるのは気分の良いものではない。

 パヴァリア光明結社の幹部三人はファウストローブをまとっていた。シンフォギアと同系統の強化装甲。

 プレラーティはゆったりとした赤色のローブ。カリオストロは金色の装甲。サンジェルマンは白銀の騎士鎧。全員が黄金の力強いオーラを放っていた。

 

「良くも先輩をおおおおっ!!」

「クリスちゃん!?短気を起こしちゃダメ!」

 

 響の警告も虚しくクリスはありったけのミサイルを錬金術師たちに打ち込んでいく。

 並の敵なら爆散しているであろう一撃。しかし今響達が相手取っているのは、この世界に強さランキングなるものが存在するなら、間違いなく上から数えた方が早いほどの百戦錬磨の猛者だ。

 プレラーティはその攻撃を認めると、素早く巨大なけん玉を取り出して球の部分を飛ばしてくる。するとそれが強いエネルギーを発して端からミサイルを片付けていく。全て爆破撃沈される。

 

「はあっ!」

 

 爆風で起きた土煙を切り裂いてカリオストロが青色のレーザーを放つ。

 クリスのイチイバルには光学遠距離攻撃を防ぐリフレクタービットが備わっている。その一撃をそれで受ける。

 

「このくらい…ッ!」

 

 クリスも強気に防ぐのだが、翼の時と同じように甲高いノイズ音がしたかと思ったらシンフォギアが輝いていく。

 カリオストロがにやりと笑ったと思ったらイグナイトモジュールが解除されて吹き飛ばされる。建物に叩きつけられたことで何とか制止するが直接的なダメージだけでなく精神的にも来るものがあった。

 

「イグナイトが…………?」

 

 クリスが身にまとっていた圧倒的なパワーの消失に驚く事しか出来ない。

 響はここまで記憶の通りに行くものだから、予想は出来ていただけに焦りは生まれないが無力な自分に焦燥は生まれてしまう。

 

「…………」

 

 サンジェルマンは無言で銃から光弾を発射する。響は素早く避けるのだが、これは倒すのが目的ではない事は知っている。

 避けた弾が宙に停止して一際強く輝いたかと思ったら膨張して爆発をする。

 

(イグナイトで直撃は不味いッ!)

 

 響はイグナイトを剝がされる際に生じる衝撃を恐れて、咄嗟に解除して防御する。彼女のいた地点は遠目から見ても分かる爆風に巻き込まれた。

 

「うぐっ……」

 

 響は意識が朦朧としながらもなんとか耐え切る。

 イグナイト解除抜きでもファウストローブをまとった錬金術師の一撃でのダメージは免れなかったが、覚悟と気合で意識を保った。

 

「ほう……僅かな時間で効果に感づいたか……しかし」

 

 サンジェルマンは僅か手合いで攻撃の特性を予測して、響がイグナイトで受けない判断をしたことを素直に賞賛した。

 

「は~い……隙だらけっ!」

「があっ!!」

 

 カリオストロのブローで上空に殴り飛ばされる。そして、

 

「これは空港の時の借りなワケだ」

 

 プレラーティのけん玉で地面に叩きつけられる。

 ドゴッ!っと地面に叩き潰されるが何とか意識を保ってシンフォギアの解除だけは免れる。

 

「あ……ぐっ……」

 

 ただ呻くしか出来ない。

 響は無力だった。前の世界の記憶があろうとも相手が力を少し出しただけで簡単に踏みつぶされてしまう。

 サンジェルマンは何とかうつぶせで意識を保つ響の傍に歩いて立ち止まる。

 

「…………」

「ラピスフィロソフィカスそしてファウストローブ…錬金技術の秘奥…賢者の石と人の夢……」

 

 響はじっとサンジェルマンをにらみつけるが体に力が入らない。

 

「その錬成にはチフォ―ジュシャトーにて解析された世界構造のデータを利用……もとい応用させてもらったワケだ……」

 

 プレラーティがしたり顔で言う。

 

「何でなんだ…それだけの力を持って…どうして人を傷つける側に立つんだ……苦しめる側に立てるんだ…………?」

 

 響は悔しかった。

 この場で前の世界の記憶を持ちながらもなすすべなく敗北した自分が。仲間の敗北を止められない自分が。

 そしてそんな自分を凌駕する実力を持ちながらも、他者を犠牲にする選択を行う相手を止められない現実が。

 

「苦しめる?慮外な……積年の大願、人類の開放。支配のくびきから解き放つことに他ならない」

「あ……ははっ……」

 

 サンジェルマンは恐らくその口上は何度も、それこそ数えきれないほどに言ったのだろう、そう思う得るほどにスラスラを口から出ていた。しかしそれを響は笑った。

 

「何がおかしい…?」

 

 サンジェルマンは少しだが眉をひそめた。相手が自分の確固たる信念を聞いて笑った事で不快だった。

 

「…それ…サンジェルマンさんたちが……手にかけた人の前でも……言い淀むことなく一語一句同じことを言えるんですか……?」

「!?」

 

 響のあまりにも卑怯すぎる一言。ここで常に冷静沈着だったサンジェルマンの顔に動揺が走った。

 死人に口なし。

 確かにバラルの呪詛という人々の相互理解の不全に苦しんでいる人たちからすればサンジェルマンの行動は確かに英雄的なものだろう。

 しかしだ、その過程で殺された人間はあの世でどう思うだろうか?喜んで生贄になったと恍惚に溺れただろうか?それとも殺された恨み節だけで呪殺しかねない怒りを持っているのだろうか?それは誰にも答えは出せない。

 何故なら答えを知る人物はこの世にいないのだから。

 だから想像の中でのみ、その事について考えることしか出来ない。

 

 サンジェルマンが多くの人間を手にかけてもその精神が摩耗しなかったのは、最終的に多くの人が助かる選択をしているという自負がその心を保ってきたからだ。

 これからを生きる人間の未来ばかり考えてきた彼女は、人の命の重みを口にした事はあっても己が手にかけてきた死者の視点など真剣に考えた事は無いはずだ。

 そして響の問いかけに動揺したという事はサンジェルマンたちが出した答えは……

 

『……………………』

 

 プレラーティもカリオストロも響の一言に何も言い返せないようだった。

 

 譲れない大願を持っておりそれに向かって邁進出来る意志力と行動力はある。性根は善性を持っており、崇高な誇りと高潔なプライドはあった。心の底からの悪党ではないのかもしれないが、正義の使者または救世の英雄と名乗るには不十分だった。

 

「えっ!?あの光!!」

 

 カリオストロの顔に動揺が走る。上を見ると力強い光があったからだ。

 白いスーツの男性の右手に光の塊が収束し始めていたからだ。

 

「統制局長……アダム・ヴァイスハウプト!どうしてここにっ!」

 

 サンジェルマンが相手をめつける。

 

「ふ……」

 

 アダムは帽子を脱ぎ捨てると右手の光をより一層強くして炎が生まれる。すると彼の来ていたスーツが炎に包まれて燃えていく。

 

「何を見せてくれるワケだッ!」

「金を錬成するんだ決まってるだろう?錬金術師だからね僕たちはっ!」

 

 プレラーティの一言にアダムはそう答えると右手の炎を肥大化させる。それはもう小型の太陽だった。

 

 錬金術を用いての常温下での核融合。

 マリア達がこの危機に無理矢理ギアをまとってイグナイトモジュールを使いアルカノイズを倒しつつ救助に来ている。しかしリンカー無しのそれは体が負荷に耐えられないという事。

 響のインカムにそんな情報が入ってくる。

 

「二人とも局長の黄金錬成に巻き込まれる前にッ!」

 

 そう言ってテレポートジェムを使いサンジェルマンはこの場から離脱する。

 アダムが小太陽を放とうとする。そこでマリア達が手ひどくやられた装者三人を抱きかかえてその場からの離脱を図る。

 全速力で逃げるのだが黄金錬成の方が早く、その一撃に巻き込まれそうになる。

 太陽に巻き込まれる中、絶望に抗うように翼を背負うマリアは叫ぶ。

 

「たとえこの身が砕けてもおおおおおっ!!!!」

 

 その瞬間マリアの体に青白い光がまとわれる。

 

 

 大きな火球が辺り一帯をめちゃくちゃにする。先ほどまで存在した施設は綺麗に円状にくり抜かれていた。辛うじてわかるのはその場には何かしらがあって蒸発した事だけだ。

 

「ほぉ…?」

 

 アダムは自分の手のひらに握られている物を見た。一握りの金だった。

 

「ふっ…あっははははっ!!!!びた一か!安いものだなぁっ!!命の価値は……へはははぁははははっ!!!!」

 

 アダムの高笑いが響いた。

 

 

 まだ熱が残るクレーターとかした跡地の傍。

 

「あ……ぐっ……」

「な…んだ……?」

 

 クリスと翼は呻きながらも何とか立ち上がる。

 そして前方を見ると別世界が広がっていた。

 

「一体どうなって…?」

「風鳴機関本部が跡形もなく……?」

 

 二人は呆然と呟くしか出来ない。

 痛みに意識が朦朧としている間に世界は様変わりしていた。タイムスリップでもしたのかと間違うような光景。

 

「しっかりするデスよっ…マリア…」

「マリア……しっかり……」

 

 切歌と調は声をかけながらも肩に手をかけて必死に声をかける。

 

「っ……くうっ……!」

 

 マリアは顔をしかめながらもなんとか意識を保っていた。三人の中で一番消耗が酷そうなのがマリアだった。

 無傷ではないが元F.I.S.組が無事で安心する翼とクリス。

 

「っておい!しっかりしろよ!」

 

 クリスは響を見つけて慌てて駆け寄る。

 響は翼とクリスに比べて錬金術師たちに過度に痛めつけられており、そのダメージで気を失ってギアも解除されている。

 するとヘリコプターの駆動音がしたと思ったらライトで装者たちが照らされる。戦闘音がしなくなったことで救助と現状確認の為にこの場所に来た。

 

「い、き……てる…………?」

 

 マリアから疑問符がポロリと出る。

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