過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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進化の代償

 雨の日。ここは風鳴本邸。

 その一室に弦十郎、八紘、そしてかの老人がいた。

 

「…………」

 

 三者の会談の傍の廊下で翼は黙って時が過ぎるのを待っていた。

 

「して……」

 

 巌のような何者の意見も許さん問い重い声がその部屋に響く。

 相手の老人の名は風鳴訃堂。隠居してなお国防や国軍に口の利く裏の支配者だ。

 

「異敵による蹂躙を許したと?」

 

 何か言いたいことがあるなら言ってみろと催促をされる。

 

「結果…松代の風鳴機関本部は壊滅。大戦時より所蔵して来た機密のほとんどを失う事にこととなりました」

「退けること叶わなかったのはこちらの落ち度に外ならず全くもって―」

「聞くに堪えん」

 

 八紘と弦十郎の言葉をバッサリと切り捨てて部屋から出て行こうとする。

 襖を開けて外に出ようとしてそこで一旦止まる。

 

「分かっておろうな?」

「国土防衛に関する例の法案を急がせます」

「有事に手ぬるい!即時施行せよ!」

 

 そう言うと襖が開く。外から翼が開けたのだ。

 訃堂は部屋を出て翼に背を向けて立ち止まる。そして翼に声をかける。

 

「まるで不肖の防人よ…風鳴の血が流れておきながら…嘆かわしい……」

「我らを防人たらしめるのは血にあらず。その心意気だと信じております」

 

 訃堂の言葉に揺るがない信念をぶつける。

 後継者を自分の血筋と自分に同調する人間にこだわる、強い選民思想の持ち主の彼にとって、その回答はお気に召すものではない。

 訃堂は国の形式さえあればその中にいる人が何人死のうが構わないと思っている。翼は国が国でいられるのは人があってこそだと思っている。

 相手は「フン…」と言ってその場から立ち去る。

 

 

「これは?」

「ウェル博士の置き土産ダイレクトフィードバックシステムを錬金術技術と未来さんのデータと活用して応用し再現したものです」

 

 マリアの問いにエルフナインは答える。

 ただし一点だけ響と記憶違いな部分があった。それを疑問としてぶつける。

 

「未来のデータって……どういう事なの……?」

「その疑問は順を追って話すからちょっと待ってね」

 

 響に感じた疑問は一旦はスルーしてくれと頼む未来。エルフナインは続きを話す。

 

「他人の脳内に電気信号化した他者の意識を割り込ませることで観測を行います。それによって脳内のリンカーの作用場所を特定します」

「……つまりそいつで他者の頭の中を覗けるって事か?」

「なるほどつまり私にそれを使って欲しいって事ね?」

 

 エルフナインはクリスとマリアの言葉に肩肘を張り詰めさせる。そして未来に視線を向けて説明をバトンタッチする。

 どうやら明るい面をエルフナインが暗黒面を未来が担当するようだ。

 

「理論上はね……ただこのダイレクトフィードバックシステムには当然危険も内包してる。人の脳はいまだにブラックボックスが多くて人為的に作用させるのは危険。失敗すれば観測者と被験者の意識が溶け合って二人とも廃人になる可能性がある」

 

 未来はここで一旦話を切る。

 じっと俯いて考え込んでいるようだ。話すべきなのか話さないべきなのか。

 

「危険を負うのはマリアだから話さないのはやっぱり不誠実だから話すよ。これのもう一つの危険性は使えば脳が変質する可能性があるって事かな……」

「変質?」

 

 未来は響とマリアの方を見て言った。どうやら先ほどの疑問に答えるようだ。響はその言葉の意味を図りかねた。前の世界では説明されなかったからだ。

 

「前に砂浜でマリアとクリスが私に戦い方のコツを教えてって言ったよね?」

「あ、ああ…言ったな…」

 

 クリスは未来の言葉に肯定の意を示す。

 あれはもう二ヶ月ほど前になるが、マリアが未来に戦い方を教授するように頼んでいたのにクリスも乗っかったのだ。

 

「あの時はガリィに邪魔をされてなあなあになったけど、もしそうじゃなかったら断ってたんだよ」

「……それはどうしてかしら?」

 

 未来のその回答にマリアは尋ねる。わざわざ味方に戦い方のコツを黙る理由が分からなかったのだ。

 

「このダイレクトフィードバックシステムはね…神獣鏡にも内蔵されていたんだよ…鏡に情報を投影して好きな情報を脳に書き込むことで洗脳や短時間での戦闘技能習熟を目指してシンフォギアの量産兵器化を目指していたらしい…」

『……………………』

 

 全員が未来の言葉に皆が黙り込む何も言い返さなかった。

 当時、神獣鏡のコア素材はまだ残っていた、もし仮にシンフォギア軍団なるものが生まれたら世界を取れるだろう。

 未来はその間も話し続ける。

 

「様々な実験の結果……当然だけど適合者自体を大量生産する事は出来ないし、洗脳も戦闘能力の学習も最終的には自力で習熟した方が強くなれる事が分かって死蔵された機能だったんだけど。ある日、何となくで使ったら面白い機能に気が付いたんだ」

「面白い機能デスか?」

 

 未来の意味深な言葉に興味津々な切歌。

 

「うん。鏡に映せるのは情報だけじゃなくて装着者の脳機能も映せたんだ。つまり体感だけど脳が一つの体に複数個存在してそれをそれぞれ同時平行で演算そして分析をする事が出来た。戦闘ではこれを生かして脳を鏡に複数個投影して普段の何十倍もの脳機能の活動を可能にしてたんだよ」

「つまり未来さんが相手の動きに対して的確に対処したり、読み切ってカウンターをしてたのは……」

 

 未来の秘密を聞いて調は得心が行ったようだ。未来もこくりと頷く。

 ただ努力をしただけではなく、機械とギアの特性を使って自身の潜在的な能力を底上げしていたことに。

 高い演算能力を活用して近視的な未来を読んで対処していたのだ。

 

「じゃああたしたちがそれを被って戦えば強くなれるかもって事か!」

 

 クリスは短絡的な発言をしてしまう。

 

「ダイレクトフィードバックシステム……お手軽に何の代償も無く強くなれると思う?」

「未来……もしかして……」

 

 未来の疲れた目をした寂しそうな笑み。

 彼女がこれから何か手遅れなことを口にするのを本能的に理解した。

 

「私がこれを活用し続けた結果、脳機能が他の人よりも特殊な作りに変質してギアをまとわなくても常に高いレベルで演算が出来るようになったの」

 

 未来が聖遺物に精通している事、シンフォギアを修理出来る事、キャロルと対峙した際に数少ない事象からチフォ―ジュシャトーを解析ハッキングした事。それらすべてはただ努力をしただけでなくギアをまとった副作用もあった。

 

「普段人間は体の安全を考えて脳機能を極力セーブしてるって言われてるけど…私の変質した脳は百パーセントを超える無茶な出力を出してる。そんな無理をすれば脳にどれだけのダメージが入るのか……実際に気が付かない内にぼーっとしたりする事もあるよ。運が良かったのは生活に致命的な脳障害が今のところは残ってない事かな……」

 

 未来はダイレクトフィードバックシステムの暗黒面を話し切った。

 響には覚えがあった、チフォ―ジュシャトー内でハッキングをしている最中に未来が突如鼻血を流し始めたところを。あれは相当体に無茶を強いていたのだと今になって気が付いた。

 

「未来……私は……」

 

 響はなんて取り返しのつかない事をと言おうとしたが続きは止められた。

 未来が車椅子によって低い位置にあった響の頭を抱きしめたのだ。

 

「前も言ったけど響がなにをしたとしても選んだのは私だからそんな顔をしないで……」

 

 未来は悲しそうな声音で言った。

 少しの間沈黙があったが、お互いの体を離してその話は取りあえずここでは終わりと切り上げた。

 

「マリアさんはどうしますか?」

 

 エルフナインは問いかける。

 リンカーはエルフナインと未来が研究を続ければいつかは完成にこぎつけるかもしれない。

 しかしそれは明日なのか一年後なのかもっと先なのかは分からない。敵はいつ来るのか分からない、リンカー開発までは待ってはくれない。

 脳内の領域を探れば今すぐにでもリンカーを完成する。ただし副作用で廃人になるのかもしれないリスクもある。

 

「やるわ」

 

 マリアは迷うことなく答える。

 

「ようやくリンカー完成の目途が立ちそうなのに…見逃す理由がないでしょう?」

 

 マリアの表情には恐れはなかった。

 エルフナインと未来が必死につなげたこの希望を信じていると。

 

「でも危険すぎる!」

「やけっぱちのマリアデス!」

「あなた達がそれを言う!?」

『うっ……』

 

 リスクを知ってマリアを止めようとするが、先ほどまで自分たちがしていた事をマリアに掘り下げられて詰まってしまう。

 マリアは相手を咎める厳しい表情をしていたが、ふっと表情を和らげる。そしてエルフナインを向く。

 

「廃人になる危険は観測者にも及ぶのよね?エルフナインと未来どちらがするのかしら?」

「ボクがやります。未来さんは残って欲しいとお願いしました。危険は承知です、それがボクに出来る戦いです」

 

 エルフナインは覚悟を口にする。そして、

 

「ボクと一緒に戦ってください!」

 

 エルフナインの言葉にマリアは強気で獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「うええぇっ……」

 

 切歌の手にはパフェが握られていた。

 

「切ちゃん…心配なのは分かるけど……」

「分かってるデス!すべては分かったうえでの決断デス!!」

 

 調の言葉にムキになって答える切歌。しかしパフェを口にしたが肩は震えて口は動いていない。不味いのだ。

 

「チョコ明太子味なんて大冒険するから……」

「あたしのおごりを残すなよ?あむっ……美味いじゃねぇか…」

 

 調の心配そうな声。クリスはしっかりと釘を刺してパフェにパクつく。ちなみにクリスもチョコ明太子味を選んでいる。

 エルフナインの説明を聞いたあと、制服に着替えた響を含めた四人は街中にある広場に集まって買い食いをしていた。

 

「こ、これは願掛けなのデス!全部食べられたらマリアとエルフナインの挑戦はきっとうまくいくはずデス!」

 

 切歌は効果のほどが微妙な挑戦を行っていた。二人はパフェのやり取りに夢中になっていた。

 

「……………………」

 

 響はバニラソフトクリームを口にしながら考え事をしていた。内容は当然未来の事だ。

 昨日未来に言われたシンフォギアをまとった際に発生したという後遺症について考えていた。

 今はぼーっとしたり眠気程度で済んでいるが、歳を取れば脳にどんな影響が出るのか分からない。もしそうなった際に響はどう償っていけばいいのか分からなかった。

 未来は前にも言った事だが自分の選択だから気にするなと言ってはいたものの、ストレートにその言葉を受け止められるほど今の響の心は強くなかった。

 もし自分があの時未来を突き放さなければこうはならなかったのか?そんな事を延々と考えてしまうのだ。

 

「…………」

 

 クリスは心配そうに響を見ていた。

 おかしいのは気が付いていたがどうしても踏み込む事が出来なかった。

 前にファミレスで軽い気持ちで踏み込んだら容赦なく地雷を踏んだのだ。すくんでしまっても仕方がなかった。

 

『次のニュースです。内乱の続く祖国で片足を失ったステファン君』

 

 その言葉と共に広場のパブリックビューイングで流れていたニュース番組にステファンの顔がでかでかと表示される。

 テロップで「片足のサッカー少年 手術のために来日」と書かれている。

 

「あの子はバルベルデの……」

 

 響は映像に流れるステファンを見て反応してしまう。かつて彼女の目の前でクリスの苦渋の決断によって片足を失った少年を。

 

「え…?どういうことだよ……?」

 

 クリスは一瞬呆然としたがすぐさまニュース番組に意識を集中する。

 

『どうしても大好きなサッカーをもう一度したいと最新の義足を取りつける手術を受けるため、本日バルベルデ共和国より来日しました』

 

 映像には姉のソーニャも映っており、姉弟で来日したようだ。

 

「良かったねクリスちゃん、あの子またサッカーできるって」

「……………………」

「どうしたの?」

「だと良いんだけどな……」

 

 クリスは響の言葉に返さずにじっと見つめる。響もそれを不審に思って返すがそこで煮え切らない感じで返す。

 クリスの顔は晴れない。

 

「いやな……悩んで下した決断が…いつも正しいわけじゃない…それどころか初めから正解がないなんて事もある……」

 

 クリスは語る。きっと人が生きている間に絶対不変の正解など存在しないのかもしれない。

 

 

 マリア、エルフナイン、未来三人はヘッドギアとそれを繋ぐ大型機器の用意された部屋で準備をしていた。

 未来は機械のプログラミングの最終チェックを行っていた。

 マリアとエルフナインはダイレクトフィードバックシステムが内蔵されたヘッドギアをつけて大型のベッドチェアに座っている。

 

「よし…これで終わりっと……」

 

 未来がいつでも行けると合図を出す。

 

「では……マリアさん始めましょうか」

「ええ……あなたが私のここに入ってくるわけね」

 

 エルフナインの合図にマリアは頭を指して合意を示す。

 

「正しくは仮想空間に複写したマリアさんの脳構造に接続、ボクとマリアさんの意識を共有します」

「了解」

 

 二人は覚悟を決める。

 

「では帰ってきてくれると信じて待ちます」

 

 未来は二人を見てマシンを起動させる。

 二人のベッドチェアの真ん中にある接続機から錬金術師的な意匠のある紋様が出てきて起動する。

 未来の手元のモニターにはエルフナインとマリアの対感覚や思考が共有されたのを示す警告が出ている。

 

 

―りんごーがーうーかんだーお空にー

―りんごーがー落っこちたー地べたにー

 

 エルフナインは澄んだ青空に疎らな雲のある気持ちのいい晴れの中に一人ぽつんといた。周りの風景は一面の花畑に遠くまで広がる緑、遠くには険しそうな山々が。

 

「これが…マリアさんの脳内…記憶が描く心象風景……」

 

 彼女は自分の知識を総動員して目の前に広がる風景を計ろうとする。

 

「…?」

 

 横から笑い声が聞こえて何事だろうとその方へ向くと、幼い二人の姉妹がいた。

 ここがマリアの記憶を繋げた世界ならそこにいるのはマリアとセレナだ。花畑の真ん中で花冠を作っていてとても楽しそうだった。

 

「マリアさん…?」

 

 エルフナインの知っているマリアは既にハタチを超えているので一桁ほどの姿では少しだけ自信が持てなかったのだ。

 

 場面は移り変わってナスターシャがマリアに鞭状で叩く場面。

 目の前にいるナスターシャは二足で立っていた。

 

『ヒッ…!』

「いたあっ…!」

 

 パシッと叩かれてマリアは小さな悲鳴を上げる。

 その痛みがエルフナインにも伝わる。慌てて袖をめくると腕に傷が出来ていた。

 

「どうして…?」

 

 痛みと共に気になったのはナスターシャが叩いた事だ。

 

『今日からあなた達には戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器になれなかったレセプターチルドレンには涙より血を流す事で組織に貢献するのです!』

 

 ナスターシャの部屋中に通る声。この場を支配しているのは彼女だ。

 子供たちはみな恐怖ですくみ上り俯いている。セレナはマリアの背中に隠れて縮こまっている。

 

(意識を共有しているからには記憶と体験はボクにも及ぶ……)

 

 エルフナインはマリアの叩かれて傷ついた腕を見て改めてここがマリアの記憶から作られた空間なのだと再認識する。

 

 

 次の場面は一つの部屋に詰め込まれたレセプターチルドレンたち。布団すら用意されず地べたに寝かされている。中世の奴隷船よりはましだが、良心のある人間が子供に与える就寝環境ではない。

 その中でマリアとセレナは身を寄せ合って苦しさを凌いでいた。

 

「どこなんだろう……ギアと繋がる脳の領域は……」

 

 次の場面は白衣を着た研究者然とした人間に連れていかれて身体能力検査を受ける光景。

 頭に電気信号を流して脳の機能やその領域を試す実験場。

 リンカーのサンプルを飲まされる一面。

 シンフォギアにリンカーそれらが生み出されるのに何の犠牲も無いはずがなかった。多くの犠牲と踏みにじられた人権がそこにはあった。

 

 そしてネフィリムの卵の前にいるセレナ。

 彼女はアガートラームに選ばれた正規適合者、つまり高いフォニックゲインを供えていた。だからこそ彼女の歌でどれほどの反応が得られるかの実験だった。

 その実験はマリアやナスターシャだけでなく、秘密裏に渡米した櫻井了子も見ていた。

 歌を歌おうとした瞬間に世界は反転した。

 

「あ……?」

 

 エルフナインは気が付くと厚い雲に覆われた薄暗い街中でノイズ達に囲まれていた。

 

「これはノイズの記憶…?」

 

 ノイズ達はエルフナインを本能のまま殺さんと迫ってくる。

 彼女は慌てて走って逃げようとする。

 

(もしここでボクが死んだら!現実のボクも目を覚まさずに…!)

 

「うわっ!」

 

 瓦礫を乗り越えて逃げようとする、しかし乗ったは良いものの降りる段階で着地の際に足をひねって倒れてしまう。基本的に運動は苦手でどんくさいのかもしれない。

 エルフナインが怯んでようが相手には関係のない話、あっという間にノイズに囲まれる。

 

「くぅっ…」

 

 ここまでかと悔しそうに覚悟を決めるが、

 

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 

 聖詠が聞こえる。すると刃の嵐がノイズ達を殲滅する。剣が地面に叩きつけられて爆風が吹き荒れる。エルフナインはその風に腕でガードしてしまう。

 あっという間の蹂躙劇だった。

 エルフナインが前を見るとアガートラームをまとったマリアがそこにいた。

 

「マリアさん!」

「いくら相手がエルフナインでも……想い出を見られるのはちょっと照れくさいわね…未来じゃなくて良かった。彼女だったらいじられてそして恥ずかしくて死んでしまうかも…」

 

 エルフナインを助けた彼女はそんな軽口を叩きながら現れた。

 

「あの…いつの記憶の…どのマリアさんですか……?」

「一緒に戦うって約束ばかりでしょう?」

 

 本物というには実際の肉体でないため仮想なのだが、とにかくリンカー完成の為にこの空間を作り出して乗り込んだマリアの意識を持ったその人だった。

 そしてエルフナインから視線を逸らしたマリアはノイズに向かい合う。

 

「私の中で私が暴れて何が悪い!」

 

 そう言って残ったノイズ達を切り刻み始める。

 

「突破する!!」

「はいっ!」

 

 マリアの言葉にエルフナインは呼応する。

 手を繋いで走り抜けていると突然雪と氷に覆われた空間にたどり着く。

 

「ここは…どこ?」

 

 この場所はマリアには見覚えのない空間だった。

 

「マリアさんも忘れかけている深層意識のイメージでしょうか?」

「深層…?」

 

 マリアだって怖いのだ。人は自分が思っているほど正確に物事を記憶していないのだから。気が付かないうちに辛い事や思い出したくない事を記憶の隅に追いやっていてもおかしくはない。

 するとそこで二人の周りに黒いもやが現れるそれは二

「これは……?」

 

 未来の手元のモニターにマリアの方から異常な情報量が一方的に接続空間へと流れているのを見つけた。

 するとアラームが鳴りだして二人が苦しみ始める。

 

(これ以上は不味いか?)

 

 未来は機械の停止を視野に入れ始める。ある程度のリスクは承知の上だったが引き際を間違えてはいけない。

 

『二人の様子は?』

 

 翼が帰ってきて今回のリンカー完成への実験について聞いて通信をよこしている。

 

「翼さん帰ってきていたんですね。こちらは二人のバイタルが異常な数値を出しています。実験中止も視野に入れています」

『むう…やむをえまい…場合によっては観測の一時中断を……』

 

 未来の返答に弦十郎が指示を出そうとするが。そこでアルカノイズ発生を示すアラームが鳴り響く。

 

『東京湾にアルカノイズ反応!』

 

 ブリッジ内の正面モニターに八本の首を持つ巨大な飛行するアルカノイズが表示される。

 サイズ的にも大きく飛んで市街地へと向かっている。

 

『まかり通らせるわけには……行きます!』

 

 翼はブリッジから飛び出していく。

 

 

 大型ノイズの更に上空に透明な何かに乗っているパヴァリア光明結社の幹部たちがいた。

 

「オペラハウスの地下にはティキ以外にも面白いものがゴロゴロ眠っていたのよねぇ」

「持ったいぶってなどいられないワケだ」

 

 カリオストロとプレラーティは表面上は平静を保っていた。

 

「そう…我らパヴァリア光明結社は神の力を持ってして…世の理をあるべき形へと修正する…」

 

 

『…それ…サンジェルマンさんたちが……手にかけた人の前でも……言い淀むことなく一語一句同じことを言えるんですか……?』

 

 

「大義は……いや正義は……我らにこそある……」

 

 サンジェルマンは前と同じように自信を持ってその口上を口に出来なくなってしまっていた。

 

「サンジェルマン……」

 

 カリオストロは不安そうな顔で声をかける。

 彼女には何が今のサンジェルマンの心に刺さっているのか理解できていた。

 

「行く道は振り返るものかッ……たとえ一人で駆けたとしても……!」

 

 彼女は心に垂れる毒を必死にこらえて何とか言い切った。

 

「一人じゃない、一人になんてさせないワケだ」

「あーしたちがここにいる。どこだって三人だよっ」

 

 プレラーティとカリオストロがそう告げる。

 

「そうだ……人類がこの星の完全な霊長になるためには…支配される存在であってはならない…シンフォギアなどには阻まれるわけにはいかない!」

 

 サンジェルマンの強い言の葉が響いた。

 

 

「分かりました!ヘリの降下地点に向かいます!」

「もたもたは後回しだ!とりあえず行くぞっ!」

 

 響とクリスは近くの広場のヘリが止まれる地点に移動する。

 

「切ちゃん、私たちは本部に」

 

 調の言葉に手に持っていた明太子の劇物を急いで処理して頷く切歌。

 

「あ、そうだ」

 

 響が止まって切歌と調に声をかける。

 

「リンカーは絶対に完成するっ!だから援軍待っているから!!じゃあ後でね!!」

 

 響はそう言って杖を突きながら集合地点へと向かって行く。

 そう声をかけられた二人はぽかーんとしていたが。

 

 

『マリア…マリア…しっかり……』

 

 その声にマリアとエルフナインは目を覚ました。アガートラームは解除されている。

 不思議の空間だった上下左右があやふやだが光がさす方が上のような感じがしていた。

 声のする方へ向かうと眼鏡に白衣の男性、しかし左手は人間のそれ。

 

「あ、あなたは……」

「そうとも、僕は行きずりの英雄」

 

 この場に彼女たち以外の第三者がいた。それは、

 

「ドクターウェル!死んだはずでは!?」

 

 ウェル博士だった。

 しかしマリアの言う通りウェルはあの日シャトー内で確実な絶命をしている。未来が死亡を確認してその後死体を解剖された結果、心臓を貫かれてのショックと出血多量と判断された。

 

「それでも君の胸に生き続けている……死んだ人間てのは大体そうみたいだねええええっ!!!!」

 

 今までの紳士的な雰囲気が消えていつもの醜悪さの残る表情になった。

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