過去に戻った立花響   作:高町廻ル

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力の無さが嫌になる

 響達は現在S.O.N.G.の寄越したヘリに乗って装者三人で東京湾上空に居座る大型ノイズに対峙しようとしていた。

 

「…………」

 

 クリスはずっと俯いて考え事をしている。

 翼はそれを見て咎める。

 

「雪音、今は目の前の作戦に集中しろ」

「わ、分かってるさ…」

 

 翼はステファンの件もあったので気を引き締める様に要求する。クリスもすぐさま気を取り直す。

 三人はヘリから飛び降りて瞬時にシンフォギアをまとう。そしてクリスの発生させたミサイルに乗ってすぐさま飛行しているアルカノイズたちへ飛び掛かっていく。

 

「錬金術師の動向が分からない以上は抜剣を控えイグナイトは抜きで迎え撃つぞ」

「何のつもりかしらねぇが遅れは取らねぇっ!!」

 

 クリスはガトリングガンを構えていつの間にか召喚された小型の飛行するアルカノイズを撃ち落としていく。

 撃ち漏らした個体が響を襲うが彼女の拳の一撃で撃退する。

 翼の乗っているミサイルは真っ直ぐ飛んでいたが目の前にノイズが行く手を阻むように巨体を進行方向に滑り込ませて阻もうとする。

 

「この身を防人たらしめるのは血よりも熱き心意気ッ!」

 

 翼はミサイルから飛び降りて脚装のブースターを噴かせて空中機動で切り刻みながら突撃していく。あらかた殲滅し終えると響のミサイルに飛び乗って再び進行する。

 先ほど翼が飛び降りたミサイルはそのまま進行方向を妨害しようとしていた相手に直撃して殲滅する。

 

『アルカノイズ残存数六十八パーセント』

 

 本部から現状報告が入る。

 敵を処理しながら進むと大型の八本の首を持つアルカノイズを目視した。

 よく見ると小型のアルカノイズ達を産み落としながら進行している。最初は一体なのにいつの間にか数が増えていたのはそう言うカラクリだった。

 

「こうもあいつらをいちゃつかせてるのはこいつの仕業か!」

「…………」

 

 クリスは標的を見つけて気合が入っているが響は相手を何度倒しても何度も再生して小型にグレードダウンこそするが復活するのを知っている。相手は物量で押してくる気なのだ。しかし現状は何度も倒して再生不可までバラバラにするしかこちらに策は無いのでやるしかないのだが。

 

「どうした立花?」

「いえすぐに倒しましょう!」

 

 翼はじっと敵を見つめる響を不審に思ったようだが響はすぐさま思考を断ち切って敵に向かって飛び降りた。翼もすぐにそれに追随する。

 響が大型の装甲を形成、翼も大剣のアームドギアを構えて最大級の一撃を叩きこもうとする。その一撃は敵の巨体を貫く。

 

「そしてあたしは片付けられる女だあああっ!!!!」

 

 そしてクリスはありったけのミサイルを撃ち込んで相手の巨体を三分割にしてトドメを刺す。

 いや刺したと思ったのだが分裂したアルカノイズそれぞれの切断面が盛りあがり新たに三体の個体として活動を始める。

 

「まさか仕損じたのかっ…!?」

 

 

 翼の驚愕に呼応するように本部からのオペレーティングが入る。

 

『分裂した巨大アルカノイズ個別に活動を再開しました!総数三!』

『それぞれが別方向へ進行』

『敵の目的は装者の分断か…!』

 

 実にいやらしい一手だった。アルカノイズを使い連携を防いで体力を削いでいく。単純だが効果的な戦法だった。

 

『司令!入間基地より入電っ、必要であれば応援をよこしてくれると』

『無理だ!相手がアルカノイズでは足止めだってままならない!下手すれば被害が……』

 

 友里の報告に藤尭は苦渋の表情を作る。

 いくら軍の装備でも大量にいるアルカノイズを相手できるはずがなかった。

 

『いや……入間基地にはコード81を要請してくれ……』

『ハリヤーをここにですか?分かりました』

 

 弦十郎は賭けに出る。叶うのかも不明な小さな光明を頼って。

 

 

 響は走って陸路から、クリスはその場にあったボートを使って、翼は水面をブースターを使って、それぞれの方法で三様に飛び回るアルカノイズを追いかけていた。

 

 響は空港で三つ首の相手をしていたが、一本の首を殴り飛ばしてもその隙に他の首が小型のアルカノイズを生み出していく。

 

「やっぱりキリがない…!」

 

 小型の雑兵をその場殴る蹴るで倒していくが、やはり数が多い。しかし少しずつだが数は減らせている。

 三つ首のアルカノイズも最後の1つまで追い詰めていた。

 

(出来るならマリアさん達の手を煩わせたくないけど……)

 

 響は前の世界では倒し切れずにリンカーが完成したマリアに助けてもらったのだが、この世界でも同じようにリンカーが絶対に完成するとは限らない以上は楽天的な作戦は組むべきではないだろう。

 敵は触手の一つを伸ばして響を貫こうとしてくる。その攻撃をギリギリでかわしてそれを伝って本体へと飛び込んでいく。そして勢いよく拳を振りぬいて最後の首を落とす。地面に着地して様子を見る。

 この後、尻尾から顔が生えて分裂し街中へ逃げようとするのだが、

 

「させるかっ!」

 

 響は最後だと飛び掛かろうとするのだがそこで疲労が足に来て膝を着いてしまう。その隙に逃げられる。

 前の世界よりも心なしか敵アルカノイズの数や個々の戦闘能力が高いように感じるのは、錬金術師たちが響の判断力や個人としての実力を評価しているからだろうか。

 

(こんなところで!?)

 

 すぐさま気を取り直して市街地へと走り出す。自分の弱さに歯噛みしながら。

 

(何でこんなに役立たずなんだっ!)

 

 

 翼は追いかけた個体が海路から陸路へ移動。

 飛び上がって思いっきり剣を振り下ろして首を落とすが落とした首が更に新しい個体になり、目の前に二つの個体が現れる。

 

「さらなる分裂ッ!ならば……」

 

 飛び上がって短剣を大量に飛ばして再生も追いつかないほどに全身に対して均等にダメージを与えていく。ただし倒した瞬間に最後のにぎりっぺなのか小型ノイズを召喚していったが。

 

「消耗戦とはなかなかどうして……」

 

 既に翼は汗だくで限界に近かった。それでも怯むわけにはいかない。

 

 

 クリスはありったけのミサイルをぶつけて再生不可能なダメージを一つの首に与えるが残った二つの首が新たな個体となる。

 

「どんだけ頑張らせる気だ…!」

 

 そう言って大型ミサイルとガトリングガンをありったけ構えて撃ち放つ。ミサイルの当たる場所に誘導するようにガトリングガンで牽制をする。そして本命が見事に命中する。増殖の元は絶った。

 

「あとは……」

 

 クリスの目の前にいるのは大量の置き土産たち、あと少しだとなんとかクリスは踏ん張る。

 

 

「マリアとエルフナインは無事デスかっ!?」

「私達も一緒に見守る…!」

 

 脳領域への旅に出ているマリアとエルフナインをモニタリングしている未来に話しかける切歌と調。

 

「…ドクターウェル…死んだはず……!」

 

 マリアは苦しそうな顔で呻く。

 

「マリア苦しそう……実験止めた方が良いのかな……」

「よく分からないけど……」

「どうにも様子がおかしいのデース……」

 

 ウェルの名前が出て微妙そうな表情をする三人。

 

 

 マリアの生体電気の流れから投影して作った脳領域空間の中、マリアとエルフナインは目の前に現れたウェル博士と相対していた。

 

「ううっ…ふっふ…きっとあれもこれもきっと…あれですよあれ…マリアの中心で叫べるなんて超サイコォーッ!!」

 

 ウェルは指を差しながら興奮冷めやらぬと言った感じで叫び出す。

 マリアは手に頭を当てて頭痛を堪えながら目の前の現象に物申す。

 

「あんな言動私の記憶に無いはずよ……」

「だとするとウェル博士に対する印象や別の記憶をもとに投影されたイメージという事になるのでしょうか……」

 

 エルフナインは困ったと言った感じで返す。

 マリアをフォローしたいのだがあまりにも言動がエキセントリックなため困惑しているのだ。

 

「自分の記憶を叱りたいっ…!」

 

 マリアはこんな思念体を生み出した自分の脳に備えられた想像力をこの場で呪った。

 

「もしかしたらマリアさんの深層意識がシンフォギアと繋がる脳領域を指し示しているのかもしれません」

「アガートラームの導き……?だったらセレナとかもっと適役がいたはずよ」

 

 エルフナインの考察にやんわりと否定を入れる、いや入れたい感じのマリア。

 不快なマッドサイエンティストよりは愛おしい妹の方が会いたいに決まっていた。

 

「示しているのはウェル博士から直接想起されるもの……だとするならば……」

「…!」

 

 マリアもここで気が付いたつまりはリンカーだ。目の前にリンカー完成に繋がるヒントがどっかりと居座っている。

 

「生化学者にして英雄!」

 

 ウェルは口上を述べ始める。

 

「定食屋のチャレンジメニューもかくやという盛りすぎ設定!」

 

 凄い身分のはずなのにどこか庶民臭い例えだった。

 

「そうとも僕はハッキリと伝えてきた。はぐらかしなんてするもんか!」

「だったら!」

 

 ここがマリアの記憶から抽出された空間である事を忘れて情報を催促しようとするマリア。

 

「忘れているのなら手を伸ばし、自分の力で拾い上げなきゃ。記憶の底の底の底ォッ!そこには確かに転がっている!」

「!」

 

 そのウェルの言葉に少し前の記憶が想起される。

 

『……でも強くなりたいなら…自分で考えて掴み取らないときっとそれは満足できないと私は思います。他人の言葉を参考にしても…それを鵜吞みにして方針に据えてはいけない…と思います。自分で納得できるまで悩まなきゃ……』

 

 ナスターシャの墓前で未来が言った言葉。

 未来とウェルは厳密には伝えたい事は違うはずだがそれでも、他者からヒントは受け取っても最後は自分で悩んで苦しんで答えを出せというのは共通する部分だった。やはり未来はこの男の影響を受けているのだ。

 

 気が付くと二人の周りに煙が現れ始める。それはマリアとエルフナインを分断するかのように辺りを覆っていく。

 

「マリアさん!」

「離れないでエルフナイン!」

 

 二人は手を握ってこれから起きる試練に向き合う。

 そして気が付いたら星が煌めく不思議な空間の中に立っていた。

 

「ここは…?」

「心象が描く風景……ではなさそうです……」

 

 二人はこの世のものではない風景に困惑をする。

 マリアの持つ記憶のかけらを繋ぎ合わせてこの空間が形成されるとは思えなかったのだ。

 

「あれは…」

 

 エルフナインの呟き。二人の前に光り輝く何かが現れた。

 

『強く…なりたい……』

 

「今の声は…?私……?」

 

 マリアは自分の声が前方からした事で戸惑っている。

 

『弱い自分を見せたくない』

『誰に嘘をついてでも……自分の心を偽ってでも…でも本当は嘘なんてつきたくない…!』

 

「ここは……マリアさんの内的宇宙……?」

 

 エルフナインがそう結論付けるとマリアが手で腕を抱いて震え始める。

 

「私の心の闇っ…受け入れられない弱さに怯えて…誰かと繋がることすら拒んでいた…あの頃のッ…!」

 

 彼女は分かりやすいほど顔色が悪かった。

 かつてのマリアはテロ組織の看板を背負い、悪を名乗ってでもフロンティア事変を起こして多くの命を救おうとした過去を持っている。

 結果論だが多くの人を救えた、それでももし早い段階で多くの人に打ち明けて困難に向き合っていればナスターシャも死なず多くの犠牲者を出さなかったはずだ。

 

「マリアさん…?」

「誰かと手を取り合いたければ自分の腕を伸ばさなければいけない…だけどっ!…もし振り払われてしまったら……」

 

 そこで内的宇宙が星のきらめきが消えて真っ黒に染まっていく。マリアの心に影響を受けている。

 エルフナインがマリアから引きはがされていく。他者を恐れる心象に影響を受けていた。

 

「マリアさん!」

 

 エルフナインが必死に手を伸ばすが彼女の視界からマリアが消えた。

 

 

 マリアは上か下か分からない空間にいた。分かるのは水の中のようで底に向かって落ちていくような感覚。

 

『私は自分で作った闇に溺れて…かき消されてしまうの…?』

 

『シンフォギアとの適合には奇跡というものは介在しない…その力、自分のものとしたいなら手を伸ばし続ければいい』

 

 それは未来が翼やクリスのような天然の適合者をリンカー頼りの身でありながら圧倒した際に、それを見たマリアがポツリとなぜそんなに強いのかと言った時にウェルが真面目に答えた一言。

 その言葉がふと耳に届くとマリアは目を開けて、目の前にある光りに手を伸ばしてそして掴んだ。

 

 

「マリアさん!」

「あっ!」

 

 マリアはエルフナインの言葉に慌てて状態を起こす。

 横には声の主エルフナインがいる。

 

「ここは……白い孤児院……?」

 

 マリアがポツリと言う。

 白い孤児院、それは米国連邦聖遺物研究機関(F.I.S.)がフィーネの器になりうる子供を非合法な手段で集め、そして非合法な研究と実験を行ってきた秘密組織。マリア、切歌、調そして別ルートではあるが未来もここの出身になる。

 

『ううぅ…っ』

 

 二人の耳に小さな女の子の怯えた声が耳に飛び込んでくる。何だろうとその方向を向く。

 そこには泣いているセレナを抱きしめる幼い頃のマリアがいた。これはマリアの中にある幼き頃の記憶の一幕。

 それをマリアは泣きそうな悲しそうな、そして懐かしそうな表情で見つめている。悲しく辛い思い出の一つではあるのだが同時に家族のセレナが生きていた事の想い出でもあるのだ。

 

 一人の優しそうな雰囲気をまとっている女性研究者が手を差し出す。私は怖い人ではないよと。その女性の顔は何故かはっきりとはしなかった、恐らくマリアが幼かった時の記憶がもとになっているためにその実像は曖昧なのだ。

 マリアとセレナは恐る恐るといった感じで手を差し伸ばそうとする、その温かそうな手を。

 しかしそこでバシッと鞭状で叩かれる、その相手はナスターシャだった。そして一言。

 

『今日からあなた達には戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器になれなかったレセプターチルドレンには涙より血を流す事で組織に貢献するのです!』

 

 強く頭ごなしに言われてつい幼いマリアは目に涙を溜めてしまう。

 

『本当にそうだったのかい?』

(本当に私の記憶はマムへの恐れだけだったの?)

 

 脳裏に浮かぶウェルの声と自分の思考。自分で自問する。

 

(あ…)

 

 そこでマリアは気が付いた。ナスターシャの顔が悲しそうに口角が下がり目を伏せていた。それは叩いた側のはずなのにまるで自分が叩かれているかのような、身を引き裂く様な辛そうな顔がそこにあった。

 

(そうだ……恐れと痛みから記憶に蓋をしていた…いつだってマムは私を打った後は悲しそうな顔で…)

 

 場面は変わり。リンカーの投与実験が行われていた。

 泣きながらリンカーの打ち込まれている子を見て皆が身体を固くする。どう見ても苦痛に顔が染まるそれを見て愉快な気分になどなれるはずがなかった。

 怖がるマリアとセレナを見てナスターシャは鞭状で叩いて前に出てリンカーを打てと無言の圧力をかける。

 マリアは涙を溜めながらもなんとか前に出る。セレナは震えながらそれに続く。

 ナスターシャの顔はまたも悲しそうで。

 

 ある少年が足を折るけがをしたら彼に出来る範囲でギリギリの訓練を課した。

 

 マリアがフィーネに成り代われない、悪に染まれないと言ったら叱咤をした。ただし唇を噛みしめながら。

 

 ナスターシャはどんなに過酷な実験や訓練を課してもレセプターチルドレンから一人も脱落者を出さなかった。

 それどころかテロ組織フィーネを決起した事で今まで隠されて来たレセプターチルドレンたちが明るみに出て全員保護されている。彼女の厳しさはいつも誰かを生かすために心を痛めそして鬼となった。

 

『トマトを美味しくするコツは厳しい環境に押してあげる事。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくるもんじゃよ』

 

 ふと甦る農家のおばあちゃんの言葉。

 

「大いなる実りは厳しさを耐えた先にこそ」

 

 マリアは先ほどまでのおぼつかない感じではなく、しっかりと地面を踏みしめてグッと拳を握ってそう言った。

 

「優しさばかりでは今日まで生きてこられなかった。私達に生きる強さを与えてくれた。マムの厳しさ……その裏にあるのは」

 

 その時マリアは聖詠を唱えなくても自然とアガートラームをまとっていた。

 ふと前を見ると真正面から対面した事などほとんどなかったが、穏やかに笑うナスターシャがいた。その隣には彼女と手を繋ぐ満面の笑みのセレナと幼いころのマリアが。

 

『そう……ナスターシャにもマリアにも伝えた。そう人とシンフォギアを繋ぐもの』

 

 目の前の風景がリンカー完成に必要な答えだった。アガートラームが残した痕跡、可視化された電気信号が示すそれはギアと脳領域を繋ぐ感情。それにリンカーを作用させればいい。

 

 エルフナインとマリアはやっとこの場所にたどり着いた。人と聖遺物を繋ぐ誰もが等しく持つ熱くて深い感情、その正体を。

 

 

「お帰りなさい。マリア、エルフナイン」

「あっ…」

 

 笑顔で出迎える未来の言葉にはっと目が覚めるエルフナイン。

 

「エルフナイン?」

「どうだったデスか…?」

 

 調と切歌は恐る恐る結果を聞こうとする。

 二人が命をかけた戦いにどんな報酬を得たのか、最上の結果を得て欲しいと願いながら。

 しかし未来は分かっている。脳領域の旅に行く前と違ってエルフナインの顔に不安の色が無い事を、つまり全てを終わらせてきたと。

 

「二人とも大丈夫。どうやら成功したみたいだよ」

「はい…!」

 

 未来の予想通りにエルフナインは確固たる揺るぎなき自信を持った顔をしている。

 彼女の確信を持った言葉に、二人もぱあっと明るい顔になる。

 

「そっか、ならすぐに研究室に行こうか。二人ともマリアをお願い、あといつでも出撃できるように準備を初めて」

 

 未来とエルフナインは部屋から出てリンカー制作に取り掛かる。

 

「…………」

 

 マリアは無言で少し疲れた顔色でヘッドギアを外す。

 そして目じりに涙が溜まり、少しだけこぼれる。でもそれは今まで何度も流してきた悔しさや苦しさのとは無縁で。

 たった一言だけ言う。

 

「ありがとう……マム……」

 

 

 響は逃げる敵を追いかけるうちにチフォ―ジュシャトーの前まで来ていた。

 彼女は倒すたびに分裂する敵に手を焼いていた。倒される直前に体の一部を切り離して分裂して全滅だけは逃れていくのだ。

 

「ほんっとにめんどくさい!」

 

 響は苛立った言葉を出す。

 相手の特性は分かっているが直接打撃以外出来ない響では分裂に間に合わないのだ。何より前の世界よりも敵戦力がシビアになっていた。

 

(お願い……早くリンカー完成して……)

 

 そんな事を考えていると二体のうちの一体が響に襲い掛かってくる。それを両手で受け止めて地面に叩きつけて、怯んで寝そべるそれに思いっきり蹴りを決めて消滅させる。

 

「くっ……もう一体には逃げられた……」

 

 響が苛立ったように言うと、突如一帯が日陰に入る。空にはバルベルデで現れた巨大空中艦が空を支配していた。

 

「…………」

 

 苦々しい表情をする響。

 翼は海上でクリスはアルカノイズを殲滅しながらも突如現れたそれに驚いていた。

 

 

「いくらシンフォギアが堅固でも」

「装者の心はたやすく折れるワケだ」

 

 その戦艦の上でカリオストロとプレラーティは自信満々に言う。

 そしてサンジェルマンは言い放つ。

 

「総力戦を仕掛けるわ」

 

 同時にアルカノイズ達が地上に降り注いでいく。

 目の前に大量の敵たち。響をここで打ち取る気なのだ。

 

『アルカノイズ、第十九区域方面へと進行!』

 

 それは今の新リディアンに向かっているという事。

 

『ぼさっとしてねえで早くお前がいけ!その場所は皆にとっても大切な場所だ。そんなつまんねぇ奴らにあたしらの居場所を踏み荒らさせるな!』

 

 クリスは響に自分たちが敵を引き付けるから学校は守れと言っているのだ。

 

「…………今頃サンジェルマンさんはしたり顔で賢者の石を構えてるのかな」

『おいバカ!何言ってんだ!!』

「情けないな…誰かに頼らないと……自力じゃ何もできない自分が無力でみっともない……」

『おい立花!しっかりしろ!』

 

 響の苦しそうな声にクリスと翼が大声で声をかける。まるで戦うのを諦めたかのような弱々しい声だからだ。

 だが響は戦うこと自体を捨てたわけではない。ただ自分だけで何とかしようとするのは諦めたが。

 

『情けないなんて事は無いデス!』

『間に合ったのは響さん達が諦めずに粘ったからこそ…!』

 

 通信で切歌と調の声が聞こえる。それは響だけでなく翼とクリスにも聞こえている。

 響の背後から空を切る何かの音が聞こえる。それはジェット機だ。

 超速で一瞬にして天高くまで飛び上がって、あっという間に空中戦艦の上を取る。するとジェット機の後方から誰かが緊急射出される、それは切歌と調だ。二人は自由落下しながら戦艦へと飛び込んでいく。

 

『Zeios igalima raizen tron』

『Various shul shagana tron』

 

 二人は空で聖詠を唱えて素早くシンフォギアをまとう。

 調はヘッドギアからノコを射出して下方にいる敵をなぎ倒し、自分と同じ目線の敵はエネルギーの刃が付いたヨーヨーで切り刻んでいく。

 切歌は鎌の刃をブーメランのように投げ飛ばして自分たちの着地を邪魔する相手を殲滅する。

 そして二人は見事に戦艦に着地する、しかしギアを使用する事で発生していたバックファイアは起こっていない。ウェル博士特製の装者に優しいリンカーは完成していたのだ。

 

 

「シュルシャガナのイガリマ、エンゲージ!」

 

 藤尭の力強い言葉、そこにはこれまでの不安な感じは存在しない。

 

「協力してもらった入間の人達には感謝してもしきれないですね」

「ああ」

 

 緒川の一言に嬉しそうに弦十郎は答える。

 

「バイタル安定!シンフォギアからのバックファイアが規定値内に抑えられています!」

「ああ…!…感謝するぞ二人とも……!」

 

 友里からの報告。弦十郎はその結果を聞いてこの場にはいない技術者に礼を入れる。

 

 

 未来とエルフナインは研究室で一仕事終えていた。

 

「ふうっ……」

「お疲れ様」

 

 エルフナインはさすがに疲れたと小さく溜息を吐く。未来はそれにねぎらいの言葉を返す。

 エルフナインは気を抜いたところを見られて少し恥ずかしそうにする。

 

「しかし……リンカーがまさかねー……」

 

 未来は先ほど聞いたリンカーが脳領域に作用する箇所を聞いていまだに信じられない気持ちなのだ。

 エルフナインは自分が命がけで得た情報を口にし始める。

 

「人とシンフォギアを繋ぐ脳領域、それは自分を殺してでも誰かを守りたい無償の思い」

 

 そして彼女は言い切る。

 

「それを一言で言うのなら……『愛』」

 

 

「それは『愛』…!」

 

 マリアは新校舎のリディアン屋上にてやってくるノイズへと対峙していた。

 飛び上がって敵に向かって剣を蛇腹のように伸ばして縦に真っ二つにする。

 

 その力は愛を持って厳しくマリア達を育ててきた、ある女性が先の未来へと託した大いなる実りだった。

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