巨大空中戦艦に着陸した切歌と調は刃とノコを飛ばして空中に浮遊するアルカノイズ達を蹂躙していく。
すると好き勝手はさせないとプレラーティが炎弾を調に投げつけてくる。間一髪でかわすがすぐさま追加で投げつけてくる。逃げるスペースは無いと判断してヘッドギアから小型ノコを飛ばしてすべて打ち落とす。
「これは……」
プレラーティも少しだけ驚く。
前にバルベルデの空港であった時のようにいつ消えるかもわからない不安定さが消えて、ギアが力強い波動を放っていたからだ。
「シッ!」
その隙を狙って切歌は鎌でプレラーティに斬りかかりに行く。
ギリギリのタイミングでかわしてくるが諦めないと追撃しようとする。するとそこでカリオストロが獰猛な笑みを浮かべて手に青白いエネルギーをまとわせ突貫してくる。それを切歌は真正面から得物で受け止めてみせる。
「結局お薬便りのくせして…」
「リンカーをただの薬と思わないで欲しいデス!」
カリオストロは相手を煽ってみせるが切歌の表情に揺らぎは見られない。相手の拳の進行を止めて見せている。
「みんなの思いが完成させたこの絆で!」
調はプレラーティに突っ込んでいく。
相手も簡単には近づかせないと氷の槍を射出するがそれをギリギリのタイミングでかわしながら敵へと飛び込んでいく。スカートを刃物に変形させて攻撃を加えようとする。プレラーティは防御壁を生成するが、想定以上の攻撃力にすぐさま受けではなく後方に引いた。
「くっ…!」
プレラーティには相手をなめた事で油断した怒りと短時間で想定以上に強くなっている事への焦りがあった。
「ふんっ!」
切歌は得物と拳の鍔ぜり合いから強く武器を振って相手の態勢を崩して、肩のアーマーに内蔵されているアンカーを飛ばして攻撃。
「うっ!」
カリオストロは虚を突かれて攻撃を防ぎきれずに後方に飛ばされてしまう。その先には調から引いたプレラーティがいた。
「へっ?」
「ッ!まさか……」
カリオストロは飛ばされた先の真後ろにプレラーティがいる事に驚く。プレラーティはそこで相手の意図に気が付いた。
相手装者はそれぞれに単独撃破を狙っているのではなく、二人の同時攻撃を当てる事を狙って自分たちのこのポイントまで誘導していた事を。一網打尽にするつもりなのだと。
切歌と調は上空で手を繋いで敵に向かって一直線に飛び込んでいく。二人の脚装に刃物を生み出して合体させて巨大な回転ノコを生み出してトドメを刺そうとする。
サンジェルマンは慌てて仲間を助けるために飛び出して防御壁を展開して受け止めるが、
「うっ…ぐうっ…!」
二人の力を合わせた一撃に耐え切れずサンジェルマンはうめき声を出してしまう。その勢いのまま防御壁ごと空中戦艦をぶち抜いていく。
『はあああああっー!!!!』
空中戦艦は胴体に大穴を開けて爆散していった。
その勢いのまま二人は地面に着地して土煙を巻き起こす。
◎
「あいつらは何処デスか!」
切歌はファウストローブをまとえるほどの相手を簡単に討ち取れたとは思っておらず、すぐさま探す。
「その命……革命の礎に……」
サンジェルマンはファウストローブまとって銃口を切歌へと向けていた。
パシュッと弾丸を出す音がするがそれは見当違いの方へと飛んで行く。
「させません」
「何だと……?」
響はサンジェルマンを至近距離で睨みつける。
一方で睨みつけられたサンジェルマンは自分の居場所や行動を完全に先読みされた事に驚いた声しか出せない。そう響は銃身を握って銃口を誰もいない方向へと無理矢理向けたからだ。
「ッ響さん!」
切歌もまた驚いてた。あの悪い視界の中で敵の動きを読み切って対処して見せたからだ。
響は銃身を離すと切歌と調のいる場所まで下がる。
錬金術師たちは響の顔を見ていた。そしてあの言葉がぶり返す。
『…それ…サンジェルマンさんたちが……手にかけた人の前でも……言い淀むことなく一語一句同じことを言えるんですか……?』
だが止まるわけにはいかない、もう彼女たちは止まれない。
「『命を革命への礎だなんて間違ってる』って言ってもきっとサンジェルマンさん達はまともに聞いてくれませんよね?」
響は淡々と言う。そして、
「サンジェルマンさんがやっている事は根本的な所で間違っているんです。だから半年だけでも待ってくれませんか、半年あればそれを証明出来る……かもしれないんです……」
それは響が今出せる懇願だった。
アダムかティキのどちらかを討ち取る手立てがない以上は神の力の降臨を防ぐことは出来ない。つまり風鳴機関がそれを手にしようと暗躍を始めてしまう。
そうなればいやでもバラルの呪詛の真実が明るみに出る。それを知れば神の力など求めなくなるし、解除しようだなんて思わなくなるはずだ。
そんな事など建前でしかなく単純に響は死んでほしくないのだ、目の前にいる三人に。敵だと分かっていてもだ。
「…………」
サンジェルマンは銃を構えたままじっと響を見ていた。響の何かを測ろうとしている。
その沈黙を破るように翼、クリスそしてマリアもこの場にやってくる。
「ッチ…」
サンジェルマンはあからさまに顔をしかめる。
六人が揃った今自分たちの優位性が崩れかけているからだ。いくらイグナイトモジュールを封じても絶対に勝てる戦力差ではなくなった。
「…………」
響は翼達の合流でパヴァリアサイドの三人が自分の言葉を吟味しなくなったのを感じた。既に相手はこの局面をどう切り抜けるかにシフトしている。
翼は剣を向けて言い放つ。
「いい加減に聞かせてもらおうか…パヴァリア光明結社…その目的をっ」
「やっぱり手を取る事って難しいんですか?」
響は相手の返答など予想出来ていたがそれでも言わずにはいられなかった。
これからアヌンナキの脅威が迫ってくるというのに同じ人間同士で争っている場合ではないのだ。
「手を取るだと…傲慢な……我らは神の力を持ってして…バラルの呪詛を解き放つ……月の遺跡を掌握する……!」
サンジェルマンはそう言い切った。
その力強い一言に全員が黙り込む、そして最初に口を開いたのはマリアだった。
「月にある……遺跡を……?」
「人が人を力で蹂躙する不完全な世界秩序、魂に刻まれたバラルの呪詛に起因する不和がもたらす結果だ」
サンジェルマンは今の歪んでいる世界を語り始める。
それにカリオストロも続く。
「不完全を改め完全と正す事こそサンジェルマンの理想であり、パヴァリア光明結社の思想なのよ」
「月遺跡の管理権限を上書いて人の手で制御するのは神と呼ばれた旧支配者の力が必要なワケだ。そのためにバルベルデをはじめ儀式を行ってきたワケだ」
プレラーティがそれを締めた。
響達はその言い分を静かに受け止めた。そして、
「どんなに立派な大義名分があっても他人を犠牲にしていい理由にすり替えられません」
「犠牲ではない…流れた血も…失われた命も…革命の礎だ…!」
響の錬金術師たちの行いを否定する一言、だがサンジェルマンはそれがどうしたと開き直ってみせた。それが開戦の合図だった。
サンジェルマンは装者六人に向かって銃弾を放つ。全員がその場から離れて散開して戦闘を始める。
翼は自身の背丈を超える巨大な大剣をサンジェルマンに向かって叩き落とす。さほどスピードが速いわけではないので相手は簡単にかわす。
響はその隙を突いてサンジェルマンに接近を試みようとする。
相手はそれを認めると一発の銃弾を放つ響はそれをかわすが地面に触れた傍から結晶が発生する。
マリアはカリオストロが放ってくるエネルギー波をかわしながら、相手の攻撃のブレイクのタイミングを狙って持っていた短剣を蛇腹に伸ばして攻める。しかし敵はその攻撃を全身にまとうように球状に青白いエネルギーを生み出して防ぎきる。
「これならどうだっ!」
クリスはボウガン片手にエネルギーの矢をそれに向かって乱射するが相手の防御は崩れない。
根本的に相手の方が馬力で上だった。
「いつぞやのお返しなんだからぁっ!」
「でかいっ!」
カリオストロはそう言って球状のエネルギーをまとったままクリスとマリアに突撃していった。
切歌と調は先ほどと違い明確な馬力の差を感じていた。先ほど空中戦艦の上で相手を押せたのは向こうが自分たちを舐めていた事と、まだファウストローブという全力を出していなかったことが大きい。
「このままじゃ……」
「だったらやるデスよっ…調っ!」
二人はイグナイトモジュールの発動態勢に入ろうとする。
それを見たプレラーティがニヤリと笑う。一度でも賢者の石の光を当てれば相手をノックバックさせることが出来るからだ。
『イグナイトモジュール…』
「ダメだ!!それは相手の思うつぼッ!」
二人が胸にあるギアペンダントに手をかけた瞬間に響が大声で止める。その切羽詰まった大声に二人は何とか手が止まった。
その隙をサンジェルマンの銃弾に狙われるが何とか横っ飛びで凌ぐ。
「明日の為に私の銃弾は躊躇わないわ」
サンジェルマンは自分の覚悟と、相手の隙は決して見逃さない理由を話した。
「……明日の為に…それじゃダメなんですよ…未来の幸せの為に今の幸せを切り捨てるようなやり方じゃあ…!何で目の前で今まさに苦しんでる人達を足蹴に出来るんだ……!」
響は溢れそうな激情を何とか抑えて隙なく構えながら話す。
彼女だからこそ分かる。これから起きる悲劇の未来を自身の知識を持って変えようとして失敗して、何もかもめちゃくちゃにしてしまったからこそ。
サンジェルマンはそれに答える。
「分かるまい…だがそれこそがバラルの呪詛…人を支配するくびき……」
彼女の脳内には不遇のまま亡くなった母親が脳裏に映る。
そんな悲劇はもう自分だけで沢山だった。
響はサンジェルマンの苦悩などお構いなしに持論を展開する。
「だとしても…人の手は誰かを傷つけるのではなく取るためにある…だから人の手は五本の指で相手を包めてそして握りしめる形になってるんです」
「取り合うためだとッ…いわれなき理由にっ…踏みにじられたことの無いものが言う事だっ……!」
サンジェルマンはお前が世界を偉そうに語るなと肩を怒らせ歯を軋ませる。
響きにはサンジェルマンの言いたいことは痛いほど分かった。
前の世界でフィーネや二課の自分勝手な行動でノイズ事件に巻き込まれて重傷を負った事。
いわれのない風評被害で家族も居場所も蹂躙された事。
風鳴機関の勝手で親友を食い物にされた事。
それらをいまだに心の底からそれらすべてを許せたわけでは決してない。
サンジェルマンが怒りを込めた銃弾を放つと青い炎をまとった龍が響へ襲い掛からんとする。
響は装甲を肉厚にして構える。口を開く。
「あなたの気持ちが全部分かるなんて……」
そして全力でそれに殴りかかりに行く。
「そんな安いことはもう言いません!」
「なにっ!」
響の拳がぶつかり撃ち放った青炎が爆散する。これにはサンジェルマンも驚いていた。イグナイトモジュール抜きの通常形態でもファウストローブの一撃を凌駕して見せたのだから。
爆風が晴れて土煙が消えるとサンジェルマンの鼻先に拳を突きつける響がいた。
「だけど…今日の誰かを踏みにじるやり方では明日の誰も踏みにじらない世界なんて作れません、それだけは間違いないです」
「お前は……」
響の前の世界と同じ迷いない言葉に、サンジェルマンは黙って相手を見てそして聞いてしまう。
彼女は理解した、響のその目はこの世に蔓延る理不尽をいやというほど見てきた自分と全く同じ瞳をしていたからだ。そして自分に対して安い思想で善悪の説法をしているのではないと。
響は知っている風鳴訃堂が掲げた護国の為に、未来をさらった事もノーブルレッドを騙して利用しても、それらは結局失敗して人類滅亡に追い込まれた事を。
他者を踏み蹴にした先の未来には滅亡しかない。
「それに……自分すら大切に出来ない人が、他人を大切するなんてどうやって出来るんですか」
響は少しだけ瞳から険を取って、肩の力を抜いて拳突きつけるのを止めた。
そこでカリオストロのエネルギー波をマリアがアガートラームで弾くのだがそのうちの何割かが響とサンジェルマンの方に流れ弾として飛んでしまう。
「あらやだっ!」
カリオストロの間抜けな声。
響はサンジェルマンを抱えてとっさに躱す。先ほどの流れ弾はかなりの一撃で響もだがサンジェルマンも衝撃から即時復帰出来ていない。
庇った響の行動が理解できずに、立ち上がろうとする中でサンジェルマンは問う。
「私たちはともに天を頂けないはず……」
「…そうでしょうか…………」
響も立ち上がろうと痛む体に鞭を打ちながらも問いかける。
「…サンジェルマンさんが本気で……目的のためなら…どれだけ他人が死んじゃってもいいって思ってるなら…私の話なんて最初っから聞いてはくれないはずですから……」
「ッ!思いあがるなっ!!」
響を突き飛ばしてサンジェルマンは立ち上がる。
「明日を拓く手はいつだって怒りに握った拳だけだ!」
それは自分に言い聞かせるかのようだった。
「これ以上は無用な問答!預けるぞシンフォギア!」
そう言ってテレポートジェムを叩きつける。
響は黙ってそれを見ていた。
「ここぞで任務放棄ってどういうワケだ……サンジェルマン……」
「あーしのせい!?だったらメンゴ鬼メンゴっ!」
プレラーティもカリオストロもこの敵シンフォギアを討てるチャンスを逃すのを不審に思いながらもテレポートジェムで離脱した。
◎
戦闘が終わり装者を回収した後のブリッジ内。そこで軽いミーティングが行われていた。
「パヴァリア光明結社の目的は月遺跡の掌握」
「そのために必要とされる通称神の力を生命エネルギーより錬成しようとしていると……」
友里と緒川が先ほどのサンジェルマンの発言をまとめる。
前方モニターにはヨナルデパズトーリの画像は出されていた。かつて装者達をその無敵性で苦しめたが、響の一撃のもと砕かれたのだ。
「……仮にそうだとしても…響君の一撃で分解するような規模ではいくまい…恐らくはもっと巨大で凶悪な……」
弦十郎のその一言にブリッジ内の空気が一段重くなる。
「……その規模の生命エネルギー…一体どこからどうやって…」
「まさかレイラインでは?」
緒川の疑問符に真っ先に考えが行きついた友里はそう発言する。
皆がその意見の続きを求めたため話を繋げる。
「キャロルが世界の分解解析のために利用したレイライン…めぐる地脈から…星の命を取り出すことが出来れば……」
「パヴァリア光明結社はチフォ―ジュシャトーの建造に関わっていた…関連性は大いにありそうですよ」
友里の意見に藤尭が肯定の意を示す。
「取り急ぎ神社本庁を通じて各地のレイライン観測所の協力を仰ぎます」
「うむ…それに最後チフォ―ジュシャトーに触れていたのは未来君だ…彼女にも意見を聞かなくてはな……」
緒川の提案に肯定の意を示して弦十郎自身も己の意見を出す。そして話を繋げる。
「あとは装者たちの状況だな…リンカーは問題なく作用したらしいが…」
まだ根本的な問題、それはイグナイトモジュールの使用不可という切り札不在という点だった。
◎
響を除く装者達五名が本部潜水艇の休憩室のソファーに座って先ほどまで行われた戦いを思い出して重苦しい空気に満ちている。
ちなみに響はキャロルの際のダメージが先ほどの戦闘で悪化したためメディカルルームで手当てを受けている。まだまだ杖生活はやめられそうにない。
それぞれが色々なことを考えている。ただ脳裏にはパヴァリア光明結社の錬金術師たちを実力で退けられたのではなく、あいてのリーダー格のサンジェルマンが撤退命令をしたため見逃された形だ。
あのまま戦っていたら負けていたのはこちらかもしれない、そんな事を考えている。
賢者の石による抜剣封殺という事実がリンカーの量産が成功した事によって、より重くのしかかってくるのだ。対策を練らなくては次に相対した際には負けてしまう。
そんな苦しい静寂を切り裂いたのはクリスだった。
「くそっ!何なんだよっ!どうすりゃいいんだっ…敵もあいつも……」
「…………」
併設している自動販売機を殴りながら呻く。彼女の拳にびりびりとした痛みが伝わる、それが自分の無力さを実感させてくる。
翼は黙って座っている、暴れるクリスを特に咎めるような事はしない。むしろ先に熱くなってくれる相手がいるからこそ逆に冷静でいられるのかもしれない。
マリアの顔は険しいものだった。彼女はアガートラームのギアペンダントを手で持ってじっと見つめている。
リンカーは揃ったが、あの場では自分の力などちっぽけだった。それが彼女の眉間にしわを寄せさせる原因となっている。
調と切歌は二人で身を寄せ合って俯いている。
あの時、響の一言が無ければイグナイトモジュールを起動させて賢者の石の輝きを食らい自滅していたところだった。
二人は調子に乗っていたのだ。完全体のリンカーさえあれば誰もが認める活躍が出来るのだと、足手まといなんかではないと。
現実は自分たちの甘い算段や想定などたやすく蹂躙せしめる。
「ごめんなさいデス……」
「え…?」
切歌の突然の謝罪にマリアはギアから視線を外して声の主に顔を向ける。
それはマリアだけでなく翼とクリスも同様に。
「マリアとエルフナインが命をかけてリンカーを作ってくれたのに全然敵わなかった……むしろ助けられる側だった……」
調は俯きながらそう言った。
切歌もボソリと呟く。
「……それに響さんの怪我がいまだに治らないのも私達が弱いせいデス。本当ならとっくに完治しているはずなのにデス……」
その一言にマリアだけでなく翼とクリスも重苦しい雰囲気になる。
響のキャロルから受けた負傷は本来であれば八月いっぱいまで療養すれば完治するレベルだったのだ。しかしバルベルデで神の力と相対してからというもの体に無茶な酷使を続けた結果いまだに杖を手放せない状況になっている。
「…………それは私も同じ」
マリアは唇を強く噛みしめて言った。
「戦う事さえできればどうにかなると思っていた……けど…甘かったわ…」
マリアは悔しいのだ。今この時でも錬金術師たちは神の力を使って暗躍を続けているというのにここでただ手をこまねいていることしか出来ない事に。
今現在エルフナインが賢者の石の浄化効果に対処する方法を発見するのを待っているのだ。それまでこの屈辱を味あわなければいけない。これではリンカーを待っていた時と何も変わりはしなかった。
◎
「…………」
「響どうしたの?痛むの?」
メディカルルームのベッドで天井をぼーっと見ている響を不審に思って未来が声をかける。
「んー色々とね……」
響は気のない返事を返してしまう。
彼女は苦しんでいた。いまだにパヴァリア光明結社の行いを止める方法が思いつかなかったからだ。
レイラインの対策を練ってエネルギーの流れを遮断しても、アダムが自身の魔力を使って強引に宇宙に存在するエネルギーを呼び寄せてティキに注いで神の力を呼び起こしてしまう。
解決方法は相手の準備が整う前にアダムかティキを見つけ出して撃破する事だが、アダムの戦闘能力はエクスドライブモードに頼るそれこそ奇跡でもないと勝機は薄い。ティキはそんなアダムの傍にベッタリだ。
それは響がどうにか出来るレベルを遥かに超越してしまっている。
このままではサンジェルマンたちも死ぬ可能性が高い。響の小さな手では全てをハッピーエンドに持っていく事は不可能だった。
「…………」
未来は不安そうに見つめている。
思い出されるのはクリスがファミレスで悩みを話せと言って明らかに狼狽していたあの一件。
未来は口を開く。
「響」
そして踏み込む。
「響はさ…本当に大丈夫?」
「…………」
未来のその問いかけに響はつい黙り込んでしまう。またあの時と同じように。
「前にも言ったけどね『手遅れになる前に周りにちゃんと相談しなよ』」
「あ……」
キャロルと再会した日に考え込んでいた自分に未来はそう言った事を今になって思い出していた。
もしあの時一人で抱え込まずに、全てを話せなくても不安な気持ちを打ち明けられていたら何かが変わっていたのだろうか。
「……………………」
考え込んでしまう。
何かが変わるのか、響はそう思ったらつい口が開いていた。
「…全部は話せないけどさ……それでもちょっとだけ悩みみたいなのを……聞いてくれないかな…………」
「いいよ」
未来は優し気な笑みでそう言った。
「あのさ…神の力の降臨を阻止して…サンジェルマンさん達を……何の代償も無く止めようとするのは我儘で傲慢なのかな……?」
「うん無茶だと思う、いや多分無理だと思う」
未来が響の悩みにノータイムで返してしまいポカンとしてしまう。最初はそんなことは無いと慰めてくれるのではと思ったからだ。
しかし直後に言葉を繋げる。
「でもね、その我儘で傲慢さ私は響らしくて結構好きだよ」
未来は微笑みながらそう言った。正しいとか正しくないではなく、どんな夢物語でもその選択が好きだと。
「確かに無理かもしれないけど、でもその考えで救えた人もいるんでしょ?失敗した事や失った事ばかり考えないで、今ここにある手に出来たものも振り返ってみなよ」
「あ……」
響はやっと気が付いた。
フィーネ、キャロルのように取り返しがつかない事もあった。しかし同時にリディアンやS.O.N.G.のように自分を受け入れてくれる居場所もあるのだと。一度は離れてしまったが未来と今こうして一緒にいられる。
「…………」
「まだ悩みがあるの?」
それでも顔色がまだ優れないのを見て未来が問いかける。
「もし…もしもだけど…私が誰かに危害を加えたり…暴れまわったら…未来ならどうする……?」
響のその問いかけは大切な情報が抜けている不明瞭極まりないものだった。当然未来はその質問の本質など分かりようがない。
少しの沈黙。そして口を開く。
「…………その時は」
答えを言う。
「その時は私も一緒に暴れてあげるよ」
微笑みと共にハッキリと言い切った。
決して悪くない沈黙が二人の間に流れる。
「……そっか…そうだね…………」
響は頭の中にある情報を整理して吟味している。そして、
「なら私が本当にどうしようもなくなった時は未来に任せちゃおうかな」
「お任せあれ」
二人はそう言った。
「あ、そうだ未来。これからエルフナインちゃんのところに行くんだよね?」
「うん。賢者の石対策をね」
響は未来に話しかける。響の状態が安定したらすぐさま自分も対策の為に合流する予定だったのだ。
「なら新しいものじゃなくて過去にも目を向けたらどうかなって今ある物の中にその…解決策…みたいなものがあると思うんだ…伝えてくれると助かるよ…」